説明

ケーブルシールド装置

【課題】多相交流ケーブルからの漏れ磁場を少なくするケーブルシールド装置を提供すること。
【解決手段】三相交流ケーブルUVWを並べたケーブルセット11〜33をシールドするケーブルシールド装置1であって、各ケーブルセットにおけるUVWの配列は、その上下左右のケーブルセットにおけるUVWの配列と異ならせるとともに、同位相のケーブル同士が隣り合わないようにして、漏れ磁場が大きくならないようにする。さらに内側磁気シールド装置5で各ケーブルセットをシールドし、外側シールド装置7で全体をシールドしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーブルをシールドするケーブルシールド装置に関し、特にビルなどの大規模建造物内の配設ケーブルや地下に埋設するケーブルの磁場シールド装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ビルの高層化に伴い電力ケーブルの数が増大して、多数のケーブルを有する埋設管等からの漏れ磁場が大きくなる傾向がある。
【0003】
図13に、配設された商用電力ケーブルの一例を示す。発電所あるいは変電所61からの電力は、変圧器62によって降圧されて、地下のケーブル埋設部63を通り、各ビルBに電力が伝送される。ここでケーブル埋設部63では、多数のケーブルが集合しているので、各ケーブルからの漏れ磁場はごく微小であっても多数重ねあわされる結果、地表への磁場の漏れ出しが懸念される。したがって、ケーブルから漏れる磁場をできるだけ少なくすることが望まれる。
【0004】
しかしながら、交流ケーブルの磁気シールに関しては、いくつか存在する(特許文献1〜3参照)が、地下に埋設することあるいは多相交流であること等を考慮して、ケーブルから発生する磁場を本格的にシールドした事例はない。なお、多相交流は各相に対応した複数の相ケーブルからなるケーブルセットで供給される。
【特許文献1】特開平7−50496号公報
【特許文献2】特開2001−231161号公報
【特許文献3】特開2003−258478号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述の問題に鑑み、交流位相を考慮して漏れ磁場を減少させる多相ケーブルシールド装置を提供することを目的とする。さらにシールドする場所に応じた最適なシールド形状を有する多相ケーブルシールド装置をも提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の多相ケーブルシールド装置は、一つの面内に配列された各相ケーブルを有する複数の多相ケーブルセットを備え、前記多相ケーブルセットのそれぞれは、該多相ケーブルセットを構成する各相ケーブルの配列順に関して、上下左右に隣接する多相交流ケーブルセットと相違し、前記各相ケーブルは、該各相ケーブルの位相に関して、上下左右に隣接する各相ケーブルと相違することを特徴とする。
【0007】
また、前記多相ケーブルセットはそれぞれ、第1のシールド部材により囲まれているようにしてもよい。
【0008】
さらに、前記複数の多相ケーブルセットは全体として、第2のシールド部材により囲まれるようにすることもできる。
【0009】
さらに、前記第2のシールド部材は、底部が開口したC字状に形成するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、以上のように構成したから、多相ケーブルが集合しても、各相ケーブルの位相をそろうような配列を避けることができ、漏れ磁場を減少させることができる。また、装置全体をシールドするためにC字状に形成したシールド部材を用いると、シールド装置を配置する場所に対応してさらに漏れ磁場を低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。図1(a)、(b)は、埋設ケーブルをシールドするケーブルシールド装置1の一実施形態の概略構成を示す図である。本実施形態では、多相交流として三相交流を例にして説明するが、本発明は、三相交流に限定されるものではない。
【0012】
図1の(a)(b)ともに、ケーブルシールド装置は地下に埋設されるもので、図面の上部に地表面がある。(a)に示すケーブルシールド装置1は、マトリックス状に3×3すなわち9個配置されているケーブルセット11〜33を有する。各ケーブルセットは、地表面に対して水平な同一平面に配置される三相交流ケーブルU、V、Wを備える。さらに、ケーブルセット11〜33は、それぞれ内側シールド体5で囲まれ、かつ9個のケーブルセット全体が外側シールド体7で覆われている。
【0013】
図1(b)に示すケーブルシールド装置1のケーブルセット11〜33は、(a)と同様、マトリックス状に3×3すなわち9個配置されているが、各ケーブルセットは、地面に対して鉛直な同一面内に配置される三相交流ケーブルU、V、Wを備える。ケーブルセット11〜33の各々は、図1(a)と同様、内側シールド体5で囲まれ、その全体は外側シールド体7で囲まれている。
【0014】
本発明者は、漏れ磁場の大きさに関して、図1(a)(b)のように集合した多数のケーブルの位相関係に着目し、図2及び図3に示すUVWの配置について、漏れ磁場のシミュレーションを行った。
【0015】
図2(a)〜(c)は、図1(a)に示すケーブルセットについて、各セットのケーブルU、V、Wの配置を示す。
【0016】
図2(a)は、各ケーブルセットのUVWの配列をすべてそろえて配置するもの(水平配置1)であり、同図(b)は、上から1行ごとにUVWの配列を変えるが、各行では配列をそろえて配置するもの(水平配置2)であり、同図(c)は、上下左右の隣接するケーブルセットに同一配列がないように、できるだけ各相ケーブルの配列がばらけるように配置するもの(水平配置3)である。
【0017】
具体的には、図3に示すような仕様により、2次元渦電流電磁場解析を行った。例えば、ケーブルは、30mmφで、50Hz、400Aである。漏れ磁場の測定は、ケーブルシールド装置の上部1m(1000mm)を地表面Eと想定して実施した。なお、内側シールド体と外側シールド体は、0.23mmの電磁鋼板を6枚積層して用いているが、シールド体は、電磁鋼板に限定されるものではなく、無垢鉄であってもよい。
【0018】
図4に、その結果を示す。図4上部に参考のために示す外側シールド体位置で分かるように、ケーブルシールド装置1の中央が図の横軸の0点になる。縦軸は、磁束密度で単位はmGである。明らかに、水平配置3(図2(c))が最も漏れ磁束が少なく、次に水平配置2であり、すべてのケーブルで位相をそろえた水平配置1が最も漏れ磁束が大きい。水平配置3と水平配置1とを比較すると、磁束密度は1桁低減している。これは、UVWの配列をランダムにして、位相をできるだけばらすことが、漏れ磁束を低減させる結果となることを示している。
【0019】
以上のことから、図1(a)の本発明によるケーブルシールド装置の一実施形態は、図1(a)の構成で、ケーブルセットを水平配置3(図2(c))としたものであるということができる。なお、後述するが、外側シールド体の形状としては、図1のロ字状に代えて、底部を一部開放したC字状とする実施形態もある。このC字状のシールド形状は、以下で説明するどのケーブルセットの配置とも組み合わせることができる。
【0020】
次に、図1(b)のケーブルセットの鉛直配置についても、同様の磁場解析を行った。
図5は、鉛直配置されたケーブルセットのケーブルU、V、Wの配置を示す。図5(a)は、各ケーブルセットのUVWをすべてそろえて配置するもの(鉛直配置1)であり、同図(b)は、上から1行ごとにUVWの配列を変えるが、各行では配列をそろえて配置するもの(鉛直配置2)であり、同図(c)は、上下左右の隣接するケーブルセットに同一配列がないように、できるだけ各相ケーブルの配列がばらけるように配置する(鉛直配置3)ものである。
【0021】
この場合のケーブルシールド装置の具体的な仕様は、図3を90°回転させたものである。
【0022】
図6に、鉛直配置についての漏れ磁場の解析結果を示す。図4と同様に、シールド装置上方1mの漏れ磁場を算出した。水平配置と同様に、UVWの配列をすべてそろえた鉛直配置1は、漏れ磁場が多く、できるだけUVWの配列がばらけるように配置した鉛直配置3が最も漏れ磁場が少なかった。この場合も、鉛直配置3と鉛直配置1とを比較すると、磁束密度は1桁低減している。ただし、水平配置3(図2(c))と鉛直配置3(図5(c))とを比較すると、水平配置3の方が、鉛直配置3よりわずかに漏れ磁場の低減効果が高い。
【0023】
3×3配置以外の配置について、さらに解析を行った。まず、図7には、図の上部を地面の方向として、2×3のケーブルセットの3種類の配置を示す。図7(a)は、各ケーブルセットのUVWをすべてそろえて配置するもの(2×3水平配置1)であり、同図(b)は、各列でUVWの配列を変えるが、各列内では配列をそろえて配置するもの(2×3水平配置2)であり、同図(c)は、上下左右の隣接するケーブルセットに同一配列がないように、できるだけUVWの配列がばらけるように配置するもの(2×3水平配置3)である。
【0024】
図8に、図7の配置の解析結果を示す。この場合も、できるだけ配列がばらけるようにして配置した2×3水平配置3が最も漏れ磁束が少ない。
【0025】
図9は、1×3のケーブルセットの3種類の配置を示す。図9(a)は、各ケーブルセットのUVWをすべてそろえて配置するもの(1×3水平配置1)であり、同図(b)、(c)は、各列でUVWの配列を変えるものである。しかし、(b)は、ケーブルセット11とケーブルセット12との間で、Wが並ぶようになっているもの(1×3水平配置2)である。(c)は、ケーブルセット間でも、同位相のケーブルが並ばないようにしているもの(1×3水平配置3)である。
【0026】
図10に、図9の配置の解析結果を示す。この場合も、すべて同じ配列の1×3水平配置1が漏れ磁束が最も大きい。そして、1×3水平配置2より、1×3水平配置3の方が漏れ磁束が少なくなっている。1×3水平配置2と1×3水平配置3はともに、ケーブルセットごとにケーブルの配列する順番が変っているが、1×3水平配置2では、ケーブルセット11とケーブルセット12との間で、Wが隣り合わせとなっており、各相ケーブルのばらける度合いが、1×3水平配置3より少ないと考えられる。ここで、1×3水平配置3で、磁場分布が左右非対称になっているのは、ここで求めているのは、1周期の瞬時値の最大値を求めているので、位相配置をできるだけばらした配置では、瞬時値がばらけやすいため非対称になっていると考えることができる。このように、ケーブルセットでもあるいは各相ケーブルでも同一位相のケーブルができるだけばらけるように配置することによって、漏れ磁場を低減させることができる。
【0027】
次に、本実施形態が採用するシールド体の形状について説明する。図1(a)又は(b)に示すケーブルシールド装置1では、内側シールド体5とロ字状の外側シールド体7によって二重のシールドを行っている。さらに、シールド性能を向上させるために、外側シールド体の形状についても検討した。
【0028】
図11(a)〜(c)に、検討した外側シールド体7の形状を示す。同図(a)〜(c)に共通して、外側シールド体7内には、9個の水平配置のケーブルセット11〜33が、内側シールド体5にシールドされて配置されている。各ケーブルセットのケーブルU、V、Wの配列は、図2(a)のすべてがそろった配列とした。
【0029】
図11(a)〜(c)のものは、図の上部が地面であり、ケーブルシールド装置1は、図の下板を下にして、埋設される。図11(a)は、ケーブルの外周全体を囲むロの字状の外側シールド体7を有するもの(図1(a)と同じ)であり、(b)は、下板の一部が開放されたC字状の外側シールド体7を有するものであり、(c)は、下板の全部が開放されたコ字状の外側シールド体を有するものである。このようなケーブルシールド装置の上部1mの地点で漏れ磁場を解析した。
【0030】
図12に、解析結果を示す。これによると、全体としてC字状のシールドがロ字状のシールドより若干優れていることがわかる。また、コ字状のシールドは、シールド装置中央付近(水平方向距離0付近)では、最も漏れ磁場が少なくなっている。これは、シールド装置の下が開放になっているので、シールド装置の下側に磁束が流れ、評価解析を行った上部に流れる磁束が少なくなっているからと考えることができる。しかしながら、それ以外では、シールド性能の向上は認められない。図12の結果からは、ケーブルシールド装置の形状としては、C字状の形状が最適であるということができる。なお、C字状シールドは、多相交流に適用されるだけではなく、単相交流においてもその効果を発揮するものである。
【0031】
以上のように、埋設ケーブルのシールド装置としては、外側ケーブル形状は、底部を一部開放するC字状とするのが最もよい。
なお、以上では地下に水平に埋設された多相交流用のケーブルを例にした実施の形態を記載したが、ビル等において垂直方向に配設された多相交流ケーブルの場合は、上記の説明において“上下左右”を“前後左右”とすればそのまま適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】(a)、(b)は、本発明の実施形態のケーブルシールド装置の概略を示す図である。
【図2】(a)、(b)は、参考配置例を説明する図であり、(c)は、本発明によるケーブルセットの第1の配置例を説明する図である。
【図3】磁場解析を実行した本実施形態のケーブルシールド装置の仕様を示す図である。
【図4】図2のケーブルセットの配置例による解析結果を示す図である。
【図5】(a)、(b)は、参考配置例を説明する図であり、(c)は、本発明によるケーブルセットの第2の配置例を説明する図である。
【図6】図5のケーブルセットの第1の配置例による解析結果を示す図である。
【図7】(a)、(b)は、2×3のケーブルセットの参考配置例を説明する図であり、(c)は、本発明による2×3のケーブルセットの配置例を説明する図である。
【図8】図7の2×3のケーブルセットの配置例による解析結果を示す図である。
【図9】(a)、(b)は、1×3のケーブルセットの参考配置例を説明する図であり、(c)は、本発明による1×3のケーブルセットの配置例を説明する図である。
【図10】図9の1×3のケーブルセットの配置例による解析結果を示す図である。
【図11】(a)〜(c)は、外部シールド体の形状の一例を示す図である。
【図12】図11の外部シールド体のシールド性能を解析した図である。
【図13】一般的な商用交流電力ケーブルの配設形態を説明する図である。
【符号の説明】
【0033】
1 ケーブルシールド装置
5 内側シールド体
7 外側シールド体
11〜33 ケーブルセット
U、V、W 各相ケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多相ケーブルをシールドする多相ケーブルシールド装置であって、
一つの面内に配列された各相ケーブルを有する複数の多相ケーブルセットを備え、
前記多相ケーブルセットのそれぞれは、該多相ケーブルセットを構成する各相ケーブルの配列順に関して、上下左右に隣接する多相交流ケーブルセットと相違し、
前記各相ケーブルは、該各相ケーブルの位相に関して、上下左右に隣接する各相ケーブルと相違することを特徴とする多相ケーブルシールド装置。
【請求項2】
前記多相ケーブルセットはそれぞれ、第1のシールド部材により囲まれていることを特徴とする請求項1に記載の多相ケーブルシールド装置。
【請求項3】
前記複数の多相ケーブルセットは全体として、第2のシールド部材により囲まれていることを特徴とする請求項2に記載の多相ケーブルシールド装置。
【請求項4】
前記第2のシールド部材は、底部が開口したC字状に形成されていることを特徴とする請求項3に記載の多相ケーブルシールド装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−194263(P2007−194263A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−8757(P2006−8757)
【出願日】平成18年1月17日(2006.1.17)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】