説明

ゲルベアルコールの製造方法

本発明は、ゲルベ反応に関連してアルコールを二量体化するための方法であって、1分子あたり2〜72個の炭素原子および1〜3個のOH基を有する1種以上のアルコール(A)を、(a)塩基(B)、(b)カルボニル化合物(C)および(c)金属ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムおよび白金の群から選択される水素化触媒(H)(ここで、該金属は元素状態で存在しなければならない)の存在下で反応させ、ただし、該アルコール(A)は少なくとも1個の第一級または第二級OH基を有し、かつ少なくとも1個の水素原子を置換基として有する炭素原子が第一級または第二級OH基を有する炭素原子に直接に隣接する、方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲルベアルコールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フーゼル油は、中級アルコールおよび高級アルコール(フーゼルアルコール)、脂肪酸エステル、テルペンおよびフルフラールの混合物である。それは、酵母の代謝の副生成物としてアルコール発酵の過程で形成され、ビール、ワインおよび蒸留酒における風味および芳香担体として働く。フーゼルアルコールの例は、プロパノール、ブタノール、ペンタノール(例えばイソアミルアルコール)およびヘキサノールである。3-メチル-1-ブタノール(イソアミルアルコール)は、フーゼル油の主成分である。3-メチル-1-ブタノールはフーゼル油から単には得られないが、例えば、ブタン異性体のヒドロホルミル化および還元によって得ることもできる。
【0003】
ゲルベアルコールは、特定の分枝状アルコールである。それらはCHOH基に対するβ位において分枝状の第一級アルコールである。ゲルベアルコールは当業者に既知であり、長きにわたり市販されているものもある。それらはいわゆるゲルベ反応により得られ、それは、100年以上もの間知られている二量体形成反応であり、次の図式:
【化1】

[式中、Rは脂肪族基である]
で記載することができる。
【0004】
従来のゲルベ反応において、第一級または第二級アルコールは、OH基を有する炭素原子のβ位においてアルキル化された約2倍の分子量を有する第一級アルコールへと変換される。例えば、n-ブタノールは2-エチルヘキサン-1-オールに変換され、ヘキサン-1-オールは2-ブチルオクタン-1-オールに変換され、および、オクタン-1-オールは2-ヘキシルドデカン-1-オールに変換される。
【0005】
ゲルベ反応に用いる第一級または第二級アルコールは、OH基を有する炭素原子に直接に隣接する炭素原子上に少なくとも1個の水素原子を有する。多くの場合、それは2個の水素原子を有し、このことは、OH基を有する炭素原子がメチレン基に直接に隣接することを意味する。
【0006】
形成された縮合生成物は、反応混合物中になお存在する出発アルコールとさらに反応することができ、そのため、より高い分子量を有するさらなるアルコール類が生じる。これら副反応が進行する程度は、出発アルコールの性質および反応条件の個々の場合による。その上、副生成物として、アルデヒド、ケトン、カルボン酸またはカルボン酸エステルをもたらすさらなる副反応を進行させることが可能である。米国特許第3,979,466号には、これに関して、「複数の異なる反応が含まれうることがさらに示されているため、その方法は極めて敏感であり、特定の工程の効果については予測不可能である」(1欄32〜35行参照)と述べられている。
【0007】
ゲルベ反応は、通常、塩基の存在下、高温で、水の脱離を伴って進行し、直鎖状アルコールを分枝状アルコールに変換する1つの方法である。通常は、単一のアルコールのみをゲルベ反応に使用する。しかしながら、2つの異なるアルコールを使用することも可能であり、この場合、混合ゲルベ反応について言及される。上記種類の第1番目の反応は、歴史上、早くも1899にMarcel Guerbetにより発表された。彼は、n-ブタノールを2-エチルヘキサン-1-オールへ二量体化させた。
【0008】
Anthony J. O’Lenickは、Journal of Surfactants and Detergents、第4巻(2001)、第311〜315頁において、全反応の過程においていくつかの構成工程が進行すること、具体的には(a)出発アルコールのアルデヒドへの酸化、(b)アルドール縮合、(c)不飽和アルデヒドを与える脱水(水脱離)および(d)アリルアルデヒドの水素化が進行すること記載している。
【0009】
O’Lenickによれば、構成工程について次のことが知られている。(1)反応は、原則として触媒なしに行うことができるが、水素移動触媒の存在下では非常に加速される(2)「比較的低い」温度(130〜140℃)での酸化工程、すなわち中間体アルデヒドの形成は、律速段階である。(3)いくぶんより高温(160〜180℃)でのアルドール縮合は、律速段階である。(4)さらにより高い温度では、副反応が優勢となる。
【0010】
1960年代および1970年代もの早くから、市販品を製造するためのゲルベ反応は、通常、塩基性触媒(一般的に水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウム)を用いて行われる。ゲルベ反応においては、しばしば、塩基と同様に追加の触媒(実際には通常、酸化亜鉛)が使用される。
【0011】
米国特許第3,119,880号によれば、アルカリ金属水酸化物、酢酸鉛および珪藻土上のニッケル(この場合ニッケルが脱水素触媒として働く)を使用することができる。
【0012】
米国特許第3,979,466号によれば、アルカリ触媒は白金(II)触媒と併用される。
【0013】
国際公開第91/04242号には、改良されたゲルベ法が記載され、ここで、アルコールは塩基およびカルボニル化合物の存在下、約180℃の温度で二量体化される。使用する出発アルコールは、4〜22個の炭素原子を有するアルコールであり、6〜18個の炭素原子を有するアルコールが好ましい。この文献には、共触媒をさらに使用するという選択肢が9頁において記載され、例えばAl、Ni、B、Mg、Cu、Zn、Ti、Zrまたは8族の貴金属、特にPt、Pd、Rh、IrおよびRuの錯体または塩が、実施例において例示されることなく、記載されている。
【0014】
Journal of Molecular Catalysis A(2004)、第65〜70頁には、Carliniらによって、CuまたはPdに基づく二官能性触媒およびナトリウムブトキシドのゲルベ反応による、ブタノールからの2エチルヘキサノールの製造が記載されている。彼らは、メタノールとn−プロパノールとのi-ブタノールを与える反応というきわめて特定の場合について、まず第1にPd/C触媒をナトリウムブトキシドと組み合わせて、200℃より高い温度で使用することに言及する(66ページ、左欄、下部)。第67〜69頁において、彼らは、200℃で、ナトリウムブトキシド触媒と組み合わせたPd(II)およびPd(0)触媒下での、ブタノールの自己縮合についての研究を報告する。反応は300ml反応器中、約0.5molの量のブタノールを用いて行われた。第68頁の表1には、得られた実験データがまとめられている。Carliniは、使用した触媒が反応条件下で「安定」を維持する範囲も調べた。彼は、「固体析出および浸出作用」があること、すなわち不均一触媒が部分的に反応器壁上に析出し部分的に溶液中に移動することを見出した。使用した不均一触媒の浸出は比較的大きいことがわかった。Carliniは使用したパラジウム触媒の50%が溶液中に移動することを見出した(第69頁、左欄、第1段落参照)。Carliniは次に示す結論に達する:「この高い浸出程度は不均一パラジウムベース系の産業用途の視点での興味を明らかに減少させる」。Carliniの結論は、浸出の結果として触媒の活性物質の非常に高い損失となるため、少なくとも工業用途に対して、パラジウム系触媒系をゲルベ反応に使用することは不利であると当業者に助言することを意味する。
【0015】
Matsu-uraらは、Journal of Organic Chemistry(2006)、第8306〜8308頁において、アルケンおよび塩基の存在下における、イリジウム触媒下でのゲルベ反応を記載する。第8307頁の2つの欄にまたがる段落において、これらの条件下で、3-メチル-1-ブタノール(イソアミルアルコール)を、50%の収率で二量体化することができることが述べられている(表2のエントリー9、第8307、右欄参照)。二量体化生成物は、構造:
【化2】

を有する。
【0016】
Matsu-uraによる方法の、不便であり、そのため不都合な特徴は、水素受容体として働くアルケンの存在下で作用させる必要があることである。使用したイリジウム含有触媒は、[IrCl(cod)]または[CpIrCl]である。
【0017】
国際公開第2009/081727号には、最大4個の炭素原子を有するアルコールの二量体化が記載されている。ここで、ゲルベ反応は、遷移金属の錯体および塩基の存在下で行われる。ここで、水素分圧は少なくとも0.1MPaである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許第3,979,466号明細書
【特許文献2】米国特許第3,119,880号明細書
【特許文献3】国際公開第91/04242号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2009/081727号パンフレット
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Anthony J. O’Lenick著、「Journal of Surfactants and Detergents」、第4巻(2001)、第311〜315頁
【非特許文献2】Carliniら著、「Journal of Molecular Catalysis A」(2004)、第65〜70頁
【非特許文献3】Matsu-uraら著、「Journal of Organic Chemistry」(2006)、第8306〜8308頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
ゲルベ反応の方式でアルコールを二量体化する改善された方法を提供することが本発明の課題であった。このゲルベ反応は、良好な収率および低い副生成物の形成で進行すべきである。本発明の方法条件は、先行技術と比較して少なくとも同等であるべきであるが、何かより好都合なことがあれば好ましく、より具体的には、ゲルベ反応は比較的に好ましい温度および圧力条件下で進行する。さらに、使用する触媒は、資源保護的な方法で使用可能であるべきであり、このことは、触媒損失が工業的に許容可能な程度であるべきであることを意味する。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、ゲルベ反応の方式でアルコールを二量体化する方法であって、1分子あたり2〜72個の炭素原子および1〜3個のOH基を有する1種以上のアルコール(A)を、
(a)塩基(B)、
(b)カルボニル化合物(C)および
(c)金属ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムおよび白金の群から選択される水素化触媒(H)、ここで、これら金属は元素状態で存在しなければならない、
の存在下で変換し、
ただし、該アルコール(A)は少なくとも1個の第一級または第二級OH基を有し、かつ少なくとも1個の水素原子を置換基として有する炭素原子は該第一級または第二級OH基を有する炭素原子に直接に隣接する、方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
ゲルベ反応において、単一の出発アルコールを使用することができるが、いくつかの異なるアルコールを出発アルコールとして使用することもできる。ゲルベ反応において形成される主生成物は二量体化生成物であるが、少量の高級同族体も形成され、特に第一級二量体化生成物と、まだ未変換の出発アルコール(MA)との生成物である3量体化生成物も、同様にゲルベ反応の方式で得られる。
【0023】
したがって、「ゲルベ反応の方式でアルコールを二量体化する方法」が記載される場合、これは、二量体化生成物の形成と同様に、より高級の同族体の形成も含む。
【0024】
式(MA)で示される第一級または第二級モノアルコールのみを使用する場合、これはゲルベ反応の「従来の」形態であり、式(MA)で示されるいくつかの第一級および/または第二級モノアルコールを使用する場合、これは「混合型」ゲルベ反応である。
【0025】
〔出発アルコール(A)〕
述べたように、上記の化合物(A)を本発明の方法の出発アルコール、すなわち、1分子あたり2〜72個の炭素原子および1〜3個のOH基を有するアルコールとして使用する。
【0026】
一態様において、ジオールを出発アルコールとして使用する。適当なジオールの例は、アルファ、オメガ−ジオール、隣接ジオールおよび二量体化ジオールである。
【0027】
二量体ジオールは、長きにわたり既知の化合物であり、市販されており、例えば二量体脂肪酸およびそれらのエステルの還元により得られる。これらは、同様に、不飽和カルボン酸またはカルボン酸エステル、通常、脂肪酸、例えばオレイン酸、リノール酸、エルカ酸など、またはそれらのエステルを二量体化することにより得られる。通常は、オリゴマー化は、高温で、例えばアルミナから構成された触媒の存在下でもたらされる。得られる物質−工業グレート品質の二量体脂肪酸−は、二量体化生成物が主である混合物である。しかしながら、少量の割合の高級オリゴマー、特に三量体脂肪酸も存在する。二量体脂肪酸は市販の生成物であり、あらゆる組成および品質で提供される。本発明に関して、少なくとも70%、特に少なくとも90%の二量体含量を有する二量体ジオール、および、二量体分子あたりの炭素原子の数が主に36〜44個の範囲である二量体ジオールが好ましい。
【0028】
好ましい態様において、アルコール(A)は、式(MA):
【化3】

[式中、(a)化合物(MA)の炭素原子の総数は2〜24の範囲であり、(b)R、RおよびR基は、それぞれ水素であるか、または、それぞれ独立して、直鎖状または分枝状または脂環式、および飽和または不飽和のアルキル基であり、(c)RおよびRおよび/またはRおよびRおよび/またはRおよびR基は互いにつながっていてもよく、すなわち、脂環式の基礎構造の一部であってよい]
で示される第一級および/または第二級モノアルコールの群から選択される。
【0029】
アルキル基は、もっぱら飽和であることが好ましい。
【0030】
アルキル基がもっぱら飽和である化合物(MA)の場合、好ましい態様において、その炭素原子の総数は、4〜18個の範囲、特に5〜10個の範囲である。5個の炭素原子を有するアルコールおよび特に5個の炭素原子を有するアルコールの異性体混合物が、特に好ましい。
【0031】
3-メチルブタン-1-オールは、モノアルコール(MA)としてきわめて好ましい。それを純粋形態または工業用混合物の形態で、ならびに式(MA)で示される他のアルコールとのブレンドの形態で、使用することができる。
【0032】
1分子あたり2個以上のOH基を有する適当な化合物(A)の例は、二量体アルコールである。
【0033】
適当な化合物(MA)の例は:
a)第一級アルコール、例えばエタノール、プロパン-1-オール、ブタン-1-オール、ヘキサン-1-オール、ヘプタン-1-オール、オクタン-1-オール、ノナン-1-オール、デカン-1-オール、ウンデカン-1-オール、ドデカン-1-オール、トリデカン-1-オール、テトラデカン-1-オール、2-メチルブタン-1-オール、3-メチルブタン-1-オール、ヘキサデカン-1-オール、オクタデカン-1-オール、
b)第二級アルコール、例えばプロパン-2-オール、ブタン-2-オール、シクロブタノール、ペンタン-2-オール、ペンタン-3-オール、シクロペンタノール、ヘキサン-2-オール、ヘキサン-3-オール、シクロヘキサノール、シクロヘプタノール、シクロオクタノール、シクロドデカノールである。
【0034】
化合物(MA)を、純粋形態または工業用生成物の形態で使用することができる。本発明にしたがって行われるゲルベ反応に対し、原則としての1種以上の化合物(MA)のほかにさらなる物質を含む混合物を使用することもでき、その1つの例としてはフーゼル油の使用である。しかしながら、フーゼル油を原料ベースとして選択する際、ゲルベ反応において使用する前に精製し、テルペン、フルフラールおよびさらなる共存物質を除去することが好ましく、例えば蒸留法により達成されうる。したがって、一態様において、フーゼルアルコーまたはフーゼルアルコールの混合物が化合物(MA)として使用される。
【0035】
〔塩基(B)〕
本発明の方法において使用する塩基(B)の選択自体は重要でない。
【0036】
適当な塩基(B)の例は、アルカリ金属水酸化物およびアルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属カーボネートおよびアルカリ土類金属カーボネート、アルコキシド、アミドおよび水素化物である。アルカリ金属水酸化物、特に水酸化カリウムを使用することが好ましい。
【0037】
特に好ましい態様において、使用する塩基(B)はカリウムがカチオンとして働くものである。例としては、カリウムアルコキシドおよび水酸化カリウムである。水酸化カリウム、特に水性溶液形態の水酸化カリウム、例えばKOH50%水溶液が、きわめて好ましい。
【0038】
化合物(B)を、使用する出発アルコールに基づいて0.5〜12重量%、好ましくは1.5〜7重量%の量で使用することが好ましい。
【0039】
塩基(B)の添加方法それ自体は重要でなく、あらゆる方法で添加することができ、当業者により個々の場合にごく普通に最適化することができる。一態様において、塩基(B)の全量をゲルベ反応の開始時に添加する。特に短鎖アルコールの場合には、塩基(B)、特にKOHを、分けて添加することがより好ましくありうる。好ましくは、塩基(B)(特にKOH)を分けて計量添加する場合、一定温度で沸点近くに反応混合物を保つために、ゲルベ反応を当業者に既知の圧力傾斜を用いて行う。塩基(B)を分けて計量添加することおよび圧力傾斜を用いることの上記変形のために、通常、収率の顕著な増加がもたらされる。
【0040】
〔カルボニル化合物(C)〕
本発明の方法において使用するカルボニル化合物(C)の選択自体は重要でない。
【0041】
第一級出発アルコール(MA)を使用する場合、使用するカルボニル化合物(C)はアルデヒドであることが好ましく、特に、アルコール基をアルデヒド基で形式上置き換えたという点で使用する出発アルコール(MA)に由来するものであることが好ましい。
【0042】
第二級出発アルコール(MA)を使用する場合、使用するカルボニル化合物(C)はケトンであることが好ましく、特に、アルコール基をケト基で形式上置き換えたという点で使用する出発アルコール(MA)に由来するものであることが好ましい。
【0043】
化合物(C)を、使用する出発アルコールに基づいて0.01〜10重量%、好ましくは0.5〜5重量%の量で使用することが好ましい。
【0044】
〔水素化触媒(H)〕
使用する水素化触媒(H)は、金属ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムおよび白金の群から選択され、ここで、これらの金属は元素状態で存在すべきである。「元素状態で」という表現は、金属がゼロ酸化状態の元素状態で、具体的には純粋な金属の状態で、および、金属の化合物または錯体の状態ではなく存在することを意味すると理解される。これは、これらの金属の塩または錯体または化合物は、本発明の水素化触媒(H)の定義に含まれないことを明確に意味し、したがって論理上、金属−配位子錯体または金属化合物も、その金属がゼロの酸化状態を有する際に、本発明の水素化触媒(H)の定義に含まれない。
【0045】
上記に述べた金属は、周期表の8族の貴金属である。それらは、元素状態で存在するはずであり、したがって、不均一触媒である。したがって、これらの金属の塩またはこれらの金属の錯体も、金属がゼロ酸化状態であるこれらの金属の錯体も、本発明の成分(H)の定義に含まれない。
【0046】
好ましい態様において、金属ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムおよび白金は、疎水性の環境中に捉えられる。これは、例えば、これら金属を炭素上または変性シリカ上もしくは疎水化シリカ上に固定することによってなされうる。固定および疎水化を、他の変性鉱物骨格物質(ゼオライト、ヒドロタルサイトまたはケイ酸塩など)にもたらすこともできる。金属が疎水性の環境中に捉えられるという事実、より具体的には、疎水性の支持体に適用されるという事実は、水により浸出させられることから、およびアルカリ性化合物により不活性化させられることから、それらが実質的に保護されるという利点を有する。特に、反応温度が200℃より下、特に190℃より下である際に起こりうる浸出作用(それはもちろん、高価な触媒の損失を意味し、したがって、方法技術の観点において非経済的である)は、この方式での工業的方法について許容できる低いレベルである。
【0047】
炭素上のパラジウム(Pd/C)は、水素化触媒(H)としてきわめて好ましい。
【0048】
触媒(C)を、用いた出発アルコールに基づく触媒(C)の金属含量が、0.0005〜0.1重量%、好ましくは0.001〜0.008重量%の量で使用することが好ましい。
【0049】
〔方法パラメーター〕
ゲルベアルコールの製造について最適な反応温度は、先行技術によれば比較的高温に設定すべきであり、通常の作業温度は、230〜280℃、特に245〜280℃の範囲である。特に、16個より少ない炭素原子を有する短鎖ゲルベアルコールを製造する場合、10barより高い蒸気圧がこの温度範囲で達成され、このことは、設備に対するきわめて高い技術的要求となるため達成が困難である。これに対して、本発明に従い使用するための触媒系は、より穏やかな反応条件下で行うことが可能であるという利点を有し、例えば、本発明の方法によれば、使用する出発アルコールに応じて120〜250℃で作用させることが可能である。140〜230℃で作用させることが好ましい。この反応温度を低下させることは、圧力をより低くすることももたらし、このため、短鎖ゲルベアルコールの場合であっても、通例の技術設備(pmax=6bar)において、工業的達成が可能となる。0.01〜15bar、特に0.1〜6barの圧力で作用させることが好ましい。
【0050】
全体として、本発明の方法はいくつかの利点において注目される:
・ゲルベ反応が良好な収率で進行する、
・副生成物の形成が少ない、
・反応温度および圧力が先行技術と比較してより低い、
・水素化触媒(H)は、元素金属(ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金)が疎水性の環境中に捉えられる場合、水による浸出から、および、アルカリ性化合物から特によく保護される、
・反応が比較的に有利な温度および圧力条件下で進行する。
【実施例】
【0051】
〔使用した物質〕
Pd/C:Johnson Matthey製の5% Pd/C 3610、50%HO中。
【0052】
〔オクタノール/デカノールからの混合C16-20ゲルベアルコール〕
〔比較例1〕
オクタン-1-オールおよびデカン-1-オールの混合物2540g、KOH(50%)70gおよびオクタナールおよびデカナールの混合物75gの反応混合物を、撹拌しながら、わずかに高圧下で、235℃まで加熱し、この温度で4時間加熱した。反応中に形成された水を除去した。反応混合物を冷却した後、ゲルベアルコール64%を含有する反応混合物を得た。
【0053】
〔実施例1a〕
オクタン-1-オールおよびデカン-1-オールの混合物2540g、KOH(50%)70gおよびオクタナールおよびデカナールの混合物75g、およびPd/C5gの反応混合物を、わずかに高圧下で、撹拌しながら、225℃まで加熱し、この温度で2時間撹拌した。反応中に形成された水を除去した。反応混合物を冷却した後、ゲルベアルコール70%を含有する反応混合物を得た。
【0054】
〔実施例1b〕
オクタン-1-オールおよびデカン-1-オールの混合物2540g、KOH(50%)70g、オクタナールおよびデカナールの混合物75g、およびPd/C5gの反応混合物を、撹拌しながら、わずかに高圧の条件下で、200℃まで加熱し、この温度で4時間撹拌した。本反応において形成された水を除去した。反応混合物を冷却した後、ゲルベアルコール64%を含有する反応混合物が得られた。
【0055】
〔ペンタン-1-オールからのC10ゲルベアルコール(プロピルヘプタノール)〕
〔比較例2〕
ペンタン-1-オール3100g、およびペンタナール92g、ならびにKOH(50%)56gの反応混合物を220℃まで加熱し、7barの自己圧力で撹拌しながら、22時間続けた。冷却後、ゲルベアルコール含量は30%であった。
【0056】
〔実施例2〕
ペンタン-1-オール3100g、およびペンタナール92g、KOH(50%)56g、およびPd/C5gの反応混合物を195℃まで加熱し、5.5barの自己圧力で撹拌しながら、5時間続けた。冷却後、ゲルベアルコール含量は30%であった。
【0057】
〔イソアミルアルコールからのC10ゲルベアルコール〕
〔実施例3〕
3-メチル-1-ブタノール2500g、3-メチル-1-ブタナール75g、Pd/C4gの反応混合物を180℃まで加熱し、KOH(50%)320gを分けて計量添加し、4.6〜1.4barの圧力傾斜で、撹拌しながら、18時間、反応を続けた。冷却後、ゲルベアルコール含量は75%であった。
【0058】
〔ヘキサン-1-オールからのC12ゲルベアルコール〕
〔実施例4〕
ヘキサン-1-オール2500g、ヘキサナール75g、Pd/C4gの反応混合物を、210℃まで加熱し、KOH(50%)80gを分けて計量添加し、5〜3barの圧力傾斜で、撹拌しながら、6時間、反応を続けた。冷却後、ゲルベアルコール含量は38%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲルベ反応の方式でアルコールを二量体化する方法であって、1分子あたり2〜72個の炭素原子および1〜3個のOH基を有する1種以上のアルコール(A)を、
(a)塩基(B)、
(b)カルボニル化合物(C)および
(c)金属ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムおよび白金の群から選択される水素化触媒(H)、ここで、該金属は元素状態で存在しなければならない
の存在下で変換し、
ただし、該アルコール(A)は少なくとも1個の第一級または第二級OH基を有し、かつ少なくとも1個の水素原子を置換基として有する炭素原子が第一級または第二級OH基を有する炭素原子に直接に隣接する、方法。
【請求項2】
アルコール(A)は、式(MA):
【化1】

[式中、(a)化合物(MA)の炭素原子の総数は2〜24の範囲であり、(b)R、RおよびR基は、それぞれ水素であるか、または、それぞれ独立して、直鎖状または分枝状または脂環式、および飽和または不飽和のアルキル基であり、(c)RおよびRおよび/またはRおよびRおよび/またはRおよびR基は互いにつながっていてもよく、すなわち、脂環式の基礎構造の一部であってよい]
で示される第一級および/または第二級モノアルコールの群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アルキル基はもっぱら飽和である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
式(MA)で示される第一級および/または第二級モノアルコール中の炭素原子の総数は4〜18個の範囲である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
式(MA)で示される第一級および/または第2級モノアルコール中の段素原子の総数は5〜10個の範囲である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
モノアルコール(MA)として3-メチルブタン-1-オールを使用する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
使用する塩基(B)は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属およびアルカリ土類金属カーボネート、アルコキシド、アミドおよび水素化物の群から選択される化合物である、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
使用する塩基(B)はカリウムがカチオンとして働く化合物である、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
塩基(B)として水酸化カリウムを使用する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
カルボニル化合物(C)は以下:
第一級出発アルコール(MA)を使用する場合、使用するカルボニル化合物(C)は、使用する出発アルコール(MA)に由来しアルコール基をアルデヒド基で形式上置き換えたアルデヒドであり、第二級出発アルコール(MA)を使用する場合、使用するカルボニル化合物(C)は、使用する出発アルコール(MA)に由来しアルコール基をケト基で形式上置き換えたケトンである、
から選択される、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
水素化触媒(H)の金属は疎水性の環境中に埋め込まれている、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
水素化触媒(H)として炭素上のパラジウム(Pd/C)を使用する、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
140℃〜230℃の範囲の温度で反応を行う、請求項1〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
0.1〜6barの範囲の圧力で反応を行う、請求項1〜13のいずれかに記載の方法。

【公表番号】特表2013−510105(P2013−510105A)
【公表日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−537317(P2012−537317)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際出願番号】PCT/EP2010/006609
【国際公開番号】WO2011/054483
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(505066718)コグニス・アイピー・マネージメント・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (191)
【氏名又は名称原語表記】Cognis IP Management GmbH
【Fターム(参考)】