説明

コロナ帯電式塗装装置

【課題】コロナ電極4への粉体塗料の付着が少なく、しかもコロナ電極の位置設定を最適化することができるコロナ帯電式塗装装置を提供する。
【解決手段】粉体塗料を吐出するスプレーガンのガン先2に露出する電極4を屈曲可能な非導電性樹脂チューブ5によって覆うことにより、電極4への粉体塗料の付着を防止し、非導電性樹脂チューブ5を屈曲させることにより、塗装速度、被塗物との距離、作業者の癖などに応じて電極の位置を調整し、塗装条件に最適な電場を形成することを可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高電圧をコロナ電極に印加し、コロナ放電により発生したイオンを粉体塗料に付着させ、被塗物に電気的に粉体塗料を塗着させるコロナ帯電式塗装装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
粉体塗装は、被塗物に対して帯電した粉体塗料を吹き付け、被塗物に電気的に粉体塗料を付着させる塗装方法であり、被塗物に付着しなかった粉体塗料を、回収して再利用することができる環境に優しい塗装方法である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、粉体塗装では、塗膜の平滑性をより良好にするために、粉体塗料の微粒化が進んでいる。
【0004】
また、アルミ顔料を含むメタリック粉体塗料を使用したメタリック塗装も近年その需要が増している。
【0005】
図7及び図8は、粉体塗料を噴出する筒状のガン先2に、扇形の吐出パターンを形成するフラット式のノズル3を装着した従来の一般的な静電粉体塗装ガン1を示しており、筒状のガン先2には、高電圧発生器に接続された電極4が、フラット式のノズル3の内側の中央部に突出した状態で設置されている。
【0006】
このような構造の静電粉体塗装ガン1を使用して、微粒化した粉体塗料やアルミ顔料を含むメタリック粉体塗料を噴霧した場合、特に、コロナ放電を行う電極4の先端部分に、図7の符号Dで示すように、粉体塗料が固まったように付着しやすい。
【0007】
電極4の先端に付着する粉体塗料の量が多くなると、塗装中に電極4に付着した粉体塗料が剥がれ、この剥がれた粉体塗料の塊が、ブツとなって被塗物に付着し、塗膜不良を起こすという問題が生じる。
【0008】
特に、メタリック粉体塗料に含まれるアルミ顔料は、電極4に付着し易く、粉体塗料を吐出するスプレーガンのガン先を、アルミ顔料が覆い尽くすほど増殖することも珍しくない。そして、アルミ顔料は導電性であるから、電極4の先端で増殖したアルミ顔料により、コロナリークが大きくなり、塗着効率を低下させるという問題があった。また、コロナリークが大きくなると、粉体塗装の安全性の面でも問題となる。
【0009】
次に、コロナ帯電式塗装装置においては、コロナ電極の位置設定は、粉体塗料に最適な電荷を与え、塗着効率を向上させるために、極めて重要である。
【0010】
このため、ガン先形状や、粉体塗料の種類、被塗物の形状、被塗物までの距離、或いは手吹きガンの場合には、作業者の癖等によって、コロナ電極の位置設定を最適化する必要がある。
【0011】
しかしながら、現実には、コロナ電極の位置選定を調整できるようにしたものがなかった。
【0012】
そこで、この発明は、コロナ電極への粉体塗料の付着が少なく、しかもコロナ電極の位置設定を最適化することができるコロナ帯電式塗装装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、この発明は、粉体塗料を吐出するスプレーガンのガン先に露出する電極、あるいは、粉体塗料が噴霧されたブース内に露出する電極を屈曲可能な非導電性樹脂チューブによって覆うことにより、電極への粉体塗料の付着を防止し、非導電性樹脂チューブを屈曲させることにより、塗装速度、被塗物との距離、作業者の癖などに応じて電極の位置を調整し、塗装条件に最適な電場を形成することを可能としたものである。
【0014】
さらに、電極を覆う非導電性樹脂チューブ内へのエアーや不活性ガスの導入により、電極先端への粉体塗料の付着を確実に防止し、粉体塗料と非導電性樹脂チューブとの接触により、非導電性樹脂チューブが摩耗して穴があいても、その穴から粉体塗料が非導電性樹脂チューブ内に侵入しないようにしたものである。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、以上のように、コロナ放電する電極への粉体塗料の付着を有効に防止できるので、ブツのない良好な塗膜を形成できると共に、電極の位置を調整することにより、塗装条件に最適な電場を形成することができ、塗着効率の高い最適な塗装が行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1に示す静電粉体塗装ガン1は、粉体塗料を噴出する筒状のガン先2に、扇形の吐出パターンを形成するフラット式のノズル3を装着している。
【0017】
筒状のガン先2には、高電圧発生器に接続された電極4がガン先2を貫通し、フラット式のノズル3の内側に引き出されている。
【0018】
フラット式のノズル3の内側に突出する電極4は、ノズル3のフラットな吐出口9の中央部分まで引き出されている。
【0019】
電極4の材質は、タングステン、鉄、銅又はステンレス等の金属からなり、ノズル3内に突出する部分には、屈曲可能な非導電性樹脂チューブ5を被せ、ガン先2を通過する粉体塗料が電極4に接触しないようにしている。これにより、金属製の電極4に粉体塗料が付着したり、あるいは粉体塗料に含まれるメタリック顔料がこびり付いたりするのを防止できる。
【0020】
非導電性樹脂チューブ5の材質としては、4フッ化エチレン樹脂の他、使用する粉体塗料に応じ、ナイロン系、ポリエチレン系、ポリアセタール系のものでもよい。
【0021】
電極4に被せられた非導電性樹脂チューブ5の後端は、図2及び図4に示すように、筒状のガン先2の端面に形成した固定穴に差し込まれている。
【0022】
次に、図2〜図4の実施例では、電極4を、ガン先2の筒状部分に埋め込んで設置しているが、図5の実施例のように、ガン先2の筒状部分に、コンプレッサーエアーあるいは不活性ガスを通過させる貫通孔6を設け、この貫通孔6に電極4を通し、貫通孔6の先端側に非導電性樹脂チューブ5を差し入れ、貫通孔6に供給したコンプレッサーエアー又は不活性ガスが、非導電性樹脂チューブ5内を通過して、非導電性樹脂チューブ5の先端から流出するようにしてもよい。
【0023】
このように、非導電性樹脂チューブ5の先端からエアー又は不活性ガスを流出させることにより、電極4の先端への粉体塗料の付着が確実に防止される。また、ノズル3内の非導電性樹脂チューブ5には、絶えず粉体塗料が衝突し、この衝突によって非導電性樹脂チューブ5が摩耗して穴があいたとしても、上記のように、非導電性樹脂チューブ5内にエアー又は不活性ガスを通過させることにより、非導電性樹脂チューブ5内が常に陽圧状態に保たれるので、非導電性樹脂チューブ5の穴から粉体塗料が非導電性樹脂チューブ5内に侵入するということを防止できる。
【0024】
次に、図6は、ブース7内に粉体塗料を噴霧させ、ブース7内に設置した高電圧を印加する電極4により粉体塗料を帯電させるコロナ帯電式塗装装置の実施例である。ブース7は、非導電性の樹脂パネルによって形成されている。
【0025】
この図6の実施例では、被塗物Aの全面に、コロナ放電による電界が生じるように、電極4を分岐させ、分岐した電極4が、被塗物Aの側面、並びに上下面に位置するようにしている。そして、被塗物Aの上下面に位置する電極4は、ブース7の中央付近にまで大きく引き出されており、この引き出した電極4の外面を、非導電性樹脂チューブ5で覆って、電極4の外面に粉体塗料が付着しないようにしている。
【0026】
この図6の実施例においても、非導電性樹脂チューブ5は、屈曲可能になっており、被塗物Aの形状により、屈曲させて電極4の設置位置を調整することができる。
【0027】
また、この図6の実施例においても、電極4を埋設するブース7の壁面に、電極4を差し入れる貫通する通路8を設け、この通路8内に、コンプレッサーエアー又は不活性ガスを供給することにより、非導電性樹脂チューブ5内にコンプレッサーエアー又は不活性ガスを流入させ、非導電性樹脂チューブ5の先端から、エアー又は不活性ガスを流出させるようにしてもよい。
【0028】
なお、この図6の実施例において、符号Bは、噴霧された粉体塗料を示し、Cは流動エアーを示している。
【0029】
次に、電極4を非導電性樹脂チューブ5で覆った図2に示すこの発明の静電粉体塗装ガン1と、電極4を非導電性樹脂チューブ5で覆っていない図7に示す従来の静電粉体塗装ガン1とで塗装実験を行い、塗装時間の経過により、被塗物の塗膜面に、どれ位の数のブツが発生するかを調査した。その結果を表1に示した。表2は、塗着効率の時間的変化を示している。非導電性樹脂チューブ5としては、テフロン製のものを使用した。
なお、表1において、ブツの数とは、各時間内での合計個数である。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
表1に示す通り、電極4を非導電性樹脂チューブ5で覆った図2に示すこの発明の静電粉体塗装ガン1の場合、電極4を非導電性樹脂チューブ5で覆っていない図7に示す従来の静電粉体塗装ガン1よりも圧倒的にブツの発生が少なかった。また、表2に示す通り、電極4を非導電性樹脂チューブ5で覆った図2に示すこの発明の静電粉体塗装ガン1の場合の方が、電極4を非導電性樹脂チューブ5で覆っていない図7に示す従来の静電粉体塗装ガン1よりも塗着効率の時間的変化が少なく、長時間に亘り高い塗着効率を維持できた。
【0033】
なお、表1、表2の実験は、吐出量70g/minの塗装ガンを2ガン使用し、レシプロケータによって往復動させながら、高さ1000mm、幅500mmの金属製の平板形状の被塗物に対して粉体塗料を噴霧して行った。コンベアスピードは、1.0m/minで、ハンガー間隔は、600mmであった。
【0034】
また、非導電性樹脂チューブ5内にコンプレッサーエアーを流入させる図5に示すこの発明の静電粉体塗装ガン1を使用し、エアーを流入させた場合と、非導電性樹脂チューブ5内にコンプレッサーエアーを流入させない図4に示す場合とについて、アルミ顔料をドライブレンドした粉体塗料の塗装実験を行い、塗装時間の経過により、塗着効率がどのように変化するかを調査した。その結果は、表3の通りであり、エアーを流入させると、エアーを流入させない場合よりも、長時間に亘って塗着効率の減少を防止できるということが確認できた。また、非導電性樹脂チューブ5で電極4を覆っていない従来例の場合は、約30分で、メタリック顔料がノズル3の吐出口を閉鎖する程に付着した。その他の塗装条件は、表1、表2の実験と同じである。
【0035】
【表3】

【0036】
なお、表3において、閉鎖とは、ガン先のノズルの吐出口が、電極に付着したアルミ顔料によって閉鎖された状態になったことをいい、異常とは、電極先端部にアルミ顔料が付着して過電流異常の状態を示したことをいう。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】この発明に係る静電粉体塗装ガン1の斜視図である。
【図2】図1のガン先部分の断面図である。
【図3】図1のガン先部分の正面図である。
【図4】図1のガン先の電極部分の断面図である。
【図5】この発明に係る静電粉体塗装ガン1の他の実施形態のガン先の電極部分の断面図である。
【図6】この発明に係る静電粉体塗装装置の他の形態の概略構成図である。
【図7】従来例の静電粉体塗装ガンのガン先部分の断面図である。
【図8】図7の正面図である。
【符号の説明】
【0038】
1 静電粉体塗装ガン
2 ガン先
3 ノズル
4 電極
5 非導電性樹脂チューブ
6 貫通孔
7 ブース
8 通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉体塗料を吐出するスプレーガンのガン先に、高電圧を印加する電極を設け、この電極により粉体塗料を帯電させるコロナ帯電式塗装装置において、上記ガン先に露出する電極を屈曲可能な非導電性樹脂チューブによって覆い、非導電性樹脂チューブを屈曲させてガン先の電極位置を調整可能としたことを特徴とするコロナ帯電式塗装装置。
【請求項2】
ブース内に粉体塗料を噴霧させ、ブース内に設置した高電圧を印加する電極により粉体塗料を帯電させるコロナ帯電式塗装装置において、上記ブース内に露出する電極を屈曲可能な非導電性樹脂チューブによって覆い、非導電性樹脂チューブを屈曲させてブース内の電極位置を調整可能としたことを特徴とするコロナ帯電式塗装装置。
【請求項3】
上記非導電性樹脂チューブと電極間の隙間に、エアーを流入させる請求項1又は2記載のコロナ帯電式塗装装置。
【請求項4】
上記非導電性樹脂チューブと電極間の隙間に、不活性ガスを流入させる請求項1又は2記載のコロナ帯電式塗装装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−247930(P2009−247930A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−95273(P2008−95273)
【出願日】平成20年4月1日(2008.4.1)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000117009)旭サナック株式会社 (194)
【Fターム(参考)】