説明

ケーソン下底掘削装置

【課題】オープンケーソン沈下工法において、クラムシェルでは掘削困難な坑底のケーソン躯体下方部分を掘削する掘削機をケーソン内面に随時固定して用いる技術を提供する。
【解決手段】吸引管52で被覆体51の内部の雰囲気を吸引してケーソン10の内壁面に被覆体51を圧着させ、圧力水噴出装置53から圧力水を被覆体51内に噴出して被覆体51内のケーソン10の内壁面の泥土60を清掃し、清掃された泥水を排出装置54によって排出し、吸引管52で椀状吸着体55の内部の雰囲気を吸引して椀状吸着体55をケーソン10の清掃された内壁面に圧着させ、これに掘削機40の掘削力を支持させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラムシェルでは掘削困難なケーソン下底部の地盤を掘削するために、ケーソン躯体下端近傍に反力を支持させてケーソン下底を掘削する掘削装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、RC又はPCケーソンを水底や地中に沈設して橋脚等の基礎や大規模な地下構造物を構築する工法としてオープンケーソン圧入工法が知られている。このオープンケーソン圧入工法は、下端に刃口を有する躯体の上部に躯体を順次積重しながら、クラムシェルで函内の地盤を掘削し、ジャッキで引張られたグラウンドアンカに反力を取って刃先抵抗とケーソンの外周面摩擦力に打ち勝ってケーソンを地中に圧入沈下するものである。
【0003】
ところが、クラムシェルによる地盤の掘削は、ケーソンの内側面で囲われた範囲にほぼ等しい範囲の掘削が最大限度であり、ケーソン下底部の地盤はクラムシェルでは掘削することが困難である。従って、ケーソンが圧入沈下される地盤が軟弱地盤の場合には、ケーソン下底部に未掘削土壌が存在したとしても、上述したオープンケーソン圧入工法によってケーソンを圧入沈下させることができるものの、ケーソンの圧入過程でケーソン下底部に岩盤などの硬質地盤が出現した場合には、ケーソン下底部の未掘削土壌が抵抗となって、ケーソンの圧入沈下が不可能となるおそれがある。
【0004】
このような問題点に対処する装置として、圧入沈下されたケーソンの下部内壁に横方向に設置されたレールに沿って移動する取付架台と、この取付架台に取り付けられた掘削機とからなり、レールに沿って取付架台を移動させつつ、地上から遠隔操作される掘削機によってケーソン下部の地盤を掘削する掘削装置が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特許第2717874号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に提案された、ケーソン躯体に反力を支持させた掘削装置によれば、クラムシェルでは掘削困難なケーソン下部の地盤を掘削することができるため、このような掘削装置をクラムシェルと併用すれば、ケーソンの圧入過程でケーソン下底部に岩盤などの硬質地盤が出現したとしても、その硬質地盤を掘削することによってケーソンを確実に圧入沈下させることができる。ところが、この掘削装置は、掘削機が取り付けられる取付架台がケーソンの下部内壁に設置されたレールに沿って移動するものであるため、ケーソン内にレールを取り付けておく必要があり、クラムシェルで函内の地盤を掘削する際、ケーソンの下部内壁に設置されたレールにクラムシェルのグラブバケット等が接触・衝突してレールに損傷を与えるおそれがある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑み、ケーソンの内壁にレール等を取り付けておく必要のないケーソン下底掘削装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明のケーソン下底掘削装置は、ケーソン躯体に反力を支持させてケーソン下底部の地盤を掘削する掘削機において、この掘削機を吊下しケーソン内壁面に吸着させてこの掘削機を位置決めするとともに、その掘削反力を支持する吸着装置と、この吸着装置を壁面に吸脱着させる圧力流体給排装置と、この吸着装置の位置決め制御装置と、昇降装置とを備えたことを特徴とする。
【0008】
本発明のケーソン下底掘削装置は、圧力流体給排装置によってケーソン内壁面に吸着させた吸着装置が掘削機を位置決めするとともに掘削反力を支持し、圧力流体給排装置によって吸着装置がケーソン内壁面から脱着されるものであるため、掘削機の反力を支持するレール等の部材をケーソンの内壁に取り付けておく必要がない。従って、本発明のケーソン下底掘削装置によれば、クラムシェルでは掘削困難なケーソン下底部の地盤を掘削する掘削機の不使用時には吊下したこの掘削機を引き上げてしまうことによって、ケーソンの内側に突出したレールなどといった障害物が存在しないこととなり、グラブバケット等によって部品が破損されることが回避される。
【0009】
ここで、上記本発明のケーソン下底掘削装置において、上記吸着装置は、ケーソン内壁面を部分的に被覆する被覆体と、この被覆体の内部の雰囲気を吸引して壁面に圧着させる吸引管と、被覆体内のケーソン内壁面の泥土を清掃する圧力水噴出装置と、清掃された泥水を排出する排出装置とを備えたものであることが好ましい。
【0010】
ここで、本発明にいう「雰囲気」とは、ケーソン内壁面を部分的に被覆した被覆体の内部空間に存在する気体や液体をいう。
【0011】
このように、被覆体内のケーソン内壁面の泥土を清掃して排出したケーソン内壁面に、被覆体の内部の雰囲気を吸引して圧着させることにより、吸着装置をケーソン内壁面に確実に吸着させることができる。
【0012】
一方、吸着装置の吸引管による吸水により吸着装置に作用する水圧による圧着力いわゆる吸着力が、内壁面の泥土による吸着を阻害させる力よりも勝る場合は、特に泥土を清掃排除しなくてもよい。
【0013】
また、上記本発明のケーソン下底掘削装置において、上記吸着装置は、ケーソン内壁面に吸着する複数の椀状吸着体を内蔵し、この吸着体は上記掘削機の掘削力を支持する連結体を備えたものであることがさらに好ましい。
【0014】
このような複数の椀状吸着体を内蔵した吸着装置を備えたケーソン下底掘削装置によれば、より一層大きな吸着力で吸着装置をケーソン内壁面に吸着させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のケーソン下底掘削装置によれば、圧力流体給排装置によってケーソン内壁面に吸脱着される吸着装置が掘削機を位置決めするとともに掘削反力を支持するため、掘削機の不使用時にはケーソンの内側に突出したレールなどといった障害物を存在させることなく、グラブバケット等によってレール等が破損されることがなく、ケーソン躯体に反力を支持させた掘削機を随時効果的に使用することができるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態が適用されたケーソン下底掘削装置を用いてケーソンを沈下させるオープンケーソン圧入方法を示す縦断面図である。
【0018】
尚、この図1には、ケーソン10を地中に圧入沈下させる圧入過程の状態が示されている。下端に刃口11を有する躯体の頂部にセグメントブロックを継ぎ足すか、又は鉄筋コンクリートを現場打ち継ぎすることによって構築された躯体を順次積重する。図示しない複数のグラウンドアンカが地中に打ち込まれて地盤100に定着されていて、クラムシェルのグラブバケット70で函内の地盤を掘削し、図示しないジャッキで引張られたグラウンドアンカに反力を取って刃先抵抗とケーソン10の外周面摩擦力に打ち勝ってケーソン10を地中に圧入沈下させる。また、この圧入過程においてケーソン10の下底部に岩盤などの硬質地盤が出現してケーソン10の圧入沈下が困難となった場合には、図1に示すように、ケーソン下底掘削装置20を地上から函内に降下させて、クラムシェルでは掘削困難な部分、例えば、ケーソン10の下底部の地盤12等をケーソン下底掘削装置20を用いて掘削しつつケーソン10を沈下させる。このケーソン下底掘削装置20は、本発明のケーソン下底掘削装置の実施例である。
【0019】
ケーソン10は、沈下予定線13に沿って地上から地盤100中に沈設され、水位レベル14より下方に深く沈下される。
【0020】
ケーソン下底掘削装置20は、地上からクレーン92のワイヤ93によって吊下されて、必要に応じて昇降され、位置決め制御装置94によって吸着装置50の吸着する位置が制御される。このクレーン92は、本発明の昇降装置の実施例であり、この位置決め制御装置94は、本発明の位置決め制御装置の実施例である。また、ケーソン下底掘削装置20は、ケーソン10の下端内壁面に吸着して掘削機40を位置決めするとともに、その掘削反力を支持する吸着装置50と、吸着装置50に連結されたフレーム30と、このフレーム30に取付けられて、鉛直垂下位置とケーソン刃口11下との間を揺動することによって、ケーソン10の下底部の地盤12を掘削する掘削機40とから構成されている。この吸着装置50は、本発明の吸着装置の実施例であり、この掘削機40は、本発明の掘削機の実施例である。また、ケーソン下底掘削装置20には、地上に設けた油圧装置90から油圧供給管91を通って高圧の油圧が供給され、掘削機40の揺動、掘削機40の回転駆動が行われる。
【0021】
次に、図2,図3を参照して、本発明のケーソン下底掘削装置の実施例について説明する。
【0022】
図2,図3は、図1に示す実施例のケーソン下底掘削装置20の側面図である。
【0023】
ケーソン下底掘削装置20は、フレーム30と掘削機40と吸着装置50とから構成されている。
【0024】
フレーム30は、フレーム30の上端にクレーンワイヤ結合部32を備えていて、地上からクレーン92のワイヤ93によって吊下されている。また、フレーム30の下端に掘削機40をブラケット46、結合ピン43で吊下している。
【0025】
フレーム30はH形鋼等のフレーム部材33,34,36及び側板等によって強固に形成されており、連結部の必要な部分はピン35等により可撓性をもたせている。また、掘削機40を揺動させる油圧シリンダ47、緩衝装置48などを備えている。
【0026】
掘削機40は、例えば回転スクリュー羽根を備えた装置などを用いるとよく、その長さは、ケーソン刃口下の刃先までの部分の地盤12を過不足なく掘削することができるように、長さを定めておく。このことにより、掘削機40の揺動角を定めることによって、掘削範囲内を、無駄なく適切に掘削することができる。この実施例では掘削機40として、スクリュー羽根42を備えた回転軸(スクリュー羽根軸)41を有する装置が示されている。尚、掘削機40の型式はこの実施例に限るものではなく、掘削作用を有するものであればよい。例えば、スクリュー羽根の代りに多数の突棒や刃物等を取付けた回転軸をもつ装置、プロペラ又はインペラをもち、回転と往復運動をする装置、高圧流体による掘削掘削装置、これらの組合せ装置などでもよい。
【0027】
回転駆動部45はスクリュー羽根軸41を回転させる。
【0028】
掘削機40はブラケット46及び偏心した結合ピン43によってフレーム30に結合され吊下されている。掘削機40の揺動駆動は、フレーム30に取付けた油圧シリンダ47によって駆動される。油圧シリンダ47のラムは掘削機40の頭部ピン44に結合されている。油圧シリンダ47のラムの伸縮により、掘削機40の揺動駆動がなされる。
【0029】
吸着装置50は、被覆体51と吸引管52と圧力水噴出装置53と排出装置54とから構成されている。
【0030】
被覆体51は、フレーム部材33および連結体31によってフレーム30に連結され、弾性部材56を介してケーソン10の内壁面を部分的に被覆するものである。また、この被覆体51には、被覆体51にバネ57で支持された、ケーソン10の内壁面に吸着する複数の椀状吸着体55が内蔵されている。この被覆体51は、本発明の被覆体の実施例であり、この椀状吸着体55は、本発明の椀状吸着体の実施例である。
【0031】
吸引管52は、被覆体51の内部の雰囲気を吸引してケーソン10の内壁面に被覆体51を圧着させるものである。尚、ここでいう雰囲気とは、ケーソン10の内壁面に圧着された被覆体51の内部空間に存在する気体や液体をいう。この吸引管52は、本発明の吸引管の実施例である。
【0032】
圧力水噴出装置53は、圧力水噴出管58を介して圧力水を被覆体51内に噴出することによって、被覆体51内のケーソン10の内壁面の泥土60を清掃するものである。清掃された泥水は、排出管59を介して排出装置54によって吸引・排出される。この圧力水噴出装置53は、本発明の圧力水噴出装置の実施例であり、この排出装置54は、本発明の排出装置の実施例である。
【0033】
このように構成された吸着装置50は、吸引管52で被覆体51の内部の雰囲気を吸引してケーソン10の内壁面に被覆体51を圧着させ、圧力水噴出装置53から圧力水を被覆体51内に噴出して被覆体51内のケーソン10の内壁面の泥土60を清掃し、清掃された泥水を排出装置54によって排出し、吸引管52で椀状吸着体55の内部の雰囲気を吸引して椀状吸着体55をケーソン10の清掃された内壁面に圧着させることによって、掘削機40の掘削力を支持させることができる。また、ケーソン10の清掃された内壁面に椀状吸着体55を圧着させることにより、吸着装置50をケーソン10の内壁面に確実にかつ大きな吸着力で吸着させることができる。
【0034】
尚、椀状吸着体55の吸着方法の一例を更に詳しく説明すると、圧力水を被覆体51内に噴出して泥土60を清掃する清掃段階では、被覆体51の吸着力を小さめにしておき、清掃終了後に吸引管52で被覆体51の内部の雰囲気を更に吸引することによって被覆体51の吸着力を大きくして椀状吸着体55をケーソン10の内壁面に触れさせ、更に雰囲気を吸引することによって吸着力を増大させて、椀状吸着体55を内壁面に確実に吸着させる。また、椀状吸着体55を内壁面に吸着させた後に、図3に示す被覆体51内の空間80の雰囲気の圧力を、吸着装置50が吸着されているケーソン底部の雰囲気の圧力に戻すことによって、椀状吸着体55の吸着力をより一層大きくすることができる。
【0035】
従って、実施形態のケーソン下底掘削装置20によれば、クラムシェルでは掘削困難なケーソン10の下底部の地盤12を掘削する掘削機40の不使用時には吊下された掘削機40を引き上げてしまうことによって、ケーソン10の内側に突出したレールなどといった障害物が存在しないこととなり、グラブバケット70等によって部品が破損されることが回避される。そのため、ケーソン躯体に反力を支持させた掘削機40を随時効果的に使用することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施形態が適用されたケーソン下底掘削装置を用いてケーソンを沈下させるオープンケーソン圧入方法を示す縦断面図である。
【図2】図1に示す実施例のケーソン下底掘削装置20の側面図である。
【図3】図1に示す実施例のケーソン下底掘削装置20の側面図である。
【符号の説明】
【0037】
10 ケーソン
11 刃口
12 地盤
13 沈下予定線
14 水位レベル
20 ケーソン下底掘削装置
30 フレーム
31 連結体
32 クレーンワイヤ結合部
33,34,36 フレーム部材
35 ピン
40 掘削機
41 回転軸(スクリュー羽根軸)
42 スクリュー羽根
43 結合ピン
44 頭部ピン
45 回転駆動部
46 ブラケット
47 油圧シリンダ
48 緩衝装置
50 吸着装置
51 被覆体
52 吸引管
53 圧力水噴出装置
54 排出装置
55 椀状吸着体
56 弾性部材
57 バネ
58 圧力水噴出管
59 排出管
60 泥土
70 グラブバケット
80 空間
90 油圧装置
91 油圧供給管
92 クレーン
93 ワイヤ
94 位置決め制御装置
100 地盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーソン躯体に反力を支持させてケーソン下底部の地盤を掘削する掘削機において、該掘削機を吊下しケーソン内壁面に吸着させて該掘削機を位置決めするとともに、その掘削反力を支持する吸着装置と、該吸着装置を壁面に吸脱着させる圧力流体給排装置と、該吸着装置の位置決め制御装置と、昇降装置とを備えたことを特徴とするケーソン下底掘削装置。
【請求項2】
前記吸着装置は、ケーソン内壁面を部分的に被覆する被覆体と、該被覆体の内部の雰囲気を吸引して壁面に圧着させる吸引管と、被覆体内のケーソン内壁面の泥土を清掃する圧力水噴出装置と、清掃された泥水を排出する排出装置とを備えたものであることを特徴とする請求項1記載のケーソン下底掘削装置。
【請求項3】
前記吸着装置は、ケーソン内壁面に吸着する複数の椀状吸着体を内蔵し、該吸着体は前記掘削機の掘削力を支持する連結体を備えたものであることを特徴とする請求項1記載のケーソン下底掘削装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−207149(P2006−207149A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−17290(P2005−17290)
【出願日】平成17年1月25日(2005.1.25)
【出願人】(000112196)株式会社ピーエス三菱 (181)
【出願人】(596146821)菱建基礎株式会社 (7)