説明

コネクタ

【課題】アクチュエータが薄型でコンタクトが狭ピッチであっても、アクチュエータを強度的に強く、かつ樹脂により精度よく成形でき、かつ接続対象物の挿脱方向に対して略直交するアンロック位置に位置するアクチュエータを接続対象物の脱出方向に押圧した場合であってもアクチュエータがインシュレータから脱落するのを防止できるコネクタを提供する。
【解決手段】アクチュエータ70の逃げ用凹部72と反対側の面に逃げ用凹部とは独立させて形成した、アクチュエータがアンロック位置に位置するときにフック部46aに第1固定片41側から係合する回転規制面74aを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FPCやFFC等の薄板状の接続対象物を接続するためのコネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
図14は、薄板状の接続対象物(FPCやFFC等)を接続可能で、アクチュエータを接続対象物の脱出方向と反対側に倒したときにコンタクトが接続対象物に接触するタイプのコネクタの従来例である。
このコネクタは、接続対象物を挿脱可能なインシュレータと、インシュレータに並べて固定した複数の金属製のコンタクトと、インシュレータに回転可能に支持した板状の樹脂製部材であるアクチュエータと、を具備している。コンタクトは、接続対象物の挿入方向と略平行な固定片と、中間部を中心に固定片に対して揺動可能な可動片と、を有しており、固定片と可動片の一方の端部(図14では左側の端部)間に接続対象物を挿脱可能である。可動片と固定片の他方の端部(図14では右側の端部)側にはそれぞれ係合突起と抜止突起が突設してある。また、アクチュエータの端部には固定片と可動片の他方の端部間に位置するカム部が形成してあり、アクチュエータのカム部の近傍には複数の貫通孔がコンタクトと同じ方向に並べて形成してある。
【0003】
図14(a)に示すように、アクチュエータがインシュレータの長手方向に対して略直交するアンロック位置に位置するとき、各コンタクトの可動片の他方の端部がアクチュエータの対応する貫通孔をそれぞれ貫通し、かつ、カム部は可動片から離間している。
一方、図14(b)に示すように、接続対象物を固定片と可動片の一方の端部間に挿入した状態でアクチュエータを接続対象物の脱出方向と反対側に倒したロック位置まで回転させると、カム部が可動片の他方の端部を固定片から離れる方向に押圧するので、可動片の一方の端部が固定片側に近づいて接続対象物に接触する。また、可動片の係合突起と固定片の抜止突起が貫通孔に嵌合してカム部にそれぞれ係合するので、カム部が固定片と可動片の間から図14の右方向に抜け出すのが防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−31561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、この種のコネクタに対して低背化(1mm以下)及び高密度化が強く要求されているため、部品として使用されるアクチュエータは薄型化しなければならない。この薄型化に対応するためには、樹脂製であり可動片へ操作力を伝えるカム部もより薄く(図14(a)上下方向)、より低く(図14(b)上下方向)しなければならない。
しかしカム部を小型にした場合であっても、ロック位置、アンロック位置、及び、回動操作位置にあるカム部の脱落を防止する必要がある。そのため従来は、アクチュエータに可動片を貫通させる貫通孔を設けて係合突起と抜止突起を接触対象物の挿入方向に対して略同一の位置に形成し、係合突起と抜止突起との距離をカム部の寸法より狭くすることで、アクチュエータ(カム部)の挿脱方向への脱落を防止している。
その一方で、アクチュエータはアンロック位置の角度状態にした上でカム部を抜止突起と係合突起との間に挿入し係合突起を乗り越えさせることでカム部をコンタクトに組み付けているので、抜止突起はテーパを有する狭幅(図14の左右方向寸法が小さい)形状としてある。しかし、生産工程等でのアクチュエータのロック操作時等に、作業者が誤ってアンロック位置に位置するアクチュエータを接続対象物の脱出方向側に押してカム部を中心に回転させてしまった場合に、カム部がテーパを有する小型の抜止突起を乗り越えて固定片と可動片の他方の端部間から(図14の右方向)に抜け出し、アクチュエータが脱落するおそれがある。
【0006】
本発明の目的は、薄型にした場合であっても、接続対象物の挿脱方向に対して略直交するアンロック位置に位置するアクチュエータを接続対象物の脱出方向に押圧した場合にアクチュエータのインシュレータからの脱落を防止できるコネクタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のコネクタは、薄板状の接続対象物が挿入及び脱出可能なインシュレータと、該インシュレータに固定した上記接続対象物の挿入方向と略平行な第1固定片と、中間部を中心に第1固定片に対して揺動可能な第1可動片と、を有し、第1固定片と第1可動片の一方の端部間に上記接続対象物が挿入される第1コンタクトと、上記脱出方向と反対側に倒れるロック位置と上記挿入方向に対して略直交するアンロック位置との間をインシュレータに対して回転可能で、かつ、上記第1可動片と第1固定片の他方の端部間に位置し、ロック位置に移動したときに上記第1可動片の他方の端部を第1固定片から離れる方向に押圧して第1可動片の一方の端部を上記接続対象物に接触させるカム部を有するアクチュエータと、を備えるコネクタにおいて、上記第1固定片に上記カム部より他方の端部側に位置させて突設した、上記一方の端部側に向かって突出するフック部を有し、かつ上記一方の端部側に上記第1可動片の上記他方の端部が位置する抜止突起と、上記アクチュエータに形成した、アクチュエータが上記アンロック位置に位置するときに上記第1可動片の他方の端部が嵌合する逃げ用凹部と、上記アクチュエータの上記逃げ用凹部と反対側の面に形成した、アクチュエータが上記アンロック位置に位置するときに上記フック部に上記第1固定片側から係合する回転規制面と、を備えることを特徴としている。
【0008】
上記第1固定片の側面に、上記インシュレータに接触する側部突起を突設してもよい。
上記アクチュエータに、上記逃げ用凹部と上記回転規制面を気密状態で仕切る分断壁を形成してもよい。
【0009】
上記インシュレータに固定した上記接続対象物の挿入方向と略平行な第2固定片と、中間部を中心に第2固定片に対して揺動可能な第2可動片と、を有し、第2固定片と第2可動片の一方の端部間に上記接続対象物が挿入される第2コンタクトを備え、上記アクチュエータの上記逃げ用凹部を形成した側の面に、アクチュエータが上記アンロック位置に位置するときに上記第2可動片の他方の端部が当接するアンロック時当接面を形成してもよい。
【0010】
上記アクチュエータの上記逃げ用凹部と反対側の面に形成した、上記ロック位置に位置するときに、上記第1固定片またはインシュレータの上記抜止突起より上記一方の端部に位置する部分に形成した扁平面に面接触する、扁平なロック保持面を備えてもよい。
【0011】
上記アクチュエータの上記逃げ用凹部と反対側の面に、上記ロック位置に位置するときに上記抜止突起が嵌合する、上記逃げ用凹部及びカム部とは独立した抜止用凹部を形成してもよい。
【0012】
上記アクチュエータが、上記アンロック位置に位置するときに上記第1固定片またはインシュレータの上記抜止突起より上記一方の端部に位置する部分に形成した扁平面に面接触する、扁平なアンロック保持面を備えていてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、第1可動片の他方の端部を第1固定片の抜止突起より一方の端部側に位置させることにより、接触対象物の挿抜方向において第1可動片の他方の端部と抜止突起との間にコンタクト長手方向の空間(距離)を形成し、かつアクチュエータにアンロック位置に位置するときに第1可動片の他方の端部が嵌合する逃げ用凹部と、固定片の抜止突起が係合する回転規制面とを形成している。従って、コネクタを薄型にした場合であっても、逃げ用凹部に可動片の他方の端部を嵌合することによるアクチュエータのアンロック位置までの回転動作と、誤作業時におけるアクチュエータ脱落防止を両立させることが可能である。
アクチュエータの脱落は具体的には以下のようにして防止される。即ち、アクチュエータがアンロック位置に位置すると第1コンタクト(第1固定片)に突設した抜止突起のフック部に対してアクチュエータに形成した回転規制面が第1固定片側から係合する。そのため、操作者が誤ってアンロック位置に位置するアクチュエータを接続対象物の脱出方向側に押圧しても、フック部と回転規制面によってアクチュエータの回転が阻止されるので、カム部が第1固定片と第1可動片の(他方の端部の)間から抜け出し、アクチュエータがコンタクト及びインシュレータから脱落するのを防止できる。
【0014】
請求項2の構成によれば、第1固定片のインシュレータに対する相対移動を確実に規制できる。
請求項3の構成によれば、カム部の強度が向上するとともに、(逃げ用凹部と回転規制面を形成した部分が)孔部とならないためアクチュエータ全体の剛性が向上するので、アクチュエータの回転挙動が安定する。また、孔部とならないため、射出成形時の樹脂の流動性の観点からも流動抵抗が減少するため好適である。
【0015】
請求項4のように構成すれば、第2可動片の他方の端部とアンロック時当接面との当接により、アクチュエータは接触対象部の脱出方向へは移動できずに挿入方向側に位置規制されるため、アクチュエータの回転規制面と抜止突起のフック部との係合がより確実なものとなり、誤作業時のアクチュエータの脱落をより防止できる。
【0016】
請求項5のように構成すれば、しかも、アクチュエータにおけるロック保持面側には逃げ用凹部が存在しないので、ロック保持面を大きく形成できる。そのため、ロック保持面によってアクチュエータをロック位置に保持し易いので、コンタクト(可動片)と接続対象物の接圧の変化を防止できる。
【0017】
請求項6のように構成すれば、抜止用凹部は抜止突起が嵌合する逃げ用凹部とは非連続に独立別個に形成するので、抜止用凹部近傍の強度を向上させることができる。従って、アクチュエータがロック位置のときの抜止突起と抜止用凹部の係合により、アクチュエータの抜け防止効果(保持力)が向上するのでアクチュエータが通常の操作により不用意に抜けたり、アクチュエータの無理な操作により抜けることがない。
さらに、アクチュエータのコンタクト(及びインシュレータ)に対する接続対象物の挿入及び脱出方向に対する相対移動を規制できるので、可動片の変位が規制されることから、アクチュエータの移動に起因する接触圧力や接触抵抗の変動を抑えることが可能となる。
また、抜止突起がカム部に当たらないので、抜止突起によってカム部が削られるおそれがない。
しかも、アクチュエータがロック位置に移動したときに可動片の他方の端部が嵌合しない抜止用凹部は逃げ用凹部とは独立した凹部なので、抜止用凹部の幅や形状は(逃げ用凹部に影響されることなく)個別に設定することができ、逃げ用凹部に合わせて広くする必要等もない。
【0018】
請求項7記載の発明のようにアクチュエータにアンロック保持面を形成すれば、アクチュエータがアンロック位置に移動したときに、アクチュエータをアンロック位置に保持し易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態のアクチュエータがアンロック位置に位置するコネクタとFPCの斜視図である。
【図2】FPCをコネクタに挿入しアクチュエータをロック位置に位置させたときのコネクタとFPCの斜視図である。
【図3】前側から見たコネクタの分解斜視図である。
【図4】後側から見たコネクタの分解斜視図である。
【図5】アクチュエータがアンロック位置に位置するときのコネクタの底面図である。
【図6】図5のVI−VI矢線に沿う断面図である。
【図7】図5のVII−VII矢線に沿う断面図である。
【図8】図5のVIII−VIII矢線に沿う断面図である。
【図9】図7のIX−IX矢線に沿う断面図である。
【図10】アクチュエータがアンロック位置とロック位置の中間位置に位置するときの図7と同様の断面図である。
【図11】アクチュエータがアンロック位置とロック位置の中間位置に位置するときの図8と同様の断面図である。
【図12】アクチュエータがロック位置に位置するときの図7と同様の断面図である。
【図13】アクチュエータがロック位置に位置するときの図8と同様の断面図である。
【図14】従来のコネクタを示す図であり、(a)は図7と同様の断面図、(b)は図8と同様の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照しながら本発明の一実施形態について説明する。なお、以下の説明中の前後、左右、及び上下の方向は、図中の矢印の方向を基準としている。
本実施形態のコネクタ10は、大きな構成要素としてインシュレータ20、第1コンタクト40、第2コンタクト60、及び、アクチュエータ70を具備している。
インシュレータ20は絶縁性かつ耐熱性の合成樹脂材料を射出成形したものである。インシュレータ20の前面の左右両端部を除く部分にはインシュレータ20の前後方向の中央部まで延びるFPC挿入溝21が凹設してある。インシュレータ20の上面における後部の左右両端部を除く部分にはアクチュエータ受入用凹部22が凹設してあり、インシュレータ20の後面におけるアクチュエータ受入用凹部22の左右両側には一対の軸受用凹部23が凹設してある。インシュレータ20の前面におけるFPC挿入溝21の左右両端部より内側に位置する部分には、インシュレータ20の後端まで直線的に延びる計17本の第1コンタクト挿入溝25が所定間隔おきに形成してある(図3、図7等を参照)。インシュレータ20の前面における第1コンタクト挿入溝25の両側には、後方に向かって直線的に延びる計18本の第2コンタクト挿入溝27が所定間隔おきに左右方向に並べて形成してある。図示するように各第1コンタクト挿入溝25及び第2コンタクト挿入溝27の前半部はFPC挿入溝21の天井面と底面にまで及んでおり(図3、図7、図8等を参照)、各第1コンタクト挿入溝25及び第2コンタクト挿入溝27の後半部の上半部がアクチュエータ受入用凹部22と連通している(図4、図7、図8等を参照)。図8、図11、図13に示すようにインシュレータ20の後部の下半部には、各第2コンタクト挿入溝27の前半部の下部と連通する計18本の支持用凹部26が左右方向に並べて凹設してある。また、隣り合う第1コンタクト挿入溝25と第2コンタクト挿入溝27の間には両者を仕切る仕切壁24が形成してある。
【0021】
インシュレータ20の前半部の左右両側部には、インシュレータ20を上下方向に貫通する平面視矩形の貫通孔29が形成してあり、左右の貫通孔29はインシュレータ20の内部においてFPC挿入溝21と連通している。
図5及び図9に示すように、インシュレータ20の底面における左右の貫通孔29の間に位置する部分には、計17個の型抜き孔33が貫通孔として形成してある。この型抜き孔33は、第1コンタクト挿入溝25とその左側に位置する第2コンタクト挿入溝27との間を仕切る仕切壁24の下端部にまで達しており、かつ、仕切壁24の左右に位置する第1コンタクト挿入溝25及び第2コンタクト挿入溝27と連通している。
【0022】
計17本の第1コンタクト40と計18本の第2コンタクト60は、ばね弾性を備えた銅合金(例えばリン青銅、ベリリウム銅、チタン銅)やコルソン系銅合金の薄板を図示の形状に順送金型(スタンピング)により成形加工したものであり、表面にニッケルメッキで下地を形成した後に、金メッキを施している。
図示するように第1コンタクト40は側面視略H字形状であり、略前後方向に延びる固定片(第1固定片)41と、固定片41より短寸で略前後方向に延びる可動片(第1可動片)42と、固定片41と可動片42の中間部同士を接続する弾性変形可能な変形接続部43と、を具備している。固定片41の前端部には接触突部44が上向きに突設してあり、固定片41の中間部と後端部近傍には中間突部45と抜止突起46がそれぞれ上向きに突設してある。図示するように抜止突起46の上端部には前方に向かって湾曲するフック部46aが突設してある。さらに固定片41の下面の後端部近傍には鉤状係止部47が突設してあり、固定片41の中間突部45が形成された部分の左側面には、当該部分の右側面を左側に凹ませることにより型抜き孔33と略同じ前後長の側部突起48が突設してある(図4、図9等を参照)。可動片42の前端部は固定片41の前端部と同じ位置に位置しており、当該前端部には接触突部49が下向きに突設してある。可動片42の後端部は抜止突起46より前方に位置しており、当該後端部には係合突起50が下向きに突設してある。
図示するように第2コンタクト60は側面視略H字形状であり、略前後方向に延びる固定片(第2固定片)61と、固定片61より短寸で略前後方向に延びる可動片(第2固定片)62と、固定片61と可動片62の中間部同士を接続する弾性変形可能な変形接続部63と、を具備している。固定片61の前端部には鉤状係止部64が突設してあり、固定片61の上面の中間部と後端部近傍には接触突部65と抜止用突部66がそれぞれ上向きに突設してある。可動片62の前端部は固定片61の前端部より後方に位置しており、当該前端部には接触突部67が下向きに突設してある。可動片62の後端部は固定片61の後端部より後方に位置しており、当該後端部には係合突起68が下向きに突設してある。
【0023】
各第1コンタクト40はインシュレータ20の後方から各第1コンタクト挿入溝25に挿入してある。図7、図10、図12に示すように、各第1コンタクト40を第1コンタクト挿入溝25に挿入すると、固定片41の下面は対応する第1コンタクト挿入溝25の底面に接触し、可動片42の上面は対応する第1コンタクト挿入溝25の天井面から下方に離間し、鉤状係止部47が第1コンタクト挿入溝25の底部の後縁部に係合する。さらに図9に示すように、固定片41の左側面に突設した側部突起48が仕切壁24の下端部に形成された型抜き孔33に嵌合するので、鉤状係止部47と側部突起48によって、固定片41の第1コンタクト挿入溝25の底面に対する前後動が規制される。
各第2コンタクト60はインシュレータ20の前方から各第2コンタクト挿入溝27に挿入してある。図8、図11、図13に示すように、各第2コンタクト60を第2コンタクト挿入溝27に挿入すると、固定片61の下面は対応する第2コンタクト挿入溝27の底面に接触し、可動片62の上面は対応する第2コンタクト挿入溝27の天井面から下方に離間し、鉤状係止部64が第2コンタクト挿入溝27の底部の前縁部に係合する。さらに、固定片61の後端部が対応する支持用凹部26に嵌合し、かつ、各抜止用突部66が支持用凹部26の天井面に食い込むので、鉤状係止部64と抜止用突部66によって固定片61の第2コンタクト挿入溝27の底面に対する前後動が規制される。
また、図8に示すように各第1コンタクト40の接触突部44及び接触突部49は、各第2コンタクト60の接触突部65及び接触突部67よりも前方に位置している。
【0024】
左右方向に延びる板状部材である回転式のアクチュエータ70は耐熱性の合成樹脂材料を金属製の成形型を利用して射出成形したものである。左右両側面の下端部には左方と右方に向かってそれぞれ延び、かつ互いに同軸をなす回転支持軸71が突設してある。アクチュエータ70の表面(図1では前面、図2では上面をなす面)の下端部近傍には、計35個の逃げ用凹部72が左右方向に並べて凹設してあり、アクチュエータ70の左右両側部を除く下端部には左右方向に向かって延びるカム部73が形成してあり、その端部には屈曲突部73aが突設してある。また、アクチュエータ70の裏面(図1では後面、図2では下面をなす面)には、各第1コンタクト40と同じ左右方向位置に位置する計17個の抜止用凹部74が凹設してある。また上部に比べて凹み量が小さい各抜止用凹部74の下端部の端面(下端面)は回転規制面74aを構成している。図示するように逃げ用凹部72と抜止用凹部74(回転規制面74a)の間は分断壁70aによって気密状態で仕切られている。さらにアクチュエータ70の裏面側の下端部全体(回転支持軸71を除く部分)は左右方向に延びる扁平なロック保持面75となっており、アクチュエータ70の下端面全体は扁平なアンロック保持面76となっている。
アクチュエータ70は、その下端部(回転支持軸71を除く部分)をインシュレータ20のアクチュエータ受入用凹部22内に位置させ、かつ左右の回転支持軸71を左右の軸受用凹部23に回転可能に嵌合することにより(図6参照)、インシュレータ20に対して回転支持軸71回りに回転可能に取り付けてある。
【0025】
回転支持軸71を軸受用凹部23に嵌合すると、回転支持軸71は軸受用凹部23内で支持される。アクチュエータ70はインシュレータ20に対して略直交するアンロック位置(図1、図6〜図8に示す位置)と、略水平なロック位置(図2、図12及び図13に示す位置)との間を回転可能である。
図示するように、アクチュエータ70がアンロック位置に位置するとき、第1コンタクト40の係合突起50と第2コンタクト60の係合突起68はアクチュエータ70の対応する逃げ用凹部72内に遊嵌し(可動片62の後端部が逃げ用凹部72の内面に形成したアンロック時当接面72aに接触する)、かつ、各屈曲突部73aが係合突起50、68の下端部と係合する。さらに第1コンタクト40の抜止突起46のフック部46aの下面に回転規制面74aが下方から当接する。
一方アクチュエータ70がロック位置に位置するとき、アクチュエータ70のカム部73の各屈曲突部73aが第1コンタクト40の係合突起50及び第2コンタクト60の係合突起68と係合しながら可動片42と可動片62の後端部を上方に押圧し、可動片42、可動片62が変形接続部43、63を弾性変形させながら揺動するので、可動片42及び可動片62の前端部は固定片41、61側に近づく。さらに、各抜止用凹部74に各第1コンタクト40の抜止突起46が嵌合する。
【0026】
以上の構成であるコネクタ10を回路基板CB(図1及び図2参照)の上面に実装するには、コネクタ10の上方に位置する吸引手段(図示略)によってインシュレータ20の(型抜き孔33が形成されていない)上面を吸着し、該吸引手段を移動させることにより各第1コンタクト40の鉤状係止部47及び各第2コンタクト60の鉤状係止部64を回路基板CB上の所定量の半田ペーストを塗布した回路パターン(図示略)に載せる。そして、リフロー炉において各半田ペーストを加熱溶融し、各鉤状係止部47、64を上記回路パターンに半田付けする。
【0027】
接続対象物であるFPC(Flexible Printed Circuit)80は弾性変形可能な薄板状の長尺物であり、その厚みは自由状態にある第1コンタクト40の接触突部44と接触突部49の間隔、及び、自由状態にある第2コンタクト60の接触突部65と接触突部67の間隔より短い。FPC80は複数の薄膜材を互いに接着して構成した積層構造であり、FPC80の延長方向に沿って直線的に延びる計18本の回路パターン81と、隣合う回路パターン81の間に位置し、かつ、その両端部が回路パターン81の端部より後退した計17本の回路パターン82と、回路パターン81及び回路パターン82の両端部を除く部分の両面を覆う絶縁カバー層83と、長手方向の両端部に設けた一方の面(図では上面)が回路パターン81、82の両端部と一体化した、その他の部分に比べて硬い端部補強部材84と、を具備している。
【0028】
回路基板CBと一体化したコネクタ10のアクチュエータ70が図1及び図6〜図8に示すアンロック位置に位置するとき、インシュレータ20の後端部に同一平面(水平面)上に位置するように形成された計19個の水平な扁平面28(アクチュエータ受入用凹部22の底面部、及び、左右の軸受用凹部23の底面部)にアンロック保持面76が面接触し、回転規制面74aが各抜止突起46のフック部46aの下面に下方から当接するので、アクチュエータ70はアンロック位置に保持される。さらに、可動片62の後端部が逃げ用凹部72の内面(アンロック時当接面72a)に接触することによりアクチュエータ70の前方への移動を規制するため、アクチュエータ70のアンロック位置での保持をより確実なものとすることができる。
この状態でインシュレータ20の前方からFPC挿入溝21にFPC80を挿入すると、FPC80はその後端面がFPC挿入溝21の後端面である突当面21aに接触するまで後方に移動し、各第1コンタクト40の接触突部44と接触突部49の間、及び、各第2コンタクト60の接触突部65と接触突部67の間に進入する。
この状態でアクチュエータ70を後方に回転させると、アクチュエータ70は図10及び図11に示す位置を経た後に、図2、図12、及び、図13に示すロック位置まで回転する。このとき、アンロック保持面76とロック保持面75との間に形成された左右方向に延びる突条77が各扁平面28に接触することによりクリック感が得らえる。
アクチュエータ70がアンロック位置からロック位置まで回転するとき、左右の回転支持軸71の前後位置は軸受用凹部23に対して前後動する。アクチュエータ70がロック位置に移動すると、第1コンタクト40の係合突起50と第2コンタクト60の係合突起68がアクチュエータ70のカム部73に後方から係合し(係合突起50、68は逃げ用凹部72に嵌合する)、各抜止用凹部74に各第1コンタクト40の抜止突起46が嵌合し、さらにロック保持面75が各扁平面28に面接触するので、アクチュエータ70はロック位置に保持される。そしてアクチュエータ70がロック位置まで回転することにより、接触突部44がFPC80の下面に接触した状態で各可動片42の接触突部49がFPC80の各回路パターン82の端部に形成された接点部82aに接触し、接触突部65がFPC80に下面に接触した状態で各可動片62の接触突部67がFPC80の各回路パターン81の端部に形成された接点部81aに接触するので、各第1コンタクト40と各第2コンタクト60を介して回路基板CBとFPC80が電気的に導通する。
なお、第1コンタクト40及び第2コンタクト60とFPC80の接触を解除したい場合は、アクチュエータ70の後端部を上方に回転させればよい。この際、アクチュエータ70が図10、図11の位置に達すると、突条77が扁平面28に接触しかつカム部73が可動片42、62に接触することによりアクチュエータ70にはアンロック位置側への回転モーメントM(図10、11参照)が生じるので、アクチュエータ70はアンロック位置まで確実に回転する。従って、アクチュエータ70の不完全操作を防止することができる。
【0029】
以上説明したように本実施形態によれば、アクチュエータ70に逃げ用凹部72と抜止用凹部74を個別に形成してあり(両者の間に分断壁70aを設けてあり)、逃げ用凹部72と抜止用凹部74が貫通孔を構成していないので、アクチュエータ70が薄型であっても、アクチュエータ70の機械的強度が大きく低下することはない。また、アクチュエータ70を金属製の成形型を利用して成形する際に、原料となる樹脂材が成形型の逃げ用凹部に対応する部分の周囲に流れ難くなることを防止できる(流動抵抗を軽減できる)ので、アクチュエータ70を精度よく成形できる。
本実施形態のコネクタ10は各コンタクト40、60を0.2mmピッチで配置したものであり、バネ設計や剛性の観点から、第2コンタクト60の板厚を0.08mm、第1コンタクトの板厚を0.1mmとしている。従って製造公差やクリアランスを考慮し、第2コンタクト60に対応する逃げ用凹部72の幅は0.1mmに、第1コンタクト40に対応する逃げ用凹部72の幅は0.12mmに設定しているため、隣り合う逃げ用凹部72間の隔壁は0.09mmとなる。このように0.1mm前後の間隔を持って断面形状が繰り返し変わる薄型の部品であるアクチュエータ70を射出成形する場合は、樹脂材の流動抵抗が大きいと成形が非常に困難になるが、本実施形態のように樹脂材の流動抵抗を極力低減している場合はアクチュエータ70の成形が可能になる。さらに、第1コンタクト40と第2コンタクト60の板厚を変えることにより、インシュレータ20の全ての仕切壁24が薄肉化するのを防止できる。
また、アクチュエータ70がアンロック位置とロック位置の間を回転するときに左右の回転支持軸71が前後に移動するが、各第1コンタクト40の抜止突起46を係合突起50より後方に位置させて形成しているので、カム部73を大きく(肉厚)できるとともにロック保持面75等を形成できるなど、設計の自由度が向上する。さらに、アクチュエータ70の下端部は固定片41の後端部と可動片42の後端部の間(及び、固定片61の後
端部と可動片62の後端部の間)で円滑に回転できる。
【0030】
さらにアクチュエータ70がアンロック位置に位置するとき(特にFPC80をFPC挿入溝21に挿入していない状態のとき)は、仮に作業者が誤ってアクチュエータ70を前方に押圧すると、アクチュエータ70は回転支持軸71を中心に前方に回転しようとするが、回転規制面74aとフック部46aの当接関係によって当該回転は規制される。そのため、カム部73が抜止突起46と係合突起50の間から後方に抜け出し、アクチュエータ70がインシュレータ20、第1コンタクト40、及び第2コンタクト60から脱落することはない。
しかも、アクチュエータ70の裏面には逃げ用凹部72が存在せず、かつ、アンロック保持面76から抜止用凹部74までの距離を大きくしてあるので、ロック保持面75の面積(図12における前後長)は大きい。そのため、ロック保持面75によってアクチュエータ70をロック位置に安定した状態で保持し易い。
【0031】
さらに、アクチュエータ70がロック位置に移動したときに各第1コンタクト40の抜止突起46がアクチュエータ70の対応する抜止用凹部74に嵌合するので、ロック位置に移動したアクチュエータ70が第1コンタクト40及び第2コンタクト60に対して前後方向に相対移動するのを確実に防止できる。そのためカム部73の位置変動に起因する可動片42、62のバネ性や持ち上げ量の変動を防止できるので、FPC80に対する各コンタクト40、60の接触圧力や接触抵抗の変動を防止できる。
また、抜止突起46とカム部73が独立している(接触しない構造となっている)ので、抜止突起46がカム部73に当たることはなく、抜止突起46によってカム部73が削られるおそれがない。
しかも、抜止用凹部74は逃げ用凹部72とは独立した(非連通の)凹部なので、抜止用凹部74の幅は(逃げ用凹部72に影響されることなく)個別に設定することができ、逃げ用凹部72に合わせて広くする必要がない。
【0032】
以上、本発明を上記実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形を施しながら実施可能である。
例えば、インシュレータ20のすべての第2コンタクト挿入溝27を第1コンタクト挿入溝25に変更した上で、すべてのコンタクトを第1コンタクト40により構成してもよい。
また、第1コンタクト40の固定片41の後部の扁平(略水平)な上面を扁平面28より上方に位置させて、アクチュエータ70がアンロック位置やロック位置に移動したときに、アクチュエータ70のロック保持面75やアンロック保持面76を固定片41後部の上面(扁平面)に面接触させてもよい。
さらに、隣合う抜止用凹部74の間に位置する壁を取り除くことにより、アクチュエータ70に左右方向に延びる長寸の抜止用凹部を形成してもよい。
また、アクチュエータ70が図10、11の位置まで回転したときに突条77がカム部73より前方に位置するようにアクチュエータ70を構成してもよい。このようにすれば、アクチュエータ70が図10、11の位置まで回転したときに、アクチュエータ70にロック位置側への回転モーメントが生じるので、アクチュエータ70はロック位置まで確実に回転する。
また、薄板状の接続対象物はFPC以外のケーブル、例えばフレキシブルフラットケーブル(FFC)であってもよい。さらに、接続対象物を上記実施形態とは裏返しにして、接点部81a、82aを各接触突部44、65と接触させてもよく、また接続対象物の表裏両面に接点部を形成し、アクチュエータ70がロック位置に移動したときに、各接触突部44、49、65、67を各接点部に接触させてもよい。
【符号の説明】
【0033】
10 コネクタ
20 インシュレータ
21 FPC挿入溝
22 アクチュエータ受入用凹部
23 軸受用凹部
24 仕切壁
25 第1コンタクト挿入溝
26 支持用凹部
27 第2コンタクト挿入溝
28 扁平面
29 貫通孔
33 型抜き孔
40 第1コンタクト
41 固定片(第1固定片)
42 可動片(第1可動片)
43 変形接続部
44 接触突部
45 中間突部
46 抜止突起
46a フック部
47 鉤状係止部
48 側部突起
49 接触突部
50 係合突起
60 第2コンタクト
61 固定片(第2固定片)
62 可動片(第2可動片)
63 変形接続部
64 鉤状係止部
65 接触突部
66 抜止用突部
67 接触突部
68 係合突起
70 回転式アクチュエータ
70a 分断壁
71 回転支持軸
72 逃げ用凹部
72a アンロック時当接面
73 カム部
73a 屈曲突部
74 抜止用凹部
74a 回転規制面
75 ロック保持面
76 アンロック保持面
80 FPC(接続対象物)
81 82 回路パターン
81a 82a 接点部
83 絶縁カバー層
84 端部補強部材
85 係合凹部
CB 回路基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄板状の接続対象物が挿入及び脱出可能なインシュレータと、
該インシュレータに固定した上記接続対象物の挿入方向と略平行な第1固定片と、中間部を中心に第1固定片に対して揺動可能な第1可動片と、を有し、第1固定片と第1可動片の一方の端部間に上記接続対象物が挿入される第1コンタクトと、
上記脱出方向と反対側に倒れるロック位置と上記挿入方向に対して略直交するアンロック位置との間をインシュレータに対して回転可能で、かつ、上記第1可動片と第1固定片の他方の端部間に位置し、ロック位置に移動したときに上記第1可動片の他方の端部を第1固定片から離れる方向に押圧して第1可動片の一方の端部を上記接続対象物に接触させるカム部を有するアクチュエータと、
を備えるコネクタにおいて、
上記第1固定片に上記カム部より他方の端部側に位置させて突設した、上記一方の端部側に向かって突出するフック部を有し、かつ上記一方の端部側に上記第1可動片の上記他方の端部が位置する抜止突起と、
上記アクチュエータに形成した、アクチュエータが上記アンロック位置に位置するときに上記第1可動片の他方の端部が嵌合する逃げ用凹部と、
上記アクチュエータの上記逃げ用凹部と反対側の面に形成した、アクチュエータが上記アンロック位置に位置するときに上記フック部に上記第1固定片側から係合する回転規制面と、
を備えることを特徴とするコネクタ。
【請求項2】
請求項1記載のコネクタにおいて、
上記第1固定片の側面に、上記インシュレータに接触する側部突起を突設したコネクタ。
【請求項3】
請求項2記載のコネクタにおいて、
上記アクチュエータに、上記逃げ用凹部と上記回転規制面を気密状態で仕切る分断壁を形成したコネクタ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項記載のコネクタにおいて、
上記インシュレータに固定した上記接続対象物の挿入方向と略平行な第2固定片と、中間部を中心に第2固定片に対して揺動可能な第2可動片と、を有し、第2固定片と第2可動片の一方の端部間に上記接続対象物が挿入される第2コンタクトを備え、
上記アクチュエータの上記逃げ用凹部を形成した側の面に、アクチュエータが上記アンロック位置に位置するときに上記第2可動片の他方の端部が当接するアンロック時当接面を形成したコネクタ。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項記載のコネクタにおいて、
上記アクチュエータの上記逃げ用凹部と反対側の面に形成した、上記ロック位置に位置するときに、上記第1固定片またはインシュレータの上記抜止突起より上記一方の端部に位置する部分に形成した扁平面に面接触する、扁平なロック保持面を備えるコネクタ。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項記載のコネクタにおいて、
上記アクチュエータの上記逃げ用凹部と反対側の面に、上記ロック位置に位置するときに上記抜止突起が嵌合する、上記逃げ用凹部及びカム部とは独立した抜止用凹部を形成したコネクタ。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項記載のコネクタにおいて、
上記アクチュエータが、上記アンロック位置に位置するときに上記第1固定片またはインシュレータの上記抜止突起より上記一方の端部に位置する部分に形成した扁平面に面接触する、扁平なアンロック保持面を備えるコネクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−65570(P2013−65570A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−266031(P2012−266031)
【出願日】平成24年12月5日(2012.12.5)
【分割の表示】特願2010−215484(P2010−215484)の分割
【原出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000128407)京セラコネクタプロダクツ株式会社 (77)
【Fターム(参考)】