説明

ゲル状組成物の製造方法

【課題】水溶性物質、例えば、水溶性の薬剤などの有効成分を高濃度で含み、かつ水溶性物質および増粘多糖類が均一に分散・溶解し、ダマおよび塊状物質が生じない均質なゲル状組成物の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、水溶性物質を5質量%以上含むゲル状組成物の製造方法を提供し、該方法は、(A)増粘多糖類と、低分子糖類とを混合して増粘多糖類溶液を得る工程であって、該増粘多糖類1質量部に対して、該低分子糖類が3質量部以上となるように予め混合する工程、および(B)該増粘多糖類溶液に、該水溶性物質を最終濃度が5質量%以上となるように添加して、増粘多糖類と水溶性物質とを含む溶液を得る工程を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル状組成物の製造方法に関する。より詳細には、水溶性物質を高濃度で含み、かつダマまたは塊状物質を生じないゲル状組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼリーなどのゲル状組成物は、喉への付着が少なく、さらには粉末、液体などのように飛散しにくいため取扱い性に優れる点で、食品または医薬の分野で幅広く利用されている。
【0003】
例えば、腎不全の患者は、水分の排泄が困難であるため、日常の水分摂取量が制限される。そのため、摂取すべき薬剤または食品をゲル状組成物にして摂取することによって、飲料水なしで摂取でき、かつ過剰な水分摂取量を抑制することができる。
【0004】
また、嚥下困難者(特に高齢者)は、水、茶などの液体の大量摂取が困難である一方、喉への付着性が高い固形物の摂取も困難である。そのため、嚥下困難者でも普通に摂取できるように、食品を喉への付着性が少ないゲル状組成物に調製することが有効である。例えば、特許文献1には、嚥下障害患者が安全に嚥下でき、かつ整腸効果を発揮する飲料として、蓋のできる吸い口を有する柔軟性容器に充填され、水溶性食物繊維を含有するゼリー様飲料が開示されている。特許文献2には、嚥下機能が低下した高齢者の口腔内衛生の維持・改善を目的として、ポリフェノール類および増粘多糖類を含有し、pHが4.6以下であり、5メッシュの篩に通したときの固さが5×10N/m以下であることを特徴とするゲル状食品が開示されている。
【0005】
ところで、上述のように、腎不全患者、あるいは嚥下困難者(高齢者)が、薬剤などの有効成分を含むゲル状組成物を摂取する場合、その摂取量は少量であることが好ましい。例えば、透析患者、つまり、血液透析患者または腹膜透析患者は、水分摂取量が少ないことが望まれる。嚥下困難者は、摂取量が多いと喉につまらせて、窒息する可能性がある。そのため、薬剤などの有効成分を高濃度で含むゲル状組成物が必要とされている。このようなゲル状組成物として、例えば、透析患者に不足しがちなカルニチンを摂取させる目的で、ゼリー1g中に21.7mgのカルニチンを含むポーションタイプのゼリーが報告されている。しかし、このゼリー中のカルニチン濃度は2.17質量%であり、カルニチンを十分量摂取するには大量のゼリーの摂取を要するので、ゲル状組成物中の有効成分濃度としては十分ではない。さらに、ポーションタイプはフタが開けにくく、全量摂取しにくい(カップ底に食べ残しを生じやすい)という欠点もある。
【0006】
一般に、水溶性物質(例えば、水溶性の薬剤)などの有効成分を高濃度で含むゲル状組成物を製造する場合、有効成分または増粘多糖類の種類によっては、製造工程において粉を内側に含むダマを生じ得、あるいはそのダマがダマの形状のまま水を吸収してゲル化し、例えば、タピオカなどのような塊状物質となり得る。これらのダマおよび塊状物質の発生は、均一濃度で成分を含む均質な製品の提供には適さない。また、ダマおよび塊状物質が製品に含まれると、製品を摂取した場合にむせて呼吸困難を引き起こす、あるいは誤って気管に入るなどの問題を生じ得る。さらに、容器への充填も困難にする。しかし、これまでは、有効成分を高濃度で含み、かつダマおよび塊状物質を生じないゲル状組成物の製造は困難であった。
【特許文献1】特開2002−272391号公報
【特許文献2】特開平7−274915号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、水溶性物質(例えば、水溶性の薬剤)を高濃度で、例えば、5質量%以上含むゲル状組成物の製造において、水溶性物質および増粘多糖類が均一に分散・溶解し、ダマおよび塊状物質が生じない均質なゲル状組成物の製造方法を提供することにある。本発明の目的はまた、開封および摂取し易い取扱い性に優れた、水溶性物質を高濃度で含む均質なゲル状組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、水溶性物質を高濃度で含むゲル状組成物を得るに際して、製造工程中でダマ、あるいはダマがゲル化した塊状物質を生じない製造方法について鋭意検討を行った。その結果、増粘多糖類に、予め特定の割合で低分子糖類を混合した後、この混合物を、攪拌中の大量の水に少量ずつ加えて分散させ、時間をおいて増粘多糖類溶液とし、そしてこの増粘多糖類溶液に水溶性物質を所定量添加することによって、ダマまたは塊状物質を生じず、均一に分散・溶解された、適度の粘弾性を有する溶液が得られることを見出した。さらに、得られる増粘多糖類と水溶性物質とを含む溶液は、ダマまたは塊状物質を生じないため、小容量のスティック状の三方シールに容易に充填できること、これによって、取扱い性に優れ、かつ喉のつまりが少ない、薬剤などの有効成分が均一な少量摂取用のゲル状組成物が提供できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、水溶性物質を5質量%以上含むゲル状組成物の製造方法を提供し、該方法は、(A)増粘多糖類と、低分子糖類とを混合して増粘多糖類溶液を得る工程であって、該増粘多糖類1質量部に対して、該低分子糖類が3質量部以上となるように混合する、工程、および(B)該増粘多糖類溶液に、該水溶性物質を最終濃度が5質量%以上となるように添加して、増粘多糖類と水溶性物質とを含む溶液を得る工程を包含する。
【0010】
ある実施態様においては、さらに、(C)上記増粘多糖類と水溶性物質とを含む溶液を、スティック状の三方シールに充填する工程を包含する。
【0011】
ある実施態様においては、上記水溶性物質は、カルニチン、シャンピニオン、グルコサミン類またはその塩、コンドロイチン硫酸またはその塩、およびヘパリン類またはその塩からなる群より選択される少なくとも1種である。
【0012】
ある実施態様においては、上記増粘多糖類は、グルコマンナン、グアガム、ローカストビーンガム、タマリンドガム、カラギナン、キサンタンガム、アラビアガム、カラヤガム、ペクチン、寒天、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ジェランガム、プルラン、およびカードランからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0013】
ある実施態様においては、上記工程(B)において、上記水溶性物質を添加した後に、さらに、増粘多糖類を添加する工程を包含する。
【0014】
ある実施態様においては、上記水溶性物質は、ゲル状組成物中に7質量%以上含まれる。
【0015】
本発明はまた、上記の方法により得られる、水溶性物質を5質量%以上含むゲル状組成物を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明のゲル状組成物の製造方法によれば、水溶性物質を5質量%以上含むゲル状組成物の製造において、ダマ、あるいはダマがゲル化した塊状物質を生じずに、水溶性物質と増粘多糖類とを均一に分散・溶解させることが可能である。したがって、少量摂取で水溶性物質(有効成分)の必要量を摂取でき、かつ均質なゲル状組成物を提供することができる。また、充填に際して、ダマによる液の溢れがなく、充填ノズルの目詰まりも少ない。その結果、小容量の容器(スティック状の三方シール)に容易に充填することができる。また、各容器中には同一濃度の水溶性物質が含まれるため、例えば水溶性物質として薬剤を用いる場合、薬剤摂取量に誤差が生じにくく、安全性が高い。さらに、本発明の方法により得られるゲル状組成物は、ダマまたは塊状物質が含まれる可能性が非常に少ないため、喉に詰まるなどの心配がなく、例えば、嚥下困難な高齢者などが安心して摂取できる。本発明の製造方法において、さらに小容量のスティック状の三方シールに充填する場合、得られる製品は、開封が容易である、全量摂取し易い(食べ残りが少ない)、携帯性に優れるなどの取扱い性に優れるという利点を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、水溶性物質を5質量%以上含むゲル状組成物の製造方法を提供し、(A)増粘多糖類と、低分子糖類とを予め混合して増粘多糖類溶液を得る工程であって、該増粘多糖類1質量部に対して、該低分子糖類が3質量部以上となるように混合する、工程、および(B)該増粘多糖類溶液に、該水溶性物質を最終濃度が5質量%以上となるように添加して、増粘多糖類と水溶性物質とを含む溶液を得る工程を包含する。本発明はまた、さらに、(C)前記増粘多糖類と水溶性物質とを含む溶液を、スティック状の三方シールに充填する工程を包含する。本発明においては、増粘多糖類と低分子糖類とを予め特定の割合で混合して増粘多糖類溶液を調製し、次いでこの増粘多糖類溶液に水溶性物質を所定量添加することを特徴とする。これにより、水溶性物質を高濃度で、例えば、5質量%以上含み、かつ水溶性物質および増粘多糖類がダマを形成することなく均一に分散・溶解した、均質なゲル状組成物を得ることができる。本発明の方法により得られるゲル状組成物は、食品、医薬品(経口薬剤)などとして利用される。
【0018】
(材料)
本発明に用いる水溶性物質は、ゲル状組成物の目的に応じて適宜設定される。例えば、カルニチン、シャンピニオン、グルコサミン類またはその塩、コンドロイチン硫酸またはその塩、ヘパリン類またはその塩、ヒアルロン酸、プラセンタなどが挙げられる。好ましくはカルニチン、シャンピニオン、グルコサミン類またはその塩、コンドロイチン硫酸またはその塩、あるいはヘパリン類またはその塩である。
【0019】
カルニチンは、主に、透析患者に不足しがちであり、その補給による症状改善を目的として用いられる。カルニチンは、天然アミノ酸の一種であり、羊肉などの畜肉に多く含まれる。本発明においては、カルニチンとして、畜肉抽出物などの天然物をそのまま用いてもよいし、あるいは化学合成物、発酵生成物を用いてもよい。
【0020】
シャンピニオンは、ハラタケ科のキノコ(Agaricus bisporus)であり、主に、消臭を目的として用いられる。本発明においては、シャンピニオンからの水溶性抽出物(シャンピニオンエキス)が用いられる。
【0021】
グルコサミン類またはその塩は、主に、関節痛改善を期待して配合される。グルコサミン類としては、例えば、グルコサミン、グルコサミンの誘導体(N−アセチルグルコサミンなど)などが挙げられる。グルコサミン類の塩としては、グルコサミン塩酸塩、グルコサミン硫酸塩などが挙げられる。グルコサミン類またはその塩は、単独で用いてもよいし、組み合わせて用いてもよい。グルコサミン類は、例えば、エビ、カニなどの甲殻類の殻(例えば、キチン)を加水分解することによって得られる。
【0022】
コンドロイチン硫酸またはその塩は、主に、関節痛改善を期待して配合される。コンドロイチン硫酸の塩としては、例えば、コンドロイチン硫酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0023】
ヘパリン類またはその塩は、主に、血液凝固阻止を目的として用いられる。ヘパリン類としては、ヘパリン、パルナパリン、レビパリンなどが挙げられる。ヘパリン類の塩としては、ヘパリンナトリウム、ヘパリンカルシウムなどが挙げられる。
【0024】
本発明に用いる増粘多糖類は、高い粘性を有する水溶性の多糖である。例えば、グルコマンナン、グアガム、ローカストビーンガム、タマリンドガム、カラギナン、キサンタンガム、アラビアガム、カラヤガム、ペクチン、寒天、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ジェランガム、プルラン、カードランなどが挙げられる。例えば、グアガム、ローカストビーンガム、およびタマリンドガムは、マメ科植物の実から抽出することによって得られる。カラギナンは、藻類から抽出することによって得られる。ペクチンは、カンキツ類、リンゴなどを原料として得られる。そしてキサンタンガムおよびカードランは、微生物より得られる。増粘多糖類としては、さらに増粘安定剤として用いられるものも含まれる。増粘多糖類は、単独で用いてもよいし、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
本発明に用いる低分子糖類は、食品または医薬品(経口薬剤)に通常添加され得るものであればよく、特に制限されない。例えば、グルコース(ブドウ糖)、フルクトース(果糖)などの単糖類、スクロース、マルトース、ラクトース、トレハロースなどの二糖類、これらの誘導体(例えば、スクラロースなど)、これらの混合物などが挙げられる。低分子糖類としては、粉状低分子糖類および液状低分子糖類(液糖)が用いられる。液糖としては、例えば、市販の果糖ブドウ糖液糖が用いられる。
【0026】
本発明においては、本発明の効果を損なわない範囲で、具体的には、均一な分散・溶解を妨げない範囲で、食品、医薬品に通常用いられる素材、添加剤などが適宜用いられ得る。例えば、甘味料(アスパルテーム、ステビア、スクラロースなど)、酸味料(クエン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸など)、賦形剤(デキストリン、澱粉など)、保存剤(安息香酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸など)、pH調整剤(フィチン酸など)、香料、果汁、着色料などが使用され得る。これらの素材、添加剤は、各工程において、当業者が通常用いる方法により適宜添加される。
【0027】
(ゲル状組成物の製造方法)
本発明の方法においては、まず、増粘多糖類と、低分子糖類とを混合して増粘多糖類溶液を得る。増粘多糖類および低分子糖類の量は、増粘多糖類1質量部に対して、低分子糖類が3質量部以上、好ましくは5質量部以上となるように混合する。低分子糖類が3質量部未満の場合、増粘多糖類溶液中にダマが生じる。低分子糖類の上限量は、特に制限されない。得られるゲル状組成物の物性、あるいは嗜好性(甘味)に影響を与えない範囲で適宜設定すればよい。
【0028】
上記混合は、用いる低分子糖類の形態、すなわち粉状低分子糖類および液状低分子糖類(液糖)に応じて、例えば、以下のように行われる。
【0029】
低分子糖類として、液状低分子糖類(液糖)を用いる態様において、上記混合は、例えば、攪拌中の液糖に、増粘多糖類を直接添加した後、攪拌を続ける、あるいは液糖を水で希釈した希釈液を攪拌しながら、増粘多糖類を添加した後、攪拌を続けるなどの方法が採用される。この場合、増粘多糖類および水溶性物質のより均一な分散・溶解が得られる点で、増粘多糖類1質量部に対して、液糖を3質量部以上、好ましくは5質量部以上の割合で用いることが特に好ましい。増粘多糖類は、ダマを生じにくくするために、少量ずつ分けて添加することが好ましい。
【0030】
増粘多糖類を、液糖またはその希釈液に投入する際の液温は、増粘多糖類の種類に応じて適宜設定される。例えば、グルコマンナン(細粒)などの吸湿性の高い増粘多糖類を用いる場合、投入に際し、湯気で吸湿しダマが生じやすいため、低温、好ましくは45℃以下、より好ましくは10℃〜30℃の範囲で行うことが好ましい。
【0031】
他方、粉状の低分子糖類を用いる態様においては、上記混合は、例えば、まず、増粘多糖類と、粉状の低分子糖類とを混合して混合粉末を得る。増粘多糖類は、低分子糖類に比べて粒子が大きいため、得られる混合粉末は、低分子糖類の粉末が増粘多糖類の粒にまぶされた状態である。次いで、この混合粉末を、攪拌中の水に添加して攪拌を続ける方法が採用される。この場合、増粘多糖類および水溶性物質のより均一な分散・溶解が得られる点で、増粘多糖類1質量部に対して、粉状の低分子糖類を3質量部以上、好ましくは5質量部以上の割合で用いる。用いる水の量は、ゲル状組成物が得られる範囲内の量であればよく、特に制限されない。所望の粘度となるように適宜調整され得る。水温は、増粘多糖類の種類に応じて適宜設定すればよい。
【0032】
また、液糖と粉状の低分子糖類とを併用する態様においては、例えば、増粘多糖類と粉状の低分子糖類とを混合して混合粉末を得、この混合粉末を、液糖に添加して攪拌などを行う方法が採用される。この場合、増粘多糖類1質量部に対して、粉末の低分子糖類と液糖との合計量が3質量部以上、好ましくは5質量部以上となるように用いる。
【0033】
上記混合後、増粘多糖類を溶解させる目的で、必要に応じて適宜加熱する。このようにして増粘多糖類溶液が調製される。増粘多糖類溶液が均一に調製されたことの確認は、例えば、増粘多糖類を含む液中に増粘多糖類の粉末または塊(ダマ)が存在しないことを目視にて観察することによって行われる、あるいは増粘多糖類を含む液を所定の大きさ(例えば、50メッシュ)の篩に通し、増粘多糖類の粉末または塊(ダマ)がメッシュ上に残存しないことを確認することによって行われる。
【0034】
次いで、増粘多糖類溶液に水溶性物質を添加する。水溶性物質は、粉末の状態でそのまま添加してもよいし、予め水などで溶解した溶液を添加してもよい。本発明においては、水溶性物質の最終濃度(すなわち、得られるゲル状組成物に含まれる水溶性物質の濃度)が5質量%以上、好ましくは7質量%以上、より好ましくは9質量%以上となるように添加することが可能である。水溶性物質および増粘多糖類のより均一な分散が可能な点から、水溶性物質の最終濃度が好ましくは20質量%以下となるように添加することが好ましい。
【0035】
水溶性物質の添加量は、さらに、ゲル状組成物中に、水溶性物質が1日の推奨摂取量含まれるように設定することが好ましい。例えば、カルニチンの1日の推奨摂取量は200〜700mgである。シャンピニオンの1日の推奨摂取量は200〜600mgである。そしてグルコサミン類またはその塩およびコンドロイチン硫酸またはその塩の1日の推奨摂取量は、1000mgである。ヘパリン類またはその塩の1日の推奨摂取量は、1000mgである。
【0036】
上記水溶性物質を添加した後に、本願発明の効果を損なわない範囲で、具体的には、均一な分散・溶解を妨げない範囲で、必要に応じて、さらに増粘多糖類を添加してもよい。水溶性物質を添加した後に添加され得る増粘多糖類は、水で容易に分散し得るものが用いられるが、その場合でも予め水に溶解させた後に、添加することが好ましい。
【0037】
その後、攪拌などの当業者が通常用いる混合方法を用いて、増粘多糖類と水溶性物質とを含む溶液が調製される。
【0038】
上記増粘多糖類と水溶性物質とを含む溶液は、次いで、当業者が通常用いるゲル状組成物の調製方法を用いて目的のゲル状組成物に調製される。例えば、ゲル状組成物として、ゼリー状飲料を調製する場合、上記水溶性物質と増粘多糖類とを含む溶液は、その後、殺菌工程(例えば、85℃以上で30分間以上程度)、充填工程、および冷却工程を経て調製される。
【0039】
上記充填工程において、スティック状の三方シール、特に小容量のスティック状の三方シールに充填することが好ましい。スティック状の三方シール中に充填される上記水溶性物質と増粘多糖類とを含む溶液の量として、例えば10g以下、好ましくは7g以下である。量の下限は特に制限されないが、通常、3g以上であり得る。充填量は、水溶性物質(有効成分)の濃度およびその必要摂取量に応じて適宜設定される。このようにして得られるスティック状の三方シールに充填されたゲル状組成物は、少量摂取で有効成分の必要量を摂取でき、さらに、開封が容易である、全量摂取し易い(食べ残りが少ない)、携帯性に優れるなどの取り扱い性に優れている。
【0040】
本発明のゲル状組成物の製造方法は、具体的には、以下のようにして行われる。まず、増粘多糖類1(グルコマンナン)1質量部と、トレハロース3質量部と、スクラロース0.1質量部との混合物を、水100質量部に添加して攪拌する。さらに、この液を攪拌しながら、増粘多糖類2(ローカストビーンガムとキサンタンガムとの混合製剤)1質量部と果糖ブドウ糖液糖3質量部とから得られる混合液を添加して、増粘多糖類溶液を得る。
【0041】
次いで、この増粘多糖類溶液に、カルニチン12質量部を加えて溶解し、さらに水15質量部で希釈する。さらに、酸味料、保存剤などを適宜加えて、増粘多糖類と水溶性物質とを含む溶液を得る。その後、例えば、85℃程度に加温して低温殺菌を行い、さらに85℃に維持しつつ、例えば、スティック状の三方シールに5gの溶液をホットパック充填し、その後冷却する。このようにして、水溶性物質を5質量%以上、好ましくは7質量%以上、より好ましくは9質量%以上含み、かつ均質なゲル状組成物が得られる。
【0042】
本発明の方法により得られるゲル状組成物の粘度は、増粘多糖類の種類、および所望の食感に応じて適宜設定されるが、通常、嚥下困難者(特に高齢者)が摂取しやすいように、例えば、3000mPa・s以上、好ましくは5000mPa・s以上、より好ましくは5000〜30000mPa・sで、さらに好ましくは5000〜25000mPa・sに設定される。嚥下困難者(特に高齢者)の摂取を考慮すると、比較的柔らかい粘度に設定することが好ましい。
【実施例】
【0043】
次に本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
(実施例1:カルニチンスティックゼリー)
500gのプロポールA(グルコマンナン:平均分子量は20万〜200万、清水化学株式会社)と、3kgのトレハ(トレハロース、株式会社林原商事)と、100gのサンスイートSU−100(スクラロース、三栄原エフ・エフ・アイ株式会社)とを混合し、混合粉末を調製した。
【0045】
600kgのオープン釜(ステンレス容器Aとする)に、水50kgを秤量し、常温下で攪拌しながら、上記混合粉末を少量ずつ投入し、プロポールAを十分に分散・膨潤させた。
【0046】
他方、別の容器(ステンレス容器Bとする)に、15kgのHF75 F−55(果糖ブドウ糖液糖、加藤化学株式会社)を秤量し、常温下で攪拌しながら、1kgのタカラゲン(ローカストビーンガムとキサンタンガムとを含む混合製剤、株式会社タカラゲン)を少量ずつ投入し、スラリーないし泥状の増粘多糖類・液糖混合液を調製した。
【0047】
上記攪拌中のステンレス容器Aに、ステンレス容器Bの増粘多糖類・液糖混合液を投入した。ステンレス容器Bに残存した混合液は、水2kgを用いて洗浄し、この洗浄液の全量をステンレス容器Aに投入した。
【0048】
次いで、攪拌中のステンレス容器Aに、12kgのカルニチン(和光純薬工業株式会社)および13.3kgの水を投入し、カルニチンを溶解させた。さらに、1kgのクエン酸(扶桑化学工業株式会社)、100gのイソボーフNK(保存剤、平成香料株式会社)、約1kgのフィチン酸(築野ライスファインケミカルズ株式会社)を投入し、均一に溶解した。最後に1kgのカシス果汁(雄山商事株式会社)を投入し、85℃にてさらに30分間攪拌した。得られた溶液を50メッシュの篩に通したところ、ダマは確認されなかった。
【0049】
その後、この溶液を85℃に保持しながらスティック状のアルミ三方シールに5gずつ充填してカルニチンスティックゼリーを得た。
【0050】
(実施例2:カルニチンスティックゼリー)
500gのプロポールAと、1.4kgのトレハと、100gのサンスイートSU−100とを混合し、混合粉末を調製した。
【0051】
600kgのオープン釜(ステンレス容器Aとする)に、水51.6kgを秤量し、常温下で攪拌しながら、上記混合粉末を少量ずつ投入し、プロポールAを十分に分散・膨潤させた。
【0052】
他方、別の容器(ステンレス容器Bとする)に、3kgのHF75 F−55を秤量し、常温下で攪拌しながら、1kgのタカラゲンを少量ずつ投入し、スラリーないし泥状の増粘多糖類・液糖混合液を調製した。
【0053】
上記攪拌中のステンレス容器Aに、ステンレス容器Bの増粘多糖類・液糖混合液を投入した。ステンレス容器Bに残存した混合液は、水2kgを用いて洗浄し、この洗浄液の全量をステンレス容器Aに投入した。
【0054】
次いで、攪拌中のステンレス容器Aに、12kgのカルニチンおよび25.3kgの水を投入し、カルニチンを溶解させた。さらに、1kgのクエン酸、100gのイソボーフNK、約1kgのフィチン酸を投入し、均一に溶解した。最後に1kgのカシス果汁を投入し、85℃にてさらに30分間攪拌した。得られた溶液を50メッシュの篩に通したところ、ダマは確認されなかった。
【0055】
その後、この溶液を85℃に保持しながらスティック状のアルミ三方シールに5gずつ充填してカルニチンスティックゼリーを得た。
【0056】
(実施例3:シャンピニオンスティックゼリー)
12kgのカルニチンの代わりに、6kgのシャンピニオン(株式会社リコム)を用いたこと以外は、実施例1と同様に調製してシャンピニオンスティックゼリーを得た。
【0057】
(実施例4:カルニチンシャンピニオンスティックゼリー)
ステンレス容器Aで秤量した水の量を44kgにしたこと、および12kgのカルニチンの代わりに、12kgのカルニチンおよび6kgのシャンピニオンを用いたこと以外は、実施例1と同様に調製してカルニチンシャンピニオンスティックゼリーを得た。
【0058】
実施例1〜4で得られたゼリーは、カシスの風味を有し、内容重量は約5gであり、pHは4.0〜5.0であり、そして一般生菌数および大腸菌群はいずれも陰性であった。各ゼリーには、いずれもダマまたは塊状物質が存在しなかった。各ゼリーの粘度をビスコテック社製のL型粘計を用いて測定したところ、いずれも12000〜25000Pa・sの範囲にあった。各ゼリーを、口腔内衛生の改善を必要とし、嚥下機能の低下した要介護高齢者に喫食させたところ、歯に付着しにくく、むせることなく喫食できた。
【0059】
(比較例1)
実施例1のステンレス容器Aにおいて、原料の混合順序を以下のように変更した。すなわち、まず、ステンレス容器Aに水を秤量し、常温下で攪拌しながら、プロポールAとタカラゲンとの混合粉末を投入した。次いで、カルニチン、低分子糖類(トレハ、サンスイートSU−100、およびHF75 F−55)を順次投入し、さらに、クエン酸、イソボーフNK、およびフィチン酸を投入し、最後にカシス果汁を投入した。上記の原料を投入した後、85℃にてさらに30分間攪拌した。得られた液を50メッシュの篩に通したところ、大きなダマが確認され、その後も攪拌を続けたがダマの溶解は困難であった。
【0060】
以上のことから、本発明の方法により得られるゼリーは、少量摂取で有効成分の必要量が摂取できるため、過剰の水分摂取の必要がない上に、携帯性、嚥下性に優れていることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の方法によれば、水溶性物質を5質量%以上含むゲル状組成物の製造において、ダマ、あるいはダマがゲル化した塊状物質を生じずに、水溶性物質と増粘多糖類とが均一に分散・溶解させることが可能である。したがって、少量摂取で水溶性物質(有効成分)の必要量が摂取でき、かつ均質なゲル状組成物を提供することができる。また、充填に際して、ダマによる液の溢れがなく、充填ノズルの目詰まりも少ない。その結果、小容量の容器(スティック状の三方シール)に容易に充填することができる。また、各容器中には均一に水溶性物質が含まれるため、例えば水溶性物質として薬剤を用いる場合、薬剤摂取量に誤差が生じにくく、安全性が高い。さらに、本発明の方法に得られるゲル状組成物は、ダマまたは塊状物質が含まれる可能性が非常に少ないため、喉に詰まるなどの心配がなく、例えば、嚥下困難な高齢者などが安心して摂取できる。本発明の方法により得られるゲル状組成物は、食品、医薬品(経口薬剤)として利用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性物質を5質量%以上含むゲル状組成物の製造方法であって、
(A)増粘多糖類と、低分子糖類とを混合して増粘多糖類溶液を得る工程であって、該増粘多糖類1質量部に対して、該低分子糖類が3質量部以上となるように混合する、工程、および
(B)該増粘多糖類溶液に、該水溶性物質を最終濃度が5質量%以上となるように添加して、増粘多糖類と水溶性物質とを含む溶液を得る工程
を包含する、方法。
【請求項2】
さらに、(C)前記増粘多糖類と水溶性物質とを含む溶液を、スティック状の三方シールに充填する工程を包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記水溶性物質が、カルニチン、シャンピニオン、グルコサミン類またはその塩、コンドロイチン硫酸またはその塩、およびヘパリン類またはその塩からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記増粘多糖類が、グルコマンナン、グアガム、ローカストビーンガム、タマリンドガム、カラギナン、キサンタンガム、アラビアガム、カラヤガム、ペクチン、寒天、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ジェランガム、プルラン、およびカードランからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1から3のいずれかの項に記載の方法。
【請求項5】
前記水溶性物質が、ゲル状組成物中に7質量%以上含まれる、請求項1から4のいずれかの項に記載の方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかの項に記載の方法により得られる、水溶性物質を5質量%以上含むゲル状組成物。

【公開番号】特開2009−100667(P2009−100667A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−274351(P2007−274351)
【出願日】平成19年10月22日(2007.10.22)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【出願人】(507349101)テクノサイエンス株式会社 (2)
【Fターム(参考)】