説明

コハク酸系エステル類の製造方法

【課題】バイオマスを用いて発酵合成により製造されるコハク酸アンモニウムから蒸留等により容易に得られ、工業原料として安全に大量に取扱い可能な含窒素化合物であるコハク酸イミドを原料として、コハク酸系ポリエステルの原料となるコハク酸エステルオリゴマー等の製造法又は、コハク酸系ポリエステル直接製造等のコハク酸系エステル類の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】二価アルコールの存在下にコハク酸イミドの脱アンモニア反応とエステル化反応を行い、併せて脱離したアンモニアを回収・リサイクル使用することにより工業的に有利にコハク酸系ポリエステルの原料となるコハク酸系エステルオリゴマー等を製造する。又、脱アンモニア反応を含む直接重合によりコハク酸系ポリエステルを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コハク酸イミドを原料とするコハク酸ジエステル、コハク酸系エステルオリゴマー及びコハク酸系ポリエステル等のコハク酸系エステル類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、経済社会活動の拡大や生活様式の変化に伴い、ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等のプラスチックが、日常生活に欠かせない材料として多量に使用されている。
しかしながら、上記プラスチックの使用後、多量に発生する廃棄プラスチックによる環境問題が顕在化し、多量の廃棄プラスチックをどのように処理・処分するかが大きな社会問題となっている。この問題の有力な解決法として、バイオマス由来のモノマーを利用して製造されるバイオリサイクル型の生分解性プラスチック(使用後、堆肥や畑等の環境中の微生物により炭酸ガスと水に分解され地球規模の炭素サイクルに組み込まれるポリエステル系プラスチック)やケミカルリサイクルが可能なプラスチック(使用後、モノマーや合成ガスへ化学的に分解され、回収されたモノマーや合成ガスからポリマーの再合成が可能なプラスチック)等のリサイクル型プラスチックを利用する方法が注目されている。
【0003】
また、プラスチック類の多くは、従来石油を原料として製造されてきたが、最近では、上記の環境問題と併せて、地球温暖化防止、石油の価格高騰・枯渇対策、持続的生産可能なプラスチックの開発、資源循環型社会の構築等の視点からも、カーボンニュートラル効果を有し、かつ再生可能な資源であるバイオマスからポリエステル系生分解性プラスチックやリサイクル型ポリエステル系プラスチックを開発することが極めて重要な課題となっている(非特許文献1)。
【0004】
これまで先進工業国で研究開発されてきた数多くのプラスチックの中でコハク酸系ポリエステルは、日常生活、工業用等の分野で多量に利用されているポリエチレン、ポリプロピレン等の汎用プラスチックと類似の物性を有し、また生分解性やケミカルリサイクル性を有し、さらにそのポリエステルの基本モノマーとなるコハク酸やコハク酸エステルが再生可能な資源であるバイオマスから製造可能であることから、次世代の汎用プラスチックとして注目されている。
【0005】
前記コハク酸の他、食品添加物や医薬品原料としてこれまで広く利用されてきた乳酸、クエン酸、フマル酸、リンゴ酸、アスパラギン酸等のカルボン酸もバイオマス由来のポリエステルモノマーとして注目されている。多くの場合これらのカルボン酸は、デンプン、グルコース等のバイオマスを原料として発酵法により製造されている。これらの発酵合成では、目的物を効率良く得るために、通常、塩基の共存下、反応液のpHが中性近くの条件で反応が行われる。このため、発酵合成では、これらのカルボン酸は、カルボン酸の塩類(カルシウム塩、アンモニウム塩、ナトリウム塩等)として得られる。
【0006】
従って、これらカルボン酸塩のうち、次世代の汎用プラスチックとして有望なコハク酸系ポリエステルの基本モノマーとなるコハク酸、コハク酸エステル等をコハク酸塩から安価に量産するための実用技術の開発が注目されている。しかしながら、これらのコハク酸塩をコハク酸系ポリエステルの基本モノマーであるコハク酸やコハク酸エステルへ多量に安価に転換するためには解決すべき課題が多い。
【0007】
コハク酸塩をコハク酸へ転換する技術としては、これまで、(1)コハク酸カルシウム塩を多量の硫酸で処理してコハク酸を製造する方法が知られている(特許文献1)。しかしながら、この方法でコハク酸を量産するためには、腐食性の強い多量の硫酸を取り扱う耐腐食性プラントが必要となる。またコハク酸カルシウム塩をコハク酸へ転換する際に多量に副生する硫酸カルシウムの廃棄処理が不可欠である等の難点があった。このような腐食性の強い酸を用いるコハク酸製造方法の欠点を解消する方法として、(2)電気透析法によりコハク酸塩からコハク酸を製造する方法が提案されている(特許文献2〜3)。しかし、この方法では、高価な透析膜とコスト高な電気エネルギーを使用するという難点があった。
【0008】
さらに、(3)硫酸水素アンモニウムを用いてコハク酸アンモニウムからコハク酸と硫酸アンモニウムを製造し、副生された硫酸アンモニウムから熱分解により硫酸水素アンモニウムとアンモニアを再生し、再生回収されたアンモニアはリサイクル使用するコハク酸製造技術が提案されている(特許文献4)。この製造方法では前記の多量の副生塩を廃棄処理する問題は改善されるものの、プロセスが複雑であり、また汎用ポリエステル系プラスチックの基本モノマーであるコハク酸を製造するために腐食性の強い多量の硫酸水素アンモニウムの使用を余儀なくされる。更には硫酸アンモニウムから腐食性の硫酸水素アンモニウムを再生する際に高温を必要とし、そのための耐腐食性の製造装置が不可欠であり、コスト高になる等の難点があった。
【0009】
以上のような課題を解決するために、従来技術で使用されていた腐食性の強い強酸類やコスト高な電気透析法を用いない方法として、最近、(4)コハク酸アンモニウムをアルコール又は水と反応させアンモニアを脱離させて、コハク酸系ポリエステルの基本モノマーとなるコハク酸やコハク酸エステルを製造する方法が提案されている(特許文献5)。
【0010】
この方法は、腐食性の強い強酸類やコスト高な電気透析法を用いる必要がない利点を有する。
しかし、この方法は、原料として用いるコハク酸アンモニウムを多量の水が共存する発酵液中から分離しなければならない。また、コハク酸アンモニウムの熱安定性は低く、空気中でアンモニアを失い分解するおそれもあり(非特許文献2)、さらに室温付近での水に対するコハク酸アンモニウムの溶解度が高く(約45g/100g)、水からのコハク酸アンモニウムの分離操作には特別な工夫を必要とする。したがって、発酵合成により得られ、多量の水を含むコハク酸アンモニウム水溶液から水を分離して、コハク酸アンモニウムを工業原料として活用するためには、例えば、熱分解の起こらないような低い温度下での水との分離操作が必要であり、安定に大量使用する工業原料としてコハク酸アンモニウムを使用するためには、解決すべき課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第5168055号明細書
【特許文献2】米国特許第5143834号明細書
【特許文献3】米国特許第5034105号明細書
【特許文献4】米国特許第6265190号明細書
【特許文献5】特開2005−132836号明細書
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】プラスチックスエージ、49,No.8(臨時増刊号)、101(2003)
【非特許文献2】化学大事典 3巻 p.p.674、共立出版(1960)
【非特許文献3】高木、稲本、中原、山崎、編集“化合物の辞典” p.p.513、朝倉書店(1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、コハク酸アンモニウムから容易に誘導でき、工業原料として安全に大量に取扱いが可能なコハク酸イミドを原料として、コハク酸系ポリエステルのモノマーであるコハク酸ジエステル、更にはコハク酸エステルオリゴマーやコハク酸系ポリエステル等のコハク酸系エステル類を工業的に有利できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、一価アルコール、二価アルコール等のアルコールの存在下にコハク酸イミドの脱アンモニア反応とエステル化反応を行い、併せて脱離したアンモニアを回収・リサイクル使用することにより工業的に有利にコハク酸系ポリエステルのモノマーであるコハク酸ジエステルあるいはコハク酸系エステルオリゴマー、コハク酸系ポリエステル等のコハク酸系エステル類が製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
即ち、この出願によれば、以下の発明が提供される。
〈1〉コハク酸イミドと二価アルコールを用いて脱アンモニア反応とエステル化反応を行い、脱離したアンモニアを回収することを特徴とするコハク酸系エステルオリゴマー乃至コハク酸系ポリエステルを製造する方法。
〈2〉コハク酸イミドがバイオマス由来のものである〈1〉に記載のコハク酸イミドからアンモニアを回収し、コハク酸系エステルオリゴマー乃至コハク酸系ポリエステルを製造する方法。
〈3〉第3成分として、コハク酸系エステルオリゴマー乃至コハク酸系ポリエステルに対して反応性を有する官能基を少なくとも2個含有する脂肪族系及び/又は芳香族系化合物の中から選ばれる少なくとも1種の化合物を用いることを特徴とする〈1〉又は〈2〉に記載のコハク酸系エステルオリゴマー乃至ポリエステルの製造方法。
〈4〉補助成分として、コハク酸系エステルオリゴマー乃至コハク酸系ポリエステルに対して反応性を有する官能基を少なくとも2個含有する化合物を用いることを特徴とする〈1〉〜〈3〉のいずれかに記載のコハク酸系エステルオリゴマー乃至ポリエステルの製造方法。
〈5〉回収したアンモニアをコハク酸アンモニウムの発酵合成に循環利用することを特徴とする〈1〉〜〈4〉のいずれかに記載のコハク酸ジエステル、コハク酸系エステルオリゴマー又はコハク酸系ポリエステルの製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明のコハク酸系エステル類の製造方法は、原料として、従来提案されているコハク酸アンモニウムを用いる方法に比べ、熱的に安定であり、工業原料として安定に多量の取扱が可能であるコハク酸イミドを用いることから、従来法に比べ、工業的に有利にコハク酸系エステル類を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】脱アンモニア反応によりコハク酸ジエステル類を製造するための代表的なフローチャートの説明図
【図2】本発明の方法を実施するための代表的なフローチャートの説明図
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明方法においては、コハク酸イミドを一価アルコールや二価アルコール等の存在下に、脱アンモニウム反応とエステル化反応を行い、アンモニアを回収するとともに、コハク酸ジエステルおよびコハク酸系エステルオリゴマーやコハク酸系ポリエステルの製造を行うことを本旨とし、必要に応じて後述する第三成分あるいは補助成分を用いることを特徴としている。
【0019】
本発明の原料であるコハク酸イミドとしては、石油、バイオマス等あらゆる炭素資源から化学合成や発酵合成により誘導されるものが使用可能である。例えば、発酵合成により得られたコハク酸アンモニウムの加熱蒸留(非特許文献3)により合成されたものが使用できる。また、他の既知の方法で得られるもの、例えばコハク酸アンモニウムから誘導されるコハク酸アミドの乾留により合成されるコハク酸イミドも使用可能である。
【0020】
本発明方法において、コハク酸ジエステルを製造するには、原料としてコハク酸イミドと下記一般式(1)で示される一価アルコールが用いられる。
ROH (1)
ROHとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アミルアルコール、フウーゼル油、オクチルアルコール等が用いられる。好ましいアルコールとしては、メタノール、エタノール、ブタノール等のバイオマスから誘導可能なアルコールが挙げられる。アルコールはコハク酸イミドに対して通常過剰に用いられるが、未反応アルコールは必要に応じてリサイクル使用される。
【0021】
また、本発明方法において、エステルオリゴマー又はポリエステルを製造するには、コハク酸イミドと下記一般式(2)で示される二価アルコールが用いられる。
HOR1OH (2)
前記式(2)において、R1は、炭素数2〜12、好ましくは2〜10の二価脂肪族基を示す。二価脂肪族基は、鎖状又は環状のものであることができ、また飽和又は不飽和のものであることができる。さらに脂肪族基は、その主鎖には炭素の他、酸素等のヘテロ原子を含有することができる。本発明で用いる二価脂肪族基の具体例を示すと、−C24−、−C36−、−C48−、−C612−、−C1222−(ドデセニル)、−C610−(シクロヘキセニル)、−C24OC24−、−C24OC24OC24−等が挙げられる。前記一般式(2)で表される脂肪族二価アルコールの具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1、6−へキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。反応系で実質的に二価アルコールを生成する場合はエポキシド(エチレンオキシド、プロピレンオキシド等)も利用できる。またビスフェノールAのような芳香族二価アルコールも利用できる。
二価アルコールはコハク酸イミドに対して通常過剰に用いられるが、未反応アルコールは必要に応じてリサイクル使用される。
【0022】
本発明においては、必要に応じて、前記反応原料に対して反応性を有する官能基を少なくとも2個を含有する脂肪族系及び/又は芳香族系化合物の中から選ばれる少なくとも1種の化合物を第三成分として反応系に添加することができる。このような第三成分には、ジカルボン酸、カルボン酸ジエステル、カルボン酸無水物、二価アルコール、オキシカルボン酸系化合物、炭酸エステル、ポリオキシアルキレングリコール(但し、式(2)の二価アルコールとしてジエチレングリコールやトリエチレングリコールグリコールを使用する場合は、ポリアルレングリコールを第3成分から除く)、ポリエチレンテレフタレート等が包含される。
【0023】
第三成分として使用する前記ジカルボン酸、カルボン酸ジエステル、及び酸無水物は、それぞれ、下記一般式(3)(ジカルボン酸又はそのジエステル)又は一般式(4)(ジカルボン酸無水物)で表される。
11ROOC−R2−COOR11 (3)
【0024】
【化1】

第三成分として使用する前記オキシカルボン酸系化合物には、下記一般式(5)及び(6)で表される化合物が包含される。
HO−R3−COOR12 (5)
【0025】
【化2】

前記一般式(3)において、R2は、炭素数1及び3〜10、好ましくは3〜8の二価脂肪族基を示す。この場合の二価脂肪族基は、前記R1に関して示した各種のものであることができる。また、一般式(3)においてテレフタル酸のような芳香族ジカルボン酸やその誘導体も使用できる。R11は水素、低級アルキル基又はアリール基を示す。低級アルキル基としては、炭素数1〜6、好ましくは1〜4のアルキル基が挙げられる。アリール基としては、炭素数6〜10、好ましくは6〜8のもの、例えばフェニル基が挙げられる。
また、一般式(4)におけるR2は、一般式(3)と同じである。
【0026】
前記一般式(5)のオキシカルボン酸としては、グリコール酸、乳酸、γ−オキシラク酸、オキシビバリン酸等が挙げられる。R12は水素、低級アルキル基又はアリール基を示す。低級アルキル基としては、炭素数1〜6、好ましくは1〜4のアルキル基が挙げられる。アリール基としては、炭素数6〜10、好ましくは6〜8のもの、例えばフェニル基が挙げられる。また、前記オキシカルボン酸はその2分子が脱水縮合した環状ジエステルであることができる。その具体例としては、グリコール酸から得られるもの(グリコリド)や、乳酸から得られるもの(ラクチッド)等が挙げられる。また、ヒドロキシ安息香酸のような芳香族系オキシ酸も使用できる。
【0027】
一般式(6)のラクトンとしては、4,6,7員環のラクトンが挙げられる。例えばβ−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン等である。またp−ジオキサノン等のように式(6)のR4の中に炭素以外に酸素原子を含む環状エステルエーテルも挙げることができる。
【0028】
前記炭酸エステルは、下記一般式(7)で表される。
13OCOOR14 (7)
前記式中、R13及びR14は低級アルキル基又はアリール基を示すが、R13及びR14がいずれも低級アルキル基の場合、相互に連結して環を形成してもよい。低級アルキル基としては、炭素数1〜6、好ましくは1〜4のアルキル基が挙げられる。アリール基としては、炭素数6〜10、好ましくは6〜8のもの、例えば、フェニル基等が挙げられる。
【0029】
前記第3成分のポリオキシアルキレングリコールは、下記一般式(8)で表される。
HO(AO)mH (8)
前記式中、AOは炭素数2〜4のアルキレンオキシ基を示し、その具体例としては、エチレンオキシ、プロピレンオキシ、ブチレンオキシ及びそれらの混合アルキレンオキシ等が挙げられる。前記mは(AO)の平均重合度を示し、2〜10の数、好ましくは2〜5の数を示す。
【0030】
本発明で用いるコハク酸イミド、二価アルコール及び必要に応じて用いる第三成分の混合物からなる反応原料において、その二価アルコールの使用割合は、反応原料中に含まれるカルボン酸単位を有するモノマー1モル当り、1〜15モル、好ましくは1.02〜5モルの割合である。また、一般式(3)または一般式(4)で表されるジカルボン酸またはその誘導体を第三成分として使用する場合、生成する重合体に含まれる全エステル部に対する第三成分に由来するエステル部のモル分率[第三成分/(コハク酸成分+第三成分)]が0.01〜0.30の範囲になるように第三成分を使用することが望ましい。
【0031】
コハク酸系生分解性脂肪族ポリエステルを製造する場合、本発明で用いる前記オキシカルボン酸系化合物の使用割合は、生成する重合体中に含まれる全エステル部に対するそのオキシカルボン酸系化合物に由来するエステル部(オキシカルボン酸エステル部)のモル分率が0.02〜0.3、好ましくは0.05〜0.2の範囲になるような割合である。
【0032】
コハク酸系ポリエステルを製造する場合、本発明で用いる前記炭酸エステルの使用割合は、生成する重合体中に含まれる全エステル部に対するその炭酸エステルに由来するエステル部(炭酸エステル部)のモル分率が0.02〜0.3、好ましくは0.05〜0.2の範囲になるような割合である。
【0033】
コハク酸系ポリエステルを製造する場合(但し、式(2)の二価アルコールとしてジエチレングリコールやトリエチレングリコールグリコールを使用する場合は、ポリオキシアルキレングリコールを第3成分から除く)、本発明で用いる前記ポリオキシアルキレングリコールの使用割合は、生成する重合体中に含まれる全エステル部に対するそのポリオキシアルキレングリコールに由来するエステル部のモル分率が0.02〜0.3、好ましくは0.05〜0.2の範囲になるような割合である。
【0034】
本発明においては、物性又は生分解性の制御のため、必要に応じて、前記反応原料に対して、反応性を有する官能基を少なくとも2個含有する脂肪族系及び/又は芳香族系化合物の中から選ばれる少なくとも1種の化合物を補助成分として少量添加することができる。このような補助成分には、グリセリン、ジグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、オルトギ酸エステル、りんご酸、クエン酸、ジイソシアナートやトリイソシアナート等の多価イソシアナート化合物、ポリアルキレングリコールのトリオール型、フラボノイド(ポリフェノール)等が抱合される。またポリエステル末端基をエポキシ化合物、一価アルコール、カルボン酸等で封止しても良い。
【0035】
コハク酸系ポリエステルを製造する場合、本発明で補助成分として用いる前記多価アルコール(グリセリン、ジグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール)、フラボノイド(ポリフェノール)、りんご酸、クエン酸等の使用割合は、生成する重合体中に含まれる全エステル部に対するその補助成分に由来するエステル部のモル分率が0.0005〜0.005、好ましくは0.001〜0.004の範囲になるような割合である。
【0036】
コハク酸系ポリエステルを製造する場合、本発明で補助成分として用いるテレフタル酸、ポリエチレンテレフタレートの場合、その使用割合は、全エステル部に対するテレフタル酸単位のモル分率が0.01〜0.15、好ましくは0.05〜0.1の範囲になるような割合である。
【0037】
コハク酸系ポリエステルを製造する場合、本発明で補助成分として用いるジイソシアナート、トリイソシアナート等の多価イソシアネート化合物の使用割合は、全エステル部に対する補助成分のモル分率が0.001〜0.03、好ましくは0.005〜0.02の範囲になるような割合である。
【0038】
本発明で補助成分として用いるポリアルキレングリコールのトリオール型の場合(例えばポリエチレングリコールのトリオール型、ポリプロピレングリコールのトリオール型)、その使用割合は、全エステル部に対する補助成分のモル分率が0.0005〜0.01、好ましくは0.001〜0.005の範囲になるような割合である。補助成分として用いるポリアルキレングリコールのトリオールの平均分子量は、300〜4000が好ましい。
【0039】
本発明によりコハク酸ジエステルを製造するための1つの方法としては、コハク酸イミドと一価アルコールを触媒の不在下又は存在下に加熱して脱アンモニア反応とエステル化反応を行い、コハク酸ジアルキルエステルを製造する。反応温度は100〜300℃、好ましくは120〜280℃である。圧力は常圧〜50MPaの圧力下で行う。触媒としては、リン酸、リン酸一アンモニウム、リン酸二アンモニウム、リン酸三アンモニウム等が挙げられる。触媒は、コハク酸イミド1モルに対して、10-7〜5×10-1モル、好ましくは、10-4〜3×10-1モルの割合で使用する。副生するアンモニアは反応系外に連続的に除去する。
【0040】
また、この反応は溶媒の不在下、または存在下に行うことができる。溶媒としては、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド系溶媒、ジメチルホルムアミドなどアミド系溶媒、スルホラン、ヘキサメチルホスホルアミド、γ−ブチロラクトンのような極性溶媒が挙げられる。
【0041】
更に、本発明によりコハク酸系エステルオリゴマーを製造するための1つの方法としては、前記のコハク酸イミドと二価アルコールを触媒の不在下又は存在下に加熱して脱アンモニア反応とエステル化反応を行い、コハク酸系エステルオリゴマーを製造する。反応温度は180〜300℃、好ましくは200〜280℃である。コハク酸系ポリエステル製造の場合は、コハク酸イミドと二価アルコールの反応を触媒の存在下に行うことが好ましく、触媒としては、ポリエステル合成触媒、エステル合成触媒、エステル交換触媒の中から選ばれる少なくとも1種の触媒を使用できる。従来公知の触媒を2種以上組合せて使用してもよい。また、助触媒として、リン化合物等従来公知の助触媒を用いることもできる。触媒は、反応原料中に含まれるカルボキシル基含有化合物の合計量1モルに対して、10-7〜10-2モル、好ましくは10-4〜10-3モルの割合で用いることが好ましい。この範囲より触媒量が少なくなると反応に長時間を要する。この範囲より多くなると重合時のポリマーの熱分解、架橋等の原因となり、また、ポリマーの成形加工時において熱分解等の原因となり好ましくない。重合速度を著しく低下させない範囲で公知の着色防止剤を用いることもできる。
【0042】
触媒の添加時期は、コハク酸イミドの脱アンモニア反応開始時、脱アンモニア反応中、重縮合時等が可能であるが、常圧加熱下で、アンモニアの発生がほぼ停止した後、又はアンモニアの発生がほぼ停止したところで、さらに反応系から減圧加熱下に共存するアンモニアや過剰のジオールを除去した後、添加するのが好ましい。
【0043】
本発明に係る高分子量ポリエステルは、射出成形法、押出成形法、中空成形法などにより、フィルム、シート、モノフィラメント、マルチフィラメント、フィラメント、不織布、ブローボトル、発泡体などの成形品に利用可能である。成形の際にセルロース、デンプン、ケナフ、キッチン、キトサン、カーボン、結晶核材、酸化防止剤、着色剤、離型剤等を必要に応じて添加することができる。本発明に係る高分子量ポリエステルのうち脂肪族構造単位を主として分子鎖に含むものは、農林水産土木資材分野(マルチフィルム、植生ネット、種子埋込みテープ、河川工事などの養生シート、土嚢、釣り糸、疑似餌など)、包装材料分野(コンポストバック、水切りネット、緩衝材など)、医療・衛生(手術用糸など使い捨て製品)、工業品(可塑剤、ブレンド剤)、その他回収不能な利用分野のプラスチック製品(煙火用玉皮など)等の用途が期待される。また、高分子量ポリエステルのうち芳香族構造単位を主として分子鎖に含むものはリサイクル型のプラスチックとして用途が期待される。さらに、本発明に係るコハク酸ジエステル、コハク酸エステルオリゴマー、コハク酸系ポリエステル等のコハク酸系エステル類は水素化反応によってバイオマス由来の1,4−ブタンジオール製造原料としての用途が期待できる。
【0044】
次に、本発明の代表的な脱アンモニア反応によるコハク酸系エステル類の製造工程を図1,2のフローチャートに示す。
【0045】
図1は、コハク酸イミドと一価アルコールROHからコハク酸ジエステルを製造する工程を示している。一価アルコールとしては、メタノール、エタノール、オクタノール等工業的に入手容易なアルコールが使用される。コハク酸ジエステルは、必要に応じて精製した後、コハク酸系ポリエステルの原料とする。
【0046】
図2は、本発明の、コハク酸イミドと二価アルコールからコハク酸系エステルオリゴマーおよびコハク酸系ポリエステルを製造する工程を示している。二価アルコールとしては、前記の1,4−ブタンジオール、エチレングリコール等が使用される。コハク酸系エステルオリゴマー(プレポリマー)は、そのまま又は必要に応じて精製した後、コハク酸系ポリエステルの原料とする。
【実施例】
【0047】
次に本発明を実施例によって具体的に説明する。コハク酸ジエステルの分析は、ガスクロマトグラフ法を用いて行った。またアンモニウムの回収量は、中和滴定法により求めた。
【0048】
(分子量及び分子量分布)
ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)法を用いて標準ポリスチレンからの校正曲線を作成し、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)を求めた。溶離液はクロロホルムを用いた。
【0049】
(アンモニアの定量分析)
JISK0102−1986法に準じた中和滴定法により回収されたアンモニアの定量分析を行った。回収されたアンモニアを硫酸溶液に吸収させ、残った硫酸についてメチルレッド−ブロモクレゾールグリーン混合液指示薬を用いて水酸化ナトリウムで滴定し、アンモニウムイオンを定量し、アンモニアの回収量を求めた。
【0050】
参考例1
攪拌羽、温度計及びメタノール導入・排出口を備えた内容積100mlの耐圧ガラス製反応管にコハク酸イミド5.94g(60ミリモル)とメタノール36.5mlを加え、さらに125℃で加圧下(0.6MPa)にメタノールを反応系内に導入(0.5ml/min.)、流通させ、かき混ぜながら脱アンモニア反応を行った。発生したアンモニアは排出口を通してトラップに捕集した(5時間)。反応後、回収されたアンモニア量を調べたところ回収アンモニア率は19.7%であった。また反応液についてガスクロマトグラフ法により分析を行ったところ、コハク酸ジメチルが生成していることが分かった。
【0051】
実施例1
攪拌羽及び温度計付き内容積100mlの四つ口フラスコにコハク酸イミド17.84g(180ミリモル)と1,4−ブタンジオール32.45g(360ミリモル)を窒素雰囲気下に仕込み、32℃で反応を開始し、窒素雰囲気下(反応系が減圧にならないように窒素ガスを流通させた)かき混ぜながら徐々に242℃(オイルバス温度)まで昇温させ、アンモニアを流出させた(5時間)。この間、発生するアンモニアをアンモニアトラップ(マグネチックスターラー付き、2N硫酸90mlを含む内容積200mlフラスコ)に導入して捕集した。次にアンモニアを吸収させたトラップの水溶液について、1NのNaOH溶液を用いて、トラップに残った硫酸を滴定し、アンモニウムイオンを定量し、回収されたアンモニア量を求めた。その結果、回収アンモニア量は95.2ミリモルであった。またアンモニアの回収率は52.9%であった。フラスコの内容物(固形物)の分子量を測定したところ、Mwは1.4万で、Mw/Mnは2.7のポリブチレンサクシネートオリゴマーであることが分かった。
【0052】
実施例2
触媒としてリン酸水素二アンモニウム0.53g(4ミリモル)を反応系に仕込む以外は、実施例1と同様の方法により、コハク酸イミドの脱アンモニア反応を行ったところ、回収アンモニア量は118.8ミリモルであった。またアンモニア回収率は66.0%であった。実施例1に比べアンモニア回収率が向上した。
【0053】
実施例3
触媒としてリン酸水素二アンモニウム2.64g(20ミリモル)を反応系に仕込む以外は、実施例1と同様の方法により、コハク酸イミドの脱アンモニア反応を行ったところ、回収アンモニア量は130.6ミリモルであった。またアンモニアの回収率は72.5%であった。実施例1に比べアンモニア回収率が向上した。
【0054】
実施例4
次に実施例1と同様の条件で得られた四つ口フラスコの反応内容物に窒素雰囲気下、室温でチタンテトライソプロポキシドTi(O-isoPr)4 0.12ミリモルとリン酸マグネシウム第二三水和物MgHPO4・3H2O 0.04ミリモルを仕込み、四つ口フラスコを真空ラインに接続し、フラスコ内容物を徐々にかき混ぜながら昇温し、オイルバス温度242℃、減圧下(0.15〜0.25Torr)に6時間40分間重合反応を行った。反応後、得られた固形物の分子量を測定したところMwは13.0万で、Mw/Mnは1.78であった。また固形物をクロロホルムに溶解させ、メタノールで再沈殿させたものについて1H−NMR測定を行ったところ、別途、コハク酸と1,4−ブタンジオールから合成したポリブチレンサクシネートと同じケミカルシフト値を有するピークが観察された。さらに得られたポリマーの元素分析を行ったところ、CとHの分析値はそれぞれC55.80%とH6.98%であり、これらの値はポリブチレンサクシネートのCとHの計算値(C55.81%、H6.98%)と一致した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コハク酸イミドと二価アルコールを用いて脱アンモニア反応とエステル化反応を行い、脱離したアンモニアを回収することを特徴とするコハク酸系エステルオリゴマー又はコハク酸系ポリエステルを製造する方法。
【請求項2】
コハク酸イミドがバイオマス由来のものである請求項1に記載のコハク酸イミドからアンモニアを回収し、コハク酸系エステルオリゴマー又はコハク酸系ポリエステルを製造する方法。
【請求項3】
第3成分として、コハク酸系エステルオリゴマー又はコハク酸系ポリエステルに対して反応性を有する官能基を少なくとも2個含有する脂肪族系及び/又は芳香族系化合物の中から選ばれる少なくとも1種の化合物を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載のコハク酸系エステルオリゴマー又はポリエステルの製造方法。
【請求項4】
補助成分として、コハク酸系エステルオリゴマー乃至コハク酸系ポリエステルに対して反応性を有する官能基を少なくとも2個含有する化合物を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のコハク酸系エステルオリゴマー又はポリエステルの製造方法。
【請求項5】
回収したアンモニアをコハク酸アンモニウムの発酵合成に循環利用することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のコハク酸系エステルオリゴマー又はコハク酸系ポリエステルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−64135(P2013−64135A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−238324(P2012−238324)
【出願日】平成24年10月29日(2012.10.29)
【分割の表示】特願2006−237302(P2006−237302)の分割
【原出願日】平成18年9月1日(2006.9.1)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】