説明

ケーブル

【課題】冷媒の循環機構を設けることなく導体の通電による発熱を抑制することにより、取扱性の向上、許容電流の増大、導体の細径化を図ったケーブルを提供する。
【解決手段】導体及び該導体を覆う被覆部から構成された被覆電線と、この被覆電線を覆う絶縁被覆部と、を備えたケーブルにおいて、前記絶縁被覆部3の内側と前記複数の被覆電線2の外側との間の空隙部分に、炭素繊維、シリコン系材料の何れか1つ以上から構成された粒状の介在物4を充填した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーブルに係り、例えば、電気自動車などの車両に搭載されたバッテリを急速充電するためのケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
上述した電気自動車などの車両に搭載されたバッテリを急速充電するためのケーブル(以下、急速充電ケーブルと略す)として、例えば図2に示されたものが知られている。同図に示すように、急速充電ケーブル1は、複数の被覆電線2と、この被覆電線2を覆う絶縁被覆部としてのシース3と、を備えている。上記被覆電線2は、導電性の導体21と、この導体21を覆う絶縁性の被覆部22と、で構成されている。
【0003】
上述した急速充電ケーブル1には、車両に搭載されたバッテリの充電を短時間で行うため、数十Aから数百Aの電流を流す必要がある。充電時間を短くするためには急速充電ケーブル1に大きな電流を流す必要があるが、導体21の発熱による被覆部22の劣化及び溶解を防ぐために許容電流値が決められている。
【0004】
従って、大きな電流を流す場合には電流値に比例して導体21外径を大きくする必要がある。また、従来の急速充電ケーブル1は、図2に示すように、キャブタイヤケーブル構造を基本としているため、電力を供給する導体21の周囲には熱抵抗の大きなシース3で覆われており、シース3内に熱がこもりやすい。このため、導体21の発熱により温度が上昇しやすく許容電流増大の妨げになっている。
【0005】
そこで、導体の通電による発熱を抑制するために、例えば、図3に示されたものが提案されている。同図に示すように、急速充電ケーブル1には、シース3の内側と被覆電線2の外側との間に空隙が設けられている。そして、この空隙内を冷媒5となる水、油、空気などで満たして、循環させることで導体21の温度を調整できる。
【0006】
また、図4に示されたものも提案されている(特許文献1、2)。同図に示すように、急速充電ケーブル1には、水、油、空気などの冷媒5の循環経路となるパイプ状の管6が設けられ、この管6を被覆電線2に沿わせることで導体21の温度を調整できる。
【0007】
しかしながら、上述した従来の急速充電ケーブル1では、大きな冷却効果による許容電流の増大、導体の細径化が可能になる反面、冷媒5を循環させるための循環機構が急速充電ケーブル1の両端末で必要となる。また、可とう性が要求される急速充電ケーブル1に適用する場合には、端末部に組み付けする充電コネクタにも冷媒5の循環機構が必要となる。
【0008】
これにより、充電コネクタが大きくなり、取扱性が損なわれる可能性がある。また、屈曲等の負荷により、冷媒5の循環経路が遮断されないような強度、機構も必要となり、十分な可とう性、取扱性を確保することが困難になる可能性がある。さらに、地面への擦れやその他外力により冷媒5が漏れる危険性も考えられる、という問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−106362号公報
【特許文献2】特開昭59−56311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、冷媒の循環機構を設けることなく導体の通電による発熱を抑制することにより、取扱性の向上、許容電流の増大、導体の細径化を図ったケーブルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するための請求項1記載の発明は、導体及び該導体を覆う被覆部から構成された被覆電線と、この被覆電線を覆う絶縁被覆部と、を備えたケーブルにおいて、前記絶縁被覆部の内側と前記複数の被覆電線の外側との間の空隙部分に、炭素繊維、シリコン系材料の何れか1つ以上から構成された介在物を充填したことを特徴とするケーブルに存する。
【0012】
請求項2記載の発明は、前記介在物が、テープ状、繊維状、粒状、又はジェル状であることを特徴とする請求項1に記載のケーブルに存する。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように請求項1記載の発明によれば、絶縁被覆部の内側と複数の被覆電線の外側との間の空隙部分に、炭素繊維、シリコン系材料の何れか1つから構成された介在物を充填する。これら炭素繊維、シリコン系材料は非常に熱抵抗の低い材料であるため、導体で発生した熱を速やかに絶縁被覆部に伝達し放熱を促して、導体の温度上昇を抑制すことができる。このため、冷媒の循環機構を設けることなく導体の通電による発熱を抑制することにより、取扱性の向上、許容電流の増大、導体の細径化を図ることができる。
【0014】
請求項2記載の発明によれば、介在物が、テープ状、繊維状、粒状、又はジェル状であるので、ケーブルの屈曲性を損なうことがない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のケーブルとしての急速充電ケーブルの断面図である。
【図2】従来のケーブルの一例を示す断面図である。
【図3】従来のケーブルの一例を示す断面図である。
【図4】従来のケーブルの一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のケーブルを図面に基づいて説明する。図1は、本発明のケーブルとしての急速充電ケーブルの断面図である。同図に示すように、急速充電ケーブル1は、複数の被覆電線2と、これら被覆電線2を覆う絶縁被覆部としてのシース3と、介在物4と、を備えている。
【0017】
被覆電線2は各々、導電性の導体21と、この導体21を被覆する絶縁性の被覆部22と、を備えている。上記シース3は、例えばゴムやビニールなどの絶縁部材から構成され、熱抵抗が大きい。このシース3の固有熱抵抗は、およそ600℃cm/W程度であり、一般的に使用される断熱材と同等程度である。このため、導体21の通電により発生する熱がシース3内部にこもり、導体21の温度上昇を促進してしまう。
【0018】
上記介在物4は、図1に示すように、粒状に形成されていて、これら粒状に形成された複数の介在物4が、被覆電線2の外側とシース3の内側との間の空隙部分の一部、又は、全部に充填されている。この介在物4は、炭素繊維、シリコン系材料の何れか1つ以上から構成されていて、空隙部分を循環することなくその場に留まっている。
【0019】
上述した急速充電ケーブル1によれば、シース3の内側と複数の被覆電線2の外側との間の空隙部分に、炭素繊維、シリコン系材料の何れか1つから構成された介在物4を充填している。これら炭素繊維、シリコン系材料は非常に熱抵抗の低い材料であるため、導体21で発生した熱を速やかにシース3に伝達し放熱を促して、導体21の温度上昇を抑制することができる。即ち、介在物4を循環させなくても導体21の温度上昇を抑制することができるため、冷媒の循環機構を設けることなく導体21の通電による発熱を抑制することにより、取扱性の向上、許容電流の増大、導体21の細径化を図ることができる。
【0020】
次に、上述したように低熱抵抗の介在物4を充電した場合の許容電流について検討してみる。上記導体21の許容電流Iは一般的に下記の式(1)で与えられる。
I=√{(T1−T2)/(r×R)} …(1)
T1:急速充電ケーブル1の常時許容温度、T2:基底温度、r:交流導体抵抗、R:全熱抵抗(=被覆部22の熱抵抗+介在物4の熱抵抗+シース3の熱抵抗)
【0021】
式(1)から明らかなように許容電流Iは全熱抵抗Rと反比例の関係にある。この全熱抵抗Rは介在物4の熱抵抗も含まれており、介在物4の熱抵抗を低くすると許容電流Iを増大できることが分かる。ここで、急速充電ケーブル1の種類にもよるが、シース3の内側と複数の被覆電線2の外側との間の空隙部分はシース3内径の約50%を占めている。例えば、上記介在物4により、空隙部分に何も充填しない場合(即ち空気を充填した場合)に比べて全熱抵抗Rが50%低減すると許容電流Iを約5%大きくできる。
【0022】
また、上述した急速充電ケーブル1によれば、介在物4は粒状に形成されている。これにより、急速充電ケーブル1の屈曲性を損なうことがない。
【0023】
なお、上述した急速充電ケーブル1によれば、介在物4が粒状に形成されているが、本発明はこれに限ったものではない。介在物4としては、テープ状、繊維状、ジェル状であってもよい。この場合も、急速充電ケーブル1の屈曲性を損なうことがない。
【0024】
また、前述した実施形態は本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明は、実施形態に限定されるものではない。即ち、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【符号の説明】
【0025】
1 急速充電ケーブル
2 被覆電線
3 シース(絶縁被覆部)
4 介在物
21 導体
22 被覆部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体及び該導体を覆う被覆部から構成された被覆電線と、この被覆電線を覆う絶縁被覆部と、を備えたケーブルにおいて、
前記絶縁被覆部の内側と前記複数の被覆電線の外側との間の空隙部分に、炭素繊維、シリコン系材料の何れか1つ以上から構成された介在物を充填した
ことを特徴とするケーブル。
【請求項2】
前記介在物が、テープ状、繊維状、粒状、又はジェル状である
ことを特徴とする請求項1に記載のケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−146542(P2012−146542A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4606(P2011−4606)
【出願日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】