説明

ゲルマニウムの溶融成形方法及び装置

【課題】精度が高く、後加工工程が少ないゲルマニウムの溶融成形方法及び制御の容易な小型の装置を提供
【解決手段】不活性ガス雰囲気内の成形型内3b,4bに溶融状態にされたゲルマニウム10を封入し、成形型3,4を外部より加熱制御し、成形型の外部周囲温度23をゲルマニウム融点温度より高い一定温度で制御(A4)したまま、成形型の一部又は複数部分から全体に徐々に冷却しながら、一部又は複数部分側から徐々に全体にゲルマニウムを凝固させ、ゲルマニウムの凝固が完了した後に、成形型の冷却(BC−5)を続行し、かつ外部周囲温度を降下(A5)させてゲルマニウムを成形する。凝固の完了は、冷却を開始した後、温度が下降し(BC4−1)、再度温度上昇(BC4−2)が開始され、その後再び温度が下降(BC4−3)に転じた時とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲルマニウムの溶融成形方法及び装置に関し、特に赤外線レンズ等に有用なゲルマニウムレンズ等の溶融成形に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1においては、赤外線計測用のゲルマニウムレンズは、ゲルマニウム原料を融点以上に昇温して、液体状のゲルマニウムを鏡面仕上げしたレンズ鋳型に鋳込み、鋳型を冷却して製造している。また、このものでは、不純物の侵入を防止するために、窒素ガス雰囲気とし、さらには、封入した窒素ガスを抜き取り真空にし、ゲルマニウム液体から空気等を脱泡している。これにより、ゲルマニウムレンズを一度に必要な形状に成形する。
【0003】
しかし、ゲルマニウムは、他の金属類やガラスとは異なり、凝固する際に体積が膨張し、クラックや、膨らみ、陥没が発生するという問題があった。そこで、特許文献2においては、鋳型にゲルマニウム融液を高圧注入して密度を高めながら冷却し、凝固点付近では、注入圧力を弱めて、材料の凝固膨張の圧力を吸収して内部歪みの発生を防止し、凝固点以下で再度注入圧力を高めながら鋳型により溶融成形している。また、成形型の温度及び加熱炉内の温度を温度モニターで測定し温度制御している。さらに、成形型の下部にガス供給管を設け、還元性ガスを供給して原料粉末中の水分等を置換している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−157754号公報
【特許文献2】特開平7−314123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、高圧注入しても、必ずしも、安定した形状を確保できないという問題があった。これは、ゲルマニウムが凝固する場合、成形部位において、結晶が一様に進展するのではなく、また、結晶の開始点も一定ではない点、さらに、ゲルマニウムの溶融液は流動性が期待できず、凝固時の膨張による流動はわずかであり鋳型形状にフィットし難い。このため、高圧注入しても、凝固点での熱膨張を防ぎきれず、依然としてクラックや膨らみ、陥没の発生が生じると考えられる。また、凝固時の膨張に対抗するためには大型の型締め装置が必要となり、装置全体も大きくコストもかかるという問題があった。また、温度モニターにより温度制御しているが詳細な温度分布や状態、変化については言及されていない。また、還元性ガスを供給しているが置換のために用いているにすぎず、冷却時については言及されていない。
【0006】
本発明の課題は、かかる問題点に鑑みて、ゲルマニウムの凝固点での膨張を制御し、あるいは、成形形状に影響のない方向に逃がし、ゲルマニウムの鋳型への溶融成形において、精度が高く、後加工工程が少ないゲルマニウムの溶融成形方法及び装置を提供することである。また、大型の型締め装置等を不要とし、装置全体を小型化することにある。さらに、より好ましい温度制御、冷却方法及び装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明においては、不活性ガス雰囲気内の成形型内に溶融状態にされたゲルマニウムを封入し、前記成形型を外部より加熱制御し、前記ゲルマニウムを前記成形型の外部周囲温度をゲルマニウム融点温度より高い一定温度で制御したまま、前記成形型の一部又は複数部分から全体に徐々に冷却しながら、前記一部又は複数部分側から徐々に全体に前記ゲルマニウムを凝固させ、前記ゲルマニウムの凝固が完了した後に、前記成形型の冷却を続行し、かつ前記外部周囲温度を降下させ、前記ゲルマニウム原料を成形するゲルマニウムの溶融成形方法を提供することにより、前述した課題を解決した。
【0008】
即ち、ゲルマニウムの溶融後の成形型内での凝固工程において、溶融ゲルマニウムが入れられた成形型(鋳型)全体を均一又は自然のままに冷却するのではなく、一部又は複数部分から冷却を開始し、徐々に冷却範囲を全体に広げることにより、ゲルマニウムの凝固の開始点を制御する。成形型の外部周囲温度を比較的高温に保つことにより、冷却分布や冷却速度を安定させる。これにより、凝固の開始を安定させ、部分から全体に徐々に成形型にフィットした凝固が行われる。凝固が完了した時点で、加熱装置の電源を切り、成形型、ゲルマニウム(材料)、装置全体を冷却してゲルマニウム成形品を得る。なお、外部周囲温度は、成形型の冷却により、少なくとも成形型内のゲルマニウムの凝固が可能な温度あるいは熱量にされることはいうまでもない。
【0009】
本願発明者等は、種々の実験を行っている中で、ゲルマニウムの冷却時の成形型内近傍の温度を測定していたが、凝固点付近で、下降していた温度が潜熱によりある程度温度が上昇した後、再度温度が下降していることを発見した。外部周囲温度も同時に降下している場合は外乱が大きく見逃していたが、本発明のように、外部周囲温度を一定に保ち、成形型のみを冷却し、成形型内温度を測定することによりこの現象を確認できたものと考える。かかる知得により、ゲルマニウムの凝固完了を特定できる。
【0010】
そこで、請求項2に記載の発明においては、前記凝固の完了は、前記冷却を開始し、前記成形型内の温度が下降を開始した後、再度温度上昇が開始され、その後再び前記温度が下降に転じた時を完了とし、前記外部の加熱をやめ、前記成形型内温度及び外部周囲温度を下降させるゲルマニウムの溶融成形方法とした。
【0011】
また、このように凝固の現象を温度を用いて間接的に捉えることが可能となったので、請求項3に記載の発明においては、前記凝固の完了は、前記成形型の内部に前記成形型内より離隔して配置された温度センサによる温度の値を用いて行うゲルマニウムの溶融成形方法とした。
【0012】
また、ゲルマニウムの成形物としては、レンズ等が有用である。そこで、請求項4に記載の発明においては、前記成形型の成形型内形状はレンズ状であって、前記成形型を冷却する部分は成形型の成形型内の中心軸上にあって、前記中心軸直角方向に向かって徐々に全体を冷却するゲルマニウム溶融成形方法とした。
【0013】
より具体的な方法として、請求項5に記載の発明においては、前記成形型内形状が凹状の下型と平面又は凸状の上型とで形成され、前記ゲルマニウム原料を前記下型に入れ、前記ゲルマニウム溶融後に、前記上型を下型に嵌合させ成形すると共に余剰原料を逃がすゲルマニウムの溶融成形方法とした。
【0014】
凹状の下型とすることで、ゲルマニウムの溶融液を貯留する。平面又は凸状の上型とすることで、型締め時にゲルマニウムを成形型内に充満させる。なお、ゲルマニウム溶融液は表面張力により下型の縁面より膨らんだ状態を保つことも可能であり、上型の成形型内形状は若干凹状となっていてもよい。また、溶融状態から型合わせや型締めを行う場合や、凝固時の膨張により体積が増し余剰原料が発生するので、余剰原料を逃がすようにする。
【0015】
ゲルマニウム原料は溶融したものを成形型内に注入(鋳込むように)してもよいが、設備が過大になるので、簡単には、粉末又塊が好ましい。そこで、請求項6に記載の発明においては、前記ゲルマニウム原料は固体とした。
【0016】
かかるゲルマニウムの溶解成形方法を実施する装置は従来のものに対し、成形型の部分冷却装置を追加すればよい。そこで、請求項7記載の発明においては、不活性ガス雰囲気内に設けられたゲルマニウムの溶融成形装置であって、ゲルマニウム原料が入れられる上向きの凹状型面を有する下型と、下向きの型面を有する上型と、前記上型又は前記下型の型面の縁に設けられた逃げ部と、前記上型又は下型の内部であって前記上型の型面又は下型の型面に近接して配置された上型又は下型温度センサと、前記上型の上方向又は前記下型の下方向より平面視で型中心に向かってに開口する冷却用不活性ガス吹き出し口と、前記上型及び下型を当接又は離隔させる移動装置と、前記上型及び下型の周囲に設けられた加熱装置と、前記加熱装置の温度を測定する加熱装置温度センサを有するゲルマニウムの溶融成形装置を提供する。
【0017】
即ち、成形型の部分冷却のため冷却用不活性ガス吹き出し口を設け、成形型を部分的に冷却するようにした。また、温度センサ(モニター)は上型の型面又は下型の型面に近接して上型又は下型の内部に配置し、より正確な温度を測定できるようにする。さらに、上型又は下型の型面の縁に逃げ部を設け、凝固時のゲルマニウムの膨張を成形型の必要型面外へ逃すようにした。
【0018】
本発明においては、高圧の型締めを必要としないので、強度が低くてもゲルマニウムの鋳型に適した材料を使用できる。また、冷却用不活性ガスの通路の設計を容易にしたい。そこで、請求項8に記載の発明においては、前記上型及び下型の材料はガラス状カーボンであって、前記上型及び下型がそれぞれ挿入される上支持部材及び下支持部材を介して、前記移動装置に接続され、前記冷却用不活性ガス吹き出し口及び前記冷却用不活性ガス排出口が前記上支持部材の被挿入部下面又は下支持部材の被挿入部上面に設けられているゲルマニウム溶融成形装置とした。
【発明の効果】
【0019】
本発明においては、ゲルマニウムの溶融後の成形型内での凝固工程において、部分から冷却を開始し、徐々に冷却範囲を全体に広げ、ゲルマニウムの凝固の開始点を制御し、かつ、外部周囲温度を高温に保つことにより、凝固の開始を安定させ、部分から全体に徐々に成形型にフィットした凝固を行う。さらに、凝固完了後、加熱装置の電源を切り、装置全体の温度を下げてゲルマニウム成形品を得るようにしたので、温度制御、冷却方法が容易になり、凝固時の膨張の影響がない又は少なく、クラックや膨らみ、陥没のない又は少ないものとなった。
【0020】
また、請求項2に記載の発明おいては、凝固の完了を、温度下降開始後、再度温度上昇が開始され、その後再び温度が下降に転じた時を完了とし、成形型内温度及び外部周囲温度を下降させるようにしたので、凝固がどこで完了したかを特定することにより制御が容易になり、凝固工程が安定し、ばらつきが少なく形状も安定し、精度が高く、後加工工程が少ないものとなった。
【0021】
さらに、請求項3に記載の発明においては、凝固の完了を成形型の内部の成形型内より離隔して配置された温度センサによる温度の値を用いて行うので、間接的な測定でありながら、容易に凝固完了を特定でき、温度制御が容易である。
【0022】
また、請求項4に記載の発明においては、成形型内形状はレンズ状であって、成形型の成形型内の中心軸上から中心軸直角方向に向かって徐々に全体を冷却するようにしたので、レンズ成形が容易であり、ばらつきが少なく精度が高いものとなった。さらに、請求項5に記載の発明においては、成形型内形状を凹状の下型と平面又は凸状の上型とし、下型でゲルマニウム溶融後、上型を下型に嵌合させ成形すると共に余剰原料を逃がすようにしたので、バリの発生が成形品の必要部分(レンズ部分)の外周側とすることができるので後加工も容易である。また、溶融状態から型合わせや型締めを行う場合でも、余剰原料を逃がすので、過大な型締めを行う必要が無く付帯設備も簡単でよい。さらに、請求項6に記載の発明においては、ゲルマニウム原料は固体としたので、取り扱いが容易で不純物等の混入も少なく純度の高いゲルマニウムの成形が可能となった。
【0023】
また、請求項7記載の発明においては、不活性ガス雰囲気内に設けられたゲルマニウムの溶融成形装置において、成形型の部分冷却のため冷却用不活性ガス吹き出し口を設け、成形型を部分的に冷却し、温度センサ(モニター)を型面に近接した型内部に配置し、正確な温度を測定できるようにし、さらに、型面の縁に逃げ部を設け、凝固時のゲルマニウムの膨張を成形型の必要型面外へ逃すようにしたので、大型の型締め装置等を不要とし、装置全体を小型化でき、より好ましい温度制御、冷却方法が可能なゲルマニウムの溶融成形装置となった。
【0024】
さらに、請求項8に記載の発明においては、型材料をガラス状カーボンとし、型が挿入される支持部材を介して、移動可能にし、冷却用不活性ガス吹き出し口及び冷却用不活性ガス排出口がそれぞれ上下支持部材側に設けられているゲルマニウム溶解成形装置とした。
【0025】
上下型の材料をガラス状カーボンとし精度の高い成形面とし、上下型が挿入される上下支持部材側に冷却用不活性ガスの吹き出し口及び排出口を設けるので冷却用不活性ガスの流れを容易に設計できるので、成形精度もより高く、後工程での加工も少ない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施の形態を示すゲルマニウム溶解成形装置の断面説明図であり、上下型が当接してゲルマニウムが溶融している状態を示す。
【図2】本発明の実施の形態を示すゲルマニウムの溶融成形方法の温度変化を模式的に示す時間−温度関係図であり、縦軸が摂氏温度、横軸が経過時間である。
【図3】本発明の実施の形態を示すレンズ成形品の外観写真である。
【図4】従来の方法で成形したレンズの成形品の例を示す外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1に示すように、本ゲルマニウムの溶融成形装置1は、密閉断熱容器2(以下「密閉容器」という)内に上下型3,4及び上下型が挿入される上下支持部材5,6が設けられている。密閉容器2には窒素等の不活性ガスを供給する吸気弁9a、ガス流入路7及び不活性ガスを排気する排気口8及び排気弁9bが設けられており、図示しないガス源と接続され密閉容器内が不活性ガス雰囲気とされる。また、断熱材により、外部と断熱され熱効率を向上させる。上下型3,4は鍔付き円筒状を為し、その材料はガラス状カーボンとされ、下型4は鍔側(上面)4aに上向きのレンズ状、凹状型面4bを有し、ゲルマニウム原料10が供給される。下型の型面の外周縁にリング状の逃げ部4cが設けられている。上型3は半鍔側(下面)3aに下向きの型面3bを有する。本実施の形態の型面3bは平面とされている。
【0028】
上下型3,4の材料であるガラス状カーボンは、炭素電極等に用いられ、その性状は硬く稠密であり、酸化方向、還元方向に電位窓が広く、電気化学的に使いやすい。あるいは、耐薬品性に優れた黒色ガラス状の炭素素材であり、耐熱性に優れ、表面粗さも小さいといわれているものである。本実施の形態では、ガラス状カーボンとして、東海カーボン株式会社のグラッシーカーボン(登録商標)を用いた。なお、同様な性状を有するものであれば、本材料に限定されることなく適宜使用可能であることはいうまでもない。
【0029】
上型の型面3b及び下型の型面4bの中心軸c上の各壁面に近接した上型3及び下型4の内部に上型及び下型温度センサ11,12が設けられている。上型3及び下型4の鍔3d,4dに隣接する円筒部3e,4eがそれぞれ上支持部材5の本体15の下側面段付き挿入穴15a及び下支持部材6の本体16の段付き上側面挿入穴16aに挿入されている。両鍔部3d,4dが上限支持部材5,6の蓋部25,26の下端25a及び上端26aと本体部15,16の段部15b,16bとで挟持固定され、上下型3,4がそれぞれ上下支持部材5,6に固定されている。
【0030】
上支持部材5及び下支持部材6はそれぞれ移動装置である空気圧シリンダ35、36のロッド35a,36aに接続されている。空気圧シリンダ本体35b,36bはフランジ35c,36cで密閉容器2の外側の上下にそれぞれ取り付けられている。空気圧シリンダには図示しない空気圧源及び制御バルブが接続され、上下方向に上支持部材5及び上型3、又は下支持部材6及び下型4が移動可能にされ、上型及び下型が当接又は離隔可能にされている。なお、移動装置は空気圧シリンダ等以外に、ボールねじやラックピニオン等で駆動されるスライド機構等でもよい。
【0031】
上支持部材蓋部25の下面25bの中心部25cと上型3の上面3fとの間に隙間17aが設けられている。上支持部材蓋部25の中央に冷却用不活性ガス吹き出し口18aが隙間17aに開口している。また、冷却用不活性ガス吹き出し口18aはフレキシブルホース20aを介して密閉容器2外の図示しないバルブ及び不活性ガス供給装置に接続されている。上支持部材蓋部25の冷却用不活性ガス吹き出し口18aの周囲に等分4箇所に冷却用不活性ガス排出口19aが隙間17aに開口し、上支持部材蓋部25内の連通路21aを介して密閉容器2内と連通している。
【0032】
同様に、下支持部材蓋部26の上面26bの中心部26cと下型4の下面4fとの間に隙間17bが設けられている。下支持部材蓋部の中央に冷却用不活性ガス吹き出し口18bが隙間17bに開口している。また、冷却用不活性ガス吹き出し口18bはフレキシブルホース20bを介して密閉容器2外の図示しないバルブ及び不活性ガス供給装置に接続されている。下支持部材蓋部26の冷却用不活性ガス吹き出し口18bの周囲に等分4箇所に冷却用不活性ガス排出口19bが隙間17bに開口し、下支持部材蓋部26内の連通路21bを介して密閉容器2内と連通している。
【0033】
上型3及び下型4が当接した位置を上下中心として、上下型の周囲に加熱装置(ヒータ)22が設けられ、上下型内3b,4bの温度をゲルマニウムの融点を超える温度となるように加熱できるようにされている。また、加熱装置内側の温度を測定する加熱装置温度センサ23が設けられている。
【0034】
次に、かかるゲルマニウム溶融成形装置1を用いたゲルマニウム溶融成形方法について述べる。なお、説明の簡単のため、下型4の位置は固定し、上型3のみ上下させる。図1において、まず、上型が上昇端位置において、密閉容器2の図示しない開口部を開け、下型4の型内4bに所定の量のゲルマニウム塊を載置する。次に、密閉容器2を密閉し、排気バルブ9b、供給バルブ9aを開放して密閉容器内に窒素ガスを封入し、空気を追い出しながら、窒素ガスを充満させる。窒素ガスの封入が完了したら、両バルブ9a、9bを閉じる。次に加熱装置22を運転し、加熱装置内側温度がゲルマニウム溶融温度(融点939℃)より高い、約1050℃の所定温度となるように加熱する(「加熱工程」とよぶ)。なお、この所定温度は装置の大きさ加熱装置の装置に対する配置、大きさ等によりゲルマニウム溶解時の温度が安定的に推移できる温度又は熱量に適宜設定する。なお、図2は説明のために定性的なものを図示した。したがって、実際のデータとは異なる。
【0035】
図2の符号A1に示すように時間と共に加熱装置内側温度が所定温度に達するが、上下型3,4内の温度上昇は符号B1、C1に示すように遅れる。さらに、下型4内の温度がゲルマニウム融点以上となるとゲルマニウムの溶解が始まる。このとき、符号A2に示すように加熱装置内側センサ23温度は所定温度に達し一定となり、さらに、符号B2に示すように、上型3の温度センサ11の温度は上昇を続ける。しかし、符号C2−1に示すように下型4の温度センサ12の温度は横ばいとなる。一定時間経過後、符号C2−2に示すように、再び下型4の温度センサ12の温度が上昇を開始する(「溶融工程」とよぶ)。これは、ゲルマニウム溶解時の融解熱が吸収され温度上昇が緩和又は横ばいとなり、溶解が完了した後、再度加熱装置の加熱により温度が上昇するものと考える。下型温度センサの温度が横ばいより再度上昇に転じ、下型温度センサの温度は加熱装置の容量等によってばらつくが、実施例の装置では1000℃以上である。
【0036】
下型温度センサ12の温度が横ばいより再度上昇に転じた時点をゲルマニウムの溶解が完了したとして、再度上昇に転じた後(実際は、符号C2−3に示す所定時間経過後、又は下型温度センサの温度が1000℃以上となった後)、符号A3、B3、C3に示すように、加熱装置の制御温度を下降させ、加熱装置22及び上下型3,4の温度が、溶融点よりやや高い温度(本実施の形態では950〜960℃ 以下同様)になるように下降させてゲルマニウム10が溶融状態のまま全体に安定した状態となるようにする(「溶融安定化工程」とよぶ)。
【0037】
このとき、下型4には表面張力により、液体ゲルマニウム10が型内面4bより盛り上がるように溶融している。加熱装置22の制御温度を下降させると同時に又は遅れて上型3を下降させ、下型4に当接させる。これにより、ゲルマニウム10は上下型内面3b、4bに充満する。但し、凝固後の逃げ部4cを充満させるまでには至っていない。
【0038】
次に、図示しないバルブ及び不活性ガス供給装置から、冷却用不活性ガス吹き出し口18a、18bより隙間17a、17bに向かって冷却用不活性ガスとして常温の窒素ガス(以下「冷却ガス」という)を吹き出し、上下型3,4の中央部を強制冷却する。冷却ガスは冷却用不活性ガス排出口19a、19b連通路21a、21bを通って密閉容器2内に排出される。さらに、排気弁9bを開いて、冷却ガスは排気口8、排気弁9bを通って外部へ排出される。
【0039】
これにより、上下型3,4は中心部より外側に向かって徐々に冷却され、上下型面内のゲルマニウム10が中心部より凝固を開始する(「凝固工程」とよぶ)。このとき、符号A4に示すように、加熱装置は安定化温度を保つように制御されている。一方、ゲルマニウム10は溶融温度より低い、凝固温度に達し凝固するのであるが、そのまま上下型温度センサ11,12の温度は下降を続けるのではなく、符号BC4−1の下降から、符号BC4−2に示すように上昇に転ずる(910〜920℃)。その後再び、符号BC4−3に示すように下降に転ずる(925℃)。このときを、凝固完了とする。
【0040】
温度が下降に転じた後、所定時間経過後、冷却ガスの供給を続行したまま、加熱装置22の電源を切り、符号A5、BC5に示すように、密閉容器2内全体を冷却する(「冷却工程」とよぶ)。常温又は取り扱い可能な温度までに下がったら、冷却ガスの供給を停止し、上下型3,4を開き、成形されたゲルマニウム成形品を取り出す。なお、記載した温度は実施の形態での測定温度であり、温度センサの性能、設置場所、状況により左右され、物性的に正確な温度を示すものではない。
【実施例】
【0041】
かかる装置、方法により得られた実施例について説明する。図3(a)は、本発明の実施の形態で作成したレンズ成形品の外観写真である。図3(a)に示すように、本レンズ成形品50はレンズ本体51とバリ部52を有する。レンズ本体51は膨らみや欠陥がなく、上下型面内に沿った形状とされている。また、面粗度も良好であり、バリ部を除けばそのまま後加工なしにレンズとして使用可能な精度であった。バリ部52は逃げ部4c縁に沿って形成されている。バリ部52は凝固の際の逃げとなって最終的に固まるので面粗度や形状は悪い。
【0042】
また、図3(b)は、非球面レンズの例である。本レンズ成形品53は、(a)の場合と同様、本体54は膨らみや欠陥がなく、面粗度、形状精度もよい。バリ部55はレンズ全周囲でなく、1箇所にまとまって舌状に延び凝固しており、形状は安定している。この(a)(b)の違いは、原料の量と型内3b、4b及び逃げ部4cの形状や容量によって変えることができる。
【0043】
一方、本発明の実施の形態の凝固工程を設けず冷却したものでは、図4に示すように、レンズ60の本体61に膨らみが発生し、形状も悪くそのままではレンズとして全く使用できない。また、バリ部62も数カ所に発生し、場所、大きさ、延び方向もばらばらであり、不安定な凝固が行われたと思われる状態であった。また、成形品のばらつきも大きく一定の形状を得られなかった。
【0044】
このように、本実施の形態に示すように、ゲルマニウム凝固時に中央部を冷却して、中央部から全体に凝固して行くように制御できるので、膨らみがなく、形状も安定し、ばらつきの少ないゲルマニウム成形品を得られる。また、型温度センサの温度を監視し、凝固工程時の温度下降後、温度が再上昇し、再下降に転じた時の温度を凝固工程時の凝固完了として判断できるので、制御も容易であり、再現性を容易とし、製品の安定化、品質の特定が容易になる。
【0045】
なお、各設定温度は、ゲルマニウム原料、装置、温度センサの種類や設置位置、型の形状等により適宜設定されることはいうまでもない。また、融点を本実施の態様では、939℃としたが、引用文献1では937.4℃、引用文献2では958.5℃であり、それぞれの条件や純度等により必ずしも一定ではなく、また、融点と凝固点の正確な値の測定も困難であり、材料及び装置により、適宜決定される。また、冷却ガスの量は、加熱装置の配置や、型の大きさ、配置等により適宜設定される。また、上下型同じに限らず、異ならせたり、変化させてもよい。また、上下型は1枚のレンズの場合について述べたが、複数のレンズや、レンズアレイ等にも適用できることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0046】
1 ゲルマニウムの溶融成形装置
3 成形型(上型)
3b 下向きの型面(成形型内面)
4 成形型(下型)
4b 上向きの凹状型面(成形型内面)
4c 逃げ部
5 上支持部材
6 下支持部材
10 ゲルマニウム
11 上型温度センサ
12 下型温度センサ
18a、18b 冷却用不活性ガス吹き出し口
19a、19b 冷却用不活性ガス排出口
23 加熱装置(外部周囲)温度センサ
22 加熱装置
36 移動装置
c 中心軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活性ガス雰囲気内の成形型内に溶融状態にされたゲルマニウムを封入し、前記成形型を外部より加熱制御し、前記ゲルマニウム原料を溶融状態又は溶融後、前記成形型の外部周囲温度をゲルマニウム融点温度より高い一定温度で制御したまま、前記成形型の一部又は複数部分から全体に徐々に冷却しながら、前記一部又は複数部分側から徐々に全体に前記ゲルマニウムを凝固させ、前記ゲルマニウムの凝固が完了した後に、前記成形型の冷却を続行し、かつ前記外部周囲温度を降下させ、前記ゲルマニウム原料を成形することを特徴とするゲルマニウムの溶融成形方法。
【請求項2】
前記凝固の完了は、前記冷却を開始した後、前記成形型内の温度が下降を開始し、再度温度上昇が開始され、その後再び前記温度が下降に転じた時を完了とし、前記外部の加熱をやめ、前記成形型内温度及び外部周囲温度を下降させることを特徴とする請求項1記載のゲルマニウムの溶融成形方法。
【請求項3】
前記凝固の完了は、前記成形型の内部に前記成形型内より離隔して配置された温度センサによる温度の値を用いて行うことを特徴とする請求項2記載のゲルマニウムの溶融成形方法。
【請求項4】
前記成形型の成形型内形状はレンズ状であって、前記成形型を冷却する部分は成形型の成形型内の中心軸上にあって、前記中心軸直角方向に向かって徐々に全体を冷却することを特徴とする請求項3記載のゲルマニウム溶融成形方法。
【請求項5】
前記成形型内形状が凹状の下型と平面又は凸状の上型とで形成され、前記ゲルマニウム原料を前記下型に入れ、前記ゲルマニウム溶融後に、前記上型を下型に嵌合させ成形すると共に余剰原料を逃がすことを特徴とする請求項4記載のゲルマニウムの溶融成形方法。
【請求項6】
前記ゲルマニウム原料は固体であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一に記載のゲルマニウムの溶融成形方法。
【請求項7】
不活性ガス雰囲気内に設けられたゲルマニウムの溶融成形装置であって、ゲルマニウム原料が入れられる上向きの凹状型面を有する下型と、下向きの型面を有する上型と、前記上型又は前記下型の型面の縁に設けられた逃げ部と、前記上型又は下型の内部であって前記上型の型面又は下型の型面に近接して配置された上型又は下型温度センサと、前記上型の上方向又は前記下型の下方向より平面視で型中心に向かってに開口する冷却用不活性ガス吹き出し口と、前記上型及び下型を当接又は離隔させる移動装置と、前記上型及び下型の周囲に設けられた加熱装置と、前記加熱装置の温度を測定する加熱装置温度センサと、を有することを特徴とするゲルマニウムの溶融成形装置。
【請求項8】
前記上型及び下型の材料はガラス状カーボンであって、前記上型及び下型がそれぞれ挿入される上支持部材及び下支持部材を介して、前記移動装置に接続され、前記冷却用不活性ガス吹き出し口及び冷却用不活性ガス排出口が前記上及び下支持部材側に設けられていることを特徴とする請求項7記載のゲルマニウム溶解成形装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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