説明

コンタクトレンズを使用する近視の制御

【課題】 近視を制御するためのデバイスおよび方法を提供すること。
【解決手段】本発明のデバイスおよび方法は、近業と、瞼により眼にかかる力と近視との関係の本発明者らの発見に関連する。このデバイスは、瞼により眼にかかる力を分散させる領域を備えるコンタクトレンズを含む。このデバイスはまた、近業前の眼の第一の波面収差を測定し、近業後の眼の第二の波面収差を測定することにより設計されるデバイスを含む。この方法は、近業に関連する光学変化を同定する工程、およびこの光学変化を光学デバイスにより矯正する工程を含む、近視を制御するための方法を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近視を制御するための方法および光学デバイスに関する。詳細には、しかし排他的に、本発明は、近業および下視(down gaze)に関連する近視を制御するための光学的方法および光学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近視は、網膜上ではなく網膜の前方で物体の像が結像することにより、遠方の物体が不鮮明に見える視力障害である。用語、近視は、軸性近視、屈折性近視、近視性乱視および単純近視を含むがこれらに限定されない全ての形態の近視を包含する。近視はまた、近眼(nearsightednessまたはshort sightedness)としても知られる。ある種の近視は乱視を伴うが、これは、しばしば、眼の角膜の不均等な湾曲から生じ、これにより光線が網膜中の1つ以上の点にはっきりと結像するのが妨げられ、ぼやけた視界が生じる。近視は、一般的な視力障害である。近視の進行は、近視状態の悪化であり、その結果、人はより近眼となる。近視および近視の進行は、近視性網膜変性、緑内障および網膜剥離のより高い危険性を伴う。さらに、先進国において、近視は現在、記録された失明の5番目に多い原因である。
【0003】
近視の高い危険因子としては、近視の両親、近業の量、早期視覚奪取(early visual deprivation)および民族性(アジア人の近視の割合は白人より顕著に高い)が挙げられる。視力矯正(例えば、近視用の、眼鏡、コンタクトレンズおよび屈折矯正手術)は、高額な医療費となる。
【0004】
近視の進行はしばしば、軸性または屈折性の原因のいずれかとして特徴付けられる。軸性近視において、眼は長く成長しすぎ、その結果、角膜の前面と網膜との間の距離は、眼の光学屈折力と比較して長すぎることになる。この伸長は一般的に、水晶体の裏面と網膜との間の距離である硝子体腔深さにおいて生じる。まれに見られる屈折性近視において、眼の屈折力、主に、角膜と水晶体の屈折力は、眼軸の長さに比べて強すぎる。
【0005】
乱視は一般的に、角膜が非対称的に成長して角膜乱視を生じることに起因するが、これはまた水晶体の光学特性によって生じ得る。
【0006】
したがって、眼の成長の制御は、さまざまなメカニズムから生じ得、このメカニズムとしては、眼軸長、角膜の屈折力または眼の内側の水晶体の屈折力が挙げられる。したがって、眼の自然な軸方向成長および眼の光学的構成要素の屈折力を制御すると考えられるこれらのメカニズムがないと、一般的な屈折異常(例えば、単純近視、単純遠視、近視性乱視、遠視性乱視および混合乱視)が生じ得る。
【0007】
以前の近視制御の試みは、眼鏡、薬理学的方法およびコンタクトレンズを含んでいた。眼鏡に基づく治療は、遠近両用レンズ、近用(near)Rx(近用度付きレンズ(near prescription lenses)、および多重焦点レンズが含まれていた。
【0008】
近視制御のための薬理学的なアプローチは、アトロピンおよびピレンゼピンを含んでいた。アトロピンは、眼の遠近調節を麻痺させる薬物であり、近視の進行を遅らせることが示されているが、これは実用的な処置ではない。選択的M1ムスカリンアンタゴニストであるピレンゼピンは、近視の進行を1年間にわたり緩和することが示されているが、その後の結果は、ピレンゼピンの効果が制限されることを示唆している。
【0009】
近視制御のための眼鏡に基づくアプローチはまた、欠点を有する。なぜなら、一部の人は眼鏡がない方がより魅力的である、すなわち眼鏡により邪魔されたくないと考えるか、またはコンタクトレンズを使用してより良好な周辺視野が得られると考えるため、彼らはコンタクトレンズの装着を好むからである。さらに、コンタクトレンズは、スポーツのような多くの活動的な試みに好適である。
【0010】
近視制御のためのコンタクトレンズに基づくアプローチは、硬質レンズまたはハードレンズ、および角膜矯正治療に限られていた。角膜矯正治療は、よりはっきりした視覚を達成することを目的として、眼の角膜を一時的に変形させるためのコンタクトレンズの使用である。
【0011】
ハードコンタクトレンズおよび近視の進行に関する多くの研究が行われてきた。しかし、それらの結果は、ハードコンタクトレンズが近視の進行を遅らせるある程度の証拠を示すものの、これらの結果は決定的ではない。それにもかかわらず、ハードコンタクトレンズは時折、装着者にとって不快であり、比較的過敏な眼については、ノンコンプライアンスを生じる。
【0012】
米国特許第6045578号は、眼の特定の光学収差である球面収差に基づく眼の成長制御の可能な方法を確認している。米国特許第6045578号は、負の球面収差の存在がどのように眼の成長を促進し得るかを開示しており、従って、この眼の負の球面収差の矯正がどのように眼の成長を遅らせる、または停止させ得るかを示している。米国特許第6045578号は、下視および近業に関連する近視または近視の進行の特定の原因を解決していない。したがって、これらの近視の特定の原因を解決する方法およびデバイスが必要である。
【0013】
本明細書において、用語「含む(comprise)」、「含んでいる(comprising)」または類似の用語は、非排他的包括を意味することを意図し、その結果、一連の要素を含む方法、システムまたは装置は、それらの要素のみを含む(include)のではなく、記載されていない他の要素もまた含み得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第6045578号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、従来技術に関連する1つ以上の上記の課題を解決するか、または少なくとも改善するか、あるいは有用な商業的代替物を提供することである。したがって、本発明の別の目的は、近視および近業に関連する眼の特性(例えば、眼の成長)を制御するための方法およびデバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の1つの局面は、最も広範な形態のみである必要も、実際に最も広範な形態である必要もないが、中心レンズおよび外側領域を含むコンタクトレンズにあり、ここでこの外側領域は、瞼により眼にかかる力を分散させる肥厚化領域を備える。
【0017】
1つの形態において、この肥厚化領域は、水平バンドを備える。
【0018】
本発明の別の局面は、中心レンズおよび外側領域を備えるコンタクトレンズにあり、ここでこの中心レンズは、瞼により眼にかかる力を分散させる高弾性率領域を備える。
【0019】
本発明のさらなる局面は、中心レンズおよび外側領域を備えるコンタクトレンズにあり、ここでこの外側領域は、瞼により眼にかかる力を分散させる高弾性率領域を備える。
【0020】
本発明のなおさらなる局面は、外表面領域および内表面領域を備えるコンタクトレンズにあり、ここでこの外表面領域は、瞼により眼にかかる力を分散させる高弾性率領域を備える。
【0021】
本発明のなおさらなる局面は、瞼により眼にかかる力を分散させる連続気泡材料を含むコンタクトレンズにある。
【0022】
本発明の別の局面は、近視を制御する方法にあり、この方法は、近業に関連する光学変化を同定する工程、およびこの光学変化を光学デバイスで矯正する工程を含む。
【0023】
本発明のさらなる局面は、近業前の眼の第一の波面収差を測定し、近業後の眼の第二の波面収差を測定することにより設計される光学デバイスにある。
【0024】
本発明のなおさらなる局面は、瞼により眼にかかる力を測定し、この測定された力に基づいて、瞼により目にかかる力を分散させるコンタクトレンズを設計することにより設計されるコンタクトレンズにある。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、本発明の第一の実施形態の概略図である。
【図1a】図1aは、本発明の第一の実施形態の斜視図である。
【図2】図2は、本発明の第二の実施形態の概略図である。
【図2a】図2aは、本発明の第二の実施形態の斜視図である。
【図3】図3は、本発明の第三の実施形態の概略図である。
【図3a】図3aは、本発明の第三の実施形態の斜視図である。
【図4】図4は、本発明の第四の実施形態の概略図である。
【図5】図5は、本発明の第五の実施形態の概略図である。
【図6】図6は、本発明の第六の実施形態の概略図である。
【図7】図7は、本発明の第七の実施形態の概略図である。
【図8】図8は、本発明の第八の実施形態の概略図である。
【図9】図9は、本発明の第九の実施形態の概略図である。
【図10】図10は、本発明の第十の実施形態の概略図である。
【図10a】図10aは、本発明の第十の実施形態の斜視図である。
【図11】図11は、4回の読書試験後の角膜の屈折力変化の回帰を示すグラフである。
【図12】図12は、角膜の90度の経線に沿った瞬間度数差の分布図における度数の最大変化の位置を示す、角膜トポグラフィー差異分布グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、例示のみの目的のため、本発明の好ましい実施形態を、添付の表および図面を参照してより十分に記載する。
表1は、3種の一時間作業(読書、顕微鏡使用、およびコンピュータ作業)の、角膜光学に対する相対的な影響を示す表である。
【0027】
(発明の詳細な説明)
本発明者らは、眼の成長を制御するための新規な光学的方法および新規な機械的方法を確認した。上記のように、近視は一般に、眼が長く成長し過ぎることにより生じる。眼の成長を制御することは、制御の任意の局面(例えば、眼の成長の抑制、眼の成長の促進、眼の成長の操作および眼の成長の調節)を含む。
【0028】
上下の瞼は、眼および眼の構成要素に力を付与する。精査の結果、本発明者らは、瞼により眼にかかる力は、近視および近視の進行と関連することを発見した。
【0029】
本発明者らは、近視および近視の進行のこの新規な原因の研究を行い、近業に関連する光学変化を同定する工程、およびこの変化を光学デバイスで矯正する工程を含む、近視を制御するための新規な方法を解明した。
【0030】
本明細書中で使用される場合、近視の制御は、治療的処置および待機的処置の両方を含む。従って、近視を処置する方法は、近視の発生を防止すること、ならびに近視の進行を制御および防止することを含む。
【0031】
近業に関連する光学変化の矯正は、この光学変化を矯正、調節、変更、抑制および反転する工程を含む。
【0032】
本発明者らはまた、近視の新規な原因の研究を行い、眼の近業に関連する近視の新規な制御方法を解明した。この方法は、瞼により眼にかかる力を分散させて、この力がもはや眼にかからないようにする工程を含む。瞼により眼にかかる力と、近業と、近視との間の関連性を、表1、図11および図12に示す。これらの表および図面を、以下の実施例において詳細に議論する。
【0033】
本明細書中で使用される場合、瞼の力を分散することは、上瞼および下瞼の少なくとも一方により眼にかかる力を吸収すること、および方向変化させることの両方を含む。瞼の力を分散させることは、そうでなければ上瞼および下瞼の少なくとも一方により、コンタクトレンズ内の眼にかかるであろう力を分散させることを含み、これにより、この力はコンタクトレンズにより吸収される。瞼の力を分散させることはまた、そうでなければ上瞼および下瞼の少なくとも一方により眼にかかるであろう力を、眼ではない物体および近視に影響しない眼の領域に再分配することを含む。
【0034】
厚み、弾性率、弾性特性、空気力学的特性および水力学的特性を含むがこれらに限定されない多くの材料特性が、瞼の力を分散させるために使用され得る。
【0035】
上瞼および下瞼により眼にかかる力の分散は、レンズを全体的に厚くすることにより、または1つ以上の規定された領域においてレンズを厚くすることにより達成され得る。レンズの肥厚化の代替としては、この場合も同様に、局所的にかもしくは全体的に、または1つ以上の規定された領域において、レンズ材料の弾性率を変更することがある。レンズ材料の弾性率は、より高い値またはより低い値に変更される。
【0036】
本発明において用いられるコンタクトレンズは、各個人の眼の固有の低次収差および高次収差に基づいて設計されたコンタクトレンズにカスタマイズされ得る。従来のコンタクトレンズは、低次収差(近視、遠視および乱視)を矯正し、一方、カスタマイズされたコンタクトレンズはまた、光学特性を含む高次収差(例えば、コマ、球面収差、およびトレフォイル(trefoil))を矯正する。好ましくは、上瞼および/または下瞼により眼にかかる力は、眼の光学特性が下方視や近業により変わらないように分散される。
【0037】
眼の光学特性としては、眼自体の特性が挙げられ、これには低次収差(例えば、一般的に近視、遠視および乱視から生じるもの)、および高次収差(例えば、コマ、球面収差およびトレフォイル)が挙げられるが、これらに限定されない。眼の光学特性としてはまた、眼の構成要素部分の特性が挙げられる。眼の構成要素部分としては、角膜、水晶体、瞳孔、虹彩、網膜および眼球が挙げられるが、これらに限定されない。
【0038】
最も近視制御の対象とし易い光学特性は、眼の高次収差の特性(例えば、コマ、球面収差およびトレフォイル)であると理解されている。しかし、低次成分の特性(例えば、焦点ぼけおよび乱視)は、近視の進行を制御するために変更され得る。
【0039】
眼の近業は、眼に近い物体または文章の視覚化に関して、眼により行われる任意の作業であり、これには、書かれた文章または印刷された文章(例えば、本、電子本もしくはコンピューター化された本(イーブック)の文章)、コンピューターのモニター(デスクトップ型およびラップトップ/ノート型コンピューターのモニターを含む)、他の電子スクリーン、新聞、雑誌、またはその上に文章が表示された任意の他の物体を読むこと、および下方視を伴う作業(例えば、顕微鏡使用)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0040】
ある種の近業には、眼が下方視の状態にある必要がある。本明細書および添付の特許請求の範囲において、下方視(downward gaze)および下視(down gaze)は、同義的に使用され、眼により取られるすぐ前方より下の任意の位置を意味する。すなわち、下視は、正面視より下の任意の位置である。正面視はまた、初期視(primary gaze)としても知られる。
【0041】
眼の近くとは、物体または文書から眼まで1〜100cmを意味する。
【0042】
近業が下視近業を含むことは、当業者に理解される。下視近業は、眼が下視状態にある任意の近業である。下視近業を必要とする容易に判別可能な作業は多く存在する。例えば、下視近業の非限定的な一例は、椅子に座った状態で本を読むことである。椅子に座って読書をしている人により取られる通常の姿勢は、その人が下視で近業を行うことが必要である。
【0043】
下視近業(例えば、読書)中、瞼の端部(すなわち、眼瞼縁)は、代表的には、瞳孔の中心から2〜4mmに位置し、ここで、上瞼縁は代表的に、下瞼縁より瞳孔の中心に近い。瞼の端部は、瞳孔の中心から近くて0.5mm、または遠くて10mmのところにあり得る。眼がさらに下方を見ると、下瞼は、上瞼に比べて、瞳孔の中心にさらに近くなる。
【0044】
一般に、従来技術のコンタクトレンズは、直径7〜9mmの中心レンズを備える。従来のコンタクトレンズの中心レンズは、表面湾曲および裏面湾曲を含み、これらが合わさってこのレンズの屈折力を生じる(レンズの厚みおよびレンズ材料の屈折率の評価後)。
【0045】
用語、コンタクトレンズとは、眼球の上に配置される全製品をいう。中心レンズに加えて、コンタクトレンズはまた、通常は外側領域を備える。この外側領域は、中心レンズの端部とコンタクトレンズの端部との間に位置する。通常、コンタクトレンズの外側領域は、眼へのレンズの快適な装着を提供し、眼の正常な機能に対して最小限の生理学的破壊しか生じないように設計される。
【0046】
コンタクトレンズはまた、環境に曝される外表面領域、および眼に接触する内表面領域を有する。
【0047】
コンタクトレンズの中心レンズは、コンタクトレンズの光学特性に影響を与えることなく、厚みにおける部位的変化を有し得ない。実際、このことにより、瞼の力を分散させるための厚みを増した領域は、コンタクトレンズの外側領域に制限される。この外側領域は、別個の特性(例えば、厚みまたは弾性率)を有する2つ以上の小領域に再分割され得る。
【0048】
コンタクトレンズ中の厚みを増した領域は、ヒドロゲルポリマー(例えば、ヒドロキシエチルメチルアクリレート)、シリコーンヒドロゲルポリマー、硬質ガス透過性ポリマー(例えば、シリコーン−アクリレート、またはフルオロ−シリコーン−アクリレート)、およびハードレンズポリマー(例えば、ポリメチルメタクリレート)、またはこれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない材料から構成され得る。図面は、レンズの中心領域における眼瞼圧を低減する肥厚化領域を有するレンズの多数の実施形態を示す。
【0049】
図1は、本発明の第一の実施形態を示し、ここで、コンタクトレンズ10は、水平バンド11(11aおよび11b)を備える。コンタクトレンズ10の外側領域12は、通常の厚みの小領域13と、厚みを増した水平バンド11を構成する小領域とを備える。当業者は、用語、領域および小領域は、明確にするために使用され、この小領域が一種の領域であることを理解する。第一の実施形態の構造は、図1aの側面図において最も明確に見られる。水平バンド11は、近業中、レンズ上の、コンタクトレンズ10上の上瞼および下瞼の近位に対応する位置に位置する。
【0050】
本発明の第一の実施形態において、この厚みを増した領域は、下方視における瞼の位置、すなわち、下視における瞼のおおよその位置にほぼ対応する水平バンド11である。コンタクトレンズ10が装着されている場合、水平バンド11の所望の位置は、瞳孔の中心から約2〜4mmであるが、コンタクトレンズ10が装着されている場合、瞳孔の中心から0.5〜5mm、またはその間の任意の値であってもよい。例えば、コンタクトレンズが装着されている場合、水平バンド11の位置は、瞳孔の中心から0.5、0.75、1.0、1.25、1.5、1.75、2.0、2.25、2.5、2.75、3.0、3.25、3.5、3.75、4.0、4.25、4.5、4.75、または5.0mmであり得る。
【0051】
第一の実施形態の変形物において、1つの水平バンド11のみが存在する。この1つの水平バンド11は、上部水平バンド11aまたは下部水平バンド11bのいずれかであり得る。上部水平バンド11aは、近業中の上瞼のおおよその位置に対応する位置に位置する。下部水平バンド11bは、近業中の下瞼のおおよその位置に対応する位置に位置する。
【0052】
下視における上瞼および下瞼のおおよその位置は、下視を取っている人の瞼の位置を測定することによって、顔に関する眼の構造を測定することによって、既報値を参考にすることによって、またはこれらの方法の組み合わせによって、得られ得る。
【0053】
水平バンド11は、好ましくは、50ミクロンから500ミクロンの範囲の厚みを有し得るが、使用される材料の弾性率に依存して、10ミクロンから1000ミクロンの範囲およびこれらの間の任意の値であってもよい。例えば、水平バンド11の厚みは、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、および1000ミクロンであり得る。
【0054】
従来のコンタクトレンズの厚みは、50ミクロンから500ミクロンの範囲にある。
【0055】
本発明の第一の実施形態によると、図1に示されるように、外側領域12中の水平バンド11は、コンタクトレンズ10の中心レンズ15内まで拡がらない。
【0056】
瞼は、コンタクトレンズ表面上の急激な曲率変化に敏感である。従って、肥厚化は、装着者が耐えられると考えられる量に実際的に制限される。瞼の力を分散させるために全体的に肥厚化したレンズを提供するためには、コンタクトレンズの厚みは、使用される材料の弾性率に依存して、100〜1000ミクロン、またはその間の任意の値であるべきである。例えば、全体的に肥厚化されたコンタクトレンズの厚みは、100、125、150、175、200、225、250、275、300、325、350、375、400、425、450、475、500、525、550、575、600、625、650、675、700、725、750、775、800、825、850、875、900、925、950、975、または1000ミクロンであり得る。
【0057】
本発明のコンタクトレンズはまた、このコンタクトレンズが眼上にある場合に回転しないように構成された特性を備え得る。これらの位置決め特性を備えることにより、厚みを増した領域は正しい位置にとどまり、眼瞼の力を吸収する。これらの位置決め特性は、傾斜のような肥厚化ゾーンを使用することによるコンタクトレンズの回転を止めるように設計される。この傾斜ゾーンは、厚みを増した領域とほぼ同じ位置にあり、眼瞼の力を吸収する。ソフトトーリックレンズと呼ばれる従来のコンタクトレンズの構造において、瞼はまばたきの度に傾斜ゾーンを圧迫し、レンズの自由な回転を妨げる。
【0058】
本発明のコンタクトレンズは、傾斜ゾーンまたは従来のコンタクトレンズの他の設計上の特性を併せ、コンタクトレンズの回転を最小限にし得る。
【0059】
上で議論したように、レンズの快適性は、装着者のコンプライアンスに重要である。一部の人々は、コンタクトレンズ上の厚みの増した水平バンドを不快と感じるかもしれない。なぜなら、装着者の瞼は、自然のまばたきの度に水平バンドの上を動くからである。本発明の第二の実施形態は、レンズの完全環状周辺ゾーンを通常よりも厚くして、瞼の力を吸収することにある。
【0060】
図2は、本発明の第二の実施形態を示し、ここで、コンタクトレンズ20の外側領域21全体は、従来のコンタクトレンズにおけるよりも厚い。外側領域21全体にわたって増加した厚みを有するようにコンタクトレンズを設計することは、自然のまばたきの間に瞼が通過する厚みの変動を最小限にするという利点を有する。この構造は、図2aに示される側面図において最も明確に見られ、この図2aは、外側領域21と内側領域22との間の寸法差を明確に示している。
【0061】
本明細書中で議論される厚い方の領域から薄い方の領域までの全ての移行において、この移行は1°から90°までの任意の勾配であり得ることが理解される。当業者は、快適性の観点から、一方の領域からもう一方の領域まで、すなわち、一方の小領域からもう一方の小領域までの勾配が、可能な限りなだらかに形成されることを容易に理解する。
【0062】
厚みが増した領域が外側領域に限定されるコンタクトレンズは、0.1mmから1.0mm幅のなだらかな移行曲線を有するべきである。この移行曲線は、通常、各面の湾曲に対して接線方向である。
【0063】
より厚いレンズ、および付随のより厚いレンズの端部は、一部の人々にとって不快であり得、第三の実施形態は、コンタクトレンズ全体を、従来のコンタクトレンズよりも厚くすることにある。厚みを増した領域がコンタクトレンズの外側領域に制限される場合、コンタクトレンズ全体をより厚くすることにより、外縁部から中心までのレンズの厚みに用いられる勾配の大きさを、許容されるよりも小さくすることができる。
【0064】
第三の実施形態は、図3に示される。図3は、全体的に厚みを増加したコンタクトレンズ30を示す。この実施形態において、中心レンズ31および外側領域32の両方は、増加した厚みを有する。コンタクトレンズを全体にわたってより厚くすることにより、コンタクトレンズの中心レンズにおける局所的な厚みに関連する光学的な問題を解決できる。コンタクトレンズ30の断面は、図3aに示される。
【0065】
図面に示される水平バンドは、全て四角形であるが、上瞼および/または下瞼により眼にかかる力を吸収および/または再分配するように設計された任意の形状が使用され得ることが理解される。
【0066】
さらに、図面に示される水平バンドは、90°の段階的な増加を示しているが、水平バンドへの移行は、1°から89°の角度の漸進的な増加、または2つの隣接する湾曲の間の漸進的な移行を提供する任意の数学的記述を有する曲線であり得る。
【0067】
上記のように、瞼の力を吸収する別の方法は、変更された弾性率を含むコンタクトレンズを提供することである。材料の弾性率は、(単位面積あたりの力)/(単位長さあたりの変位)の単位で測定される。質的には、このことは、所定の寸法および所定の変形様式(例えば、曲げ)を有する試験片に関して、より高い弾性率を有する材料は、所定の変形(例えば、曲げ)を達成するのにより大きな力を必要とすること、すなわち同様に、所定の力の付与に対して、より高い弾性率を有する材料は、より低い弾性率の材料よりも変形(例えば、曲がり)が小さいことを意味する。
【0068】
特に明記しない限り、本明細書中で記載される弾性率の値は、ヤングの剛性率(kg/cm)である。従来のコンタクトレンズにおいて使用される材料は、以下に示される範囲のヤングの剛性率を有する:
ヒドロゲル(ソフトレンズ) 3〜20kg/cm
シリコーンヒドロゲル 20〜100kg/cm
硬質ガス透過性レンズ 200〜1000kg/cm
【0069】
本発明の他の実施形態において、コンタクトレンズ材料の弾性率は、弾性率または架橋密度を増加させることによって変更される。増加した弾性率を有する材料は、増加した架橋を有する従来技術のコンタクトレンズのポリマーおよびコポリマーを含み得る。コンタクトレンズ材料の弾性率を増加させる別の選択肢としては、従来技術のコンタクトレンズ材料に加えられるような添加剤を使用することによるものがある。弾性率を増加させるいくつかの一般的な原料モノマーは、シリコーンおよびメチルメタクリレートである。
【0070】
外側領域および2つ以上の外側小領域用の高弾性率コンタクトレンズ材料は、好ましくは、20〜1,000kg/cm、またはこれらの間の任意の値の弾性率を有する。例えば、外側領域および2つ以上の外側小領域用の高弾性率のコンタクトレンズ材料は、20、50、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、または1000kg/cmの弾性率を有し得る。
【0071】
中心レンズ用の高弾性率コンタクトレンズ材料は、好ましくは、20〜1,000kg/cm、またはこれらの間の任意の値の弾性率を有する。例えば、中心レンズ用の高弾性率コンタクトレンズ材料は、20、50、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、または1000kg/cmの弾性率を有し得る。
【0072】
コンタクトレンズの弾性率における増加は、コンタクトレンズ全体が高弾性率材料から製造された場合、全体的な増加であり得る。
【0073】
別の選択肢には、弾性率の増加を、コンタクトレンズの1つ以上の別個の局所領域(例えば、中心レンズ、外側領域もしくは外側小領域、中心レンズの外(前)面、または外表面領域全体)に限定することがある。
【0074】
高弾性率を有する材料の領域を組み入れるソフトレンズは、種々の形態をとり得る。図4は、第四の実施形態を示し、ここで、高弾性率の領域は、コンタクトレンズ40の中心レンズ41中にある。この実施形態のコンタクトレンズは、従来のソフトレンズ材料の外側領域42により囲まれた高弾性率の硬質中心レンズ41を有する。従来のソフトレンズ材料の外側領域は、囲い(skirt)、すなわち、環部と称され得る。
【0075】
図5は、本発明の第五の実施形態を示し、ここで、コンタクトレンズ50の外側領域51は、2つの小領域を備える。外側領域51は、第一の小領域52を含み、この第一の小領域52は、第二の小領域53の外側を囲んでいる。第一の小領域52は、通常の弾性率を構成し、第二の小領域53は、高弾性率を構成する。第二の小領域53は、通常の弾性率の中心レンズ54を囲む。コンタクトレンズ50の中心レンズ54に関して、通常の弾性率の周環部である第一の小領域52は、高弾性率材料の環部である第二の小領域53の外側に位置し、一方、ソフト中心レンズ54はこの第二の小領域53の内側に位置する。
【0076】
図6は、本発明の第六の実施形態を示し、ここで、増加した弾性率を有する領域61は、コンタクトレンズ60の外側領域62および中心レンズ63の両方を通る。外側領域62は、通常の弾性率のコンタクトレンズ材料、および高弾性率の水平バンド61を含む。中心レンズ63は、高弾性率の上部小領域63aおよび下部小領域63b、ならびに通常の弾性率の中心領域63cを含む。
【0077】
眼における位置に関して、上部および下部と表記される。コンタクトレンズが使用のために眼に配置される場合、上部小領域は上瞼に近く、コンタクトレンズが使用のために眼に配置される場合、下部小領域は下瞼に近い。
【0078】
正確な光学補正について、高弾性率中心レンズ小領域63a、63bの屈折率は、通常弾性率の中心レンズ小領域63cと同一かまたはこれに非常に近いことが理解される。これら2つの材料の屈折率が異なる場合、中心レンズ63の形状および/または厚みは、適切な光学補正を生じるように変更され得る。この様式で中心レンズ63の形状および/または厚みを変更するには、コンタクトレンズがまばたきの間回転しないように、レンズを安定化する必要がある。コンタクトレンズが瞬きの間に回転する場合、中心レンズの眼に対する光学的アラインメントが変化する。
【0079】
ソフトトーリックコンタクトレンズのデザインにおいて通常行われるように、コンタクトレンズは、このコンタクトレンズのデザインに安定化ゾーンを加えることによって、まばたきの間の回転に対して安定化され得る。これらの安定化ゾーンは、各まばたきの間に瞼により生じる圧迫力と相互作用して、ほぼ正しい方向でレンズを安定化させる、より大きなレンズ厚を有する領域である。
【0080】
図7は、本発明の第七の実施形態を示す。図7は、高弾性率の領域が、水平バンド72を構成する外側領域の小領域に限定されたコンタクトレンズ70を示す。図7に示されるように、第七の実施形態によると、水平バンド72は、中心レンズ71中まで拡がらず、このコンタクトレンズの中心レンズは通常の弾性率を有する。
【0081】
図8は、本発明の第八の実施形態を示す。図8は、コンタクトレンズの外表面領域および内表面領域が異なる弾性率値を有するコンタクトレンズ80を示す。図8に示される第八の実施形態において、外表面領域81は、高弾性率を有し、コンタクトレンズの内表面領域82(コンタクトレンズ80が眼に配置されている場合、角膜に接触している)はより低い弾性率を有する。
【0082】
図9は、本発明の第九の実施形態を示す。図9は、外表面領域91が、中心レンズ領域92中にのみ、高弾性率の第一の中心小領域92を有し、一方、この外表面領域91の外側小領域93、およびこのレンズの大部分、ならびに内表面領域94(角膜に接している)がより低い弾性率を有する、コンタクトレンズ90を示す。
【0083】
より高い弾性率を有するコンタクトレンズ材料は、瞼により及ぼされる力の吸収または再分配のための一つの選択肢であるが、弾性率に加えて、瞼によって眼にかかる力を分散させるように働き得る他の材料特性が存在する。例えば、連続気泡発泡体材料が力を吸収するのに有用である。
【0084】
瞼により眼にかかる力を分散させるために、弾性率の高くない力分散材料を含むコンタクトレンズは、弾性特性、空気力学的特性および水力学的特性の1つ以上を有し得る。
【0085】
これらの弾性、空気力学的、水力学的またはそれらの組み合わせの材料は、図1、2、5、6、7、8および9に示されるような実施形態において用いられ得る。
【0086】
これらの弾性率の高くない力分散材料の例としては、連続気泡ポリマーが挙げられ、この連続気泡ポリマーは、気体、ゲルまたは流体を満たす、すなわちこれらで満たされるよう設計された連続気泡またはポケットを有する。この連続気泡は、ポリマー材料により完全に囲まれており、外環境に曝されない。一実施形態において、流体は装着者の涙液である。
【0087】
これらの材料が周囲のレンズ材料と同じ屈折率ではない場合、これらの材料が、図7に示されるのと同様にレンズの周辺に制限され得るか、または光学補正が、これらの領域において異なるレンズ表面曲率を使用して行われ得るかのいずれかである。
【0088】
図10は、本発明の第十の実施形態を示し、これは、図10aに最も明確に示されるように、下にある角膜105を収容する硬質コンタクトレンズ100を使用する。角膜トポグラフィーを測定することによって、レンズ102の周辺付近で下にある角膜と接触するが、装着者の涙液で満たされる、レンズの裏面104と角膜105との間の一定の厚みの空間103を有するレンズが、装着者用に設計され得る。
【0089】
上記のように、本発明はまた、光学的手段により近視の進行を制御するための光学的方法を提供し、この方法は、近業または下視に関連する光学変化を同定する工程、およびこれらの変化を、光学デバイスを用いて矯正、変更または反転させる工程を含む。近業の間に必要とされる光学補正は、通常の見る条件で必要とされるそれとは異なる。したがって、視覚は、これらの条件のうちの1つにおいて制限され得る。
【0090】
本発明の光学的方法の一実施形態は、近業前の眼の波面収差の第一の測定、および近業後または近業の間の眼の波面収差の第二の測定を行う工程を含む。第一の測定において、測定されるべき眼は、正面視(すなわち、初期視)であるべきであり、調節要求(すなわち、遠点(optical infinity)または近点(near optical infinity)にある標的を見ること)を有さないべきである。次いで、下視で眼の焦点を近くの標的に合わせながら(すなわち、眼が遠近調節する)、眼の波面収差の第二の測定が、近業期間の後またはその間に行われる。次いで、通常の状態(近業前)と下方視状態(近業後または近業中)との波面収差の差異を使用して、光学デバイスを設計し得る。
【0091】
近業前とは、眼が10分間以上の連続した期間の近業を行う前に、少なくとも10分が経過していたことを意味する。近業前の時間の長さは、近業中に経過した時間と少なくとも同じ程度であるべきである。近業は読書であり得る。例えば、一時間読書をすると、その光学変化がなくなるのに約1時間を要する。
【0092】
第二の測定された波面収差は、複数の測定を含み、ここでこの複数の測定の少なくとも1つは、下視近業の間に実施され、そしてこの複数の測定の1つは、下視近業の完了時に行われる。
【0093】
近業と通常の状態の要求は異なるため、一実施形態によれば、2つの光学デバイス、すなわち、通常状態用の第一の光学デバイスおよび近業用の第二の光学デバイスを設計する必要がある。
【0094】
通常の状態は、初めは近業に従事していない場合に人が遭遇する状態である。通常の状態は、ある種の近業を伴い得るが、近業は、通常の状態で行われる初期行動ではない。装着者が、ある継続した期間(例えば、15分より長く)の間近業を行う予定である場合、この装着者は、近業の期間の間、コンタクトレンズのセットを使用するべきである。通常の状態は、近業が初期行動ではない任意の状態である。
【0095】
本発明の光学的方法の別の実施形態において、1つの光学デバイスが設計され、この光学デバイスは通常の光学的要件と近業の光学的要件の加重平均である。
【0096】
本発明の光学的方法の別の実施形態において、1つの光学デバイスは、従来のデザイン由来の光学要素と、近視防止デザイン由来の光学要素に基づいて設計される。
【0097】
光学要素とは、視力を変更するために使用される光学デバイスの要素をいい、これには、従来の光学要素(例えば、コンタクトレンズの中心レンズ)、および近視防止要素(例えば、本明細書中に記載のもの)が挙げられる。
【0098】
別の実施形態において、光学デバイスのデザインは、通常の光学的要件と近業の光学的要件との間の中間のデザインである。
【0099】
光学デバイスは、下視および近業に関連する光学変化の一部のみ、すなわちこれらの特性のいくつかだけを、矯正、変更または反転するように設計され得る。
【0100】
本発明の別の実施形態は、眼の成長を促進する眼の光学特性の特定の光学要素(例えば、コマおよびトレフォイル)を同定し、次いで、この/これらの光学要素のみまたはある割合(0.0と100%との間)の光学要素を矯正するための光学デバイスを設計することにある。このことにより、通常の状態および近業状態の両方において、光学デバイスの光学的性能が改善される。
【実施例】
【0101】
本明細書中で先に述べたように、近業と、瞼の圧力と、近視の進行との間の関係を調べるために、実験を行った。表1に示される実験結果は、3種の近業作業である、読書、顕微鏡使用およびコンピューター作業の、角膜光学に対する相対的効果を示す。これらの近業作業の中で、読書および顕微鏡使用は、近視の進行の公知の危険因子であり、一方、コンピューター作業は、近視の進行に関連しない。
【0102】
図11および図12は、瞼により眼にかかる力と、近業と、近視との間の関係をさらに示す。図11および図12はいずれも、Collinsらに載っており、ここで図11および図12を作成するために使用される実験手順が詳述されている(Collins M.J.,Kloevekorn−Norgall K.,Buehren T.,Voetz S.C.およびLingelbach B.,(2005),読書後の瞼誘発性角膜トポグラフィー変化の回帰(Regression of lid−induced corneal topography changes follwing reading),Optometry and Vision Science;82(9):843−849)。Collinsらにおいて詳述されるこれらの実験手順および実験結果、ならびに考察を以下に要約する。
【0103】
(材料および方法)
年齢範囲21〜28歳の6人の被検体(女性4人、男性2人、平均年齢24歳)がこの研究に参加した。各被検体の右眼を測定に使用し、これらの被検体のうち5人は近視であり、1人は正視であった。全被検体は、対数視力が少なくとも0またはそれより良好な最良矯正視力を有していた。一次細隙灯検査を実施して、全ての被検体が正常な角膜特性を有し、前眼部疾患を有さないことを確認した。全被検体は、硬質ガス透過性コンタクトレンズを装着したことがなかった。ソフトコンタクトレンズの装着者に、この研究の少なくとも3日前にはコンタクトレンズを外すように指示した。
【0104】
この実験は、4回の読書セッション、および1回のコントロールセッションを含み、この実験を5回、別の日の朝(代表的には、午前8時〜午前9時の間に開始)に行った。被検体には、朝に開始される実験の前に、有意量の読書を少しもしないように依頼した。この読書試験を、10分間、30分間、60分間および120分間続け、試験の順番を被検体間で無作為化して、系統的偏りを防いだ。被検体を事務椅子に座らせ、小説を読むよう依頼した。この読書試験は、代表的な読書作業をシミュレーションすることを意図し、従って、被検体には、この試験中、自然な読書姿勢をとることを勧めた。
【0105】
ケラトロンビデオケラトスコープ(Keratron videokeratoscope)(Alliance Medical Marketing,Jacksonville,FL)を、角膜トポグラフィーの測定のために使用した。各測定セッションにおいて、6つのビデオケラトグラフを撮影した。ベースラインの角膜トポグラフィーデータを、読書前と、読書後0、2、4、6、8、10、15、20、25、30、45、60、75、90、120、150、および180分で再度測定した。10分間の読書試験については、測定を読書後60分まで行った。なぜなら、予備実験により、完全な角膜の回復にはこの時間で十分なようであることが示されたからである。読書後の測定セッションの間、被検体には、読むことも書くことも、コンピューターの使用も一切しないように依頼した。コントロール実験として、被検体の角膜を、最初の測定を実施した後、別の日の朝に、2、60、120および180分の時間間隔で、測定した。再度、被検体に、測定セッションの前および間には、読むことも、書くことも、コンピューターの使用もしないように依頼した。
【0106】
高解像度デジタルカメラを使用して、第一の実験セッションで、初期視における各被検体の瞼の位置の写真を撮影した。このカメラを三脚に置き、そして被検体の頭部をヘッドレストに載せた。デジタルカメラを被検体と本との間に保持したまま、読書中の被検体の瞼の位置の第二の写真を撮影した。読書中の瞼の位置を、角膜トポグラフィーに重ね、トポグラフィーにおける変化を、瞼位置と比較した。この分析方法は、先に記載されている(Buehren T.,Collins M.J.,Carney L.,(2003),角膜収差と読書(Corneal aberrations and reading),Optometry and Vision Science;80:159−66)。
【0107】
各被検体に、読書に伴う自覚的な視覚変化(例えば、単眼複視)を報告するよう依頼した。各測定セッションの前および後に、左眼を覆い、そして被検体に、Bailey−Lovie試験表の対数視力0.4の視力表を見るように指示した。この実験室を、薄明視レベルまで暗くして、自然瞳孔サイズを最大にし、そして検査表を照らした。検査者は、視覚の質についての被検体の説明を記録した。
【0108】
(結果)
角膜の高さ、屈折力および瞬間度数(instantaneous power)のデータを、続く解析のために、ビデオケラトスコープからエクスポートした。測定セッション毎に撮った6つのビデオケラトスコープを、先に記載された方法(Buehren T.,Collins M.J.,Carney L.,(2003),角膜収差と読書(Corneal aberrations and reading),Optometry and Vision Science;80:159−66)に従って平均化した。
【0109】
屈折力および瞬間度数における変化(読書前 対 読書後)を調査するために、差異分布図を算出し、そして有意性の分布図(すなわち、変化の局所的な統計的有意性を示す分布図)を、直径7mm(ビデオケラトスコープ軸を中心として)で作成した。読書後の角膜の(屈折および瞬間)度数における変化を解析するために、90°から270°(縦)経線において、経線分析を行った。なぜなら、この経線は、瞼の力に関連するトポグラフィーにおいて最も大きな変化を示すからである(Buehren T.,Collins M.J.,Carney L.,(2003)、角膜収差と読書(Corneal aberrations and reading),Optometry and Vision Science;80:159−66)。
【0110】
典型的な被検体の角膜トポグラフィー差の分布図を示す図12から、瞬間度数の差異分布図における、度数の最大変化の位置が分かる。図12は、角膜トポグラフィーの変化は、角膜の上半分で最初に生じ、読書中の上瞼の位置と関連があったことを示す。瞬間度数における最大の正の変化および負の変化を、この分布図の中心から距離3.5mmまで、90°経線に沿って測定した。各差異分布図における90°から270°経線に沿った最大変化を、最大の正または負の屈折力値に基づいて導いた。
【0111】
読書の直後、全ての読書試験条件(10分から120分間までの読書)について、屈折力における有意な差もまた、この分布図の中心から3.5mmまでの領域において、90°経線に沿って見られた。局所的屈折力における最大の差は、120分間の読書の後に見られ、群平均差は度数1.26D(±0.44D)であった。60分間の読書の後、この差は、0.96D(±0.31D)であり、30分後では0.92D(±0.28D)であり、10分後では0.76D(±0.42D)であった。一方、コントロール条件(読書なし)は、90°経線に沿った群平均屈折力差、0.32D(±0.17D)を示した。屈折力におけるこれらの自然変動は、球面収差または垂直コマのような一般的な収差を反映している。
【0112】
読書およびコントロール試験の後の角膜屈折力変化における回帰は、図11において、90°経線について表される。図11におけるグラフは、4回の読書試験(10分間、30分間、60分間および120分間)の後の典型的な被検体における角膜屈折力変化の回帰を示し、ここでy軸は、90°経線に沿った屈折力の最大差であり、コントロール条件は、実質的に視覚的作業を伴わない。全ての読書試験(10分間から120分間)により、90°角膜経線に沿った屈折力変化の増加が生じる。これらの変化は、コントロール条件と同様のレベルまで漸進的な回帰を示し、読書試験条件が長くなるほど、長い回帰時間が必要となる。反復測定2元配置ANOVAを、読書後の最初の60分間、屈折力の差について実施した。これにより、読書に費やした時間の長さは、屈折力変化(p=0.005)の大きさに対して有意な効果を有したこと、および読書後の時間は、屈折力変化(p<0.001)の有意な回帰を示したこと、が示された。しかし、読書時間と屈折力変化(p=0.24)の回帰との間に、有意な相互作用はなかった。このことは、度数変化の回帰速度が、先の読書に費やした時間とは無関係であることを示唆している。
【0113】
コントロール条件(読書なし)は、180分の観察時間にわたって、90°に沿った屈折力変化におけるわずかだが系統的な増加を示した(図11)。これらの知見は、驚くべき事ではあるが、3日間にわたる角膜トポグラフィーの日変化を追跡した実験における類似の報告データ(Read S.A.,Collins M.J.,Carney L.G.,(2005),角膜トポグラフィーおよび収差の日変化(The diurnal variation of corneal topography and aberrations),Cornea:24:678−87)と一致している。
【0114】
(考察)
読書時の眼位において、瞼は、角膜トポグラフィーにおける変化を引き起こし、その大きさは読書時間の長さに関連する。すなわち、連続した読書の時間が長くなるほど、角膜トポグラフィー変化が大きくなる。これらのトポグラフィー変化の回帰は、最初の10分以内に変化の有意な減少が起こり、その後ゆっくりと回帰がおこるといった、異なる読書期間の後に類似のパターンを示した。10分間の読書の後、角膜トポグラフィー変化は、10分以内に大部分がなくなり、一方、120分間の連続した読書の後では、トポグラフィー変化が消失するのに約120分かかった。一般に、角膜変化のベースラインレベルへの回帰にかかる時間は、その人が連続した読書に費やした時間とほぼ同じ量が必要である。
【0115】
本発明者らが測定した角膜トポグラフィー変化の大きさおよび位置は、先に報告されたものと一致している(Buehren T.,Collins M.J.,Carney L.,(2003),角膜収差と読書(Corneal aberrations and reading),Optometry and Vision Science;80:159−66;およびBuehren T.,Collins M.J.,Carney L.,(2005)、近視における近業誘発性波面収差(Near work induced wavefront aberrations in myopia),Vision Research;45:1297−312)。これらのトポグラフィー変化は、読書視中の眼瞼辺縁の位置に綿密に従う。水平バンドにおける角膜半径の局所的な増減は、角膜の変形が眼瞼辺縁の力の結果として生じていることを示唆している。角膜矯正治療のプロセスは、トポグラフィー変化の類似の根本的メカニズムを反映し得るが、これらの変化の正確な解剖学的性質に対する明確な一致した見解は未だにない(Swarbrick H.A.,Wong G.,O'Leary D.J.(1998),角膜矯正治療に対する角膜応答(Corneal response to orthokeratology),Optometry and Vision Science;75:791−9;Choo J.D.,Caroline P.J.,Harlin D.D.,Meyers W.(2004)、角膜変形のためのParagon CRTレンズを一晩装着した後のネコ上皮における形態変化(Morphologi changes in cat epithelium following overnight lens wear with the Paragon CRT lens for corneal reshaping),Investigative Ophthalmology and Visual Science;45:E−abstract 1552;およびHaque S.,Fonn D.,Simpson T.,Jones L.(2004),光学コヒーレンストモグラフィーにより測定した、4週間の角膜屈折矯正治療レンズの一晩中装着の後の角膜厚および上皮厚の変化(Corneal and epithelial thickness changes after 4 weeks of overnight corneal refractive therapy lens wear,measured with optical coherence tomography),Eye and Contact Lens;30:189−93)。
【0116】
トポグラフィー変化は、眼瞼辺縁付近の角膜の領域から生じるため、涙液膜における局所的な変化はまた、眼球表面におけるこの領域において生じることが可能である。しかし、いかなる涙液関連の変化も、数回の自然のまばたきの後は、この領域に残らないようである。
【0117】
要約すると、読書に費やした時間量は、角膜変化の大きさ、および角膜がその読書前の状態に回復する継続時間の両方に、有意に影響した。したがって、角膜のトポグラフィー、ひいては眼の光学特性は、行われた先の読書作業に対して敏感である。
【0118】
本発明の方法およびデバイスはまた、任意の組み合わせでシステムとして実現され得る。
【0119】
本明細書および添付の特許請求の範囲の全体にわたって、光学デバイスは、眼鏡;片眼鏡;ソフトコンタクトレンズ;硬質コンタクトレンズ;ソフトおよびハードコンタクトレンズ材料を含むハイブリッドコンタクトレンズ;または本発明に従って設計される任意の他のレンズを含むがこれらに限定されない、全ての光学デバイスを含むことが理解される。
【0120】
本明細書全体にわたって、用語、ハードコンタクトレンズおよび硬質コンタクトレンズは、同義的に使用される。
【0121】
従って、本発明の方法およびデバイスは、近業および下視の不利な影響に作用することによる、近視および近視の進行の課題の解決方法を提供する。
【0122】
本発明の方法およびデバイスは、従来技術を超えるいくつもの利点を有する。これらの利点は、出願時の本明細書を読めば当業者に容易に明らかとなる。これらの利点としては、今日まで未確認の近視および近視の進行の原因の同定、近視の防止および/または近視の進行の制御のための新規な方法およびデバイスの提供が挙げられるが、これらに限定されない。
【0123】
本明細書全体にわたって、いずれの一実施形態にも特定の特徴の組み合わせにも本発明を限定することなく、本発明を記載することが目的である。当業者は、本発明の範囲内になお含まれる特定の実施形態からの変更を理解し得る。
【0124】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心レンズおよび外側領域を備えるコンタクトレンズであって、前記外側領域は、瞼により目にかかる力を分散させる肥厚化領域を備える、コンタクトレンズ。
【請求項2】
前記肥厚化領域は、水平バンドを備える、請求項1に記載のコンタクトレンズ。
【請求項3】
前記水平バンドは、下視における前記瞼の位置に対応する位置に位置する、請求項2に記載のコンタクトレンズ。
【請求項4】
前記肥厚化領域は、前記外側領域全体である、請求項1に記載のコンタクトレンズ。
【請求項5】
前記肥厚化領域は、前記コンタクトレンズ全体である、請求項1に記載のコンタクトレンズ。
【請求項6】
中心レンズおよび外側領域を備えるコンタクトレンズであって、前記中心レンズは、瞼により眼にかかる力を分散させる高弾性率領域を備える、コンタクトレンズ。
【請求項7】
中心レンズおよび外側領域を備えるコンタクトレンズであって、前記外側領域は、瞼により眼にかかる力を分散させる高弾性率領域を備える、コンタクトレンズ。
【請求項8】
前記外側領域は、通常の弾性率の領域をさらに備える、請求項7に記載のコンタクトレンズ。
【請求項9】
前記中心レンズは、高弾性率領域を備える、請求項7に記載のコンタクトレンズ。
【請求項10】
高弾性率の前記外側領域および高弾性率の前記中心レンズ領域は、水平バンドである、請求項9に記載のコンタクトレンズ。
【請求項11】
高弾性率の前記外側領域は、水平バンドである、請求項7に記載のコンタクトレンズ。
【請求項12】
外表面領域および内表面領域を備えるコンタクトレンズであって、前記外表面領域は、瞼により眼にかかる力を分散させる高弾性率領域を備える、コンタクトレンズ。
【請求項13】
前記高弾性率領域は、中心レンズ領域内中にある、請求項12に記載のコンタクトレンズ。
【請求項14】
瞼により眼にかかる力を分散させる連続気泡材料を含む、コンタクトレンズ。
【請求項15】
前記連続気泡材料はゲルで充填されている、請求項14に記載のコンタクトレンズ。
【請求項16】
前記連続気泡材料は流体で充填されている、請求項14に記載のコンタクトレンズ。
【請求項17】
前記流体はガスである、請求項14に記載のコンタクトレンズ。
【請求項18】
前記流体は装着者の涙液である、請求項14に記載のコンタクトレンズ。
【請求項19】
下にある角膜を収容するハードコンタクトレンズであって、前記ハードコンタクトレンズは、瞼により眼にかかる力を分散させる、ハードコンタクトレンズ。
【請求項20】
瞼により眼にかかる力を分散させるコンタクトレンズ。
【請求項21】
前記眼の角膜の形状および光学特性を維持する、請求項20に記載のコンタクトレンズ。
【請求項22】
近視を制御する方法であって、近業に関連する光学変化を同定する工程、および前記光学変化を光学デバイスを用いて矯正する工程を含む、方法。
【請求項23】
近業前の眼の第一の波面収差を測定し、近業後の前記眼の第二の波面収差を測定することにより設計される光学デバイス。
【請求項24】
瞼により眼にかかる力を測定し、前記測定された値に基づいて、瞼により眼にかかる力を分散させるコンタクトレンズを設計することにより設計される、コンタクトレンズ。

【図1】
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【図1a】
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【図2】
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【図2a】
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【図3】
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【図3a】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図10a】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−191799(P2011−191799A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150674(P2011−150674)
【出願日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【分割の表示】特願2007−554397(P2007−554397)の分割
【原出願日】平成18年2月14日(2006.2.14)
【出願人】(592253275)クイーンズランド ユニバーシティ オブ テクノロジー (13)
【Fターム(参考)】