説明

コンタクトレンズ

【課題】 スポーツ、VDT作業、車両の運転時等の目により負荷のかかる状況にあっても、安定した視力をあたえることが可能であり、また、疲れにくい等の機能を有するソフトコンタクトレンズを提供する。
【解決手段】 レンズ中の着色剤濃度(ppm)とレンズの中心厚さ(mm)の積が2〜100であるオレンジ色に着色されているソフトコンタクトレンズであり、その際、着色剤が、C.I.Vat Orange 9であるソフトコンタクトレンズ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソフトコンタクトレンズに関する。更に詳しくは、スポーツ、VDT(コンピュータ端末表示装置)作業、車両運転時等の目により負荷のかかる状況にあっても、安定した視力をあたえることが可能であり、また、疲れにくい等の機能を有するソフトコンタクトレンズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンタクトレンズには、ソフトコンタクトレンズとハードコンタクトレンズがあり、近年、その装用感の良好さから、ソフトコンタクトレンズが好んで使用される傾向にある。また、激しい運動中にあっては、ハードコンタクトレンズのほうが相対的に目から外れやすいことも、運動時にソフトコンタクトレンズが好まれる一因となっている。しかし、ソフトコンタクトレンズにあっても、激しい運動時、レンズが角膜中央からずれたり、またたわんだりして正常な視力が損なわれることがある。また、激しい眼球の動きにレンズが追随していくことができず、レンズの動きと目の動きとの間にづれが生じ見え方に不具合が発生したりする。
【0003】
特許文献1は、特定のレンズデザインのコンタクトレンズを用いることによりこの問題を解決することが提案されており、一定の効果を上げている。しかし、眼球の運動時に要求される機能はこれだけでは十分とは言えない。例えば、ボールの識別機能、すなわち良好なコントラスト感度を与える機能、長時間VDT作業していても疲れ難い機能等、全く別の観点からの改善が望まれる。特許文献2には、黄色ないしオレンジに着色した青視症治療用ハードコンタクトレンズが提案されている。しかし、該提案は、あくまで白内障手術後の無水晶体眼に使用するためのコンタクトレンズに関するものであり、基本的には無水晶体眼用コンタクトレンズに関する提案である。しかし、本発明者らの目指すところは、限定される訳ではないが、あくまで健常人、若しくは一般の近視あるいは弱度の遠視(+5ジオプター以下)の患者を対象としたものである。これらの中には弱度の乱視(シリンダーパワー:0〜−2.50ジオプター)の患者が含まれることは当業者の間では常識である。すなわち、本発明者らは、スポーツを行うときやVDT作業を行う時また車両運転時等の通常より目に負荷のかかる状況時に、良好な低コントラスト視力を与える機能、疲れにくさを与える機能を有するコンタクトレンズを開発することを目的として、鋭意検討した結果、ある特定の濃度の着色剤でオレンジ色に着色された澄明な含水ゲルレンズであって一般にソフトコンタクトレンズといわれるレンズにこのような特定の機能があることを見出し本発明に到達したものである。
【0004】
【特許文献1】特開平10−161070号公報
【特許文献2】特公平08−024694号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、スポーツを行うときやVDT作業を行う時また車両運転時等の通常より目に負荷のかかる状況時に、良好な低コントラスト視力を与える機能、疲れにくさを与える機能を有するコンタクトレンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決するため、鋭意検討した結果、ある特定の濃度でオレンジ色に着色されたソフトコンタクトレンズが特に良好な低コントラスト視力を与える機能を有し、かつ当該ソフトレンズを装用することにより通常のコンタクトレンズ使用時よりも疲れにくいという知見を見出し、本発明をなすに至った。
すなわち、本発明は、レンズ中の着色剤濃度(以下、「Cc」という。)(ppm)とレンズの中心厚さ(mm)の積が2〜100となるようにオレンジ色に着色されたソフトコンタクトレンズである。
【発明の効果】
【0007】
本発明のコンタクトレンズは先に記載のとおり良好な低コントラスト視力を与える機能があり、かつ当該ソフトレンズを装用することにより通常のコンタクトレンズ使用時よりも疲れにくいという、効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明について、以下具体的に説明する。
本発明のソフトコンタクトレンズは、通常市販の形状が採用される。すなわち、ベースカーブ(以下、「BC」という。)7.8〜9.8(mm)、サイズ(以下、「S」という。)12〜15(mm)、中心厚(以下、「Tc」という。)0.02〜0.3(mm)であるが、眼球上でのレンズの安定性からS=14〜14.6を採用することが推奨される。なお、この場合、涙液の交換性を配慮し、ブレンド幅を0.28〜0.5(mm)にすることが推奨され、加えてベベル幅を0.3〜1.2mmにすることが推奨される。
【0009】
また素材としては、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、N−ビニルピロリドン、グリセリルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート等を主成分とした重合体で含水率が20〜80重量%、好ましくは30〜75重量%の含水ゲルが使用される。また、所望により、これらと共重合し得るモノマー、例えば、メチルメタクリレート、シリコン及び/又はフッ素含有のアクリレート系モノマー等を配合した含水ゲルも使用できる。またこれらの素材は、装用感の観点から、あるレベル以上の水濡れ性が確保されていることが望ましい。すなわち、水中気泡法による接触角が50度以下、または液滴法による接触角が90度以下であること(いずれも精製水中での測定値)が、水はじき等のトラブルの発生が少なく、従ってより良好な装用感を与え得るので好ましい。
すなわち、本発明は、上記に示したように、Cc(ppm)×Tc(mm)=2〜100、好ましくは5〜80のオレンジ色に着色された含水ゲルコンタクトレンズである。Cc×Tcが2未満の場合は、期待した低コントラスト視力および疲労感の軽減は得られない。また100を超えても低コントラスト視力が上昇することはない。これは、この場合にあっては、暗く感じる、視界に違和感を覚える、と訴える装用者もいることから、このようなことが影響しているものとも思われる。いずれにせよ、本発明の目的には合致しないものとなってしまう。
【0010】
ここで用いられる着色剤としては、各種染顔料から選択すればよく、例えばバット染料であれば、C.I.Vat Orange 1、C.I.Vat Orange 2、C.I.Vat Orange 3、C.I.Vat Orange 4、C.I.Vat Orange 5、C.I.Vat Orange 7、C.I.Vat Orange 9、C.I.Vat Orange 13等が挙げられ、反応性染料であれば、C.I.Reactive Orange 1、C.I.Reactive Orange 16等を例示することができる。ここで、入手のしやすさ、また下記の着色方法に対する適合性の観点から、C.I.Vat Orange 2、C.I.Vat Orange 9が好ましい。さらに両者の比較においては、550nm付近の光線透過率は後者が高く、C.I.Vat Orange 9が好ましい。なお、これら染料の名称はカラーインデックス名である。
【0011】
上記含水ゲルコンタクトレンズを着色する方法としては、例えば、特開平01−188824号公報、特開平03−107121号公報、特開平04−353820号公報に記載の方法を示すことができる。すなわち、バット染料を還元し水溶性構造(いわゆるロイコ化合物)とし、この液にコンタクトレンズを浸漬し、レンズ中に染料を浸透させ、その後、酸化処理を行うことにより、染料を不溶化せしめる方法であり、一般に良く用いられる染色方法である。
また、着色の際レンズの中央部分を残し周囲を冶具等でマスクし、中央部分だけを着色することも可能である。この際、少なくとも瞳孔が完全にカバーされる範囲は着色されていなければならない。瞳孔径は多少個人差があるものの、通常、直径6mm以上着色されていればカバーすることができる。好ましくは、虹彩部分までが、すなわち黒目部分がカバーされることである。この場合も一般には直径10mm以上が着色されていれば黒目部分をカバーすることができる。レンズの着色部分が白目にかかり、外観が気になるという人に対しては、この中央部分のみ着色されたレンズが有効である。この場合のCc値は、着色されている部分の着色剤濃度である。
【実施例】
【0012】
本発明を実施例などに基づいて更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例などにより何ら限定されるものではない。
[実施例1]
共栓付きの三角フラスコに水酸化ナトリウム2.0g、ハイドロサルファイトナトリウム2.0gを精製水にて溶解し、更に精製水を加えて、全量を100mlとする。この液中に0.01gのC.I.Vat Orange 9を分散させ、共栓をし、40℃の恒温水槽中で30分撹拌した。この溶液を溶液Aと命名する。ポリエチレングリコール(分子量400)20gを精製水に溶解し、更に精製水で100mlとし、40℃の恒温水槽中で恒温化しておく。これをB液と命名する。一方、2−ヒドロキシエチルメタクリレートおよびグリセリルメタクリレートを主成分とした混合モノマーに架橋剤を加えて重合しポリマーを得る。このポリマーを切削加工し、レンズを作成、これを生理食塩水にて膨潤させ、含水率38wt%のソフトコンタクトレンズを作成する。
【0013】
このコンタクトレンズのディメンションは、S=14.5、Tc=0.05、ベベル幅=0.55、ブレンド幅=0.35である。このディメンションは一定とし、後にモニター試験に供すべきソフトコンタクトレンズをそれぞれモニターのBC、パワーにあわせて、8枚用意した。8枚のソフトコンタクトレンズを、A液90g、B液15gの混合液中に投入し共栓をして、40℃で撹拌を1時間行った。その後、この液中に水道水を約70ml/secの流速で1時間流し込んだ。レンズをそれぞれバイアルビンに移し、保存液に浸漬させ、121℃、20分のオートクレーブ処理し、オレンジに着色されたソフトコンタクトレンズを得た。これらレンズのCc×Tc値は30であった。なお、Cc値は、レンズ中の染料を還元抽出し、抽出液の波長547nmの吸光度を測定することにより求めた。
【0014】
[実施例2]
C.I.Vat Orange 9の配合量を0.004g、S=14.0とする以外は、実施例1と全く同じ方法で8枚のソフトコンタクトレンズを得た。これらのCc×Tc値は7であった。
[実施例3]
C.I.Vat Orange 9の配合量を0.02g,Tc=0.07、S=14.0とする以外は、実施例1と全く同じ方法で8枚のソフトコンタクトレンズを得た。これらのCc×Tc値は97であった。
[実施例4]
C.I.Vat Orange 9の配合量を0.007g、Tc=0.035とする以外は、実施例1と全く同じ方法で8枚のソフトコンタクトレンズを得た。これらのCc×Tc値は12であった。
[実施例5]
C.I.Vat Orange 9の配合量を0.018g、とする以外は実施例1と全く同じ方法で8枚のソフトコンタクトレンズを得た。これらのCc×Tc値は60であった。
【0015】
[比較例1]
実施例1に使用したディメンションのレンズを染色せず、オートクレーブ処理をおこなったソフトコンタクトレンズを用意した。
[比較例2]
C.I.Vat Orange 9の配合量を0.025g、Tc=0.09,S=14.0とする以外は、実施例1と全く同じ方法で8枚のソフトコンタクトレンズを得た。これらのCc×Tc値は160であった。
なお、モニター試験に供した、実施例1〜5、比較例1〜2のレンズのBC、パワーは表1のとおりである。
【0016】
【表1】

【0017】
これらのモニターに対して、ETDRS視力表(Precision Vision社製)を用い、低コントラスト視力を測定した。その結果を表2に示した。本発明によるコンタクトレンズを装用した場合の方が明らかに良好の視力が得られた。
同様に、これらのモニターに実施例1、2、比較例1、及び市販のブルーに着色されたソフトコンタクトレンズ(アイミーソフトカリブ:比較例3)を装用させ、1時間VDT作業を行わせ、その前後でフリッカーテストを行った。使用した装置はハンディフリッカHF(ナイツ社製)である。本発明のレンズを装用させたケースにあっては、作業前後でその成績がほとんど差異がないことが明らかとなった。その結果を表3に示した。
【0018】
【表2】

【0019】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は、目により負荷のかかる状況にあっても、安定した視力をあたえることが可能であり、また、疲れにくい等の機能を有するソフトコンタクトレンズの分野で利用し得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ中の着色剤濃度(ppm)とレンズの中心厚さ(mm)の積が2〜100であるオレンジ色に着色されていることを特徴とするソフトコンタクトレンズ。
【請求項2】
着色剤が、C.I.Vat Orange 9であることを特徴とする請求項1に記載のソフトコンタクトレンズ。

【公開番号】特開2006−11130(P2006−11130A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−189474(P2004−189474)
【出願日】平成16年6月28日(2004.6.28)
【出願人】(390031015)旭化成アイミー株式会社 (8)
【Fターム(参考)】