説明

コグドVベルト

【課題】厳しい使用条件下においても、長期間に渡って正常に使用可能な耐久性に優れたコグドVベルトを実現する。
【解決手段】コグ201がプーリ50に接すると、円弧領域20Cが接触領域50Cの下端に到達する。このときコグ201は緩やかに湾曲しているため、コグ201の表面におけるプーリ50との接触面積は広くなる。また、ピッチ幅が大きくてコグ山頂領域20Pが広いため、プーリ50の溝底面50Bに向かって押し付けられた状態にあるコグ202、203のプーリ50に対する接触面積も広くなる。このようにコグの接触面積が広く保たれるため、コグドVベルト10は応力緩和性に優れている。さらに、耐熱性および形状追従性に優れた材質でコグを形成することにより、コグドVベルト10の耐久性が向上される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コグドVベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
プーリとの摩擦により動力を伝達するVベルトなどの摩擦伝動ベルトが知られている(例えば特許文献1参照)。Vベルトには、トラックやバス等の大型車を中心とした自動車の補機駆動用に幅広く用いられるコグドVベルトが含まれる。
【0003】
補機駆動のためのコグドVベルト等を含む自動車用のベルトは、安全走行のために所定の走行距離ごとに交換されることが多い。そして、通常は定期的に交換されるとはいえ、大型車の走行距離の増加等により、ベルトには優れた耐久性が要求される。また、定期的に交換されることの多いベルトに対し、補機プーリは、長期間に渡って交換なしに継続使用されることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−125164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
長期間に渡って継続使用される補機プーリ等に掛け回されるコグドVベルトは、厳しい条件下で使用される場合がある。例えば、補機プーリ間のミスアライメントの影響等により、プーリに偏摩耗が生じていた場合である。
【0006】
偏摩耗等の異常が生じていたプーリに使用されるコグドVベルトは、たとえ正常なプーリでの使用には十分なだけの耐久性を備えていたとしても、比較的早期のうちに切断や破損を引き起こすおそれがある。プーリが本来の形状を有さないために、正常なベルト走行が不可能となるためである。
【0007】
そこで本発明は、プーリ側に偏摩耗が生じていた等の厳しい使用条件下においても、長期間に渡って正常に使用可能な耐久性に優れたコグドVベルトを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明のコグドVベルトは、コグが、EPDMを主成分としており、コグ山頂領域とコグ山頂領域の両端に設けられた円弧領域とを備え、コグ山頂領域が円弧領域よりも緩やかに湾曲した凸状であることを特徴とする。
【0009】
コグドVベルトは、長手方向に沿った心線をさらに有し、心線の中心からコグのコグ底までの距離が、3.5mm以上5.5mm以下であることが好ましい。コグドVベルトのピッチ幅は7mm以上であることが好ましい。
【0010】
コグ山頂領域の曲率半径が4.0mm以上5.0mm以下の範囲にあり、円弧領域の曲率半径が0.8mm以上1.3mm以下の範囲にあることが好ましい。また、コグドVベルトは、背面を覆う上帆布をさらに有し、上帆布が二層構造であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、プーリ側に偏摩耗が生じていた等の厳しい使用条件下においても、長期間に渡って正常に使用可能な耐久性に優れたコグドVベルトを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態のコグドVベルトを示す側面図である。
【図2】図1のII−II線に沿って切断したコグドVベルトの断面図である。
【図3】比較例のコグドVベルトを示す側面図である。
【図4】実施例のコグドVベルトがプーリに巻き付けられた状態を概略的に示す側面図である。
【図5】比較例のコグドVベルトがプーリに巻き付けられた状態を概略的に示す側面図である。
【図6】実施例と比較例のコグドVベルトの走行試験の結果を示す図である。
【図7】実施例のコグドVベルトが、偏摩耗が生じたプーリに巻き付けられた状態を示す断面図である。
【図8】比較例のコグドVベルトが、偏摩耗が生じたプーリに巻き付けられた状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本実施形態のコグドVベルトを、図面を参照して説明する。図1は、本実施形態のコグドVベルトを示す側面図である。図2は、図1のII−II線に沿って切断したコグドVベルトの断面図である。
【0014】
本実施形態のコグドVベルト10は、例えば自動車の補機駆動に用いられる。コグドVベルト10は、背面側の上ゴム層12、心線14、底面側の下ゴム層16を含む。心線14は、上ゴム層12と下ゴム層16との間に埋設されており、コグドVベルト10の長手方向に沿って延びる。上ゴム層12と心線14との間、および下ゴム層16と心線14との間には、接着ゴム層18が設けられている。上ゴム層12および下ゴム層16は、主としてエチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)により形成されている。
【0015】
下ゴム層16には、複数のコグ20が設けられている。コグ20の表面は、底帆布22で覆われており、コグドVベルト10の背面、すなわちコグ20とは反対側の上ゴム層12の表面は上帆布24によって覆われている。上帆布24は二層構造であり、第1帆布25および第2帆布26が互いに接着され、重ねられている。
【0016】
コグ20においては、コグ山頂領域20Pが設けられている。コグ山頂領域20Pの両端には円弧領域20Cが設けられている。図示されたように、コグ山頂領域20Pは、平坦ではなく、円弧領域20Cよりも緩やかに湾曲した曲面である。すなわち、コグ20の側面形状、あるいはベルト長手方向に沿って切断された断面形状は、台形に近く、円弧領域20Cとコグ底20Bを結ぶ傾斜領域20Tではほぼ直線的であるものの、コグ山頂領域20Pが緩やかに隆起するように、コグ山頂領域20Pおよび円弧領域20Cが湾曲している。
【0017】
具体的には、コグ山頂領域20Pにおいては、曲率半径Rが4.0〜5.0mmほどの範囲内にあって例えば4.5mmであり、円弧領域20Cの曲率半径Rは、0.8〜1.3mmほどの範囲内にあって例えば1.1mmである。そしてコグ20は、コグ山頂領域20Pの中心がコグ山頂、すなわち心線14からの距離が最も長い領域となるように、凸状に膨らんでいる。なお、コグ20の表面におけるコグ底20B近傍での曲率半径Rは、1.5〜2.0mmほどで、例えば1.8mmである。
【0018】
コグドVベルト10においては、心線14の中心からコグ20のコグ底20Bまでの距離Dが比較的長くなっている。具体的には、距離Dは3.5mm以上であり、例えば4.5〜5.0mm程度である。コグドVベルト10の剛性を向上させるためである。なお図2においては、説明の便宜上、本来は断面に含まれないコグ底20Bを覆う底帆布22も鎖線にて示されている。
【0019】
距離Dの上限は、コグ20がプーリに掛け回されたときにコグ山頂領域20Pがプーリの溝底に接しないように、プーリの形状にも応じて定められる。距離Dの上限は、概ね5.5mmほどである。
【0020】
また、コグドVベルト10のピッチ幅P、すなわち隣り合うコグ底20B同士の間隔も長めに設計されている。具体的には、ピッチ幅Pは7mm以上であり、好ましくは10mm以上、例えば11〜12mm程度である。そしてコグ20の扁平率、すなわちコグ断面高さH/コグ断面幅P×100(%)は比較的小さく、35〜55(%)ほどである。このように、コグ20のベルト長手方向の幅を大きくすることにより、コグドVベルト10の剛性を向上させることができる。
【0021】
次に、比較例のコグドVベルトにつき説明する。図3は、比較例のコグドVベルトを示す側面図である。なお図3においては、実施例のコグドVベルト10に対応する構成要素は、コグドVベルト10の構成要素の符号に20を加えた符号で表されている。
【0022】
比較例のコグドVベルト30においては、心線34の中心からコグ40のコグ底40Bまでの距離D’が、実施例のコグドVベルト10における距離D(図1、2参照)よりも短い。また、ピッチ幅P’も、実施例のコグドVベルト10のピッチ幅Pよりも短く、ベルト長手方向におけるコグ40の幅が実施例よりも狭い。
【0023】
さらにコグ40の形状も、実施例のコグドVベルト10のコグ20とは異なる。すなわち、比較例のコグドVベルト30においては、コグ山頂領域40Pはほぼ平坦であり、湾曲していない。また、本実施形態における円弧領域20Cに対応する屈曲領域40Cにおいて、コグ40は湾曲しておらず屈曲している。すなわちコグ40は、実施例のコグ20よりも台形に近い形状を有する。
【0024】
また、コグドVベルト30の背面は、単一の上帆布44により覆われている。このように上帆布44が単一層である点も、本実施形態における二層構造の上帆布24とは異なる。
【0025】
次に、実施例と比較例のコグドVベルトのプーリへの巻付き状態につき説明する。図4は、実施例のコグドVベルト10がプーリに巻き付けられた状態を概略的に示す側面図である。図5は、比較例のコグドVベルト30がプーリに巻き付けられた状態を概略的に示す側面図である。
【0026】
矢印Aの示す方向に走行する実施例のコグドVベルト10がプーリ50に巻き付けられると、コグ20の側面20Sを含むコグドVベルト10の側面がプーリ50のプーリシーブの壁面を押圧しつつ、コグ20がプーリ50のV溝の溝底面50Bに向かって押し付けられる。なお図4および5では、説明の便宜上、プーリシーブは省略されているものの、コグドVベルト10がプーリシーブの壁面に接する領域を、接触領域50Cとして示している。
【0027】
コグ201を含むコグドVベルト10がプーリ50に接すると、図示されたように、まずは図中左側の円弧領域20Cが接触領域50Cの下端に到達する。このとき、上述のようにコグ201が緩やかに湾曲しているため、コグ201の表面において円弧領域20Cとプーリ50との接触面積は広くなる。
【0028】
また、コグドVベルト10においては、ピッチ幅P(図1参照)が大きくてコグ山頂領域20Pが広い。このため、プーリ50の溝底面50Bに向かって押し付けられた状態にあるコグ202、203などのプーリに対する接触面積も広くなる。このように、コグ20がプーリ50に接触を開始するときのみならず、コグドVベルト10がプーリ50に巻き付けられた状態においてもコグ20の接触面積が広く保たれるため、コグドVベルト10はさらに応力緩和性に優れている。
【0029】
さらにコグドVベルト10においては、心線14の中心からコグ20のコグ底20Bまでの距離DとコグドVベルト10のピッチ幅Pが大きくて側面20Sが広い(図1および2参照)ため、コグドVベルト10がプーリシーブの壁面に接する接触領域50Cも広い。
【0030】
以上のようにコグドVベルト10は、プーリ50に接触する領域が広く、応力を緩和し易くなっている。このように応力緩和性に優れたコグドVベルト10は、長期間に渡って走行されても、プーリ50への接触によるクラックの発生、および発熱を抑えることが可能であり、耐久性に優れている。
【0031】
さらに、距離D(図1および2参照)が大きいコグドVベルト10は、プーリ50に巻き付けられる前の状態において、曲がったり、ねじれたりしにくくなっている。このように、プーリ50に接する前の状態で、矢印Aの示す進行方向に向かって真っ直ぐ進むコグドVベルト10においては、不要な屈曲、ねじれによる発熱が防止されるため、特に耐久性に優れている。なお距離Dが大きいことにより、心線14を確実に保護できるという効果も認められる。
【0032】
また、上帆布24が二層構造である(図1、2参照)ことによっても、実施例のコグドVベルト10は耐久性に優れている。これは、一枚のみの上帆布は広範囲に渡って容易に剥離し、コグドVベルト10の破断の要因となり得るのに対し、二層構造であれば剥離しにくいためである。
【0033】
さらに、三層以上の帆布を重ねて上帆布とすると、上帆布の剛性が必要以上に高くなり、心線14よりも内側でデラミネーションが生じ、コグドVベルト10の強度が低下し易い傾向にある。これに対し、二層構造の上帆布24は剛性が適度に保たれる。すなわち、本実施形態では、デラミネーションが生じ得るのは主として心線14よりも上帆布24側であり、このようなデラミネーションは、コグドVベルト10の強度を著しく低下させる可能性が低い。
【0034】
一方、図5に示されるように、比較例のコグドVベルト30がプーリ50に巻き付けられると、コグ401がプーリに接する。このとき、コグ401の屈曲領域40Cが角張っているために、コグ401の表面におけるプーリシーブとの接触面積は狭くなる。このため比較例のコグドVベルト30は応力緩和性に優れておらず、実施例のコグドVベルト10よりも耐久性が低い。
【0035】
また、比較例のコグドVベルト30においては、ピッチ幅P’(図3参照)が小さくてコグ山頂領域40Pが狭いため、プーリ50の溝底面50Bに向かって押し付けられた状態にあるコグ402、403などのプーリに対する接触面積も狭い。このように、プーリ50への接触時のみならず巻き付けられた状態においてもコグ40の接触面積が狭くなるため、コグドVベルト30は応力緩和性に劣る。また、距離D’とピッチ幅P’とが小さくてコグ40の側面40Sが狭く(図3参照)、コグドVベルト30がプーリシーブの壁面に接する接触領域50Cが実施例のコグドVベルト10(図4参照)よりも狭いことも、コグドVベルト30の応力緩和性を低下させる。
【0036】
さらに、距離D’(図3参照)が小さいことにより、コグドVベルト30は、プーリ50に巻き付けられる前に、曲がったり、ねじれたりし易い。このように、不要な屈曲、ねじれによる発熱のおそれがある点においても、比較例のコグドVベルト30は耐久性に劣る。
【0037】
また、実施例と比較例のいずれとも形状が異なり、コグの側面形状が半円形に近いコグドVベルトも、実施例のコグドベルト10に比べて耐久性に劣る傾向にある。比較例のコグドVベルト30と同様にプーリ50に対する接触面積が小さく、応力緩和性が低いためである。
【0038】
比較例等に比べて応力緩和性、耐久性に優れる本実施形態のコグドVベルト10は、例えばプーリ50に偏摩耗が生じたといった過酷な使用条件下でも、変形、および変形による発熱を最小限に抑え、正常な走行を可能にし得る。
【0039】
次に、コグドVベルトの材質につき説明する。表1は、実施例および比較例のコグドVベルトを構成する部材の材質を示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1に示されるように、実施例のコグドVベルト10においては、コグ20(図1、2参照)の主成分はEPDMである。これに対し、比較例のコグドVベルト30では、クロロプレンゴム(CR)を用いてコグ40(図3参照)が形成されている。
【0042】
コグの材質としてのEPDMとCRの適否と、上述のように互いに異なる形状のコグドVベルトの耐久性を評価するために、実施例と比較例1〜3のコグドVベルトについて、走行試験を行った。この走行試験においては、偏摩耗したプーリを含む3つのプーリにコグドVベルトを掛け回し、室温下で830Nの張力を与えつつ、各コグドVベルトを走行させた。このとき、偏摩耗プーリを他のプーリに対してプーリ軸方向にわずかにずらして配置させることにより、各コグドVベルトを0.5°だけ傾いた状態で走行させた。
【0043】
図6は、実施例と比較例のコグドVベルトの走行試験の結果を示す図である。図6では、実施例のコグドVベルト走行時間を100とした場合の相対的な走行時間の比を横軸に、リブゴムの硬度(JIS−A)を縦軸に示している。
【0044】
比較例1は、上述のコグドVベルト30であって、上ゴム32、下ゴム36および接着ゴム38の材質としてCRを用いた、実施例とは異なる形状のコグ40(以下、台形コグ形状という)を有する。比較例2は、実施例と同じEPDMを用いた台形コグ形状、比較例3は、比較例1と同じ材質を用いた実施例と同じ形状のコグ(以下、円弧コグ形状という)を有するコグドVベルトである。すなわち、比較例1においてはコグの材質と形状の両方、比較例2においてはコグの形状、比較例3においてはコグの材質が、実施例とは異なる。なおこの走行試験においては、比較例1および2のコグドVベルトは破断するまで、比較例3および実施例のコグドVベルトはコグが破損するまで、いずれも上述の条件下で走行させた。
【0045】
実施例と比較例2を比較すると、走行前のコグの硬度は、いずれも87、88(JIS A・以下同じ)前後で同程度であったところ、比較例2では、実施例よりも早くリブゴムの硬度が上昇し、かつ切断までの走行時間が短かった。これに対し、実施例のコグドVベルト10は、リブゴムの硬度上昇が緩やかであり、切断するまでの時間が比較例2の5倍以上長かった。
【0046】
この結果は、円弧コグ形状を有するコグドVベルトは、台形コグ形状のコグドVベルトよりも耐久性に優れていることを示す。さらにこのことは、円弧コグ形状の比較例3が、コグの材質が比較例3と同じであって台形コグ形状を有する比較例1よりも良好な結果を示していることによっても明らかである。
【0047】
また、実施例と比較例3とを比較すると、走行後の硬度は、比較例3では短時間のうちに95以上の値になったのに対し、実施例のコグドVベルト10のコグ20の硬度は、長い時間に渡ってほぼ初期値の88前後を保ち、安定していた。これは、EPDMのコグの内部発熱量が大幅に小さいことによると考えられる。
【0048】
コグの硬さ上昇、すなわち硬化劣化が抑制されていれば、コグドVベルトは、応力緩和性が良好でクラック等も生じにくく、耐久性に優れている。このため、実施例のコグドVベルト10は比較例3に比べて長時間走行可能であった。以上のように、コグドVベルト10のコグ20の材質としては、CRよりもEPDMの方が優れていることが確認された。さらにこのことは、比較例2が、コグ形状が比較例2と同じであって材質のみが異なる比較例1よりも良好な結果を示したことからも明らかである。なお、EPDMがCRよりも優れているのは、耐熱性のみならず、形状追従性も以下のようにより良好である。
【0049】
図7は、実施例のコグドVベルト10が、溝底面50Bの近傍に偏摩耗が生じたプーリ50に巻き付けられた状態を示す断面図である。図8は、比較例のコグドVベルト30が、溝底面50Bの近傍に偏摩耗が生じたプーリ50に巻き付けられた状態を示す断面図である。
【0050】
長期間の使用により偏摩耗が生じたプーリ50に実施例のコグドVベルト10を巻き付けて走行させると、コグ20が偏摩耗したプーリ50の形状に対応して摩耗し、V溝のプーリ50の凹部である偏摩耗領域50Dに倣う形状になった。このように、コグ20において、プーリ50の偏摩耗に追従した追従領域20Eを形成することにより、コグ山頂領域20Pが溝底面50Bに対して傾くこともなく、コグドVベルト10は正常に走行可能であった。
【0051】
これに対し、比較例のコグドVベルト30を同じプーリ50に巻き付けて走行させると、コグ40においては、図8に示されたように、コグ山頂領域40Pが偏摩耗領域50Dに乗り上げ、コグドVベルト30は傾斜した。
【0052】
この場合、コグドVベルト30がプーリ50に対して線接触することとなり、接触部位に異常な摩耗が進行したり、あるいは接触部位で生じたクラックが心線34まで到達してしまう可能性がある。その結果、正常な動力の伝達が不可能となるおそれがある。以上のことから明らかであるように、実施例におけるEPDMは形状追従性においてもCRより優れており、コグ20の材質として適している。
【0053】
以上のように本実施形態のコグドVベルト10は、応力緩和性、耐久性を向上させる形状を有するとともにコグ20の材質が適当であることによる相乗効果によって、例えば、偏摩耗の生じたプーリ50に巻き付けられるといった厳しい使用条件下でも正常に走行できる。さらに、塩素を含むCRの代わりに塩素を含まないEPDMを用いることから、環境問題への対応も可能である。
【0054】
コグドVベルト10の形状、材質等については、上述の実施形態におけるものに限定されない。例えば、コグ20の寸法等を、使用されるプーリ50の形状等に応じて適宜変更しても良い。また、EPDMのみではなく、耐熱性に優れる水素化ニトリルゴム(H−NBR)、ウレタンゴム等、あるいはこれらの混合物、CR等の他の成分を含みつつEPDM、H−NBR、またはウレタンゴムを主成分とする材料等を用いてコグ20を形成しても良く、上ゴム層12、下ゴム層16内に短繊維を含めても良い。コグドVベルト10は、自動車の補機駆動以外の用途で使用されても良い。
【符号の説明】
【0055】
10 コグドVベルト
14 心線
20 コグ
20B コグ底
20C 円弧領域
20P コグ山頂領域
24 上帆布
P ピッチ幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コグドVベルトのコグが、EPDMを主成分としており、コグ山頂領域と前記コグ山頂領域の両端に設けられた円弧領域とを備え、前記コグ山頂領域が前記円弧領域よりも緩やかに湾曲した凸状であることを特徴とするコグドVベルト。
【請求項2】
前記コグドVベルトの長手方向に沿った心線をさらに有し、前記心線の中心から前記コグのコグ底までの距離が、3.5mm以上5.5mm以下の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載のコグドVベルト。
【請求項3】
前記コグドVベルトのピッチ幅が7mm以上であることを特徴とする請求項1に記載のコグドVベルト。
【請求項4】
前記コグ山頂領域の曲率半径が4.0mm以上5.0mm以下の範囲にあり、前記円弧領域の曲率半径が0.8mm以上1.3mm以下の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載のコグドVベルト。
【請求項5】
前記コグドVベルトの背面を覆う上帆布をさらに有し、前記上帆布が二層構造であることを特徴とする請求項1に記載のコグドVベルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−185509(P2010−185509A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−29695(P2009−29695)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(000115245)ゲイツ・ユニッタ・アジア株式会社 (101)