説明

コンクリート製品の製造方法

【課題】 遠心成型によってコンクリート製品を製造する方法において、収縮低減剤をコンクリート製品のひび割れの防止に効果的に作用させて、遠心成型によって製造されるコンクリート製品のひび割れの防止を図ることを目的とする。
【解決手段】 コンクリートを型枠内に収容させて、遠心力が1〜2Gの範囲内となる状態で前記型枠を回転させる低速回転成型と、該低回転成型後に遠心力が5〜15Gの範囲内となる状態で前記型枠を回転させる中速回転成型と、該中速回転成型後に遠心力が20〜40Gの範囲内となる状態で前記型枠を回転させる高速回転成型とが実施される遠心成型によってコンクリート製品を作製するコンクリート製品の製造方法であって、型枠内へのコンクリートの収容後、且つ前記高速回転成型開始前に、収縮低減剤を前記型枠内のコンクリートの表面に散布することを特徴とするコンクリート製品の製造方法による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心成型によるコンクリート製品の製造方法に関し、より詳しくは、例えば、遠心成型による高強度プレキャスト杭などの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリートを型枠に収容させて遠心成型を実施し、得られた成形品を養生させてコンクリート製品を作製する製造方法が広く行われている。
この遠心成型によって得られる成形品の内面には、セメントや骨材の微粒分を多く含むペースト層が形成され、通常、これらは水に対する結合材比が大きいほど厚く形成される。
このペースト層は、外側のコンクリートに比べ大量の微粉と水で構成されるペーストであることから、硬化収縮や乾燥収縮が大きくなりやすく、遠心成型によって作製されるコンクリート製品は、内表面にひび割れが形成されやすいという問題を有している。
特に、単位結合材量が多い高強度プレキャスト杭などの製造においては、ひび割れを生じやすく、この問題の解決が強く求められている。
【0003】
このような問題に対し、予め収縮低減剤を配合したコンクリートを用いて遠心成型を実施することも考え得るが、この場合には成形品全体の収縮量は小さくなるものの、杭の内外における収縮量の比率には変化がなく、ひび割れの発生を抑制することが困難である。
また、収縮量の大きいペースト層は、通常、内面のみに形成されており、コンクリート全体に収縮低減剤を配することは不経済であるともいえる。
さらに、遠心成型後の成形品の内表面に収縮低減剤を塗布することも考え得るが、円周面に収縮低減剤を一様に浸透させることは困難である。
すなわち、遠心成型によるコンクリート製品の製造方法においては、従来、収縮低減剤を用いてのコンクリート製品のひび割れ防止が困難であるという問題を有している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、収縮低減剤をコンクリート製品のひび割れの防止に効果的に作用させて、遠心成型によって製造されるコンクリート製品のひび割れの防止を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決すべく、本発明は、コンクリートを型枠内に収容させて、遠心力が1〜2Gの範囲内となる状態で前記型枠を回転させる低速回転成型と、該低回転成型後に遠心力が5〜15Gの範囲内となる状態で前記型枠を回転させる中速回転成型と、該中速回転成型後に遠心力が20〜40Gの範囲内となる状態で前記型枠を回転させる高速回転成型とが実施される遠心成型によってコンクリート製品を作製するコンクリート製品の製造方法であって、型枠内へのコンクリートの収容後、且つ前記高速回転成型開始前に、収縮低減剤を前記型枠内のコンクリートの表面に散布することを特徴とするコンクリート製品の製造方法を提供する。
【0006】
なお、本発明において、“1〜2G”、“5〜15G”、“20〜40G”のそれぞれの数値については、“自由落下の標準加速度に対する遠心力の比”を表しており、JIS A1136−1993に準じて測定される値である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、遠心成型前にコンクリートに収縮低減剤を練り込む方法や遠心成型終了後に塗布する方法に比べて、適量の収縮低減剤をコンクリート内面に均一に浸透させることでひび割れ防止効果を発揮させうる。
したがって、収縮低減剤の従来の使用方法よりも効率的に、且つ、確実にコンクリート製品のひび割れを防止し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
本実施形態においては、コンクリートを型枠内に収容させて、遠心力が1〜2Gの範囲内となる状態で前記型枠を回転させる低速回転成型と、該低回転成型後に遠心力が5〜15Gの範囲内となる状態で前記型枠を回転させる中速回転成型と、該中速回転成型後に遠心力が20〜40Gの範囲内となる状態で前記型枠を回転させる高速回転成型とが実施される遠心成型によってコンクリート製品を作製する。
しかも、型枠内にコンクリートを収容させた後、高速回転成型が開始されるまでに収縮低減剤を前記型枠内のコンクリートの表面に散布してコンクリート製品を作製する。
【0009】
本実施形態において使用する収縮低減剤としては、低級アルコールアルキレンオキシド付加物、グリコールエーテル・アミノアルコール誘導体、ポリエーテル、エーテル型非イオン表面活性剤、低分子量アルキレンオキシド共重合体などを主成分とするものが挙げられる。
これらの収縮低減剤は、液体状のものであれば、そのままの状態か、又は、適宜希釈したものを、液滴状又は霧状にして散布することができる。
また、固体状の収縮低減剤であれば、微粉末化して散布することができ、要すれば、適宜溶媒に分散させて液体状の収縮低減剤と同様にして散布することができる。
さらには、上記例示の物質は、単独で用いても良く、複数混合して用いてもよい。
【0010】
収縮低減剤は、主に乾燥収縮に対して効果があり、乾燥収縮の比較的小さいコンクリート製品の製造には一般的には使用されない。また、使用される場合においてもコンクリートに練り込むか、遠心成形が終了した後に散布されており、遠心成形の途中において使用されることはない。
【0011】
収縮低減剤をコンクリートの内部に分散させる点からは、より早い段階において収縮低減剤を散布することが好ましく、例えば、型枠にコンクリートを収容させた後、且つ低速回転成型開始前(即ち、コンクリートを単に型枠内に収容させた状態)において収縮低減剤を散布することが好ましい。
ただし、この場合には遠心成型によってコンクリート内部へと移行する量が増えるため、成形品の内表面に作用する収縮低減剤が減少し、ひび割れ防止効果が顕著に発揮され難くなるおそれがある。
【0012】
一方で、遠心成型によって形成される成形品の内表面に収縮低減剤を均一に行き渡らせ得る点においては、遠心成型の後期において収縮低減剤を散布することが好ましい。
しかし、遠心力が20〜40Gの範囲内となる高速回転成型開始後に収縮低減剤を散布したのでは、収縮低減剤を型枠の内壁面に堆積しているコンクリートの表面からその内部に浸透させることができず、散布した収縮低減剤をコンクリート製品のひび割れ防止に有効に作用させることが困難となる。
【0013】
このような観点から、1〜2Gの範囲内となる状態で回転させる低速回転成型を60秒以上実施した後、且つ中速回転成型終了前に収縮低減剤の散布を実施することが好ましい。この時期に収縮低減剤の散布を実施することにより、収縮低減剤の使用量を低減しつつ、コンクリート中に確実に浸透させることができ、ひび割れをより確実に防止させることができる。
【0014】
収縮低減剤の散布量は、コンクリートの表面1m2あたり300g〜1500gの範囲内であることが好ましい。
収縮低減剤の散布量がこのような範囲内であることが好ましいのは、収縮低減剤の散布量が300g/m2未満の場合には、例えば、単位結合材量が500kg/m3以上の高い値となる配合のコンクリートなどにおいてひび割れの発生を抑制させることが困難となるおそれを有し、1500g/m2を超えて散布量を増大させてもコンクリートへの浸透量を増大させることが困難で散布量の増大に見合うひび割れ抑制効果の向上を期待することが困難となるためである。
このような点において、収縮低減剤の散布量は、コンクリートの表面1m2あたり600g〜1500gの範囲内であることがより好ましい。
なお、この収縮低減剤の散布量は、散布された収縮低減剤の全重量(g)を作製されるコンクリート製品の内表面積(m2)で除して求められる値である。
【0015】
収縮低減剤を散布する際には、その全量を一度に散布しても良く、複数回に分けて散布しても良い。
また、散布の具体的な手段については特に限定されることなく、例えば、噴霧器などのノズルを型枠の回転中心軸に相当する位置に配し、型枠の内壁面に堆積しているコンクリートの表面に向けて前記ノズルから収縮低減剤を噴霧させる方法を挙げることができる。
【0016】
また、本実施形態の製造方法は、ひび割れの生じやすい水結合材比の低いコンクリートを用いてコンクリート製品を作製する場合、より具体的には、単位結合材量が500kg/m3以上、且つ水結合材比が0.25以下のコンクリートを用いてコンクリート製品を作製する場合に、特に有効なものとなり得る。
【0017】
また、シリカフュームなどの粒度の細かな材料が配合されるコンクリートや、早強セメントなどひび割れを生じやすいセメントが使用されるコンクリートを用いてコンクリート製品を作製する場合などにおいても、本実施形態の製造方法は、特に有効なものとなり得る。
上記の具体例としては、100N/mm2以上の高強度プレキャスト杭を製造する場合が挙げられる。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実験例で詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0019】
(配合)
まず、遠心成型を行うコンクリートを下記の表1に示す配合により調製した。
なお、使用材料については、下記のものを用いた。
<使用材料>
セメント(HC) :早強セメント
細骨材(S) :陸砂
粗骨材(G) :砕石
高強度混和材 :住友大阪セメント社製「スーパーノンクレーブ」
高性能減水剤(SP):花王社製「マイティHS」
【0020】


【表1】

【0021】
上記配合されたコンクリートに対して、表2に示す量で収縮低減剤(住友大阪セメント社製、アルキレンオキシド系化合物、商品名「テスタF」)を加えて遠心成型を実施し直径20cm×長さ30cm×厚み4cmの円筒状の評価用試料(コンクリート製品)を作製した。
なお、表1のコンクリート配合に対する収縮低減剤の添加方法としては、遠心成型を実施する前にコンクリートに練り込む方法(表2の“練り込み”)と、型枠内のコンクリートが型枠の回転中心軸側に呈している表面に対して噴霧器を用いて噴霧する方法(表2の“散布(噴霧)”)との二通りで実施した。
【0022】
また、遠心成型においては、円筒状の型枠の内側にコンクリートを収容し、低速回転成型(1G)を3分間、中速回転成型(6G)を1分間実施した後に(12G)を1分間、さらに、高速回転成型(25G)を5分間、順に実施した。
そして、収縮低減剤の噴霧は、この低速回転成型終了間際に開始し、中速回転成型の前半において終了させた。
この遠心成型により得られた成形品は、その後、室温20℃で4時間前置き養生をした後に、20℃/hrにて最高温度70℃まで昇温し、70℃を4時間保持させる条件にて蒸気養生を実施した。また、蒸気養生終了後は、温度20℃湿度60%となる条件で1年間保持させて評価用試料とした。
【0023】
(評価)
得られた評価用試料は、その内表面におけるひび割れの有無を目視にて観察し、ひび割れが確認された場合はひび割れ幅を測定し、
ひび割れが全く認められない場合に「◎」、
蒸気養生終了時に0.05mm以下のひび割れがあるものの、その後ひび割れ幅が大きくならなかった場合に「○」、
評価○以外のひび割れが確認できた場合に「×」、
として判定した。
結果を併せて表2に示す。

【0024】
【表2】

【0025】
この表からも、本発明によれば、収縮低減剤をコンクリート製品のひび割れの防止に効果的に作用させることができ、遠心成型によって製造されるコンクリート製品のひび割れの防止を図りうることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートを型枠内に収容させて、遠心力が1〜2Gの範囲内となる状態で前記型枠を回転させる低速回転成型と、
該低回転成型後に遠心力が5〜15Gの範囲内となる状態で前記型枠を回転させる中速回転成型と、
該中速回転成型後に遠心力が20〜40Gの範囲内となる状態で前記型枠を回転させる高速回転成型とが実施される遠心成型によってコンクリート製品を作製するコンクリート製品の製造方法であって、
型枠内へのコンクリートの収容後、且つ前記高速回転成型開始前に、収縮低減剤を前記型枠内のコンクリートの表面に散布することを特徴とするコンクリート製品の製造方法。
【請求項2】
前記低速回転成型を60秒以上実施した後、且つ中速回転成型終了前に前記収縮低減剤の散布を実施する請求項1記載のコンクリート製品の製造方法。
【請求項3】
前記コンクリートの単位結合材量が500kg/m3以上で、水結合材比が0.25以下である請求項1又は2記載のコンクリート製品の製造方法。
【請求項4】
前記収縮低減剤の散布量が、コンクリートの表面1m2あたり300g〜1500gの範囲内である請求項1〜3の何れか1項に記載のコンクリート製品の製造方法。