コバルト骨格置換アルミノシリケート型ゼオライト及びその製造方法
【課題】吸着分離剤として、また、触媒として有用な、骨格を形成するAl原子及び/又はSi原子の一部がCo原子に置換された骨格置換モルデナイト型ゼオライト、又は同アナルサイム型ゼオライト、及びそれらの製造方法を提供する。
【解決手段】コバルトの2−(2−アミノエチル)グリシン錯体を含むアルミノシリケートゲルを、水熱反応に供して、骨格を形成するAl原子及び/又はSi原子の一部がコバルトで置換された、コバルト骨格置換モルデナイト型ゼオライト、又は同アナルサイム型ゼオライトを製造する方法、及び該方法により製造されるコバルト骨格置換モルデナイト型ゼオライト、又は同アナルサイム型ゼオライト。
【効果】コバルト骨格置換モルデナイト型ゼオライト、又は同アナルサイム型ゼオライトを合成し、提供することができる。
【解決手段】コバルトの2−(2−アミノエチル)グリシン錯体を含むアルミノシリケートゲルを、水熱反応に供して、骨格を形成するAl原子及び/又はSi原子の一部がコバルトで置換された、コバルト骨格置換モルデナイト型ゼオライト、又は同アナルサイム型ゼオライトを製造する方法、及び該方法により製造されるコバルト骨格置換モルデナイト型ゼオライト、又は同アナルサイム型ゼオライト。
【効果】コバルト骨格置換モルデナイト型ゼオライト、又は同アナルサイム型ゼオライトを合成し、提供することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コバルト骨格置換アルミノシリケート型ゼオライトに関するものであり、更に詳しくは、骨格を形成するAl原子及び/又はSi原子の一部がコバルト(Co)原子に置換された、従来にないコバルト骨格置換アルミノシリケート型ゼオライトから構成される新規コバルト骨格置換モルデナイト型、又は同アナルサイム型ゼオライト、及びそれらの製造方法に関するものである。そして、本発明は、例えば、形状選択性固体触媒、酸化触媒、イオン交換剤、化学反応場などに好適に用いることのできる、高結晶性のコバルト骨格置換アルミノシリケート型ゼオライトに関する新技術・新製品を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ゼオライトは、原子レベルで規則的に配列したマイクロ孔(3−20Å)を有し、主に、骨格構造の構成元素が、Si,Al,Oからなるアルミノシリケート型ゼオライトと、Si,Oのみからなるハイシリカ(ピュアシリカ)型ゼオライトに分類することができる。ゼオライトは、形状選択的な、あるいは骨格構造に起因した化学的・物理的吸着作用を持つことにより、モレキュラーシーブ(分子ふるい)、分離吸着剤、イオン交換体、触媒などとしての機能を有することが知られている。
【0003】
現在、天然ゼオライト及び合成ゼオライトとして、160種類以上の構造が知られ、それと、骨格元素の組成を組み合わせることで、目的に合わせた化学的性質や、構造安定性、耐熱性を兼ね備えた多孔質材料として、石油化学を中心とする幅広い産業分野で用いられている。
【0004】
それぞれのゼオライトは、規則的な細孔を形成する幾何学的な骨格構造により区別され、一義的なX線回折パターンを与えることから、各ゼオライトは、実験的に区別することが可能である。すなわち、骨格構造(結晶構造)は、ゼオライトの細孔の形や大きさを規定している。
【0005】
各ゼオライトの吸着特性や、機械的強度、固体酸の性能は、部分的には、その細孔の形や大きさ、骨格を構成する組成で決まる。従って、特定の応用を考えた場合、ある特定のゼオライトの有用性は、少なくとも部分的には、その結晶構造や組成に依存する。
【0006】
Co,Ni,Ti,Feなどの遷移金属元素を、Si(Al)O2を主組成とするゼオライト骨格に置換する技術は、長い間検討されている。特に、Coは、弱い固体酸点となり、酸化触媒として優れた応用が期待されている。これまで、Coで骨格置換されたゼオライトは、結晶の色が群青色をしているAFI型のCoAPO−5が知られている。
【0007】
殆どの場合、ゼオライトの骨格置換は難しく、骨格置換できたとしても、骨格組成に対して、1〜3%程度しか置換できないことが知られている。産業利用としては、骨格置換より、より簡便なイオン交換法で、ゼオライト細孔内にCoイオンを導入したものが数多く研究されている。しかし、ゼオライト細孔内にCoイオンを導入したものは、反応中に容易にCoイオンが抜けてしまうなど、問題点が多い。
【0008】
また、既存の骨格置換ゼオライトに関する特許文献では、骨格置換である証拠及び証明が不十分であり、例えば、触媒反応成績などからの推測的な解釈が殆どである。また、多くのCo−ゼオライトと称される物質は、骨格置換は、置換元素量が、一般的には、非常に少ないため、イオン交換の形で、遷移金属酸化物を、細孔内に担持させただけのものが殆どである。また、これまで、コバルトで骨格置換したモルデナイト型及びアナルサイム型ゼオライトの合成例は報告されていないことから、特殊な合成手法が必要と考えられてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−89341号公報
【特許文献2】米国特許第4500503号明細書
【特許文献3】特表2005−514551号公報
【特許文献4】特開平7−2715号公報
【特許文献5】特表2009−518533号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】冨永博夫編、ゼオライトの化学と応用、講談社サイエンティフィク(1987)pp96−97
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、コバルトで骨格置換したモルデナイト型及びアナルサイム型ゼオライト、及びそれらの合成方法を開発することを目標として鋭意研究を重ねた結果、コバルト錯体を含むアルミナシリケートゲルを水熱反応に供することにより所期の目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、上記の技術背景において、骨格を形成するAl原子及び/又はSiの原子の一部がコバルト原子で置換された、吸着分離剤、固体触媒などとして好適な、コバルト骨格置換モルデナイト型ゼオライト、又は同アナルサイム型ゼオライトを提供することを目的とするものである。また、本発明は、コバルト錯体を含むアルミノシリケートを水熱反応させることにより、骨格を形成するAl原子及び/又はSi原子の一部がコバルト原子で置換されたコバルト置換モルデナイト型、又は同アナルサイム型ゼオライトの製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)モルデナイト型ゼオライトの骨格構造、又はアナルサイム型ゼオライトの骨格構造を構成する骨格の一部がコバルトで置換され、粉末X線回折(XRD)により単相構造を有することを特徴とする骨格置換モルデナイト型、又は同アナルサイム型ゼオライト。
(2)Si/Al比が5.0〜20.0であるモルデナイト型ゼオライトの骨格構造を構成する骨格の一部がコバルトで置換された、前記(1)に記載の骨格置換モルデナイト型ゼオライト。
(3)Si/Al比が2.0〜2.5であるアナルサイム型ゼオライトの骨格構造を構成する骨格の一部がコバルトで置換された、前記(1)に記載の骨格置換アナルサイム型ゼオライト。
(4)上記骨格構造の骨格を形成するAl原子及び/又はSi原子がCo原子に置換された、前記(1)に記載の骨格置換モルデナイト型、又は同アナルサイム型ゼオライト。
(5)640±5,590±5,535±5nmに光吸収ピークを有する、前記(1)から(4)のいずれかに記載の骨格置換モルデナイト型、又は同アナルサイム型ゼオライト。
(6)コバルト錯体を含むアルミノシリケートゲルを、水熱反応に供して、モルデナイト型ゼオライト、又はアナルサイム型ゼオライトの骨格構造の骨格を形成するAl原子及び/又はSi原子の一部がコバルトで置換された骨格置換モルデナイト型、又は同アナルサイム型ゼオライトを製造することを特徴とするコバルト骨格置換モルデナイト型ゼオライト、又は同アナルサイム型ゼオライトの製造方法。
(7)2−(2−アミノエチル)グリシン(1)のコバルト錯体(2)を含むアルミノシリケートゲルを用いる、前記(6)に記載のコバルト骨格置換モルデナイト型ゼオライト、又は同アナルサイム型ゼオライトの製造方法。
(1)H2NCH2CH2NHCH2COOH
(2)[(H2NCH2CH2NHCH2COO)2Co]+
(8)得られた生成物が、粉末X線回折(XRD)により単相構造を有する、前記(6)又は(7)に記載のコバルト骨格置換モルデナイト型ゼオライト、又は同アナルサイム型ゼオライトの製造方法。
(9)生成した結晶が、Na4.2Co0.30Al4.4Si43.3O96もしくはNa5.6Co0.45Al6.5Si41.0O96、又はNa13.5Co1.1Al14.0Si32.9O96である、前記(6)に記載のコバルト骨格置換モルデナイト型ゼオライト、又は同アナルサイム型ゼオライトの製造方法。
(10)得られた生成物が、640±5,590±5,535±5nmに光吸収ピークを有する、前記(6)から(9)のいずれかに記載のコバルト骨格置換モルデナイト型ゼオライト、又は同アナルサイム型ゼオライトの製造方法。
【0013】
本発明者らは、従来の水熱合成法を拡張し、Co原子の価数が1価であるコバルト金属錯体を、ゼオライトを結晶化させるための構造規定剤として用いることを試み、様々な合成条件を検討し、合成と分析・解析を行っていく過程で、本発明を開発するに至った。
【0014】
本発明は、骨格置換モルデナイト、又は同アナルサイム型ゼオライトであって、モルデナイト型ゼオライトの骨格構造、又はアナルサイム型ゼオライトの骨格構造を構成する骨格の一部がコバルトで置換され、粉末X線回折(XRD)により単相構造を有することを特徴とするものである。
【0015】
本発明では、上記モルデナイト型ゼオライトのSi/Al比が5.0〜20.0であること、また、上記アナルサイム型ゼオライトのSi/Al比が2.0〜2.5であること、更に、上記骨格構造の骨格を形成するAl原子及び/又はSi原子がCo原子に置換されたこと、を好ましい実施の態様としている。
【0016】
また、本発明は、上記コバルト骨格置換モルデナイト型ゼオライト、又は同アナルサイム型ゼオライトの製造方法であって、コバルト錯体を含むアルミノシリケートゲルを、水熱反応に供して、モルデナイト型ゼオライト、又はアナルサイム型ゼオライトの骨格構造の骨格の一部がコバルトで置換された骨格置換モルデナイト型、又は同アナルサイム型ゼオライトを製造することを特徴とするものである。
【0017】
本発明では、2−(2−アミノエチル)グリシン(1)のコバルト錯体(2)を含むアルミノシリケートゲルを用いること[(1):H2NCH2CH2NHCH2COOH、(2):[(H2NCH2CH2NHCH2COO)2Co]+]、また、得られた生成物が、粉末X線回折(XRD)により単相構造を有すること、更に、生成した結晶が、Na4.2Co0.30Al4.4Si43.3O96、又はNa13.5Co1.1Al14.0Si32.9O96であること、を好ましい実施の態様としている。
【0018】
すなわち、本発明は、好適には、Si/Al比が5.0〜20.0の高シリカモルデナイト及びSi/Al比が2.0〜2.5のアナルサイムを構成する骨格の一部がコバルトで置換され、X線回折によって単相構造であることを特徴とする骨格置換モルデナイト型、又は同アナルサイム型ゼオライト、及び、上記2−(2−アミノエチル)グリシン(H2NCH2CH2NHCH2COOH)のコバルト錯体([(H2NCH2CH2NHCH2COO)2Co]+)を含むアルミノシリケートゲルを水熱法により処理することを特徴とするコバルト骨格置換モルデナイト型ゼオライト、又は同アナルサイム型ゼオライトの製造方法を提供することを特徴とするものである。
【0019】
本発明では、例えば、リン酸緩衝液に、塩化コバルト6水塩と、2−(2−アミノエチル)グリシンを加え、加熱により、水を蒸発させ、Co−2−(2−アミノエチル)グリシン錯体と合成する。この場合、上述のリン酸緩衝液に代えて、炭酸緩衝液を用いることができ、また、上述の塩化コバルト6水塩に代えて、塩化コバルト無水塩、硝酸コバルト6水塩などのコバルト塩が用いられる。
【0020】
更に、上述の2−(2−アミノエチル)グリシンに代えて、−1価の3座配位子である1−(2−ピリジルアゾ)−2−ナフトール(PAN)や4−(2−ピリジルアゾ)レゾルシノール(PAR)が用いられるが、EDMA(ethylenediaminemonoacetic acid)が好適に用いられる。
【0021】
次に、例えば、ステンレス製オートクレーブに、純水、水酸化ナトリウム、水酸化アルミニウムを入れ、加熱、溶解する、次いで、これに、上述のCo−錯体と、シリカ源を加え、出発ゲルとする。出発ゲルが入ったオートクレーブを、水熱合成装置に装着し、例えば、毎分30回転程度で回転させながら、温度〜165℃程度の自生圧力下で、〜144時間程度、加熱し、合成する。生成した結晶は、pHが9以下になるまで洗浄、濾過し、〜110℃程度で〜16時間程度、乾燥する。生成した結晶は、均一な青色を呈している。
【0022】
本発明では、好適には、EDMAのコバルト(III)錯体が用いられる。コバルト(III)錯体は、置換不活性であり、安定性が高く、また、EDMAは、錯体を形成するときにキレート構造をとり、全体的に1価の陽イオンになると予想され、EDMA−Co錯体は、テンプレート分子として相応しいと考えられる。
【0023】
EDMA−Co(III)錯体存在下でゼオライトを合成する場合、合成条件としては、例えば、ゲルの組成範囲は、Na/Si比を0.1〜1.0、Si/Al比を3〜35の範囲とし、H2O/Si比を30に固定し、錯体の濃度をAlの5%とする。そして、例えば、ゲルの総量を10gとし、25cm3のオートクレーブに入れ、165℃、30rpmで回転させながら、自生圧力下で144時間水熱合成を行う。生成したゼオライトは、濾過、洗浄後、XRDで同定した後、各種の測定に供する。
【0024】
pHと錯体形成の関係を調べた結果、pH8から10の間で最も効率良く錯体を合成できることが分かった。構造は、EDMA:コバルトの比が、2:1の割合で結合しており、八面体を形成していると考えられる。EDMA−Co錯体生成の反応式は、
Co2+ + 2H EDMA → [Co3+(EDMA)2]+ + 2H+ ・・・
で表される。
【0025】
本発明では、EDMA−Co錯体を添加することによって、青色に着色したMOR型のゼオライト、及び、濃青色に着色したANA型のゼオライトが合成される。また、本発明では、例えば、Al(OH)3、SiO2、NaOHを含む出発ゲルを使用し、EDMA−Co錯体を添加することにより所定のSi/Al比のゼオライトを合成することができる。
【0026】
本発明のコバルト骨格置換アルミノシリケート型ゼオライトは、置換されたCo原子が、弱い固体酸点となり、酸化触媒として優れた触媒作用を有する。従来、イオン変換法で、ゼオライト細孔内にCoイオンを導入したものが数多く報告されているが、イオン交換法でCoイオンを導入したゼオライトは、触媒反応中に、容易にCoイオンが抜けてしまうという欠点があった。これに対し、本発明の骨格置換ゼオライトでは、触媒反応中に、Coイオンが抜けてしまうという問題がない。
【発明の効果】
【0027】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)従来技術では知られていなかったコバルト骨格置換モルデナイト型、又は同アナルサイム型ゼオライトを合成し、提供することができる。
(2)本発明により、合成した骨格にCo原子を含有するコバルト骨格置換モルデナイト型、又は同アナルサイム型ゼオライトは、粉末X線回折(XRD)により単相構造であることが証明されたものである。
(3)本発明により、骨格を形成するAl原子及び/又はSi原子の一部をコバルトイオンに置換した、吸着分離剤、触媒として有用な、モルデナイト型、又は同アナルサイム型ゼオライトを合成し、提供することができる。
(4)本発明により、骨格構造を構成する原子のうち、Al原子及び/又はSi原子の一部がCo原子に入れ替わった、深い青色を呈し、焼成後の試料も、若干、色は薄くなるものの、青色をしている、骨格置換モルデナイト型、又は同アナルサイム型ゼオライトを合成することができる。
(5)Si/Al比が5.0〜20.0の高シリカモルデナイト、又はSi/Al比が2.0〜2.5のアナルサイムを構成する骨格の一部をコバルトで置換することができる。
(6)コバルト原子の価数が1価であるコバルト金属錯体を、ゼオライトを結晶化させるための構造規定剤として用いて、水熱法により処理する、新しいコバルト骨格置換モルデナイト型ゼオライト、又は同アナルサイム型ゼオライトの合成法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】骨格構造モデル:(a)アナルサイム型ゼオライト、(b)モルデナイト型ゼオライト、(c)上記(b)を横から見た図を示す。図中の黒球がTサイトを表す。
【図2】Co−モルデナイト型ゼオライトの合成直後の粉末XRDパターンを示す。
【図3】Co−モルデナイト型ゼオライトの合成直後の粉末XRDパターン(左)とそれを焼成したときのXRDパターン(右)を示す。
【図4】Co−モルデナイト型ゼオライトの熱分析チャートを示す。
【図5】Co−モルデナイト型ゼオライトの29Si MAS NMR(上)及び27Al MAS NMRのスペクトル図を示す。
【図6】Co−アナルサイム型ゼオライトの粉末XRDパターンを示す。
【図7】ANA型MOR型Co骨格置換ゼオライトの拡散反射率スペクトルを示す。
【図8】ANA型MOR型Co骨格置換ゼオライトの拡散反射スペクトルをKubelka−Munk変換して得られた吸収スペクトルを示す。Co−ANAのスペクトルはスケーリングを行い縦軸オフセットをずらしている。
【図9】ANA型MOR型Co骨格置換ゼオライトの拡散反射スペクトル(図7の400−800nmを拡大したもの)及び、Co−AFI型ゼオライトの文献データを示す。Co−ANAのスペクトルはスケーリングを行い縦軸オフセットをずらしている。
【図10】生成物のSEM観察像を示す。(A)はCo−MOR(モルデナイト型)、(B)はCo−ANA(アナルサイム型)、である。
【図11】錯体濃度5%におけるゼオライトの合成マップを示す。Na/Si比の違いにより、MOR型、MOR型+ANA型の混晶、及びANA型ゼオライトが生成する。
【発明を実施するための形態】
【0029】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0030】
本発明の実施の形態及び実施例を図面を参照して具体的に説明する。以下の実施例における、各測定方法は、次の通りである。
(1)化学組成の測定
試料を乾燥後、走査型電子顕微鏡(日本電子製JSM−6360SA)に備え付けられたエネルギー分散型元素分析装置を使って、ピーク面積から、ZAF法により、Si、Al、Co、Na、Oの原子存在比から試料の組成を決定した。
【0031】
(2)結晶構造の測定
X線回折装置(株式会社リガク製、型式:RINT2000及びブルカーエイエックスエス株式会社製、型式:D8 ADVANCE with Vario−1)を用いて、結晶構造の測定を行った。
【0032】
(3)29Si DDMAS NMR、27Al MAS NMRの測定
ブルカーバイオスピン社AVANCE400WBを使用した。全ての測定で、4mmプローブを用い、MAS回転数を、5kHz(29Si)、14kHz(27Al)とした。ケミカルシフトの補正は、H、Si核にテトラメチルシランを用いて、また、C核にグリシンを用いて、行った。
【0033】
(4)熱分析
ブルカーエイエックスエス社製のTG−DTA2000を用いて、熱分析を行った。昇温速度を10℃/minとし、800℃まで加熱した。
(5)光学吸収スペクトルの測定
バリアン社製のCary5000分光光度計を用いて、光学吸収スペクトルの測定を行った。反射測定ユニットを利用して、粉末結晶の拡散反射スペクトルを収集した。吸収スペクトルへの変換は後述の方法により行った。一方、比較対象としてCo錯体含有水溶液の透過スペクトルも併せて測定した。
【0034】
本発明により得られるモルデナイト(MOR)型、及びアナルサイム(ANA)型ゼオライトの骨格構造モデルを図1に示す。図中、(a)は、アナルサイム型ゼオライト、(b)は、モルデナイト型ゼオライト、(c)は、(b)を横から見た図であり、図中の黒球がTサイトを表す。
【0035】
MOR型及びANA型ともに、TO4正四面体(tetrahedron sites、Tサイト、T=Si又はAl)のネットワークにより、細孔構造が形成される。骨格において、Si原子とAl原子は等電子状態にあるので、Al原子は負電荷を帯びる。従って、Alを含む場合、骨格は全体的に負に帯電するため、電荷バランスを保つために、カチオン元素が必要となり、該カチオン元素として、主に、アルカリ金属イオン(Li,Na,K等)が用いられる。
【0036】
本発明で、最も重要な骨格置換とは、骨格構造の構成原子のうち、Alの一部が、Co等の遷移金属に入れ替わることを指す。一般に、ゼオライトの骨格置換は難しく、骨格置換できたとしても、通常、単位格子中に含まれる全Tサイト数に対して、数%未満の僅かな量しか置換できないとされている。また、その分布は、骨格内において、ランダムであり、通常、特定することは困難である。
【実施例1】
【0037】
(1)Co−EDMA錯体の合成
リン酸緩衝液で、pH9.18に調製した緩衝溶液20cm3に、塩化コバルト6水塩(純正化学試薬特級)0.30gと、2−(2−アミノエチル)グリシン(Toronto Research Chemicals Inc.)0.5gを加えた。暗赤色の液体が得られるので、加熱により、水を蒸発させ、Co−2−(2−アミノエチル)グリシン錯体を結晶化させた。得られた暗赤色の結晶を、ゼオライト合成の出発ゲルに加えた。連続変化法によって決定された錯体の組成は、[(H2NCH2CH2NHCH2COO)2Co]+であった。
【0038】
(2)Co−MORの合成
1)Lot2では、内容積20cm−3のステンレス製オートクレーブに、純水8.52g、水酸化ナトリウム(市販特級試薬)0.32g、水酸化アルミニウム(市販特級試薬)53.2mgを入れ、加熱、溶解した。次いで、別途合成したCo−錯体を0.010g、シリカ源として、日本シリカ NIPSIL VN−3(純度88%)を1.09g加え、総量10gの出発ゲルとした。
【0039】
出発ゲルが入ったオートクレーブを、水熱合成装置(ヒロカンパニー製KH−02)に装着し、毎分30回転で回転させながら、温度165℃の自生圧力下で、144時間、加熱し、合成した。
【0040】
生成した結晶は、濾液のpHが9以下になるまで洗浄濾過し、110℃で、16時間乾燥した。生成した結晶は、均一な青色を呈していた。生成した結晶は、X線回折装置で同定したところ、単相のモルデナイトであった。組成分析の結果、吸着水を除いた組成は、Na4.2Co0.30Al4.4Si43.3O96であった。
【0041】
2)Lot7では、内容積20cm−3のステンレス製オートクレーブに、純水8.46g、水酸化ナトリウム(市販特級試薬)0.31g、水酸化アルミニウム(市販特級試薬)0.12gを入れ、加熱、溶解した。次いで、別途合成したCo−錯体を22.5mg、シリカ源として、日本シリカ NIPSIL VN−3(純度88%)を1.08g加え、総量10gの出発ゲルとした。
【0042】
図10(A)に、このときの生成した結晶[Co−MOR(モルデナイト型)]のSEM観察像を示す。生成した結晶のモルフォロジーは、SEM観察から、図10(A)で示されるように、一辺が10μm程の直方体形状のものが比較的多く見られることが明らかになった。直方体形状だけでなく、角張った不規則な形状をした結晶も見られた。
【0043】
出発ゲルが入ったオートクレーブを、水熱合成装置(ヒロカンパニー製KH−02)に装着し、毎分30回転で回転させながら、温度165℃の自生圧力下で、144時間、加熱し、合成した。
【0044】
生成した結晶は、濾液のpHが9以下になるまで洗浄濾過し、110℃で、16時間、乾燥した。生成した結晶は、均一な青色を呈していた。生成した結晶は、X線回折装置で同定したところ、単相のモルデナイトであった。組成分析の結果、吸着水を除いた組成は、Na5.6Co0.45Al6.5Si41.0O96であった。
【0045】
(3)骨格置換ゼオライトであることの証明
このようにして得られた生成物が、MOR型ゼオライトであることの証明は、粉末X線回折(XRD)により行った。Co−MORの2つのバッチについて、合成直後のXRDパターンを図2、図3に示す。図3(左)は、図2の2θ<30°以下を拡大したものである。また、図3(右)は、得られたCo−MORを焼成したものである。Lot2では、2θ〜4°付近に、MORの結晶構造からは帰属されない不純物ピークが観測されが、焼成することで、不純物は消滅し、MOR相のみの回折線が観測された。
【0046】
本実施例1、及び後記する実施例2で、目的の結晶が得られたときの、出発ゲルの組成は、表1,表2のように与えられる。また、表1,2で示される出発ゲル組成より得られた生成物の化学組成は、分析から、表3で示される結果となった。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
【表3】
【0050】
図4に、Co−MORの、図2に記載の2つの合成LotsのTG−DTAチャートを示す。どちらも、400℃にかけて、12−13%の単調減少的な重量減少を示している。また、300−500℃にかけて、非常に弱い不鮮明な発熱ピークしか示していない。このことは、用いたCo−錯体が、ゼオライト細孔内では、錯体として存在していないことを示唆している。
【0051】
図5に、Co−MORの、図2に記載の2つの合成Lotsの29Si MAS NMR、及び27Al MAS NMRスペクトルを示す。29Si MAS NMRからは、Lot2とLot7では、ケミカルシフトは同一で、4配位構造のみを示すものの、0Alピーク(−111ppm)と1Alピーク(−106ppm)の相対強度比が変化していた。これは、Si/Al比が異なることを示唆した。一方、27Al MAS NMRスペクトルからは、どちらも56ppmに4配位Alに由来するピークが観測された。Lot7では、若干の5配位ピーク(8.5ppm)が観測された。
【0052】
図7に、Co−MOR(Lot2,Lot7)の拡散反射スペクトルを示す。450〜750nmの波長帯域に、同一形状のスペクトルが観測される。これは、既存の高シリカ型及びアルミノシリケート型ゼオライトでは見られない吸収帯である。また、用いたCo−錯体のスペクトルとも完全に異なっていている。
【0053】
図8に、図7の拡散反射率スペクトルをKubelka−Munk変換[(1−r)2/2r,rは拡散反射率]して得られた吸収スペクトルを示す。450〜750nmの波長帯域に、同一形状の吸収スペクトルが観測される。紫外領域には、骨格のSiO2由来の吸収があるのみで、他の電子遷移に伴う吸収は、観測されなかった。
【0054】
図9に、図8の450〜750nmの領域を拡大した図(下)を示す。これは、Co骨格置換型ゼオライトとして知られているCoAPO−5の文献(文献:YAN XU,PETER J.MADDOX and JOHN M.THOMAS,Polyhedron Vol.8,No.6,pp.819−826,1989)記載の吸収スペクトル(上)と、ほぼ同一の構造であることがわかる。以上から、本発明で得られたMOR型ゼオライトは、骨格にCo原子を含有する骨格置換型ゼオライトであることが特徴づけられた。
【実施例2】
【0055】
内容積20cm−3のステンレス製オートクレーブに、純水8.35g、水酸化ナトリウム(市販特級試薬)0.62g、水酸化アルミニウム(市販特級試薬)0.086gを入れ、加熱、溶解した。
【0056】
次いで、ステンレス製オートクレーブに、実施例1で用いたものと同一の合成Co−錯体を0.016g、シリカ源として、日本シリカ NIPSIL VN−3(純度88%)を1.05g加え、総量10gの出発ゲルとした。
【0057】
出発ゲルが入ったオートクレーブを、水熱合成装置(ヒロカンパニー製KH−02)に装着し、毎分30回転で回転させながら、温度165℃の自生圧力下で、144時間、加熱し、合成した。
【0058】
生成した結晶は、濾液のpHが9以下になるまで洗浄濾過し、110℃で、16時間、乾燥した。生成した結晶は、均一な青色を呈していた。生成した結晶は、X線回折装置で同定したところ、単相のアナルサイムであった。組成分析の結果、吸着水を除いた組成は、Na13.5Co1.1Al14.0Si32.9O96であった。
【0059】
このようにして得られた生成物が、ANA型ゼオライトであることの証明は、粉末X線回折(XRD)により行った。図6から、本実施例により合成された化合物が、ANA型ゼオライトの粉末XRDパターンであることが分かった。非常に結晶性の良いANA構造ができていることがわかった。
【0060】
図7に、Co−ANAの拡散反射率スペクトルを示す。450〜750nmの波長帯域に、Co−MORと同一形状のスペクトルが観測される。これは、既存の高シリカ型及びアルミノシリケート型ゼオライトでは見られない吸収帯である。また、用いたCo−錯体のスペクトルとも完全に異なっている。図10(B)に、このときの生成した結晶[Co−ANA(アナルサイム型)のSEM観察像を示す。生成した結晶のモルフォロジーは、SEM観察から、図10(B)で示されるように、直径が2〜4μm程の孤立した球状のものが多く見られることが明らかになった。
【0061】
図8に、図7の拡散反射率スペクトルをKubelka−Munk変換[(1−r)2/2r,rは拡散反射率]して得られた吸収スペクトルを示す。450〜750nmの波長帯域に、同一形状の吸収スペクトルが観測される。紫外領域には、骨格のSiO2由来の吸収があるのみで、他の電子遷移に伴う吸収は、観測されなかった。
【0062】
図9に、図8の450〜750nmの領域を拡大した図(下)を示す。これは、Co骨格置換型ゼオライトとして知られているCoAPO−5の文献(文献:YAN XU,PETER J.MADDOX and JOHN M.THOMAS,Polyhedron Vol.8,No.6,pp.819−826,1989)記載の吸収スペクトル(上)と、ほぼ同一の構造であることがわかる。
【0063】
以上の実験から、本発明で得られたANA型ゼオライトは、骨格にCo原子を含有する骨格置換型ゼオライトであることが特徴づけられた。得られた試料は、どれも深い青色をしていた。また、焼成後の試料も、若干、色は薄くなるものの、青色をしていた。
【0064】
図11に、ゼオライトの合成マップを示す。Na/Si比の違いにより、MOR型、MOR型+ANA型の混晶、及びANA型ゼオライトが生成する。Si/Al比が10未満の領域では、2種類のゼオライトの混晶が生成することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上詳述したように、本発明は、コバルト骨格置換アルミノシリケート型ゼオライト及びその製造方法に係るものであり、本発明により、従来技術では合成することが困難であった、骨格にCo原子を含有するコバルト骨格置換モルデナイト型、又は同アナルサイム型ゼオライトを合成し、提供することができる。本発明の方法により合成したゼオライト結晶は、粉末X線回折(XRD)により、単相のモルデナイト型又はアナルサイム型ゼオライトであることが証明されたものである。本発明により、合成される骨格を形成するAl原子及び/又はSi原子の一部がコバルトイオンに置換されたモルデナイト型、又は同アナルサイム型ゼオライトは、吸着分離剤や、特に、触媒として、高い有用性を有するものである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、コバルト骨格置換アルミノシリケート型ゼオライトに関するものであり、更に詳しくは、骨格を形成するAl原子及び/又はSi原子の一部がコバルト(Co)原子に置換された、従来にないコバルト骨格置換アルミノシリケート型ゼオライトから構成される新規コバルト骨格置換モルデナイト型、又は同アナルサイム型ゼオライト、及びそれらの製造方法に関するものである。そして、本発明は、例えば、形状選択性固体触媒、酸化触媒、イオン交換剤、化学反応場などに好適に用いることのできる、高結晶性のコバルト骨格置換アルミノシリケート型ゼオライトに関する新技術・新製品を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ゼオライトは、原子レベルで規則的に配列したマイクロ孔(3−20Å)を有し、主に、骨格構造の構成元素が、Si,Al,Oからなるアルミノシリケート型ゼオライトと、Si,Oのみからなるハイシリカ(ピュアシリカ)型ゼオライトに分類することができる。ゼオライトは、形状選択的な、あるいは骨格構造に起因した化学的・物理的吸着作用を持つことにより、モレキュラーシーブ(分子ふるい)、分離吸着剤、イオン交換体、触媒などとしての機能を有することが知られている。
【0003】
現在、天然ゼオライト及び合成ゼオライトとして、160種類以上の構造が知られ、それと、骨格元素の組成を組み合わせることで、目的に合わせた化学的性質や、構造安定性、耐熱性を兼ね備えた多孔質材料として、石油化学を中心とする幅広い産業分野で用いられている。
【0004】
それぞれのゼオライトは、規則的な細孔を形成する幾何学的な骨格構造により区別され、一義的なX線回折パターンを与えることから、各ゼオライトは、実験的に区別することが可能である。すなわち、骨格構造(結晶構造)は、ゼオライトの細孔の形や大きさを規定している。
【0005】
各ゼオライトの吸着特性や、機械的強度、固体酸の性能は、部分的には、その細孔の形や大きさ、骨格を構成する組成で決まる。従って、特定の応用を考えた場合、ある特定のゼオライトの有用性は、少なくとも部分的には、その結晶構造や組成に依存する。
【0006】
Co,Ni,Ti,Feなどの遷移金属元素を、Si(Al)O2を主組成とするゼオライト骨格に置換する技術は、長い間検討されている。特に、Coは、弱い固体酸点となり、酸化触媒として優れた応用が期待されている。これまで、Coで骨格置換されたゼオライトは、結晶の色が群青色をしているAFI型のCoAPO−5が知られている。
【0007】
殆どの場合、ゼオライトの骨格置換は難しく、骨格置換できたとしても、骨格組成に対して、1〜3%程度しか置換できないことが知られている。産業利用としては、骨格置換より、より簡便なイオン交換法で、ゼオライト細孔内にCoイオンを導入したものが数多く研究されている。しかし、ゼオライト細孔内にCoイオンを導入したものは、反応中に容易にCoイオンが抜けてしまうなど、問題点が多い。
【0008】
また、既存の骨格置換ゼオライトに関する特許文献では、骨格置換である証拠及び証明が不十分であり、例えば、触媒反応成績などからの推測的な解釈が殆どである。また、多くのCo−ゼオライトと称される物質は、骨格置換は、置換元素量が、一般的には、非常に少ないため、イオン交換の形で、遷移金属酸化物を、細孔内に担持させただけのものが殆どである。また、これまで、コバルトで骨格置換したモルデナイト型及びアナルサイム型ゼオライトの合成例は報告されていないことから、特殊な合成手法が必要と考えられてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−89341号公報
【特許文献2】米国特許第4500503号明細書
【特許文献3】特表2005−514551号公報
【特許文献4】特開平7−2715号公報
【特許文献5】特表2009−518533号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】冨永博夫編、ゼオライトの化学と応用、講談社サイエンティフィク(1987)pp96−97
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、コバルトで骨格置換したモルデナイト型及びアナルサイム型ゼオライト、及びそれらの合成方法を開発することを目標として鋭意研究を重ねた結果、コバルト錯体を含むアルミナシリケートゲルを水熱反応に供することにより所期の目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、上記の技術背景において、骨格を形成するAl原子及び/又はSiの原子の一部がコバルト原子で置換された、吸着分離剤、固体触媒などとして好適な、コバルト骨格置換モルデナイト型ゼオライト、又は同アナルサイム型ゼオライトを提供することを目的とするものである。また、本発明は、コバルト錯体を含むアルミノシリケートを水熱反応させることにより、骨格を形成するAl原子及び/又はSi原子の一部がコバルト原子で置換されたコバルト置換モルデナイト型、又は同アナルサイム型ゼオライトの製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)モルデナイト型ゼオライトの骨格構造、又はアナルサイム型ゼオライトの骨格構造を構成する骨格の一部がコバルトで置換され、粉末X線回折(XRD)により単相構造を有することを特徴とする骨格置換モルデナイト型、又は同アナルサイム型ゼオライト。
(2)Si/Al比が5.0〜20.0であるモルデナイト型ゼオライトの骨格構造を構成する骨格の一部がコバルトで置換された、前記(1)に記載の骨格置換モルデナイト型ゼオライト。
(3)Si/Al比が2.0〜2.5であるアナルサイム型ゼオライトの骨格構造を構成する骨格の一部がコバルトで置換された、前記(1)に記載の骨格置換アナルサイム型ゼオライト。
(4)上記骨格構造の骨格を形成するAl原子及び/又はSi原子がCo原子に置換された、前記(1)に記載の骨格置換モルデナイト型、又は同アナルサイム型ゼオライト。
(5)640±5,590±5,535±5nmに光吸収ピークを有する、前記(1)から(4)のいずれかに記載の骨格置換モルデナイト型、又は同アナルサイム型ゼオライト。
(6)コバルト錯体を含むアルミノシリケートゲルを、水熱反応に供して、モルデナイト型ゼオライト、又はアナルサイム型ゼオライトの骨格構造の骨格を形成するAl原子及び/又はSi原子の一部がコバルトで置換された骨格置換モルデナイト型、又は同アナルサイム型ゼオライトを製造することを特徴とするコバルト骨格置換モルデナイト型ゼオライト、又は同アナルサイム型ゼオライトの製造方法。
(7)2−(2−アミノエチル)グリシン(1)のコバルト錯体(2)を含むアルミノシリケートゲルを用いる、前記(6)に記載のコバルト骨格置換モルデナイト型ゼオライト、又は同アナルサイム型ゼオライトの製造方法。
(1)H2NCH2CH2NHCH2COOH
(2)[(H2NCH2CH2NHCH2COO)2Co]+
(8)得られた生成物が、粉末X線回折(XRD)により単相構造を有する、前記(6)又は(7)に記載のコバルト骨格置換モルデナイト型ゼオライト、又は同アナルサイム型ゼオライトの製造方法。
(9)生成した結晶が、Na4.2Co0.30Al4.4Si43.3O96もしくはNa5.6Co0.45Al6.5Si41.0O96、又はNa13.5Co1.1Al14.0Si32.9O96である、前記(6)に記載のコバルト骨格置換モルデナイト型ゼオライト、又は同アナルサイム型ゼオライトの製造方法。
(10)得られた生成物が、640±5,590±5,535±5nmに光吸収ピークを有する、前記(6)から(9)のいずれかに記載のコバルト骨格置換モルデナイト型ゼオライト、又は同アナルサイム型ゼオライトの製造方法。
【0013】
本発明者らは、従来の水熱合成法を拡張し、Co原子の価数が1価であるコバルト金属錯体を、ゼオライトを結晶化させるための構造規定剤として用いることを試み、様々な合成条件を検討し、合成と分析・解析を行っていく過程で、本発明を開発するに至った。
【0014】
本発明は、骨格置換モルデナイト、又は同アナルサイム型ゼオライトであって、モルデナイト型ゼオライトの骨格構造、又はアナルサイム型ゼオライトの骨格構造を構成する骨格の一部がコバルトで置換され、粉末X線回折(XRD)により単相構造を有することを特徴とするものである。
【0015】
本発明では、上記モルデナイト型ゼオライトのSi/Al比が5.0〜20.0であること、また、上記アナルサイム型ゼオライトのSi/Al比が2.0〜2.5であること、更に、上記骨格構造の骨格を形成するAl原子及び/又はSi原子がCo原子に置換されたこと、を好ましい実施の態様としている。
【0016】
また、本発明は、上記コバルト骨格置換モルデナイト型ゼオライト、又は同アナルサイム型ゼオライトの製造方法であって、コバルト錯体を含むアルミノシリケートゲルを、水熱反応に供して、モルデナイト型ゼオライト、又はアナルサイム型ゼオライトの骨格構造の骨格の一部がコバルトで置換された骨格置換モルデナイト型、又は同アナルサイム型ゼオライトを製造することを特徴とするものである。
【0017】
本発明では、2−(2−アミノエチル)グリシン(1)のコバルト錯体(2)を含むアルミノシリケートゲルを用いること[(1):H2NCH2CH2NHCH2COOH、(2):[(H2NCH2CH2NHCH2COO)2Co]+]、また、得られた生成物が、粉末X線回折(XRD)により単相構造を有すること、更に、生成した結晶が、Na4.2Co0.30Al4.4Si43.3O96、又はNa13.5Co1.1Al14.0Si32.9O96であること、を好ましい実施の態様としている。
【0018】
すなわち、本発明は、好適には、Si/Al比が5.0〜20.0の高シリカモルデナイト及びSi/Al比が2.0〜2.5のアナルサイムを構成する骨格の一部がコバルトで置換され、X線回折によって単相構造であることを特徴とする骨格置換モルデナイト型、又は同アナルサイム型ゼオライト、及び、上記2−(2−アミノエチル)グリシン(H2NCH2CH2NHCH2COOH)のコバルト錯体([(H2NCH2CH2NHCH2COO)2Co]+)を含むアルミノシリケートゲルを水熱法により処理することを特徴とするコバルト骨格置換モルデナイト型ゼオライト、又は同アナルサイム型ゼオライトの製造方法を提供することを特徴とするものである。
【0019】
本発明では、例えば、リン酸緩衝液に、塩化コバルト6水塩と、2−(2−アミノエチル)グリシンを加え、加熱により、水を蒸発させ、Co−2−(2−アミノエチル)グリシン錯体と合成する。この場合、上述のリン酸緩衝液に代えて、炭酸緩衝液を用いることができ、また、上述の塩化コバルト6水塩に代えて、塩化コバルト無水塩、硝酸コバルト6水塩などのコバルト塩が用いられる。
【0020】
更に、上述の2−(2−アミノエチル)グリシンに代えて、−1価の3座配位子である1−(2−ピリジルアゾ)−2−ナフトール(PAN)や4−(2−ピリジルアゾ)レゾルシノール(PAR)が用いられるが、EDMA(ethylenediaminemonoacetic acid)が好適に用いられる。
【0021】
次に、例えば、ステンレス製オートクレーブに、純水、水酸化ナトリウム、水酸化アルミニウムを入れ、加熱、溶解する、次いで、これに、上述のCo−錯体と、シリカ源を加え、出発ゲルとする。出発ゲルが入ったオートクレーブを、水熱合成装置に装着し、例えば、毎分30回転程度で回転させながら、温度〜165℃程度の自生圧力下で、〜144時間程度、加熱し、合成する。生成した結晶は、pHが9以下になるまで洗浄、濾過し、〜110℃程度で〜16時間程度、乾燥する。生成した結晶は、均一な青色を呈している。
【0022】
本発明では、好適には、EDMAのコバルト(III)錯体が用いられる。コバルト(III)錯体は、置換不活性であり、安定性が高く、また、EDMAは、錯体を形成するときにキレート構造をとり、全体的に1価の陽イオンになると予想され、EDMA−Co錯体は、テンプレート分子として相応しいと考えられる。
【0023】
EDMA−Co(III)錯体存在下でゼオライトを合成する場合、合成条件としては、例えば、ゲルの組成範囲は、Na/Si比を0.1〜1.0、Si/Al比を3〜35の範囲とし、H2O/Si比を30に固定し、錯体の濃度をAlの5%とする。そして、例えば、ゲルの総量を10gとし、25cm3のオートクレーブに入れ、165℃、30rpmで回転させながら、自生圧力下で144時間水熱合成を行う。生成したゼオライトは、濾過、洗浄後、XRDで同定した後、各種の測定に供する。
【0024】
pHと錯体形成の関係を調べた結果、pH8から10の間で最も効率良く錯体を合成できることが分かった。構造は、EDMA:コバルトの比が、2:1の割合で結合しており、八面体を形成していると考えられる。EDMA−Co錯体生成の反応式は、
Co2+ + 2H EDMA → [Co3+(EDMA)2]+ + 2H+ ・・・
で表される。
【0025】
本発明では、EDMA−Co錯体を添加することによって、青色に着色したMOR型のゼオライト、及び、濃青色に着色したANA型のゼオライトが合成される。また、本発明では、例えば、Al(OH)3、SiO2、NaOHを含む出発ゲルを使用し、EDMA−Co錯体を添加することにより所定のSi/Al比のゼオライトを合成することができる。
【0026】
本発明のコバルト骨格置換アルミノシリケート型ゼオライトは、置換されたCo原子が、弱い固体酸点となり、酸化触媒として優れた触媒作用を有する。従来、イオン変換法で、ゼオライト細孔内にCoイオンを導入したものが数多く報告されているが、イオン交換法でCoイオンを導入したゼオライトは、触媒反応中に、容易にCoイオンが抜けてしまうという欠点があった。これに対し、本発明の骨格置換ゼオライトでは、触媒反応中に、Coイオンが抜けてしまうという問題がない。
【発明の効果】
【0027】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)従来技術では知られていなかったコバルト骨格置換モルデナイト型、又は同アナルサイム型ゼオライトを合成し、提供することができる。
(2)本発明により、合成した骨格にCo原子を含有するコバルト骨格置換モルデナイト型、又は同アナルサイム型ゼオライトは、粉末X線回折(XRD)により単相構造であることが証明されたものである。
(3)本発明により、骨格を形成するAl原子及び/又はSi原子の一部をコバルトイオンに置換した、吸着分離剤、触媒として有用な、モルデナイト型、又は同アナルサイム型ゼオライトを合成し、提供することができる。
(4)本発明により、骨格構造を構成する原子のうち、Al原子及び/又はSi原子の一部がCo原子に入れ替わった、深い青色を呈し、焼成後の試料も、若干、色は薄くなるものの、青色をしている、骨格置換モルデナイト型、又は同アナルサイム型ゼオライトを合成することができる。
(5)Si/Al比が5.0〜20.0の高シリカモルデナイト、又はSi/Al比が2.0〜2.5のアナルサイムを構成する骨格の一部をコバルトで置換することができる。
(6)コバルト原子の価数が1価であるコバルト金属錯体を、ゼオライトを結晶化させるための構造規定剤として用いて、水熱法により処理する、新しいコバルト骨格置換モルデナイト型ゼオライト、又は同アナルサイム型ゼオライトの合成法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】骨格構造モデル:(a)アナルサイム型ゼオライト、(b)モルデナイト型ゼオライト、(c)上記(b)を横から見た図を示す。図中の黒球がTサイトを表す。
【図2】Co−モルデナイト型ゼオライトの合成直後の粉末XRDパターンを示す。
【図3】Co−モルデナイト型ゼオライトの合成直後の粉末XRDパターン(左)とそれを焼成したときのXRDパターン(右)を示す。
【図4】Co−モルデナイト型ゼオライトの熱分析チャートを示す。
【図5】Co−モルデナイト型ゼオライトの29Si MAS NMR(上)及び27Al MAS NMRのスペクトル図を示す。
【図6】Co−アナルサイム型ゼオライトの粉末XRDパターンを示す。
【図7】ANA型MOR型Co骨格置換ゼオライトの拡散反射率スペクトルを示す。
【図8】ANA型MOR型Co骨格置換ゼオライトの拡散反射スペクトルをKubelka−Munk変換して得られた吸収スペクトルを示す。Co−ANAのスペクトルはスケーリングを行い縦軸オフセットをずらしている。
【図9】ANA型MOR型Co骨格置換ゼオライトの拡散反射スペクトル(図7の400−800nmを拡大したもの)及び、Co−AFI型ゼオライトの文献データを示す。Co−ANAのスペクトルはスケーリングを行い縦軸オフセットをずらしている。
【図10】生成物のSEM観察像を示す。(A)はCo−MOR(モルデナイト型)、(B)はCo−ANA(アナルサイム型)、である。
【図11】錯体濃度5%におけるゼオライトの合成マップを示す。Na/Si比の違いにより、MOR型、MOR型+ANA型の混晶、及びANA型ゼオライトが生成する。
【発明を実施するための形態】
【0029】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0030】
本発明の実施の形態及び実施例を図面を参照して具体的に説明する。以下の実施例における、各測定方法は、次の通りである。
(1)化学組成の測定
試料を乾燥後、走査型電子顕微鏡(日本電子製JSM−6360SA)に備え付けられたエネルギー分散型元素分析装置を使って、ピーク面積から、ZAF法により、Si、Al、Co、Na、Oの原子存在比から試料の組成を決定した。
【0031】
(2)結晶構造の測定
X線回折装置(株式会社リガク製、型式:RINT2000及びブルカーエイエックスエス株式会社製、型式:D8 ADVANCE with Vario−1)を用いて、結晶構造の測定を行った。
【0032】
(3)29Si DDMAS NMR、27Al MAS NMRの測定
ブルカーバイオスピン社AVANCE400WBを使用した。全ての測定で、4mmプローブを用い、MAS回転数を、5kHz(29Si)、14kHz(27Al)とした。ケミカルシフトの補正は、H、Si核にテトラメチルシランを用いて、また、C核にグリシンを用いて、行った。
【0033】
(4)熱分析
ブルカーエイエックスエス社製のTG−DTA2000を用いて、熱分析を行った。昇温速度を10℃/minとし、800℃まで加熱した。
(5)光学吸収スペクトルの測定
バリアン社製のCary5000分光光度計を用いて、光学吸収スペクトルの測定を行った。反射測定ユニットを利用して、粉末結晶の拡散反射スペクトルを収集した。吸収スペクトルへの変換は後述の方法により行った。一方、比較対象としてCo錯体含有水溶液の透過スペクトルも併せて測定した。
【0034】
本発明により得られるモルデナイト(MOR)型、及びアナルサイム(ANA)型ゼオライトの骨格構造モデルを図1に示す。図中、(a)は、アナルサイム型ゼオライト、(b)は、モルデナイト型ゼオライト、(c)は、(b)を横から見た図であり、図中の黒球がTサイトを表す。
【0035】
MOR型及びANA型ともに、TO4正四面体(tetrahedron sites、Tサイト、T=Si又はAl)のネットワークにより、細孔構造が形成される。骨格において、Si原子とAl原子は等電子状態にあるので、Al原子は負電荷を帯びる。従って、Alを含む場合、骨格は全体的に負に帯電するため、電荷バランスを保つために、カチオン元素が必要となり、該カチオン元素として、主に、アルカリ金属イオン(Li,Na,K等)が用いられる。
【0036】
本発明で、最も重要な骨格置換とは、骨格構造の構成原子のうち、Alの一部が、Co等の遷移金属に入れ替わることを指す。一般に、ゼオライトの骨格置換は難しく、骨格置換できたとしても、通常、単位格子中に含まれる全Tサイト数に対して、数%未満の僅かな量しか置換できないとされている。また、その分布は、骨格内において、ランダムであり、通常、特定することは困難である。
【実施例1】
【0037】
(1)Co−EDMA錯体の合成
リン酸緩衝液で、pH9.18に調製した緩衝溶液20cm3に、塩化コバルト6水塩(純正化学試薬特級)0.30gと、2−(2−アミノエチル)グリシン(Toronto Research Chemicals Inc.)0.5gを加えた。暗赤色の液体が得られるので、加熱により、水を蒸発させ、Co−2−(2−アミノエチル)グリシン錯体を結晶化させた。得られた暗赤色の結晶を、ゼオライト合成の出発ゲルに加えた。連続変化法によって決定された錯体の組成は、[(H2NCH2CH2NHCH2COO)2Co]+であった。
【0038】
(2)Co−MORの合成
1)Lot2では、内容積20cm−3のステンレス製オートクレーブに、純水8.52g、水酸化ナトリウム(市販特級試薬)0.32g、水酸化アルミニウム(市販特級試薬)53.2mgを入れ、加熱、溶解した。次いで、別途合成したCo−錯体を0.010g、シリカ源として、日本シリカ NIPSIL VN−3(純度88%)を1.09g加え、総量10gの出発ゲルとした。
【0039】
出発ゲルが入ったオートクレーブを、水熱合成装置(ヒロカンパニー製KH−02)に装着し、毎分30回転で回転させながら、温度165℃の自生圧力下で、144時間、加熱し、合成した。
【0040】
生成した結晶は、濾液のpHが9以下になるまで洗浄濾過し、110℃で、16時間乾燥した。生成した結晶は、均一な青色を呈していた。生成した結晶は、X線回折装置で同定したところ、単相のモルデナイトであった。組成分析の結果、吸着水を除いた組成は、Na4.2Co0.30Al4.4Si43.3O96であった。
【0041】
2)Lot7では、内容積20cm−3のステンレス製オートクレーブに、純水8.46g、水酸化ナトリウム(市販特級試薬)0.31g、水酸化アルミニウム(市販特級試薬)0.12gを入れ、加熱、溶解した。次いで、別途合成したCo−錯体を22.5mg、シリカ源として、日本シリカ NIPSIL VN−3(純度88%)を1.08g加え、総量10gの出発ゲルとした。
【0042】
図10(A)に、このときの生成した結晶[Co−MOR(モルデナイト型)]のSEM観察像を示す。生成した結晶のモルフォロジーは、SEM観察から、図10(A)で示されるように、一辺が10μm程の直方体形状のものが比較的多く見られることが明らかになった。直方体形状だけでなく、角張った不規則な形状をした結晶も見られた。
【0043】
出発ゲルが入ったオートクレーブを、水熱合成装置(ヒロカンパニー製KH−02)に装着し、毎分30回転で回転させながら、温度165℃の自生圧力下で、144時間、加熱し、合成した。
【0044】
生成した結晶は、濾液のpHが9以下になるまで洗浄濾過し、110℃で、16時間、乾燥した。生成した結晶は、均一な青色を呈していた。生成した結晶は、X線回折装置で同定したところ、単相のモルデナイトであった。組成分析の結果、吸着水を除いた組成は、Na5.6Co0.45Al6.5Si41.0O96であった。
【0045】
(3)骨格置換ゼオライトであることの証明
このようにして得られた生成物が、MOR型ゼオライトであることの証明は、粉末X線回折(XRD)により行った。Co−MORの2つのバッチについて、合成直後のXRDパターンを図2、図3に示す。図3(左)は、図2の2θ<30°以下を拡大したものである。また、図3(右)は、得られたCo−MORを焼成したものである。Lot2では、2θ〜4°付近に、MORの結晶構造からは帰属されない不純物ピークが観測されが、焼成することで、不純物は消滅し、MOR相のみの回折線が観測された。
【0046】
本実施例1、及び後記する実施例2で、目的の結晶が得られたときの、出発ゲルの組成は、表1,表2のように与えられる。また、表1,2で示される出発ゲル組成より得られた生成物の化学組成は、分析から、表3で示される結果となった。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
【表3】
【0050】
図4に、Co−MORの、図2に記載の2つの合成LotsのTG−DTAチャートを示す。どちらも、400℃にかけて、12−13%の単調減少的な重量減少を示している。また、300−500℃にかけて、非常に弱い不鮮明な発熱ピークしか示していない。このことは、用いたCo−錯体が、ゼオライト細孔内では、錯体として存在していないことを示唆している。
【0051】
図5に、Co−MORの、図2に記載の2つの合成Lotsの29Si MAS NMR、及び27Al MAS NMRスペクトルを示す。29Si MAS NMRからは、Lot2とLot7では、ケミカルシフトは同一で、4配位構造のみを示すものの、0Alピーク(−111ppm)と1Alピーク(−106ppm)の相対強度比が変化していた。これは、Si/Al比が異なることを示唆した。一方、27Al MAS NMRスペクトルからは、どちらも56ppmに4配位Alに由来するピークが観測された。Lot7では、若干の5配位ピーク(8.5ppm)が観測された。
【0052】
図7に、Co−MOR(Lot2,Lot7)の拡散反射スペクトルを示す。450〜750nmの波長帯域に、同一形状のスペクトルが観測される。これは、既存の高シリカ型及びアルミノシリケート型ゼオライトでは見られない吸収帯である。また、用いたCo−錯体のスペクトルとも完全に異なっていている。
【0053】
図8に、図7の拡散反射率スペクトルをKubelka−Munk変換[(1−r)2/2r,rは拡散反射率]して得られた吸収スペクトルを示す。450〜750nmの波長帯域に、同一形状の吸収スペクトルが観測される。紫外領域には、骨格のSiO2由来の吸収があるのみで、他の電子遷移に伴う吸収は、観測されなかった。
【0054】
図9に、図8の450〜750nmの領域を拡大した図(下)を示す。これは、Co骨格置換型ゼオライトとして知られているCoAPO−5の文献(文献:YAN XU,PETER J.MADDOX and JOHN M.THOMAS,Polyhedron Vol.8,No.6,pp.819−826,1989)記載の吸収スペクトル(上)と、ほぼ同一の構造であることがわかる。以上から、本発明で得られたMOR型ゼオライトは、骨格にCo原子を含有する骨格置換型ゼオライトであることが特徴づけられた。
【実施例2】
【0055】
内容積20cm−3のステンレス製オートクレーブに、純水8.35g、水酸化ナトリウム(市販特級試薬)0.62g、水酸化アルミニウム(市販特級試薬)0.086gを入れ、加熱、溶解した。
【0056】
次いで、ステンレス製オートクレーブに、実施例1で用いたものと同一の合成Co−錯体を0.016g、シリカ源として、日本シリカ NIPSIL VN−3(純度88%)を1.05g加え、総量10gの出発ゲルとした。
【0057】
出発ゲルが入ったオートクレーブを、水熱合成装置(ヒロカンパニー製KH−02)に装着し、毎分30回転で回転させながら、温度165℃の自生圧力下で、144時間、加熱し、合成した。
【0058】
生成した結晶は、濾液のpHが9以下になるまで洗浄濾過し、110℃で、16時間、乾燥した。生成した結晶は、均一な青色を呈していた。生成した結晶は、X線回折装置で同定したところ、単相のアナルサイムであった。組成分析の結果、吸着水を除いた組成は、Na13.5Co1.1Al14.0Si32.9O96であった。
【0059】
このようにして得られた生成物が、ANA型ゼオライトであることの証明は、粉末X線回折(XRD)により行った。図6から、本実施例により合成された化合物が、ANA型ゼオライトの粉末XRDパターンであることが分かった。非常に結晶性の良いANA構造ができていることがわかった。
【0060】
図7に、Co−ANAの拡散反射率スペクトルを示す。450〜750nmの波長帯域に、Co−MORと同一形状のスペクトルが観測される。これは、既存の高シリカ型及びアルミノシリケート型ゼオライトでは見られない吸収帯である。また、用いたCo−錯体のスペクトルとも完全に異なっている。図10(B)に、このときの生成した結晶[Co−ANA(アナルサイム型)のSEM観察像を示す。生成した結晶のモルフォロジーは、SEM観察から、図10(B)で示されるように、直径が2〜4μm程の孤立した球状のものが多く見られることが明らかになった。
【0061】
図8に、図7の拡散反射率スペクトルをKubelka−Munk変換[(1−r)2/2r,rは拡散反射率]して得られた吸収スペクトルを示す。450〜750nmの波長帯域に、同一形状の吸収スペクトルが観測される。紫外領域には、骨格のSiO2由来の吸収があるのみで、他の電子遷移に伴う吸収は、観測されなかった。
【0062】
図9に、図8の450〜750nmの領域を拡大した図(下)を示す。これは、Co骨格置換型ゼオライトとして知られているCoAPO−5の文献(文献:YAN XU,PETER J.MADDOX and JOHN M.THOMAS,Polyhedron Vol.8,No.6,pp.819−826,1989)記載の吸収スペクトル(上)と、ほぼ同一の構造であることがわかる。
【0063】
以上の実験から、本発明で得られたANA型ゼオライトは、骨格にCo原子を含有する骨格置換型ゼオライトであることが特徴づけられた。得られた試料は、どれも深い青色をしていた。また、焼成後の試料も、若干、色は薄くなるものの、青色をしていた。
【0064】
図11に、ゼオライトの合成マップを示す。Na/Si比の違いにより、MOR型、MOR型+ANA型の混晶、及びANA型ゼオライトが生成する。Si/Al比が10未満の領域では、2種類のゼオライトの混晶が生成することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上詳述したように、本発明は、コバルト骨格置換アルミノシリケート型ゼオライト及びその製造方法に係るものであり、本発明により、従来技術では合成することが困難であった、骨格にCo原子を含有するコバルト骨格置換モルデナイト型、又は同アナルサイム型ゼオライトを合成し、提供することができる。本発明の方法により合成したゼオライト結晶は、粉末X線回折(XRD)により、単相のモルデナイト型又はアナルサイム型ゼオライトであることが証明されたものである。本発明により、合成される骨格を形成するAl原子及び/又はSi原子の一部がコバルトイオンに置換されたモルデナイト型、又は同アナルサイム型ゼオライトは、吸着分離剤や、特に、触媒として、高い有用性を有するものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モルデナイト型ゼオライトの骨格構造、又はアナルサイム型ゼオライトの骨格構造を構成する骨格の一部がコバルトで置換され、粉末X線回折(XRD)により単相構造を有することを特徴とする骨格置換モルデナイト型、又は同アナルサイム型ゼオライト。
【請求項2】
Si/Al比が5.0〜20.0であるモルデナイト型ゼオライトの骨格構造を構成する骨格の一部がコバルトで置換された、請求項1に記載の骨格置換モルデナイト型ゼオライト。
【請求項3】
Si/Al比が2.0〜2.5であるアナルサイム型ゼオライトの骨格構造を構成する骨格の一部がコバルトで置換された、請求項1に記載の骨格置換アナルサイム型ゼオライト。
【請求項4】
上記骨格構造の骨格を形成するAl原子及び/又はSi原子がCo原子に置換された、請求項1に記載の骨格置換モルデナイト型、又は同アナルサイム型ゼオライト。
【請求項5】
640±5,590±5,535±5nmに光吸収ピークを有する、請求項1から4のいずれかに記載の骨格置換モルデナイト型、又は同アナルサイム型ゼオライト。
【請求項6】
コバルト錯体を含むアルミノシリケートゲルを、水熱反応に供して、モルデナイト型ゼオライト、又はアナルサイム型ゼオライトの骨格構造の骨格を形成するAl原子及び/又はSi原子の一部がコバルトで置換された骨格置換モルデナイト型、又は同アナルサイム型ゼオライトを製造することを特徴とするコバルト骨格置換モルデナイト型ゼオライト、又は同アナルサイム型ゼオライトの製造方法。
【請求項7】
2−(2−アミノエチル)グリシン(1)のコバルト錯体(2)を含むアルミノシリケートゲルを用いる、請求項6に記載のコバルト骨格置換モルデナイト型ゼオライト、又は同アナルサイム型ゼオライトの製造方法。
(1)H2NCH2CH2NHCH2COOH
(2)[(H2NCH2CH2NHCH2COO)2Co]+
【請求項8】
得られた生成物が、粉末X線回折(XRD)により単相構造を有する、請求項6又は7に記載のコバルト骨格置換モルデナイト型ゼオライト、又は同アナルサイム型ゼオライトの製造方法。
【請求項9】
生成した結晶が、Na4.2Co0.30Al4.4Si43.3O96もしくはNa5.6Co0.45Al6.5Si41.0O96、又はNa13.5Co1.1Al14.0Si32.9O96である、請求項6に記載のコバルト骨格置換モルデナイト型ゼオライト、又は同アナルサイム型ゼオライトの製造方法。
【請求項10】
得られた生成物が、640±5,590±5,535±5nmに光吸収ピークを有する、請求項6から9のいずれかに記載のコバルト骨格置換モルデナイト型ゼオライト、又は同アナルサイム型ゼオライトの製造方法。
【請求項1】
モルデナイト型ゼオライトの骨格構造、又はアナルサイム型ゼオライトの骨格構造を構成する骨格の一部がコバルトで置換され、粉末X線回折(XRD)により単相構造を有することを特徴とする骨格置換モルデナイト型、又は同アナルサイム型ゼオライト。
【請求項2】
Si/Al比が5.0〜20.0であるモルデナイト型ゼオライトの骨格構造を構成する骨格の一部がコバルトで置換された、請求項1に記載の骨格置換モルデナイト型ゼオライト。
【請求項3】
Si/Al比が2.0〜2.5であるアナルサイム型ゼオライトの骨格構造を構成する骨格の一部がコバルトで置換された、請求項1に記載の骨格置換アナルサイム型ゼオライト。
【請求項4】
上記骨格構造の骨格を形成するAl原子及び/又はSi原子がCo原子に置換された、請求項1に記載の骨格置換モルデナイト型、又は同アナルサイム型ゼオライト。
【請求項5】
640±5,590±5,535±5nmに光吸収ピークを有する、請求項1から4のいずれかに記載の骨格置換モルデナイト型、又は同アナルサイム型ゼオライト。
【請求項6】
コバルト錯体を含むアルミノシリケートゲルを、水熱反応に供して、モルデナイト型ゼオライト、又はアナルサイム型ゼオライトの骨格構造の骨格を形成するAl原子及び/又はSi原子の一部がコバルトで置換された骨格置換モルデナイト型、又は同アナルサイム型ゼオライトを製造することを特徴とするコバルト骨格置換モルデナイト型ゼオライト、又は同アナルサイム型ゼオライトの製造方法。
【請求項7】
2−(2−アミノエチル)グリシン(1)のコバルト錯体(2)を含むアルミノシリケートゲルを用いる、請求項6に記載のコバルト骨格置換モルデナイト型ゼオライト、又は同アナルサイム型ゼオライトの製造方法。
(1)H2NCH2CH2NHCH2COOH
(2)[(H2NCH2CH2NHCH2COO)2Co]+
【請求項8】
得られた生成物が、粉末X線回折(XRD)により単相構造を有する、請求項6又は7に記載のコバルト骨格置換モルデナイト型ゼオライト、又は同アナルサイム型ゼオライトの製造方法。
【請求項9】
生成した結晶が、Na4.2Co0.30Al4.4Si43.3O96もしくはNa5.6Co0.45Al6.5Si41.0O96、又はNa13.5Co1.1Al14.0Si32.9O96である、請求項6に記載のコバルト骨格置換モルデナイト型ゼオライト、又は同アナルサイム型ゼオライトの製造方法。
【請求項10】
得られた生成物が、640±5,590±5,535±5nmに光吸収ピークを有する、請求項6から9のいずれかに記載のコバルト骨格置換モルデナイト型ゼオライト、又は同アナルサイム型ゼオライトの製造方法。
【図2】
【図3】
【図6】
【図11】
【図1】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図3】
【図6】
【図11】
【図1】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2011−51817(P2011−51817A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−201065(P2009−201065)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
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