説明

コンタクトレンズ用組成物

【課題】
コンタクトレンズの装着、保存、装用時における点眼等に使用することができ、表面の水濡れ性をより一層向上・維持することができるとともに、防腐剤等を含まなくても十分な保存効果を有する安全性の高いコンタクトレンズ用組成物を提供すること。
【解決手段】
ヒドロキシエチルセルロース及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ホウ酸及び/又はその塩を含む緩衝剤、等張化剤、金属キレート化剤を含み、防腐剤を含まないことを特徴とするコンタクトレンズの水濡れ性を向上、持続させるためのコンタクトレンズ用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンタクトレンズの装着、保存、装用時における点眼に使用するコンタクトレンズ用組成物に係り、特にレンズ素材にジメチルアクリルアミドを含有するソフトコンタクトレンズに対して好適に使用でき、表面の水濡れ性をより一層向上し、装用時においては該水濡れ性を維持することができるとともに、防腐剤等を含まなくても十分な保存効果を有する安全性の高いコンタクトレンズ用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、コンタクトレンズ(以下単にレンズという)の表面を親水化する方法は数多く提案されている。特にレンズ装用下の角膜新陳代謝を阻害しないように酸素透過性の素材を用いる場合には必須とされる。たとえば、酸素透過性の高い材料として、シロキサニル(メタ)アクリレート、ポリジメチルシロキサンマクロマー、フルオロアルキル(メタ)アクリレートなどのシリコンやフッ素を含有する素材が主に用いられるが、これらから構成されるレンズ素材は、一般的に撥水性が強いため、レンズ表面の涙液をはじいてしまうので装着時の異物感が強いという問題がある。
【0003】
このようなレンズ素材の撥水性を改良する方法としては、プラズマ表面処理或いはプラズマ重合によりレンズ表面を親水化する方法、親水性のモノマーを予め共重合成分の一つに加えることにより素材自身に親水性を付与する方法、適当な成分を含有する溶液に浸漬して親水性を付与する方法(以下浸漬法という)がある。なかでも浸漬法はプラズマ処理や親水性モノマーの使用に比較して、簡易・迅速な処理であるために、様々な成分を添加したレンズ保存液が用いられている。これらの浸漬法は非含水性コンタクトレンズのように素材の内部まで保存液中の成分が浸透するおそれがない場合には非常に有効なものであるが、必ずしも含水性コンタクトレンズにもそのまま転用できるというものではなかった。
【0004】
含水性コンタクトレンズは、その名の通り水分を含み柔軟なために装用感に優れ、水濡れ性などは考える必要がないと思われがちであるが、実は長時間の装用継続によりレンズから水分が蒸発し乾燥感を訴える者も多い。また、近年の問題としてVDT作業による目の酷使、エアコンの使用による生活環境の乾燥化のために、従来問題なく使用してきた者でも、レンズが乾いて装用感が悪くなり、表面の水濡れ性を維持する点眼薬などを提供して欲しいという要望が高くなっている。
【0005】
そのような要望に応えるべく、例えばテルペノイドを有効成分として含有し、さらにポリオキシエチレンソルビタンエステルを配合したソフトコンタクトレンズ用の眼科用組成物(特許文献1)が提案されている。この提案も浸漬法によるので操作は簡単であり、テルペノイドは爽快感があるので、使用により装用感の改善は劇的に達成できるであろう。他方で同提案に示されているようにテルペノイド自体のレンズ素材への累積的な吸着が問題とされており、ポリオキシエチレンソルビタンエステルを配合することによってソフトコンタクトレンズに対するテルペノイドの吸着を抑制することについて検討されているのである。しかし、パラオキシ安息香酸エステル類、塩化ベンザルコニウムなどの保存剤の添加を排除してはいないので、溶液の保存効果(日本薬局方第15改正に記載の保存効力試験)を担保する点について充分な検討がなされているとは言い難い。
【0006】
また同様の目的で、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールまたはポリオキシエチレンポリオキシプロピレン置換エチレンジアミンと製剤的に許容される粘稠化剤とを含有し、20℃での粘度が1cps以上8cps以下である液剤(特許文献2)
や、脂溶性ビタミン類を含有してなり、好ましくは更に高分子化合物及び/又は非イオン性界面活性剤を配合してなる眼科用組成物(特許文献3)が提案されている。ともに浸漬法によるので操作は単純であり、乾燥感を改善しようとする試みについては充分な検討が成されているものの、いずれも防腐剤、殺菌剤の添加を許容し、所謂防腐剤フリーについての検討は十分ではないのである。
【0007】
さらに、ドライアイ症状の緩和のために開発されたA)酸性ムコ多糖類、及びB)ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロースなどを含有し、20℃での粘度が15mPa・s以上300mPa・s以下である点眼剤(特許文献4)についての提案がある。この提案によれば、ドライアイ症状を呈する使用者の眼表面のドライスポット出現を抑制することで乾燥状態を緩和し、ひいては角膜上皮障害を防止することができる。また、ドライアイ症状を引き起こしやすいコンタクトレンズ装用者への適用も可能とのことである。しかしこの提案もまた防腐剤フリーについての検討は十分ではなく、何よりも粘性が高く設定されていることにより点眼容器開口部への残留物の不安もある。
【0008】
一方、防腐剤フリーについて提案されているものとして、トロメタモールを含有することを特徴とするコンタクトレンズ用眼科用組成物(特許文献5)や、(A)ホウ酸もしくはその塩およびトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンからなる群より選択される少なくとも1種、(B)金属キレート化剤および(C)粘稠剤を含有し、且つpHが6.0〜8.5、浸透圧が100〜600mOsm.、ならびに動粘度が0.9〜10,000mm/sのコンタクトレンズ用液剤(特許文献6)がある。しかし、前者は純粋に防腐剤フリーについて案出されたものであって、コンタクトレンズの水濡れ性に関する検討がなされたものではなく、後者は防腐剤フリーでありながら、十分な防腐効果を有し、かつ角膜とコンタクトレンズの間のクッション性にも優れた機能を有するが、水濡れ性の維持などのついて充分な検討がなされたものではない。
【0009】
【特許文献1】特開平11−130667号公報
【特許文献2】再表97/28827号公報
【特許文献3】特開2001−158734号公報
【特許文献4】特開2005−343893号公報
【特許文献5】特開2002−316926号公報
【特許文献6】特開2002−244089号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、コンタクトレンズの装着、保存、装用時における点眼等に使用することができ、表面の水濡れ性をより一層向上・維持することができるとともに、防腐剤等を含まなくても十分な保存効果を有する安全性の高いコンタクトレンズ用組成物を提供しようというものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明にあっては上記課題を解決するために、ヒドロキシエチルセルロース及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ホウ酸及び/又はその塩を含む緩衝剤、等張化剤、金属キレート化剤を含み、防腐剤を含まないことを特徴とする組成物をコンタクトレンズに適用するものである。
【0012】
特に、本発明はレンズ素材としてジメチルアクリルアミドを含有する含水性ソフトコンタクトレンズに使用するのに好適である。詳細なメカニズムは不明であるが、レンズ素材のジメチルアクリルアミドと本発明のヒドロキシエチルセルロース及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとの組み合わせが特異的な相互作用により、水濡れ性を向上させ、かつそれを維持するのに有効なのである。
【0013】
また、本発明の一態様として、前記ヒドロキシエチルセルロースが0.05〜0.6w/v%、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルが0.02〜0.15w/v%、ホウ酸及び/又はその塩を含む緩衝剤を0.2〜1.5w/v%の範囲で含むのが非常に有効である。これら三成分の微妙なバランスにより、本発明の目的とする効果をより有利に引き出すことができるからである。
【0014】
さらに上記のような各組成物の水溶液の物性として、20℃における動粘度が、1〜15mm/sであることが望ましい。特にレンズ表面を本発明の液剤が被覆するに際して、全体に均一に拡がって水分をレンズに保持するとともに、装用時における角膜とレンズとの間のクッションとしての役割を果たすことができるからである。
【0015】
そして、前記ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルが、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエートである場合が、最も好ましい。ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエートは他のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルと比較して、レンズに対して水濡れ性を向上させ、それを持続する効果が最も高いからである。
【発明の効果】
【0016】
本発明のコンタクトレンズ用組成物は、増粘剤としてヒドロキシエチルセルロース、界面活性剤としてポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを組み合わせることによりレンズの水濡れ性が向上し、かつそれを維持することができる。また、ホウ酸及び/又はその塩を含む緩衝剤を使用することで防腐剤フリーであっても充分な保存効果(日本薬局方第15改正に記載の保存効力試験)を有する。従って、ドライアイ症状によりレンズ装用が困難な方は無論のこと、これまで少しでも目に潤いを欲していたレンズ使用者に対しても、安心して快適なコンタクトレンズライフを提供することができる。
【0017】
また、レンズ素材としてジメチルアクリルアミドを含有する含水性ソフトコンタクトレンズと組み合わせて使用することで、レンズの装着、保存、装用中の点眼等により、レンズ表面の水濡れ性をより一層向上・維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本願発明について具体的に説明する。
本発明のコンタクトレンズ用組成物は、ヒドロキシエチルセルロース及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ホウ酸及び/又はその塩を含む緩衝剤、等張化剤、金属キレート化剤を含み、防腐剤を含まないことに特徴がある。
【0019】
本発明に使用されるヒドロキシエチルセルロースは、後述のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとともにレンズ表面への水濡れ性を増強し、それを維持する働きがある。ヒドロキシエチルセルロースは通常、植物から抽出した天然植物繊維(セルロース)をアルカリで処理したアルカリセルロースとエチレンオキシドとを反応させることによって製造されている。レンズ素材に対する悪影響がなく、また点眼薬に使用できるという充分な安全性が確認されている。この成分は前記従来技術以外にもこれまでにコンタクトレンズ用組成物として幅広く使用されている。本発明では、このようなヒドロキシエチルセルロースのうち、20℃における、2%水溶液の粘度が20mPa・s〜20000mPa・sのものが用いられ、より好ましくは200mPa・s〜10000mPa・sが好ましい。かかるヒドロキシエチルセルロースは市販のものを利用することができ、例えば住友精化株式会社から販売されているHEC−CF−G(20℃、2%水溶液の粘度が300mPa・s〜600mPa・s)、HEC−CF−V(20℃、2%水溶液の粘度が5000mPa・s〜10000mPa・s)、HEC−CF−W(20℃、2%水溶液の粘度が10000mPa・s〜16000mPa・s)、ハーキュレス社から販売されているナトロゾール250G PHARM(25℃、2%水溶液の粘度が250〜400cPs)、ナトロゾール250M PHARM(25℃、2%水溶液の粘度が4500〜6500cPs)等が利用できるが、特にHEC−CF−G、ナトロゾール250G PHARMが安定性に優れ、取り扱いやすいため、好適に使用できる。
【0020】
ヒドロキシエチルセルロースの使用濃度範囲は、0.05〜0.6w/v%、好ましくは0.1〜0.5w/v%、より好ましくは0.2〜0.5w/v%である。0.05w/v%未満であると、レンズ表面の水濡れ性の維持が期待できず、0.6w/v%より多い場合には粘性が高くなりすぎて、べとつきなどの不快感を伴うためである。
【0021】
本発明では前記ヒドロキシエチルセルロース以外に増粘剤成分としてポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロースなどを添加することも可能である。ただし、これらの成分はあくまで任意成分であり、その添加によって本発明の目的とする水濡れ性、保存効果に影響のない範囲で可能であるにすぎない。
【0022】
本発明に使用されるポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルは、一般には、ソルビトール及び/又はその無水物と脂肪酸との部分エステルの混合物であるソルビタン脂肪酸エステル(モノエステル、トリエステル)にエチレンオキサイドを付加させたもので、非イオン界面活性剤として広く使用されている。具体的には、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートなどが挙げられるが、レンズの水濡れ性、特に持続性に優れているポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエートが最も好ましい。
【0023】
ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの使用濃度範囲は、0.02〜0.15w/v%、好ましくは0.02〜0.10w/v%、より好ましくは0.02〜0.08w/v%である。0.02w/v%未満であると、レンズ表面の水濡れ性の向上に寄与できず、0.15w/v%より多く使用しても水濡れ性の効果に影響はないものの、眼刺激が発生するおそれがあるからである。
【0024】
前記ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル以外に非イオン界面活性剤として、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などを添加することも可能である。ただし、これらもあくまで任意成分であり、その添加によって本発明の目的とする水濡れ性、保存効果に影響のない範囲で可能であるにすぎない。
【0025】
次に、本発明に使用されるホウ酸及び/又はその塩を含む緩衝剤であるが、この成分は本発明の組成物を水溶液とした際の保存効果を発現させる作用がある。そのためその使用濃度範囲は、0.2〜1.5w/v%、好ましくは0.5〜1.2w/v%である。0.2w/v%より少ない場合には、目的の保存効果が得られず、また1.5w/v%より多くなると眼刺激を生じるおそれがあるからである。
【0026】
緩衝剤としては、他にリン酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、トリス緩衝剤などがあるが、これらも、本発明の目的とする水濡れ性、保存効果に影響のない範囲で使用可能であるにすぎない。
【0027】
さらに、本発明の組成物には等張化剤、金属キレート化剤を含む。等張化剤は例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、グリセリン、プロピレングリコールなどが、金属キレート化剤には、エチレンジアミン四酢酸及びその塩、クエン酸及びその塩などがある。これらの成分は、従来のコンタクトレンズ用組成物に一般的に使用されているものから適宜選択することができる。そして、等張化剤は本発明の組成物を水溶液としたときの浸透圧を240〜430mOsm、好ましくは280〜350mOsmになるように調整する。また金属キレート化剤は涙液中の無機成分、特にカルシウムがレンズに固着するのを防止するために使用され、その使用濃度範囲は0.01〜0.15w/v%である。
【0028】
前記成分よりなるコンタクトレンズ用組成物について、これを実際に使用される水溶液としたときの動粘度は20℃において、1〜15mm/s、好ましくは3〜30mm/sである。1mm/s未満であると、レンズへの水濡れ性、特に持続性を付与する効果に乏しく、15mm/sより大きくなると点眼時に粘性が高いことにより、操作性が悪くなったり、べとつきによる不快感を伴うおそれもある。
【0029】
以上の構成よりなるコンタクトレンズ用組成物は、レンズ素材としてジメチルアクリルアミドが含有されている含水性ソフトコンタクトレンズに使用することによって、その効果(水濡れ性及びその持続性)を最大限に発揮することができる。ジメチルアクリルアミドが含有されている含水性ソフトコンタクトレンズとしては例えば、メニコン社のマンスウエア(登録商標)などがある。なお水溶液の保存効果については、レンズの種類に影響されることはない。
【0030】
前記レンズと組成物との組み合わせが好適である理由については、予想の域を出ないが、本発明の成分であるヒドロキシエチルセルロース及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルと、レンズ素材のジメチルアクリルアミドとが、非常に有効な相互作用を起こして、レンズ表面に潤いを留めるのに役立っているものと推察される。
【0031】
ところで、本発明では水濡れ性の評価として以下に記載する各試験方法により行った。
【0032】
−表面水濡れ観察試験1−
試験液1mLにレンズ1枚を浸漬し、1時間後にレンズを取り出して垂直に保持する。20秒後に肉眼でレンズ表面に付着する水の形態を観察し、以下の判定基準1により評価する(W1)。
【0033】
−表面水濡れ観察試験2−
前記観察試験1の後、該レンズを生理食塩液(塩化ナトリウム:8.300g、リン酸二水素ナトリウム・2水和物:0.528g、リン酸水素二ナトリウム・12水:5.993gを精製水1000mLに溶解したもの。pH=7.4±0.1、浸透圧=310±5mOsm/kg)2mLに浸漬し、1時間後にコンタクトレンズを取り出して垂直に保持する。20秒後に肉眼でレンズ表面に付着する水の形態を観察し、同様の判定基準により評価する(W2)。
【0034】
(判定基準1)
○:レンズ表面全体が濡れている。(この場合が水濡れ性良好と判断される。また評価2では水濡れ性の持続性について評価していることを意味する。)
△:レンズの周辺部がはじいている。
×:レンズ表面全体がはじいており、水滴が殆ど残っていないか、レンズの下方部に水滴が集合している。(この場合は、水濡れ性が不良と判断される。また評価2では水濡れ性が持続しないことを意味する。)
【0035】
−接触角測定試験1−
試験液1mLにレンズ1枚を12時間以上浸漬する。このレンズを取り出し、フロントカーブ側を上にして半球面状のプラスチック片に乗せ、レンズ表面に15秒間空気をあてて表面に付着した水分を吹き飛ばす。次いでレンズ上に生理食塩液 約3μLを静かに滴下し、滴下1分後の状態を接触角測定器(エルマ社製 接触角測定器 G−1)を用いて側面から観察する。側面視において、レンズ表面上の液滴及び空気の境界のうち一端をA、もう一端をBとし、液滴の頂点をCとする。∠CAB及び∠CBAをそれぞれ読み取り、これらの和θ1(=∠CAB+∠CBA)をレンズ表面と液滴との接触角θ1とする。得られる接触角θ1を下記表1の判定基準2に従って評価する(θ1はレンズの水濡れ性の程度を示している)。
【0036】
−接触角測定試験2−
試験液1mLにレンズ1枚を12時間以上浸漬した後、取り出してレンズ表面の水分をベンコットクリーンワイプ(小津産業社製)で軽くふき取り、生理食塩液2mLに1時間浸漬する。このレンズを取り出し、フロントカーブ側を上にして半球面状のプラスチック片に乗せ、レンズ表面に15秒間空気をあてて表面に付着した水分を吹き飛ばす。次いでレンズ上に生理食塩液 約3μLを静かに滴下し、滴下1分後の状態を接触角測定器(エルマ社製 接触角測定器 G−1)を用いて側面から観察する。側面視において、レンズ表面上の液滴及び空気の境界のうち一端をA、もう一端をBとし、液滴の頂点をCとする。∠CAB及び∠CBAをそれぞれ読み取り、これらの和θ2(=∠CAB+∠CBA)をレンズ表面と液滴との接触角θ2とする。得られる接触角θ2を下記表1の判定基準2に従って評価する(θ2はレンズの水濡れ性の程度を示しているとともに、その持続性をも示しているのである)。
【0037】
【表1】

【0038】
−ティアスコープ観察試験1−
生理食塩液2mLにレンズ1枚を1時間浸漬する。このレンズを取り出し、フロントカーブ側を上にして半球面状のプラスチック片に乗せ、生理食塩液200μLを滴下する。さらに、これに試験液50μLを滴下した後、垂直に保持する。ティアスコープ(キーラー社製)にてレンズ表面に光を照射し、細隙灯顕微鏡を用いて10倍に拡大して、レンズ表面の状態を観察する。観察を開始したときを0秒として、レンズ表面の水分が蒸発又は流れ落ちて、干渉縞が観察されるまでの時間を読み取り、乾燥開始時間T1とする。得られる乾燥開始時間T1を下記表2の判定基準3に従って評価する(T1はレンズの水濡れ性の程度を示している)。
【0039】
−ティアスコープ観察試験2−
前記、ティアスコープ観察試験1により観察を開始したときを0秒として、レンズ表面の水分が蒸発又は流れ落ちて観察できる干渉縞が、レンズの上部半分すべてで観察できたときの時間を読み取り、乾燥終了時間T2とする。T1とT2との差LT(=T2−T1)を算出し、下記表2の判定基準3に従って評価する(LTはレンズの水濡れ性の程度を示しているとともに、その持続性をも示しているのである)。
【0040】
【表2】

【0041】
前記のようなレンズ用組成物を用いて、浸漬法によりレンズ表面に水濡れ性を付与する際の実施例について説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り何ら限定されるものではないことが理解されるべきである。
【実施例】
【0042】
(実施例1〜4及び比較例1〜11)
次表3に示す各組成で、レンズ用の水性溶液を調製し、前記各試験を実施してそれぞれの判定基準に従って判定した結果を同表に示した。総合判定は、各試験の結果が全て○のものを○、一つでも△又は×があるものを×とした。なお、表3、4に示す略号は以下の各化合物であり、使用したレンズはジメチルアクリルアミドをレンズ素材としているメニコン社製、マンスエア(登録商標)である。

・HPMC2910:ヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学社製 メトローズ60SH)
・HEC−CF−G:ヒドロキシエチルセルロース(住友精化社製 HEC−CF−G)
・HEC−CF−V:ヒドロキシエチルセルロース(住友精化社製 HEC−CF−V)
・ポリソルベート80:ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート(日光ケミカルズ社製 ニッコールTO−10MV)
・ポロクサマー:ポリオキシエチレン(196)ポリオキシプロピレン(67)グリコール(BASF社製 ルトロールF127)
・トロメタモール:トリスヒドロキシメチルアミノメタン(キシダ化学社製 2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール)
【0043】
【表3】

【0044】
【表4】

【0045】
【表5】

【0046】
【表6】

【0047】
表3、4、5に示すように、本発明のレンズ用組成物は、各試験すべてにおいて他の処方と比較して優れた水濡れ性を示している。この表からは、一般的に使用されている界面活性剤(ポロクサマー407、ニッコールHCO−60)や増粘剤(HPMC2910、)を単純に組み合わせても、水濡れ性の良い組成物を得ることができない、ということが理解されよう。また、表6に示すように、本発明のレンズ用組成物は、ジメチルアクリルアミドを含有する含水性ソフトコンタクトレンズに対して特に優れた水濡れ性を示している。
【0048】
(実施例5〜7及び比較例12〜18)
−保存効力試験−
次に、第15改正 日本薬局方・参考情報に記載の保存効力試験に従って試験を実施した。すなわち、表5〜6に示す組成に対して,細菌3種(黄色ブドウ球菌:S.a.、緑膿菌:P.a.、大腸菌:E.c.)及び真菌1種(カンジダ菌:C.a.)を1mLあたり10〜10個になるように加え、25℃に静置した。14日後に菌を接種した溶液を適宜希釈し、それぞれを培養した後、生菌数を測定し、初期菌数からの変化量を対数表示で示した。
判定基準は、細菌は14日後の対数変化量が−3log以上、真菌は14日後の生菌数が初期菌数より増加しないことである。この判定基準をすべて満たしたものを総合判定〇、一つでも満たさないものは総合判定×として同表に示した。
【0049】
【表7】

【0050】
【表8】

【0051】
【表9】

【0052】
表7、8、9の結果から、本発明のレンズ用水溶液は防腐剤を含有しなくても十分な保存効果を有することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、コンタクトレンズの装着、保存、装用時における点眼に使用するコンタクトレンズ用組成物であり、特にレンズ素材にジメチルアクリルアミドを含有するソフトコンタクトレンズに対して好適に使用でき、表面の水濡れ性をより一層向上し、装用時においては該水濡れ性を維持することができるとともに、防腐剤等を含まなくても十分な保存効果を有する安全性の高いコンタクトレンズ用組成物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシエチルセルロース及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ホウ酸及び/又はその塩を含む緩衝剤、等張化剤、金属キレート化剤のみを含み、防腐剤を含まないことを特徴とするコンタクトレンズの水濡れ性を向上、持続させるためのコンタクトレンズ用組成物。
【請求項2】
前記前記水濡れ性を向上、持続させる対象のコンタクトレンズが、その素材にジメチルアクリルアミドが含有されている含水性ソフトコンタクトレンズである請求項1記載のコンタクトレンズ用組成物。
【請求項3】
ヒドロキシエチルセルロースを0.05〜0.6w/v%、
ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを0.02〜0.15w/v%、
ホウ酸及び/又はその塩を含む緩衝剤を0.2〜1.5w/v%の範囲で含む請求項1または2のいずれかに記載のコンタクトレンズ用組成物。
【請求項4】
水溶液状態で20℃における動粘度が、1〜15mm/sである請求項1乃至3のいずれかに記載のコンタクトレンズ用組成物。
【請求項5】
前記ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルが、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエートである請求項1乃至4のいずれかに記載のコンタクトレンズ用組成物。

【公開番号】特開2010−152088(P2010−152088A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−330290(P2008−330290)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000222473)株式会社メニコンネクト (20)
【Fターム(参考)】