説明

コプレーナ線路及びその製造方法

【課題】シリコン単結晶基板に膜厚が10μm以上であるような厚い絶縁層を形成することなく、ミリ波帯域での基板への電磁波の漏れによる減衰を抑制する。
【解決手段】一方の主表面20a側にアモルファスシリコン層22を備える高抵抗シリコン基板20と、アモルファスシリコン層上に設けられた絶縁層30と、絶縁層上に形成された信号線路42と、絶縁層上の、信号線路を挟む位置に形成された一対の接地導体44とを備えて構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ミリ波の周波数帯域で動作する集積回路チップ間の接続や、集積回路チップとパッケージの同軸コネクタとの接続に用いられるコプレーナ線路と、その製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波やミリ波の周波数帯域で用いられるコプレーナ線路は、一般にGaAsあるいはInP等の化合物半導体結晶基板に、金属配線パターンが形成されて構成される。これら化合物半導体結晶基板は、10Ω・cm程度の高い抵抗率を有するため、化合物半導体結晶基板に、コプレーナ線路を形成すれば、基板への電磁波の漏れを低減できる。
【0003】
従って、化合物半導体結晶基板を用いることにより、周波数が10GHz以上の高周波数帯域におけるMMIC(Monolithic Microwave Integrated Circuit)を作成することが可能である。すなわち、化合物半導体結晶基板にトランジスタ又はミキサ等の能動デバイスや、能動デバイスの入出力側にインピーダンス整合回路としての伝送線路、あるいは、フィルタ又はインダクタ等の受動素子を形成することができる。
【0004】
しかしながら、化合物半導体結晶基板は、シリコン単結晶基板と比較して高価格である。また、これら化合物半導体結晶基板の市場におけるサイズの主流は、直径3〜4インチ(1インチは約2.54cm)である。一方、シリコン単結晶基板のサイズの主流は、直径6インチ以上である。このように、化合物半導体結晶基板は、高価格である上、サイズも小さいので、化合物半導体結晶基板に形成されるコプレーナ線路は、製造コストが高くなる。
【0005】
一方、抵抗率が1kΩ・cm〜10kΩ・cm程度のシリコン単結晶基板に膜厚が10μm以上のシリコン酸化膜、シリコン窒化膜又はポリイミド膜などの絶縁膜を形成し、この絶縁膜上に信号線路と接地導体を形成したコプレーナ線路が知られている(例えば、特許文献1参照)。このコプレーナ線路によれば、基板として シリコン単結晶基板を用いる場合であっても、基板への電磁波の漏れを低減でき、周波数が10GHz以上の高周波帯域のMMICを製造することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−68714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述の特許文献1に開示されているコプレーナ線路では、絶縁膜の膜厚が10μm以上である。絶縁膜としてシリコン酸化膜又はシリコン窒化膜を、発明者が使用できるプラズマCVD装置を用いて形成する場合、膜厚10μmの絶縁膜を形成するには、4〜12時間必要であり、プラズマCVD法による絶縁膜の形成は非現実的である。
【0008】
また、発明者が行った実験によれば、絶縁膜の膜厚が0.2〜2μm程度の場合は、1〜30GHzの周波数について、減衰定数が1dB/mm以上に劣化することが確認された。これは、シリコン酸化膜やシリコン窒化膜などの絶縁膜と、高抵抗のシリコン単結晶基板(以下、高抵抗シリコン基板とも称する。)の界面に、抵抗率が0.01Ω・cm程度の低抵抗層が生じているためである。この低抵抗層の影響を防ぐには、絶縁膜の厚みが10μm程度必要とされる。
【0009】
そこで、この出願に係る発明者が鋭意研究を行ったところ、高抵抗シリコン基板の1つの主表面側にアモルファスシリコン層を設け、このアモルファスシリコン層上に絶縁層を設けることで、絶縁層の厚みを10μm以上にすることなく、減衰定数の劣化を抑制できることを見出した。
【0010】
この発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものであり、この発明の目的は、ミリ波帯域での基板への電磁波の漏れによる減衰が小さいコプレーナ線路及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した目的を達成するために、この発明のコプレーナ線路は、一方の主表面側にアモルファスシリコン層を備える高抵抗シリコン基板と、アモルファスシリコン層上に設けられた絶縁層と、絶縁層上に形成された信号線路と、絶縁層上の、信号線路を挟む位置に形成された一対の接地導体とを備えて構成される。
【0012】
また、この発明のコプレーナ線路の製造方法は、以下の工程を備えている。先ず、高抵抗シリコン基板の一方の主表面側に、アモルファスシリコン層を形成する。次に、アモルファスシリコン層上に絶縁層を形成する。次に、絶縁層上に、信号線路と、信号線路を挟む位置に一対の接地導体を形成する。
【発明の効果】
【0013】
この発明のコプレーナ線路とその製造方法によれば、高抵抗シリコン基板にアモルファスシリコン層を設け、アモルファスシリコン層上に絶縁層を形成することで、高抵抗シリコン基板と、絶縁層との境界の低抵抗層が生じなくなり、この結果、減衰定数の劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1実施形態のコプレーナ線路の切断端面を示す図である。
【図2】基板表面付近の断面TEM像である。
【図3】コプレーナ線路の評価方法を説明するための模式図である。
【図4】減衰定数の周波数依存性を示す特性図(1)である。
【図5】第2実施形態のコプレーナ線路の切断端面を示す図である。
【図6】第2実施形態のコプレーナ線路の製造方法を示す図である。
【図7】減衰定数の周波数依存性を示す特性図(2)である。
【図8】減衰定数の周波数依存性を示す特性図(3)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図を参照して、この発明の実施の形態について説明するが、各構成要素の形状、大きさ及び配置関係については、この発明が理解できる程度に概略的に示したものに過ぎない。また、以下、この発明の好適な構成例につき説明するが、各構成要素の材質及び数値的条件などは、単なる好適例にすぎない。従って、この発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、この発明の構成の範囲を逸脱せずにこの発明の効果を達成できる多くの変更又は変形を行うことができる。
【0016】
(第1実施形態)
図1を参照して、第1実施形態のコプレーナ線路について、その構成と製造方法を説明する。図1は、第1実施形態のコプレーナ線路の切断端面を示す図である。
【0017】
コプレーナ線路10は、基板20、絶縁層30、信号線路42及び一対の接地導体44を備えている。
【0018】
基板20として、高抵抗のシリコン単結晶基板(高抵抗シリコン基板)が用いられる。ここでは、高抵抗シリコン基板の抵抗率は、1kΩ・cm以上10kΩ・cm以下とする。
【0019】
基板20は、一方の主表面20a側に、アモルファスシリコン層22を備えている。アモルファスシリコン層22は、例えば、1〜数nm程度の厚みで形成される。
【0020】
アモルファスシリコン層22は、基板20の主表面20aにイオン衝撃によるダメージを与えることにより、形成される。アモルファスシリコン層22の形成は、例えば、SFガスを用いた反応性イオンエッチング(RIE:Reactive Ion Etching)法で行われる。SFガスを用いたRIEを2分間行うと、1.8nm厚のアモルファスシリコン層22が得られる。
【0021】
図2は、RIEでダメージを与えたシリコン基板表面付近の断面TEM像である。なお、図2は、基板20と絶縁層30を示している。基板20の絶縁層30側の表面付近に1.8nm厚のアモルファスシリコン層が形成されている。
【0022】
絶縁層30は、基板20の主表面20a上、すなわち、アモルファスシリコン層22上に設けられている。
【0023】
絶縁層30の形成は、例えば、任意好適な従来周知のプラズマCVD法や熱CVD法により行われ、絶縁層30として、SiO膜、SiN膜、又は、SiON膜が形成される。
【0024】
この絶縁層30の厚みは、信号線路42及び接地導体44と、基板20とが絶縁される程度の膜厚であれば良く、例えば、100nm以上の厚みで形成される。一方、絶縁層30の厚みが大きくなると、応力の影響が大きくなるので、絶縁層30の厚みを2μm程度以下にするのが好ましい。ここでは、絶縁層30として、200nm厚のSiN膜を設けるものとする。
【0025】
ここで、絶縁層30をSiO膜又はSiON膜で形成する場合、信号線路42及び接地導体44との密着力を高めるために、SiO膜又はSiON膜上に、膜厚が20nm程度のごく薄いSiN膜を形成するのが良い。すなわち、絶縁層30は、SiN膜で形成されるか、あるいは、SiO膜及びSiON膜のいずれか一方と、SiN膜との積層構造として形成されるのが良い。
【0026】
信号線路42は、絶縁層30上に設けられている。また、一対の接地導体44は、絶縁層30上の、信号線路42を挟む位置に、設けられている。
【0027】
信号線路42及び接地導体44は、例えば、従来周知のフォトリソグラフィ法及びめっきにより形成される。
【0028】
この場合、先ず、絶縁層30上にレジストを塗布する。その後、露光及び現像を行い、信号線路42が形成される領域、及び、接地導体44が形成される領域のレジストを除去して、コプレーナ線路用のレジストパターンを形成する。その後、例えば、めっきにより金属膜を形成する。金属膜の材質として、例えば金(Au)を用いることができる。
【0029】
その後、有機溶剤等を用いて、レジストパターンを除去すると、信号線路42及び接地導体44が得られる。
【0030】
高周波帯域では、電磁波の表皮効果のため信号は導体の表面付近のみを通過することになるが、信号線路の電気抵抗を低下させるため、あるいは、給電配線として用いる場合の電流密度を確保するために、信号線路の厚みは数μm程度必要となる。このため、信号線路の形成はめっき法を用いて行うのが良い。
【0031】
この構成では、アモルファスシリコン層を有する高抵抗シリコン基板を用い、アモルファスシリコン層上にSiN膜やSiO膜で形成された絶縁層を備えている。従って、SiNやSiOは、直接単結晶シリコンに接しない。アモルファスシリコンのバンドギャップは、1.4〜1.8eVであり、単結晶シリコンの1.1eVより広い。このため、単結晶シリコンのバンド曲がりが生じにくくなり、結果として低抵抗層が生じないものと考えられる。
【0032】
図3(A)及び(B)を参照して、コプレーナ線路の動作の評価方法を説明する。図3(A)は、図1を参照して説明した一構成例のコプレーナ線路の概略的な上面図である。なお、図3(A)中、構成要素にハッチングを施してあるが、このハッチングは断面を表示するのではなく、各構成要素の領域を強調して示してあるに過ぎない。図1は、図3(A)のI−I´線に沿って取った端面図に相当する。
【0033】
図3(B)は、コプレーナ線路の小信号特性としてSパラメータを求めるための評価装置の模式図である。
【0034】
コプレーナ線路のパターンでは、基板表面に、信号線路42と、信号線路42を挟む位置に1対の接地導体44−1及び44−2とが配置されている。信号線路42の両端には、第1ポートP1と第2ポートP2である電極パッドが形成されている。また、接地導体44の両端にも、それぞれ、接地ポートQである電極パッドが形成されている。
【0035】
図3(A)に示す構成例では、信号線路42と、1対の接地導体44−1及び44−2の対向辺は互いに平行となっている。また、信号線路42と、1対の接地導体44−1及び44−2との距離は、同一となっている。また、信号線路42の長手方向に対して対称なパターンとなっている。
【0036】
図3(B)に示す、Sパラメータを求めるための評価装置は、ネットワークアナライザ124、パーソナルコンピュータ126、基板搭載ステージ128、及び、プローブヘッド132−1及び132−2を備えている。コプレーナ線路10が形成された被測定基板は、基板搭載ステージ128に設置される。接地導体44−1及び44−2の両端の接地ポートQと、信号線路42の第1ポートP1及び第2ポートP2は、従来周知のコプレーナ形状を有するプローブヘッド132−1及び132−2を介して、ネットワークアナライザ124に接続される。コプレーナ形状を有するプローブヘッド132−1及び132−2は、信号線路42の第1ポートP1及び第2ポートP2と、接地導体44−1及び44−2の接地ポートQに、同時に接触可能である形状に形成されている。すなわち、この構成例では、一方のプローブヘッド132−1は、図3(A)中の信号線路42及び接地導体44−1及び44−2の左側の電極パッドに接続され、他方のプローブヘッド132−2は、右側の電極パッドに接続される。
【0037】
このプローブヘッド132−1及び132−2として、例えば、カスケードマイクロテック社が提供しているエアコプレーナプローブヘッドを用いることができる。また、ネットワークアナライザには、アジレント・テクノロジー株式会社やアンリツ株式会社等から提供されている、測定周波数帯域に応じたネットワークアナライザを適宜利用することができる。
【0038】
高周波数帯域における小信号特性を示す指標として、Sパラメータを行列要素とするS行列が利用されている。Sパラメータは、入力信号に対する、透過出力電気信号及び反射出力電気信号の、電力成分の比として表現されるパラメータであるため、高周波数帯域においても、測定することが可能なパラメータである。S行列は次式(1)によって定義される2行2列の行列である。
【0039】
【数1】

ここで、a及びaは入力信号の電力を与える縦ベクトル成分である。また、b、bは出力信号の電力を与える縦ベクトル成分である。
【0040】
信号線路42の両端をそれぞれ第1ポートP1及び第2ポートP2とした場合、第1ポートP1に入力信号aを入力して、第1ポートP1から出力される反射信号b及び第2ポートP2から出力される透過信号bを観測することによって、第1ポートP1に入力された入力信号aに対する反射係数及び透過係数を求めそれぞれをS行列のS11及びS21成分とする。そして、第2ポートP2に入力信号aを入力して、第2ポートP2から出力される反射信号b及び第1ポートP1から出力される透過信号bを観測することによって、第2ポートP2に入力された入力信号aに対する反射係数及び透過係数を求めそれぞれをS行列のS22及びS12成分とすることにより、コプレーナ線路のS行列が確定される。
【0041】
すなわち、S行列の行列要素S11やS22は、第1ポートP1あるいは第2ポートP2側で観測される反射係数である。一方、S行列の行列要素S12やS21は、第1ポートP1から第2ポートP2への透過係数、あるいは第2ポートP2から第1ポートP1への透過係数である。
【0042】
図3(A)に示したコプレーナ線路10の場合には、第1ポートP1と第2ポートP2とに対して、そのパターン形状が左右対称の形をしている。このため、測定誤差、あるいは外部環境の擾乱による影響を除けば、S11=S22、かつS12=S21となるはずである。外部環境の擾乱とは、温度変化あるいは雑音等を指す。
【0043】
ここで、小信号(入力信号)の周波数帯域を必要とする周波数帯域に設定して、Sパラメータの計測を実行する。減衰定数αは、計測されたSパラメータのうちS21(又はS12)を用いて、次式(2)で与えられる。
【0044】
【数2】

ここで、Hはコプレーナ線路を形成する信号線路の両端の間隔(第1ポートP1と第2ポートP2の間の間隔)であり、伝送線路の長さに該当する。
【0045】
上述した方法で得られた減衰定数αを図4に示す。図4は、減衰定数の周波数依存性を示す特性図である。図4では、横軸に周波数(GHz)を取って示し、縦軸に、減衰定数α(dB/mm)を取って示している。図4は、図1を参照して説明した本発明のコプレーナ線路についての測定結果である。基板として、高抵抗シリコン基板を用いた場合の減衰定数を◆で示している。また、基板をInP基板とした場合の減衰定数を■で示している。
【0046】
図4に示されるように、本発明の構成によれば、基板に安価なシリコン基板を用いた場合でも、化合物半導体基板であるInP基板を用いた場合と同等の減衰定数を有するコプレーナ線路が形成されていることがわかる。
【0047】
(第2実施形態)
図5を参照して、第2実施形態のコプレーナ線路について、その構成を説明する。図5は、第2実施形態のコプレーナ線路の切断端面を示す図である。
【0048】
コプレーナ線路では、中央の信号線路の両側にある一対の接地導体の電位を常に一致させるように、接地導体間を電気的に接続するブリッジ配線が所定の間隔で設けられる。直線状の配線の場合、信号線路を伝播する電磁波の波長の1/4程度の距離ごとにブリッジ配線が設けられる。また、信号線路が90°曲がる場合にも、ブリッジ配線を設ける。通常は、このブリッジ配線は、エアブリッジ構造で形成される。
【0049】
第2実施形態のコプレーナ線路12は、絶縁層内に一対の接地導体間を電気的に接続するブリッジ配線を有する点が、第1実施形態のコプレーナ線路10と異なっていて、それ以外の点は同様である。以下の説明では、第1実施形態と重複する部分の説明を省略することがある。
【0050】
第2実施形態のコプレーナ線路12は、絶縁層が、第1絶縁層32と第2絶縁層34を備えて構成されている。
【0051】
第1絶縁層32として、例えば、SiN膜が、アモルファスシリコン層22上に形成されている。この第1絶縁層32の厚みは、後述するブリッジ配線50と、基板20とが絶縁される程度の膜厚であれば良く、例えば200nmの厚みで形成される。
【0052】
第1絶縁層32上に、ブリッジ配線50が設けられている。このブリッジ配線50は、一対の接地導体46間を電気的に接続するのに用いられる。なお、ブリッジ配線50は、信号線路42の形状及び長さ、並びに、信号線路を伝播する電磁波の波長等に応じた所定の間隔で、複数設けられる。
【0053】
第2絶縁層34は、第1絶縁層32上に設けられ、ブリッジ配線50を覆う。この第2絶縁層34の厚みは、信号線路42とブリッジ配線50とが絶縁される程度の膜厚であれば良く、例えば250nmの厚みで形成される。また、第2絶縁層34には、各ブリッジ配線50の両端を露出するコンタクトホール36が形成されている。
【0054】
接地導体46は、第2絶縁層34上に形成されるとともに、コンタクトホール36内にも設けられる。この構成により、ブリッジ配線50が、一対の接地導体46を電気的に接続する。
【0055】
図6を参照して、ブリッジ配線を信号線路の下側に備えるコプレーナ線路の製造方法について説明する。図6は、ブリッジ配線を信号線路の下側に備えるコプレーナ線路の製造方法を示す工程図である。図6(A)〜(E)は、各工程で形成される構造体の主要部の切断端面を示している。
【0056】
先ず、SFガスを用いたRIE法により、高抵抗シリコン基板の表面を2分間エッチングする。この結果、一方の主表面20a側にアモルファスシリコン層22を備える基板20が得られる(図6(A))。
【0057】
次に、アモルファスシリコン層22上に、第1絶縁層32を形成する。第1絶縁層32の形成は、例えば、プラズマCVD法により、SiN膜を200nm程度の厚みで成長させることにより行われる(図6(B))。
【0058】
次に、第1絶縁層32上に、ブリッジ配線50を形成する。ブリッジ配線50は、従来周知のリフトオフを利用して形成される。具体的には、先ず、第1絶縁層32上にレジストを塗布する。その後、露光及び現像を行い、ブリッジ配線50が形成される領域のレジストを除去して、ブリッジ配線用のレジストパターンを形成する。次に、蒸着により金属膜を形成する。その後、有機溶剤等を用いてレジストパターンを除去すると、ブリッジ配線50が得られる(図6(C))。
【0059】
ブリッジ配線50を形成した後、第1絶縁層32上に、ブリッジ配線50を覆う第2絶縁層34を形成する。第2絶縁層34は、第1絶縁層32と同様に形成すれば良く、例えば、200nm程度の厚みのSiN膜として形成される。
【0060】
次に、第2絶縁層34にブリッジ配線50の両端を露出するコンタクトホール36を開口する。このコンタクトホール36の開口は、任意好適な従来周知の方法で行えば良く、例えば、フォトリソグラフィ及びドライエッチングにより行われる(図6(D))。
【0061】
次に、第2絶縁層34上に、信号線路42と、信号線路42を挟む位置に一対の接地導体46を形成する。この場合、先ず、第2絶縁層34上にレジストを塗布する。その後、露光及び現像を行い、信号線路42が形成される領域、及び、接地導体46が形成される領域のレジストを除去して、コプレーナ線路用のレジストパターンを形成する。その後、例えば、めっきにより金属膜を形成する。金属膜の材質として、例えば金(Au)を用いることができる。その後、有機溶剤等を用いて、レジストパターンを除去すると、信号線路42及び接地導体46が得られる。
【0062】
このとき、接地導体46は、コンタクトホール36内にも形成され、ブリッジ配線50に接続される。この結果、ブリッジ配線50は、一対の接地導体間を電気的に接続する(図6(E))。
【0063】
その後、第2絶縁層34上に、SiN膜などで形成される保護膜(図示を省略する。)を形成し、信号線路42及び接地導体46を覆う。
【0064】
通常のエアブリッジ構造のブリッジ配線は、めっきにより形成される。このため、信号線路及び接地導体の形成工程と、ブリッジ配線の形成工程とで、2回のめっき工程が必要になる。このように、めっき工程を2回行うことが、製造時間や製造コストの増大に繋がる。
【0065】
また、通常のコプレーナ線路では、信号線路及び接地導体の上側表面の位置は、基板表面に対して高くなる。従って、信号線路及び接地導体を形成した後に、ブリッジ配線を形成する場合、段差の大きいところでエアブリッジ構造が形成されることになる。この結果、信号線路と接地導体の間でブリッジ配線が垂れ下がるような形状になり、大きな寄生容量成分となって、信号の損失につながる。
【0066】
また、段差の大きいところでフォトリソグラフィを行うのは、フォトレジストの粘度や塗布条件、あるいは、リフロー工程の時間や温度などの最適化が必要となり、実施が困難な場合がある。
【0067】
これに対し、図6を参照して説明した製造方法によれば、ブリッジ配線が信号線路及び接地導体の下側に形成されている。このため、ブリッジ配線の形成をめっきでなく、蒸着等で行うことができる。この結果、必要なめっき工程の回数が1回になり、製造時間や製造コストの増大を抑えることができる。
【0068】
また、図6を参照して説明した製造方法によれば、ブリッジ配線50が、信号線路42と設置導体46の間で垂れ下がるような形状にならない。このため、ブリッジ配線に起因する寄生容量成分は、エアブリッジ構造に比べて小さくなる。
【0069】
また、フォトリソグラフィ工程が、段差の大きなところで行われることはなく、実施が容易である。
【0070】
図7を参照して、第2の実施形態のコプレーナ線路での減衰定数について説明する。図7は、減衰定数の周波数依存性を示す特性図である。図7では、横軸に周波数(GHz)を取って示し、縦軸に、減衰定数α(dB/mm)を取って示している。図7は、第2実施形態のコプレーナ線路についての測定結果であり、基板として高抵抗シリコン基板を用いた場合の減衰定数を◆で示している。また、基板としてInP基板を用いた場合の減衰定数を■で示している。図7では、信号線路42の長さを1570μmとし、10個のブリッジ配線を形成した場合の測定結果が示されている。
【0071】
図7に示されるように、第2実施形態の構成によれば、基板に安価なシリコン基板を用いると、InP基板を用いた場合に比べて、減衰定数が劣化しているものの、低周波領域では減衰定数が1dB/mm以下に保たれている。また、100GHz帯域付近では、InP基板と同等の特性が示されていることがわかる。
【0072】
(他の実施形態)
上述した各実施形態では、絶縁層として、SiN膜やSiO膜を用いる例について説明しているが、AL−Polymer(旭硝子株式会社製:商品名)などのフッ素系の感光性低誘電率コーティング樹脂を用いても良い。
【0073】
AL−Polymerは、膜厚が厚いと有機溶剤と反応して膨張したり、脱ガスベーク時に多量のガスを放出したりする。このため、例えば、AL−Polymerの直上に形成されるシリコン窒化膜を爆裂させることがある。
【0074】
一方、AL−Polymerの膜厚を薄くして、1μm以下にすると、溶液に浸した場合にAL−Polymer内に侵入する溶液が少なくなり、脱ガスベーク時における放出ガスが少なくなる。このため、シリコン窒化膜の爆裂を防ぐことができる。しかし、Al−Polymerは、その膜厚が2μm以下になると、高抵抗シリコン基板との界面に生じる低抵抗層の影響が大きくなり、減衰定数が劣化する。
【0075】
しかし、基板がアモルファスシリコン層を有していて、アモルファスシリコン層上に、Al−Polymerで絶縁層を形成すると、低抵抗層の影響がなくなり、膜厚が1μm以下であっても、良好な減衰定数を示す。
【0076】
図8を参照して、絶縁層をAL−Polymerで形成した場合の減衰定数について説明する。図8は、減衰定数の周波数依存性を示す特性図である。図8では、横軸に周波数(GHz)を取って示し、縦軸に、減衰定数α(dB/mm)を取って示している。図8は、基板として高抵抗シリコン基板を用いて、アモルファスシリコン層を設けた場合の減衰定数を◆で示している。ここでは、第1絶縁層32を0.65μm厚のAL−Poymer、及び、第2絶縁層34を250nm厚のSiON膜と20nm厚のSiN膜の積層構造としている。
【0077】
また、第1絶縁層32を0.65μm厚のAL−Poymer、及び、第2絶縁層34を250nm厚のSiON膜と20nm厚のSiN膜の積層構造とし、アモルファスシリコン層を設けない場合の減衰定数を■で示している。
【0078】
図8に示されるように、高抵抗シリコン基板にアモルファスシリコン層を形成することにより、アモルファスシリコン層を形成しない場合に比べて、良好な減衰定数が得られる。
【符号の説明】
【0079】
10、12 コプレーナ線路
20 基板
22 アモルファスシリコン層
30 絶縁層
32 第1絶縁層
34 第2絶縁層
36 コンタクトホール
42 信号線路
44、46 接地導体
50 ブリッジ配線
124 ネットワークアナライザ
126 パーソナルコンピュータ
128 基板搭載ステージ
132 プローブヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の主表面側にアモルファスシリコン層を備える高抵抗シリコン基板と、
前記アモルファスシリコン層上に設けられた絶縁層と、
該絶縁層上に形成された信号線路と、
前記絶縁層上の、前記信号線路を挟む位置に形成された一対の接地導体と
を備えることを特徴とするコプレーナ線路。
【請求項2】
前記絶縁層内に、前記一対の接地導体間を電気的に接続するブリッジ配線を有する
ことを特徴とする請求項1に記載のコプレーナ線路。
【請求項3】
前記絶縁層が、シリコン窒化膜で形成される
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のコプレーナ線路。
【請求項4】
前記絶縁層が、フッ素系の感光性低誘電率コーティング樹脂を含む
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のコプレーナ線路。
【請求項5】
高抵抗シリコン基板の一方の主表面側に、アモルファスシリコン層を形成する工程と、
該アモルファスシリコン層上に絶縁層を形成する工程と、
該絶縁層上に、信号線路と、該信号線路を挟む位置に一対の接地導体を形成する工程と
を備えることを特徴とするコプレーナ線路の製造方法。
【請求項6】
高抵抗シリコン基板の一方の主表面側に、アモルファスシリコン層を形成する工程と、
該アモルファスシリコン層上に第1絶縁層を形成する工程と、
該第1絶縁層上に、ブリッジ配線を形成する工程と、
前記第1絶縁層上に、前記ブリッジ配線を覆う第2絶縁層を形成する工程と、
該第2絶縁層に前記ブリッジ配線を露出するコンタクトホールを開口する工程と、
前記第2絶縁層上に、信号線路と、該信号線路を挟む位置に一対の接地導体を形成する工程と
を備え、
前記ブリッジ配線が、前記一対の接地導体間を電気的に接続する
ことを特徴とするコプレーナ線路の製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図6】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−44857(P2011−44857A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−190981(P2009−190981)
【出願日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)