コンクリート表面含浸材の透過抵抗評価試験方法
【課題】コンクリート用表面含浸材の物質透過抵抗性を容易に測定できる方法を提供すること。
【解決手段】鉄筋コンクリート等の被検査物の表面に塗布される表面含浸材に対する塩化物イオンや水等の各種透過物に対する透過抵抗を評価する試験方法である。鉄筋を一方端子とし、表面含浸材が塗布された被検査物の表面に他方端子を接合して、両端子間に通電して電気抵抗値を測定する。当該電気抵抗値が大きいときは上記透過抵抗が大きく、当該抵抗値が小さいときは上記透過抵抗が小さいものと評価する。被検査物が既設の鉄筋コンクリート構造物である場合、当該構造物の鉄筋から予めリード線を配設し、上記表面含浸材の塗布面に他方の端子を接合して電気抵抗値を測定する。選択図は電気抵抗値と塩分浸透深さの関係を示すグラフである。
【解決手段】鉄筋コンクリート等の被検査物の表面に塗布される表面含浸材に対する塩化物イオンや水等の各種透過物に対する透過抵抗を評価する試験方法である。鉄筋を一方端子とし、表面含浸材が塗布された被検査物の表面に他方端子を接合して、両端子間に通電して電気抵抗値を測定する。当該電気抵抗値が大きいときは上記透過抵抗が大きく、当該抵抗値が小さいときは上記透過抵抗が小さいものと評価する。被検査物が既設の鉄筋コンクリート構造物である場合、当該構造物の鉄筋から予めリード線を配設し、上記表面含浸材の塗布面に他方の端子を接合して電気抵抗値を測定する。選択図は電気抵抗値と塩分浸透深さの関係を示すグラフである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート建造物の内部に塩化物イオン、二酸化炭素或いは水等の前記建造物に悪影響を及ぼす物質が透過・浸透することを防止するために、前記建造物の表面に塗布される表面含浸材のこれら物質の透過抵抗性に関して評価を行うための試験方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリート中に塩化物イオンが浸透すると、鉄筋周囲の不動態被膜が破壊され、腐食が発生する。
同様に、コンクリートに二酸化炭素が浸透すると、鉄筋周囲の不動態被膜が破壊され、腐食が発生する。
更に、コンクリートに水が浸透すると、鋼材腐食やアルカリ骨材反応などを誘発する可能性がある。
したがって、コンクリートの劣化を誘発する物質の浸透を抑制するため、各種の表面含浸材が使用されている。
【0003】
現在、「道路橋の塩害対策指針(案)・同解説 pp.61-63 付録1 コンクリート塗装材料の品質試験方法(案) (3)遮塩性試験方法」や「土木学会基準 JSCE-K 524 表面含浸材の塩化物イオンの浸透深さ試験方法」により、表面含浸材の遮塩性が評価されている。
また、中性化深さ試験としては、「JIS A1153」のコンクリートの促進中性化試験方法が知られている。
更に透水性試験としては、「JIS A6909B」の建築用仕上塗材に記載がある。
【0004】
図11は、上記道路橋の塩害対策指針(案)の遮塩性試験方法を示す説明図である。
図12は、「遮塩型マクロセル腐食対策工法」の開発研究に用いた電気抵抗試験方法を示す説明図である。
しかしながら、例えば図11に示す通り、塩化物イオンが塗膜試験片に塗布された表面含浸材を通過するには長時間を要する。一方、「遮蔽型マクロセル腐食対策工法」の開発研究の際に、図12に示すような電気化学的方法を用いて、遮蔽材50の性能を短時間(約1ヶ月間)で評価している。
【0005】
また、図11に示されるセルを用いた方法の場合、実験室内での試験は可能であるが、実構造物における施工後のモニタリングは不可能である。
一方、「遮蔽型マクロセル腐食対策工法」の開発研究の際に使用した図12に示す電気化学的方法は、実構造物に対しても適用が可能であり、現場での施工後におけるモニタリングも可能である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「NEXCO試験方法425−2004 はく落防止の耐久性能試験方法 塩化物イオン透過性試験」(発行者:西日本高速道路株式会社、発行年:平成21年7月)
【非特許文献2】土木学会基準 JSCE-K 524 表面含浸材の塩化物イオンの浸透深さ試験方法(発行者:社団法人土木学会、発行年:1999年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上の背景を踏まえ本発明では、コンクリートの表面含浸材の物質透過抵抗性を電気化学的手法により、短時間で評価しかつ実構造物のモニタリングにも適用できる方法の構築をその課題とする。
すなわち、表面含浸材が塗布されたコンクリートやモルタルの電気抵抗値を測定し、表面含浸材の導電性を算出する。またこの値を、上記の従来の基準などにより測定された「表面含浸材の遮塩性」「表面含浸材の中性化抑制効果」「表面含浸材の遮水性」の測定結果と比較する。
更に、これらの結果を踏まえて、コンクリート用表面含浸材の導電性と物質透過性の関係を整理し、短時間で表面含浸材の物質透過性を評価する方法を構築することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の第1のものは、内部に鉄筋が配設された鉄筋コンクリート等の被検査物の表面に塗布される表面含浸材に対する塩化物イオンや水等の各種透過物に対する透過抵抗を評価する試験方法であって、鉄筋を一方端子とし、表面含浸材が塗布された被検査物の表面に他方端子としての対極板を接合して、両端子間に通電することによって両端子間の電気抵抗値を測定し、当該電気抵抗値が大きいときには上記透過抵抗が大きく、当該抵抗値が小さいときには上記透過抵抗が小さいものと評価するコンクリート表面含浸材の透過抵抗評価試験方法である。
【0009】
本発明の第2のものは、上記第1の発明において、被検査物がその内部に鉄筋を配設した所定サイズの6面体又は略円柱形状を有し、その被検査物の1面に表面含浸材を塗布し、その後約1週間程乾燥気中で乾燥させ、その後12週間程湿潤気中で暴露する期間中の適宜時期に複数回、電気抵抗値を測定し、塗布後約4週間以降の電気抵抗値を有意数値として評価することを特徴とするコンクリート表面含浸材の透過抵抗評価試験方法である。
【0010】
本発明の第3のものは、上記第1の発明において、被検査物が既設の鉄筋コンクリート構造物であって、その表面には建設時に表面含浸材が塗布されたものであり、当該構造物の鉄筋から予めリード線を配設し、上記表面含浸材の塗布面に他方の端子としての対極板を接合して電気抵抗値を測定することを特徴とするコンクリート表面含浸材の透過抵抗評価試験方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の第1のものにおいては、鉄筋コンクリート等に悪影響を及ぼす塩化物イオン、二酸化炭素ガス或いは水等の各種物質の透過及び浸透を防止するための各種表面含浸材の透過抵抗性を評価する試験方法であるが、鉄筋を一方端子とし、表面含浸材が塗布された表面に他方端子となる対極板を接合して、両者間に通電してその電気抵抗値を測定し、この抵抗値が大きいときには、上記物質透過抵抗性が高いものと評価し、逆にこの電気抵抗値が小さいときには、その物質透過抵抗性が低いものと評価する試験である。
【0012】
これにより、表面含浸材の物質透過抵抗性を、表面含浸材と鉄筋とに通電して電気抵抗値を測定するだけで簡単に透過抵抗性の良否を評価することができるものとなる。
この試験方法は、所定の供試体を用いて検査する場合に限られず、既存の建築物にも容易に適用できる試験方法となり、極めて短時間に表面含浸材の評価試験を行うことができるものとなる。
【0013】
本発明の第2のものにおいては、所定のサイズと形状の供試体を用いて、特定種類の表面含浸材を塗布した最初から一定期間経時的に検査する方法を特定したものであって、これにより特定の一つの表面含浸材の透過抵抗性の評価を行うことができる。
上記第1の発明においては、表面含浸材の経時的な評価試験ばかりでなく、特定の時点における透過抵抗性の評価試験を行うことができるのであるが、この第2の発明により実験室内での経時的な評価試験が可能となる。
そして、本発明においては後に説明する試験結果から表面含浸材が塗布された後4週間目以降での電気抵抗値がほぼ一定の値を示し、その塗布後4週間以降の抵抗値が透過抵抗性を評価できる数値と判断できたために、その塗布後4週間以降の電気抵抗値を有意数値と判断し、これを請求項2で特定したものである。
【0014】
本発明の第3のものにおいては、既存の建築物において既に塗布された表面含浸材の物質透過抵抗性の評価試験を、表面含浸材が塗布されている表面に他方の電極を接合して、内部の鉄筋との通電により電気抵抗値を測定することによって簡単に物質透過抵抗性の評価試験を行うことができるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】モルタルによる電気抵抗試験において使用した供試体の説明図である。
【図2】コンクリートによる電気抵抗試験において使用した供試体の説明図である。
【図3】図1に示したモルタル供試体の12週間の電気抵抗値の測定結果のグラフである。
【図4】図2に示したコンクリート供試体の12週間の電気抵抗値の測定結果のグラフである。
【図5】上記モルタル供試体とコンクリート供試体の暴露4週目における供試体毎の電気抵抗値の比較を行ったグラフである。
【図6】上記コンクリート供試体に関して、暴露第8週目における供試体毎の電気抵抗値の比較を行ったグラフである。
【図7】上記コンクリート供試体に関して、暴露12週目における供試体毎の電気抵抗値の比較を行ったグラフである。
【図8】塗布後第8週目におけるコンクリート供試体の電気抵抗値と塩分浸透深さの関係を示すグラフである。
【図9】塗布後第8週目におけるコンクリート供試体の電気抵抗値と透水性の関係を示すグラフである。
【図10】塗布後第8週目におけるコンクリートの電気抵抗値と中性化深さの関係を示すグラフである。
【図11】「道路橋の塩害対策指針(案)・同解説 pp.61-63 付録1 コンクリート塗装材料の品質試験方法(案) (3)遮塩性試験方法」を示す説明図である。
【図12】「遮塩型マクロセル腐食対策工法」の開発研究に用いた電気抵抗試験方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付の図面と共に本発明の実施形態について説明する。
(1) モルタルによる電気抵抗試験
図1は、モルタルによる電気抵抗試験において使用した供試体の説明図である。
この図に示した通り、モルタル供試体10は、一方の電極となる鉄筋11を埋設したモルタル(W/C=50%)を打設した後、その一方の端面12(図中右面)に表面含浸材を塗布したものである。
【0017】
モルタル供試体10のサイズは、端面12の直径が約50mm、高さ(図中左右長さ)が100mm、鉄筋11の直径が約9mm、長さが15mmで、この鉄筋11は、端面12から約30mm程度の位置で直径方向に埋設されている。
【0018】
供試体10が作製された後、4週間の間水中養生を行い、その後2週間に渡り乾燥気中(20±2℃、60±5%)で静置し、このモルタル供試体10の端面12に表面含浸材を塗布する。
その後、1週間は乾燥気中(20±2℃、60±5%)に暴露し、その後11週間は湿潤気中(20±2℃、90±5%)で暴露する。
この期間中、暴露1週目、4週目、8週目及び12週目に、対極板15を表面含浸材の塗布面である端面12に設置し、供試体10内部に埋設された鉄筋(電極)11との間の電気抵抗値を、抵抗計を用いて測定する。
【0019】
尚、暴露4週目までは1水準で2個の供試体を使用し、その後は1個の供試体を割裂して表面含浸材の浸透深さの計測を試みた。
また、表面含浸材(AからW)としては、各種のものを使用したが、シラン系のものとして12種、ケイ酸塩系のものとして7種、併用系のものとして3種、その他の1種と、合計23種類の表面含浸材を試験対象とした。
勿論、この試験対象である供試体として、表面含浸材を塗布していないブランク供試体をも含むことは言うまでもない。
【0020】
この試験結果を示すグラフが図3である。
このグラフから見て取れる通り、表面含浸材が塗布されていないブランク供試体の電気抵抗値は、第1週目から第12週目まで、ほぼ横這いの値で10kΩから30kΩの間であり、第1週目から第4週目までに渡り少し抵抗値が上昇するものの、その後は徐々に低下している。
【0021】
他方、AからWまでの(23種類の)表面含浸材が塗布されたモルタル供試体は、一部例外を除き、第1週目には極めて高い電気抵抗値を示し、第4週目までには急激にその値を低下させ、その後横這いのほぼ一定の値を示している。
但し、この横這いの値に関しては、ブランク供試体と比較すれば、その殆どが電気抵抗値として高い値を示している。
即ち、試験に供された表面含浸材の殆どのものは、表面含浸材が塗布されていないブランク供試体よりも、より高い電気抵抗値を提示している。
【0022】
尚、ここで使用している表面含浸材は、既に一般にコンクリート用表面含浸材として透過抵抗性が認められているものを使用しているが、これらの数種類については後に説明する従来の試験方法によっても試験を行う。
また、図中、シラン系表面含浸材は、上から順番に「A,B,D,P,Q,R,S,T,U,V,K,W」(12種)で示し、ケイ酸塩系表面含浸材は、「E,H,I,J,L,M,O」(7種)で示し、併用系表面含浸材は、「F,G,C」(3種)で示し、その他1種として「N」で示している。
【0023】
(2) コンクリートによる電気抵抗試験
図2が、コンクリートによる電気抵抗試験において使用した供試体の説明図である。
ここでも、前記モルタル供試体と同様に試験を行う。
この図に示した通り、コンクリート供試体20は、一方の電極となる鉄筋21を埋設したコンクリート(W/C=57.5%)を打設した後、その一側面22(図中右面)に表面含浸材を塗布したものである。
【0024】
コンクリート供試体20の形状は、一辺が100mmの立方体である。鉄筋21は直径が約9mm、長さが120mmで、供試体20の中央部に埋設されている。
このコンクリート供試体が作製され、表面含浸材が塗布された後、1週間は乾燥気中に暴露し、その後11週間は湿潤気中で暴露する。この環境条件は、前記モルタルの場合と同様である。
その間、暴露1週目、4週目、8週目及び12週目に、対極板25を表面含浸材の塗布面である一側面22に設置し、コンクリート供試体20の内部に埋設された鉄筋(電極)21との間の電気抵抗値を、抵抗計を用いて測定する。
【0025】
尚、1水準で2個の供試体を使用した。
また上記モルタル供試体10の場合と同様に、表面含浸材としては、既にその透過抵抗性が認められている、シラン系のもの12種、ケイ酸塩系のもの7種、併用系のもの3種、その他の1種と、合計23種類(AからWまで)の表面含浸材を使用した。
【0026】
この試験結果を示すグラフが図4である。
このグラフから見て取れる通り、表面含浸材が塗布されていないブランク供試体の電気抵抗値は、第1週目から第12週目まで、ほぼ横這いの値で約10kΩ前後であり、第1週目から第8週目までに渡りほんの僅かずつ抵抗値が上昇するものの、その後は徐々に低下している。
【0027】
他方、AからWまでの(23種類の)表面含浸材が塗布されたそれぞれのコンクリート供試体は、一部例外を除き、第1週目には極めて高い電気抵抗値を示し、第4週目までには急激にその値を低下させ、その後横這いのほぼ一定の値を示している。
但し、この横這いの値に関しては、ブランク供試体と比較すれば、その殆どが電気抵抗値として高い値を示している。
即ち、試験に供された表面含浸材の殆どのものは、表面含浸材が塗布されていないブランク供試体よりも、より高い電気抵抗値を提示している。
【0028】
このコンクリート供試体の試験結果は、上記モルタル供試体の試験結果とほぼパラレルの結果を示しており、表面含浸材が塗布された供試体が高い電気抵抗値を示し、コンクリート供試体20とモルタル供試体10との電気抵抗値の相違は、前者がその抵抗値の高低の幅が狭く、後者のそれが広いという点である。
即ち、モルタル供試体の試験結果の電気抵抗値の値の高低幅がコンクリート供試体のそれよりも大きいということである。
その他の点に関しては、ほぼ同様の試験結果を提示している。
【0029】
以上から、モルタル供試体にせよ、コンクリート供試体にせよ、表面含浸材が塗布された供試体においては、ブランク供試体と比較すれば、その電気抵抗値が大きい値を示しており、従って、物質透過抵抗性を有する表面含浸材、この試験では23種類の既存の表面含浸材の殆どが、それらが塗布されていない供試体よりも、その電気抵抗値が大きいという結果が提示されたのである。
【0030】
勿論、図3及び図4のグラフを見れば解る通り、表面含浸材が塗布されていないブランク供試体よりも低い抵抗値を示す供試体もあるが、総体的な数値を見れば、表面含浸材が塗布された供試体の電気抵抗値がブランク供試体のそれよりも歴然として高い値を示していることが見て取れるのである。
それ故、表面含浸材が塗布されたモルタル供試体及びコンクリート供試体の電気抵抗値は、表面含浸材が塗布されていない供試体と比較して、その電気抵抗値が高くなる、と結論付けることができるのである。
【0031】
ここで、上記試験における電気抵抗値試験の他の結果データを添付する。
図5は、上記モルタル供試体10とコンクリート供試体20の暴露4週目における供試体毎の比較を行ったグラフである。
図6は、上記コンクリート供試体20に関して、暴露第8週目における供試体毎の比較を行ったグラフである。
図7は、上記コンクリート供試体20に関して、暴露12週目における供試体毎の比較を行ったグラフである。
ぞれぞれの図においては、それぞれの試験で供試体を2個ずつ使用しているために、これらを「供試体1」「供試体2」と表示している。
【0032】
これらのグラフから解る通り、何れのグラフも直線的な右肩上がりの抵抗値を示しているために、供試体1又は2のそれぞれの供試体毎の電気抵抗値は、それぞれ少し異なるものの、電気抵抗値の一定の傾向を見て取ることができ、これらの値は、グラフには現れていないが、ブランク供試体の値よりも高い値を示している。
【0033】
以下、上記試験で使用された各種の表面処理材について、前記段落番号「0003」に記載した従来の各種の試験方法により試験を行い、その試験結果と上記電気抵抗値との比較を行った。
【0034】
(3) コンクリートによる塩分透過浸透深さ試験
JSCE-K524「表面処理材の塩化物イオンの浸透深さ試験方法(案)」に準拠して,表面含浸材の遮塩性を評価した。
すなわち,前述(2)に示す電気抵抗試験と同様に作製された10×10×40cmの直方体のコンクリート供試体を,10×40cmの側面の2面を除いてエポキシ樹脂で被覆し,開放された2面の内1面に対して,表面含浸材を塗布した。
その後,1週間は乾燥気中で暴露した.さらに,12週間に亘り濃度3%のNaCl水溶液へ浸漬した後,供試体を割裂し,0.1N硝酸銀水溶液噴霧により塩分浸透深さを測定した。
【0035】
(4)コンクリートによる中性化深さ試験
JIS A 1153「コンクリートの促進中性化試験方法」に準拠して,表面含浸材の中性化抑制効果を評価した。
すなわち,上記(3)に示す塩分浸透深さ試験と同様の供試体を用い,CO2濃度5%,20±2℃,60±5%の促進中性化環境下へ12週間に亘り暴露し,その後フェノールフタレインアルコール溶液により中性化深さを測定した。
【0036】
(5)モルタルによる透水性試験
JSCE-K-571「表面含浸材の試験方法(案)」に準拠して,表面含浸材の遮水性を評価した。
すなわち,上記した電気抵抗試験と同様に作製された10×10×10cmのモルタル供試体を用い,表面含浸材を塗布した。
それから1週間は乾燥気中(20±2℃、60±5%)で暴露した後,透水試験に供した.
【0037】
以上の試験結果と前記電気抵抗値試験結果を比較検討した結果は、以下の通りと成る。
図8は、第8週目におけるコンクリート供試体の電気抵抗と塩分浸透深さの関係を示すグラフである。図中のアルファベットは、表面処理材の種類を示しており、図2及び図4の場合と同じである。
これによれば、一部例外もあるが、ブランク供試体と比較して、電気抵抗値が大きいほど、塩分浸透深さは小さく、表面処理材の塩分浸透抵抗性は高くなることが確認された。
【0038】
図9は、第8週目におけるコンクリート供試体の電気抵抗値と透水性の関係を示すグラフである。この図においても、図中のアルファベットは、表面処理材の種類を示しており、図2及び図4の場合と同じである(以下同じである。)。
これによれば、一部例外もあるが、ブランク供試体と比較して、電気抵抗値が大きいほど、透水量は少なく、表面含浸材の透水抵抗性は高くなると認められるが、上記遮塩性との関係ほど明瞭には現れていない。
【0039】
図10は、第8週目におけるコンクリートの電気抵抗と中性化深さの関係を示すグラフである。
これによれば、電気抵抗が大きいほど、表面含浸材の中性化抵抗性は高くなる傾向は確認された。
しかしながら、個々に比較すると、逆転しているデータもある。これは、二酸化炭素ガスの透気性は電導性(電気の伝わり易さ)と異なるためと考えられる。
【0040】
上記試験においては、例えば塩化物イオンの透過抵抗性、即ち遮塩性に関しては、各種表面含浸材を塗布した供試体を湿潤気中で電気抵抗値の測定を行い(上記(1)及び(2))、他方で従来のJSCE-K524「表面処理材の塩化物イオンの浸透深さ試験方法」(上記(3))により遮塩性試験を行い、これら両測定結果を比較対照して、電気抵抗値と遮塩性との関係を見出して本発明が創案されたものである。
より厳密には、同一条件で、例えば同一濃度のNacl水溶液の液中で両方の測定を行う事によりより明確な関係が見出せる可能性があるが、本発明においては、その他に透水性試験や中性化試験との関係をも見出すために、表面含浸材が塗布されたコンクリート等の供試体を用いて、上記(1)及び(2)のような経時的電気抵抗値測定を行い、その結果と従来の遮塩性試験、透水性試験及び中性化試験との試験結果との比較を行い、これらと電気抵抗値との関係性を見出すことをその目的としたものである。
【0041】
そして、上記(1)及び(2)の電気抵抗値測定試験により、表面含浸材の物質透過抵抗性能を評価できることが判明し、更にその結果、表面含浸材塗布後4週間以降の抵抗値がほぼ一定の有意な値を示している事をも発見することができた。
これにより、新規な表面含浸材が提案された際には、上記(1)や(2)の試験を行い、約4週間程度で、その物質透過抵抗性を評価することができることとなる。これを本願の特許請求の範囲の請求項2において記載している。
他方、上記の試験結果を利用して、既設の建築物に塗布されている表面含浸材に対する物質透過抵抗性の評価或いはモニタリングをも容易に行うことができることとなるのである。これを本願の特許請求の範囲の請求項3において記載している。
【0042】
以上の通り、本発明においては、塩分浸透性及び透水性に関しては、電気抵抗値との関係が明確となり、電気抵抗値が大きい値を示した場合には、これら塩分浸透性及び透水性に対する透過抵抗が大きく、電気抵抗値が小さい値を示した場合には、その透過抵抗が小さいという比例関係が示された。
但し上述した通り、二酸化炭素ガスの透気性(中性化に対する抵抗性)に関しては、必ずしも上記2種の物質の透過抵抗との関係と異なり、明確な関係を見出すことが出来なかった。
【0043】
以上、本発明においては、鉄筋コンクリート又はモルタルから形成された供試体又は建築物等の物質透過性を、鉄筋を一方端子とし、表面含浸材が塗布された面に接合した他方端子との間の電気抵抗値を測定することにより、かかる表面含浸材の物質透過抵抗性を簡易に測定し、その性能を試験することができる方法を提供することができた。
【符号の説明】
【0044】
10 モルタル供試体
11 鉄筋
12 端面
20 コンクリート供試体
21 鉄筋
22 側面
A〜W 表面含浸材
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート建造物の内部に塩化物イオン、二酸化炭素或いは水等の前記建造物に悪影響を及ぼす物質が透過・浸透することを防止するために、前記建造物の表面に塗布される表面含浸材のこれら物質の透過抵抗性に関して評価を行うための試験方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリート中に塩化物イオンが浸透すると、鉄筋周囲の不動態被膜が破壊され、腐食が発生する。
同様に、コンクリートに二酸化炭素が浸透すると、鉄筋周囲の不動態被膜が破壊され、腐食が発生する。
更に、コンクリートに水が浸透すると、鋼材腐食やアルカリ骨材反応などを誘発する可能性がある。
したがって、コンクリートの劣化を誘発する物質の浸透を抑制するため、各種の表面含浸材が使用されている。
【0003】
現在、「道路橋の塩害対策指針(案)・同解説 pp.61-63 付録1 コンクリート塗装材料の品質試験方法(案) (3)遮塩性試験方法」や「土木学会基準 JSCE-K 524 表面含浸材の塩化物イオンの浸透深さ試験方法」により、表面含浸材の遮塩性が評価されている。
また、中性化深さ試験としては、「JIS A1153」のコンクリートの促進中性化試験方法が知られている。
更に透水性試験としては、「JIS A6909B」の建築用仕上塗材に記載がある。
【0004】
図11は、上記道路橋の塩害対策指針(案)の遮塩性試験方法を示す説明図である。
図12は、「遮塩型マクロセル腐食対策工法」の開発研究に用いた電気抵抗試験方法を示す説明図である。
しかしながら、例えば図11に示す通り、塩化物イオンが塗膜試験片に塗布された表面含浸材を通過するには長時間を要する。一方、「遮蔽型マクロセル腐食対策工法」の開発研究の際に、図12に示すような電気化学的方法を用いて、遮蔽材50の性能を短時間(約1ヶ月間)で評価している。
【0005】
また、図11に示されるセルを用いた方法の場合、実験室内での試験は可能であるが、実構造物における施工後のモニタリングは不可能である。
一方、「遮蔽型マクロセル腐食対策工法」の開発研究の際に使用した図12に示す電気化学的方法は、実構造物に対しても適用が可能であり、現場での施工後におけるモニタリングも可能である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「NEXCO試験方法425−2004 はく落防止の耐久性能試験方法 塩化物イオン透過性試験」(発行者:西日本高速道路株式会社、発行年:平成21年7月)
【非特許文献2】土木学会基準 JSCE-K 524 表面含浸材の塩化物イオンの浸透深さ試験方法(発行者:社団法人土木学会、発行年:1999年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上の背景を踏まえ本発明では、コンクリートの表面含浸材の物質透過抵抗性を電気化学的手法により、短時間で評価しかつ実構造物のモニタリングにも適用できる方法の構築をその課題とする。
すなわち、表面含浸材が塗布されたコンクリートやモルタルの電気抵抗値を測定し、表面含浸材の導電性を算出する。またこの値を、上記の従来の基準などにより測定された「表面含浸材の遮塩性」「表面含浸材の中性化抑制効果」「表面含浸材の遮水性」の測定結果と比較する。
更に、これらの結果を踏まえて、コンクリート用表面含浸材の導電性と物質透過性の関係を整理し、短時間で表面含浸材の物質透過性を評価する方法を構築することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の第1のものは、内部に鉄筋が配設された鉄筋コンクリート等の被検査物の表面に塗布される表面含浸材に対する塩化物イオンや水等の各種透過物に対する透過抵抗を評価する試験方法であって、鉄筋を一方端子とし、表面含浸材が塗布された被検査物の表面に他方端子としての対極板を接合して、両端子間に通電することによって両端子間の電気抵抗値を測定し、当該電気抵抗値が大きいときには上記透過抵抗が大きく、当該抵抗値が小さいときには上記透過抵抗が小さいものと評価するコンクリート表面含浸材の透過抵抗評価試験方法である。
【0009】
本発明の第2のものは、上記第1の発明において、被検査物がその内部に鉄筋を配設した所定サイズの6面体又は略円柱形状を有し、その被検査物の1面に表面含浸材を塗布し、その後約1週間程乾燥気中で乾燥させ、その後12週間程湿潤気中で暴露する期間中の適宜時期に複数回、電気抵抗値を測定し、塗布後約4週間以降の電気抵抗値を有意数値として評価することを特徴とするコンクリート表面含浸材の透過抵抗評価試験方法である。
【0010】
本発明の第3のものは、上記第1の発明において、被検査物が既設の鉄筋コンクリート構造物であって、その表面には建設時に表面含浸材が塗布されたものであり、当該構造物の鉄筋から予めリード線を配設し、上記表面含浸材の塗布面に他方の端子としての対極板を接合して電気抵抗値を測定することを特徴とするコンクリート表面含浸材の透過抵抗評価試験方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の第1のものにおいては、鉄筋コンクリート等に悪影響を及ぼす塩化物イオン、二酸化炭素ガス或いは水等の各種物質の透過及び浸透を防止するための各種表面含浸材の透過抵抗性を評価する試験方法であるが、鉄筋を一方端子とし、表面含浸材が塗布された表面に他方端子となる対極板を接合して、両者間に通電してその電気抵抗値を測定し、この抵抗値が大きいときには、上記物質透過抵抗性が高いものと評価し、逆にこの電気抵抗値が小さいときには、その物質透過抵抗性が低いものと評価する試験である。
【0012】
これにより、表面含浸材の物質透過抵抗性を、表面含浸材と鉄筋とに通電して電気抵抗値を測定するだけで簡単に透過抵抗性の良否を評価することができるものとなる。
この試験方法は、所定の供試体を用いて検査する場合に限られず、既存の建築物にも容易に適用できる試験方法となり、極めて短時間に表面含浸材の評価試験を行うことができるものとなる。
【0013】
本発明の第2のものにおいては、所定のサイズと形状の供試体を用いて、特定種類の表面含浸材を塗布した最初から一定期間経時的に検査する方法を特定したものであって、これにより特定の一つの表面含浸材の透過抵抗性の評価を行うことができる。
上記第1の発明においては、表面含浸材の経時的な評価試験ばかりでなく、特定の時点における透過抵抗性の評価試験を行うことができるのであるが、この第2の発明により実験室内での経時的な評価試験が可能となる。
そして、本発明においては後に説明する試験結果から表面含浸材が塗布された後4週間目以降での電気抵抗値がほぼ一定の値を示し、その塗布後4週間以降の抵抗値が透過抵抗性を評価できる数値と判断できたために、その塗布後4週間以降の電気抵抗値を有意数値と判断し、これを請求項2で特定したものである。
【0014】
本発明の第3のものにおいては、既存の建築物において既に塗布された表面含浸材の物質透過抵抗性の評価試験を、表面含浸材が塗布されている表面に他方の電極を接合して、内部の鉄筋との通電により電気抵抗値を測定することによって簡単に物質透過抵抗性の評価試験を行うことができるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】モルタルによる電気抵抗試験において使用した供試体の説明図である。
【図2】コンクリートによる電気抵抗試験において使用した供試体の説明図である。
【図3】図1に示したモルタル供試体の12週間の電気抵抗値の測定結果のグラフである。
【図4】図2に示したコンクリート供試体の12週間の電気抵抗値の測定結果のグラフである。
【図5】上記モルタル供試体とコンクリート供試体の暴露4週目における供試体毎の電気抵抗値の比較を行ったグラフである。
【図6】上記コンクリート供試体に関して、暴露第8週目における供試体毎の電気抵抗値の比較を行ったグラフである。
【図7】上記コンクリート供試体に関して、暴露12週目における供試体毎の電気抵抗値の比較を行ったグラフである。
【図8】塗布後第8週目におけるコンクリート供試体の電気抵抗値と塩分浸透深さの関係を示すグラフである。
【図9】塗布後第8週目におけるコンクリート供試体の電気抵抗値と透水性の関係を示すグラフである。
【図10】塗布後第8週目におけるコンクリートの電気抵抗値と中性化深さの関係を示すグラフである。
【図11】「道路橋の塩害対策指針(案)・同解説 pp.61-63 付録1 コンクリート塗装材料の品質試験方法(案) (3)遮塩性試験方法」を示す説明図である。
【図12】「遮塩型マクロセル腐食対策工法」の開発研究に用いた電気抵抗試験方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付の図面と共に本発明の実施形態について説明する。
(1) モルタルによる電気抵抗試験
図1は、モルタルによる電気抵抗試験において使用した供試体の説明図である。
この図に示した通り、モルタル供試体10は、一方の電極となる鉄筋11を埋設したモルタル(W/C=50%)を打設した後、その一方の端面12(図中右面)に表面含浸材を塗布したものである。
【0017】
モルタル供試体10のサイズは、端面12の直径が約50mm、高さ(図中左右長さ)が100mm、鉄筋11の直径が約9mm、長さが15mmで、この鉄筋11は、端面12から約30mm程度の位置で直径方向に埋設されている。
【0018】
供試体10が作製された後、4週間の間水中養生を行い、その後2週間に渡り乾燥気中(20±2℃、60±5%)で静置し、このモルタル供試体10の端面12に表面含浸材を塗布する。
その後、1週間は乾燥気中(20±2℃、60±5%)に暴露し、その後11週間は湿潤気中(20±2℃、90±5%)で暴露する。
この期間中、暴露1週目、4週目、8週目及び12週目に、対極板15を表面含浸材の塗布面である端面12に設置し、供試体10内部に埋設された鉄筋(電極)11との間の電気抵抗値を、抵抗計を用いて測定する。
【0019】
尚、暴露4週目までは1水準で2個の供試体を使用し、その後は1個の供試体を割裂して表面含浸材の浸透深さの計測を試みた。
また、表面含浸材(AからW)としては、各種のものを使用したが、シラン系のものとして12種、ケイ酸塩系のものとして7種、併用系のものとして3種、その他の1種と、合計23種類の表面含浸材を試験対象とした。
勿論、この試験対象である供試体として、表面含浸材を塗布していないブランク供試体をも含むことは言うまでもない。
【0020】
この試験結果を示すグラフが図3である。
このグラフから見て取れる通り、表面含浸材が塗布されていないブランク供試体の電気抵抗値は、第1週目から第12週目まで、ほぼ横這いの値で10kΩから30kΩの間であり、第1週目から第4週目までに渡り少し抵抗値が上昇するものの、その後は徐々に低下している。
【0021】
他方、AからWまでの(23種類の)表面含浸材が塗布されたモルタル供試体は、一部例外を除き、第1週目には極めて高い電気抵抗値を示し、第4週目までには急激にその値を低下させ、その後横這いのほぼ一定の値を示している。
但し、この横這いの値に関しては、ブランク供試体と比較すれば、その殆どが電気抵抗値として高い値を示している。
即ち、試験に供された表面含浸材の殆どのものは、表面含浸材が塗布されていないブランク供試体よりも、より高い電気抵抗値を提示している。
【0022】
尚、ここで使用している表面含浸材は、既に一般にコンクリート用表面含浸材として透過抵抗性が認められているものを使用しているが、これらの数種類については後に説明する従来の試験方法によっても試験を行う。
また、図中、シラン系表面含浸材は、上から順番に「A,B,D,P,Q,R,S,T,U,V,K,W」(12種)で示し、ケイ酸塩系表面含浸材は、「E,H,I,J,L,M,O」(7種)で示し、併用系表面含浸材は、「F,G,C」(3種)で示し、その他1種として「N」で示している。
【0023】
(2) コンクリートによる電気抵抗試験
図2が、コンクリートによる電気抵抗試験において使用した供試体の説明図である。
ここでも、前記モルタル供試体と同様に試験を行う。
この図に示した通り、コンクリート供試体20は、一方の電極となる鉄筋21を埋設したコンクリート(W/C=57.5%)を打設した後、その一側面22(図中右面)に表面含浸材を塗布したものである。
【0024】
コンクリート供試体20の形状は、一辺が100mmの立方体である。鉄筋21は直径が約9mm、長さが120mmで、供試体20の中央部に埋設されている。
このコンクリート供試体が作製され、表面含浸材が塗布された後、1週間は乾燥気中に暴露し、その後11週間は湿潤気中で暴露する。この環境条件は、前記モルタルの場合と同様である。
その間、暴露1週目、4週目、8週目及び12週目に、対極板25を表面含浸材の塗布面である一側面22に設置し、コンクリート供試体20の内部に埋設された鉄筋(電極)21との間の電気抵抗値を、抵抗計を用いて測定する。
【0025】
尚、1水準で2個の供試体を使用した。
また上記モルタル供試体10の場合と同様に、表面含浸材としては、既にその透過抵抗性が認められている、シラン系のもの12種、ケイ酸塩系のもの7種、併用系のもの3種、その他の1種と、合計23種類(AからWまで)の表面含浸材を使用した。
【0026】
この試験結果を示すグラフが図4である。
このグラフから見て取れる通り、表面含浸材が塗布されていないブランク供試体の電気抵抗値は、第1週目から第12週目まで、ほぼ横這いの値で約10kΩ前後であり、第1週目から第8週目までに渡りほんの僅かずつ抵抗値が上昇するものの、その後は徐々に低下している。
【0027】
他方、AからWまでの(23種類の)表面含浸材が塗布されたそれぞれのコンクリート供試体は、一部例外を除き、第1週目には極めて高い電気抵抗値を示し、第4週目までには急激にその値を低下させ、その後横這いのほぼ一定の値を示している。
但し、この横這いの値に関しては、ブランク供試体と比較すれば、その殆どが電気抵抗値として高い値を示している。
即ち、試験に供された表面含浸材の殆どのものは、表面含浸材が塗布されていないブランク供試体よりも、より高い電気抵抗値を提示している。
【0028】
このコンクリート供試体の試験結果は、上記モルタル供試体の試験結果とほぼパラレルの結果を示しており、表面含浸材が塗布された供試体が高い電気抵抗値を示し、コンクリート供試体20とモルタル供試体10との電気抵抗値の相違は、前者がその抵抗値の高低の幅が狭く、後者のそれが広いという点である。
即ち、モルタル供試体の試験結果の電気抵抗値の値の高低幅がコンクリート供試体のそれよりも大きいということである。
その他の点に関しては、ほぼ同様の試験結果を提示している。
【0029】
以上から、モルタル供試体にせよ、コンクリート供試体にせよ、表面含浸材が塗布された供試体においては、ブランク供試体と比較すれば、その電気抵抗値が大きい値を示しており、従って、物質透過抵抗性を有する表面含浸材、この試験では23種類の既存の表面含浸材の殆どが、それらが塗布されていない供試体よりも、その電気抵抗値が大きいという結果が提示されたのである。
【0030】
勿論、図3及び図4のグラフを見れば解る通り、表面含浸材が塗布されていないブランク供試体よりも低い抵抗値を示す供試体もあるが、総体的な数値を見れば、表面含浸材が塗布された供試体の電気抵抗値がブランク供試体のそれよりも歴然として高い値を示していることが見て取れるのである。
それ故、表面含浸材が塗布されたモルタル供試体及びコンクリート供試体の電気抵抗値は、表面含浸材が塗布されていない供試体と比較して、その電気抵抗値が高くなる、と結論付けることができるのである。
【0031】
ここで、上記試験における電気抵抗値試験の他の結果データを添付する。
図5は、上記モルタル供試体10とコンクリート供試体20の暴露4週目における供試体毎の比較を行ったグラフである。
図6は、上記コンクリート供試体20に関して、暴露第8週目における供試体毎の比較を行ったグラフである。
図7は、上記コンクリート供試体20に関して、暴露12週目における供試体毎の比較を行ったグラフである。
ぞれぞれの図においては、それぞれの試験で供試体を2個ずつ使用しているために、これらを「供試体1」「供試体2」と表示している。
【0032】
これらのグラフから解る通り、何れのグラフも直線的な右肩上がりの抵抗値を示しているために、供試体1又は2のそれぞれの供試体毎の電気抵抗値は、それぞれ少し異なるものの、電気抵抗値の一定の傾向を見て取ることができ、これらの値は、グラフには現れていないが、ブランク供試体の値よりも高い値を示している。
【0033】
以下、上記試験で使用された各種の表面処理材について、前記段落番号「0003」に記載した従来の各種の試験方法により試験を行い、その試験結果と上記電気抵抗値との比較を行った。
【0034】
(3) コンクリートによる塩分透過浸透深さ試験
JSCE-K524「表面処理材の塩化物イオンの浸透深さ試験方法(案)」に準拠して,表面含浸材の遮塩性を評価した。
すなわち,前述(2)に示す電気抵抗試験と同様に作製された10×10×40cmの直方体のコンクリート供試体を,10×40cmの側面の2面を除いてエポキシ樹脂で被覆し,開放された2面の内1面に対して,表面含浸材を塗布した。
その後,1週間は乾燥気中で暴露した.さらに,12週間に亘り濃度3%のNaCl水溶液へ浸漬した後,供試体を割裂し,0.1N硝酸銀水溶液噴霧により塩分浸透深さを測定した。
【0035】
(4)コンクリートによる中性化深さ試験
JIS A 1153「コンクリートの促進中性化試験方法」に準拠して,表面含浸材の中性化抑制効果を評価した。
すなわち,上記(3)に示す塩分浸透深さ試験と同様の供試体を用い,CO2濃度5%,20±2℃,60±5%の促進中性化環境下へ12週間に亘り暴露し,その後フェノールフタレインアルコール溶液により中性化深さを測定した。
【0036】
(5)モルタルによる透水性試験
JSCE-K-571「表面含浸材の試験方法(案)」に準拠して,表面含浸材の遮水性を評価した。
すなわち,上記した電気抵抗試験と同様に作製された10×10×10cmのモルタル供試体を用い,表面含浸材を塗布した。
それから1週間は乾燥気中(20±2℃、60±5%)で暴露した後,透水試験に供した.
【0037】
以上の試験結果と前記電気抵抗値試験結果を比較検討した結果は、以下の通りと成る。
図8は、第8週目におけるコンクリート供試体の電気抵抗と塩分浸透深さの関係を示すグラフである。図中のアルファベットは、表面処理材の種類を示しており、図2及び図4の場合と同じである。
これによれば、一部例外もあるが、ブランク供試体と比較して、電気抵抗値が大きいほど、塩分浸透深さは小さく、表面処理材の塩分浸透抵抗性は高くなることが確認された。
【0038】
図9は、第8週目におけるコンクリート供試体の電気抵抗値と透水性の関係を示すグラフである。この図においても、図中のアルファベットは、表面処理材の種類を示しており、図2及び図4の場合と同じである(以下同じである。)。
これによれば、一部例外もあるが、ブランク供試体と比較して、電気抵抗値が大きいほど、透水量は少なく、表面含浸材の透水抵抗性は高くなると認められるが、上記遮塩性との関係ほど明瞭には現れていない。
【0039】
図10は、第8週目におけるコンクリートの電気抵抗と中性化深さの関係を示すグラフである。
これによれば、電気抵抗が大きいほど、表面含浸材の中性化抵抗性は高くなる傾向は確認された。
しかしながら、個々に比較すると、逆転しているデータもある。これは、二酸化炭素ガスの透気性は電導性(電気の伝わり易さ)と異なるためと考えられる。
【0040】
上記試験においては、例えば塩化物イオンの透過抵抗性、即ち遮塩性に関しては、各種表面含浸材を塗布した供試体を湿潤気中で電気抵抗値の測定を行い(上記(1)及び(2))、他方で従来のJSCE-K524「表面処理材の塩化物イオンの浸透深さ試験方法」(上記(3))により遮塩性試験を行い、これら両測定結果を比較対照して、電気抵抗値と遮塩性との関係を見出して本発明が創案されたものである。
より厳密には、同一条件で、例えば同一濃度のNacl水溶液の液中で両方の測定を行う事によりより明確な関係が見出せる可能性があるが、本発明においては、その他に透水性試験や中性化試験との関係をも見出すために、表面含浸材が塗布されたコンクリート等の供試体を用いて、上記(1)及び(2)のような経時的電気抵抗値測定を行い、その結果と従来の遮塩性試験、透水性試験及び中性化試験との試験結果との比較を行い、これらと電気抵抗値との関係性を見出すことをその目的としたものである。
【0041】
そして、上記(1)及び(2)の電気抵抗値測定試験により、表面含浸材の物質透過抵抗性能を評価できることが判明し、更にその結果、表面含浸材塗布後4週間以降の抵抗値がほぼ一定の有意な値を示している事をも発見することができた。
これにより、新規な表面含浸材が提案された際には、上記(1)や(2)の試験を行い、約4週間程度で、その物質透過抵抗性を評価することができることとなる。これを本願の特許請求の範囲の請求項2において記載している。
他方、上記の試験結果を利用して、既設の建築物に塗布されている表面含浸材に対する物質透過抵抗性の評価或いはモニタリングをも容易に行うことができることとなるのである。これを本願の特許請求の範囲の請求項3において記載している。
【0042】
以上の通り、本発明においては、塩分浸透性及び透水性に関しては、電気抵抗値との関係が明確となり、電気抵抗値が大きい値を示した場合には、これら塩分浸透性及び透水性に対する透過抵抗が大きく、電気抵抗値が小さい値を示した場合には、その透過抵抗が小さいという比例関係が示された。
但し上述した通り、二酸化炭素ガスの透気性(中性化に対する抵抗性)に関しては、必ずしも上記2種の物質の透過抵抗との関係と異なり、明確な関係を見出すことが出来なかった。
【0043】
以上、本発明においては、鉄筋コンクリート又はモルタルから形成された供試体又は建築物等の物質透過性を、鉄筋を一方端子とし、表面含浸材が塗布された面に接合した他方端子との間の電気抵抗値を測定することにより、かかる表面含浸材の物質透過抵抗性を簡易に測定し、その性能を試験することができる方法を提供することができた。
【符号の説明】
【0044】
10 モルタル供試体
11 鉄筋
12 端面
20 コンクリート供試体
21 鉄筋
22 側面
A〜W 表面含浸材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に鉄筋が配設された鉄筋コンクリート等の被検査物の表面に塗布される表面含浸材に対する塩化物イオンや水等の各種透過物に対する透過抵抗を評価する試験方法であって、
鉄筋を一方端子とし、表面含浸材が塗布された被検査物の表面に他方端子としての対極板を接合して、両端子間に通電することによって両端子間の電気抵抗値を測定し、
当該電気抵抗値が大きいときには上記透過抵抗が大きく、当該抵抗値が小さいときには上記透過抵抗が小さいものと評価するコンクリート表面含浸材の透過抵抗評価試験方法。
【請求項2】
被検査物がその内部に鉄筋を配設した所定サイズの6面体又は略円柱形状を有し、その被検査物の1面に表面含浸材を塗布し、その後約1週間程乾燥気中で乾燥させ、その後12週間程湿潤気中で暴露する期間中の適宜時期に複数回電気抵抗値を測定し、塗布後約4週間以降の電気抵抗値を有意数値として評価することを特徴とする請求項1に記載のコンクリート表面含浸材の透過抵抗評価試験方法。
【請求項3】
被検査物が既設の鉄筋コンクリート構造物であって、その表面には建設時に表面含浸材が塗布されたものであり、当該構造物の鉄筋から予めリード線を配設し、上記表面含浸材の塗布面に他方の端子としての対極板を接合して電気抵抗値を測定することを特徴とする請求項1に記載のコンクリート表面含浸材の透過抵抗評価試験方法。
【請求項1】
内部に鉄筋が配設された鉄筋コンクリート等の被検査物の表面に塗布される表面含浸材に対する塩化物イオンや水等の各種透過物に対する透過抵抗を評価する試験方法であって、
鉄筋を一方端子とし、表面含浸材が塗布された被検査物の表面に他方端子としての対極板を接合して、両端子間に通電することによって両端子間の電気抵抗値を測定し、
当該電気抵抗値が大きいときには上記透過抵抗が大きく、当該抵抗値が小さいときには上記透過抵抗が小さいものと評価するコンクリート表面含浸材の透過抵抗評価試験方法。
【請求項2】
被検査物がその内部に鉄筋を配設した所定サイズの6面体又は略円柱形状を有し、その被検査物の1面に表面含浸材を塗布し、その後約1週間程乾燥気中で乾燥させ、その後12週間程湿潤気中で暴露する期間中の適宜時期に複数回電気抵抗値を測定し、塗布後約4週間以降の電気抵抗値を有意数値として評価することを特徴とする請求項1に記載のコンクリート表面含浸材の透過抵抗評価試験方法。
【請求項3】
被検査物が既設の鉄筋コンクリート構造物であって、その表面には建設時に表面含浸材が塗布されたものであり、当該構造物の鉄筋から予めリード線を配設し、上記表面含浸材の塗布面に他方の端子としての対極板を接合して電気抵抗値を測定することを特徴とする請求項1に記載のコンクリート表面含浸材の透過抵抗評価試験方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−80825(P2011−80825A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−232286(P2009−232286)
【出願日】平成21年10月6日(2009.10.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人土木学会「第64回年次学術講演会講演概要集」(CD−ROM)VI−366(731ページから732ページ)平成21年8月3日
【出願人】(505398963)西日本高速道路株式会社 (105)
【出願人】(593165487)学校法人金沢工業大学 (202)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月6日(2009.10.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人土木学会「第64回年次学術講演会講演概要集」(CD−ROM)VI−366(731ページから732ページ)平成21年8月3日
【出願人】(505398963)西日本高速道路株式会社 (105)
【出願人】(593165487)学校法人金沢工業大学 (202)
【Fターム(参考)】
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