説明

コイル焼鈍装置

【課題】コイルの焼鈍時に発生するコイル欠陥を低減すると共に生産性を確保しつつさらにコスト面からも問題ない技術を提供する。
【解決手段】本発明のコイル焼鈍装置1は、コイル9を横に倒してコイルの端面を載置する台部15と台部15を支持する脚部とを有するコイル支持台7を備えたコイル焼鈍装置であって、
脚部が、台部15の下面側の外周部を囲むように全周に亘って設けられた壁状の外側脚部17と、外側脚部17の内側に外側脚部17と所定の空間を介して設けられた壁状の内側脚部19とを備えてなることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄板状のものを巻き取りコイル形状としたコイルの焼鈍を行うコイル焼鈍装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境対策のため、鋼材の更なる高特性化を行うことで、種々の機器の軽量化および小型化を図ることが成されている。例えば自動車分野においては、衝突に対する強度を高くして安全性を確保すると同時に軽量化を施して燃費を上げて排出ガスを低減することにより環境への対応も図る必要がある。加えてコストも下げなければならないというそれぞれ相反する要求が高まりつつある。それらに対する回答の一つして、鋼板のハイテン化を含めた特性改善方法が重要な課題となっている。また、機能性材料としての電磁鋼板にしても同様に種々の機器に使用しようとした場合、軽量化ひいては小型化の問題が切り離せなくなっている。このような課題に対して、電磁特性の改善が必須となってくる。
【0003】
これら特性改善の方法のひとつとして、バッチ焼鈍による特性改善がある。例えば、自動車および家電に多く使用されている冷延鋼板を成形する際に発生することもあるストレッチャーストレインの不具合や、缶を成形する際に発生することのあるフルーティング現象等を改善するために、焼鈍と調質圧延を行うことによりその現象を回避することができる(ぶりきとティンフリースチール:(株)アグネ 東洋鋼鈑社編)。
ただし、焼鈍をどのようにして行うかによって調質圧延およびその後の歪み時効が変化してくる。すなわち、バッチ焼鈍か連続焼鈍かで目的とすることが異なってくる。バッチ焼鈍は加熱・均熱時間を長く採る事ができるため、固溶してある炭素Cや窒素N等を析出させやすく、そのため軟質化が得やすく、また時効効果が小さい特性を有する鋼板を得ることができる。連続焼鈍においてはその逆となる。
【0004】
また、電磁鋼板においてバッチ焼鈍は非常に重要な役割を果たす。電磁鋼板においてバッチ炉に置ける焼鈍では単なる固溶元素の析出のみならず、再結晶化を行わせ、本来の目的である電磁鋼板の特性を得る欠くべからざる製造工程である。
このように、バッチ焼鈍炉における焼鈍はいずれにおいても省略もしくは他の手段に替えることのできない製造工程である。
【0005】
しかしながら、焼鈍によって得られたコイルには、若干の欠陥(耳伸び(コイル上部)・耳歪み(コイル下部)・腹伸び・縦じわ等、さらに特定の相変態を伴う特性向上が図られない等の特性低下の欠陥)が含まれていた。そのため、その欠陥コイルを鋼材として使用するためには、形状欠陥に対してはリコイリングラインにおける欠陥検知システムおよびテンションレベラーを通すことにより、欠陥摘出および欠陥カット、さらに形状を補正して製品として使用できるようにしている。
このため、製品化するために歩留まりの低下と生産効率の低下、さらに検査および形状補正に伴う大きなコストが問題となっていた。
また、特性向上に対して、設定以上の特性が得られない場合には、劣化部分を切り捨てて使用している。そのため、検査ラインを通し、マーキングとオンライン切捨てを実施して、コイルの再度巻き取りを実施しなければならない。そのため、製品合格率、生産率、また再度ラインを通して特性測定をしながらコイルを巻き取るため、それを実施するコストが上乗せされるため非常に大きなコスト増加となる。
このようなバッチ式の焼鈍炉における種々のトラブルに対しては、以下のような対策が提案されている。
【0006】
例えば、特開昭59-35635号公報においては、コイル内部に発生する欠陥を観察して、それらの欠陥にたいする対策を実施している。コイルの外周側下部に発生する欠陥を低減するため、板厚の異なるコイルを溶接し、外側に厚い板厚、内側に薄い板厚がくるようにリコイリングし、ひとつのコイルとしてから焼鈍を実施するようにしている。
【0007】
また、特開平5-287390号公報に開示されている内容によれば、コイルの鋼板の密着と巻き緩みについて解決を図ろうと開発を実施した経緯と対策が記されている。これによれば、冷却時の温度差をうまくとることで密着および巻き緩みを防止しようとしている。
【0008】
また、特開平5-295453号公報にはバッチ炉の構造をインナーカバー付の二重構造として冷却速度の温度条件を5.0〜15.0℃/Hrとすることで、焼きつき疵の問題を解決している。
【0009】
これらに対して特開2006-274343号公報、特開2006-257486号公報においては焼鈍炉において焼鈍中に発生するコイル欠陥およびその対策が述べられている。
特開2006-274343号公報では、コイルのバックリングについてコイルの内側にカバーを行い、防止する方法が述べられている。
また、特開2006-257486号公報ではコイルに発生する欠陥に対して炉内を均一温度分布とすることで解決することが述べられている。その際に、炉のインナーカバーを断熱材にて覆うもしくは内張りすることで均一な温度分布を与えるように加熱を実施している。
これらの対策により、コイルに発生する欠陥が低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭59-35635
【特許文献2】特開平5-287390
【特許文献3】特開平5-295453
【特許文献4】特開2006-274343
【特許文献5】特開2006-257486
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1(特開昭59-35635号公報)の方法では、コイルを焼鈍する際には必ず厚い板厚と薄い板厚を有するコイルを準備する必要があり、非常に効率が悪くなる。さらにリコイリングも実施しなければならず、工程が煩雑になるだけでなく、コストにもかかわってくる。
また、特許文献2(特開平5-287390号公報)の方法は、冷却時の温度差をうまくとることで密着および巻き緩みを防止しようとしているが、実際には欠陥は加熱・均熱時にも発生しており、冷却時のみではなく根本的な解決にはならない。
また、特許文献3(特開平5-295453号公報)は、バッチ式の焼鈍炉の構造をインナーカバー付の二重構造として冷却速度の温度条件を5.0〜15.0℃/Hrとすることで、焼きつき疵の問題を解決しているが、冷却の際の温度降下がかなり遅く、効率の面を考慮すると工業化は難しいという問題がある。
【0012】
また、特許文献4(特開2006-274343号公報)では、コイルの内側にカバーを行い、コイルのバックリングを防止する方法が述べられているが、コイルのカバーによる座屈についても温度分布についての影響が不明であり、完全にコイル欠陥が低減するかどうかは不明である。
また、特許文献5(特開2006-257486号公報)では、炉のインナーカバーを断熱材にて覆うもしくは内張りすることで炉内を均一温度分布するようにしているが、断熱材が張られているインナーカバーの加熱に際して、最適なコイル温度分布が得られているかどうかは不明である。そのため、この対策により完全にコイル欠陥が低減するかどうかは不明である。
【0013】
従来のバッチ焼鈍において、焼鈍時にコイルに種々の欠陥(耳伸び・耳歪み・縦じわ等)が発生しており、それらについて、上記特許文献1〜4により解決が図られている。
しかしながら、抜本的な解決策はなく、また解決策はあっても実施するにはさらなる生産効率の低下およびコスト高を招く結果となっている。そのため、欠陥発生による非効率およびコスト高をとるか、開示された公開特許文献に示されている対策により欠陥の低減を図るが同時に非効率およびコスト高を取るかの二者択一の状態となっているのが現状である。
【0014】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、コイルの焼鈍時に発生するコイル欠陥を低減すると共に生産性を確保しつつさらにコスト面からも問題ない技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
従来例においてはコイルに生ずる欠陥低減の基本的な考え方は、欠陥発生の原因が炉内温度の不均一であるとして、炉内温度を測定し、炉内温度分布を得て、その分布を低減するように加熱法を工夫したり、あるいは炉の外壁構成を変更したりしていた(例えば、特許文献3、4参照)。
しかしながら、炉内温度分布の低減を図ったとしても欠陥が発生する場合があり、そのため欠陥除去のための製造工程を完全にはなくすことができず、結局生産ラインおよびコストを下げることができなかった。
【0016】
そこで、発明者は、欠陥発生の原因について詳細に調査を実施し、原因を特定することを試みた。詳細調査のため、炉内温度の他、コイル内部およびコイルを保持しているサポート台等まで熱電対により温度測定を実施した。また、同時に伝熱計算を実施し、熱電対によって測定できない部分についても温度分布を求め、それらのコイルへの影響を測定した。
【0017】
図12、図13は従来の焼鈍炉31の説明図であり、図12はインナーカバーの一部を部分断面図で示し、図13は全断面を示している。また、図14は図13の一部を拡大して示す拡大図である。さらに、図15は、コイル支持台33の説明図であり、一部を断面で示している。
従来の焼鈍炉31は、コイル支持台33の上にスペーサ35を介して断熱材・クッション材37が設置され、その上にコイル9が横を向けた状態で載置されている。そして、コイル9及びコイル支持台33を覆うようにインナーカバー5が設置されており、インナーカバー5の外周部には断熱材11が設置されている。また、コイル9の上端部には蓋13が設置されている(図13参照)。
従来のコイル支持台33は、図15に示すように、円筒状の脚部39と該脚部39の上部に設けられたコイル9を支持するドーナツ状の台部41とを有している。つまり、支持台の全体形状は、中心部に貫通孔を有し、径方向断面が略T字状をしている。
【0018】
上記のように構成された焼鈍炉31においては、炉内をバーナ等(図示なし)で加熱することで、放射熱によってインナーカバー5が加熱され、その輻射熱でコイル9が加熱される。
【0019】
発明者は上記の焼鈍炉31において、前述したように熱電対を用いて温度分布を詳細に調査した。それと共に解析モデルを用いて伝熱計算を実施した。
図16が解析モデルの説明図であり、中心線の片側のみを図示している。解析モデルは、図12、図13に示した従来型のコイル支持台33と同形状とし、インナーカバー5の周面に断熱材11を設置し、またコイル支持台33上に断熱材・クッション材37を設置し、さらにコイル9の上面にコイル9の孔を覆うように断熱材からなる蓋13を設置している。
コイル形状は、20tonコイルで、内径1000mmφ×コイル幅1150mmHである。支持台の下部には炉床ヒータを設置した。
【0020】
解析結果を図17〜図20に基づいて説明する。図17は、径方向(r方向)の圧縮応力を示すグラフであり、縦軸が応力(MPa)、横軸が加熱時間t(Hr)を示している。図17に示すように、加熱開始から約25時間経過した時点で応力のピークが発生している。
図18は周方向(θ方向)の圧縮応力を示すグラフであり、縦軸が応力(MPa)、横軸が加熱時間t(Hr)を示している。図18に示すように、加熱開始から約25時間経過した時点で応力のピークが発生している。
図19は、応力ピーク時の温度分布を示す図である。図19から分かるように、応力ピーク時には、コイル下部におけるコイル9の中心部から外周側に少し入った部位の温度が最も低くなっていることが分かる。
また、図20は応力ピーク時における応力分布を示す図であり、図20から分かるように、応力ピーク時には、r方向、θ方向共にコイル9の中心部と外周部との間に大きな応力分布が生じていることが分かる。
【0021】
以上の伝熱計算の結果及び熱電対での温度分布測定の結果から、従来は単純に熱変形により耳伸び(コイル上部)・耳歪み(コイル下部)・腹伸び・縦じわ等が発生していると考えられたが、それらは単純に発生しているのではないことが明らかとなった。
【0022】
発明者はコイル9の加熱過程に発生する欠陥の原因を以下のように考察した。
コイル9の径方向の中心部から外周側に少し寄った位置に温度の最も低い点(冷点)が存在する(図19参照)。そのため、コイル9は中心部から外周側に向かって順次温度が高くなるのではなく、中心部近くに極小値を持つことが分かる。温度勾配に極小値が存在するため、コイル9は加熱時の膨張の過程において、コイル9の冷点近くで巻き締まりの現象が生じ、これによって応力が発生していると考えられる。
そして、このような巻き締まりの現象が生ずることで、以下のような状況が生ずると考えられる。
【0023】
バッチ炉の炉壁およびインナーカバー5等の外側から加熱されて、熱放射によってコイル9が加熱されるため、最初にコイル外周部分の温度が上昇することとなる。そのため、加熱時には、コイル外周部が内周部に比較して熱膨張が大きくなる。そして、コイル9に巻き締まりが生ずると、図21に示されるように、熱膨張の大きいコイル外周部の下端部でコイル全体を持ち上げて保持しているような状態となる。
また、コイル外周下端部が外側に膨らむことにより、単に膨張による耳歪みとなるだけでなく、コイル9の重量をこの箇所で支えるため、それによる変形も発生し、さらにコイル9が膨張する際にコイル下のスペーサ35との摩擦による変形も生ずることとなる。
さらに、図21のような状態になっていると、図22に示すように、コイル9における径方向の途中にずりが発生することも考えられる。
【0024】
以上の考察から、発明者はコイルの加熱時においてコイルの径方向の部位において、巻き締まりが生じない状況をつくることで、上記のような現象が防止できると考えた。
つまり、従来の温度分布(温度勾配)を作らないという考えとは全く違い、コイルが巻き締まらないような温度勾配であればそれを許容する、さらに言えば積極的に温度勾配をつくることでコイル欠陥を抑制するという課題を解決できるとの知見を得た。そして、温度勾配をつくるための手段として、本発明においては、コイル支持台の形状を以下のように設定したものである。
【0025】
(1)本発明に係るコイル焼鈍装置は、コイルを横に倒してコイルの端面を載置する台部と該台部を支持する脚部とを有するコイル支持台を備えたコイル焼鈍装置であって、
前記脚部が、前記台部の下面側の外周部を囲むように全周に亘って設けられた壁状の外側脚部と、該外側脚部の内側に前記外側脚部と所定の空間を介して設けられた壁状の内側脚部とを備えてなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0026】
本発明においては、コイルを横に倒してコイルの端面を載置する台部と該台部を支持する脚部とを有するコイル支持台を備えたコイル焼鈍装置であって、前記脚部が、前記台部の下面側の外周部を囲むように全周に亘って設けられた壁状の外側脚部と、該外側脚部の内側に前記外側脚部と所定の空間を介して設けられた壁状の内側脚部とを備えたことにより、コイル加熱過程においてコイルに強い巻き締まりが生じず、巻き締まりに起因するコイル欠陥発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施の形態に係る焼鈍装置のコイル支持台の説明図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る焼鈍装置の説明図である。
【図3】図2の破線で囲んだ部分を拡大して示す拡大図である。
【図4】本発明の効果を確認するためのモデル実験におけるモデルの説明図である。
【図5】本発明の効果を確認するためのモデル実験の実験結果を示すグラフであり、冷点温度の時間推移を示している。
【図6】本発明の効果を確認するためのモデル実験の実験結果を示す図であり、応力ピーク時の温度分布を示している。
【図7】本発明の効果を確認するためのモデル実験の実験結果を示すグラフであり、半径方向(r方向)の圧縮応力の時間推移を示している。
【図8】本発明の効果を確認するためのモデル実験の実験結果を示すグラフであり、周方向(θ方向)の圧縮応力の時間推移を示している。
【図9】本発明の効果を確認するためのモデル実験の実験結果を示す図であり、応力ピーク時の応力分布を示している。
【図10】本発明の一実施の形態に係る焼鈍装置のコイル支持台の他の態様の説明図である。
【図11】図10に示したコイル支持台を用いた焼鈍装置の説明図である。
【図12】従来の焼鈍装置の説明図である。
【図13】従来の焼鈍装置の説明図であり、断面で示したものである。
【図14】図13の破線で囲んだ部分を拡大して示す拡大図である。
【図15】従来の焼鈍装置に用いられているコイル支持台の説明図である。
【図16】従来例の課題を説明するためのモデル実験におけるモデルの説明図である。
【図17】従来例の課題を説明するためのモデル実験の実験結果を示すグラフであり、半径方向(r方向)の圧縮応力の時間推移を示している。
【図18】従来例の課題を説明するためのモデル実験の実験結果を示すグラフであり、周方向(θ方向)の圧縮応力の時間推移を示している。
【図19】従来例の課題を説明するためのモデル実験の実験結果を示す図であり、応力ピーク時の応力分布を示している。
【図20】従来例の課題を説明するためのモデル実験の実験結果を示す図であり、応力ピーク時の応力分布を示している。
【図21】従来例の課題を説明するための説明図である。
【図22】従来例の課題を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の一実施の形態に係るコイル焼鈍装置1は、図2に示すように、炉の外壁3、外壁3内に設置されたインナーカバー5、インナーカバー5内に設置されたコイル支持台7、コイル支持台7の台部15上に設置されたスペーサ及びクッション(図示なし)を備えている。そして、コイル支持台7上に円筒状のコイル9が横向きに載置される。
インナーカバー5の外周部には断熱材11が巻かれ、コイル上部の開口部には断熱用の蓋13が設置されている。
インナーカバー5の外側にはバーナー(図示なし)が設置され、バーナーによる熱放射によってコイル9が加熱される。
本実施の形態のコイル支持台7は、図1に示すように、中央に円形の開口部15aを有する円盤状の台部15と、該台部15の下面側外周部を囲むように全周に亘って設けられた壁状の外側脚部17と、外側脚部17の内側に外側脚部17と所定の空間を介して設けられた壁状の内側脚部19とを備えてなるものである。
【0029】
上記のように構成されたコイル焼鈍装置1においては、バーナーによって炉内を加熱し、バーナーによる放射熱でインナーカバー5内のコイル9が加熱される。
本実施の形態のコイル支持台7は外側脚部17と内側脚部19を有しており、加熱の際に放射熱が外側脚部17及び内側脚部19によってある程度遮断される。そのため、コイル9の中心部への熱の伝達が小さくなり、コイル9の径方向の温度勾配が、外側が高く、中央部が低くなる。そのため、従来例ではコイル中心部からコイル外周部に亘る温度勾配に極小値が発生しているが、これがほとんどない状態となる。
【0030】
そのため、コイル9は加熱される過程で、外側の熱膨張が大きく、中央部に向かって熱膨張が小さくなる。これをコイル9全体としてみると、コイル9が巻き緩む状態となる。したがって、加熱の過程で、外側のコイル9が熱膨張しても、コイル9全体として巻き緩むために、コイル板同士の摩擦が少なく、内側のコイル9がコイル支持台7の台部15から浮上ることはなく、コイル9の下端面全体が台部15に当接した状態になる。
したがって、従来例のように加熱の過程でコイル9の外周端部でコイル9全体を支えるような状態にならず、そのような状態になることに起因する数々のコイル欠陥(耳歪み(コイル下部)・鋼板密着等)の発生が抑制される。
さらに、本発明を適用することにより、従来では不可能であった1個のコイル内に発生する特性のばらつきの抑制を達成することが可能となった。これによりさらに高い特性を焼鈍工程において狙うことが可能となり、製品の高品質化も期待できる。
【0031】
上記のような本実施の形態の効果をモデル実験による比較を行って確認した。
図4はモデル実験に用いたモデルの説明図であり、<モデル1>が従来のコイル支持台33を用いたもの(図4(a))、<モデル2>が外側のみに脚部を設けたコイル支持台21を用いたもの(図4(b))、<モデル3>が本発明のコイル支持台7を用いたもの(図4(c))である。
図5は、冷点温度の推移を示したグラフであり、縦軸が冷点の温度、横軸が加熱時間である。図5のグラフからいずれのモデルも冷点温度の推移には大きな差異はない。もっとも、従来例の方が本発明例よりも放射熱がコイル中央部に入り込みやすいことから冷点温度が若干高めである。
【0032】
図6は、r方向(半径方向)の圧縮応力の推移を示すグラフであり、縦軸が応力σ/MPaを示し、横軸が加熱時間t/Hrを示している。図6に示されるように、従来例と外側のみに脚部を設けたものでは大きな圧縮応力が発生しているが、内外に脚部を設けた本発明例では応力は低く抑えられている。
【0033】
図7は、θ方向(周方向)の圧縮応力の推移を示すグラフであり、縦軸が応力σ/MPaを示し、横軸が加熱時間t/Hrを示している。図7に示されるように、従来例と外側のみに脚部を設けたものでは大きな圧縮応力が発生しているが、内外に脚部を設けた本発明例では圧縮応力は低く抑えられている。
【0034】
図8は応力ピーク時の温度分布を示す図である。応力ピーク時の温度分布は、図8に示されるように、従来例(図8(a))が最も分布の変化が急峻であり、その次に外側のみに脚部を設けた例(図8(b))であり、本発明例(図8(c))が最も温度分布の変化が緩慢である。そして、従来例や外側のみに脚部を設けた例では冷点がコイル中心部から若干外側に寄った位置にあるのに対して、本発明例では冷点の位置がコイル中心部になっている。このことは、従来例や外側にのみ脚部を設けた例では、コイル中心部から外周部に向かう温度分布曲線が極小値を持つが、本発明例では極小値を持たない、あるいはもったとしても極小値とコイル中心部との温度差が小さいことを意味している。
【0035】
図9は応力ピーク時の応力分布を示す図である。応力ピーク時の応力分布は、図9に示されるように、r方向、θ方向共に本発明例が小さくなっていることが分かる。
【0036】
以上のように、モデル実験結果からも、本発明のコイル支持台7を用いたコイル焼鈍装置1によれば、加熱時における応力発生が抑えられ、それ故に従来で問題となった種々のコイル9に発生する変形を抑えることができる。
【実施例】
【0037】
本発明のコイル焼鈍装置1にて、焼鈍実験を行った場合の欠陥発生率と従来の焼鈍炉における欠陥発生率との比較を表1に示した。尚、欠陥については、密着および耳歪み(コイル下部)双方を含んでいる。実施条件は以下の通りである。なお、簡単にコイルの欠陥が1個でもあれば、欠陥コイルとした。ただし、検査ラインで見つけたとしても実際には廃棄はしないで発見箇所を切り出して、使用可能な箇所のみを使用するために欠陥があってもコイル自体は使用可能である。
【0038】
均熱温度は800℃目標で、昇温に48時間、均熱で60時間、冷却を炉冷にして74時間とした。その際のコイルは、板厚0.33mm、幅1050mm、コイル重量8tonのものを用いた。さらに炉内ガスとして、窒素ガスを使用し、流量は15l/minで実施した。実験は100コイル実施し、その発生率を示した。
【0039】
【表1】

【0040】
なお、上記の実施の形態では、一般的な冷延鋼板のコイルについて検討を実施してきたが、本発明が対象とするコイルはこれには限定されず、熱延鋼板、亜鉛などのめっき鋼板、ステンレス鋼板、さらには、アルミニウム板、アルミニウム合金板、マグネシウム板等の非鉄金属も含むコイルについても焼鈍の際の欠陥を低減することが可能である。
【0041】
また、上記の実施の形態ではコイル支持台7の台部15をコイル中央に開口部15aを設けたドーナツ状の台部15を示したが、例えば図10に示すような、開口部のない円盤状の台部23を有するコイル支持台22であってもよい。コイル支持台7に代えてコイル支持台22を用いた焼鈍装置24が図11に示されている。
【符号の説明】
【0042】
1 コイル焼鈍装置
3 外壁
5 インナーカバー
7 コイル支持台
9 コイル
11 断熱材
13 蓋
15 台部
15a 開口部
17 外側脚部
19 内側脚部
21 コイル支持台(比較例)
22 コイル支持台
23 台部
24 コイル焼鈍装置
31 焼鈍炉
33 コイル支持台(従来例)
35 スペーサ
37 断熱材・クッション
39 脚部(従来例)
41 台部(従来例)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルを横に倒してコイルの端面を載置する台部と該台部を支持する脚部とを有するコイル支持台を備えたコイル焼鈍装置であって、
前記脚部が、前記台部の下面側の外周部を囲むように全周に亘って設けられた壁状の外側脚部と、該外側脚部の内側に前記外側脚部と所定の空間を介して設けられた壁状の内側脚部とを備えてなることを特徴とするコイル焼鈍装置。

【図17】
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【図18】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2012−62495(P2012−62495A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−205279(P2010−205279)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)