説明

コア固定具及びコイル装置

【課題】低騒音のフローティング構造を有する組み立て容易なコイル装置を提供する。
【解決手段】ケースにボルトで固定されるケース固定部と、コアにボルトで固定されるコア固定部と、コア固定部とケース固定部を連結するアーム部とを備えたコア固定具が提供される。また、コアを内部に配したコイルがケース内に収容されたコイル装置であって、上記のコア固定具によりコアの両端がケースに固定されたコイル装置が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル内にコアを配したリアクトル等のコイル装置、及びコアをケースに固定するためのコア固定具に関する。
【背景技術】
【0002】
(用語の定義)
以下の説明において、磁場中で比較的に強く磁化される材質(例えば、強磁性体、フェリ磁性体、反強磁性体)を磁性体といい、強く磁化されない材質(例えば、常磁性体、反磁性体)を非磁性体という。
【0003】
(背景技術)
リアクトルは、交流成分に対して誘導性リアクタンスを与える受動素子であり、インバータ回路、アクティブフィルタ回路、直流昇圧回路等に使用されている。近年実用化が進むハイブリッド自動車や電気自動車においても、駆動システムのキーデバイスである直流昇降圧コンバータ等にリアクトルが使用されている。一般に電気自動車用などの比較的に容量の大きなリアクトルは、環状に形成された磁性体である磁心(コア)と、コアに巻かれた巻線(コイル)が、放熱ケース内に収容された構造を有している。また、磁気飽和を防ぐために、コアを磁束と垂直な面で複数の断片に分割して、分割面の間に非磁性体のギャップ部材を挿入して接着固定した構造(分割コア)が一般に採用されている。
【0004】
コアは、鉄損等のエネルギーロスにより発熱するため、放熱ケースへのコアの取り付けにおいては、コアから放熱ケースへの十分な熱伝導の確保が重要となる。また、直流昇降圧コンバータ等に使用されるリアクトルでは、エネルギーの蓄積と放出が高いレートで繰り返されるため、コアの磁気歪や電磁吸引力により振動や騒音が発生する。分割コアを使用する場合、この振動は特に分割コアのギャップ面と垂直な方向で強く発生する。
【0005】
特許文献1には、金属板から形成された弾性変形可能な固定具によってコアを放熱ケース内側の底面及び側面に押さえ付けることにより、放熱ケース内でコアを挟持する板ばねタイプの固定具が開示されている。このようにコアを放熱ケースに密着させる固定構造(メタルタッチ構造)を採用すると、良好な放熱特性を確保することができる。しかしながら、メタルタッチ構造のリアクトルは、コアが放熱ケースと直接接触するため、コアで発生した振動がほとんど減衰せずにケースに伝わり、作動時に大きな騒音が発生するという欠点がある。
【0006】
そこで、特許文献2に開示されているように、ステーを使用してコアを放熱ケースと接触させずに支持する固定構造(フローティング構造)が提案されている。特許文献2に開示されている従来のステーは、細長い矩形の金属板をL字状に折り曲げたものである。コアは環状に配列した複数のコア断片(磁性体)からなる分割コアを射出成形(インサート成形)により樹脂で被覆したものであり、ステーの一端はコアをインサート成形する際に樹脂に埋め込まれてコアに固定されている。また、ステーの他端には平座金状の固定部が形成されており、この固定部を放熱ケースにボルト止めすることにより、コアは放熱ケースから浮いた状態でステーを介して放熱ケースに固定される。この固定構造は、コアを放熱ケースに直接接触させないため、コアから放熱ケースへの振動の伝達が少なく、リアクトルが発生する騒音を軽減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−123927
【特許文献2】特開2009−26952
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2に開示されるステーは、弾性変形が可能な部分の長さ(ばね長)が短いため、弾性変形による大きな変位を許容することができない。また、比較的に板幅の広い金属板をL字状に折り曲げた構造を有するため、実質的に折り曲げ方向の弾性変形のみを許容する。従って、ステーを弾性変形させることにより平座金状の固定部の位置を調整できる範囲は狭く、各部品に高い寸法精度が要求されるため、ステーを成形するための金型も比較的に高価なものとなる。また、インサート成形時に組み付ける部品点数が多く、また高い組み付け精度が要求されるため、インサート成形のセットアップの工程は複雑かつ慎重を要するものとなる。そのため、インサート成形のセットアップには非常に長い作業時間を要し、加工コストも高いものとなる。
【0009】
また、特許文献1に開示されるような固定具によりコアを3方向で両側から挟み込む構成によってもフローティング構造を実現することができる。しかしながら、この固定方法により放熱ケース内に高い位置精度でコアを配置するためには、各固定具がコアに加える荷重のバランスを精密に調整する必要がある。そのため、固定具を設計する際には荷重計算を行う必要があり、また、わずかな構造変更をした場合でも荷重計算をやり直さなければならず、設計上の負担が重いという問題がある。また、固定具に高い部品精度が要求されるため、やはり固定具を作製するための金型は比較的に高価なものとなる。
【0010】
なお、放熱ケースに対するコアの位置決め精度が低いと、コアに固定されたコイルと、端子台を介して放熱ケースに固定されたバスバーとの相対的な位置精度も低くなり、コイルとバスバーとの溶接作業が難しくなるという問題が生じる。また、特にフローティング構造においては、コアと放熱ケースとの間に充填される充填材の厚さによって放熱特性が大きく変化し、それに伴いリアクトルの性能も影響を受ける。従って、リアクトルの性能を確保するためにも、一定の位置決め精度で放熱ケースにコアを取り付ける必要がある。
【0011】
これらの課題を同時に解決するコアの固定構造はこれまで提案されていなかった。本発明は、このような事情に鑑みてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の実施形態に基づく、コイル装置のコアをケースに固定するコア固定具が提供される。本発明の実施形態に係るコア固定具は、ケースにボルトで固定されるケース固定部と、コアにボルトで固定されるコア固定部と、コア固定部とケース固定部を連結するアーム部とを備えている。
【0013】
このような構成のコア固定具は、コアを両側から挟み込んで把持する板ばねタイプのコア固定具のように荷重バランスの設計や調整を行わずに、コアを均等に放熱させるために十分な位置精度でコアをケース内に取り付けることができる。また、比較的に大型の部品であるコア固定具をインサート成形によりコアに埋め込むのではなく、成形後のコアにボルトで固定する構成とすることにより、コア成形時のセットアップ(金型への部品の組み付け)が容易になり、生産効率が向上する。
【0014】
アーム部は、コア固定部とケース固定部との相対位置が変化するように弾性変形可能である。
【0015】
この構成により、コアの寸法に誤差が生じても、アーム部を弾性変形させることにより容易にケース内にコアを取り付けることができる。また、アーム部の低い固有振動数により、可聴域の高い周波数の振動のケースへの伝播が抑制されるため、コイル装置に高い周波数成分を含む電圧を入力したときに発生する騒音が低減される。
【0016】
コア固定部及びケース固定部には、アーム部の付け根付近に、輪郭が曲線により形成された凹部が形成されていることが望ましい。
【0017】
この構成により、アーム部の付け根付近への応力集中によるケース固定部の破損が防止される。
【0018】
また、コア固定部及びケース固定部は、それぞれXY平面と平行な平面上に配置され、コア固定部にはボルトが通る第1の貫通穴が形成され、ケース固定部にはボルトが通る第2の貫通穴が形成され、コア固定部が配置された平面上への投影図において、第1の貫通穴と第2の貫通穴が重ならないように構成されていることが望ましい。
【0019】
このような構成にすることにより、XY平面と垂直な一方向(Z軸方向)から容易にボルトでコアをケースに固定することができる。
【0020】
典型的には、コア固定具は1枚の金属板から板金加工により形成される。また、一つの最良の形態のコア固定具は、XY平面と平行な第1の平面上に配置された1つのケース固定部と、XY平面と平行な第2の平面上に配置された2つのコア固定部である左側コア固定部及び右側コア固定部と、2つのアーム部である左側アーム部及び右側アーム部を備える。また、X軸方向の正の向きを正面側、X軸方向の負の向きを背面側、Y軸方向の正の向きを左側、Y軸方向の負の向きを右側としたときに、左側アーム部は、ケース固定部の背面側の辺縁の左端と左側コア固定部の背面側の辺縁の右端とを連結し、右側アーム部は、ケース固定部の背面側の辺縁の右端と右側コア固定部の背面側の辺縁の左端とを連結する。
【0021】
また、本発明の実施形態に基づく、コアを内部に配したコイルがケース内に収容されたコイル装置が提供される。本発明の実施形態に係るコイル装置は、上記のコア固定具によりコアの両端がケースに固定されたものである。
【0022】
典型的には、コアは、複数のコア断片が一方向にスタック(積み重ね)されて一体に固定された分割コアであり、コア固定具はコアのスタック方向(コア断片が積み重ねられた方向)両端に取り付けられる。
【0023】
この場合において、コアは、コアのスタック方向両端に配置された、コア固定部がボルトで固定される1対のナットを備え、1対のナットの間にはコアが連続して形成されていることが望ましい。
【0024】
このような構成においては、コア固定具からコアに加えられるスタック方向の力は、コア内を圧縮力又は引張力として伝播するため、コア内に大きなせん断力が生じることが無い。ダストコア等のせん断強度が弱いコアを使用する場合にこの構成を適用すると、コアにひび割れ等が生じることが防止される。
【0025】
また、コア固定具がコア固定部のみでコアと接触するように構成されていることが望ましい。この構成により、コアを支持するばねとして機能するアーム部の有効長を長く取ることができ、コア固定具による高い騒音低減効果を得ることができる。
【0026】
また、端子台を更に備えていてもよい。この場合においては、端子台のバスバーとコイルのリード部とを溶接する箇所において、バスバー及びリード部はコアの両端を結ぶ方向に延びることが望ましい。この構成により、コアの両端を結ぶ方向におけるリード部の位置に大きな誤差が生じても、スペーサを使用したり、リード部やバスバーを変形させることなく、そのままバスバーとリード部を溶接することができ、溶接の作業性や品質を高めることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の実施形態に係るコア固定具を使用することで、低騒音・低振動のフローティング構造をコンパクトかつ低コストで実現することができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態に係るリアクトルの分解図である。
【図2】本発明の実施形態に係るリアクトル本体の斜視図である。
【図3】本発明の実施形態に係るコア固定具の外観図である;(a)斜視図、(b)平面図、(c)背面図、(d)側面図
【図4】本発明の実施形態に係るリアクトル本体をケース内に収容した状態を示す平面図である。
【図5】図5におけるA断面図である。
【図6】本発明の実施形態に係るリアクトルの完成図である。
【図7】本実施形態における端子台のバスバーとコイルのリード部の位置関係を示す拡大図である。
【図8】従来の端子台のバスバーとコイルのリード部の位置関係を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態に係るリアクトル1について、図面を参照しながら詳細に説明する。図1はリアクトル1の分解図であり、図2はケース50に収容する前のリアクトルの本体1aの斜視図である。なお、以下の説明において、図1における左下側から右上側に向かう方向を幅方向(X軸方向)、右下側から左上側に向かう方向を奥行方向(Y軸方向)、下側から上側に向かう方向を高さ方向(Z軸方向)と定義する。なお、リアクトル1を使用する際には、リアクトル1をどのような方向に向けて配置してもよい。
【0030】
リアクトル1は、一対のU型コアユニット20a、2つのギャップ部材30、コイル40、ケース50、並びにコアユニット20aをそれぞれケース50に取り付けるための2つのコア固定具10を備えている。
【0031】
一対のU型コアユニット20aは、ギャップ部材30を介してそれぞれが有する2つの端面を互いに突き合わせて、リング状のコア20を形成する。ギャップ部材30は、例えばアルミナ等の非磁性体のセラミックスや樹脂から形成される板材である。U型コアユニット20aの各端面の周縁には、端面同士を位置決めして突き合わせるための係合突起24a、24b及び係合凹部24c、24dがそれぞれ形成されている。本実施形態のコア20は、2つの同一のU型コアユニット20aから組み立てられているが、構成(例えば、内包するコア断片の数や後述する樹脂成形部の形状等)が異なる2つ以上のU型コアユニットを組み立てたものでもよく、また複数のコア断片を接着剤により接合してリング状に形成したものでもよい。
【0032】
U型コアユニット20aは、磁性体のみから形成された単体の磁性部材ではなく、ギャップ部材30を介してX軸方向にスタックされた複数のコア断片20c(磁性体)が樹脂(非磁性体)に埋め込まれたものであり、射出成形(インサート成形)により作られる(図5参照)。樹脂にはポリフェニレンサルファイド(PPS)等の耐熱樹脂が使用される。また、本実施形態において使用されるコア断片20cは圧粉磁心であるが、ケイ素鋼板やフェライトを使用してもよい。本実施形態のU型コアユニット20aは、平行に配置された一対のI型コア断片と、この一対のI型コア断片の隣り合う端面(ギャップ面)を連絡する1つのU型コア断片を、所定の板厚を有するギャップ部材30を介して配列させて、インサート成形によりモールドしたものである。なお、U型コアユニット20aの両端面(ギャップ面)では、I型コア断片の一端が樹脂により被覆されずに露出している。
【0033】
図1に示されるように、U型コアユニット20aの固定面23には、コア固定具10を取り付けるための一対のブラケット21(左側ブラケット211及び右側ブラケット212)が形成されている。各ブラケット21には、インサート成形によりナット22が埋め込まれている。
【0034】
コイル40は、平角エナメル線から形成された2つの同一構造の巻線部を並列に配置して、巻き始め同士を連結させた構造を有している。なお、本実施形態のコイル40は1本の平角エナメル線を加工して形成されたものであるが、二つの巻線を溶接等で連結したものでもよい。一方のU型コアユニット20aの2つの平行な直線部(I型コアが埋め込まれた部分)にコイル40の2つの巻線部をそれぞれ通した後、1対のU型コアユニット20aの対応する各端面がギャップ部材30を介してそれぞれ突き合わされて接着されると、リアクトル本体1aが形成される。
【0035】
図3はコア固定具10の外観を示す投影図であり、(a)は斜視図、(b)は平面図、(c)は背面図、(d)は右側面図である。なお、以下の説明において、図3(c)背面図における上下左右によりコア固定具10の上下左右の方向を定義し、また図3(c)背面図における紙面裏側(図3(b)における上側)を前方、紙面表側(図3(b)における下側)を後方と定義する。
【0036】
コア固定具10は、リアクトル本体1aをX軸方向両端においてケース50に取り付けるための部材であり、ステンレス鋼板の板金加工により形成されている。コア固定具10は、ケース50にボルトで固定されるケース固定部11、コア20にボルトで固定される2つのコア固定部12(左側コア固定部121、右側コア固定部122)、及びケース固定部11と各コア固定部12とをそれぞれ連結する2つのアーム13(左側アーム131、右側アーム132)を備えている。
【0037】
ケース固定部11及びコア固定部12は、互いに平行に配置された平面状の部分であり、それぞれ略中央にボルト止め用の貫通穴が形成されている。
【0038】
ケース固定部11は中央に貫通穴11hを有しており、また背面側の辺縁の左右両端において左側アーム131及び右側アーム132と接続している。ケース固定部11の背面側には、各アーム13の付け根付近に、前方へ凹む凹部11aが形成されている。凹部11aは、輪郭が緩やかな曲線により形成されており、各アーム13の付け根付近への応力集中を緩和して、コア固定具10の強度を高めている。
【0039】
左側アーム131及び右側アーム132は、ケース固定部11の背面から下方に伸び、下端でそれぞれ左側コア固定部121及び右側コア固定部122と接続している。各アーム13は、上下方向に長い矩形状の部分であるが、ケース固定部11及びコア固定部12との接続部の付近は緩やかな曲面13a及び13bとなっている。この曲面13a及び13bは、アーム13のケース固定部11及びコア固定部12との接続部付近での応力集中を緩和し、コア固定具10の強度を高めている。ケース固定部11とコア固定部12を連結する(すなわちケース50とコア20を連結する)アーム13は、従来のステーと比べて、半分以下の幅(図3(b)及び(c)における左右方向の寸法)を有しており、弾性変形が可能な部分も長い。詳細には、アーム13の幅は、ケース固定部11の幅(図3(b)における左右方向の寸法)の1/5以下であり、奥行(図3(b)における上下方向の寸法)の1/3以下である。また、アーム13の幅は、コア固定部12の幅の1/5以下であり、奥行の1/3以下である。また、アーム13の長さは貫通穴11h、12hの内径及びボルト60、70の外径よりも大きく、ボルト60、70の外径の1.5倍以上である。そのため、アーム13は、ケース固定部11及びコア固定部12よりも十分に剛性が低く(すなわちコア固定具10において最も剛性が低い部分であり)、従来のステーよりも柔軟性が高くなっている。また、ケース固定部11及びコア固定部12との接続部に緩やかな曲面13a及び13bを設けたことも、柔軟性の向上に寄与している。この高い柔軟性により、アーム13を弾性変形させることで、ケース固定部11とコア固定部12の相対位置を全ての方向に変化させることができる。また、この柔軟性は特にX軸方向で大きくなるように構成されている。
【0040】
左側コア固定部121及び右側コア固定部122は、略中央に貫通穴121h及び122hをそれぞれ有している。また、左側コア固定部121及び右側コア固定部122は、それぞれ背面側の右端及び左端において、左側アーム131及び右側アーム132の下端とそれぞれ接続している。各コア固定部12の背面側の辺縁にも、各アーム13の付け根付近に、前方へ凹む凹部121a及び122aが形成されている。凹部121a及び122aも、輪郭が緩やかな曲線により形成されており、各アーム13の付け根付近への応力集中を緩和して、コア固定具10の強度を高めている。
【0041】
次に、リアクトル本体1aの組み立て、及びコア固定具10によりリアクトル本体1aをケース50内に固定する手順を説明する。図4は、リアクトル本体1aがケース50内に収容された状態を示す平面図である。図5は、図4におけるA−A断面を示す断面図である。また図6は、更に充填材90をケース内に充填して、完成した状態のリアクトル1を示す斜視図である。
【0042】
リアクトル本体1aの組み立てにおいては、先ず一方のU型コアユニット20aの各直線部にコイル40の2つの巻線部を通し、ギャップ部材30を介して一対のU型コアユニット20aの各端面を接着剤により貼り合わせる。次に、貼り合わせた一対のU型コアユニット20aを専用の治具(不図示)に装着し、X軸方向(図1)に所定の接着圧を加えながら所定の温度下で一定時間保持して、接着材を硬化させる。接着剤が硬化すると、コア20を治具から外して、ボルト60によりコア固定具10をコア20に取り付ける。具体的には、ボルト60を、コア固定具10の左側コア固定部121の貫通穴121h及び右側コア固定部122の貫通穴122hにそれぞれ通した後、コア20のブラケット211及び212に埋め込まれたナット22にねじ込むことにより、コア固定具10がコア20に取り付けられる。
【0043】
次に、コア固定具10が取り付けられたリアクトル本体1aをボルト70によりケース50に取り付ける。具体的には、ボルト70を各コア固定具10のケース固定部11に設けられた貫通穴11hに通した後、ケース50内に形成された取り付け台52に設けられた雌ねじ52tにねじ込むことにより、リアクトル本体1aがケース50に取り付けられる。次に端子台80がケース50にボルトで固定され、端子台のバスバー81及び82とコイル40のリード部41及び42がそれぞれ溶接等により接合される。最後に、絶縁性と高い熱伝導性を有するシリコーン樹脂やエポキシ樹脂等の充填材90がケース50内に充填されて、リアクトル1が完成する。
【0044】
本実施形態のようにリアクトル本体1aをケース50と接触させないフローティング構造では、リアクトル本体1aが発生する熱は、リアクトル本体1aとケース50との隙間に充填された充填材90を介してケース50に伝達される。充填材90には比較的に熱伝導性の良好な樹脂が採用されているが、十分な放熱特性を確保するためには、ケース50とリアクトル本体1aとの隙間を狭く設定する必要がある。また、リアクトル本体1aに大きな温度分布の不均一が発生した場合にもリアクトルの特性が劣化するため、リアクトル本体1aを均一に放熱させる必要がある。十分に均一な放熱性能を与える為には、少なくともX軸方向及びY軸方向において、ケース50内にリアクトル本体1aを誤差1mm未満の精度で取り付けることが必要となる。本発明の実施形態に係るコア固定具10を使用してケース50にコア20をボルト止めすることにより、特にX軸方向とY軸方向で高い取り付け精度を達成することができ、放熱特性に優れたフローティング構造が実現する。
【0045】
また、図5に示されるように、U型コアユニット20aは、ギャップ部材30を介してX軸方向に積み重ねられた複数のコア断片20cをインサート成形により樹脂で被覆したものであるため、X軸方向の寸法精度が比較的に低い。コア20は、このようなU型コアユニット20aを更にギャップ部材30を介してX軸方向に重ね合わせ形成したものであるため、X軸方向の寸法精度は例えばY軸方向の寸法精度と比べて格段に低い。また、コア20の熱膨張や振動の振幅もX軸方向で最も大きい。上述のように、コア固定具10は、各固定部間の相対位置の全方向(特にX軸方向)への変位に対して柔軟であるため、コア20の寸法誤差を許容しつつ、コア20を正確に位置決めすることができる。また、コア20を支持するコア固定具10は、低いばね定数を有する(すなわち固有振動数が低い)ばねとして機能するため、コア20で発生する可聴域以上の高い周波数の振動をケース50に伝わり難くし、リアクトル1が発生する騒音を低減する。また、コア固定具10は、従来のステーと比べて各固定部を連結する部分が長く、コア20からケース50まで振動が伝播する距離が長いため、振動の減衰率も大きい。
【0046】
また、本実施形態のコア固定具10は、コア固定部12のみがコア20と接触し、ケース固定部11やアーム13はコア20と接触しないように構成されている。これにより、コア20からケース50までに振動が伝播する経路長を長く取ることができ、アーム13による振動低減作用を高くすることができる。また、この構成により、コア20を支持するばねとして機能するアーム13の有効長(ばね長さ)を長く取ることができるため、アーム13の低い固有振動数が確保され、騒音の原因となる高い周波数の振動のケース50への伝播が効果的に抑制される。
【0047】
また、図5は、コア20がコア固定具10にボルト止めされる4つのナット22のうち、コア20を挟んでX軸方向に並ぶ一組のナット22の中心軸を通る断面図である。図5に示されるように、この一組のナット22の中心を結ぶ線分L上には、コア断片20cとスペーサ部材30が隙間無く配置されている。そのため、各ナット22を介してコア固定具10からコア20に加えられるX軸方向の力の大半は、そのまま圧縮力又は引張力として直線Lに沿ってコア20内を伝達するため、コア20内に強いせん断力が生じることがない。従って、せん断強度の弱いダストコア等を使用しても、コア固定具10から受ける力によりコア20にひび割れ等が生じることがない。また、仮にX軸方向に並ぶ一組のナット22をコア20のY軸方向中央に設けると、この一組のナット22の中心を結ぶ線分上にコア20が存在しない領域が現れることになる。このような構造は、コア固定具10がナット22を介してコアにX軸方向の力を加えたときに、コア20に強いせん断応力を与えるため、ダストコア等のせん断強度の弱いコア材料の使用には適していない。
【0048】
次に、図7及び図8を参照して、端子台80のバスバー81及び82とコイル40のリード部41及び42の配置について説明する。図7は、本実施形態における端子台80のバスバー81とコイル40のリード部41の配置関係を概略的に示した図(XY平面図)である。また、図8は、本発明の別の実施形態のバスバー81aとリード部41aの配置関係を示した図(ZX平面図)である。従来の板ばねタイプのコア固定具には、ばね定数に一定のばらつきが存在する。そのため、例えば従来の板ばねタイプのコア固定具によりX軸方向両側からコアを挟持する構成においては、各コア固定具がコアに与える荷重の不均衡のため、コア(及びコアに固定されたコイル)のX軸方向の位置が本来の設計位置から離れる。従って、図8に示されるように、バスバー81aとリード部41aとを溶接する先端部分がX軸方向と垂直な方向(図8の例ではZ軸方向)に折り曲げられた構造を採用した場合、例えばコアの位置が設計位置よりもX軸方向正の向きに離れると、リード部41aが破線で示された位置に配置される。この場合、リード部41aはバスバー81aと接触できないため、両者を溶接することができない。従って、従来の板ばねタイプのコア固定具を使用する場合には、図7に示されるような、バスバー81とリード部41とを溶接する先端部分がX軸方向に延長する構成を採用せざるを得なかった。一方、本発明の実施形態に係るコア固定具10を使用してコア20をケース50に取り付ける場合には、コア固定具10はコア20にX軸方向の力を加えないため、各コア固定具10のばね定数が異なっていても、コアの位置が設計位置から大きく離れることは無い。そのため、コア固定具10を使用すると、図8に示されるような、リード部41aとバスバー81aとの溶接部をX軸方向と垂直な方向に延長させた構成を採用することもでき、高い設計の自由度が得られる。
【0049】
また、本実施形態のコア固定具10は、図3に示されるように、ケース固定部11と一対のコア固定部12及びアーム13のみから構成されるというシンプルな構造を有し、所定の形状に打ち抜いた金属板を4箇所で一定方向に90度折り曲げるという簡単な工程により作製されるため、低コストで作製することができる。また、1つのコア固定具10につき3箇所、計6箇所をボルト止めするだけでコアを比較的に高い位置精度でケース50内に取り付けることができるため、リアクトル1の組み立てに要する加工コストも低減することができる。また、通常は荷重を加えない状態でコア固定具10を取り付けるため、 設計時に厳密な荷重バランスを計算する必要が無く、設計に過大な労力や時間を要することもない。また、荷重バランスを確保するためにコア固定具10の寸法精度を厳しくする必要も無いため、コア固定具10も低コストで製造することができる。
【0050】
以上が本発明の例示的な実施形態の説明である。本発明の実施の形態は、上記に説明したものに限定されず、特許請求の範囲の記載により表現された技術的思想の範囲内で任意に変更することができる。
【0051】
例えば、上記の実施形態におけるコア固定具10は、コア固定部(121、122)を2つ、ケース固定部(11)を1つ、アーム(131、132)を2つ有しているが、各部の数はこれに限定されず、それぞれ1以上の任意の数とすることができる。例えば、別の実施形態においては、コア固定具10が1つのコア固定部と2つのケース固定部を有していてもよい。また、ケース固定部11及び/又はコア固定部12が複数の貫通穴11h及び/又は12hを有していてもよい。但し、ダストコア等のせん断強度の低い材質をコアに使用する場合には、コア20を挟んで対向する各コア固定具10の対応するコア固定部12(詳細には貫通穴12h)は、これらの中心を結ぶ直線L上にコア断片20cとスペーサ部材30が隙間無く配置されるような位置に設けることが望ましい。
【0052】
また、コア固定具10の各部の配置関係も上記の実施形態の構成に限定されない。例えば、上記の実施形態ではコア固定部12がケース固定部11よりも低い位置に配置されているが、コア固定部をケース固定部11よりも高い位置に配置してもよい。また、上記の実施形態では、Y軸方向内側にケース固定部11が配置され、そのY軸方向外側にコア固定部12が配置されているが、例えば、Y軸方向内側にコア固定部を配置し、そのY軸方向外側にケース固定部を配置してもよい。また、上記の実施形態では、ケース固定部及びコア固定部にボルト止め用の貫通穴が形成されているが、貫通穴は丸穴でも長穴でもよく、また貫通穴の縁の一部を開いてU字状の溝を形成した先開形としてもよい。
【0053】
また、上記の実施形態では、アーム13がケース固定部11及びコア固定部12の背面側(コア側)を連結するが、アーム13がケース固定部11及びコア固定部12の正面側を連結する構成にしてもよく、またケース固定部11及びコア固定部12の一方の正面側と他方の背面側とを連結する構成にしてもよい。また、アーム13は、ケース固定部11とコア固定部12の背面側又は正面側の辺縁を連結するのではなく、各部の左右の辺縁を連結する構成としてもよい。例えば、左側アーム131がケース固定部11の左側の辺縁と左側コア固定部121の右側の辺縁とを連結し、右側アーム132がケース固定部11の右側の辺縁と右側コア固定部122の左側の辺縁とを連結してもよい。
【0054】
また、上記の実施形態では、組み立て後にコイル40のリード部41及び42がX軸方向に延長するように形成されているが、リード部の延長方向は任意の方向に設定することができる。また、上記実施形態にはリングコアが使用されているが、例えばI型コアやE型コアなど別の形状のコアを使用してもよい。また、上記に説明した実施形態及び変形例は、本発明をリアクトルに適用した例であるが、例えばトランス等の別の種類のコイル装置にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 リアクトル
10 コア固定具
11 ケース固定部
11a 凹部
11h 貫通穴
12 コア固定部
121 左側コア固定部
122 右側コア固定部
121h、122h 貫通穴
121a、122a 凹部
13 アーム
131 左側アーム
132 右側アーム
13a、13b 曲面
20 コア
20a U型コアユニット
20c コア断片
21 ブラケット
211 左側ブラケット
212 右側ブラケット
22 ナット
23 固定面
24a、24b 係合突起
24c、24d 係合凹部
30 ギャップ部材
40 コイル
41、42 リード部
50 ケース
60、70 ボルト
80 端子台
81,82 バスバー
90 充填材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイル装置のコアをケースに固定するコア固定具であって、
前記ケースにボルトで固定されるケース固定部と、
前記コアにボルトで固定されるコア固定部と、
前記コア固定部と前記ケース固定部を連結するアーム部と
を備えたコア固定具。
【請求項2】
前記アーム部は、前記コア固定部と前記ケース固定部との相対位置が変化するように弾性変形可能である
ことを特徴とする請求項1に記載のコア固定具。
【請求項3】
前記コア固定部及び前記ケース固定部には、前記アーム部の付け根付近に、輪郭が曲線により形成された凹部が形成されている
ことを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれか一項に記載のコア固定具。
【請求項4】
前記コア固定部及び前記ケース固定部は、それぞれXY平面と平行な平面上に配置され、
前記コア固定部にはボルトが通る第1の貫通穴が形成され、
前記ケース固定部にはボルトが通る第2の貫通穴が形成され、
前記コア固定部が配置された平面上への投影図において、前記第1の貫通穴と前記第2の貫通穴が重ならない
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のコア固定具。
【請求項5】
前記コア固定具は、1枚の金属板から板金加工により形成され、
XY平面と平行な第1の平面上に配置された1つの前記ケース固定部と、
XY平面と平行な第2の平面上に配置された2つの前記コア固定部である左側コア固定部及び右側コア固定部と、
2つの前記アーム部である左側アーム部及び右側アーム部
を備え、
X軸方向の正の向きを正面側、X軸方向の負の向きを背面側、Y軸方向の正の向きを左側、Y軸方向の負の向きを右側としたときに、
前記左側アーム部は、前記ケース固定部の背面側の辺縁の左端と前記左側コア固定部の背面側の辺縁の右端とを連結し、
前記右側アーム部は、前記ケース固定部の背面側の辺縁の右端と前記右側コア固定部の背面側の辺縁の左端とを連結する
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のコア固定具。
【請求項6】
前記コイル装置はリアクトルである
ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のコア固定具。
【請求項7】
コアを内部に配したコイルがケース内に収容されたコイル装置であって、
請求項1から5のいずれか一項に記載のコア固定具により前記コアの両端が前記ケースに固定されることを特徴とするコイル装置。
【請求項8】
前記コアは、前記複数のコア断片が一方向にスタックされて一体に固定された分割コアであり、前記コア固定具は前記コアのスタック方向両端に取り付けられる
ことを特徴とする請求項7に記載のコイル装置。
【請求項9】
前記コアは、前記コアのスタック方向両端に配置された、前記コア固定部がボルトで固定される1対のナットを備え、
前記1対のナットの間には前記コアが連続して形成されている
ことを特徴とする請求項8に記載のコイル装置。
【請求項10】
前記コアはダストコアであることを特徴とする請求項9に記載のコイル装置。
【請求項11】
前記コア固定具が前記コア固定部のみで前記コアと接触するように構成されている
ことを特徴とする請求項7から請求項10のいずれか一項に記載のコイル装置。
【請求項12】
端子台を更に備え、
前記端子台のバスバーと前記コイルのリード部とを溶接する箇所において、前記バスバー及び前記リード部は前記コアの両端を結ぶ方向に延びる
ことを特徴とする請求項7から請求項11のいずれか一項に記載のコイル装置。
【請求項13】
リアクトルであることを特徴とする請求項7から請求項11のいずれか一項に記載のコイル装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−49269(P2012−49269A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−188855(P2010−188855)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(390005223)株式会社タムラ製作所 (526)