説明

コロイダルシリカおよびその製造方法

【課題】印刷紙用のインク吸収性フィラー、塗料の展着性改善剤、各種材料表面の親水性コーティング材、高強度バインダー、高純度シリカゲル、高純度セラミックスの原料、触媒用バインダー、電子材料用研磨材等に有用なコロイダルシリカを提供すること。
【解決手段】粒子の内部に尿素が固定化された非球状の異形シリカ粒子群あるいは尿素を含むシリカを主成分とする被膜を表面に配することにより尿素が固定化された非球状の異形シリカ粒子群を含有するコロイダルシリカである。これは、珪酸アルカリ水溶液とカチオン交換樹脂とを接触させて、活性珪酸水溶液を調製した後、この活性珪酸水溶液に尿素およびアルカリ剤を添加し、アルカリ性とした後、加熱してシリカ粒子を形成させ、続いてビルドアップの手法でシリカ粒子を成長させることにより製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷紙用のインク吸収性フィラー、塗料の展着性改善剤、各種材料表面の親水性コーティング材、高強度バインダー、高純度シリカゲル、高純度セラミックスの原料、触媒用バインダー、電子材料用研磨材等に有用なコロイダルシリカおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ金属珪酸塩(主に珪酸ソーダ)を原料として製造されるコロイダルシリカに関して、アルカリ金属の含有量を少なくする方法は数多く提案されている。例えば、特許文献1には、水ガラス法の活性珪酸水溶液と水酸化テトラアルキルアンモニウムとを使用して、ナトリウムの少ないコロイダルシリカが得られることが記載されている。
水ガラス法の活性珪酸水溶液と水酸化ナトリウムとを用いて製造される通常のコロイダルシリカから、カチオン交換によりナトリウムを除去しても、シリカ粒子内部に存在するナトリウムは徐々に液相に溶出してくることはよく知られている。そのため、特許文献2には、コロイダルシリカから、カチオン交換によりナトリウムを除去した後、アンモニアを加えてアルカリ性とし、オートクレーブで98〜150℃で処理して、シリカ粒子内部に存在するナトリウムを強制的に液相に溶出させ、カチオン交換で除去する方法が記載されている。
【0003】
また、非球状のシリカ粒子からなるコロイダルシリカも、数多く提案されている。特許文献3には、電子顕微鏡観察による5〜40ミリミクロンの範囲内の一様な太さで一平面内のみの伸長を有する細長い形状の非晶質コロイダルシリカ粒子が液状媒体中に分散されてなる安定なシリカゾルが記載されている。特許文献4には、珪酸液添加工程の前、添加工程中または添加工程後に、アルミニウム塩などの金属化合物を添加する製法によって得られる細長い形状のシリカ粒子から成るシリカゾルが記載されている。特許文献5には、アルコキシシランの加水分解により得られる長径/短径比が1.4〜2.2の繭型のシリカ粒子から成るコロイダルシリカが記載されている。特許文献6には、水ガラス法の活性珪酸水溶液に代替して、アルコキシシランの加水分解液を使用し、アルカリには水酸化テトラアルキルアンモニウムを使用して、非球状のシリカ粒子を含有するコロイダルシリカが得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−89786号公報
【特許文献2】特開2004−189534号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開平1−317115号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開平4−187512号公報
【特許文献5】特開平11−60232号公報(特許請求の範囲)
【特許文献6】特開平2001−48520号公報(特許請求の範囲および実施例)
【0005】
特許文献1に記載のコロイダルシリカは、ナトリウムの少ない点で好ましいが、粒子の形状については何ら検討がされていない。特許文献2に記載のコロイダルシリカの製造方法は、アンモニアを必須成分とするため粒子内部にアンモニアを含有することになり、用途が限られる上に、製造工程がながく、エネルギー使用も過大となり不利な一面がある。
特許文献3に記載のコロイダルシリカは、その製造過程において、水溶性のカルシウム塩、マグネシウム塩またはこれらの混合物を添加する工程があるので、製品にはそれらが不純物として残存している。特許文献4に記載のコロイダルシリカは、その製造過程において、水溶性のアルミニウム塩を添加する工程があるので、製品にはそれらが不純物として残存している。
特許文献5および特許文献6に記載のコロイダルシリカは、アルコキシシランをシリカ源とするので、製品は高純度であるが、シリカの4倍のモル数の大量の副生アルコールの回収工程が必要となる上に、アルコキシシラン自体の価格が高いという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩等の珪素以外の多価金属化合物を用いることなく、非球状の異形シリカ粒子群を含有するコロイダルシリカを製造する方法およびその製造方法により得られるコロイダルシリカを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、新規なコロイダルシリカを得ることができ、上記の課題も解決することができた。
すなわち、第一の発明は、粒子の内部に尿素が固定化された非球状の異形シリカ粒子群を含有するコロイダルシリカである。
また、第二の発明は、尿素を含むシリカを主成分とする被膜を表面に配することにより尿素が固定化された非球状の異形シリカ粒子群を含有するコロイダルシリカである。
【0008】
なお、本発明の範疇には、粒子の内部および表面の被膜の双方に尿素が固定化されたものも含まれる。以下では、粒子の内部に尿素が固定化された非球状の異形シリカ粒子群、尿素を含むシリカを主成分とする被膜を表面に配することにより尿素が固定化された非球状の異形シリカ粒子群ならびに粒子の内部および表面の被膜の双方に尿素が固定化された非球状の異形シリカ粒子群をまとめて「尿素が固定化された非球状の異形シリカ粒子群」と記載することがある。
第一および第二の発明におけるコロイダルシリカは、シリカ/尿素のモル比が20〜300であることが好ましい。
また、第一および第二の発明におけるコロイダルシリカは、液相に尿素を含有し、非球状の異形シリカ粒子の透過型電子顕微鏡観察による長径/短径比が1.2〜15の範囲にありかつ長径/短径比の平均値が1.3〜10であることが好ましい。また、第一および第二の発明におけるコロイダルシリカは、透過型電子顕微鏡観察によるシリカ粒子の平均短径が5〜30nmであり、かつシリカの濃度が10〜50重量%であることが好ましい。
第一および第二の発明におけるコロイダルシリカにおいて、アルカリ金属含有量を、シリカ当たり50ppm以下とすることも好ましい。
【0009】
第一および第二の発明におけるコロイダルシリカの製造方法は、以下の工程
(a)珪酸アルカリ水溶液をカチオン交換樹脂に接触させて活性珪酸水溶液を調製する工程、
(b)この活性珪酸水溶液に尿素とアルカリ剤とを添加してアルカリ性とした後、加熱してコロイド粒子を形成させる工程、および
(c)続いて、加熱下で、アルカリ性を維持しながら、活性珪酸水溶液と尿素とアルカリ剤とを添加するか、または活性珪酸水溶液とアルカリ剤とを添加して、シリカ粒子を成長させる工程
を有する。
また、このコロイダルシリカの製造方法は、(c)工程の後、(d)シリカを濃縮する工程を更に有することが好ましい。
なお、シリカ粒子の形成とシリカ粒子の成長の双方をあわせて、以下で「粒子成長」あるいは「成長」と記載することがある。
【0010】
上記コロイダルシリカの製造方法は、常法であるアルカリ金属水酸化物や珪酸アルカリをアルカリ剤に用いた製造方法と概略同一である。すなわち、上記コロイダルシリカの製造方法は、珪酸ソーダより活性珪酸水溶液を製造する工程は常法と同一であるが、シリカ粒子の形成工程において、尿素とアルカリ剤とを使用する点が異なる。シリカ粒子の成長工程では、尿素は添加してもよいし、添加しなくてもよい。得られたコロイダルシリカを濃縮する工程は常法と同一である。アルカリ剤としては、常法で使用するアルカリ金属水酸化物でもよく、あるいは有機アルカリでもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、印刷紙用のインク吸収性フィラー、塗料の展着性改善剤、各種材料表面の親水性コーティング材、高強度バインダー、さらに、高純度シリカゲル、高純度セラミックスの原料、触媒用バインダー、電子材料用研磨材等に有用なコロイダルシリカを安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1のシリカ粒子の成長工程を経たコロイダルシリカのTEM写真である。
【図2】実施例1で得られたコロイダルシリカのTEM写真である。
【図3】実施例2で得られたコロイダルシリカのTEM写真である。
【図4】実施例3で得られたコロイダルシリカのTEM写真である。
【図5】実施例4のシリカ粒子の成長工程を経たコロイダルシリカのTEM写真である。
【図6】実施例4で得られたコロイダルシリカのTEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をさらに説明する。
本発明のコロイダルシリカは、尿素の存在下で活性珪酸水溶液を原料として得られる。そのため、本発明のコロイダルシリカでは、尿素が、(1)粒子成長の過程で粒子内部および/または粒子表面の被膜に固定された形態と、(2)粒子成長後に粒子表面に付着された形態と、(3)液相に溶解した形態との3形態で存在し得る。本発明における尿素を含むシリカを主成分とする被膜とは、尿素の存在下で粒子成長を行ったときの成長したシリカ部分と定義され、その厚さは、特に限定されるものではないが、通常、3nm〜20nmである。
また、本発明のコロイダルシリカは、好ましくは、非球状の異形シリカ粒子群の透過型電子顕微鏡観察による長径/短径比が1.2〜15の範囲にありかつ長径/短径比の平均値が1.3〜10である。本発明における長径/短径比は、得られたコロイダルシリカの透過型電子顕微鏡写真にスケールをあてて、ランダムに選択したシリカ粒子100個について、シリカ粒子の最も長い辺aと最も短い辺bとを測定し、この値(a1、a2、・・・、a100およびb1、b2、・・・、b100)を用いてそれぞれの粒子の長径/短径比(a1/b1、a2/b2、・・・、a100/b100)を算出し、最小値側の5点の値の算術平均値を上限とし、最大値側の5点の値の算術平均値を下限としたものである。また、本発明における長径/短径比の平均値とは、得られたコロイダルシリカの透過型電子顕微鏡写真にスケールをあてて、ランダムに選択したシリカ粒子100個について、シリカ粒子の最も長い辺aと最も短い辺bとを測定し、この値(a1、a2、・・・、a100およびb1、b2、・・・、b100)を用いてそれぞれの粒子の長径/短径比(a1/b1、a2/b2、・・・、a100/b100)を算出し、最大値側および最小値側の5点の値を除いた90点の値の算術平均値である。
【0014】
本発明のコロイダルシリカは、尿素を含有しており、シリカ/尿素の好ましいモル比は20〜300である。粒子成長の過程で使用した尿素を含有していることが好ましい。尿素の1%水溶液はpHが6〜7程度であって、アルカリではないので粒子成長には寄与しない。しかしながら、粒子成長時のシリカ粒子の形状に影響を及ぼす。尿素は成長中のシリカ粒子表面に結合もしくは吸着して、結合部位の粒子成長を阻害し、球状成長をできないようにしているようである。粒子成長時に、シリカ/尿素のモル比が20より小さいと、全く粒子成長ができないためシリカのゲルが発生する場合がある。粒子成長時に、シリカ/尿素のモル比が300より大きいと、シリカ粒子の形状が球状に近くなる。ただし、このシリカ/尿素のモル比は、製造工程を経た最終製品に存在する尿素量から求められる値である。液相に溶解している尿素は、シリカ粒子の形成工程およびシリカ粒子の成長工程で、アルカリ成分共存下での加熱によってアンモニアと炭酸に分解し、更に限外濾過による濃縮工程で水とともに減少する。したがって、製造工程で使用される尿素量は、最終製品に存在する尿素量の2倍以上となる。
【0015】
ただし、有機物の存在は廃水処理などで二次的な弊害を発生することもある。そのような場合を配慮すると尿素を除去した製品も必要となる。限外濾過を有効に活用して尿素を極力減らす方法も本発明の製造方法のひとつとして範疇に含まれる。
【0016】
本発明における非球状の異形シリカ粒子群を含有するコロイダルシリカとは、俵のような形状ないし芋虫のような屈曲した棒状の形状を有し、かつその形状が個々に異なるシリカ粒子を含有するコロイダルシリカである。具体的には図1〜図6に示されるような形状のシリカ粒子を含有するコロイダルシリカである。この非球状の異形シリカ粒子の長径/短径比は1.2〜15の範囲にあることが好ましい。非球状の粒子が大半を占めており、一部には球状に近い粒子も存在する。図1〜6に示したシリカ粒子は一例であって、製造条件によってその形状はさまざまとなるが、本発明のコロイダルシリカでは、真球状でないシリカ粒子が大半を占めている。
【0017】
本発明のコロイダルシリカに含有されるシリカ粒子は、ヒュームドシリカのシリカ粒子とよく似た形状である。ヒュームドシリカのシリカ粒子は、一般に、長径/短径比が5〜15の細長い異形のシリカ粒子群となっている。ヒュームドシリカの一次粒子径(単に粒子径とも記載されることがある)は、一次粒子の短径(太さ)であって通常7〜40nmである。さらに、その一次粒子は凝集して二次粒子を形成しており、スラリーの外観は白色になっている。そのためスラリーを長時間放置すると粒子が沈降する不具合、透明なフィルムや塗膜にならないなどの欠点がある。
【0018】
しかし、本発明のコロイダルシリカに含有されるシリカ粒子は、ヒュームドシリカに見られるような凝集による二次粒子の形成はなく、スラリーの外観は透明ないし半透明になっている。粒子が沈降する不具合はなく、透明なフィルムや塗膜を得ることもできる。
【0019】
本発明のコロイダルシリカの製造方法は、水ガラス法の活性珪酸水溶液をシリカ源とし、粒子形成工程において、尿素とアルカリ剤とを使用することを特徴とする。粒子形成工程では、尿素の存在が必要不可欠である。一方、粒子成長工程では、前工程で添加した尿素が液相に残存しているので、活性珪酸水溶液およびアルカリ剤だけを添加してシリカ粒子を成長させてもよいが、活性珪酸水溶液、尿素およびアルカリ剤を添加してシリカ粒子を成長させてもよい。
【0020】
アルカリ剤としては、水酸化ナトリウムのようなアルカリ金属水酸化物が最も好適な材料である。アルカリ金属を好まないときには、アミン類や水酸化第四アンモニウムなどの含窒素有機アルカリ化合物が使用できる。アミン類としては、トリエタノールアミンなどの揮発性の低い3級アミン、ピペラジンなどの2級アミン、エチレンジアミンなどの脂肪族アミンが使用できる。水酸化第四アンモニウムとしては、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化トリメチル−2−ヒドロキシエチルアンモニウム(別名、水酸化コリン)が使用できる。
【0021】
上記の含窒素有機アルカリ化合物を使用することで、シリカ当たりのアルカリ金属含有量を50ppm以下とすることができる。セラミック、触媒用バインダー、電子材料用研磨材などの用途ではこの程度のアルカリ金属含有量とすることが必要である。より好ましくは30ppm以下である。
【0022】
原料として用いる珪酸アルカリ水溶液としては、通常、水ガラス(水ガラス1号〜4号等)と呼ばれる珪酸ナトリウム水溶液が好適に用いられる。このものは比較的安価であり、容易に手に入れることができる。また、Naイオンを嫌う半導体用途では、珪酸ナトリウム水溶液の代わりに珪酸カリウム水溶液を原料として用いることが好ましい。固体状のメタ珪酸アルカリを水に溶かして珪酸アルカリ水溶液を調製する方法もある。メタ珪酸アルカリは晶析工程を経て製造されるため、不純物の少ないものがある。珪酸アルカリ水溶液は、必要に応じて水で希釈して使用する。
【0023】
本発明で使用するカチオン交換樹脂は、公知のものを適宜選択して使用することができ、とくに制限されない。珪酸アルカリ水溶液とカチオン交換樹脂との接触工程は、例えば珪酸アルカリ水溶液をシリカ濃度3〜10重量%に水希釈し、次いでH型強酸性カチオン交換樹脂に接触させて脱アルカリし、必要に応じてOH型強塩基性アニオン交換樹脂に接触させて脱アニオンすることによって行うことができる。この工程により、活性珪酸水溶液が調製される。接触条件の詳細は、従来から既に様々な提案があり、本発明ではそれら公知のいかなる条件も採用することができる。
【0024】
次いで、シリカ粒子の形成を行う。この粒子形成工程では、活性珪酸水溶液に尿素を添加する以外は常法の操作が行われる。例えば、pHが8以上となるように活性珪酸水溶液に尿素およびアルカリ剤を添加し、60〜240℃に加熱することで、シリカ粒子(種粒子)を形成させることができる。尿素とアルカリ剤の添加順序は、どちらが先でもよい。また、尿素は、固体のまま添加してもよいが、水に予め溶解させた水溶液の形態で添加することが好ましい。
【0025】
次いで、上記で形成されたシリカ粒子を種ゾルとするビルドアップの方法を用いた粒子成長を行う。この粒子成長工程では、pHが8以上の種ゾルを60〜240℃に加熱し、pHを8〜10に維持しながら、活性珪酸水溶液と尿素とアルカリ剤とを添加するか、あるいは活性珪酸水溶液とアルカリ剤とを添加して、シリカ粒子を成長させる。このようにして、透過型電子顕微鏡観察によるシリカ粒子の平均短径を好ましくは5〜30nmにする。
【0026】
上記の粒子形成工程および粒子成長工程を経て得られたコロイダルシリカは、必要に応じて、濃縮を行ってもよい。シリカの濃縮は、水分の蒸発濃縮でもよいが、エネルギー的には限外濾過の方が有利である。
【0027】
限外濾過によりシリカを濃縮するときに使用される限外濾過膜について説明する。限外濾過膜が適用される分離は、1nmから数ミクロンの粒子を対象とするが、溶解した高分子物質をも対象とするため、ナノメータ域では濾過精度を分画分子量で表現している。本発明では、分画分子量15,000以下の限外濾過膜を好適に使用することができる。この範囲の膜を使用すると1nm以上の粒子は分離することができる。更に好ましくは分画分子量3,000〜15,000の限外濾過膜を使用する。3,000未満の膜では濾過抵抗が大きすぎて処理時間が長くなり不経済であり、15,000を超えると、精製度が低くなる。膜の材質は、ポリスルホン、ポリアクリルニトリル、焼結金属、セラミック、カーボンなどあり、いずれも使用できる。耐熱性や濾過速度などの点からポリスルホン製の膜が使用しやすい。膜の形状は、スパイラル型、チューブラー型、中空糸型などあり、いずれも使用できる。中空糸型膜がコンパクトで使用しやすい。また、限外濾過工程が、余剰の尿素の洗い出し除去をかねている場合、必要に応じて、目標シリカ濃度に達した後も純水を加えるなどして、更に洗い出し除去を行って、尿素の除去率を高める作業を行うこともできる。この工程でシリカの濃度が10〜50重量%となるように濃縮するのがよい。
【0028】
以上のようにして、尿素の存在下で活性珪酸水溶液を原料としてコロイダルシリカを製造することにより、尿素が固定化された非球状の異形シリカ粒子群を含有するコロイダルシリカを得ることができる。このようにして得られたコロイダルシリカは、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩等の珪素以外の多価金属化合物を含有しないので、印刷紙用のインク吸収性フィラー、塗料の展着性改善剤、各種材料表面の親水性コーティング材、高強度バインダー、高純度シリカゲル、高純度セラミックスの原料、触媒用バインダー、電子材料用研磨材等に有用である。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。実施例での測定は以下の装置を使用した。
(1)TEM観察:(株)日立製作所、透過型電子顕微鏡H−7500型を使用した。
(2)BET法比表面積:(株)島津製作所、フローソーブ2300型を使用した。
(3)全尿素分析:(株)島津製作所、全有機体炭素計TOC−5000A、SSM−5000Aを使用した。炭素量より尿素に換算した。具体的には、全炭素量(TC)と無機体炭素量(IC)を測定後、全有機体炭素量(TOC)は、TOC=TC−ICにより求めた。IC成分は主として珪酸ソーダに溶解していた炭酸であると推定される。TC測定の標準として炭素量1重量%のグルコース水溶液を用い、IC測定の標準として炭素量1重量%の炭酸ナトリウムを用いた。超純水を炭素量0重量%の標準とし、それぞれ先に示した標準を用い、TCは150μlと300μl、またICは250μlで検量線を作成した。サンプルのTC測定ではサンプルを約100mg採取し、900℃燃焼炉で燃焼させた。また、IC測定ではサンプルを約20mg採取し、(1+1)燐酸を約10ml添加し200℃燃焼炉で反応を促進した。
また、水酸化テトラメチルアンモニウムを含有するサンプルでは下記の方法(7)でテトラメチルアンモニウムを定量しTCより減じて尿素量に換算した。
(4)液相尿素分析:限外濾過によりサンプルから液相を取り出し、上記(3)と同じ方法で測定した。
(5)固定化された尿素の算出:全尿素量から液相尿素量を減じて、固定化された尿素量を算出した。
(6)金属元素分析:(株)堀場製作所、ICP発光分析計、ULTIMA2を使用した。
(7)テトラメチルアンモニウム(TMA)のイオンクロマト分析:ダイオネクス社、イオンクロマトICS−1500を使用した。具体的には、液相TMAは、サンプルを1,000倍から5,000倍に純水で希釈し測定を行った。また、全TMAの測定には前処理としてサンプル5gに3gの20重量%NaOHと純水を加え、80℃で加熱しシリカを完全に溶解させた。この溶解液を1,000倍から5,000倍に純水で希釈し測定を行い、TMA量を求めた。
【0030】
〔実施例1〕
(a)活性珪酸水溶液の調製
脱イオン水28kgにJIS3号珪酸ソーダ(SiO2:28.8重量%、Na2O:9.7重量%、H2O:61.5重量%)5.2kgを加えて均一に混合しシリカ濃度4.5重量%の希釈珪酸ソーダを作製した。この希釈珪酸ソーダを、予め塩酸によって再生したH型強酸性カチオン交換樹脂(オルガノ(株)製アンバーライト(登録商標)IR120B)20リットルのカラムに通して脱アルカリし、シリカ濃度3.7重量%でpH2.9の活性珪酸水溶液40kgを得た。
【0031】
(b)シリカ粒子の形成
次いで、得られた活性珪酸水溶液にアルカリ剤を加えてアルカリ性にした後、10重量%尿素水溶液(尿素(試薬)を純水に加えて調製したもの)を添加して加熱し、シリカ粒子を形成させた。すなわち、得られた活性珪酸水溶液の一部500gに、攪拌下、5重量%水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを8.5とし、10重量%尿素水溶液12gを加えた後、100℃に1時間保ち、放冷した。
【0032】
得られたコロイダルシリカは、水の蒸発で460gとなっており、シリカ濃度は4.0重量%となっていた。また、このコロイダルシリカは、25℃でのpHが10.0であり、透過型電子顕微鏡(TEM)観察では短径が約5nmで、長径/短径比が1.2〜3の範囲にありかつ長径/短径比の平均値が1.5である非球状の異形シリカ粒子群からなるものであった。
このコロイダルシリカは、活性珪酸水溶液の使用量および尿素の分析値から、シリカ/尿素のモル比は21と算出された。コロイダルシリカの全尿素濃度は0.196重量%で、液相尿素濃度は0.166重量%であったので、固定化されている尿素は0.037重量%と算出された。尿素がシリカに固定されていることが確認できた。
【0033】
(c)シリカ粒子の成長
続いて、得られたコロイダルシリカを再度加熱して100℃とし、ビルドアップの方法をとり、1,000gの活性珪酸水溶液および12gの10重量%尿素水溶液を2時間かけて添加した。活性珪酸水溶液および尿素水溶液の添加中、100℃を維持しながら、pHが9〜10の範囲になるように5重量%水酸化ナトリウム水溶液を同時添加した。添加中の水の蒸発により放冷後には1,360gのコロイダルシリカを得た。シリカ濃度は4.1重量%となっていた。このコロイダルシリカは、25℃でのpHが9.4であり、透過型電子顕微鏡(TEM)観察では短径が約10nmで、長径/短径比が1.2〜4の範囲にありかつ長径/短径比の平均値が2である非球状の異形シリカ粒子群からなるものであった。TEM写真を図1に示した。また、BET法による比表面積換算の粒子径は9.7nmであった。
このコロイダルシリカは、活性珪酸水溶液の使用量および尿素の分析値から、シリカ/尿素のモル比は42と算出された。コロイダルシリカの全尿素濃度は0.097重量%で、液相尿素濃度は0.077重量%であったので、固定化されている尿素は0.023重量%と算出された。尿素がシリカに固定されていることが確認できた。
【0034】
更に、得られたコロイダルシリカを再度加熱して100℃とし、1,000gの活性珪酸水溶液および12gの10重量%尿素水溶液を2時間かけて添加した。活性珪酸水溶液および尿素水溶液の添加中、100℃を維持しながら、pHが9〜10の範囲になるように5重量%水酸化ナトリウム水溶液を同時添加した。添加中の水の蒸発により放冷後には1,700gのコロイダルシリカを得た。シリカ濃度は5.4重量%となっていた。このコロイダルシリカは、25℃でのpHが9.4であり、透過型電子顕微鏡(TEM)観察では短径が約12nmで、長径/短径比が1.2〜4の範囲にありかつ長径/短径比の平均値が1.5である非球状の異形シリカ粒子群からなるものであった。TEM写真を図2に示した。
このコロイダルシリカは、活性珪酸水溶液の使用量および尿素の分析値から、シリカ/尿素のモル比は102と算出された。コロイダルシリカの全尿素濃度は0.0588重量%で、液相尿素濃度は0.0535重量%であったので、固定化されている尿素は0.0082重量%と算出された。尿素がシリカに固定されていることが確認できた。
【0035】
(d)コロイダルシリカの濃縮
最後に、分画分子量6,000の中空糸型限外濾過膜(旭化成(株)製マイクローザ(登録商標)UFモジュールSIP−1013)を用いてポンプ循環送液による加圧濾過を行い、シリカ濃度17.7重量%までコロイダルシリカを濃縮し、約520gのコロイダルシリカを回収した。このコロイダルシリカは、25℃でのpHが9.0であり、透過型電子顕微鏡(TEM)観察では短径が約12nmで、長径/短径比が1.2〜4の範囲にありかつ長径/短径比の平均値が1.5である非球状の異形シリカ粒子群からなるものであった。また、BET法による比表面積換算の粒子径は12.1nmであった。
コロイダルシリカの全尿素濃度は0.0610重量%であり、シリカ/尿素のモル比は290であった。液相尿素濃度は0.0535重量%であったので、固定化されている尿素は0.0171重量%と算出された。尿素がシリカに固定されていることが確認できた。また、シリカ当たりのナトリウム含有量は16,900ppmであった。
【0036】
〔実施例2〕
実施例1で用いたものと同じ活性珪酸水溶液500gに、攪拌下、5重量%水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを8.3とし、10重量%尿素水溶液20gを加えた後、100℃に1時間保ち、放冷した。
得られたコロイダルシリカは、25℃でのpHが9.7であり、透過型電子顕微鏡(TEM)観察では短径が約6nmで、長径/短径比が2〜10の範囲にありかつ長径/短径比の平均値が5である非球状の異形シリカ粒子群からなるものであった。
次いで、得られたコロイダルシリカを再度加熱して100℃とし、1,500gの活性珪酸水溶液を5時間かけて添加した。活性珪酸水溶液の添加中、100℃を維持しながら、pHが9〜10の範囲になるように5重量%水酸化ナトリウム水溶液を同時添加した。添加中の水の蒸発により放冷後には1,617gのコロイダルシリカを得た。シリカ濃度は4.6重量%となっていた。このコロイダルシリカは、25℃でのpHが9.2であり、透過型電子顕微鏡(TEM)観察では短径が約12nmで、長径/短径比が1.5〜5の範囲にありかつ長径/短径比の平均値が2である非球状の異形シリカ粒子群からなるものであった。TEM写真を図3に示した。
最後に、分画分子量6,000の中空糸型限外濾過膜(旭化成(株)製マイクローザ(登録商標)UFモジュールSIP−1013)を用いてポンプ循環送液による加圧濾過を行い、シリカ濃度15.0重量%までコロイダルシリカを濃縮し、約493gのコロイダルシリカを回収した。このコロイダルシリカは、25℃でのpHが9.0であり、透過型電子顕微鏡(TEM)観察では短径が約13nmで、長径/短径比が1.5〜5の範囲にありかつ長径/短径比の平均値が2である非球状の異形シリカ粒子群からなるものであった。また、BET法による比表面積換算の粒子径は12.6nmであった。
コロイダルシリカの全尿素濃度は0.0635重量%であり、シリカ/尿素のモル比は236であった。液相尿素濃度は0.0610重量%であったので、固定化されている尿素は0.0116重量%と算出された。尿素がシリカに固定されていることが確認できた。また、シリカ当たりのナトリウム含有量は19,300ppmであった。
【0037】
〔実施例3〕
10重量%尿素水溶液の添加量を28gとした以外は実施例2と同様にして約526gのコロイダルシリカを回収した。シリカ濃度は14.1重量%となっていた。このコロイダルシリカは、25℃でのpHが9.0であり、透過型電子顕微鏡(TEM)観察では短径が約11nmで、長径/短径比が1.5〜6の範囲にありかつ長径/短径比の平均値が3である非球状の異形シリカ粒子群からなるものであった。TEM写真を図4に示した。
コロイダルシリカの全尿素濃度は0.0889重量%であり、シリカ/尿素のモル比は159であった。液相尿素濃度は0.0898重量%であったので、固定化されている尿素は0.0118重量%と算出された。尿素がシリカに固定されていることが確認できた。また、シリカ当たりのナトリウム含有量は21,300ppmであった。
【0038】
〔実施例4〕
実施例1で用いたものと同じ活性珪酸水溶液500gに、攪拌下、25重量%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を16g添加してpHを8.3とし、10重量%尿素水溶液12gを加えた後、100℃に1時間保ち、放冷した。
得られたコロイダルシリカは、水の蒸発で460gとなっており、シリカ濃度は4.0重量%となっていた。また、このコロイダルシリカは、25℃でのpHが9.7であり、透過型電子顕微鏡(TEM)観察では短径が約6nmで、長径/短径比が4〜12の範囲にありかつ長径/短径比の平均値が8である非球状の異形シリカ粒子群からなるものであった。TEM写真を図5に示した。また、BET法による比表面積換算の粒子径は5.9nmであった。
このコロイダルシリカは、活性珪酸水溶液の使用量および尿素の分析値から、シリカ/尿素のモル比は21と算出された。コロイダルシリカの全尿素濃度は0.196重量%で、液相尿素は0.166重量%であったので、固定化されている尿素は0.037重量%と算出された。尿素がシリカに固定されていることが確認できた。また、シリカ当たりのナトリウム含有量は27ppmであった。
【0039】
次いで、得られたコロイダルシリカを再度加熱して100℃とし、1,000gの活性珪酸水溶液を2時間かけて添加した。活性珪酸水溶液の添加中、100℃を維持しながら、pHが9〜10の範囲になるように25重量%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を同時添加した。添加中の水の蒸発により放冷後には1,360gのコロイダルシリカを得た。シリカ濃度は4.1重量%となっていた。このコロイダルシリカは、25℃でのpHが9.1であり、透過型電子顕微鏡(TEM)観察では短径が約10nmで、長径/短径比が2〜7の範囲にありかつ長径/短径比の平均値が4である非球状の異形シリカ粒子群からなるものであった。TEM写真を図6に示した。また、BET法による比表面積換算の粒子径は10.1nmであった。
このコロイダルシリカは、活性珪酸水溶液の使用量および尿素の分析値から、シリカ/尿素のモル比は69と算出された。コロイダルシリカの全尿素濃度は0.059重量%で、液相尿素は0.050重量%であったので、固定化されている尿素は0.011重量%と算出された。尿素がシリカに固定されていることが確認できた。また、シリカ当たりのナトリウム含有量は19ppmであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子の内部に尿素が固定化された非球状の異形シリカ粒子群を含有することを特徴とするコロイダルシリカ。
【請求項2】
尿素を含むシリカを主成分とする被膜を表面に配することにより尿素が固定化された非球状の異形シリカ粒子群を含有することを特徴とするコロイダルシリカ。
【請求項3】
シリカ/尿素のモル比が20〜300であることを特徴とする請求項1または2に記載のコロイダルシリカ。
【請求項4】
液相に尿素を含有し、非球状の異形シリカ粒子の透過型電子顕微鏡観察による長径/短径比が1.2〜15の範囲にありかつ長径/短径比の平均値が1.3〜10であることを特徴とする請求項1または2に記載のコロイダルシリカ。
【請求項5】
透過型電子顕微鏡観察によるシリカ粒子の平均短径が5〜30nmであり、かつシリカの濃度が10〜50重量%であることを特徴とする請求項1または2に記載のコロイダルシリカ。
【請求項6】
シリカ当たりのアルカリ金属含有量が50ppm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のコロイダルシリカ。
【請求項7】
以下の工程
(a)珪酸アルカリ水溶液をカチオン交換樹脂に接触させて活性珪酸水溶液を調製する工程、
(b)この活性珪酸水溶液に尿素とアルカリ剤とを添加してアルカリ性とした後、加熱してシリカ粒子を形成させる工程、および
(c)続いて、加熱下で、アルカリ性を維持しながら、活性珪酸水溶液と尿素とアルカリ剤とを添加するか、または活性珪酸水溶液とアルカリ剤とを添加して、シリカ粒子を成長させる工程
を有することを特徴とする請求項1または2に記載のコロイダルシリカの製造方法。
【請求項8】
(c)工程の後、(d)シリカを濃縮する工程を更に有することを特徴とする請求項7に記載のコロイダルシリカの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−42522(P2011−42522A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−191288(P2009−191288)
【出願日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【Fターム(参考)】