説明

コイル用結束紐

【課題】充分な引張強さを有するとともに、端面のホツレを防止して作業性を向上したコイル結束紐を提供すること。
【解決手段】繊維糸を編組してなるコイル用結束紐であって、融点または分解温度が280℃以上の合成繊維からなる中心糸の外周に、融点または分解温度が280℃以上の合成繊維を編組してなる編組部が形成され、該編組部を構成する合成繊維の結晶融解熱量が、前記中心糸を構成する合成繊維の結晶融解熱量よりも大きいコイル用結束紐。前記融点または分解温度が280℃以上の合成繊維が、PPS繊維であるコイル用結束紐。前記編組部における組みピッチが、6.5mm以下であるコイル用結束紐。融点または分解温度が280℃以上の合成繊維からなる中心糸の外周に、融点または分解温度が280℃以上の合成繊維を編組して編組部を形成した後、ヒートセットを施すコイル用結束紐の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用モーターのコイルや、冷蔵庫、エアコンのコンプレッサーモーターのコイルを結束するための結束紐に係り、特に、充分な引張強さを有するとともに、端面のホツレを防止して作業性を向上したものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車用モーターや、冷蔵庫、エアコンのコンプレッサーモーターなどのコイルには、コイル線を結束するための結束紐が使用されている。近年では、機器の高性能化や多機能化などに応えるために、コイルの動作環境はますます厳しいものとなっており、結束紐についてもそれに追随でき得る特性が要求されている。例えば、現在、開発が進められている電気自動車用モーターにおいては、280℃以上の耐熱性とATF(オートマチックトランスミッションフルード)への耐久性が要求され、コンプレッサーモーターにおいては、代替フロン冷媒への耐久性が要求されている。勿論、結束紐の基本的特性として、充分な引張強さも必要である。このような要求に耐え得る結束紐として、例えば、ポリフェニレンサルファイド繊維(PPS繊維)やアラミド繊維のような繊維糸を編組してなるものが好適に使用されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3899647号公報:東レ
【特許文献2】特許第3848649号公報:ゴーセン
【特許文献3】特開2009−174104公報:ゴーセン
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方で、上記のようなポリフェニレンサルファイド繊維やアラミド繊維は、剛性の高い繊維であるため、切断した端面において、繊維の剛性によって編組が解けてしまい、ホツレが生じることとなっていた。このようなホツレが生じると、結束作業が非常に困難となるだけでなく、繊維の飛び出しが生じやすくなり、それに伴って引張強さの低下や耐摩耗性の低下を引き起こす問題があった。
【0005】
本発明はこのような従来技術の問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、充分な引張強さを有するとともに、端面のホツレを防止して作業性を向上したコイル結束紐を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するべく、本発明によるコイル結束紐は、融点または分解温度が280℃以上の合成繊維からなる中心糸の外周に、融点または分解温度が280℃以上の合成繊維を編組してなる編組部が形成され、該編組部を構成する合成繊維の結晶融解熱量が、前記中心糸を構成する合成繊維の結晶融解熱量よりも大きいことを特徴とするものである。
又、前記融点または分解温度が280℃以上の合成繊維が、ポリフェニレンサルファイド繊維であることが考えられる。
又、前記編組部における組みピッチが、6.5mm以下であることが考えられる。
又、本発明によるコイル結束紐の製造方法は、融点または分解温度が280℃以上の合成繊維からなる中心糸の外周に、融点または分解温度が280℃以上の合成繊維を編組して編組部を形成した後、ヒートセットを施したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明のコイル結束紐によると、編組された状態でヒートセットが施されることになることから、繊維糸が編組された形状に形状保持されることになるため、剛性の高い繊維を使用したとしても、切断した端面においては、ホツレが生じにくくなる。
また、ヒートセットが施された合成繊維は、結晶融解熱量が大きくなるとともに若干の引張強さが低下する傾向にある。ここで、本発明のコイル結束紐は、中心糸を構成する繊維の結晶融解熱量が小さいまま維持され、編組部を構成する繊維の結晶融解熱量が、中心糸の結晶融解熱量よりも大きくなっている構成であるので、この中心糸により充分な引張強さを得ることができ、全体として引張強さの向上を得ることができる。
また、編組のピッチが6.5mm以下であれば、上記ヒートセットの効果とあいまって更にホツレが生じることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明による実施の形態を示す図で、結束紐の構成を示す一部切欠き斜視図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。編組部3の繊維として、ポリフェニレンサルファイド繊維のマルチフィラメント(440dtex、100フィラメント)を小巻ボビンに16本用意し、製紐機にセットし、中心糸2の繊維として、ポリフェニレンサルファイド繊維のマルチフィラメント(440dtex、100フィラメント)を10本用意し、編組部3の中心部になるように製紐機にセットし、編組ピッチが6.0mmの条件で編組部3を構成し、結束紐1とする。次いで、この結束紐1を260℃の温度に保持された加熱炉内に連続的に導入してヒートセットさせる。このようにして、図1に示すような外径1.15mmの結束紐1が作成される。
【0010】
このようにして得られた結束紐について、ホツレ性、引張強さの特性について試験を行った。試験については、上記実施の形態によるものを実施例1、上記実施の形態において中心糸2がないもので、ヒートセットを施したものを比較例1、上記実施の形態においてヒートセットを施さなかったものを比較例2、上記実施の形態において中心糸2がないもので、ヒートセットを施さなかったものを比較例3とした。ホツレ性の試験は、刃で切断し端部の観察を行った。引張強さの試験は、JIS−L1013:2010の「8.5引張強さ及び伸び率」の「8.5.1標準時試験」に準拠して行った。これらの試験結果を表1に示す。
【0011】
又、実施例1及び比較例2における、編組部及び中心糸を構成する繊維について、DSC法(Differential Scanning Calorimety:走査型示差熱分析法)を用いて、標準物質とともに試料を10℃/分の上昇温度で加熱し、溶解または分解する熱量を測定した。これらの試験結果を表2に示す。
【0012】
【表1】

【0013】
【表2】

【0014】
表1に示すように、ヒートセットを施した実施例1、比較例1については、端面のホツレがまったくないため、結束作業を行うときなどの作業性が非常に良好なものであった。一方、ヒートセットを施さなかった比較例2、3は、切断時に端部の編組が解れ大きくホツレが生じてしまった。そのため、結束作業が非常に困難なものとなってしまった。また、実施例1、実施例2、比較例1、比較例2の何れの結束紐も、実使用上充分な引張強さを有していたが、中心糸2がない比較例1,3は、ヒートセットを施することで、引張強さが低下しているのに比べて、実施例1及び比較例2は、ヒートセットを施しても、高い引張強さを得ることが可能であった。
【0015】
なお、表2に示すように、ヒートセットを施した実施例1の中心糸を構成する繊維の結晶融解熱量は、ヒートセットを施していない比較例2の編組糸及び中心糸を構成する繊維の結晶融解熱量に近い値であったのに対し、実施例1の編組部を構成する繊維の結晶融解熱量は、実施例1の中心糸を構成する繊維の結晶融解熱量よりも大きくなっていることが確認された。
【0016】
本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。
【0017】
本発明で使用される融点または分解温度が280℃以上の合成繊維は、例えば、ポリフェニレンサルファイド繊維、アラミド繊維、ポリエーテルサルフォン繊維、ポリエーテルケトン繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、4フッ化エチレン繊維等が挙げられ、これらの中でも、ポリフェニレンサルファイド繊維が好ましい。繊維の太さは、使用条件等を考慮して適宜選定すれば良い。また、繊維の形状としては、従来公知の種々のものが使用される。例えば、モノフィラメント形状、マルチフィラメント形状、紡績糸形状などがあげられる。これらは使用条件等を考慮して適宜選択すれば良い。勿論、単独で使用しても良いし、複数種を併用して使用しても良い。これらの中でも、マルチフィラメント形状が、結束のし易さや結束の解け難さの観点より使用することが好ましい。
【0018】
中心糸2について、上記実施の形態では、10本の繊維糸を引き揃えて構成したが、例えば、撚り合わせても良いし、編組の組紐で構成することも考えられる。また、繊維糸の本数についても、出来上がり寸法や必要な引張強さ等に応じて適宜設計することができる。
【0019】
編組部3について、打ち数、編組ピッチなど、必要な特性に応じて適宜設計することができる。特に、編組ピッチについては、6.5mm以下とすることが好ましい。編組ピッチが6.5mmを超えると、切断した端面で編組が解けやすくなり、外力によってホツレが生じる可能性がある。
【0020】
また、上記実施の形態では、中心糸2及び編組部3の全ての繊維糸について、ポリフェニレンサルファイド繊維のマルチフィラメントを使用したが、例えば、中心糸2、編組部3を構成する繊維の太さを適宜変更したり、マルチフィラメントとモノフィラメントを組合せたりすることも考えられる。
【0021】
ヒートセットの温度や時間については、繊維糸の材料や太さ等に応じて、編組の形状に形状保持される程度となるよう、適宜設計すればよい。繊維糸の材料の融点を超える温度であると、繊維糸が溶融して切断してしまうこととなる。ヒートセットは、編組と同時に施してもよいし、編組をした後に別工程で施しても良い。また、編組部3の外周に、収束剤による被膜を形成することも考えられる。収束剤としては、例えば、溶剤により希釈されたワニスであるシリコーン系ワニス,ウレタン系ワニス,エポキシ系ワニス,アクリル系ワニス,不飽和ポリエステル系ワニス,アミドイミドエステル系ワニス,ポリブタジエン系ワニス,ポリイミド系ワニス,一般に水性塗料と称され、水を分散媒とした塗料であるアクリル系エマルション,ウレタン系エマルション,ポリオレフィン系エマルション,酢酸ビニル系エマルション,ポリエチレン系エマルション,ポリエステル系エマルション,スチレン系エマルション,シリコーン系エマルション、無溶剤塗料とも称され希釈されず用いられる光硬化塗料,熱硬化塗料,触媒重合塗料などが挙げられ特に限定されない。収束剤による被膜を形成する場合、被膜の焼付けとヒートセットを同時に行うことも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0022】
以上詳述したように本発明によれば、端面のホツレを防止して作業性を向上した結束紐を得ることができる。この結束紐は、例えば、自動車用モーターのコイルや、冷蔵庫、エアコンのコンプレッサーモーターのコイルを結束するための紐として好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0023】
1 結束紐
2 中心糸
3 編組

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維糸を編組してなるコイル用結束紐であって、
融点または分解温度が280℃以上の合成繊維からなる中心糸の外周に、融点または分解温度が280℃以上の合成繊維を編組してなる編組部が形成され、該編組部を構成する合成繊維の結晶融解熱量が、前記中心糸を構成する合成繊維の結晶融解熱量よりも大きいことを特徴とするコイル用結束紐。
【請求項2】
前記融点または分解温度が280℃以上の合成繊維が、ポリフェニレンサルファイド繊維であることを特徴とする請求項1記載のコイル用結束紐。
【請求項3】
前記編組部における組みピッチが、6.5mm以下であることを特徴とする請求項2記載のコイル用結束紐。
【請求項4】
繊維糸を編組してなるコイル用結束紐の製造方法であって、
融点または分解温度が280℃以上の合成繊維からなる中心糸の外周に、融点または分解温度が280℃以上の合成繊維を編組して編組部を形成した後、ヒートセットを施したことを特徴とするコイル用結束紐の製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2013−23776(P2013−23776A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157705(P2011−157705)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(000129529)株式会社クラベ (125)
【Fターム(参考)】