説明

コンデンサ放電型スタッド溶接ガン及びこれを備えたポータブルコンデンサ放電型スタッド溶接機

【課題】
スタッドのサイズや種類に対する調整が正確且つ容易に行え、確実に溶接を行うことができるコンデンサ放電型スタッド溶接ガンを提供する。
【解決手段】
シリンダ(10)と、該シリンダの側部に連結した把持部(11)と、電極スライドロッド(100)と、溶接スイッチとを備え、前記シリンダは、スタッド(3)を保持するスタッド保持部(13)と、スタッドに対する加圧調整を行うためのバネ(18)と、バネ加圧量を調整するためのバネ圧力調整ノブ(12)とを備えたコンデンサ放電型スタッド溶接ガンにおいて、前記電極スライドロッドと連動し、且つ、スタッド材質に対応する複数の切換位置を有するバネ圧力切換レバー(14)を備え、該バネ圧力切換レバーの切換位置により、電極スライドロッドのバネ加圧量が段階的に切り換わる構成としたことを特徴とするコンデンサ放電型スタッド溶接ガンを、解決手段とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充放電溶接によってスタッドやワッシャ等の溶植を行う、持ち運び容易な、ポータブルコンデンサ放電型スタッド溶接機に用いるコンデンサ放電型スタッド溶接ガンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポータブルコンデンサ放電型スタッド溶接機に用いるコンデンサ放電型スタッド溶接ガンは、当該溶接ガンの先端部(例えば、先端チャック)に取付けたスタッドを溶植部分となる金属板に一定圧力で押し付ける構造を有している。一定圧力での押し付けは、溶接ガンに内蔵した圧力調整バネを、外部に設けた調整ノブを回すことで調整することができる。
【0003】
また、前記スタッドの先端部には、通常、放電時に溶接を促進するための突起物を備えている。当該突起物の直径はスタッドの幅寸法(直径)と比べて微小であり、溶接ガンで押し付けてコンデンサによる放電を行うことで、前記金属板の表面と溶着するものである。
【0004】
しかしながら、この突起物は押し付ける圧力が大きすぎると変形し、直径が大きくなり、単位面積当たりの電流密度が低下し、適切な溶接が行えないこととなる。そのため、使用者は適切なバネ圧力条件を設定するために何度か試し打ちを行う必要がある。
【0005】
スタッドの材質やサイズが変わるたびに前記試し打ちを行うことは、作業上大きな負担であった。また、特に、アルミ材のような比較的軟らかい材料では、前記突起物は直径が大きく変形しやすいものであるから、適切なバネ圧力設定作業は、より大きな負担となっていた。
【0006】
また、自動車板金修理で利用されるケースが多い鉄材の波形ワイヤ溶植では、圧力調整バネの設定がアルミ材の設定の場合とは異なり、硬めに設定しなければならない。このため、使用者がアルミ材、鉄材のスタッド材料に合わせて、その都度前記調整ノブを大きく動かして再調整しなければならず、適切なバネ圧力を再現して安定した溶接品質を確保するのに非常に手間がかかるものであった。
【0007】
上記手間を低減するものとしては、導電性材料からなって上下動可能に配置された通電材と、該通電材の先端に設けられて溶接しようとするスタッド材を保持する取付け治具と、これらを保持するホルダーとを有するスタッド溶接ガンにおいて、前記駆動手段に、前記通電材の上下動距離を制御可能なリニアモータを用いたことを特徴とするスタッド溶接ガン(例えば、特許文献1参照。)が公知である。
【0008】
また、他の例としては、ハウジング内に軸線方向に沿って摺動可能にのび先端に溶接すべきスタッドを受けるチャックを備えた筒状本体と、この筒状本体を常にその先端方向に向かって強制するバネと、溶接すべきスタッドと母材との間に溶接電流を流すための溶接電源装置の溶接コンデンサからの溶接ケーブルを持続する接続通電部材とを有し、トリガスイッチの作動により上記チャックを介して母材とスタッドとの間に溶接電流を流しスタッドを母材に押圧して溶接するようにしたコンデンサ放電型スタッド溶接ガンにおいて、上記バネによるスタッドに対する加圧力を調整できる調整部材と、上記筒状保運体の後端に取付けられた目盛部材とを有し、上記調整部材を上記目盛部材の目盛に合わせて調整することによりスタッドに対する加圧力を所要の値に設定できるようにしたことを特徴とするコンデンサ放電型スタッド溶接ガン(例えば、特許文献2参照。)が公知である。
【0009】
【特許文献1】特開2002−172465号公報
【特許文献2】特開昭61−111782号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献1に係る発明は、リニアモータを備えることによって、重量の増加や大型化を招来することから、コンデンサ放電型スタッド溶接ガンを扱う際には、作業者にとって負担が大きいものであった。また、構造の複雑化や部品コストの増大を招来する欠点があった。
【0011】
特許文献2に係る発明は、目盛部材を備えることにより、ある程度、所定バネ圧力の再現性を備えている。また、当該特許文献2第2頁右下欄乃至第3頁左上欄に「目盛りは使用するバネに応じて予め決められた各加圧値に対応して設けられ得る」との記載がされており、調整が容易であるようにも考えられる。
【0012】
しかしながら、例えば、アルミ材のスタッドと鉄材のスタッドとを切り替えようとする場合には、加圧値は大きく異なるために、その都度調整部材を大きく動かさなければならない。特許文献2に係る発明は、後端側のつまみを回動させることによって、該スタッド位置調整部材のスタッド受けピンの位置を調整して行うことから、アルミ材のスタッドと鉄材のスタッドの切換えの度に、つまみの回動を長時間繰り返して行う必要があり、非常に面倒であった。
【0013】
また、コンデンサ放電型スタッド溶接は、0.001乃至0.003秒程度の非常に短い時間で溶接を行い、スタッドの取付け対象となる母材(板金)の裏面に溶接跡を残さない点で、他のスタッド溶接方法と比べ利点があるが、加圧力をコントロールするために、ナゲット部が薄く、他のスタッド溶接方法と比べて接合強度がやや弱い欠点がある。
【0014】
これに加えて、特に鉄系波形ワイヤ等の特殊形状の金属片をコンデンサ放電型スタッド溶接で板金(母材)に対して溶植する場合には、一定間隔で連続する波形の谷部分を続けて波形ワイヤ用ビットを用いて溶接することによって、先に溶接した箇所に対して溶接するための電流が分流する。当該波形ワイヤ用ビットの押圧力が弱い場合には特にこの傾向が顕著となる。このため、押圧力が弱い場合には十分な溶接電流が確保できないこととなる。また、弱い押圧力では、板金表面で接触不良となり、板金の表面、裏面が焼ける問題が生じることがある。
【0015】
本発明は以上の事情に鑑みてなされたものであり、軽量で扱いやすく、安価に提供でき、スタッドのサイズや種類に対する調整が正確且つ容易に行え、確実にスタッドの溶植を行うことができ、板金の表面、裏面が焼けることのない、コンデンサ放電型スタッド溶接ガンを提供することを、発明が解決しようとする課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
シリンダと、該シリンダの側部に連結した把持部と、電極スライドロッドと、溶接スイッチとを備え、前記シリンダは、スタッドを保持するスタッド保持部と、スタッドに対する加圧調整を行うためのバネと、バネ加圧量を調整するためのバネ圧力調整ノブとを備えたコンデンサ放電型スタッド溶接ガンにおいて、前記電極スライドロッドと連動し、且つ、スタッド材質に対応する複数の切換位置を有するバネ圧力切換レバーを備え、該バネ圧力切換レバーの切換位置により、電極スライドロッドのバネ加圧量が段階的に切り換わる構成としたことを特徴とするコンデンサ放電型スタッド溶接ガンを、課題を解決するための手段とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によればシリンダと、該シリンダの側部に連結した把持部と、電極スライドロッドと、溶接スイッチとを備え、前記シリンダは、スタッドを保持するスタッド保持部と、スタッドに対する加圧調整を行うためのバネと、バネ加圧量を調整するためのバネ圧力調整ノブとを備えたポータブルコンデンサ放電型スタッド溶接機に用いるコンデンサ放電型スタッド溶接ガンにおいて、前記電極スライドロッドと連動し、且つ、スタッド材質に対応する複数の切換位置を有するバネ圧力切換レバーを備え、該バネ圧力切換レバーの切換位置により、電極スライドロッドのバネ加圧量が段階的に切り換わる構成としたから、使用するスタッドの材質を変更する際には、バネ圧力切換レバーを指で移動させるだけで、簡単に使用するスタッド材質の調整領域とすることができ、作業性を大きく向上させることができる。
【0018】
また、請求項2に係る発明、即ち、請求項1に係る発明に加えて、コンデンサ放電型スタッド溶接ガンは、スタッドの押し込みと溶接スイッチの手動操作で溶接可能となる手動回路と、スタッドの押し込みで溶接可能となる自動回路を備え、手動回路と自動回路を切換可能とする切換スイッチを備えた構成とすることによって、バネ圧力切換レバーを中央の固定位置とし、材質に応じた位置とし、自動回路使用時には、切換スイッチで第一溶接スイッチを選択し、スタッドの押し込みのみで効率良く溶接作業を行うことができる。
【0019】
また、手動回路使用時には、バネ圧力切換レバーを中央の固定位置とし、切換スイッチで第二溶接スイッチを選択し、スタッドの押し込みと第二溶接スイッチの手動操作により確実なスタッドの溶植を行うことができる。
【0020】
更に詳しくは、バネ圧力切換レバーを中央の固定位置とした際にはバネ圧力切換レバーを鉄材やアルミ材を選択したときの設定した場合とは異なり、バネの緩衝作用を遮断することができ、その結果、作業者が溶接ガンを把持して押圧した力が、ダイレクトに母材に伝わり、溶接に十分な押圧力を確保することができる。即ち、鉄系波形ワイヤ等のコンデンサ放電型スタッド溶接には適さないものを溶植する場合であっても、手動(第二溶接スイッチ)の選択することで、バネの緩衝効果を無効とすることができるため、波形ワイヤ等に対して強く押圧することが可能となり、目的となる溶接箇所に対して電流を十分に流すことができる。そして、接触不良から生ずる板金表面及び裏面の焼けを防止し、確実に、且つ体裁よく、溶植を行うことができる。
【0021】
請求項3に係る発明、即ち、上記請求項1又は2の構成に加えて、公知の構成であるバネ端部の移動量を表示するための目盛を備えることによって、更に迅速に、使用するスタッドに適合したバネ圧力を実現することができる。
【0022】
請求項4に開示したように、コンデンサ放電型スタッド溶接機に上記請求項1乃至請求項3に記載したコンデンサ放電型スタッド溶接ガンを具備させることによって、当該溶接ガンを軽量としたことで、ポータブルコンデンサ放電型スタッド溶接機自体を片手で簡単に扱うことができ、機動性を良好とすることができる。また、溶接ガン自体の製造コストを安価とすることで、コンデンサ放電型スタッド溶接機自体を低廉なものとすることができる。更に、上記請求項1乃至請求項3に記載した溶接ガンの種々の優れた効果を備えたポータブルコンデンサ放電型スタッド溶接機を提供することができる。
【0023】
請求項5に係る発明、即ち、請求項4に係るコンデンサ放電型スタッド溶接機において、溶接機本体に溶接時の出力調整手段を備えたことによって、コンデンサ放電型スタッド溶接ガンの重量を増加させることも無く、より容易に、使用するスタッドの材質やサイズに最適な状態で溶植作業を行うことができる。
【0024】
また、請求項1乃至請求項3に係るコンデンサ放電型スタッド溶接ガンを使用する際に、バネ圧力切換レバーを中央のロック位置として手動でスタッドの溶植を行うときには、バネによる押圧力の制御が行われないため、溶接機本体の出力調整摘みを用いることで、より一層、好適なスタッド溶植を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明は、シリンダと、該シリンダの側部に連結した把持部と、溶接スイッチとを備え、前記シリンダは、スタッドを保持するスタッド保持部と、スタッドに対する加圧調整を行うためのバネ及び加圧調整操作手段とを備えたコンデンサ放電型スタッド溶接ガンにおいて、当該コンデンサ放電型スタッド溶接ガンは、スタッドの押し込みと溶接スイッチの手動操作で溶接可能となる手動回路と、スタッドの押し込みで溶接可能となる自動回路を備え、前記加圧調整操作手段は、スタッド材質に応じたバネ圧力切換レバーを備え、該バネ圧力切換レバーは、溶接通電回路の一部であるとともに、手動回路と自動回路を切換可能としたコンデンサ放電型スタッド溶接ガンとすることによって、スタッドの材質やサイズを変更するには、バネ圧力切換レバーを切り換えることによって非常に簡単にスタッドの材質に適する加圧調整位置に移動させることができ、サイズの変更についてのみバネ圧力調整ノブを用いて行え、更に手動、自動の切換を行うことで、作業の状況に応じた使用が可能となり、軽量で扱いやすく、安価に提供でき、スタッドのサイズや種類に対する調整が正確且つ容易に行えるコンデンサ放電型スタッド溶接ガンを実現した。
【実施例】
【0026】
図1は本発明の実施例に係るコンデンサ放電型スタッド溶接ガンの右側面図、図2は同実施例に係るコンデンサ放電型スタッド溶接ガンの内部構造を示す縦一部断面図とその一部拡大図、図3は同実施例に係るコンデンサ放電型スタッド溶接ガンのバネ圧力切換レバーとコンデンサ放電型スタッド溶接ガンとの相対位置を示す正面説明図、図4は同実施例に係るコンデンサ放電型スタッド溶接ガンの先端側の一部省略した平面図、図5は同実施例に係るコンデンサ放電型スタッド溶接ガンを備えたポータブルコンデンサ放電型スタッド溶接機の回路図、図6はスタッドボルトに代えてワッシャを溶植する際に使用する鉄ワッシャ及び鉄ワッシャ用ビットを示す斜視図、図7は波形ワイヤの溶植に使用するビットを示す斜視図、図8は波型ワイヤの溶植状態を示す説明図、図9は本発明の実施例に係るポータブルコンデンサ放電型スタッド溶接機であって溶接機本体の正面を示す説明図、図10は同実施例に係るポータブルコンデンサ放電型スタッド溶接機であって溶接機本体の側面を示す説明図である。
【0027】
尚、本発明において「自動」とは、切換スイッチ17が第一溶接スイッチ15を選択している状態、即ち、母材2に対して溶接ガンを押圧するだけで溶接が可能となる状態をいう。また、本発明において「手動」とは、切換スイッチ17が第二溶接スイッチ16を選択している状態、即ち、母材2に対して溶接ガンを押圧するのに加えて、第二溶接スイッチ16を押す操作を行うことで、溶接が可能となる状態をいう。
【0028】
本発明の実施例に係るコンデンサ放電型スタッド溶接ガン1は、図9及び図10に示すポータブルコンデンサ放電型スタッド溶接機に取り付けた状態で使用している。
【0029】
(溶接ガンの主要構成)
本発明の実施例に係るコンデンサ放電型スタッド溶接ガン1は、図1及び図2に示すように、シリンダ10と該シリンダ10の下方側面に一体に形成した把持部11とからなる溶接ガン本体と、溶接ガン本体のシリンダ10内から突出する電極スライドロッド100の先端に取付けたスタッド保持部13とを備えてなるものである。尚、本実施例においては、溶接ガン本体は、左右に二分される合成樹脂製の溶接ガン本体右部材及び溶接ガン本体左部材を突き合わせてなる。
【0030】
シリンダ10内には軸中央長手方向に電極スライドロッド100が前後方向にスライド可能な状態で配置してある。電極スライドロッド100の先端側はシリンダ10から突出しており、当該電極スライドロッド100の先端部には前記したようにスタッド保持部13を設けている。
【0031】
図2及び図3に示すように、バネ圧力切換レバー14は、円盤状の回動板141の背面143の一部にブロック材144を備え、周面155からレバー部140を立設した形状である。回動板141の中心に形成された穴部142を前記電極スライドロッド100が貫通し、電極スライドロッド100の段部101とバネ圧力切換レバー14の回動板141の前面に当接している。
【0032】
シリンダ10の上部のうちレバー部140の配置に対応する位置には、レバー部規制開口部146を形成している。レバー部140はレバー部規制開口部146から突出している。レバー部140は垂直状態から左右へ夫々37°程度回動することができる。前記ブロック材144を回動板141の一部に設けたこととバネ圧力切換レバー14の回動とによって、バネ圧力切換レバー14と連結した電極スライドロッド100の押し込み可能な量が異なる。
【0033】
図4に示すように、前記レバー部規制開口部146は、左右方向に長穴状として開口した第一開口部147を形成し、第一開口部147の左右両端からシリンダ10後方向けに長穴状の第二開口部148を連続して形成している。また、第一開口部147の中央部及び左右両端からシリンダ10の前方向けに僅かに開口を延長してレバー係止部149を設けている。
【0034】
本実施例では、右方向へレバー部140を倒した状態で鉄材のスタッドやワッシャ等の使用に適した押圧力となる。また、左方向へレバー部140を倒した状態でアルミ材のスタッド3等に適した押圧力となる。更に、レバー部140が中央位置でロックした状態(即ち、電極スライドロッド100を母材2に対して押圧しても、電極スライドロッド100が後方向へスライドしない状態)となる。これは中央位置には第二開口部148は形成されていないからレバー部140は後方向へスライドできず、レバー部140と連結された電極スライドロッド100も後方向へスライドできないからである。
【0035】
尚、本実施例においてはレバー部140の位置と電極スライドロッド100との関係を容易とするために、アルミ材用の位置A(左端位置)に「弱」、鉄材用の位置B(右端位置)に「強」、中央に「固定」との表記を付している。
【0036】
シリンダ10内のバネ圧力切換レバー14の後方にコイルスプリングによる反発弾性と導電性を備えたプッシュロッド103を設けている。プッシュロッド103は、プッシュロッド保持体104によって保持している。また、プッシュロッド保持体104はシリンダ10に一体として設けている。前記プッシュロッド103は、更に当該プッシュロッド103の後方に位置する後記第一溶接スイッチ15を押すために利用する。
【0037】
そして、プッシュロッド103の後方には第一溶接スイッチ15(リーフスイッチ)を配置している。第一溶接スイッチ15は突出した第一スイッチレバー150を押圧した状態で通電する。
【0038】
把持部11内の前側付け根近傍には、第二溶接スイッチ16(リミットスイッチ)を設けている。第二溶接スイッチ16を通電状態とするための第二スイッチレバー160は把持部11から外部へ突出しており、作業者が把持部11を片手で握り、引き金を引く要領で、人差し指で第二スイッチレバー160を押すことができるように配置している。
【0039】
以上の第一溶接スイッチ15及び第二溶接スイッチ16は溶接時に選択的に使用するものである。この選択(切換)を行う手段として、図2に示すように、シリンダ10の上部に切換スイッチ17を設けている。切換スイッチ17のスイッチレバー170を左右へ切り換えることで、第一溶接スイッチ15と第二溶接スイッチ16とを切り換える。これらスイッチの切換えは、図5のポータブルコンデンサ放電型スタッド溶接機の回路図の放電回路中に、コンデンサ放電型スタッド溶接ガン1の回路として示している。
【0040】
電極スライドロッド100の後端近傍には、ロッド側バネ受け部105を設けている。また、電極スライドロッド100の中心軸上となるシリンダ10の最後尾にはバネ圧力調整ノブ12を配置している。前記バネ圧力調整ノブ12は前方側に雄ネジシャフト120を介してノブ側バネ受け部106を備えている。また、雄ネジシャフト120はシリンダ10の後端を閉塞する後壁121の中央に形成された雌ネジ穴122と螺合している。そして前記ロッド側バネ受け部105とノブ側バネ受け部106との間にはバネ18を介在している。
【0041】
前記バネ18の反発弾性によって、電極スライドロッド100は前方へ付勢されている。当該構成によって、バネ圧力調整ノブ12を締め込むとバネ18が押圧されて、電極スライドロッド100はより強く前方へ付勢されることとなる。
【0042】
本実施例に係るコンデンサ放電型スタッド溶接ガン1は、図9に一例として示すポータブルコンデンサ放電型スタッド溶接機4を構成している。コンデンサ放電型スタッド溶接ガン1と溶接機本体40はケーブル6で接続されている。尚、実施例におけるコンデンサ放電型スタッド溶接ガン1におけるケーブル6は把持部11の下部に形成したケーブル用開口部110から外部へ導出し、溶接機本体40の正面側へ連結した構成である。
【0043】
本実施例に係るコンデンサ放電型スタッド溶接ガン1を用いたポータブルコンデンサ放電型スタッド溶接機のうち特に溶接機本体40について説明する。尚、ポータブルコンデンサ放電型スタッド溶接機はあくまでの一例を示したものであり、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0044】
実施例に係るポータブルコンデンサ放電型スタッド溶接機における溶接機本体40は、図9及び図10に示すように、下部にキャスタ49、背部にハンドル47、電力供給ケーブル48を備え、正面には電源スイッチ43、充電時に点灯する充電通知ランプ41、放電時に点灯する放電通知ランプ42、素材別(アルミ、鉄)に対応した出力調整摘み44を設けている。出力調整摘み44の回転に伴って出力値が段階的に変化するものである。出力調整摘み44の周囲には、アルミ材と鉄材との適切な出力値の調整範囲を段階的に示すアルミ材調整範囲表示部45、鉄材調整範囲表示部46を有している。
【0045】
本実施例に係るコンデンサ放電型スタッド溶接ガン1は前記したように、バネ圧力切換レバー14とバネ圧力調整ノブ12、切換スイッチを用いることで、手元で簡単にスタッドの種類やサイズに応じた最適な設定を行うことができる点で優れているが、一方で、溶接機本体に調整機能を設けることにより、更に調整の容易さが増し、またコンデンサ放電型スタッド溶接ガン1自体の重量の増加を招来することもない。
【0046】
また、本実施例に係るコンデンサ放電型スタッド溶接ガン1を使用する際に、バネ圧力切換レバー14を中央のロック位置Cとして手動でスタッド3の溶植を行う際には、バネ18による押圧力の制御が行われないため、溶接機本体40の出力調整摘み44を用いることで、より一層、好適なスタッド溶植を実現することができる。
【0047】
尚、本実施例における溶接機本体は、コンデンサ放電型スタッド溶接ガン1が非常に軽量であることから、溶接ガンを吊り下げるための手段等(アーム等)や支持する手段(溶接ガンホルダ等)を有しないものである。しかしながら、通常ポータブルの溶接機において溶接ガンを吊下げ若しくは支持する手段は、必要に応じて設けることができる。また、例えばアームに対して必要なフック等をコンデンサ放電型スタッド溶接ガン1に設けることもできる。
【0048】
以上の構成の本発明実施例に係るコンデンサ放電型スタッド溶接ガン1について、溶着時の操作及び動作の説明を行う。
【0049】
先ず、アルミ材のスタッド3を用いる場合について溶着時の状態を説明する。電極スライドロッド100の先端にはアルミのスタッド3を取付けた状態とする。バネ圧力切換レバー14を、左端、即ち、アルミ材用の位置Aに設定する。また、切換スイッチ17は第一溶接スイッチ15を選択する。
【0050】
この状態でコンデンサ放電型スタッド溶接ガン1を母材2に対して押し付けると、スタッド3、電極スライドロッド100、バネ圧力切換レバー14が一体となって後方へ移動し、該バネ圧力切換レバー14の回動板141に形成したブロック材144がプッシュロッド103を押し、更にプッシュロッド103が第一溶接スイッチ15を押す。プッシュロッド103が第一溶接スイッチ15を押すことによって、通電状態となり、放電による溶接を行うことができる。
【0051】
次に、鉄材のスタッド3を用いる場合について溶着時の状態を説明する。電極スライドロッド100の先端には鉄材のスタッド3を取り付けた状態とする。バネ圧力切換レバー14を、右端、即ち、鉄材用の位置Bに設定する。また、切換スイッチ17は第一溶接スイッチ15を選択する。
【0052】
この状態でコンデンサ放電型スタッド溶接ガン1を母材2に対して押し付けると、上記アルミ材の場合と同様に、スタッド3、電極スライドロッド100、バネ圧力切換レバー14が一体となって後方へ移動する。ここで、鉄材のスタッド3を用いる場合には、バネ圧力切換レバー14の回動板141が直接(ブロック材144の無い部分)がプッシュロッド103を押し、更にプッシュロッド103が第一溶接スイッチ15を押す。
【0053】
プッシュロッド103が第一溶接スイッチ15を押すことによって、通電状態となり、放電による溶接を行うことができる。回動板141のブロック材144の無い部分がプッシュロッド103を押すことで、アルミ材の設定の場合と比べて、電極スライドロッド100の移動量が大きくなり、バネ18をより一層圧縮する。このため、バネ18の反発弾性が大きくなり、スタッド3を母材2に対してより強く押圧することができる。
【0054】
尚、鉄製のスタッド3に代えて、鉄製のワッシャ5を溶植する場合には、電極スライドロッド100の先端に図6に示すような鉄ワッシャ用ビット50を取り付け、該鉄ワッシャ用ビット50によって、鉄ワッシャ5を保持して行うことができる。
【0055】
以上の自動溶接は、バネ圧力調整ノブ12の調整により、更に細かな押圧力の設定をおこなうことができる。また、先行技術に開示される調整量を示すための目盛を設けることもできる。
本願発明は、前記したバネ圧力切換レバー14によって、瞬時に異なる材質のスタッドに対して調整位置を決定した上で、公知技術であるバネ圧力調整ノブ12や目盛の付与を行うことができることから、バネ圧力調整ノブ12は大きく移動させる必要が無く、また目盛の付与も部分的なもので足りる。そして、当該構成によって、コンデンサ放電型スタッド溶接ガン1はモータ等の具備による重量増加を招来せず軽量であり、操作性は飛躍的に向上するのである。
【0056】
波形ワイヤ8等の特殊形状を有するスタッドを母材2に溶接する状態を説明する。先ず、電極スライドロッド100の先端に波形ワイヤ用ビット7(図7参照。)を装着する。バネ圧力切換レバー14を中央のロック位置C(即ち、バネ18の弾性が作用しない状態)とする。また、切換スイッチ17は第二溶接スイッチ16を選択する。
【0057】
この状態で図8に示すように、コンデンサ放電型スタッド溶接ガン1を母材(板金)2に対して押し付けると、バネ圧力切換レバー14が後方向へ移動することができないことから、該バネ圧力切換レバー14に連結された電極スライドロッド100も後方へ移動することができない状態となる。ここで、第二溶接スイッチ16を押すことにより、溶接箇所80に対して通電し、自動溶接時よりも強い押圧力をかけて溶接を行うことができることから、先に溶接を行った溶接部分81への溶接電流の分流を低減し、十分な溶接電流を確保することができるとともに、接触不良から生じる板金の表面、裏面の焼き付きの発生を防止することができる。
【0058】
上記した方法以外の手動溶接として、バネ圧力切換レバー14を左右の端部のいずれかとし、切換スイッチ17を第二溶接スイッチ16とすることができる。バネ圧力切換レバー14を左右位置A、Bにすることで、電極スライドロッド100の移動量は自動溶接時と同じであり、溶接のタイミングを勘案して手動で溶接を行うことができることから、非常に便利であり、作業性を向上することができる。
【0059】
以上のように、本発明に係るコンデンサ放電型スタッド溶接ガンは、バネ圧力切換レバー14を備えたことから、バネ圧力調整ノブ12を長時間繰返し回動させる手間が無く、スタッド3の種類やサイズに応じた設定を極めて簡単に行うことができる。また、切換スイッチ17を備えた場合には、電極スライドロッド100をロックしてバネ18の緩衝効果を無効とし、母材2に対して十分な押圧力を発揮し、スタッド3を溶植することができる。更に、モータを使用せず、バネの有効、無効を切換える構成のため重量の増加を招来せず、作業性に優れ、効果な部品を必要とせず簡単な構成で実現することから、非常に安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施例に係るコンデンサ放電型スタッド溶接ガンの右側面図である。
【図2】本発明の実施例に係るコンデンサ放電型スタッド溶接ガンの内部構造を示す縦一部断面図とその一部拡大図である。
【図3】本発明の実施例に係るコンデンサ放電型スタッド溶接ガンのバネ圧力切換レバーとコンデンサ放電型スタッド溶接ガンとの相対位置を示す正面説明図である。
【図4】本発明の実施例に係るコンデンサ放電型スタッド溶接ガンの先端側の一部省略した平面図である。
【図5】本発明の実施例に係るコンデンサ放電型スタッド溶接ガンを備えたポータブルコンデンサ放電型スタッド溶接機の回路図である。
【図6】本発明において、ワッシャを溶植する際に使用する鉄ワッシャ及び鉄ワッシャ用ビットを示す斜視図である。
【図7】本発明において、波形ワイヤの溶植に使用するビットを示す斜視図である。
【図8】波型ワイヤの溶植状態を示す説明図である。
【図9】本発明の実施例に係るポータブルコンデンサ放電型スタッド溶接機であって溶接機本体の正面を示す説明図である。
【図10】本発明の実施例に係るポータブルコンデンサ放電型スタッド溶接機であって溶接機本体の側面を示す説明図である。
【符号の説明】
【0061】
1 コンデンサ放電型スタッド溶接ガン
10 シリンダ
100 電極スライドロッド
101 段部
103 プッシュロッド
104 プッシュロッド保持体
105 ロッド側バネ受け部
106 ノブ側バネ受け部
11 把持部
110 ケーブル用開口部
12 バネ圧力調整ノブ
120 雄ネジシャフト
121 後壁
122 雌ネジ穴
13 スタッド保持部
14 バネ圧力切換レバー
140 レバー部
141 回動板
142 穴部
143 背面
144 ブロック材
145 周面
146 レバー部規制開口部
147 第一開口部
148 第二開口部
149 レバー係止部
15 第一溶接スイッチ
16 第二溶接スイッチ
17 切換スイッチ
170 スイッチレバー
18 バネ
2 母材
3 スタッド
4 ポータブルコンデンサ放電型スタッド溶接機
40 溶接機本体
41 充電確認ランプ
42 放電確認ランプ
43 電源スイッチ
44 出力調整摘み
45 アルミ材調整範囲表示部
46 鉄材調整範囲表示部
47 ハンドル
48 電力供給ケーブル
49 キャスタ
5 ワッシャ
50 鉄ワッシャ用ビット
6 ケーブル
7 波形ワイヤ用ビット
8 波形ワイヤ
80 溶接箇所
81 溶接部分
A (アルミ材用の)位置
B (鉄材用の)位置
C ロック位置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、該シリンダの側部に連結した把持部と、電極スライドロッドと、溶接スイッチとを備え、前記シリンダは、スタッドを保持するスタッド保持部と、スタッドに対する加圧調整を行うためのバネと、バネ加圧量を調整するためのバネ圧力調整ノブとを備えたコンデンサ放電型スタッド溶接ガンにおいて、
前記電極スライドロッドと連動し、且つ、スタッド材質に対応する複数の切換位置を有するバネ圧力切換レバーを備え、該バネ圧力切換レバーの切換位置により、電極スライドロッドのバネ加圧量が段階的に切り換わる構成としたことを特徴とするコンデンサ放電型スタッド溶接ガン。
【請求項2】
コンデンサ放電型スタッド溶接ガンは、スタッドの押し込みと溶接スイッチの手動操作で溶接可能となる手動回路と、スタッドの押し込みで溶接可能となる自動回路を備え、
手動回路と自動回路を切換可能とする切換スイッチを備えたことを特徴とする請求項1記載のコンデンサ放電型スタッド溶接ガン。
【請求項3】
バネ圧力調整ノブの操作によるバネ端部の移動量を表示するための目盛を備えたことを特徴とする請求項1又は2記載のコンデンサ放電型スタッド溶接ガン。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載のコンデンサ放電型スタッド溶接ガンを備えたことを特徴とするポータブルコンデンサ放電型スタッド溶接機。
【請求項5】
コンデンサ放電型スタッド溶接機の溶接機本体には、溶接時の出力調整手段を備えたことを特徴とする請求項4記載のポータブルコンデンサ放電型スタッド溶接機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2006−346712(P2006−346712A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−176980(P2005−176980)
【出願日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【出願人】(000109772)デンゲン株式会社 (6)