説明

コンクリート打設用型枠の堰板として用いられる複合パネル

【課題】コンクリート打設用型枠として強度と軽量さを有し、型枠組立作業が容易で、セパレータが強固に支持できると共に汎用セパレータの適用でき、外断熱用の永久型枠として好適な複合パネルを提供する。
【解決手段】複合パネル3は断熱層1とモルタル層2で構成され、コンクリート打設時には間隔Lを保持するセパレータ4が取り付けられ、型枠の堰板として用いられる。複合パネル3は、断熱層1に形成される嵌合穴1aとモルタル層2に形成されるアンカー部2aを有する。アンカー部2aは、モルタル層2から断熱層1の嵌合穴1aに伸びて嵌合穴1aに嵌合及び接合すると共に、セパレータ4と型枠間隔Lの型枠厚さ方向に対向している。断熱層1はアンカー部2aを含むモルタル層2よりも熱伝導率が低く、アンカー部2aを含むモルタル層2は断熱層1よりも曲げ強度が高い。モルタル層2のアンカー部2aがセパレータ4を直接又は間接的に支持する基礎となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合パネルに関し、特に、コンクリート打設用型枠の堰板として用いられる複合パネルに関し、中でも、外断熱用の永久型枠の堰板として好適な複合パネルに関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート打設用型枠の堰板として用いられるパネルには、コンクリート打設に伴う圧力に耐えうる強度、特に、曲げ強度が要求される。
【0003】
また、コンクリート打設に伴う側圧に抗して、型枠用堰板同士の間隔、或いは、堰板と壁との間の間隔、すなわち、型枠間隔を保持するため、堰板同士などの間には、多数のセパレータが配置されると共に、堰板の外側からは、縦端太及び横端太を介して締付部材(例えば、商品名「フォームタイ」)により型締めがなされる。
【0004】
また最近、外壁の外層に断熱層を配置する外断熱工法が注目されている。そこで、断熱層を含むパネルを永久型枠の堰板として用いるコンクリート打設工法が提案されている。
【0005】
特許文献1には、ポリプロピレン製パネルの内面に、セパレータを引っ掛けるフックを形成し、同パネルの表面に防火材、同パネルの背面(内面)に断熱材を貼り付ける型枠が提案されている。
【0006】
特許文献2には、プラスチック製パネルにセパレータ挿通孔が形成されると共に、プラスチック製パネルにセパレータが支持される型枠が提案されている。
【0007】
特許文献3には、緩衝材、防水材、断熱材が積層された外側パネルと、単層の内側パネルの間にセパレータが取り付けられ、特に、セパレータの外端は、矢板金物を介して、外側パネルの緩衝材及び防水材上に支持される型枠が提案されている。
【0008】
特許文献4には、発泡樹脂パネル(断熱層)と無機質硬化性材料層が積層され、発泡樹脂パネルにセパレータが支持される型枠が提案されている。
【0009】
特許文献5には、断熱パネルと耐火性耐力面材が積層され、断熱パネル及び耐火性耐力面材に形成した孔内にフランジ部材を挿入し、断熱パネル及び耐火性耐力面材の両方に支持されたフランジ部材にセパレータが支持される型枠が提案されている。
【0010】
特許文献6には、断熱ボードに金網を取り付け、この金網を介して、断熱ボード上にモルタルを吹付けて、モルタル層を形成する型枠が提案されている。
【0011】
特許文献7には、発泡樹脂パネルと耐火性耐力面材を張り合わせ、発泡樹脂パネルと耐火性耐力面材の両層を挟み込む特別な治具にセパレータが支持される型枠が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2000−136589号公報(図3)
【特許文献2】特開平8−28038号公報(図5)
【特許文献3】特開平11−229413号公報(図9)
【特許文献4】特開平2000−186328号公報(図9)
【特許文献5】特開2001−355303号公報(図3)
【特許文献6】特開平2004−36137号公報(図2)
【特許文献7】特開平2003−13528号公報(図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1及び5〜7の装置によれば、複数層の接合のために金網が必要であったり、特殊なセパレータ及びその支持部材や締付部材が必要であったりするため、型枠構築に要するコストが高くなるという問題点がある。
【0014】
特許文献1〜5の装置によれば、曲げ強度が低く又比較的脆いプラスチック層や断熱層がセパレータを支持する基礎となっているため、コンクリート打設時の圧力を受けてセパレータがずれたり、さらに、セパレータによって断熱層が損傷を受けたりするおそれがある。
【0015】
本発明の目的は、コンクリート打設用型枠の堰板として十分な強度と軽量さを有し、通常のモルタル製型枠に比べて型枠組立作業が容易で、又セパレータが強固に支持できると共に汎用のセパレータの適用が容易であり、中でも、外断熱用の永久型枠の堰板として好適な、複合パネルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、第1の視点において、少なくとも断熱層とモルタル層が積層された複合パネルであり、コンクリート打設時には型枠間隔を保持するセパレータが取り付けられて、コンクリート打設用型枠の堰板として用いられる該複合パネルであって、前記断熱層に形成される嵌合穴を有し、前記モルタル層の一部として形成されるアンカー部を持ち、該アンカー部は、該モルタル層から前記断熱層の前記嵌合穴に伸びて該嵌合穴に嵌合及び接合すると共に、前記セパレータと前記型枠間隔の方向に対向し、前記断熱層は、前記アンカー部を含む前記モルタル層よりも熱伝導率が低く、前記アンカー部を含む前記モルタル層は、前記断熱層よりも曲げ強度が高く、前記アンカー部が、前記セパレータを直接又は間接的に支持する基礎となる、ことを特徴とする複合パネルを提供する。
【発明の効果】
【0017】
(A1)本発明の複合パネルによれば、断熱層に補強材としてモルタル層が積層されていることによって、複合パネルの曲げ強度が向上されている。したがって、本発明の複合パネルは、コンクリート打設用型枠の堰板として、十分な強度を有する。
(A2)本発明による複合パネルを、コンクリート打設用の永久型枠の堰板として用いた場合、打設完了後、堰板として使用した複合パネルの解体及び廃棄処理が不要となり、コンクリート打設に関わる工期が短縮されると共に産業廃棄物の量が減少される。
(A3)本発明による複合パネルは、断熱層を有し、且つモルタル層の熱伝導率も通常モルタル(熱伝導率1.5W/(m・k))[住宅の省エネルギー基準の解説 財団法人建築環境・省エネルギー機構]よりも低くすることができるため、外断熱工法用の永久型枠の堰板として好適に採用される。
(A4)本発明の複合パネルは、モルタル層を有するから、本発明の複合パネルを永久型枠の堰板として用いてコンクリート打設を行った後、このモルタル層上に、表層仕上げをしたり、別の表層を取り付けたりすることが容易である。
(A5)本発明による複合パネルによれば、モルタル層の一部であるアンカー部が、断熱層に食い込んで係合していることにより、モルタル層と断熱層の間の接合強度が強化されている。
(A6)本発明による複合パネルによれば、アンカー部が、打設されて形成されたコンクリート層と接面することができる。アンカー部はモルタル層の一部であって、断熱層よりも、コンクリートに近い組成を有するため、複合パネルとコンクリート層との接合強度が向上される。
【0018】
(B1)本発明による複合パネルは、モルタル層の比重を小さくすることができ(例えば、0.35〜0.7)、通常モルタルの比重2.3(日本建築学会 JASS)に比べて小さく、軽量とし、コンクリート打設用型枠組立作業に伴う運搬・移動・型枠組立を容易とすることができる。
(B2)本発明による複合パネルにおいては、モルタル層の一部であるアンカー部が、セパレータを支持する基礎となる。モルタル層であるアンカー部は、断熱層に比べて高強度であるため、セパレータを強固に支持できる。このようにセパレータの基礎が頑健であるため、本発明の複合パネルには、汎用の各種セパレータが取付容易である。
(B3)本発明の複合パネルは、モルタル層によって曲げ強度が強化されているため、合板を堰板として用いる場合と同様に、型枠を締め付けるため締付機構として、例えば、商品名“フォームタイ”のような汎用の工具を採用できる。
(B4)本発明の複合パネルは、モルタル層によって曲げ強度が強化されているため、型枠構築時、使用する縦端太や横端太の本数を、合板を堰板として用いる場合と同様の本数にすることが可能である。
(B5)本発明による複合パネルにおいては、モルタル層の一部であって頑健なアンカー部に、セパレータが安定的に支持されることにより、コンクリート打設時又は養生中、セパレータが動いて断熱層を損傷することが防止される。
(B6)本発明による複合パネルによれば、断熱層よりも透湿抵抗の低いモルタル層の一部であるアンカー部が、断熱層内の嵌合穴に伸びていることによって、アンカー部が水抜きの通路となり、コンクリート打設後、コンクリート層と断熱層間に水分が溜まることがより防止される。
(B7)本発明による複合パネルによれば、セパレータが、モルタル層によって被覆ないし外部から離間されるため、セパレータが熱橋となることが防止される。
(B8)本発明による複合パネルによれば、コンクリート打設後の型枠の解体時には、型枠締付部材の軸足としてのアンカー部材を撤去し、その撤去後の孔に軸足よりも短いアンカー部材(後付アンカー部材)を埋め込み、コンクリートとモルタル層を係合することにより、仮に、断熱層が焼失しても、モルタル層の落下が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】(A)〜(C)は、本発明の一実施例に係る複合パネル、及び、該複合パネルと合板を一対の堰板として用いたコンクリート打設用型枠の説明図である。
【図2】(A)〜(C)は、本発明の一実施例に係る複合パネル、及び、該複合パネルと躯体を一対の堰板として用いたコンクリート打設用型枠の説明図である。
【図3】本発明の一実施例に係る複合パネルを構成するモルタル層の部品図であって、アンカー部の配置形態を示している。
【図4】本発明の一実施例に係る複合パネルを用いて構築されるコンクリート打設用型枠の側面図である。
【図5】図4に示した型枠の断面図であって、本発明の一実施例に係る複合パネルと合板を一対の堰板として用いた様子を示している。
【図6】図4に示した型枠を用いてコンクリート打設を行った後、型枠から締付部材等を取り外した様子を示す側面図である。
【図7】図6に示した、コンクリート打設後の型枠の断面図であって、型枠から締付部材及び合板が取り外された様子(一部後付けアンカー取付)を示している。
【図8】本発明の一実施例に係る複合パネルと躯体を一対の堰板として用いたコンクリート打設用型枠の断面図(一部後付けアンカー取付)である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の好ましい実施の形態において、前記断熱層の前記嵌合穴は、前記モルタル層の前記アンカー部が貫通する貫通穴である。さらに好ましくは、前記アンカー部を含む前記モルタル層の熱伝導率は、0.17W/(m・k)以下である。このように断熱性の高いモルタル材料からモルタル層を形成することによって、アンカー部が熱橋となることが高度に防止される。なお、熱伝導率:W/(m・k)は、JIS A 1412−2に準拠して測定できる。
【0021】
本発明の好ましい実施の形態において、前記アンカー部を含む前記モルタル層の単位体積重量は、700kg/m以下とする。
【0022】
本発明の好ましい実施の形態において、本複合パネルは、通常の型枠組立で要求される標準的な縦・横端太間隔450mm、モルタル表面メッシュ取付又はモルタル層かぶり2cm下での鉄筋補強を考慮すると、コンクリート打設圧力に対する耐力を生じるモルタル層の曲げ強度は、1N/mm以上が好ましい。また、モルタル層の曲げ強度を高く設定すると、モルタル層が重くなるため、本発明の複合パネルのハンドリングを向上させるためには、モルタル層の曲げ強度は、3N/mm程度あれば十分である。なお、曲げ強度:N/mmは、JIS R 5201に準記して測定できる。
【0023】
本発明の好ましい実施の形態において、前記アンカー部を含む前記モルタル層の透湿比抵抗が、前記断熱層の透湿比抵抗よりも小さい。この形態によれば、コンクリート打設後、透湿抵抗が小さいアンカー部を通じて、断熱層とコンクリート層の間に溜まった水分が排出される。好ましくは、モルタル層ないしアンカー部の透湿比抵抗は、10×1010m・s・Pa/kg以下である。なお、透湿比抵抗:m・s・Pa/kgは、JIS A 1324に準拠して測定できる。
【0024】
本発明の好ましい実施の形態において、前記嵌合穴とそれに嵌合する前記アンカー部の組み合わせは、前記断熱層と前記モルタル層の接合強度を向上させるよう、前記セパレータの配置箇所以外にも配置される。この形態によれば、断熱層とモルタル層の接合強度がさらに向上される。
【0025】
本発明の好ましい実施の形態において、前記セパレータは、前記アンカー部の表面に当接すると共に前記型枠の構築時には該アンカー部に向かって押圧される当接部材に接続され、前記当接部材は、前記型枠の構築時には、前記型枠の締付部材の軸足に接続され、コンクリート打設後の前記型枠の解体時には、前記軸足が撤去され、該軸足撤去後の軸足挿入孔に該軸足よりも短い後付けのアンカー部材を埋め込み、打設されたコンクリート層と前記モルタル層を係合する。このアンカー部材の取付けによって、モルタル層は、打設されて形成されたコンクリート層に安定的に支持され、仮に、断熱層が焼失しても、モルタル層の落下が防止される。
【0026】
本発明の好ましい実施の形態において、嵌合穴及びアンカー部は、それぞれ分散配置される。この形態によれば、モルタル層ないし断熱層の形状が比較的単純化され、断熱層等の加工量が減少される。
【0027】
本発明の好ましい実施の形態において、前記断熱層に形成された前記嵌合穴は底部を備える。この形態によれば、嵌合穴に、断熱層から形成される底部があることによって、複合パネルの断熱性が向上される。
【0028】
本発明の好ましい実施の形態において、モルタル層の材料には、熱伝導率が小さく、透湿比抵抗が小さく、重量と曲げ強度のバランスが良い、モルタル材料が好適に採用される。例えば、本出願人が開発した下記のモルタル材料が好適に採用される。
(1)商品名“カルダンモルタル標準”
参考値:単位体積重量650kg/m
曲げ強度2.29N/mm
熱伝導率0.16W/(m・k)。
(2)商品名“カルダンモルタル標準II”
参考値:単位体積重量550kg/m
曲げ強度1.46N/mm
熱伝導率0.13W/(m・k)。
(3)商品名“カルダンモルタル高断熱”
参考値:単位体積重量400kg/m
曲げ強度1.17N/mm
熱伝導率0.10W/(m・k)。
【0029】
本発明の好ましい実施の形態において、モルタル層は、断熱層の10倍程度又はそれ以上の曲げ強度を有する。
【0030】
本発明の好ましい実施の形態において、断熱層には、プラスチック、中でも、発泡プラスチックが採用される。例えば、硬質ポリウレタン、ポリスチレンフォーム、ウレタンフォーム、フェノールフォームなどである。
【0031】
本発明の好ましい実施の形態において、モルタル層ないしアンカー部は、吹き付け、鏝仕上げ、型枠打設などの方法で、断熱層上に形成される。
【実施例1】
【0032】
以下、図面を参照して本発明の一実施例を説明する。図1(A)〜図1(C)は、本発明の一実施例に係る複合パネル、及び、該複合パネルと合板を一対の堰板として用いたコンクリート打設用の型枠の説明図である。図1(A)は、複合パネルの側面分解図、図1(B)は、複合パネルの一部断面組立図、図1(C)は、コンクリート打設用型枠の一方の堰板として図1(B)の複合パネル、他方の堰板として合板を用いて、コンクリート打設を行った後の状態を示す断面図である。
【0033】
図1(A)〜図1(C)を参照すると、本発明の一実施例に係る複合パネル3は、少なくとも断熱層1とモルタル層2が積層され、コンクリート打設時には型枠間隔Lを保持するセパレータ4が取り付けられて、コンクリート打設用型枠の堰板として用いられる。この複合パネル3は、断熱層1に形成される嵌合穴1aと、モルタル層2の一部として形成されるアンカー部2aが、モルタル層2から断熱層1の嵌合穴1aに向かって伸びて嵌合穴1aに嵌合及び接合すると共に、セパレータ4と型枠間隔Lの方向(型枠厚さ方向)に対向している。断熱層1は、アンカー部2aを含むモルタル層2よりも熱伝導率が低く、アンカー部2aを含むモルタル層2は、断熱層1よりも曲げ強度が高く、アンカー部2aが、セパレータ4を直接又は間接的に支持する基礎となる。
【0034】
型枠の構築時、複合パネル3が一方の堰板となり、合板が他方の堰板5となり、これら一対の堰板(3,5)の間にコンクリートが打設される。また、セパレータ4の複合パネル3側は、例えば、当接部材(コーン部材)6を介して、モルタル層2の一部であるアンカー部2aに押圧されて支持される。セパレータ4の他側は、他方の堰板5に、当接部材(コーン部材)6を介して、押圧されて支持される。なお、当接部材6には、座金状の部材を用いてもよい。
【0035】
複合パネル3側において、当接部材6は、アンカー部2aの表面に当接すると共にセパレータ4に接続ないし螺合されている。アンカー部2aには、後述する締付部材の軸足を挿入するための軸足挿入孔2bが形成されている。軸足は、当接部材6を介して、セパレータ4に接続される。当接部材6は、コンクリート打設時には、不図示の締付部材により、アンカー部2aへ押圧支持され、打設後には、さらに、アンカー部2aの軸足挿入孔2bに埋設されて当接部材6と接続ないし螺合するアンカー部材8に接続ないし螺合されたり、軸足挿入孔2bに充填される埋戻しモルタル2cに接続されたりする。
【0036】
特に、図1(C)を参照すると、一方の堰板である複合パネル3と、他方の堰板5(合板)との間に、コンクリートを打設して養生することにより、複合パネル3と他方の堰板5との間にコンクリート層9が形成される。複合パネル3は永久型枠の一部となり、他方の堰板5は取り外され、モルタル層2、断熱層1、コンクリート層5から構成される、外断熱用の外壁として好適な壁が構築される。
【0037】
本実施例の複合パネル3は、発明の効果の欄で述べた効果に加えて、下記の効果を奏する。
(1)断熱層1よりも透湿比抵抗の小さいモルタル層2の一部であるアンカー部2aが、断熱層1を貫通してコンクリート層9と接していることによって、コンクリート層9と断熱層1間に水分が溜まることが防止される。
(2)アンカー部材8を介して、モルタル層2とコンクリート層9がさらに係合されることにより、仮に、断熱層1が焼失しても、モルタル層2の落下が防止される。
【実施例2】
【0038】
本実施例2においては、前記実施例1との相違点について主として説明し、前記実施例1と同様の点については、前記実施例1の記載を参照するものとする。図2(A)〜図2(C)は、本発明の一実施例に係る複合パネル、及び、該複合パネルと躯体を一対の堰板として用いたコンクリート打設用の型枠の説明図である。
【0039】
図2(A)〜図2(C)を参照すると、コンクリート打設用型枠の構築時、複合パネル3が一方の堰板となり、躯体が他方の堰板5となり、一対の堰板(3,5)の間にコンクリートが打設される。また、セパレータ4の他方の堰板(躯体)5側は、当接部材6及びそれに接続された固定部5aを介して、他方の堰板(躯体)5に取り付けられている。
【実施例3】
【0040】
図3は、本発明の一実施例に係る複合パネルを構成するモルタル層の部品図であって、アンカー部の配置形態を示し、特に、アンカー部を分散配置した様子を示す斜視図である。
【0041】
図3を参照すると、モルタル層2において、円柱状のアンカー部2aが分散配置されている。図1(A)等に示した断熱層1においては、これらアンカー部2aの配置にあわせて、円管状の嵌合穴1aが分散配置される。
【実施例4】
【0042】
図4は、本発明の一実施例に係る複合パネルを用いて構築されるコンクリート打設用型枠の側面図である。図5は、図4に示した型枠の断面図であって、本発明の一実施例に係る複合パネルと合板を一対の堰板として用いた様子を示している。
【0043】
図4及び図5を参照すると、コンクリート打設用型枠において、一方の堰板に本発明による複合パネル3、他方の堰板には合板5がそれぞれ用いられている。複合パネル3において、モルタル層2の表層側にはメッシュ3aが埋設されている。セパレータ4の複合パネル3側は、当接部材6を介して、モルタル層2の一部であるアンカー部2aに押圧されて支持される。セパレータ4の合板5側は、合板5に、当接部材6を介して、押圧されて支持される。なお、メッシュ3aは、モルタル層2の外側の他に、モルタル層2と断熱層1の間、又は断熱層1の外側に配置することができる。
【0044】
一対の当接部材6,6にはそれぞれ、軸足挿入孔2bを貫通している軸足7の一側が螺合される。軸足7の他側には、締付部材(例えば、商品名“フォームタイ”)12が接続される。締付部材12と複合パネル3の間、及び、締付部材12と合板5の間には、それぞれ、複数の縦端太10及び横端太11が配置される。締付部材12を締め込んでいくと、複合パネル3と合板5の間で、セパレータ4及び当接部材6が突っ張ることにより型枠間隔が保持される。そして、一対の堰板(3,5)の間にコンクリートが打設されて、コンクリート層9が形成される。
【0045】
図6は、図4に示した型枠を用いてコンクリート打設を行った後、型枠から締付部材等を取り外した様子を示す側面図である。図7は、図6に示した、コンクリート打設後の型枠の断面図であって、型枠から締付部材及び合板が取り外された様子を示している。
【0046】
コンクリート打設及び養生後、締付部材12、軸足7、縦端太10及び横端太11、さらに、合板5及び合板側の当接部材6は取り外される。複合パネル3側においては、特に、図7の上部を参照して、アンカー部材8を軸足挿入孔2bに挿入して、当接部材6に接続ないし係合し、さらに、埋戻しモルタル2cで、軸足挿入孔2bを塞ぎ、モルタル層2内にアンカー部材8を埋め込むことができる。また、図7の下部を参照して、単に、埋戻しモルタル2cで、軸足挿入孔2bを塞いでもよい。このようにして、コンクリート層9の一側に、断熱層1を備えた外断熱用の壁が構築できる。
【0047】
本実施例においては、いずれも、汎用のセパレータ4、当接部材6及び締付部材12を用いることができる。その理由は、セパレータ4を支持する基礎となっているアンカー部2aは、モルタル層2であって、断熱性を高めるため発泡していたり空隙を有していたりする断熱層1に比べて、頑健であるため、特殊な形状や構造のセパレータ4等を必ずしも用いる必要がないからである。
【実施例5】
【0048】
本実施例5においては、前記実施例4との相違点について主として説明し、前記実施例4と同様の点については、前記実施例4の記載を参照するものとする。図8は、本発明の一実施例に係る複合パネルと躯体を一対の堰板として用いたコンクリート打設後の型枠の断面図である。
【0049】
図8を参照すると、コンクリート打設用型枠において、一方の堰板に本発明による複合パネル3、他方の堰板には躯体5がそれぞれ用いられている。躯体5には、固定部5aを介して、当接部材6が取り付けられている。図5に示した締付部材12を締め込んでいくと、複合パネル3と躯体5の間で、セパレータ4及び当接部材6が突っ張ることにより型枠間隔が保持される。そして、一対の堰板(3,5)の間にコンクリートが打設されて、コンクリート層9が形成される。このようにして、躯体5の一側に、断熱層1を備えた外断熱用の壁層を後付けすることができる。
【実施例6】
【0050】
モルタル層の材料として、本出願人である東電工業株式会社が開発したモルタル材料、すなわち、商品名「カルダンモルタル標準」を用い、断熱層の材料として押出し成型ポリスチレンボードを用い、図1(B)に示したように、断熱層に嵌合穴を加工し、押出し成型ポリスチレンボード上にモルタル打設用型枠を形成し、この型枠にカルダンモルタル標準を打設して、本発明の複合パネルを作製した。なお、作製した複合パネルの形状、使用した材料の物性は、下記のとおりである。
【0051】
複合パネルのサイズ 910mm×910mm×厚さ57mm
嵌合穴とアンカー部の配置 455mm間隔で、格子状に4個配置
断熱層の嵌合穴の径 φ100mm
アンカー部の大きさ φ100mm×突出高さ40mm
モルタル層の曲げ強度 2.29N/mm
モルタル層の熱伝導率 0.16W/m・K
モルタル層の透湿比抵抗 10〜20×1010m・s・Pa/kg
断熱層の曲げ強度 0.1〜0.2N/mm
断熱層の熱伝導率 0.028W/m・K
断熱層の透湿比抵抗 27.6×1010m・s・Pa/kg
【0052】
作製した複合パネルを観察したところ、断熱層とモルタル層は、特に、嵌合穴とアンカー部を介して、強固に接合していた。
【実施例7】
【0053】
本出願人である東電工業株式会社が開発したモルタル材料である商品名「カルダンモルタル標準」を用いて本発明のモルタル層を作成し、このモルタル層を一方の堰板とし、通常の合板を他方の堰板とし、図5に示したように、セパレータ、当接部材、締付部材、縦端太及び横端太を用いて、型枠を通常の型枠組立方法にしたがって構築し、“JASS 5”に準拠して、コンクリート打設試験を行った。なお、断熱層の曲げ強度は、モルタル層の曲げ強度の1/10程度であり、断熱層は、コンクリート打設時の側圧を支える機能を実質的に有していないから、本試験によって、このモルタル層を有する本発明の複合パネルが、堰板として十分な曲げ強度を有しているかどうか判断することができる。実験条件は、下記のとおりである。
【0054】
モルタル層の材料 本出願人が開発した商品名「カルダンモルタル標準」
モルタル層のサイズ 900mm×900mm×厚さ30mm
モルタル層の曲げ強度 2.29N/mm(カタログ値)
モルタル層の熱伝導率 0.16W/m・K(カタログ値)
モルタル層の透湿比抵抗 14.62×1010m・s・Pa/kg
型枠間隔 50mm
【0055】
コンクリート打設時及び養生時、上記型枠に異常はなく、締付部材を取り外した後、モルタル層及びコンクリート層を目視したが、ひび割れ等の欠陥は発生していなかった。また、日本建築学会の“JASS 5”で、型枠の堰板が耐えることが要求されている、型枠設計用コンクリート側圧(等分布荷重)は、打ち込み速度10m/h以下、打ち込み高さ4mの条件で、3450kg/m以上である。実験を複数回を行った結果、本実施例の型枠は、上記条件をいずれもクリアしており、本実施例のモルタル層を有する複合パネルが、コンクリート打設用型枠として好適であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の複合パネルは、コンクリート打設用の型枠に利用され、特に、永久型枠、中でも、外断熱用の永久型枠として好適に利用される。
【符号の説明】
【0057】
1 断熱層
1a 嵌合穴(モルタル層のアンカー部を挿入する穴)
2 モルタル層
2a アンカー部(凸部)
2b 軸足挿入孔(軸足を挿通する孔)
2c 埋戻しモルタル
3 複合パネル(一方の堰板)
3a メッシュ(補強層)
4 セパレータ
5 他方の堰板(合板、躯体)
5a 固定部(躯体への固定部)
6 当接部材(セパレータ受け、コーン部材)
7 軸足(締付部材の軸足)
8 アンカー部材(後付けアンカー)
9 コンクリート層(打設コンクリート層)
10 縦端太
11 横端太
12 締付部材
L 型枠間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも断熱層とモルタル層が積層された複合パネルであり、コンクリート打設時には型枠間隔を保持するセパレータが取り付けられて、コンクリート打設用型枠の堰板として用いられる該複合パネルであって、
前記断熱層に形成される嵌合穴を有し、
前記モルタル層の一部として形成されるアンカー部を持ち、該アンカー部は、該モルタル層から前記断熱層の前記嵌合穴に伸びて該嵌合穴に嵌合及び接合すると共に、前記セパレータと前記型枠間隔の方向に対向し、
前記断熱層は、前記アンカー部を含む前記モルタル層よりも熱伝導率が低く、
前記アンカー部を含む前記モルタル層は、前記断熱層よりも曲げ強度が高く、
前記アンカー部が、前記セパレータを直接又は間接的に支持する基礎となる、
ことを特徴とする複合パネル。
【請求項2】
前記嵌合穴は、前記アンカー部が貫通する貫通穴であり、
前記アンカー部を含む前記モルタル層の熱伝導率は、0.17W/(m・k)以下である、
ことを特徴とする請求項1記載の複合パネル。
【請求項3】
前記アンカー部を含む前記モルタル層の単位体積重量は、700kg/m以下とする、
ことを特徴とする請求項1記載の複合パネル。
【請求項4】
前記アンカー部を含む前記モルタル層の透湿比抵抗は、前記断熱層の透湿比抵抗よりも小さい、ことを特徴とする請求項1記載の複合パネル。
【請求項5】
前記嵌合穴とそれに嵌合する前記アンカー部の組み合わせは、前記断熱層と前記モルタル層の接合強度を向上させるよう、前記セパレータの配置箇所以外にも配置される、
ことを特徴とする請求項1記載の複合パネル。
【請求項6】
前記セパレータは、前記アンカー部の表面に当接すると共に前記型枠の構築時には該アンカー部に向かって押圧される当接部材に接続され、前記当接部材は、前記型枠の構築時には、前記型枠の締付部材の軸足に接続され、コンクリート打設後の前記型枠の解体時には、前記軸足が撤去され、該軸足撤去後の軸足挿入孔に該軸足よりも短い後付けのアンカー部材を埋め込み、打設されたコンクリート層と前記モルタル層を係合する、ことを特徴とする請求項1記載の複合パネル。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−17562(P2012−17562A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−153931(P2010−153931)
【出願日】平成22年7月6日(2010.7.6)
【出願人】(000221535)東電工業株式会社 (25)