説明

ゲル化剤

【課題】微細繊維状セルロース複合体を用いて耐熱性と強度の両方に優れるゲルが得られるゲル化剤等を提供する。
【解決手段】微細繊維状セルロース50〜95質量%と水溶性高分子または親水性物質とを5〜50質量%含む微細繊維状セルロース複合体と、グルコマンナン、ガラクトマンナン、アルギン酸類からなる群より選択される多糖類と、キサンタンガムとを含むゲル化剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱殺菌処理が必要な食品等に利用でき、耐熱性でかつ強度が大きいゲルを形成できるゲル化剤、または、そのゲル化剤から得られるゲル状組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼラチン、寒天、カラギーナン、グルコマンナンとキサンタンガムの混合物、ローカストビーンガムとキサンタンガムの混合物などの一般的なゲル化剤を使用したゲルは熱可逆性であり、殺菌処理に必要な程度の加熱により容易にゾル化あるいは溶解し、内容物の均一性を維持することができない。具体的には、加熱処理によりゲル中の固形物の浮上あるいは沈降、タンパク質の凝集等が発生する。つまり、耐熱性が無い。
【0003】
特許文献1には、微細繊維状セルロース複合体と、ガラクトマンナン、グルコマンナン、アルギン酸類から選択される多糖類を含有するゲル化剤が開示されている。また、特許文献2にはそれを利用した耐熱性ゲルの記載がある。しかしながら、これらから得られるゲル状組成物は、耐熱性には優れるもののゲルの強度が弱い。そのため、食品などに求められるゲル破断強度を得ようとすると、ゲル化剤の添加量が多くなることで風味が損なわれる。また、コスト的にも問題であった。
【特許文献1】特開2004−41119号公報
【特許文献2】特開2004−248536号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、微細繊維状セルロース複合体を用いて耐熱性と強度の両方に優れるゲルが得られるゲル化剤、または、それから得られるゲル状組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち本発明は、以下の通りである。
(1)微細繊維状セルロース50〜95質量%と水溶性高分子または親水性物質とを5〜50質量%含む微細繊維状セルロース複合体と、グルコマンナン、ガラクトマンナン、アルギン酸類からなる群より選択される多糖類と、キサンタンガムとを含むゲル化剤。
(2)前記の微細繊維状セルロース複合体が、微細繊維状セルロース50〜94質量%と、水溶性高分子3〜47質量%と、親水性物質3〜47質量%とを含んでなり、かつ前記微細繊維状セルロースが結晶性であることを特徴とする前記(1)記載のゲル化剤。
(3)前記の多糖類が、グルコマンナンであることを特徴とする前記(1)または(2)記載のゲル化剤。
(4)前記(1)〜(3)のいずれかに記載のゲル化剤から得られたゲル状組成物。
【発明の効果】
【0006】
本発明のゲル化剤は、ゲル破断強度が高く、かつ耐熱性も高い。そのため、少量のゲル化剤の添加で食品等に必要なゲル破断強度を付与できるうえ、ゲルの状態で加熱殺菌処理を行ってもゲル中の固形物などの分離が生じにくく安定している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明について具体的に説明する。本発明者は、第1成分である微細繊維状セルロース複合体と、第2成分であるガラクトマンナン、グルコマンナン、アルギン酸類からなる群から選択される多糖類と、第3成分である比較的少量のキサンタンガムとを配合したゲル化剤を用いることで、ゲルの耐熱性を維持したまま大幅に強度を向上させることが可能であることを見出し、本発明をなすに至った。
【0008】
第1成分で使用される微細繊維状セルロースは、β−1,4グルカン構造を有するいわゆるセルロースを原料とする。安価な製品を安定的に供給するためには、植物細胞壁を起源としたセルロース性物質を、原料として使用するのが好ましい。この中でも特に、バガス、稲わら、麦わら、竹などを使用したイネ科植物由来のパルプが好ましい。綿花、パピルス草、こうぞ、みつまた、ガンピなども使用が可能だが、原料の安定的な確保が困難であること、セルロース以外の成分の含有量が多いこと、ハンドリングが難しいことなどの理由で好ましくない場合がある。ビートパルプや果実繊維パルプなどの柔細胞由来の原料も同様である。その他レーヨンなどの再生セルロースや、微生物が産出するセルロースを原料として使用しても良い。
【0009】
微細繊維状セルロースは、ゲルの耐熱性を向上させるために結晶性であることが好ましい。具体的には、X線回折法(Segal法)で測定されるところの結晶化度が50%を越えることが好ましい。より好ましくは結晶化度が55%以上である。
【0010】
ところで、微細繊維状セルロース複合体は、微細繊維状セルロース以外の他の成分も含有しており、それら他の成分は多くの場合に非晶性である。そのため、微細繊維状セルロース複合体を試料として結晶化度を測定すると、得られる値は微細繊維状セルロースそのものの正しい結晶化度より低くなる。例えば、微細繊維状セルロース複合体を測定した結晶化度が50%であれば、微細繊維状セルロースの結晶化度としては50%以上であるといえる。ただし、微細繊維状セルロース複合体の結晶化度として、例えば49%という値が得られたような場合は、微細繊維状セルロースだけを他の成分から分離してから結晶化度を再測定しなければならない。
【0011】
微細繊維状セルロースは、セルロース繊維の大部分、つまり90%以上が「微細な繊維状」である。この「微細な繊維状」とは、セルロース繊維を光学顕微鏡または電子顕微鏡で観察・測定した場合に、セルロース繊維の長さ(長径)が5nm〜5mm、幅(短径)が1nm〜200μm、長さと幅の比(長径/短径)が5〜10000であることを意味する。このような微細繊維状セルロースを用いることにより、ゲル化剤のゲル化能が向上してゲル破断強度が高くなる。中でも好ましい「微細繊維状のセルロース」の形態は、長さ(長径)が0.5μm〜1mm、幅(短径)が2nm〜60μm、長さと幅の比(長径/短径)が5〜400のものである。
【0012】
微細繊維状セルロース複合体は、微細繊維状セルロースと水溶性高分子または親水性物質とが複合した乾燥組成物である。それぞれの量比は、微細繊維状セルロース:水溶性高分子または親水性物質=50:50〜95:5(ただし、合計で100)である。この範囲でゲル破断強度と分散性のバランスに優れる。
【0013】
好ましくは微細繊維状セルロースと水溶性高分子と親水性物質とが複合したものである。この場合のそれぞれの質量比は、微細繊維状セルロースが50〜94に対して水溶性高分子が3〜47でかつ親水性物質が3〜47の範囲内である(ただし、合計で100)。この範囲で、ゲル化剤の水中での分散性が良好となり、ゲル化性能も良好となる。より好ましくは、微細繊維状セルロースが50〜70に対して、水溶性高分子が10〜30で、かつ親水性物質が5〜40の質量比率の範囲内(ただし、合計で100)である。
【0014】
この乾燥組成物の形態は、顆粒状、粒状、粉末状、鱗片状、小片状、シート状等の様々な形態を呈する。乾燥組成物を得る際の乾燥方法については何ら限定するものではない。乾燥後は必要に応じて、カッターミル、ハンマーミル、ピンミル、ジェットミル等で粉砕して使用しても良い。
【0015】
水溶性高分子は、乾燥時におけるセルロース同士の角質化を防止する作用を有するものであり、微細繊維状セルロースと水溶性高分子とのスラリー液の状態からいったん乾燥状態を経ることによって、微細繊維状セルロース複合体を形成する。これにより、ゲル化剤を水中に投入した場合の再分散性が改善されると共に、理由は不明であるがゲル化剤とした場合のゲル化能が向上する。
【0016】
具体的な水溶性高分子の例としては、アラビアガム、アラビノガラクタン、アルギン酸およびその塩、カードラン、ガッティーガム、カラギーナン、カラヤガム、寒天、キサンタンガム、グアーガム、酵素分解グアーガム、クインスシードガム、ジェランガム、ゼラチン、タマリンドシードガム、難消化性デキストリン、トラガントガム、ファーセルラン、プルラン、ペクチン、ローカントビーンガム、水溶性大豆多糖類、カルボキシメチルセルロース・ナトリウム、メチルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウムなどから選ばれた1種または2種以上の物質が使用される。
【0017】
中でも、分散性が良好になるため、カルボキシメチルセルロース・ナトリウムを用いるのが好ましい。カルボキシメチルセルロース・ナトリウムとしては、カルボキシメチル基の置換度が0.5〜1.5であるのが好ましく、より好ましくは0.5〜1.0であり、さらに好ましくは0.6〜0.8である。
【0018】
また、水溶性高分子の1質量%水溶液の粘度は、5〜9000mPa・s程度で用いるのが好ましく、より好ましくは1000〜8000mPa・s程度で用いることであり、さらに好ましくは2000〜6000mPa・s程度で用いることである。この範囲で、取り扱い性に問題なく、ゲル化剤の性能も良好な範囲となる。
【0019】
親水性物質は、ゲル化剤を水中に投入した際に崩壊剤または導水剤として機能するものであり、親水性物質を用いることで、微細繊維状セルロース複合体が、水中でさらに分散しやすくなる。親水性物質は、冷水への溶解性が高く、粘性を殆どもたらさず、常温で固体の物質である。例えば、デキストリン類、水溶性糖類(ブドウ糖、果糖、庶糖、乳糖、オリゴ糖、異性化糖、キシロース、トレハロース、カップリングシュガー、パラチノース、ソルボース、還元澱粉糖化飴、マルトース、ラクツロース、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖等)、糖アルコール類(キシリトール、マルチトール、マンニトール、ソルビトール等)が挙げられ、これらから選ばれる1種または2種以上の物質である。ところで、親水性物質の中には、デキストリン類のように水溶性高分子としての機能もわずかではあるが合わせ持つものもある。そのような親水性物質を用いる場合でも水溶性高分子を合わせ用いるのが望ましいが、水溶性高分子を用いないことも可能である。
【0020】
親水性物質は、低分子量物質の方が水中での粒子の崩壊・分散性が良くなる傾向にあるが、一方、製造時の乾燥性や、製品の吸湿性、経時安定性に劣る傾向がある。例えば、ブドウ糖、蔗糖、トレハロースなどは良好な性質を示すが、バランスが最も良い物質は、DE(dextrose equivalent)が20以上のデキストリンである。
【0021】
微細繊維状セルロース複合体には、その効果を損ねない限り、微細繊維状セルロース、水溶性高分子、親水性物質以外の他の成分を含めても良い。例えば、デンプン類、油脂類、蛋白質類、ペプチド、アミノ酸、界面活性剤、保存料、日持向上剤、pH調整剤、食塩、各種リン酸塩等の塩類、乳化剤、酸味料、甘味料、香料、色素、消泡剤、発泡剤、抗菌剤、崩壊剤などの成分が適宜配合されていても良い。
【0022】
微細繊維状セルロース複合体は、「水中で安定に懸濁する成分」を、全セルロース中に30質量%以上含有する。この成分の含有量が30質量%未満であると、ゲル形成機能が劣る。含有量は多いほど好ましいが、50〜100質量%であればより好ましい。ここにいう、「水中で安定に懸濁する成分」は、ゲル化剤を0.1質量%濃度の水分散液としてから1000Gで5分間遠心分離した場合でも、沈澱にならずに水中に安定に懸濁しているセルロースの全セルロース量に対する割合で示される。(「水中で安定に懸濁する成分」の測定方法は後述する。)
【0023】
このような成分は、高分解能走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察および測定される長さ(長径)が0.5〜30μm、幅(短径)が2〜600nm、長さと幅の比(長径/短径比)が20〜400であることが好ましく、より好ましくは、幅(短径)が100nm以下、より好ましくは50nm以下である。
【0024】
微細繊維状セルロース複合体は、0.5質量%濃度の水分散液において、歪み10%、周波数10rad/sの条件で測定される損失正接(tanδ)が1未満である。1未満でゲル形成機能が秀でたものとなる。好ましくは0.6未満である。
【0025】
微細繊維状セルロース複合体の損失正接を1未満にするためには、微細繊維状セルロース複合体の構成成分である、微細繊維状セルロース、つまりセルロースのミクロフィブリルを短く切断することなく取り出す必要がある。しかしながら、現在の技術では、「短繊維化」させることなく「微細化」だけを行うことはできない(ここで言う「短繊維化」とは繊維を短く切断すること、あるいは短くなった繊維の状態を意味する。また「微細化」とは引き裂くなどの作用を与えて繊維を細くすること、または細くなった繊維の状態を意味する。)。つまり、損失正接を1未満にするためには、セルロース繊維の「短繊維化」を最低限に抑えつつ「微細化」を進行させることが重要である。そのための好ましい方法の例を以下に示すが、これらの方法に何ら限定するものではない。
【0026】
原料として植物細胞壁を起源とするセルロース性物質を選択する場合に、セルロース繊維の「短繊維化」を最低限に抑えつつ「微細化」を進行させるためには、平均重合度400〜12000で、かつ、α−セルロース含量(%)が60〜100質量%のものを選択するのが好ましく、より好ましくは平均重合度400〜12000で、かつα−セルロース含量(%)が60〜85質量%のものを選択することである。
【0027】
また、セルロース繊維の「短繊維化」を最低限に抑えつつ「微細化」を進行させるために使用する装置としては、高圧ホモジナイザーが好ましい。高圧ホモジナイザーの具体例としては、エマルジフレックス(AVESTIN,Inc.製)、アルティマイザーシステム(株式会社スギノマシン製)、ナノマイザーシステム(ナノマイザー株式会社製)、マイクロフルイダイザー(MFIC Corp.製)、バルブ式ホモジナイザー(三和機械株式会社製、Invensys APV社製、Niro Soavi社製、株式会社イズミフードマシナリー製)などがある。高圧ホモジナイザーの処理圧力としては、60〜414MPa程度が好ましい。
【0028】
ゲル化剤の第2成分として使用する多糖類は、単独で水に溶解させただけではゲル化しないが、第1成分に含まれる微細繊維状セルロースと結合して、耐熱性はあるもののゲル破断強度が比較的小さいゲルを形成する。多糖類としては、グルコマンナン、ガラクトマンナン、アルギン酸類からなる群から選択されるものを用いる。
【0029】
このような特定の多糖類を用いるのは、微細繊維状セルロース複合体だけではゲル化が生じないが、多糖類を合わせて用いることで、小さいゲル破断強度ではあるが、ゲル化するようになるためである。多糖類としては、好ましくはグルコマンナンとガラクトマンナンからなる群から選択するのがよく、特に好ましいのはグルコマンナンである。またガラクトマンナンの中で好ましいのは、ローカストビーンガムである。
【0030】
グルコマンナンは、D−グルコースとD−マンノースがβ−1,4結合した構造を有し、グルコースとマンノースの比率が約2:3の多糖類である。グルコマンナンは、精製度が低いと独特の刺激臭があるので、精製度の高いものを使用することが望ましいが、用途に応じてコンニャク粉やコンニャクマンナンを使用しても差し支えない。
【0031】
ガラクトマンナンは、β−D−マンノースがβ−1,4結合した主鎖と、α−D−ガラクトースがα−1,6結合した側鎖からなる構造を有する多糖類である。ガラクトマンナンの例としては、グアーガム、ローカストビーンガム、タラガム等があり、マンノースとグルコースの比率は、グアーガムで約2:1、ローカストビーンガムで約4:1、タラガムで約3:1である。
【0032】
アルギン酸類とは、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム等のアルギン酸塩、またはアルギン酸プロピレングリコールエステルを意味する。アルギン酸類の中でも、アルギン酸がナトリウムで中和された水溶性の多糖類であるアルギン酸ナトリウムを使用するのが好ましい。アルギン酸はβ−D−マンヌロン酸(Mと略する)とα−L−グルロン酸(Gと略する)からなる1,4結合のブロック共重合体である。Mからなるブロック(M−M−M−M)と、Gからなるブロック(G−G−G−G)と、両残基が交互に入り交じっているブロック(M−G−M−G)、という3つのセグメントから成り立っている。これらのアルギン酸類は、pHや塩濃度を制御して使用される場合もある。
【0033】
ゲル化剤の第3成分として使用するキサンタンガムは、主鎖はD−グルコースがβ−1,4結合した構造を有し、この主鎖のアンヒドログルコースにD−マンノース、D−グルクロン酸、D−マンノースからなる側鎖が結合したものである。主鎖に付くD−マンノースの6位はアセチル化され、末端のD−マンノースがピルビン酸とアセタール結合している枝分かれの多い構造である。
【0034】
ゲル化剤は、第1成分である微細繊維状セルロース複合体と、第2成分の多糖類と、第3成分としての少量のキサンタンガムとを配合して用いることで、意外にも大幅にゲル化性能が向上した、大きいゲル破断強度のゲルが得られる。その際、ゲルの耐熱性も維持されるから、耐熱性の維持とゲル破断強度の向上とが両立する。ゲル破断強度が向上する理由は不明であるが、第1成分である微細繊維状セルロース複合体と第3成分であるキサンタンガムだけとを混合してもゲル化が生じず、一方、第2成分である多糖類と第3成分であるキサンタンガムとだけを混合するとゲル化が生じることから、第1成分と第2成分との間、及び、第2成分と第3成分との間の結合が相乗的に作用することで、ゲル全体の強度が大きくなるのではないかと考えられる。
【0035】
第1成分である微細繊維状セルロース複合体と、第2成分の多糖類との質量比は、1:9〜9:1、好ましくは2:8〜8:2、さらに好ましくは3:7〜7:3である。この範囲でゲル破断強度は弱いものの一応のゲル化が生じるからである。
【0036】
上述の第1成分と第2成分に、さらに加える第3成分であるキサンタンガムの質量比は、「第1成分(微細繊維状セルロース複合体)+第2成分(多糖類)」:「第3成分(キサンタンガム)」=70:30〜98:2であり、好ましくは77:23〜90:10、さらに好ましくは80:20〜85:15である。この範囲で、耐熱性とゲル破断強度とが両立した好ましいゲルが得られる。
【0037】
ゲル化剤を製造するにあたっては、微細繊維状セルロース複合体と多糖類とキサンタンガムとを所定比率で配合し、乾燥状態のままで十分混合すればよい。微細繊維状セルロース複合体は、通常は乾燥物のまま使用するのが望ましいが、水性媒体に分散して液状にしてから使用しても差し支えない。また多糖類も同様である。ただし液状で使用する場合は、取り扱い性の観点から、ゲル化剤を調合する前におのおのの液状物の液温を5〜60℃、好ましくは10〜30℃に調製しておいた方が良い。
【0038】
本発明のゲル化剤における重要な点は、第1成分として微細繊維状セルロース複合体、つまり「微細繊維状セルロースを主たる成分とする乾燥複合体」を使用することにある。例えば、微細繊維状セルロース複合体の代わりに、第1成分として、複合体化していない微細繊維状セルロースを使用しても、第2成分である多糖類と強固な架橋構造を形成することはできない。つまり本発明のゲル化剤の第1成分として、微細繊維状セルロース複合体を使用することは、本発明のゲル化剤における主要ゲル化反応の一つである、第1成分と第2成分との架橋構造形成という観点から、非常に重要である。
【0039】
次に、上記のゲル化剤を用いて調整するゲル状組成物について説明する。ゲル状組成物は、ゲル化剤を水に分散することで得られる。ゲル状組成物におけるゲル化剤の配合量は、特に定めるものではないが、0.1〜5質量%程度が好ましい。この範囲で、食品などで望まれるゲル破断強度のゲルが得られる。さらに好ましくは0.3〜1.5質量%程度である。
【0040】
ゲル状組成物は、食品具材などのその他材料を混合したものでもよい。そのようなゲル状組成物を調製するときの、ゲル化剤やその他材料を加える順番は特に限定しないが、その他材料の中にはゲル形成を阻害するものがあるので、まずゲル化剤分散液を調製してから、その他材料を添加して混合し、ゲル化剤を含む液状組成物を調製するのが望ましい。ゲル化剤を分散させる際の水の温度は5〜60℃とするのが好ましく、より好ましくは10〜30℃で行うのがよい。その他材料の温度、その他材料を混合する際の温度も、5〜60℃で行うのが好ましく、より好ましくは10〜30℃で行うようにするのがよい。
【0041】
ゲル状組成物は、ゲル化剤の構成成分の一部である第1成分と第2成分だけを配合したゲルと比較すると、常温におけるゲル破断強度が大きい。具体的には、本発明のゲル化剤を配合したゲル状組成物の25℃におけるゲル破断強度は、第1成分と第2成分のみから構成されたゲル化材料を同量用いたゲルのゲル破断強度に比して、20%以上向上する。このゲル破断強度ゆえに、常温流通時の商品の破壊を抑制することができる。
【0042】
このゲル状組成物は、耐熱性をも合わせ持つ。つまり、加熱処理(殺菌処理)を施しても、ゲルが溶解せず均一な組織を保ち、投入した粒子の沈降・浮上を抑制する作用がある。これらの機能ゆえに、強い加熱処理(殺菌処理)が必要な常温流通ゲル食品、熱に安定な多層ゲル、熱に安定な固形物含有ゲルなどの供給が可能となる。
【0043】
ゲル状組成物の耐熱性は、以下に示す固定化指標により判定できる。まず、ゲル化剤を1質量%とした均一な水分散液を用意し、これに、以下で説明するごとき「粒子」を所定量混合して十分攪拌する。次に、これを容器に充填した後、加熱殺菌を行い、加熱殺菌後の固定化指標を測定し、それが70%以上である場合に、耐熱性を有すると判定する。なお、固定化指標とは、全粒子における固定化粒子の割合(%)であり、以下の式で表される。
固定化指標(%)=〔α−(β+γ)〕/α×100
(ここで、α:全粒子数、β:表面に浮いている粒子数、γ:底面に沈降している粒子数をそれぞれ意味する。)
【0044】
ここにいう「粒子」とは、比重が0.1〜3.5で、かつ、1つ1つの粒子が、目視で判別できる大きさの固形物の粒子である。目視で判別できる大きさの粒子とは、具体的には、後述する粒子の長径および短径が50μm以上の粒子を指す。50μm未満の場合、人間の視力では目視で粒子を確認することは困難である。長径および短径が50μm以上であれば、粒子の形状は、特に制限されるものではない。具体的には、一定の大きさの多数の紙片や食品具材等を粒子として用いることができる。このような粒子が、加熱殺菌処理後に、どの程度の割合で、沈降したり表面に浮き上がったりせずにゲル状組成物中の固定位置を安定に維持できるかで、ゲル状組成物の耐熱性を判定する。
【0045】
本発明のゲル化剤を使用したゲル状組成物は、固定化指標が70%以上であり、十分な耐熱性を有し、食品などに応用する場合に必要な加熱殺菌を、食品の状態を変化させない安定な状態で行うことができる。ゲル状組成物を食品等に使用する場合に適する加熱殺菌の温度としては、好ましくは80℃以上、より好ましくは105〜150℃、さらに好ましくは105〜121℃で加熱処理を行うのが望ましい。加熱時間の目安としては、80℃で1〜3時間程度、105℃以上であれば30分程度である。
【0046】
ゲル状組成物には、ゲル化剤と水に加えてその他の成分が配合されていても良い。例えば、食品素材(畜肉、魚肉、豆・穀類およびその粉砕物、牛乳・乳製品、はっ酵乳、野菜、果物、果汁、食用油脂等)、嗜好飲料(コーヒー、茶類、ジュース、乳飲料、豆乳等)、調味料(みそ、しょうゆ、砂糖、塩、グルタミン酸ナトリウム等)、甘味料、糖類、糖アルコール類、香料、色素、香辛料、酸味料、乳化剤、界面活性剤、保存料、日持向上剤、抗菌剤、崩壊剤、消泡剤、発泡剤、pH調整剤、増粘安定剤、食物繊維、栄養強化剤(ビタミン、ミネラル、アミノ酸類等)、エキス類、タンパク質、でんぷん類、ペプチド、アルコール類、有機溶剤、可塑剤、油脂、緩衝液、燃料、火薬・爆薬類、酸、アルカリ、イオン性物質、マイクロカプセル、美容成分(美白成分、保湿成分等)、生理活性物質、薬効成分、医薬品添加物、農薬、肥料、消臭剤、殺虫剤、金属類、触媒、セラミック、塗料、インク、顔料、研磨剤、合成高分子(プラスチック、ゴム、合成繊維等)、天然由来高分子(コラーゲン、ヒアルロン酸、天然繊維等)、紙などが配合されていても良い。
【0047】
本発明のゲル化剤やゲル状組成物は、比較的少量のゲル化剤の使用で大きいゲル破断強度を有し、かつ耐熱性に優れている。そのため、食品用途だけではなく、医薬医療品、化粧品、工業製品用途にも応用できる。
【0048】
応用できる食品の例としては、「プリン、ゼリー、ヨーグルトなどのデザート類」、「アイスクリーム、ソフトクリーム、シャーベットなどの冷菓」、「飲料、みつまめ、ヨーグルトなどにアクセント付けとして添加される具材」、「嚥下障害者用食品、介護食、きざみ食、とろみ食などのユニバーサルデザインフード」、「ゼリー状飲料」、「ソース、タレ、ドレッシング、マヨネーズなどの調味料」、「練りがらしに代表される各種練り調味料」、「麺類」、「フルーツソース、フルーツプレパレーション、ジャムに代表される果実加工品」、「食品に区分される流動食類」、「健康食品や栄養強化食品」、「茶碗蒸しや豆腐などのゲル状食品」、「かまぼこなどの練り製品」、「ソーセージ、ハムなどの畜肉食品」、「ホイップクリームなどの乳製品」、「惣菜・弁当類」、「通常飲料(コーヒー、茶類、アイソトニック飲料、牛乳、乳飲料、豆乳類、抹茶、ココア、しるこ、ジュースなど)として摂取されるもののゲル化物」、「ペットフード類」などがあげられる。なお、レトルト食品、冷凍食品、電子レンジ用食品等のように、形態または使用時調製の加工手法が異なっていてもよい。
【0049】
上述の例以外にも、本発明のゲル化剤を使用することによって、現在一般的に市場に流通していない新規な食品形態をも提供することが可能となる。新規な食品形態の例としては、卵の代わりにゲル化剤を使用した茶碗蒸し、プリン、マヨネーズなどの「新規なアレルゲン除去食品」、米の代わりに本ゲル化剤を使用したかゆ状食品などの「新規な低カロリー食品」、スープやみそしるなどをゲル化させ温めて摂取できる「食事代替チュアパック飲料」などがある。
【0050】
また、一般的な食品は、pH3〜8、食塩濃度0.01〜20%程度で提供されることが多く、食品用ゲル組成物には、これらの条件下でも機能を発現することが求められている。本発明のゲル化剤から得られたゲル状組成物は、このような条件下でも良好な耐熱性とゲル破断強度を示す。
【0051】
また、応用できる医薬医療品の例としては、「経口医薬品、ホルモン剤などの経鼻医薬品、経腸医薬品、外皮用薬、経皮医薬品などの医薬品類」、造影剤、「医薬品に区分される流動食類」、「薬用化粧品、ビタミン含有保健剤、毛髪用剤、薬用歯磨き剤、浴用剤、殺虫剤・防虫剤、腋臭防止剤、口内清涼剤などの医薬部外品」、「人工軟骨、薬物担体、DNA担体、生体用接着剤、創傷被覆材、人工臓器などの生体材料」、貼布剤、コーティング剤などがあげられる。
【0052】
また、応用できる化粧品の例としては、「美容成分含有ゲル状化粧料、パック、モイスチャークリーム、マッサージクリーム、コールドクリーム、クレンジングクリーム、洗顔料、バニシングクリーム、エモリエントクリーム、ハンドクリーム、日焼け止め用化粧料などの皮膚用化粧品」、「ファンデーション、口紅、リップクリーム、ほほ紅、サンスクリーン化粧料、まゆ墨、マスカラ等まつげ用化粧料、マニキュアや除光液等のつめ化粧料などの仕上用化粧品」、「シャンプー、ヘアリンス、ヘアトリートメント、ポマード、チック、ヘアクリーム、香油、整髪料、ヘアスタイリング剤、ヘアスプレー、染毛料、育毛剤や養毛剤などの頭髪用化粧品」、さらにはハンドクリーナーのような洗浄剤、浴用化粧品、ひげそり用化粧品、芳香剤、歯磨き剤、軟膏、貼布剤などがあげられる。
【0053】
また、応用できる工業製品の例としては、顔料、塗料、インク類、消臭・芳香剤、抗菌・防カビ剤、接着剤、コーティング剤、界面活性剤、「紙おむつなどの衛生材料」、「細胞、細菌、ウイルスなどの培養材料」、「電気泳動用ゲル、クロマトカラムあるいはその充填剤などの実験材料」、「土壌改良剤、植物栽培用保水材などの農業・園芸用品」、人工雪、ろ過材、洗剤、液体石けん、火薬・爆薬類、燃料などがあげられる。
【実施例1】
【0054】
次に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら具体的態様に限定されるものではない。なお、各種物性の測定は以下の方法により行った。
<セルロース性物質の平均重合度>
【0055】
ASTM Designation: D 1795−90「Standerd Test Method for Intrinsic Viscosity of Cellulose」に準じて行う。
<セルロース性物質のα−セルロース含有量>
【0056】
JIS P8101−1976(「溶解パルプ試験方法」5.5 αセルロース)に準じて行う。
<セルロース性物質の結晶化度>
【0057】
JIS K 0131−1996(「X線回折分析通則」)に規定されるX線回析装置で得られたX線回折図の回折強度値から、Segal法により算出したもので次式によって定義される。
結晶化度(%)={(Ic−Ia)/Ic}×100
(ここで、Ic:X線回析図の回折角2θ=22.5度での回折強度、Ia:同じく回析角2θ=18.5度付近のベースライン強度(極小値強度)である。)
<セルロース繊維(またはセルロース粒子)の形状(長径、短径、長径/短径比)>
【0058】
セルロース繊維(またはセルロース粒子)のサイズの範囲が広いので、一種類の顕微鏡で全てを観察することは不可能である。そこで、繊維(粒子)の大きさに応じて光学顕微鏡、走査型顕微鏡(中分解能SEM、高分解能SEM)を適宜選択し、以下のようにして観察し、写真撮影して測定する。
【0059】
光学顕微鏡を使用する場合は、固形分濃度が0.25質量%の水分散液となるようにサンプルと純水を量り取り、「エクセルオートホモジナイザー」(日本精機株式会社製)で、15000rpmで15分間分散したものを、適当な濃度に調整し、それをスライドガラスにのせ、さらにカバーグラスをのせて観察及び写真撮影を行う。
【0060】
また、中分解能SEM(JSM−5510LV、日本電子株式会社製)を使用する場合は、光学顕微鏡の場合と同じに調整したサンプル水分散液を試料台にのせ、風乾した後、Pt−Pdを約3nm蒸着してから、観察及び写真撮影を行う。
【0061】
高分解能SEM(S−5000、株式会社日立サイエンスシステムズ製)を使用する場合は、同様なサンプル水分散液を試料台にのせ、風乾した後、Pt−Pdを約1.5nm蒸着してから、観察及び写真撮影を行う。
【0062】
セルロース繊維(またはセルロース粒子)の長径、短径、長径/短径比は、撮影した写真から15本(個)以上の繊維を選択し、測定した。繊維はほぼまっすぐの形状のものや、髪の毛のようにカーブしている形状のものがあったが、糸くずのように丸まっているものはなかった。短径(太さ)は、繊維1本の中でもバラツキがあったが、複数箇所を測定して平均値を採用した。高分解能SEMは、短径が数nm〜200nm程度の繊維の観察時に使用したが、一本の繊維が長すぎて一つの視野に収まらなかった。そのため、視野を移動しつつ写真撮影を繰り返し、その後写真を合成して解析した。
<損失正接(=損失弾性率/貯蔵弾性率)>
(1)固形分濃度が0.5質量%の水分散液となるように試験サンプルと水とを量り取り、エースホモジナイザー(日本精機株式会社製、AM−T型)で、15000rpmで15分間分散する。
(2)続いて25℃の雰囲気中に3時間静置して試験サンプル液を得る。
(3)動的粘弾性測定装置に試験サンプル液を入れてから5分間静置後、下記の条件で測定し、周波数10rad/sにおける損失正接(tanδ)を求める。
装置 :ARES(100FRTN1型)
(Rheometric Scientific,Inc.製)
ジオメトリー:Double Wall Couette
温度 :25℃
歪み :10%(固定)
周波数 :1→100rad/s(約170秒かけて上昇させる)
<「水中で安定に懸濁する成分」の含有量>
【0063】
以下の(1)〜(5)または、(1)〜(2)及び(3’)〜(5’)より求める。
(1)ゲル化剤等の試験サンプルの固形分濃度が0.1質量%の水分散液となるように、試験サンプルと純水を量り取り、エースホモジナイザー(日本精機株式会社製、AM−T型)に投入して、15000rpmで15分間分散してサンプル液を調整する。
(2)サンプル液20gを遠沈管に入れ、遠心分離機にて1000Gで5分間遠心分離する。
(3)遠心分離により生じた上層の液体部分を取り除き、下層の沈降部分の質量a(g)を測定する。
(4)次いで、沈降部分を絶乾し、固形分の質量b(g)を測定する。
(5)下記の式を用いて「水中で安定に懸濁する成分」の含有率c(質量%)を算出する。
【0064】
c=5000×(k1+k2)
(ただし、k1:上層の液体部分に含まれる「微細繊維状のセルロース」の量、k2:下層の沈降部分に含まれる「微細繊維状のセルロース」の量、w1:上層の液体部分に含まれる水の量、w2:下層の沈降部分に含まれる水の量、s2:下層の沈降部分に含まれる「水溶性高分子+親水性物質」の量をそれぞれ意味する。)
【0065】
ここで、k1およびk2は下記の式を用いて算出して使用する。
k1=0.02−b+s2
k2=k1×w2/w1
【0066】
また、w1、w2、s2は以下の式で求める。なお、試験サンプルに配合された水溶性高分子と親水性物質の合計量:d(g)を、試験サンプルに配合されたセルロース成分の合計量:f(g)で除した比率を配合比率:d/fとする。
w1=19.98−a+b−0.02×d/f
w2=a−b
s2=0.02×(d/f)×w2/(w1+w2)
d/f=(水溶性高分子の配合量+親水性物質の配合量)/セルロースの配合量
【0067】
ところで、「水中で安定に懸濁する成分」の含有量が非常に多い場合は、沈降部分の重量が小さな値となるので、上記の方法では測定精度が低くなってしまう。その場合は、上記(3)以降の手順を以下のようにして行う。
(3’)上層の液体部分を取得し、質量a’(g)を測定する。
(4’)次いで、上層成分を絶乾し、固形分の質量b’(g)を測定する。
(5’)下記の式を用いて「水中で安定に懸濁する成分」の含有率c(質量%)を算出する。
c=5000×(k1+k2)
【0068】
これにおけるk1およびk2は下記の式を用いて算出して使用する。
k1=b’−s2×w1/w2
k2=k1×w2/w1
【0069】
また、w1、w2、s2は以下の式で求める。
w1=a’−b’
w2=19.98−a’+b’−0.02×d/f
s2=0.02×(d/f)×w2/(w1+w2)
【0070】
もし、(3)または(3’)の操作で上層の液体部分と沈降部分の境界が明瞭ではなく、分離が難しい場合は、適宜セルロース濃度を下げて同様な操作を行えばよい。
<ゲル状組成物の耐熱性>
(1)ゲル化剤だけを水に分散させた1質量%ゲル化剤分散液を試験サンプルとして用いる場合、または、ゲル化剤と具材等を水に分散させた液状組成物を試験サンプルとして用いる場合は、以下に示す粒子をそれぞれ添加して均一に混合し、内径約45mmの円筒状ガラス容器に高さ約45mmになるまで注入・充填する。
【0071】
1質量%ゲル化剤分散液とする場合は、粒子として紙製板状粒子(長径5mm、短径5mmの正方形、厚さ0.3mm)を用い、これを充填容器あたり20個添加する。また、液状組成物とする場合は、粒子として食品具材等を用い、これを充填容器あたり10個添加する。
(2)所定の条件で加熱処理(殺菌処理)する。ただし1質量%ゲル化剤分散液の場合は、90℃で1時間加熱する。
(3)加熱処理終了後、80℃で耐熱性ゲルの出来上がりを目視で確認し、液面に浮いている粒子数、底面に沈降している粒子数を数える。
(4)耐熱性の判定:(3)で数えた各粒子数をもとに、以下の式を用いて、固定化指標を求める。この固定化指標が70%以上であるときに、耐熱性があると判断する。
固定化指標(%)=〔α−(β+γ)〕/α×100(α:全粒子数、β:液面に浮いている粒子数、γ:底面に沈降している粒子数)
<ゲル状組成物のゲル破断強度>
(1)上記の1質量%ゲル化剤分散液、または上記の液状組成物を試験サンプルとして用い、内径約45mmの円筒状ガラス容器に、高さ約45mmになるまで注入・充填する。
(2)所定の条件でゲルを製造し、保存、加温(温調)する。
(3)ゲルを容器から取り出すことなくそのまま、以下の条件で測定する。
装置:RHEO METER(NRM−2002J型)(不動工業株式会社製)
押し込み治具:10mmφ球状治具
押し込み速度:20mm/min
測定温度:25℃、または50℃(参考)
<pH>
【0072】
ゲル化する前の、上記の液状組成物を試験サンプルとして使用して、pH計(東亜ディーケーケー株式会社製、「HM−50G形」)で測定した。
[実施例1]
【0073】
微細繊維状セルロース複合体αの製造:市販麦わらパルプ(平均重合度=930、α−セルロース含有量=68%)を、6×16mm角の矩形に裁断し、固形分濃度が77質量%になるように水を加えた。これを、水とパルプチップができるだけ分離しないよう注意して、カッターミル(インペラー回転数:3600rpm)に1回通してカッターミル処理品を得た。次に、セルロース濃度が2質量%、カルボキシメチルセルロース・ナトリウム(以下CMC−Naと言う)の濃度が0.118質量%になるように、カッターミル処理品とCMC−Naと水とを量り取り、これらを混合してから繊維の絡みがなくなるまで撹拌して水分散液を得た。
【0074】
得られた水分散液を、そのまま高圧ホモジナイザー(処理圧力100MPa)にかけ、8パスしてセルローススラリーαを得た。次に、固形分濃度が0.25質量%の水分散液となるように、このセルローススラリーαと純水とを量り取り、「エクセルオートホモジナイザー」(日本精機株式会社製)に投入して、15000rpmで15分間分散した。これを適当な濃度に調整して、光学顕微鏡または中分解能SEMで観察したところ、長径が10〜500μm、短径が1〜25μm、長径/短径比が5〜190の微細繊維状セルロースが観察された。また、微細繊維状セルロースの結晶化度は、73%以上だった。
【0075】
次いで、セルロース:CMC−Na:デキストリン:ナタネ油=64:17:18.7:0.3の質量比となるように、セルローススラリーαに、CMC−Na(1質量%水溶液粘度:約3400mPa・s)、デキストリン(DE:約28)、ナタネ油を添加し、この15kgを攪拌型ホモジナイザー(特殊機化工業株式会社製、T.K.AUTO HOMO MIXER)に投入して、8000rpmで10分間撹拌・混合した後、前述の高圧ホモジナイザーに投入し、20MPa条件で1パス処理し、これを「セルローススラリーα2」とした。これをドラムドライヤーにて乾燥し、スクレーパーで掻き取り、得られたものをカッターミル(不二パウダル株式会社製)で、目開き2mmの篩をほぼ全通する程度に粉砕し、微細繊維状セルロース複合体αを得た。
【0076】
微細繊維状セルロース複合体αの結晶化度は55%以上、損失正接は0.48、「水中で安定に懸濁する成分」は100質量%だった。光学顕微鏡にて観察したところ、長径が10〜800μm、短径が1〜25μm、長径/短径比が5〜200の繊維状のセルロースが観察された。また、「水中で安定に懸濁する成分」を高分解能SEMで観察したところ、長径が0.5〜10μm、短径が20〜100nm、長径/短径比が15〜200のきわめて微細な繊維状のセルロースが観察された。
【0077】
次に、以下の(1)から(8)に従って、ゲル化剤とゲル状組成物を得て評価した。
(1)第1成分として上記の微細繊維状セルロース複合体αを、第2成分としてグルコマンナン(清水化学株式会社製、微粒子タイプ)を、第3成分としてキサンタンガム(大日本製薬株式会社製)を、第1成分:第2成分:第3成分=50:35:15の質量比で混合し、ゲル化剤aとした。
(2)ゲル化剤aの濃度が1質量%となるように、25℃の水に添加し、約11000rpmの家庭用ミキサー(サンヨー株式会社製)で5分間分散してゲル化剤分散液を得た。分散により温度が約8℃上昇した。
(3)このゲル化剤分散液を、内径約45mmの耐熱性の円筒状ガラス容器に、高さ約45mmになるまで注入・充填した。
(4)これを90℃で1時間加熱処理し、加熱処理後に25℃で2時間保存したものを耐熱性ゲルA(25℃)とし、加熱処理後に50℃で2時間保存したものを耐熱性ゲルA(50℃)とした。
(5)耐熱性ゲルA(25℃)と耐熱性ゲルA(50℃)のゲル破断強度を、以下の条件で測定した。結果を表1に示す。高いゲル破断強度を示した。
装置:RHEO METER(NRM−2002J型)(不動工業株式会社製)
押し込み治具:10mmφ球状治具
押し込み速度:20mm/min
測定温度:25℃および50℃
(6)次に、固定化指標を求めた。上記(1)〜(2)と同様の方法で1質量%のゲル化剤分散液を用意し、さらに紙製板状粒子(長径5mm、短径5mmの正方形、厚さ0.3mm、比重0.94)を複数個添加して、スパチュラでよく混合した。
(7)紙製板状粒子が充填容器あたり20個入るように、上記(3)と同様にして充填・密封し、上記(4)と同様の条件で加熱処理した。
(8)加熱処理終了後、80℃になった時点で、沈降または浮き上がった紙製板状粒子の数を数え、固定化指標を求めて耐熱性を評価した。結果を表1に示す。固定化指標は高い値を示し、高い耐熱性を示した。
[実施例2]
【0078】
第1成分である実施例1の微細繊維状セルロース複合体αと、第2成分である実施例1のグルコマンナンと、第3成分である実施例1のキサンタンガムを、第1成分:第2成分:第3成分=40:40:20の質量比で混合し、ゲル化剤bとした。
【0079】
次に、ゲル化剤bの濃度が1質量%となるように、実施例1と同様の方法でゲル化剤分散液を調製した。分散により温度が8℃上昇した。このゲル化剤分散液を使用して、実施例1と同様の方法で充填・加熱処理を行った。さらに実施例1と同様の条件で保存して、耐熱性ゲルB(25℃)と耐熱性ゲルB(50℃)を得た。実施例1と同様の方法で測定した評価結果を表1に示す。いずれの物性も良好であった。
[実施例3]
【0080】
第1成分である実施例1の微細繊維状セルロース複合体αと、第2成分である実施例1のグルコマンナンと、第3成分である実施例1のキサンタンガムを、第1成分:第2成分:第3成分=35:50:15の質量比で混合し、ゲル化剤cとした。
ゲル化剤cの濃度が1質量%となるように、実施例1と同様の方法でゲル化剤分散液を調製した。分散により温度が8℃上昇した。このゲル化剤分散液を使用して、実施例1と同様の方法で充填・加熱処理を行った。さらに実施例1と同様の条件で保存して、耐熱性ゲルC(25℃)と耐熱性ゲルC(50℃)を得た。実施例1と同様の方法で測定した評価結果を表1に示す。ゲル破断強度はより良好な結果となった。
[実施例4]
【0081】
第1成分である実施例1の微細繊維状セルロース複合体αと、第2成分であるローカストビーンガム(ユニテックフーズ株式会社製)と、第3成分である実施例1のキサンタンガムを、第1成分:第2成分:第3成分=50:40:10の質量比で混合し、ゲル化剤dとした。
【0082】
ゲル化剤dの濃度が1質量%となるように、実施例1と同様の方法でゲル化剤分散液を調製した。分散により温度が7℃上昇した。このゲル化剤分散液を使用して、実施例1と同様の方法で充填・加熱処理を行った。さらに実施例1と同様の条件で保存して、耐熱性ゲルD(25℃)と耐熱性ゲルD(50℃)を得た。実施例1と同様の方法で測定した評価結果を表2に示す。優れた耐熱性を示した。
[実施例5]
【0083】
第1成分である実施例1の微細繊維状セルロース複合体αと、第2成分である実施例4のローカストビーンガムと、第3成分である実施例1のキサンタンガムを、第1成分:第2成分:第3成分=35:50:15の質量比で混合し、ゲル化剤eとした。
【0084】
ゲル化剤eの濃度が1質量%となるように、実施例1と同様の方法でゲル化剤分散液を調製した。分散により温度が7℃上昇した。このゲル化剤分散液を使用して、実施例1と同様の方法で充填・加熱処理を行った。さらに実施例1と同様の条件で保存して、耐熱性ゲルE(25℃)と耐熱性ゲルE(50℃)を得た。実施例1と同様の方法で測定した評価結果を表2に示す。
[実施例6]
【0085】
第1成分である実施例1の微細繊維状セルロース複合体αと、第2成分である実施例1のグルコマンナンと、第3成分である実施例1のキサンタンガムを、第1成分:第2成分:第3成分=50:40:10の質量比で混合し、ゲル化剤fとした。このゲル化剤fを配合して、以下の手順でコーンスープゲルFを製造し、評価した。
(1)50℃の水88.6質量%に、ゲル化剤fを0.4質量%添加し、実施例1で使用した家庭用ミキサーで3分間分散した。さらに固形分換算で11質量%の多糖類を含有しない市販乾燥スープ(株式会社ポッカコーポレーション製、浮き身を取り除いたもの)を添加して、プロペラ攪拌翼で、さらに2分間分散したところ、温度が8℃上昇した。さらにとうもろこし粒子(長径10mm、短径8mm、厚み5mm、冷凍品を解凍したもの)を添加して、スパチュラで混合した。この液状組成物のpHは6.8、食塩濃度は0.73質量%であった。
(2)充填容器あたりとうもろこし粒子が10粒入るように、実施例1と同じ容器に同じ高さまで充填し、実施例1と同じレトルト殺菌機で、121℃で30分間、加熱処理(殺菌処理)した。
(3)殺菌処理後、80℃になった時点で、沈降したか又は浮上した粒子の数を数えた。
(4)引き続いて(3)のサンプルを25℃で24時間保存し、コーンスープゲルF(25℃)を得た。また、別の(3)のサンプルを25℃で23時間保存後、50℃で1時間保温し、コーンスープゲルF(50℃)を得た。実施例1と同様の方法で、ゲル破断強度と温食温度における安定性を評価した結果を、表3に示す。良好な耐熱性、ゲル破断強度を示した。また、コーンスープゲルF(50℃)を食したところ、糊状感がなく、フレーバーリリースも良好であった。
[実施例7]
【0086】
実施例1で使用したゲル化剤aを配合して、以下の手順でアイソトニックゼリーGを製造し、評価した。
(1)10℃の水91.6質量%に、ゲル化剤aを1質量%添加し、実施例1で使用した家庭用ミキサーで5分間分散した。さらに7.4質量%の粉末清涼飲料(大塚製薬株式会社製)を添加して、さらにプロペラ攪拌翼により2分間分散したところ、温度が10℃上昇した。この液状組成物は、pH3.5であり、ナトリウム520ppm、カリウム227ppm、カルシウム23ppm、マグネシウム6ppmを含有していた。さらに黄桃(5mm角に缶詰製品をカットしたもの)を添加して、スパチュラで混合した。
(2)充填容器あたり黄桃粒子が10粒入るように、実施例1と同じ容器に同じ高さまで充填し、90℃で1時間、加熱処理した。
(3)殺菌処理後80℃になった時点で、沈降したか又は浮上した粒子の数を数えた。
(4)引き続いて(3)で得たサンプルを25℃で24時間保存し、アイソトニックゼリーG(25℃)を得た。これを実施例1と同様の方法で評価した結果を、表4に示す。また、(3)で得た他のサンプルを25℃で23時間保存し、続いて5℃で1時間保温して、アイソトニックゼリーG(5℃)を得た。アイソトニックゼリーG(5℃)を5℃の状態で食したところ、糊状感がなく、フレーバーリリースも良好であった。
(5)また、(1)の液状組成物をレトルトパウチに充填し、(2)と同様の条件で加熱処理して、チュアパック飲料様のものを製造した。25℃で23時間保存後、5℃で1時間温調し、パウチにストローを差し込んで吸ったところ、スムーズに吸引可能であり、糊状感もなく、フレーバーリリースも良好であった。
[比較例1]
【0087】
実施例1に記載の、第1成分である微細繊維状セルロース複合体αと、第2成分のグルコマンナンを、第1成分:第2成分=70:30の質量比で混合し、ゲル化剤gとした。実施例1のゲル化剤aの代わりに、このゲル化剤gを使用して、実施例1と同様の方法で、耐熱性ゲルH(25℃)と、耐熱性ゲルH(50℃)を製造・保存し、評価した結果を表1に示す。また分散によるゲル化剤分散液の温度上昇は10℃であった。耐熱性は良好であったが、ゲル破断強度が低すぎる結果となった。
[比較例2]
【0088】
実施例1に記載の第2成分であるグルコマンナンと、第3成分であるキサンタンガムを、第2成分:第3成分=50:50の質量比で混合し、ゲル化剤hとした。実施例1のゲル化剤aの代わりに、このゲル化剤hを使用して、実施例1と同様の方法で、耐熱性ゲルI(25℃)と、耐熱性ゲルI(50℃)を製造・保存し、評価した結果を表1に示す。また分散によるゲル化剤分散液の温度上昇は10℃であった。全く耐熱性がない結果となった。
[比較例3]
【0089】
実施例1に記載の第2成分であるグルコマンナンと、第3成分であるキサンタンガムを、第2成分:第3成分=70:30の質量比で混合し、ゲル化剤iとした。実施例1のゲル化剤aの代わりに、このゲル化剤iを使用して、実施例1と同様の方法で、耐熱性ゲルJ(25℃)と、耐熱性ゲルJ(50℃)を製造・保存し、評価した結果を表1に示す。また分散によるゲル化剤分散液の温度上昇は10℃であった。
[比較例4]
【0090】
実施例1(a)に記載の、第1成分である微細繊維状セルロース複合体αと、第2成分として実施例4記載のローカストビーンガムを、第1成分:第2成分=50:50の質量比で混合し、ゲル化剤jとした。実施例4のゲル化剤dの代わりに、このゲル化剤jを使用して、実施例4と同様の方法で、耐熱性ゲルK(25℃)と、耐熱性ゲルK(50℃)を製造・保存し、評価した結果を表2に示す。また分散によるゲル化剤分散液の温度上昇は8℃であった。耐熱性判定はかろうじて「○」であったが、ゲル破断強度が著しく低かった。
[比較例5]
【0091】
実施例4に記載の第2成分であるローカストビーンガムと、第3成分であるキサンタンガムを、第2成分:第3成分=50:50の質量比で混合し、ゲル化剤kとした。実施例4のゲル化剤dの代わりに、このゲル化剤kを使用して、実施例4と同様の方法で、耐熱性ゲルL(25℃)と、耐熱性ゲルL(50℃)を製造・保存し、評価した結果を表2に示す。また分散によるゲル化剤分散液の温度上昇は7℃であった。
[比較例6]
【0092】
実施例4に記載の第2成分であるローカストビーンガムと、第3成分であるキサンタンガムを、第2成分:第3成分=70:30の質量比で混合し、ゲル化剤lとした。実施例4のゲル化剤dの代わりに、このゲル化剤lを使用して、実施例4と同様の方法で、耐熱性ゲルM(25℃)と、耐熱性ゲルM(50℃)を製造・保存し、評価した結果を表2に示す。また分散によるゲル化剤分散液の温度上昇は7℃であった。
[比較例7]
【0093】
実施例6で使用したゲル化剤fの代わりに、比較例1で使用したゲル化剤gを配合して、実施例6と同様の手順で、コーンスープゲルNを製造した。実施例1と同様の方法で、コーンスープゲルNのゲル破断強度と温食温度における安定性を評価した結果を、表3に示す。
[比較例8]
【0094】
実施例1に記載の第2成分であるグルコマンナンと、第3成分であるキサンタンガムを、第2成分:第3成分=60:40の質量比で混合し、ゲル化剤mとした。実施例6で使用したゲル化剤fの代わりに、ゲル化剤mを配合して、実施例6と同様の手順で、コーンスープゲルOを製造し、評価した。実施例6と同様の方法で、コーンスープゲルOのゲル破断強度と温食温度における安定性を評価した結果を、表3に示す。
[比較例9]
【0095】
実施例7のゲル化剤aの代わりに、比較例1で使用したゲル化剤gを配合して、実施例7と同様の手順でアイソトニックゼリーPを製造し、評価した。実施例7と同様の方法で、アイソトニックゼリーPのゲル破断強度と温食温度における安定性を評価した結果を、表4に示す。
[比較例10]
【0096】
実施例7のゲル化剤aの代わりに、比較例3で使用したゲル化剤iを配合して、実施例7と同様の手順でアイソトニックゼリーQを製造し、評価した。実施例7と同様の方法で、アイソトニックゼリーQのゲル破断強度と温食温度における安定性を評価した結果を、表4に示す。
【0097】
【表1】

【0098】
【表2】

【0099】
【表3】

【0100】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細繊維状セルロース50〜95質量%と水溶性高分子または親水性物質とを5〜50質量%含む微細繊維状セルロース複合体と、グルコマンナン、ガラクトマンナン、アルギン酸類からなる群より選択される多糖類と、キサンタンガムとを含むゲル化剤。
【請求項2】
前記の微細繊維状セルロース複合体が、微細繊維状セルロース50〜94質量%と、水溶性高分子3〜47質量%と、親水性物質3〜47質量%とを含んでなり、かつ前記微細繊維状セルロースが結晶性であることを特徴とする請求項1記載のゲル化剤。
【請求項3】
前記の多糖類が、グルコマンナンであることを特徴とする請求項1または2記載のゲル化剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のゲル化剤から得られたゲル状組成物。