説明

ゲル状の遺体保存安定剤

【課題】防腐効果の持続性を高めて、遺体周囲の汚染などを引き起こす液垂れを防止する遺体保存安定剤を提供する。
【解決手段】ホルムアルデヒド1%以下と、フェノール5%以下と、イソプロピルアルコール30%と、グリセリン5%と、を含有するゲル状の遺体保存安定剤によって、遺体の修復及び防腐を主目的とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺体に塗布、充填又は包埋され、遺体の修復及び防腐を主目的とするゲル状の遺体保存安定剤に関する。
【背景技術】
【0002】
人体(生体、遺体)に塗布等されるもののうち、生体用製品は、生体に対する安全性を最優先し、生体反応や生体機能を利用して効果を発揮することができるため、そのまま遺体に用いても遺体への効果は非常に低いことが知見されている。
【0003】
例えば、生体では見られない腐敗(バクテリアによる組織の破壊)は、遺体では必ず発生するため、遺体に対しては積極的な腐敗対策を講じる必要があるが、生体用製品には積極的な防腐効果はないことから、防腐効果を有する遺体専用の製品を必要とする。
【0004】
また、遺体では組織の破壊が起こるため、遺体に対しては積極的な組織固定対策を講じる必要があるが、生体用製品には積極的な組織固定効果はないことから、組織固定効果を有する遺体専用の製品を必要とする。
【0005】
すなわち、生体には生体用製品が必要であり、遺体には遺体用製品が必要とされるが、生体用製品は多くの物が認可され使用されている一方で、遺体用製品は少ないのが現状である。また、生体用製品を遺体に使用することも可能ではあるが、前述したようにその作用機能が全く異なり、目的も異なることから、効果は非常に低い。
【0006】
このような中、本願出願人は、遺体の腐敗を防止する防腐液を遺体に注入することによって、遺体の保存・修復を可能にする処置方法を提案した(特許文献1参照)。
【0007】
【特許文献1】特開2005−350382号公報(段落0012)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示される防腐液にみられるように、従来の遺体用製品は液体状のものであるため、蒸発によって効果の持続性が小さいという問題がある。特に、防腐効果のあるホルマリンやアルコールは揮発性物質であるため、容易に蒸発しやすく、さらに効果の持続性が小さいという問題がある。
【0009】
また、液体状の遺体用製品は、液垂れ等による遺体周囲の汚染などの悪影響を及ぼすという問題がある。
【0010】
また、長期入院患者や寝たきり状態が続いた遺体には、臀部や背部にじょくそう(床ずれ)が非常に多くみられるが、死後はこれらの部位に対してガーゼが貼られる程度の処置であり、これらの部位から発生する臭気や液垂れに対する対策は行われることなく、遺体から悪臭が発生するという問題がある。
【0011】
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、その目的は、防腐効果の持続性を高めて、遺体周囲の汚染などを引き起こす液垂れを防止する遺体保存安定剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以上のような課題を解決するために、本発明は、ホルムアルデヒドと、フェノールと、イソプロピルアルコールと、グリセリンと、を含有するゲル状の遺体保存安定剤によって、遺体の修復及び防腐を主目的とする。
【0013】
より具体的には、本発明は、以下のものを提供する。
【0014】
(1) 遺体の修復及び防腐を主目的とするゲル状の遺体保存安定剤であって、ホルムアルデヒドと、フェノールと、イソプロピルアルコールと、グリセリンと、を含有するゲル状の遺体保存安定剤。
【0015】
本発明によれば、CDC、WHO、厚生労働省をはじめとして国際的に医学で認められた消毒剤と防腐剤とを含むゲル状の遺体保存安定剤によって、病原性の細菌やウイルスをはじめとした殆どの微生物に対して医学的効果を発揮することができる。
【0016】
すなわち、防腐効果及び固定効果を有するホルマリンを含有することから、強い蛋白質固定効果により蛋白質を安定化し、浸透圧効果により組織を収縮させ、病原菌やウイルスの活動を抑制し、数日間腐敗を防止することができる。また、腐敗や浮腫により膨張した顔や組織を収縮し、変化前の顔貌へ修復することができる。また、薬理作用により腐敗や病変等で変色した組織の漂白を行い、変色部位(しみ・あざ)を除去することができる。また、創部からの出血を阻止することができる。
【0017】
また、殺菌効果、防腐効果、防カビ効果及び酸化防止効果を有するフェノールを含有し、保湿効果及び湿潤効果を有するグリセリンを含有している。
【0018】
特に、粘性のあるグリセリンによるゲル化によって、液体状のものに比べて、防腐効果や組織の固定効果の持続性を向上させることができる。すなわち、液体状のものは、有効成分の揮発と液体の蒸散が発生するために持続性は低いが、本発明では半固体のゲル状にすることで、有効成分の揮発を抑制し、液体状に比べて蒸散が非常に遅くなるため、効果の持続性を大きく改善することができ、長時間の持続作用を生むことができる。また、液体状であれば液垂れ等により遺体周囲の汚染や悪影響もみられるが、本発明ではゲル化することで、流動性が非常に低くなることから、遺体皮膚との密着性が高まり、遺体周囲の汚染や悪影響を最小限に留めることができる。
【0019】
さらに、本発明によれば、強い防腐効果を有することから、遺体自体の腐敗を防止する効果に加えて、遺体の創部や損傷部位、変化部位に対しての悪化を停止させ、組織を固定することにより、これらの部位の修復や化粧等を容易に行うことが可能となる。その結果、遺体の管理を容易に行うことができる。特に、結核や新興性の呼吸器系感染症等を持ち、2次感染の可能性のある遺体に関しては、口腔内や鼻腔内に遺体保存安定剤を充填又は塗布することにより、残存する病原性微生物を含む殆どの微生物を消毒又は不活性させることができるので、公衆衛生学的に安全な状態へと遺体を保つことが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明によれば、有効成分の揮発や蒸散を抑えることのできるゲル状の遺体保存安定剤によって、防腐効果の持続性を高めて、遺体周囲の汚染などを引き起こす液垂れを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
防腐効果のある液としては、例えば、Adibalm,Aditone,Agiglo,Glo-Tone,Hi-tone,Hi-Form,Cavity-N,Firmatone,Fume-Less,H-A-R,Jaundextone,Specialist,Cavity 48,Omega Decomp Factor,New Era Gel,New Era Embalming Powder(以上、CHAMPION社製品)や、 ORA-SPRAY,DURA-CAV,HEXYCARBOSOL,PARAFORM POWDER(以上、(株)サンシール社製品)や、その他の供給メーカとして、PEER,EPIC,MING,CIRCOL,CIRTAN,LITHOL,LEAF,CLAF,INSTANT,ESCO SPECIAL,POWE PLAY,COMPO HARD,POLAR,EPOCA,EPIC CAVITY,CAVREX,ESCO SPECIAL CAVITY,COMPO CAVITY,COMPO NON-IRRITANT,CADISOL,BRUISE BLEACH,CADISOL GEL,EDEMA PRO,FLEX,FOR-JEY,SOFT-SKIN,SLICK,HEXAPHENE MA,REX 36,TEEN X,FIRM-TEX,TEEN 20,SPECIAL CAVITY,ACT CAVITY,RUBIN-X,HEXYETHYLPHENOFORM,TINTING SPRAYや、その他の薬品メーカとして、PLASDOPAKE,CHROMATECH,0CHROMATECH PINK,METASYN,INTROFIANT,PERMAGLO,JAUNDOFIANT,METAFLOW,RECTIFIANT,RESTORATIVE,EDEMACO,PERMAFLOW V-2,PARMA-CO,ICTERINE,INR-TONE,DRI CAV,SPECTRUM,METAFIX,SYNCAV,MYLOFIX,PERMAFIX,FARMACAV FIFTY,DE-CE-CO,SYNGEL,DIS-SPRAY,DRYENES,ACTION,FORMALDEGONEなどが挙げられる。また、固定効果のある液としては、Davidson固定液、リリー固定液、中性緩衝ホルマリン液、パラホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド液、ホルマリン液、ザンボン液、PLP固定液、ツェンカー、オルト、アルコール、パパニコロウ、カルノワ、ブアン、オスミウムといった医学的・理化学的な固定液が挙げられる。
【0022】
特に、防腐液中のホルムアルデヒドの濃度を1%以下とし、かつ、フェノールの濃度を5%以下とすることで、医療知識をもたない一般公衆であっても、毒物劇物取締法に触れることなく、遺体の腐敗防止処置を施すことができる。その他、好ましくは、イソプロピルアルコールを30%、グリセリンを5%含有してなる。
【0023】
なお、使用される遺体保存安定剤は、例えば遺体の腐敗ないし脂肪融解防止能を有する遺体保存防腐液を広く包含する。好ましい遺体保存安定剤は、少なくとも1種の脂肪族アルデヒド、少なくとも1種の低級アルカノール及び水の3成分を必須成分として含有する。
【0024】
脂肪族アルデヒドとしては、好ましくは脂肪族モノアルデヒド及び脂肪族ジアルデヒドからなる群から選択される。脂肪族アルデヒドは、例えば蛋白架橋能を有し、遺体の固定を行うための成分である。脂肪族モノアルデヒドとしては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド或いはホルマリン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、バレルアルデヒド、イソバレルアルデヒド、グリオキシル酸(HOOC-CHO)、アクロレインなどの直鎖又は分枝を有する炭素数1〜5のモノアルデヒドが挙げられる。
【0025】
脂肪族ジアルデヒドとしては、グリオキサール、マロンアルデヒド、スクシンアルデヒド、グルタルアルデヒド、アジプアルデヒドなどの直鎖又は分枝を有する炭素数2〜6のジアルデヒドが挙げられる。好ましい脂肪族アルデヒドとしては、グルタルアルデヒドおよびホルムアルデヒドが挙げられる。
【0026】
低級アルカノールとしては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソプロパノール、tert-ブタノールなどの炭素数1〜4の直鎖又は分枝を有するアルカノールが挙げられる。好ましいアルカノールはメタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノールが挙げられ、特にエタノールが好ましい。
【実施例1】
【0027】
[事例1] 交通事故で顔の擦過傷部位と裂傷部位より出血や出液のある遺体に対し、創部にゲル状の遺体保存安定剤を塗布したところ、出血と出液が停止し、修復と化粧を行うことができた。このように、創部、表皮剥奪部等に塗布することで、塗布部位が物理的に固定化され、創部や表皮膚剥奪部分の組織を固定するため、これらに部位の症状や変化を最小限に留めることができる。また、創部等からの出血や体液の漏出を最小限にすることができる。
【0028】
[事例2] 遺体の臀部にみられたじょくそう部位(床ずれ部位)にゲル状の遺体保存安定剤を塗布したところ、じょくそうにより崩壊した組織を固定化して原因細菌を消毒し、膿や出液の発生を停止させた。また、じょくそう部位より発生していた悪臭がなくなった。このように、潰瘍患部部位の変性・変形組織を固定化し、修復処置の下地を固定化する。また、強い蛋白質固定効果や消毒効果により、褥創部位等の広範囲な潰瘍部位を安定化し、死後変化による腐敗や悪臭の発生を停止することができる。
【0029】
[事例3] 蜂窩織炎により炎症部位の組織が変化し、変色等が発生している遺体の炎症部位にゲル状の遺体保存安定剤を塗布したところ、30分後には炎症部位の変色が抑えられ、炎症組織が固定化され、原因細菌が消毒された。その結果、変色の進行を停止させた。このように、表皮又は表皮直下の浅い変色に対しては脱色効果があり、漂白化することができる。
【0030】
[事例4] 腐敗による変化が発生した遺体にゲル状の遺体保存安定剤を塗布したところ、腐敗により膨潤した組織は収縮し、腐敗部位より漏出していた滲出液の発生が停止した。また、腐敗部位の変色は固定化され、腐敗臭気の発生もなくなった。そのため、これらの腐敗部位への化粧が可能となった。
【0031】
[事例5] 表皮剥奪のみられる遺体の真皮部位にゲル状の遺体保存安定剤を塗布したところ、通常では化粧の困難な真皮が固定化されることにより、簡便に化粧が可能となった。
【0032】
[事例6] 遺体の歯槽膿漏部位にゲル状の遺体保存安定剤を塗布したところ、歯槽膿漏部位からの臭気の発生が停止した。このように、強い蛋白質固定効果と消毒効果により、蛋白質の分解と微生物の生息を停止し、新たな蛋白質分解に伴う臭気の発生を停止する。また、芳香族を含有する成分により、マスキング効果もある。
【0033】
[事例7] 鼻腔内にゲル状の遺体保存安定剤を充填したところ、鼻出血が停止し、臭気の発生も停止した。このように、口腔、鼻腔粘膜等からの出血に対し、出血部位の蛋白質固定を行うことで、出血を停止する効果がある。
【0034】
[事例8] 遺体の人工肛門の開口部にゲル状の遺体保存安定剤を塗布し、さらに、ゲル状の遺体保存安定剤を塗布した綿花を腸内に挿入したところ、人工肛門部は固定し腐敗等の死後変化の発生を防止できた。また、人工肛門部位からの臭気の発生を防止できた。
【0035】
[事例9] 解剖が実施された遺体の解剖部位にゲル状の遺体保存安定剤を塗布したところ、切開部位や縫合部位からの漏血や漏液が大幅に減少した。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明に係るゲル状の遺体保存安定剤は、有効成分の揮発や蒸散を抑えることのでき、防腐効果の持続性を高めて、遺体周囲の汚染などを引き起こす液垂れを防止することが可能なものとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺体の修復及び防腐を主目的とするゲル状の遺体保存安定剤であって、
ホルムアルデヒドと、フェノールと、イソプロピルアルコールと、グリセリンと、を含有するゲル状の遺体保存安定剤。