コンクリート壁架構、該コンクリート壁架構を有する建物、及びコンクリート壁架構の設計方法
【課題】コンクリート壁架構の変形性能を向上させることを目的とする。
【解決手段】コンクリート壁10は、対向するコンクリート製の柱14と、これらの柱14の間に架設される上下のコンクリート製の梁16とを有する架構12に接合されている。このコンクリート壁10には、コンクリート柱との間に袖壁10Bを残すように開口部18、20が形成されている。また、袖壁10Bに隣接する柱14のせん断補強筋比は0.6以上とされ、かつ、袖壁10Bの袖壁幅をLs、柱14の柱成をDcとすると、Ls/Dc≦1.3とされている。
【解決手段】コンクリート壁10は、対向するコンクリート製の柱14と、これらの柱14の間に架設される上下のコンクリート製の梁16とを有する架構12に接合されている。このコンクリート壁10には、コンクリート柱との間に袖壁10Bを残すように開口部18、20が形成されている。また、袖壁10Bに隣接する柱14のせん断補強筋比は0.6以上とされ、かつ、袖壁10Bの袖壁幅をLs、柱14の柱成をDcとすると、Ls/Dc≦1.3とされている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート壁架構、該コンクリート壁架構を有する建物、及びコンクリート壁架構の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造等の建物において、柱と梁から構成されたラーメン架構は高い変形性能を有することに対し、耐力壁は大きな水平力には抵抗するもののその変形性能は低いものとして知られている。具体的には、図25に示されるように、ラーメン架構は層間変形角RAで最大耐力QAに達した後、層間変形角RBまで所定の耐力を維持する一方で、耐力壁は層間変形角RCで最大耐力QCに達した後、急激に耐力が低下する。従って、鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造等で耐震壁を有する建物においては、大きな水平力に抵抗するとともに変形性能も同時に高め、耐震性能を効率的に向上させることが難しい。
【0003】
一方、変形性能を高めるために、柱と耐力壁の間にスリット(構造スリット)を設けることが一般に行われている(例えば、特許文献1)。しかしながら、スリットの施工には手間がかかる。また、スリットの周辺部には、ひび割れ等が発生し易くなるため耐久性が低下し、更に、スリットからの漏水等が問題になる恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−192576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の事実を考慮し、コンクリート壁架構の変形性能を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係るコンクリート壁架構は、対向するコンクリート柱と該コンクリート柱の間に架設された上下のコンクリート梁とを有する架構と、前記架構に接合されるコンクリート壁と、を備え、前記コンクリート柱との間に袖壁を残すように開口部が形成され、該袖壁に隣接する前記コンクリート柱のせん断補強筋比が0.6%以上であり、かつ、前記袖壁の袖壁幅をLs、該袖壁に隣接する前記コンクリート柱の柱成をDcとすると、Ls/Dc≦1.3である。
【0007】
請求項1に係る発明によれば、コンクリート壁には、コンクリート柱との間に袖壁を残すように開口部が形成されている。また、袖壁に隣接するコンクリート柱のせん断補強筋比は0.6以上とされ、かつ、袖壁の袖壁幅をLs、袖壁に隣接するコンクリート柱の柱成をDcとすると、Ls/Dc≦1.3とされている。
【0008】
ここで、コンクリート柱の柱成Dcに対する袖壁の袖壁幅Lsの比(以下、「壁張出比」を越えると、コンクリート壁架構が最大耐力に達したときに、コンクリート柱から袖壁にかけて脆性的なせん断破壊が生じ、耐力が急激に低下する恐れがある。これに対して本発明では、コンクリート柱のせん断補強筋比を0.6以上とし、かつ、壁張出比をLs/Dc≦1.3にしたことにより、コンクリート柱の脆性的なせん断破壊が抑制され、最大耐力に達した後も、所定の層間変形角まで耐力が維持される。従って、コンクリート壁の変形性能が向上する。これにより、コンクリート壁架構の変形性状がラーメン架構の変形性状に近づくため、架構が保有する耐力を有効に活用することができる。よって、効率的に耐震性能を向上することができる。
【0009】
請求項2に係るコンクリート壁は、請求項1に記載のコンクリート壁架構において、開口周比が、0.4より大きい。
【0010】
請求項2に係る発明によれば、コンクリート壁架構には、開口周比が0.4より大きい開口部が形成されている。ここで、従来の耐力壁では開口周比が0.4より大きくなると、袖壁付きコンクリート柱に対する応力集中が過大となり、袖壁付きコンクリート柱に脆性的なせん断破壊が生じる恐れがある。
【0011】
これに対して本発明では、コンクリート柱のせん断補強筋比を0.6以上とし、かつ、壁張出比をLs/Dc≦1.3にしたことにより、袖壁付きコンクリート柱の脆性的なせん断破壊が抑制される。従って、コンクリート壁架構の変形性能を確保しつつ、開口周比が0.4を超える大きな開口部をコンクリート壁に形成することができる。これにより、設備配線、配管や出入り口等の用途に応じた開口部が設けることができるため、コンクリート壁架構の設計自由度が向上する。また、大きな開口部を形成することにより、採光性、通風性等を向上させることができる。
【0012】
請求項3に係るコンクリート壁架構は、請求項1又は請求項2に記載のコンクリート壁架構において、前記コンクリート柱の柱幅をB、前記袖壁の壁厚をtとすると、t/B≦0.45である。
【0013】
請求項3に係る発明によれば、コンクリート柱の柱幅Bに対する袖壁の壁厚tの比(以下、「柱幅袖壁厚比」という)が、t/B≦0.45とされている。ここで、柱幅袖壁厚比t/Bが0.45を越える構成では、コンクリート柱に対する袖壁の拘束力が過大となり、コンクリート柱に脆性的な破壊が生じる恐れがある。これに対して本発明では、柱幅袖壁厚比をt/B≦0.45にすることにより、コンクリート柱に対する袖壁の拘束力が低減され、袖壁付きコンクリート柱の脆性的な破壊が抑制される。また、コンクリート柱に対する補強を低減することができるため、コスト削減を図ることができる。
【0014】
請求項4に係る建物は、請求項1〜3の何れか1項に記載のコンクリート壁架構を有している。
【0015】
請求項4に係る発明によれば、請求項1〜3の何れか1項に記載のコンクリート壁架構を有することにより、コンクリート壁架構の変形性能を向上することができ、建物の耐震性能を効率的に向上することができる。
【0016】
請求項5に係るコンクリート壁架構の設計方法は、対向するコンクリート柱と該コンクリート柱の間に架設された上下のコンクリート梁とを有する架構に接合されるコンクリート壁に、前記コンクリート柱との間に袖壁を残すように開口部を形成すると共に、該袖壁に隣接する前記コンクリート柱のせん断補強筋比を0.6%以上にし、かつ、前記袖壁の袖壁幅をLs、該袖壁に隣接する前記コンクリート柱の柱成をDcとすると、Ls/Dc≦1.3にする。
【0017】
請求項5に係る発明によれば、コンクリート柱のせん断補強筋比を0.6以上とし、かつ、壁張出比をLs/Dc≦1.3にしたことにより、コンクリート柱の脆性的なせん断破壊が抑制され、最大耐力に達した後も、所定の層間変形角まで耐力が維持される。従って、コンクリート壁架構の変形性能が向上し、効率的に耐震性能を向上することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、上記の構成としたので、コンクリート壁架構の変形性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】(A)は本発明の一実施形態に係るコンクリート壁架構を示す正面図であり、(B)は図1(A)の1−1線断面図である。
【図2】本発明の載荷実験に係る試験体を示す正面図、横断面図、縦断面図である。
【図3】本発明の載荷実験に係る試験体を示す正面図、横断面図、縦断面図である。
【図4】本発明の載荷実験に係る試験体を示す正面図、横断面図、縦断面図である。
【図5】本発明の載荷実験に係る試験体を示す配筋図である。
【図6】(A)は本発明の載荷実験に係る試験体の開口部の寸法等であり、(B)は本発明の載荷実験に係る試験体の緒元である。
【図7】(A)は本発明の載荷実験に係る試験体に用いたコンクリートの材料特性であり、(B)は本発明の載荷実験に係る試験体に用いた鉄筋の材料特性である。
【図8】(A)は本発明の載荷実験で用いた載荷装置を示す模式図である。
【図9】(A)〜(C)は、本発明の載荷実験に係る試験体の変形特性を示すグラフである。
【図10】本発明の載荷実験に係る試験体の変形特性を示すグラフである。
【図11】本発明の載荷実験に係る試験体を示す配筋図である。
【図12】本発明の載荷実験に係る試験体の緒元である。
【図13】(A)は本発明の載荷実験に係る試験体に用いたコンクリートの材料特性であり、(B)は本発明の載荷実験に係る試験体に用いた鉄筋の材料特性である。
【図14】(A)及び(B)は、本発明の載荷実験に係る試験体の変形特性を示すグラフである。
【図15】本発明の載荷実験に係る試験体の変形特性を示すグラフである。
【図16】(A)及び(B)は、本発明の載荷実験に係る試験体の破壊状態を示す模式図である。
【図17】本発明の載荷実験に係る試験体を示す正面図である。
【図18】本発明の載荷実験に係る試験体を示す正面図である。
【図19】本発明の載荷実験に係る試験体を示す正面図である。
【図20】本発明の載荷実験に係る試験体を示す配筋図である。
【図21】本発明の載荷実験に係る試験体の緒元である。
【図22】(A)は本発明の載荷実験に係る試験体に用いたコンクリートの材料特性であり、(B)は本発明の載荷実験に係る試験体に用いた鉄筋の材料特性である。
【図23】(A)〜(C)は、本発明の載荷実験に係る試験体の変形特性を示すグラフである。
【図24】(A)〜(C)は、本発明の載荷実験に係る試験体の破壊状態を示す模式図である。
【図25】従来のラーメン架構と耐力壁の変形特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係るコンクリート壁架構11について説明する。
【0021】
先ず、コンクリート壁架構11の構成について説明する。
【0022】
図1(A)及び図1(B)には、コンクリート壁架構11が示されている。コンクリート壁架構11は、架構12と、架構12に接合されるコンクリート壁10を備えている。架構12は、対向するコンクリート製の柱(コンクリート柱)14と、これらの柱14の間に架設された上下のコンクリート製の梁(コンクリート梁)16を備えたラーメン構造とされている。これらの柱14及び梁16は、鉄筋コンクリート製、鉄骨鉄筋コンクリート製、繊維補強コンクリート製、プレストレスコンクリート製でも良い。更に、梁16は無筋コンクリート製でも良い。また、柱14及び梁16の施工方法は特に限定されず、現場打ち工法やプレキャスト工法等の種々の工法で施工することができる。
【0023】
また、図示を省略するが、柱14には柱主筋及びせん断補強筋が埋設されており、下記式(1)で求められるせん断補強筋比Pwが、0.6%以上になるようにせん断補強筋の鉄筋量が設定されている。これにより、柱14のせん断耐力が大きくなっている。なお、せん断補強筋比の上限値は特に制限されるものではないが、一般に、せん断補強筋の補強効果は、せん断補強筋比が1.5%程度で最大となるため、それ以上せん断補強筋量を増やす必要がない。また、柱14の柱主筋は、軸力を負担可能な最低鉄筋量があれば良く、具体的には、軸鉄筋比が0.8%以上あれば良い。
【0024】
【数1】
ただし、
At:せん断補強筋の断面積
B :柱の幅
s :せん断補強筋の配筋ピッチ(材軸方向)
である。
【0025】
コンクリート壁10は、鉄筋コンクリート製で架構12内に一体的に設けられ、柱14及び梁16に接合されている。コンクリート壁10と柱14及び梁16とは隙間なく接合されており、コンクリート壁10と柱14及び梁16と間にスリット等が存在していない。
【0026】
また、コンクリート壁10には、2つの開口部18、20が形成されている。これらの開口部18、20は、水平方向に間隔を空けて形成されており、開口部18、20の間に方立て壁10Aが設けられている。また、開口部18、20は、柱14及び梁16から離れた位置に形成されており、柱14との間に袖壁10Bが設けられ、梁16との間に垂れ壁10C、腰壁10Dがそれぞれ設けられている。これらの開口部18、20は、下記式(2)で求められる開口周比r0が0.4を越えるように形成されている(r0>0.4)。なお、本実施形態における開口周比r0は、2つの開口部18、20の開口面積を累計(開口部18の開口部の長さL0+開口部20の開口部長さL0)して算出している。
【0027】
【数2】
ただし、
L0:開口部の長さ
H0:開口部の高さ
L :柱の中心間距離
H :梁の中心間距離
である。
【0028】
また、各開口部18、20は、柱14の柱成Dcに対する袖壁10Bの袖壁幅Lsの比(以下、「壁張出比」という)が、Ls/Dc≦1.3となるように袖壁10Bを残して形成されている。これにより、柱14に対する袖壁10Bの拘束力が低減されている。
【0029】
なお、柱14の柱幅Bに対する壁厚tの比(以下、「柱幅袖壁厚比」という)は、t/B≦0.45であることが望ましい。柱幅袖壁厚比t/Bが0.45を超えると、柱14に対する袖壁10Bの拘束力が過大となり、柱14に対するせん断補強が増加するためである。また、柱幅袖壁厚比t/Bの下限値は特に制限されるものではないが、柱幅袖壁厚比t/Bが1/6よりも小さくなると、袖壁10Bに脆性的な破壊が生じ易くなる。従って、柱幅袖壁厚比は、1/6≦t/Bであることが望ましい。
【0030】
次に、一実施形態に係るコンクリート壁10の作用について説明する。
【0031】
一般に、開口部を有する耐力壁において、開口周比r0が大きくなると、開口部の形状によっては柱に脆性的な破壊が発生する恐れがある。特に、開口周比r0が0.4を越える耐力壁は、構造計算上、耐力壁として評価できず、一般に柱と袖壁の間にスリットを設けるなどの対策が講じられるため、その変形性状が明らかにされていない。そこで、本実施形態では、柱14に脆性的な破壊を発生させる開口部18、20の形状に関し、特に、柱14の柱成Dcと袖壁10Bの袖壁幅Lsとの関係に着目し、これらの柱成Dc及び袖壁幅Lsが、コンクリート壁架構11の変形性能に与える影響を後述する実験により検証した。これにより、変形性能が向上されたコンクリート壁10を実現している。
【0032】
即ち、本実施形態に係るコンクリート壁10には、袖壁10Bを残して開口部18、20が形成されており、その壁張出比がLs/Dc≦1.3とされている。ここで、壁張出比Ls/Dcが1.3を越える(柱成Dcに対して袖壁幅Lsが長くなる)と、柱14に対する袖壁10Bの拘束力が過大となり、コンクリート壁架構11が最大耐力に達したときに、柱14から袖壁10Bにかけて脆性的なせん断破壊が生じ、耐力が急激に低下する恐れがある。
【0033】
これに対して本実施形態では、柱14のせん断補強筋比を0.6以上とし、かつ、壁張出比をLs/Dc≦1.3としたことにより、即ち、柱14のせん断耐力を増加すると共に、柱14に対する袖壁10Bの拘束力を低減したことにより、袖壁10Bと柱14の脆性的なせん断破壊が抑制される。この結果、コンクリート壁架構11は最大耐力後も急激な耐力低下が起こることがない。また、本実施形態では、従来のように柱14と袖壁10Bの間にスリットを設けないため、袖壁10Bを耐力として評価することができる。従って、抵抗できる水平耐力を増加するとともに変形性能の向上も図ることができ、効率的に耐震性能を向上することができる。
【0034】
また、柱14のせん断補強筋比を0.6以上とし、かつ、壁張出比をLs/Dc≦1.3とすることにより、コンクリート壁架構11の変形性能を確保しつつ、コンクリート壁10に開口周比r0が0.4を超える大きな開口部18、20を形成することができる。従って、設備配線、配管や出入り口用の開口部18、20を設け易くるため、設計自由度が向上する。また、大きな開口部18、20を形成することにより、採光性、通風性等を向上させることができる。
【0035】
更に、柱幅袖壁厚比t/Bが0.45を越える場合、柱14を拘束する袖壁10Bの拘束力が過大となり、柱14に対するせん断補強が増加する恐れがある。これに対して本実施形態では、柱幅袖壁厚比をt/B≦0.45としたことにより、袖壁10Bの脆性的な破壊が抑制される。また、柱14に対する袖壁10Bの拘束力が低減されるため、柱14に対するせん断補強を低減することができる。従って、コスト削減を図ることができる。
【0036】
なお、本実施形態では、開口周比r0が0.4を越えるように、開口部18、20をコンクリート壁10に形成したが、開口周比r0は0.4以下でも良い。また、本実施形態では、コンクリート壁10に方立て壁10A、袖壁10B、垂れ壁10C、及び腰壁10Dを設けたが、少なくとも袖壁10Bを設ければ良く、方立て壁10A、垂れ壁10C、及び腰壁10Dは適宜省略可能である。
【0037】
次に、載荷実験について説明する。
【0038】
本載荷実験では、3つケース1〜3について載荷実験を行った。以下、ケース1〜3について詳説する。なお、試験方法は全て同じであるため、ケース1についてのみ説明し、ケース2、3については説明を省略する。
【0039】
<ケース1>
ケース1では、開口周比をパラメータとして付与し、開口周比がコンクリート壁の耐力、剛性、変形性能に与える影響を検証した。
【0040】
(試験体)
図2〜4には、各試験体T1、T2、T3(約1/2モデル)の形状、寸法が示されており、図5には、試験体T2の配筋図が示されている。また、図6(A)及び図6(B)には、各試験体T1、T2、T3の開口及び緒元が示されており、図7(A)及び図7(B)には、各試験体T1、T2、T3に用いたコンクリートの材料特性、鉄筋の材料特性がそれぞれ示されている。
【0041】
各試験体T1、T2、T3は、対向する一対の柱34と、これらの柱34に架設された上下の加力梁36A及びスタブ36Bとで構成された架構32内にコンクリート壁30を一体的に設けて構成されている。各試験体T1、T2、T3は、せん断耐力よりもが曲げ耐力大きいせん断破壊先行型として設計されている。
【0042】
試験体T1は無開口とされており、耐力、剛性、変形性能の評価基準となっている。試験体T2には、開口周比r0が0.5となるように2つの開口部38、40が形成されており、試験体T3には、開口周比r0が0.6となるように1つの開口部42が形成されている。また、各試験体T1、T2、T3の柱34のせん断補強筋比はpw=0.32%であり、柱34のせん断補強筋44の強度はpwσy=0.9N/mm2(=pw×σy、σy:295N/mm2)である。更に、試験体T2、T3における柱34の柱幅B(図1(B)参照)に対する袖壁30Bの壁厚tの比は、t/B=0.36である。
【0043】
なお、試験体T2では、2つの開口部38、40の開口面積を累計して開口周比r0を算出している。また、試験体T2、T3における符号30A、30B、30Dは、方立て壁、袖壁、腰壁である。更に、試験体T3は、試験体T2から方立て壁30Aを取り除いたものに相当し、方立て壁30Aが耐力、剛性、変形性能(靭性)に与える影響についても検証した。
【0044】
(試験方法)
図8に示される載荷装置60において、PC鋼棒62で反力床64に固定された各試験体T1、T2、T3に、反力フレーム66に取り付けられた鉛直方向加力用ジャッキ72(1000kN)で軸力比0.15に相当する一定軸力(鉛直荷重)を載荷しながら、反力壁68と反力トラス70に取り付けられた2台の水平方向加力用ジャッキ74(2000kN)で水平荷重(矢印A方向)を繰り返し載荷した。載荷サイクルは、正負交番静的漸増載荷で、試験体T1、T2、T3ごとに異なる初期水平荷重(試験体T1:200kN、試験体T2:50kN、試験体T3:70kN)を2回ずつ繰り返し載荷した後、各試験体T1、T2、T3に共通で、層間変形角±0.5/1000、±1/1000、±2/1000、±4/1000、±6/1000、±8/1000radの水平荷重を2回ずつ繰り返し載荷した。なお、図8には、試験体T1が示されている。
【0045】
(実験結果)
図9(A)〜図9(C)には、各試験体T1、T2、T3の変形特性が示されている。図9(A)〜図9(C)から分かるように、試験体T1では、層間変形角約6/1000radで最大耐力(1922kN)に達した後、層間変形角約8/1000radで急激に耐力が低下した。試験体T2では、層間変形角約4/1000radで最大耐力(981kN)に達した後、層間変形角約6/1000radで耐力が大きく低下した。試験体T3では、層間変形角約4/1000radで最大耐力(827kN)に達した後、層間変形角約6/1000radで耐力が大きく低下した。
【0046】
ここで、試験体T2、T3の耐力Q、剛性Kについては、開口低減率(図6(A)参照)を考慮すると、耐力壁として評価し得る所定の性能(安全率1.4)が得られた。なお、試験体T2、T3のせん断耐力Q、せん断剛性Kは、下記式(3)、式(4)から求められる。一方、変形性能については、試験体T1では、最大耐力の80%の耐力を維持する層間変形角(以下、「限界変形角」という)が約8/1000ardであるに対し、試験体T2、T3では、それぞれ限界変形角が約6/1000radとなり、試験体T2、T3の変形性能(靭性)が試験体T1よりも劣る結果となった。
【0047】
【数3】
ただし、
Q :開口部が形成されたコンクリート壁架構のせん断耐力
Q0:無開口のコンクリート壁架構のせん断耐力
K :開口部が形成されたコンクリート壁架構のせん断剛性
K0:無開口のコンクリート壁架構のせん断剛性
r :開口低減率
である。
【0048】
また、柱34及び袖壁30Bに大きなひび割れが発生したときに、試験体T2、T3の耐力が大きく低下した。このことから、試験体T2、T3の変形性能は、方立て壁30Aではなく柱34及び袖壁30Bに依存していることが分かる。方立て壁30Aの変形性状が、図25に示すラーメン架構よりも耐力壁の変形性状に近く、主に初期変形(低層間変形角)において耐力を発揮するためである。これは、図10に示されるように、試験体T2が、層間変形角約4/1000radで最大耐力に達していることもから理解できる。なお、図10に示す試験体T2と試験体T3の耐力の差分が、試験体T2における方立て壁10Aの変形特性に相当する。
【0049】
<ケース2>
ケース2では、試験体T1よりも変形性能が劣った開口周比r0=0.5の試験体T2に対して柱34のせん断補強筋44を増加させるとともに方立て壁30Aの幅止め筋46を追加し、更に、柱34のせん断補強筋44の強度をパラメータとして付与して、柱34のせん断補強筋比がコンクリート壁の耐力、剛性、変形性能に与える影響を検証した。
【0050】
(試験体)
図11には、各試験体T4、T5の配筋図が示されており、図12には、試験体T4、T5の緒元が示されている。また、図13(A)及び図13(B)には、各試験体T4、T5に用いたコンクリートの材料特性、鉄筋の材料特性がそれぞれ示されている。各試験体T4、T5は、試験体T2に対して柱34のせん断補強筋44を増加させるとともに方立て壁30Aの幅止め筋46を追加したものであり、柱34のせん断補強筋比がpw=0.84%に増加されている。試験体T4、T5の相違点はせん断補強筋44の強度であり、試験体T4ではpwσy=2.5N/mm2(=pw×σy、σy:295N/mm2)、試験体T5ではpwσy=6.6N/mm2(=pw×σy、σy:785N/mm2)とされている。
なお、各試験体T4、T5の開口周比r0、柱幅袖壁厚比t/Bは、試験体T2と同じr0=0.5、t/B=0.36である。
【0051】
(実験結果)
図14(A)及び図14(B)には、各試験体T4、T5の変形特性が示されており、図15には、ケース1における試験体T1、T2、及び本ケースにおける試験体T4、T5の変形特性が示されている。
【0052】
図14(A)及び図14(B)から分かるように、試験体T4、T5は共に、層間変形角約6/1000radで最大耐力(試験体T4:1031kN、試験体T5:1004kN)に達した後、層間変形角約10/1000rad以上においても最大耐力の80%の耐力を維持した。
【0053】
ここで、ケース1における試験体T2と本ケースにおける試験体T4、T5の変形性能を比較すると、図15から分かるように、試験体T2では、限界変形角が約6/1000radであるのに対し、試験体T4、T5では限界変形角が約10/1000rad以上となり、変形性能が試験体T2よりも向上した。
【0054】
また、試験体T2では、先ず、柱の鉄筋に関しては柱34のせん断補強筋44がせん断降伏したのに対し、試験体T4、T5では、先ず、袖壁30Bの縦筋が曲げ降伏した。このことから、せん断破壊先行型として設計された試験体T4、T5が、実際には曲げ破壊先行型の破壊性状に近づいたことが分かる。
【0055】
更に、図16(A)及び図16(B)には、評価基準である試験体T1の限界変形角(約8/1000rad)における試験体T2及び試験体T4の破壊状態で示されている。試験体T2では、図16(A)の丸で示すように、柱34から袖壁30Bにかけて大きなひび割れが発生して耐力が大きく低下したのに対し、試験体T4では、図16(B)の丸で示すように、袖壁30Bの脚部に僅かな圧壊が発生したものの、柱34には脆性的な破壊が発生せず、試験体T2よりも耐力の低下幅が小さくなった。このことから、柱34に対して追加したせん断補強筋44が有効に働いたことが分かる。
なお、前述したように、方立て壁30Aは、試験体T4、T5の変形性能に影響を与えないため、方立て壁30Aに追加した幅止め筋46(図11参照)も試験体T4、T5の変形性能に影響を与えないものと考えられる。
【0056】
<ケース3>
ケース3では、開口周比r0=0.5の試験体T2に対し、柱34のせん断補強筋44と方立て壁30Aの幅止め筋46を追加し、更に、袖壁30Bの袖壁幅Lsをパラメータとして付与して、袖壁幅Ls(図1(A)参照)がコンクリート壁30の耐力、剛性、変形性能に与える影響を検証した。
【0057】
(試験体)
図17〜図19には、各試験体T6、T7、T8が示されており、図20には、試験体T6の配筋図が示されている。また、図21には、各試験体T6、T7、T8の緒元が示されており、図22(A)及び図22(B)には、各試験体T6、T7、T8に用いたコンクリートの材料特性、鉄筋の材料特性がそれぞれ示されている。各試験体T6、T7、T8は、対向する一対の柱84と上下の加力梁86A、スタブ86Bで構成された架構82内にコンクリート壁80を一体的に設けて構成されている。また、各試験体T6、T7、T8は、せん断耐力よりも曲げ耐力が大きいせん断破壊先行型として設計されている。
【0058】
試験体T6、T7には2つの開口部88、90が形成されており、試験体T8には1つの開口部92が形成されている。各試験体T6、T7、T8の柱84の柱成Dc(図1(A)参照)に対する袖壁80Bの袖壁幅Lsの比(壁張出比)は、Ls/Dc=0.55、Ls/Dc=1.29、Ls/Dc=3.46とされている。なお、試験体T8の袖壁幅Lsは、図19におけるコンクリート壁80の右側の袖壁80Bの値である。
【0059】
また、各試験体T6、T7、T8の開口周比r0、柱幅袖壁厚比t/Bは、試験体T2と同じr0=0.5、t/B=0.36であるが、柱84のせん断補強筋比、柱84間スパンはpw=0.60%、3500mにそれぞれ増加されている。
【0060】
(実験結果)
図23(A)〜図23(C)には、各試験体T6、T7、T8の変形特性が示されている。図23(A)から分かるように、試験体T6は、層間変形角約6/1000radで最大耐力(1090kN)に達した後、層間変形角約10/1000radまで最大耐力の80%を維持した。試験体T7は、図23(B)から分かるように、層間変形角約6/1000radで最大耐力(1137kN)に達した後、層間変形角約8/1000radまで最大耐力の80%を維持した。試験体T8は、図23(C)から分かるように、試験体T8の右側から左側への載荷サイクルにおいて(図23(C)のマイナス荷重に対応)、層間変形角約4/1000で最大耐力に達した後、層間変形角約6/1000radまで最大耐力の80%を維持した。
【0061】
また、図24(A)〜図24(C)には、評価基準である試験体T1の限界変形角(約8/1000rad)における試験体T6、T7、T8の破壊状態が示されている。試験体T6、T7では、図24(A)及び図24(B)の丸で示すように、袖壁80Bの脚部に僅かな圧壊が発生したものの、柱84には破壊が発生せず、試験体T2よりも耐力の低下幅が小さくなった。一方、試験体T8では、図24(C)の丸で示すように、柱84から袖壁80Bにかけて大きなひび割れが発生して耐力が大きく低下した。
【0062】
ここで、試験体T6、T7、T8の耐力、剛性については、開口低減率を考慮すると、耐力壁として評価し得る所定の性能が得られた。また、試験体T6、T7では限界変形角がそれぞれ6/1000rad、8/1000radとなり、変形性能が試験体T2よりも向上した。一方、壁張出比Ls/Dcが1.29を超える試験体T8では、限界変形角が約6/1000radとなり、変形性能が評価基準となる試験体T1よりも劣る結果となった。このことから、各試験体T6、T7、T8の変形性能が、壁張出比Ls/Dcに依存していることが分かる。また、成袖壁幅比Ls/Dcは、変形性能を確保可能なLs/Dc≦1.3(≒1.29)であることが望ましいことが分かる。
【0063】
一方、壁張出比Ls/Dcを小さくすることは靭性確保という点では好ましいが、壁張出比Ls/Dcが0.5よりも小さくなると、柱84の柱成Dcに対する袖壁40Bの袖壁幅Lsが過小になり、袖壁80Bが耐力、剛性を発揮できなくなる恐れがある。従って、壁張出比はLs/Dc≧0.5(≒0.55)であることが望ましい。
【0064】
以上の実験結果から分かるように、上記実施形態に係るコンクリート壁架構11によれば、柱14のせん断補強筋比を0.6%以上とし、かつ、壁張出比Ls/Dcを1.3(≒1.29)以下とすることにより、最大耐力に達した後、層間変形角約8/1000radまで所定の耐力を維持することができ、更に、壁張出比Ls/Dcを0.5(≒0.55)以上とすることにより、最大耐力に達した後、層間変形角約10/1000radまで所定の耐力を維持することができる。
【0065】
なお、開口部の形状に関する指標としてはH0/H(図1(A)参照)もあるが、この指標は0.32≦H0/H≦0.5であることが望ましい。H0/Hが0.5を越えると、開口部18、20の直上又は直下の梁16部分に対する応力集中が過大となり、当該梁16部分で耐力が決定される恐れがあるためである。即ち、H0/Hの上限値である0.5は、コンクリート壁10の水平耐力を確保するための制限値である。一方、H0/Hが0.32より小さくなると、柱14に対する拘束力が過大となり、柱14の靭性を確保することが困難となる恐れがある。従って、H0/Hは0.32以上であることが望ましい。
【0066】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0067】
10 コンクリート壁
10B 袖壁
11 コンクリート壁架構
12 架構
14 柱(コンクリート柱)
16 梁(コンクリート梁)
18 開口部
20 開口部
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート壁架構、該コンクリート壁架構を有する建物、及びコンクリート壁架構の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造等の建物において、柱と梁から構成されたラーメン架構は高い変形性能を有することに対し、耐力壁は大きな水平力には抵抗するもののその変形性能は低いものとして知られている。具体的には、図25に示されるように、ラーメン架構は層間変形角RAで最大耐力QAに達した後、層間変形角RBまで所定の耐力を維持する一方で、耐力壁は層間変形角RCで最大耐力QCに達した後、急激に耐力が低下する。従って、鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造等で耐震壁を有する建物においては、大きな水平力に抵抗するとともに変形性能も同時に高め、耐震性能を効率的に向上させることが難しい。
【0003】
一方、変形性能を高めるために、柱と耐力壁の間にスリット(構造スリット)を設けることが一般に行われている(例えば、特許文献1)。しかしながら、スリットの施工には手間がかかる。また、スリットの周辺部には、ひび割れ等が発生し易くなるため耐久性が低下し、更に、スリットからの漏水等が問題になる恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−192576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の事実を考慮し、コンクリート壁架構の変形性能を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係るコンクリート壁架構は、対向するコンクリート柱と該コンクリート柱の間に架設された上下のコンクリート梁とを有する架構と、前記架構に接合されるコンクリート壁と、を備え、前記コンクリート柱との間に袖壁を残すように開口部が形成され、該袖壁に隣接する前記コンクリート柱のせん断補強筋比が0.6%以上であり、かつ、前記袖壁の袖壁幅をLs、該袖壁に隣接する前記コンクリート柱の柱成をDcとすると、Ls/Dc≦1.3である。
【0007】
請求項1に係る発明によれば、コンクリート壁には、コンクリート柱との間に袖壁を残すように開口部が形成されている。また、袖壁に隣接するコンクリート柱のせん断補強筋比は0.6以上とされ、かつ、袖壁の袖壁幅をLs、袖壁に隣接するコンクリート柱の柱成をDcとすると、Ls/Dc≦1.3とされている。
【0008】
ここで、コンクリート柱の柱成Dcに対する袖壁の袖壁幅Lsの比(以下、「壁張出比」を越えると、コンクリート壁架構が最大耐力に達したときに、コンクリート柱から袖壁にかけて脆性的なせん断破壊が生じ、耐力が急激に低下する恐れがある。これに対して本発明では、コンクリート柱のせん断補強筋比を0.6以上とし、かつ、壁張出比をLs/Dc≦1.3にしたことにより、コンクリート柱の脆性的なせん断破壊が抑制され、最大耐力に達した後も、所定の層間変形角まで耐力が維持される。従って、コンクリート壁の変形性能が向上する。これにより、コンクリート壁架構の変形性状がラーメン架構の変形性状に近づくため、架構が保有する耐力を有効に活用することができる。よって、効率的に耐震性能を向上することができる。
【0009】
請求項2に係るコンクリート壁は、請求項1に記載のコンクリート壁架構において、開口周比が、0.4より大きい。
【0010】
請求項2に係る発明によれば、コンクリート壁架構には、開口周比が0.4より大きい開口部が形成されている。ここで、従来の耐力壁では開口周比が0.4より大きくなると、袖壁付きコンクリート柱に対する応力集中が過大となり、袖壁付きコンクリート柱に脆性的なせん断破壊が生じる恐れがある。
【0011】
これに対して本発明では、コンクリート柱のせん断補強筋比を0.6以上とし、かつ、壁張出比をLs/Dc≦1.3にしたことにより、袖壁付きコンクリート柱の脆性的なせん断破壊が抑制される。従って、コンクリート壁架構の変形性能を確保しつつ、開口周比が0.4を超える大きな開口部をコンクリート壁に形成することができる。これにより、設備配線、配管や出入り口等の用途に応じた開口部が設けることができるため、コンクリート壁架構の設計自由度が向上する。また、大きな開口部を形成することにより、採光性、通風性等を向上させることができる。
【0012】
請求項3に係るコンクリート壁架構は、請求項1又は請求項2に記載のコンクリート壁架構において、前記コンクリート柱の柱幅をB、前記袖壁の壁厚をtとすると、t/B≦0.45である。
【0013】
請求項3に係る発明によれば、コンクリート柱の柱幅Bに対する袖壁の壁厚tの比(以下、「柱幅袖壁厚比」という)が、t/B≦0.45とされている。ここで、柱幅袖壁厚比t/Bが0.45を越える構成では、コンクリート柱に対する袖壁の拘束力が過大となり、コンクリート柱に脆性的な破壊が生じる恐れがある。これに対して本発明では、柱幅袖壁厚比をt/B≦0.45にすることにより、コンクリート柱に対する袖壁の拘束力が低減され、袖壁付きコンクリート柱の脆性的な破壊が抑制される。また、コンクリート柱に対する補強を低減することができるため、コスト削減を図ることができる。
【0014】
請求項4に係る建物は、請求項1〜3の何れか1項に記載のコンクリート壁架構を有している。
【0015】
請求項4に係る発明によれば、請求項1〜3の何れか1項に記載のコンクリート壁架構を有することにより、コンクリート壁架構の変形性能を向上することができ、建物の耐震性能を効率的に向上することができる。
【0016】
請求項5に係るコンクリート壁架構の設計方法は、対向するコンクリート柱と該コンクリート柱の間に架設された上下のコンクリート梁とを有する架構に接合されるコンクリート壁に、前記コンクリート柱との間に袖壁を残すように開口部を形成すると共に、該袖壁に隣接する前記コンクリート柱のせん断補強筋比を0.6%以上にし、かつ、前記袖壁の袖壁幅をLs、該袖壁に隣接する前記コンクリート柱の柱成をDcとすると、Ls/Dc≦1.3にする。
【0017】
請求項5に係る発明によれば、コンクリート柱のせん断補強筋比を0.6以上とし、かつ、壁張出比をLs/Dc≦1.3にしたことにより、コンクリート柱の脆性的なせん断破壊が抑制され、最大耐力に達した後も、所定の層間変形角まで耐力が維持される。従って、コンクリート壁架構の変形性能が向上し、効率的に耐震性能を向上することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、上記の構成としたので、コンクリート壁架構の変形性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】(A)は本発明の一実施形態に係るコンクリート壁架構を示す正面図であり、(B)は図1(A)の1−1線断面図である。
【図2】本発明の載荷実験に係る試験体を示す正面図、横断面図、縦断面図である。
【図3】本発明の載荷実験に係る試験体を示す正面図、横断面図、縦断面図である。
【図4】本発明の載荷実験に係る試験体を示す正面図、横断面図、縦断面図である。
【図5】本発明の載荷実験に係る試験体を示す配筋図である。
【図6】(A)は本発明の載荷実験に係る試験体の開口部の寸法等であり、(B)は本発明の載荷実験に係る試験体の緒元である。
【図7】(A)は本発明の載荷実験に係る試験体に用いたコンクリートの材料特性であり、(B)は本発明の載荷実験に係る試験体に用いた鉄筋の材料特性である。
【図8】(A)は本発明の載荷実験で用いた載荷装置を示す模式図である。
【図9】(A)〜(C)は、本発明の載荷実験に係る試験体の変形特性を示すグラフである。
【図10】本発明の載荷実験に係る試験体の変形特性を示すグラフである。
【図11】本発明の載荷実験に係る試験体を示す配筋図である。
【図12】本発明の載荷実験に係る試験体の緒元である。
【図13】(A)は本発明の載荷実験に係る試験体に用いたコンクリートの材料特性であり、(B)は本発明の載荷実験に係る試験体に用いた鉄筋の材料特性である。
【図14】(A)及び(B)は、本発明の載荷実験に係る試験体の変形特性を示すグラフである。
【図15】本発明の載荷実験に係る試験体の変形特性を示すグラフである。
【図16】(A)及び(B)は、本発明の載荷実験に係る試験体の破壊状態を示す模式図である。
【図17】本発明の載荷実験に係る試験体を示す正面図である。
【図18】本発明の載荷実験に係る試験体を示す正面図である。
【図19】本発明の載荷実験に係る試験体を示す正面図である。
【図20】本発明の載荷実験に係る試験体を示す配筋図である。
【図21】本発明の載荷実験に係る試験体の緒元である。
【図22】(A)は本発明の載荷実験に係る試験体に用いたコンクリートの材料特性であり、(B)は本発明の載荷実験に係る試験体に用いた鉄筋の材料特性である。
【図23】(A)〜(C)は、本発明の載荷実験に係る試験体の変形特性を示すグラフである。
【図24】(A)〜(C)は、本発明の載荷実験に係る試験体の破壊状態を示す模式図である。
【図25】従来のラーメン架構と耐力壁の変形特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係るコンクリート壁架構11について説明する。
【0021】
先ず、コンクリート壁架構11の構成について説明する。
【0022】
図1(A)及び図1(B)には、コンクリート壁架構11が示されている。コンクリート壁架構11は、架構12と、架構12に接合されるコンクリート壁10を備えている。架構12は、対向するコンクリート製の柱(コンクリート柱)14と、これらの柱14の間に架設された上下のコンクリート製の梁(コンクリート梁)16を備えたラーメン構造とされている。これらの柱14及び梁16は、鉄筋コンクリート製、鉄骨鉄筋コンクリート製、繊維補強コンクリート製、プレストレスコンクリート製でも良い。更に、梁16は無筋コンクリート製でも良い。また、柱14及び梁16の施工方法は特に限定されず、現場打ち工法やプレキャスト工法等の種々の工法で施工することができる。
【0023】
また、図示を省略するが、柱14には柱主筋及びせん断補強筋が埋設されており、下記式(1)で求められるせん断補強筋比Pwが、0.6%以上になるようにせん断補強筋の鉄筋量が設定されている。これにより、柱14のせん断耐力が大きくなっている。なお、せん断補強筋比の上限値は特に制限されるものではないが、一般に、せん断補強筋の補強効果は、せん断補強筋比が1.5%程度で最大となるため、それ以上せん断補強筋量を増やす必要がない。また、柱14の柱主筋は、軸力を負担可能な最低鉄筋量があれば良く、具体的には、軸鉄筋比が0.8%以上あれば良い。
【0024】
【数1】
ただし、
At:せん断補強筋の断面積
B :柱の幅
s :せん断補強筋の配筋ピッチ(材軸方向)
である。
【0025】
コンクリート壁10は、鉄筋コンクリート製で架構12内に一体的に設けられ、柱14及び梁16に接合されている。コンクリート壁10と柱14及び梁16とは隙間なく接合されており、コンクリート壁10と柱14及び梁16と間にスリット等が存在していない。
【0026】
また、コンクリート壁10には、2つの開口部18、20が形成されている。これらの開口部18、20は、水平方向に間隔を空けて形成されており、開口部18、20の間に方立て壁10Aが設けられている。また、開口部18、20は、柱14及び梁16から離れた位置に形成されており、柱14との間に袖壁10Bが設けられ、梁16との間に垂れ壁10C、腰壁10Dがそれぞれ設けられている。これらの開口部18、20は、下記式(2)で求められる開口周比r0が0.4を越えるように形成されている(r0>0.4)。なお、本実施形態における開口周比r0は、2つの開口部18、20の開口面積を累計(開口部18の開口部の長さL0+開口部20の開口部長さL0)して算出している。
【0027】
【数2】
ただし、
L0:開口部の長さ
H0:開口部の高さ
L :柱の中心間距離
H :梁の中心間距離
である。
【0028】
また、各開口部18、20は、柱14の柱成Dcに対する袖壁10Bの袖壁幅Lsの比(以下、「壁張出比」という)が、Ls/Dc≦1.3となるように袖壁10Bを残して形成されている。これにより、柱14に対する袖壁10Bの拘束力が低減されている。
【0029】
なお、柱14の柱幅Bに対する壁厚tの比(以下、「柱幅袖壁厚比」という)は、t/B≦0.45であることが望ましい。柱幅袖壁厚比t/Bが0.45を超えると、柱14に対する袖壁10Bの拘束力が過大となり、柱14に対するせん断補強が増加するためである。また、柱幅袖壁厚比t/Bの下限値は特に制限されるものではないが、柱幅袖壁厚比t/Bが1/6よりも小さくなると、袖壁10Bに脆性的な破壊が生じ易くなる。従って、柱幅袖壁厚比は、1/6≦t/Bであることが望ましい。
【0030】
次に、一実施形態に係るコンクリート壁10の作用について説明する。
【0031】
一般に、開口部を有する耐力壁において、開口周比r0が大きくなると、開口部の形状によっては柱に脆性的な破壊が発生する恐れがある。特に、開口周比r0が0.4を越える耐力壁は、構造計算上、耐力壁として評価できず、一般に柱と袖壁の間にスリットを設けるなどの対策が講じられるため、その変形性状が明らかにされていない。そこで、本実施形態では、柱14に脆性的な破壊を発生させる開口部18、20の形状に関し、特に、柱14の柱成Dcと袖壁10Bの袖壁幅Lsとの関係に着目し、これらの柱成Dc及び袖壁幅Lsが、コンクリート壁架構11の変形性能に与える影響を後述する実験により検証した。これにより、変形性能が向上されたコンクリート壁10を実現している。
【0032】
即ち、本実施形態に係るコンクリート壁10には、袖壁10Bを残して開口部18、20が形成されており、その壁張出比がLs/Dc≦1.3とされている。ここで、壁張出比Ls/Dcが1.3を越える(柱成Dcに対して袖壁幅Lsが長くなる)と、柱14に対する袖壁10Bの拘束力が過大となり、コンクリート壁架構11が最大耐力に達したときに、柱14から袖壁10Bにかけて脆性的なせん断破壊が生じ、耐力が急激に低下する恐れがある。
【0033】
これに対して本実施形態では、柱14のせん断補強筋比を0.6以上とし、かつ、壁張出比をLs/Dc≦1.3としたことにより、即ち、柱14のせん断耐力を増加すると共に、柱14に対する袖壁10Bの拘束力を低減したことにより、袖壁10Bと柱14の脆性的なせん断破壊が抑制される。この結果、コンクリート壁架構11は最大耐力後も急激な耐力低下が起こることがない。また、本実施形態では、従来のように柱14と袖壁10Bの間にスリットを設けないため、袖壁10Bを耐力として評価することができる。従って、抵抗できる水平耐力を増加するとともに変形性能の向上も図ることができ、効率的に耐震性能を向上することができる。
【0034】
また、柱14のせん断補強筋比を0.6以上とし、かつ、壁張出比をLs/Dc≦1.3とすることにより、コンクリート壁架構11の変形性能を確保しつつ、コンクリート壁10に開口周比r0が0.4を超える大きな開口部18、20を形成することができる。従って、設備配線、配管や出入り口用の開口部18、20を設け易くるため、設計自由度が向上する。また、大きな開口部18、20を形成することにより、採光性、通風性等を向上させることができる。
【0035】
更に、柱幅袖壁厚比t/Bが0.45を越える場合、柱14を拘束する袖壁10Bの拘束力が過大となり、柱14に対するせん断補強が増加する恐れがある。これに対して本実施形態では、柱幅袖壁厚比をt/B≦0.45としたことにより、袖壁10Bの脆性的な破壊が抑制される。また、柱14に対する袖壁10Bの拘束力が低減されるため、柱14に対するせん断補強を低減することができる。従って、コスト削減を図ることができる。
【0036】
なお、本実施形態では、開口周比r0が0.4を越えるように、開口部18、20をコンクリート壁10に形成したが、開口周比r0は0.4以下でも良い。また、本実施形態では、コンクリート壁10に方立て壁10A、袖壁10B、垂れ壁10C、及び腰壁10Dを設けたが、少なくとも袖壁10Bを設ければ良く、方立て壁10A、垂れ壁10C、及び腰壁10Dは適宜省略可能である。
【0037】
次に、載荷実験について説明する。
【0038】
本載荷実験では、3つケース1〜3について載荷実験を行った。以下、ケース1〜3について詳説する。なお、試験方法は全て同じであるため、ケース1についてのみ説明し、ケース2、3については説明を省略する。
【0039】
<ケース1>
ケース1では、開口周比をパラメータとして付与し、開口周比がコンクリート壁の耐力、剛性、変形性能に与える影響を検証した。
【0040】
(試験体)
図2〜4には、各試験体T1、T2、T3(約1/2モデル)の形状、寸法が示されており、図5には、試験体T2の配筋図が示されている。また、図6(A)及び図6(B)には、各試験体T1、T2、T3の開口及び緒元が示されており、図7(A)及び図7(B)には、各試験体T1、T2、T3に用いたコンクリートの材料特性、鉄筋の材料特性がそれぞれ示されている。
【0041】
各試験体T1、T2、T3は、対向する一対の柱34と、これらの柱34に架設された上下の加力梁36A及びスタブ36Bとで構成された架構32内にコンクリート壁30を一体的に設けて構成されている。各試験体T1、T2、T3は、せん断耐力よりもが曲げ耐力大きいせん断破壊先行型として設計されている。
【0042】
試験体T1は無開口とされており、耐力、剛性、変形性能の評価基準となっている。試験体T2には、開口周比r0が0.5となるように2つの開口部38、40が形成されており、試験体T3には、開口周比r0が0.6となるように1つの開口部42が形成されている。また、各試験体T1、T2、T3の柱34のせん断補強筋比はpw=0.32%であり、柱34のせん断補強筋44の強度はpwσy=0.9N/mm2(=pw×σy、σy:295N/mm2)である。更に、試験体T2、T3における柱34の柱幅B(図1(B)参照)に対する袖壁30Bの壁厚tの比は、t/B=0.36である。
【0043】
なお、試験体T2では、2つの開口部38、40の開口面積を累計して開口周比r0を算出している。また、試験体T2、T3における符号30A、30B、30Dは、方立て壁、袖壁、腰壁である。更に、試験体T3は、試験体T2から方立て壁30Aを取り除いたものに相当し、方立て壁30Aが耐力、剛性、変形性能(靭性)に与える影響についても検証した。
【0044】
(試験方法)
図8に示される載荷装置60において、PC鋼棒62で反力床64に固定された各試験体T1、T2、T3に、反力フレーム66に取り付けられた鉛直方向加力用ジャッキ72(1000kN)で軸力比0.15に相当する一定軸力(鉛直荷重)を載荷しながら、反力壁68と反力トラス70に取り付けられた2台の水平方向加力用ジャッキ74(2000kN)で水平荷重(矢印A方向)を繰り返し載荷した。載荷サイクルは、正負交番静的漸増載荷で、試験体T1、T2、T3ごとに異なる初期水平荷重(試験体T1:200kN、試験体T2:50kN、試験体T3:70kN)を2回ずつ繰り返し載荷した後、各試験体T1、T2、T3に共通で、層間変形角±0.5/1000、±1/1000、±2/1000、±4/1000、±6/1000、±8/1000radの水平荷重を2回ずつ繰り返し載荷した。なお、図8には、試験体T1が示されている。
【0045】
(実験結果)
図9(A)〜図9(C)には、各試験体T1、T2、T3の変形特性が示されている。図9(A)〜図9(C)から分かるように、試験体T1では、層間変形角約6/1000radで最大耐力(1922kN)に達した後、層間変形角約8/1000radで急激に耐力が低下した。試験体T2では、層間変形角約4/1000radで最大耐力(981kN)に達した後、層間変形角約6/1000radで耐力が大きく低下した。試験体T3では、層間変形角約4/1000radで最大耐力(827kN)に達した後、層間変形角約6/1000radで耐力が大きく低下した。
【0046】
ここで、試験体T2、T3の耐力Q、剛性Kについては、開口低減率(図6(A)参照)を考慮すると、耐力壁として評価し得る所定の性能(安全率1.4)が得られた。なお、試験体T2、T3のせん断耐力Q、せん断剛性Kは、下記式(3)、式(4)から求められる。一方、変形性能については、試験体T1では、最大耐力の80%の耐力を維持する層間変形角(以下、「限界変形角」という)が約8/1000ardであるに対し、試験体T2、T3では、それぞれ限界変形角が約6/1000radとなり、試験体T2、T3の変形性能(靭性)が試験体T1よりも劣る結果となった。
【0047】
【数3】
ただし、
Q :開口部が形成されたコンクリート壁架構のせん断耐力
Q0:無開口のコンクリート壁架構のせん断耐力
K :開口部が形成されたコンクリート壁架構のせん断剛性
K0:無開口のコンクリート壁架構のせん断剛性
r :開口低減率
である。
【0048】
また、柱34及び袖壁30Bに大きなひび割れが発生したときに、試験体T2、T3の耐力が大きく低下した。このことから、試験体T2、T3の変形性能は、方立て壁30Aではなく柱34及び袖壁30Bに依存していることが分かる。方立て壁30Aの変形性状が、図25に示すラーメン架構よりも耐力壁の変形性状に近く、主に初期変形(低層間変形角)において耐力を発揮するためである。これは、図10に示されるように、試験体T2が、層間変形角約4/1000radで最大耐力に達していることもから理解できる。なお、図10に示す試験体T2と試験体T3の耐力の差分が、試験体T2における方立て壁10Aの変形特性に相当する。
【0049】
<ケース2>
ケース2では、試験体T1よりも変形性能が劣った開口周比r0=0.5の試験体T2に対して柱34のせん断補強筋44を増加させるとともに方立て壁30Aの幅止め筋46を追加し、更に、柱34のせん断補強筋44の強度をパラメータとして付与して、柱34のせん断補強筋比がコンクリート壁の耐力、剛性、変形性能に与える影響を検証した。
【0050】
(試験体)
図11には、各試験体T4、T5の配筋図が示されており、図12には、試験体T4、T5の緒元が示されている。また、図13(A)及び図13(B)には、各試験体T4、T5に用いたコンクリートの材料特性、鉄筋の材料特性がそれぞれ示されている。各試験体T4、T5は、試験体T2に対して柱34のせん断補強筋44を増加させるとともに方立て壁30Aの幅止め筋46を追加したものであり、柱34のせん断補強筋比がpw=0.84%に増加されている。試験体T4、T5の相違点はせん断補強筋44の強度であり、試験体T4ではpwσy=2.5N/mm2(=pw×σy、σy:295N/mm2)、試験体T5ではpwσy=6.6N/mm2(=pw×σy、σy:785N/mm2)とされている。
なお、各試験体T4、T5の開口周比r0、柱幅袖壁厚比t/Bは、試験体T2と同じr0=0.5、t/B=0.36である。
【0051】
(実験結果)
図14(A)及び図14(B)には、各試験体T4、T5の変形特性が示されており、図15には、ケース1における試験体T1、T2、及び本ケースにおける試験体T4、T5の変形特性が示されている。
【0052】
図14(A)及び図14(B)から分かるように、試験体T4、T5は共に、層間変形角約6/1000radで最大耐力(試験体T4:1031kN、試験体T5:1004kN)に達した後、層間変形角約10/1000rad以上においても最大耐力の80%の耐力を維持した。
【0053】
ここで、ケース1における試験体T2と本ケースにおける試験体T4、T5の変形性能を比較すると、図15から分かるように、試験体T2では、限界変形角が約6/1000radであるのに対し、試験体T4、T5では限界変形角が約10/1000rad以上となり、変形性能が試験体T2よりも向上した。
【0054】
また、試験体T2では、先ず、柱の鉄筋に関しては柱34のせん断補強筋44がせん断降伏したのに対し、試験体T4、T5では、先ず、袖壁30Bの縦筋が曲げ降伏した。このことから、せん断破壊先行型として設計された試験体T4、T5が、実際には曲げ破壊先行型の破壊性状に近づいたことが分かる。
【0055】
更に、図16(A)及び図16(B)には、評価基準である試験体T1の限界変形角(約8/1000rad)における試験体T2及び試験体T4の破壊状態で示されている。試験体T2では、図16(A)の丸で示すように、柱34から袖壁30Bにかけて大きなひび割れが発生して耐力が大きく低下したのに対し、試験体T4では、図16(B)の丸で示すように、袖壁30Bの脚部に僅かな圧壊が発生したものの、柱34には脆性的な破壊が発生せず、試験体T2よりも耐力の低下幅が小さくなった。このことから、柱34に対して追加したせん断補強筋44が有効に働いたことが分かる。
なお、前述したように、方立て壁30Aは、試験体T4、T5の変形性能に影響を与えないため、方立て壁30Aに追加した幅止め筋46(図11参照)も試験体T4、T5の変形性能に影響を与えないものと考えられる。
【0056】
<ケース3>
ケース3では、開口周比r0=0.5の試験体T2に対し、柱34のせん断補強筋44と方立て壁30Aの幅止め筋46を追加し、更に、袖壁30Bの袖壁幅Lsをパラメータとして付与して、袖壁幅Ls(図1(A)参照)がコンクリート壁30の耐力、剛性、変形性能に与える影響を検証した。
【0057】
(試験体)
図17〜図19には、各試験体T6、T7、T8が示されており、図20には、試験体T6の配筋図が示されている。また、図21には、各試験体T6、T7、T8の緒元が示されており、図22(A)及び図22(B)には、各試験体T6、T7、T8に用いたコンクリートの材料特性、鉄筋の材料特性がそれぞれ示されている。各試験体T6、T7、T8は、対向する一対の柱84と上下の加力梁86A、スタブ86Bで構成された架構82内にコンクリート壁80を一体的に設けて構成されている。また、各試験体T6、T7、T8は、せん断耐力よりも曲げ耐力が大きいせん断破壊先行型として設計されている。
【0058】
試験体T6、T7には2つの開口部88、90が形成されており、試験体T8には1つの開口部92が形成されている。各試験体T6、T7、T8の柱84の柱成Dc(図1(A)参照)に対する袖壁80Bの袖壁幅Lsの比(壁張出比)は、Ls/Dc=0.55、Ls/Dc=1.29、Ls/Dc=3.46とされている。なお、試験体T8の袖壁幅Lsは、図19におけるコンクリート壁80の右側の袖壁80Bの値である。
【0059】
また、各試験体T6、T7、T8の開口周比r0、柱幅袖壁厚比t/Bは、試験体T2と同じr0=0.5、t/B=0.36であるが、柱84のせん断補強筋比、柱84間スパンはpw=0.60%、3500mにそれぞれ増加されている。
【0060】
(実験結果)
図23(A)〜図23(C)には、各試験体T6、T7、T8の変形特性が示されている。図23(A)から分かるように、試験体T6は、層間変形角約6/1000radで最大耐力(1090kN)に達した後、層間変形角約10/1000radまで最大耐力の80%を維持した。試験体T7は、図23(B)から分かるように、層間変形角約6/1000radで最大耐力(1137kN)に達した後、層間変形角約8/1000radまで最大耐力の80%を維持した。試験体T8は、図23(C)から分かるように、試験体T8の右側から左側への載荷サイクルにおいて(図23(C)のマイナス荷重に対応)、層間変形角約4/1000で最大耐力に達した後、層間変形角約6/1000radまで最大耐力の80%を維持した。
【0061】
また、図24(A)〜図24(C)には、評価基準である試験体T1の限界変形角(約8/1000rad)における試験体T6、T7、T8の破壊状態が示されている。試験体T6、T7では、図24(A)及び図24(B)の丸で示すように、袖壁80Bの脚部に僅かな圧壊が発生したものの、柱84には破壊が発生せず、試験体T2よりも耐力の低下幅が小さくなった。一方、試験体T8では、図24(C)の丸で示すように、柱84から袖壁80Bにかけて大きなひび割れが発生して耐力が大きく低下した。
【0062】
ここで、試験体T6、T7、T8の耐力、剛性については、開口低減率を考慮すると、耐力壁として評価し得る所定の性能が得られた。また、試験体T6、T7では限界変形角がそれぞれ6/1000rad、8/1000radとなり、変形性能が試験体T2よりも向上した。一方、壁張出比Ls/Dcが1.29を超える試験体T8では、限界変形角が約6/1000radとなり、変形性能が評価基準となる試験体T1よりも劣る結果となった。このことから、各試験体T6、T7、T8の変形性能が、壁張出比Ls/Dcに依存していることが分かる。また、成袖壁幅比Ls/Dcは、変形性能を確保可能なLs/Dc≦1.3(≒1.29)であることが望ましいことが分かる。
【0063】
一方、壁張出比Ls/Dcを小さくすることは靭性確保という点では好ましいが、壁張出比Ls/Dcが0.5よりも小さくなると、柱84の柱成Dcに対する袖壁40Bの袖壁幅Lsが過小になり、袖壁80Bが耐力、剛性を発揮できなくなる恐れがある。従って、壁張出比はLs/Dc≧0.5(≒0.55)であることが望ましい。
【0064】
以上の実験結果から分かるように、上記実施形態に係るコンクリート壁架構11によれば、柱14のせん断補強筋比を0.6%以上とし、かつ、壁張出比Ls/Dcを1.3(≒1.29)以下とすることにより、最大耐力に達した後、層間変形角約8/1000radまで所定の耐力を維持することができ、更に、壁張出比Ls/Dcを0.5(≒0.55)以上とすることにより、最大耐力に達した後、層間変形角約10/1000radまで所定の耐力を維持することができる。
【0065】
なお、開口部の形状に関する指標としてはH0/H(図1(A)参照)もあるが、この指標は0.32≦H0/H≦0.5であることが望ましい。H0/Hが0.5を越えると、開口部18、20の直上又は直下の梁16部分に対する応力集中が過大となり、当該梁16部分で耐力が決定される恐れがあるためである。即ち、H0/Hの上限値である0.5は、コンクリート壁10の水平耐力を確保するための制限値である。一方、H0/Hが0.32より小さくなると、柱14に対する拘束力が過大となり、柱14の靭性を確保することが困難となる恐れがある。従って、H0/Hは0.32以上であることが望ましい。
【0066】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0067】
10 コンクリート壁
10B 袖壁
11 コンクリート壁架構
12 架構
14 柱(コンクリート柱)
16 梁(コンクリート梁)
18 開口部
20 開口部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向するコンクリート柱と該コンクリート柱の間に架設された上下のコンクリート梁とを有する架構と、
前記架構に接合されるコンクリート壁と、
を備え、
前記コンクリート柱との間に袖壁を残すように開口部が形成され、該袖壁に隣接する前記コンクリート柱のせん断補強筋比が0.6%以上であり、かつ、前記袖壁の袖壁幅をLs、該袖壁に隣接する前記コンクリート柱の柱成をDcとすると、Ls/Dc≦1.3であるコンクリート壁架構。
【請求項2】
開口周比が、0.4より大きい請求項1に記載のコンクリート壁架構。
【請求項3】
前記コンクリート柱の柱幅をB、前記袖壁の壁厚をtとすると、t/B≦0.45である請求項1又は請求項2に記載のコンクリート壁架構。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載のコンクリート壁架構を有する建物。
【請求項5】
対向するコンクリート柱と該コンクリート柱の間に架設された上下のコンクリート梁とを有する架構に接合されるコンクリート壁に、前記コンクリート柱との間に袖壁を残すように開口部を形成すると共に、該袖壁に隣接する前記コンクリート柱のせん断補強筋比を0.6%以上にし、かつ、前記袖壁の袖壁幅をLs、該袖壁に隣接する前記コンクリート柱の柱成をDcとすると、Ls/Dc≦1.3にするコンクリート壁架構の設計方法。
【請求項1】
対向するコンクリート柱と該コンクリート柱の間に架設された上下のコンクリート梁とを有する架構と、
前記架構に接合されるコンクリート壁と、
を備え、
前記コンクリート柱との間に袖壁を残すように開口部が形成され、該袖壁に隣接する前記コンクリート柱のせん断補強筋比が0.6%以上であり、かつ、前記袖壁の袖壁幅をLs、該袖壁に隣接する前記コンクリート柱の柱成をDcとすると、Ls/Dc≦1.3であるコンクリート壁架構。
【請求項2】
開口周比が、0.4より大きい請求項1に記載のコンクリート壁架構。
【請求項3】
前記コンクリート柱の柱幅をB、前記袖壁の壁厚をtとすると、t/B≦0.45である請求項1又は請求項2に記載のコンクリート壁架構。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載のコンクリート壁架構を有する建物。
【請求項5】
対向するコンクリート柱と該コンクリート柱の間に架設された上下のコンクリート梁とを有する架構に接合されるコンクリート壁に、前記コンクリート柱との間に袖壁を残すように開口部を形成すると共に、該袖壁に隣接する前記コンクリート柱のせん断補強筋比を0.6%以上にし、かつ、前記袖壁の袖壁幅をLs、該袖壁に隣接する前記コンクリート柱の柱成をDcとすると、Ls/Dc≦1.3にするコンクリート壁架構の設計方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【公開番号】特開2011−184967(P2011−184967A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−52045(P2010−52045)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
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