説明

コク味付与剤

【課題】 飲食品にコク味その中でも特にひろがりを付与できる飲食品素材を提供すること。
【解決手段】 鎖長が3以上11以下のポリエチレングリコール及び/またはそのモノエチルエーテル及び/またはそのモノベンジルエーテルを含有することを特徴とするコク味付与剤を用いる。またそのコク味付与剤を用いてコク味が付与された飲食品を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲食品にコク味を付与できるコク味付与剤に関する。
【背景技術】
【0002】
あつみ、ひろがりなどのコク味は長時間の調理的加熱によって生じることが知られているが、調味料業界では、タンパク加水分解物、各種エキスなどの調味料素材を用いてコク味を付与することが知られている(特許文献1)。
一方でポリエチレングリコール(以下、本発明においてPEGと記載することもある)は現在までに香気成分のカプセルとしての用法(特許文献2)や、粘度をつけることにより他香気成分の放出に影響を与え、香りや味を改善する方法が知られている(特許文献3)が、PEG自体は無味無臭であるためPEGの味やPEGが他の物質に与える味の影響についての検討は行われていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平08−143551号公報
【特許文献2】特表2008−539803号公報
【特許文献3】特表2008−542282号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしコク味付与の目的でタンパク加水分解物や、酵母エキスなどの各種エキス等の調味料素材を飲食品に配合することは知られていたが、全ての飲食品に、より汎用的にかつ安価にコク味を付与することが求められていた。
上記の背景下において、本発明の目的は、より汎用的に使用でき、飲食品にコク味その中でも特にひろがりを付与できる飲食品素材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明を完成した。本発明は以下の各発明を包含する。
(1) 鎖長が3以上11以下のポリエチレングリコール及び/またはそのモノエチルエーテル及び/またはそのモノベンジルエーテルを含有することを特徴とするコク味付与剤
(2) ポリエチレングリコール及び/またはそのモノメチルエーテル及び/またはそのモノベンジルエーテルを0.5以上100ppm以下含有することを特徴とする発明(1)記載のコク味付与剤
(3) 発明(1)又は発明(2)記載のコク味付与剤を用いてコク味が付与された飲食品
(4) ポリエチレングリコール及び/またはそのモノメチルエーテル及び/またはそのモノベンジルエーテルを0.5ppm以上100ppm以下含有することを特徴とする飲食品
【0006】
なお本発明は、これらの各構成の任意の組み合わせや、本発明の表現を方法、装置などの間で置きかえたものも含む。
【0007】
本発明者はコク味、その中でも特にひろがりを付与できる物質について鋭意研究を重ねた結果、PEGにコク味、その中でも特にひろがりの付与効果があることを確認し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、飲食品にコク味、その中でも特にひろがりを付与できるコク味付与剤、及びそれら付与剤によってコク味が付与される飲食品に関する。例えば本発明によれば、PEGを含んだコク味付与剤、該付与剤を用いた飲食品が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、飲食品のコク味付与剤、及びそれら付与剤によってコク味が付与された飲食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明におけるコク味付与剤は鎖長が3以上11以下のポリエチレングリコール及び/またはそのモノメチルエーテル及び/またはそのモノベンジルエーテルを含有することを特徴とする。
本発明において、ポリエチレングリコールとは、エチレングリコールが重合した構造をもつ高分子化合物で、H(OCH2CH2)nOHの構造を持つ物質の総称であり、よりひろがりを付与できる点からnは3以上、より好ましくは7以上、11以下、より好ましくは10以下が良い。
鎖長が3に満たない場合は苦味などが付与され好ましくない。鎖長が12より大きくても本発明の効果は見られるが飲食品に粘度がつきすぎるため好ましくない。
またポリエチレングリコールのモノメチルエーテルとはポリエチレングリコールの末端のOH基の水素がメチル基に置換されたものである。また、ポリエチレングリコールのモノベンジルエーテルは末端のOH基の水素がメチル基に置換されたものである。市販のものは様々な置換体が入手可能であるが、価格が安く、入手容易な事からメチル及び/またはベンジル置換体がよく用いられる。
【0010】
更にポリエチレングリコール及び/またはそのモノメチルエーテル及び/またはそのモノベンジルエーテルを飲食品中に0.5ppm以上100ppm以下、特に好ましくは1ppm以上100ppm以下含有することを特徴とする。濃度が0.5ppmに満たない場合は添加効果が弱く、100ppmを超える場合は苦味を生じるため好ましくない。
本発明のコク味付与剤はこれを飲食品に添加することによって、食物にコク味、特にひろがりを付与し、食物全体の呈味質を向上する効果がある。
【0011】
本発明において用いられるPEGは該成分が含有されており、飲食品に使用できるものであれば、合成品、抽出品、各種素材の加熱反応など様々な履歴のものを用いることができる。またこれら原料を使用する際は、直接添加、水や溶媒等を用いた希釈、混合等、利用形態に特に制限はない。
【0012】
本発明のコク味付与素材を飲食品に添加する際は乾燥粉末、ペースト、溶液など物性に制限はない。また、飲食品ならびに調味料への添加は製造前の原料、製造中、完成後、喫食直前、喫食中などいつ添加してもコク味付与の効果を得ることができる。
【0013】
また本発明においてコク味が付与される飲食品に特に限定はないが、日本茶、紅茶類などの飲料や畜肉加工品及び畜肉エキス、特にチキン加工品及びチキンエキスを用いた食物でより顕著な効果があり、具体的には、チキンコンソメスープ、ビーフコンソメスープ、カレー、ビーフシチュー、ホワイトシチュー、ハンバーグなどの洋風料理、中華系料理、和風系の料理、ウスターソース、デミグラスソース、各種タレ類などの各種調味料や鶏スープの素のような風味調味料、ピラフなどの米飯類がひろがり付与の点で好ましい。
【0014】
本発明において、コク味とは5原味を含め総合的に感じる味質を意味し、本発明ではコク味の中でも特にひろがりを向上させることが出来る。また、ひろがりとは口腔内への味質のひろがり感を意味する。
【0015】
以下、本発明について実施例でさらに説明するが、本発明の技術範囲はこれら実施例によって制限されるものではない。また本実施例において官能評価は全て訓練された4名のパネラーを用いて実施した。
【実施例】
【0016】
(実施例1 ポリエチレングリコールの鎖長変化による効果確認)
市販のチキンエキス(商品名「A-5410」、アリアケジャパン社製)の2%溶液に対し、各鎖長のポリエチレングリコール(東京化成社製)を5ppmとなるように加え、コク味、その中でも特に「ひろがり」の強さに関して官能評価を行った。PEG無添加のチキンエキス溶液をコントロール(1点)とし、下記の評価ワードで評価の点数付けを行った。添加した各鎖長の物質名と鎖長、およびその官能評価結果を表1に示す。2点以上のものをコク味付与効果があるとした。
(評価点指標)
1:全く効果なし
2:弱いコク味付与効果がある
3:中程度のコク味付与効果がある
4:強いコク味付与効果がある
5:非常に強いコク味付与効果がある
【0017】
【表1】

【0018】
表1の結果から、鎖長が3以上のポリエチレングリコールにコク味付与効果があることが確認された。特に鎖長が7以上、10以下が好ましいことが確認された。
【0019】
(実施例2 ポリエチレングリコールの類縁化合物による官能確認)
実施例1と同様に市販のチキンエキス(商品名「A-5410」、アリアケジャパン社製)の2%溶液に対し、PEGの類縁化合物(東京化成社製)を5ppmとなるように加え、コク味、その中でも特に「ひろがり」の強さに関して官能評価を行った。PEG類縁体無添加のチキンエキス溶液をコントロール(1点)とし、実施例1と同様の評価ワードで評価を行った。添加したPEG類縁体の物質名と官能評価結果を表2に示す。2点以上のものをコク味付与効果があるとした。
【0020】
【表2】

【0021】
表2の結果から、どのPEG類縁化合物においてもコク味付与効果があり、特にモノメチルエーテル体により好ましい効果があることが確認された。
【0022】
(実施例3 ポリエチレングリコール濃度を変化させたときの官能確認)
実施例1と同様に市販のチキンエキス(商品名「A-5410」、アリアケジャパン社製)の2%溶液に対し、ノナエチレングリコール(東京化成社製)を表3の濃度になるように加え、コク味、その中でも特に「ひろがり」の強さに関して官能評価を行った。PEG無添加のチキンエキス溶液をコントロール(1点)とし、実施例1と同様の評価ワードで評価を行った。添加したPEG濃度と官能評価結果を表3に示す。2点以上のものをコク味付与効果があるとした。
【0023】
【表3】

【0024】
表3の結果から、PEG無添加に比べるといずれの濃度でも効果は見られたが、0.5ppm以上、100ppm以下で2点以上となった。また100ppmを超えると苦味を感じられるようになった。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明によれば、飲食品のコク味付与剤、及びそれら付与剤によってコク味が付与された飲食品を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鎖長が3以上11以下のポリエチレングリコール及び/またはそのモノエチルエーテル及び/またはそのモノベンジルエーテルを含有することを特徴とするコク味付与剤
【請求項2】
ポリエチレングリコール及び/またはそのモノメチルエーテル及び/またはそのモノベンジルエーテルを0.5ppm以上100ppm以下含有することを特徴とする請求項1記載のコク味付与剤
【請求項3】
請求項1又は2記載のコク味付与剤を含有する飲食品
【請求項4】
ポリエチレングリコール及び/またはそのモノメチルエーテル及び/またはそのモノベンジルエーテルを0.5ppm以上100ppm以下含有することを特徴とする飲食品

【公開番号】特開2012−34645(P2012−34645A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−179210(P2010−179210)
【出願日】平成22年8月10日(2010.8.10)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】