説明

コレステロール低下作用を有する新規化合物

【課題】服用し易いコレステロール低下剤を提供すること。
【解決手段】式(I)
【化1】


[式中、R1及びR2は同一又は異なって水素原子、アルキル基又はアリル基を示し、R3は水素原子又はメチル基を示し、R4は-COO-(CH2)k-、-CONH-(CH2)k-、又は-C6H4-(CH2)k-を示し(式中、kは1以上の整数を示す。)、R5は任意の有機基を示し、m及びnは同一又は異なって1以上の整数を示す。]で表される化合物を有効成分として含有するコレステロール低下剤。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、コレステロールの低下・抑制作用を有する新規な化合物に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、陰イオン交換樹脂等の吸着作用を有する物質に血中のコレステロールを低下させる作用があることが知られている(米国特許3374372号、特開昭60−209523号、特開平2−124819号等)。
【0003】
そして、これらの吸着作用を有する物質は粒子径が大きく、水に不溶であるため、液剤中に配合することが難しく、通常固形剤中に配合されて提供されてきた。例えば、コレスチラミン(米国特許3374372号)では用時懸濁を要し、かつ服用量も1日最高12gとかなり多めである。
【0004】
しかしながら、固形剤は投与量が多くなると一般に服用し難くなるものであり、燕下能力が低下した高齢者にとってはかなりの苦痛を伴うことさえある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
したがって、服用性の良い血中コレステロール低下剤の開発が求められていた。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らはかかる課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ポリメタアクリル酸を主鎖とした高分子にカチオン性の官能基とポリオキシエチレン鎖を導入した高分子化合物がコレステロール低下作用を示し、かつ水溶性であるとの知見を得、本発明を完成するに到った。
【0007】
すなわち、本発明の一つの態様は、下記式(I)
【0008】
【化2】

[式中、R1及びR2は同一又は異なって水素原子、アルキル基又はアリル基を示し、R3は水素原子又はメチル基を示し、R4は-COO-(CH2)k-、-CONH-(CH2)k-、又は-C6H4-(CH2)k-を示し(式中、kは1以上の整数を示す。)、R5は任意の有機基を示し、m及びnは同一又は異なって1以上の整数を示す。]で表される化合物である。
【0009】
また、本発明の他の態様は、式(I)で表される化合物を有効成分として含有するコレステロール低下剤である。
【0010】
本発明の式(I)で表される化合物を以下に詳細に説明する。
【0011】
式(I)化合物は、以下の反応式により製造することができる。
【0012】
【化3】

【0013】
(1)不活性溶媒(例えば、テトラヒドロフラン)を溶媒として用い、不活性ガス(例えば、アルゴン)気流下、式(II)化合物(式中、R5は前記と同義である。)に等モル量のメタル化剤(例えば、ナフタレンカリウム)を反応させることにより、式(III)化合物(式中、R5は前記と同義、Mは1価の金属原子を示す。)を得る。
【0014】
(2)この式(III)化合物を反応開始剤としてエチレンオキサイドを加え、室温(好ましくは25℃)で重合を行い、式(IV)化合物(式中、R5は前記と同義、mは1以上の整数を示す。)を得る。
【0015】
(3)これに式(V)で表される化合物(式中、R1、R2、R3及びR4は前記と同義である。)、例えば、2−ジメチルアミノエチルメタクリレートを加え、重合させた後、少量の酸(例えば、酢酸)で重合反応を停止させる。
【0016】
(4)得られた反応溶液を冷却した貧溶媒(例えば、イソプロピルアルコール)に滴下し、目的の化合物を沈殿させ、その沈殿物を適当な良溶媒(例えば、テトラヒドロフラン)に溶解し、凍結乾燥して回収することにより、目的とする式(I)化合物(R1、R2、R3、R4及びR5、並びにm及びnは前記と同義である。)が得られる。
【0017】
次に、本発明の式(I)化合物の置換基の定義を説明する。
【0018】
1及びR2の定義における「アルキル基」とは、直鎖状又は分子鎖状のアルキル基を示し、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、1−エチルプロピル基などを挙げることができる。
【0019】
1の好ましい例は、炭素原子数1〜3のアルキル基であり、さらに好ましい例は、メチル基である。
【0020】
また、R2の好ましい例は、炭素原子数1〜3のアルキル基であり、さらに好ましい例は、メチル基である。
【0021】
4は、-COO-(CH2)k-、-CONH-(CH2)k-、又は-C6H4-(CH2)k-であって、kは1以上の整数である。kは好ましくは1〜5であり、さらに好ましくは2又は3である。
【0022】
5は有機基であれば特に限定はないが、式(I)化合物の水溶性の点で、R5の好ましい例は、炭素原子数1〜5のアルコキシ基であり、さらに好ましい例は、炭素原子数1〜3のアルコキシ基であり、特に好ましい例は、メトキシ基である。
【0023】
m及びnは1以上の整数であり、好ましくは、m=5〜5000であり、n=3〜1000である。さらに好ましくは、m=10〜1000であり、n=10〜500である。
【0024】
本発明の式(I)で表される化合物には「薬学的に許容される塩」が包含される。「薬学的に許容される塩」とは、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸との塩、酢酸、酪酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸などの有機酸との塩である。
【0025】
【発明の実施の形態】
本発明のコレステロール低下剤は、式(I)化合物を、その水に溶解する性質を利用して、液剤、ゼリー剤等として製剤化することができる。また、式(I)化合物を固体のまま用時溶解型の固形製剤や錠剤、散剤等の一般的な固形製剤に配合して製剤化することもできる。製剤化においては特別の方法を要せず、常法によりそれぞれの製剤を調製することができる。
【0026】
本発明のコレステロール低下剤の投与量は、成人に対し0.1〜20gを1日1回ないし数回に分けて経口投与することができる。投与量は年齢、体重、症状等により適宜に増減することができる。
【0027】
内服液剤における製剤の調製に使用する担体としては、ショ糖脂肪酸エステル類、ステアリン酸ポリオキシル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール類、ポリオキシエチレンモノ脂肪酸エステル類等の界面活性剤、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等の増粘剤、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液等の有機酸系・無機酸系のpH調整剤があり、この他必要に応じて溶解補助剤、緩衝剤、保存剤、香料、色素、甘味剤等を使用することができる。
【0028】
また、固形剤における製剤の調製に使用する担体としては、乳糖、デンプン、砂糖、マンニトール、結晶セルロースなどの賦形剤、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ゼラチン、PVPなどの結合剤、カルボキシメチルセルロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースなどの崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、硬化ヒマシ油、タルクなどの滑沢剤があり、この他必要に応じて溶解補助剤、緩衝剤、保存剤、香料、色素、矯味剤等を使用することができる。
【0029】
本発明のコレステロール剤には、以上の成分以外に他の有効成分を本発明の作用を損なわない範囲で適宜に配合してもよい。
【0030】
【実施例】
以下に実施例及び試験例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
【0031】
(実施例1)
下記式(A)化合物の合成
【0032】
【化4】

【0033】
アルゴン気流下ナスフラスコ中に反応溶媒としてテトラヒドロフラン90mL、反応開始物質として2−メトキシエタノール0.158mL(2mmol)を加えた。反応開始物質と等モル量のナフタレンカリウムを加えてメタル化し、開始剤とした。続いてエチレンオキシド11.2mL(200mmol,仕込み分子量5000)を加え、室温下で2日間攪拌し、ポリエチレングリコール(以下、適宜に「PEG」という。)の重合を行った。
【0034】
重合後、PEGの分子量を測定するためのサンプルを抜き取った後激しく攪拌しながら2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート11.45mL(63.6mmol,仕込み分子量5000)を一気に加え、20分間反応させた。その後、少量の酢酸を用いて反応を停止させ、反応溶液を2−プロパノール(−20℃)に滴下して得られた沈殿物をベンゼンに溶解し、凍結乾燥し、目的の化合物を得た。
【0035】
得られた化合物の分子量をGPC(PEG検量線換算)により求めると、数平均分子量は23640、質量平均分子量は38472であった。また、1H−NMRの結果は図1のようになった。
【0036】
以上から、得られた化合物の構造は、上記式(A)で、m=約110、n=120〜214となることを確認した。
【0037】
5質量%式(A)化合物水溶液の調製
回収した前記化合物のうち10gを一旦200mLの蒸留水に分散させ、塩酸を用いて溶液のpHを1付近にし、即座に凍結乾燥を行って塩酸塩として再び回収した。乾燥後、約150mLの蒸留水に溶解させ、水酸化ナトリウム溶液でpHを7.4に調整し、0.2μmフィルターにかけた。一旦サンプルを分取して凍結乾燥し、高分子化合物の濃度を決定し、0.2μmフィルターにかけた蒸留水を加え、5質量%となるように濃度を調整した。
【0038】
(試験例)コレステロール低下作用試験
7週齢の雄性SDラットに7日間、表1に掲記した飼料を自由に摂取させながら、各検体を1日1回ラットが餌を摂取し始める夕方(午後5時30分〜7時)に5質量%式(A)化合物水溶液所定量を強制的に経口投与した。
【0039】
採血の際は採血日の朝から絶食とし、7時間後エーテル麻酔下に腹部を切開し、下大静脈よりEDTA採血を行った。採血した血液を3000rpm/4℃で5分間遠心分離し血漿を得た。得られた血漿中の総コレステロールを臨床検査用キット(コレステロールC-II-テストワコー:和光純薬工業)を用いて測定した。
【0040】
動物:SD系ラット(雄,7週齢:SLC)水洗ケージ(1匹/ケージ)で飼育(1群9匹)
飼育:表1に掲記した飼料(オリエンタル酵母)を自由摂取
検体:投与形態及び投与量を表2に掲記
【0041】
【表1】

【表2】

【0042】
【発明の効果】
本発明の式(I)化合物は、胆汁酸やコレステロールなどを吸着して糞中に排泄を促すことにより優れた血中コレステロール低下作用を示した。また、水に対して5質量%以上の溶解度を有するため液剤やゼリー剤等の服用し易い剤形に配合することができる。さらに固形剤に配合した場合でも口中でのざらつきがない。したがって、従来にはない服用し易いコレステロール低下剤を提供することが可能となった。
【0043】
【図面の簡単な説明】
【図1】式(A)化合物の1H−NMRチャートを示す。
【図2】試験例における血漿中の総コレステロールのグラフを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】

[式中、R1及びR2は同一又は異なって水素原子、アルキル基又はアリル基を示し、R3は水素原子又はメチル基を示し、R4は-COO-(CH2)k-、-CONH-(CH2)k-、又は-C6H4-(CH2)k-を示し(式中、kは1以上の整数を示す。)、R5は任意の有機基を示し、m及びnは同一又は異なって1以上の整数を示す。]で表される化合物。
【請求項2】
請求項1記載の式(I)化合物を有効成分として含有するコレステロール低下剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−52236(P2006−52236A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−221492(P2002−221492)
【出願日】平成14年7月30日(2002.7.30)
【出願人】(597059085)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【Fターム(参考)】