説明

コンデンサ放電型スタッド溶接用溶接ガンの良否判定方法及び良否判定装置

【課題】視覚的に捉えることができ、データ的点検が可能で、しかも正確に溶接ガンの作動良否の判定を行うことができるコンデンサ放電型スタッド溶接用溶接ガンの良否判定方法及び良否判定装置を提供する。
【解決手段】スタッドが母材に接触して溶接接合されるコンタクトポイントが生じるのに適したCP最適時間帯を予め決めると共に、前記CP最適時間帯の全体を含むように測定時間帯を予め決め、実際のスタッド溶接中に、前記測定時間帯において複数回溶接電流値又は溶接電圧値を測定し、測定した複数の溶接電流値又は溶接電圧値の大きさを比較して、電流値又は電圧値が下降から上昇に変化する変化時点を検出し、前記検出した変化時点が、最適時間帯内にあるか否かに基づいて溶接ガンの動作の良否判定を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタッド溶接を行うコンデンサ放電型スタッド溶接用の溶接ガンの良否判定方法及び良否判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コンデンサ放電型スタッド溶接は、溶接時間が数dsec〜10数dsecであるアークスタッド溶接に比べて、溶接時間が数msecと短いため、アークスタッド溶接に用いられる溶接ガンのようにサーボモータを用いてスタッドを母材に押し込むことは困難である。
このため、コンデンサ放電型スタッド溶接に用いられる溶接ガンは、通常、加圧用スプリングの付勢力を用いてスタッドを母材に押し込むように構成されている。
図9は、コンデンサ放電型スタッド溶接用の溶接ガンの部分断面図である。
図中、符号100は円筒状ハウジングを示しており、このハウジング100の後端にはキャップ101が取外し可能に装着されている。また、ハウジング100にはハンドル102が設けられており、ハンドル102にはトリガボタン103が設けられている。ハウジング100の内部には導電体材料の筒状本体104が不図示の軸受けによって軸線方向に摺動可能に支持されている。筒状本体104の先端にはスタッドSを取り付けるためのチャック105が挿入されており、このチャック105は、締付ナット106によって筒状本体104に固定される。
また、図中、符号107は、不図示の溶接電源装置からの溶接ケーブルの端子108を筒状本体104に接続するための接続端子部材である。
さらに、図9に示すように、筒状本体104には、二つのばね座109及び110が設けられており、これらの二つのばね座109及び110の間には、筒状本体104を先端方向に向かって押圧する加圧用スプリング111が設けられている。前記二つのばね座のうちの一方109は、ハウジング100の後端にねじ込まれるばね調整ねじ112によって筒状本体104に沿って軸線方向に摺動可能であり、これにより、加圧用スプリング111の反発力、即ち、スタッドに対する加圧力を調整できるように構成されている。
上記したように構成された溶接ガンを用いるコンデンサ放電型スタッド溶接による溶接の良否判定は、従来は、作業者による溶接後のスタッドの目視確認や破壊検査により行われていたが、出願人は、本発明に先立ち、コンデンサ放電型スタッド溶接による溶接の新しい良否判定の方法を提案した(特許文献1)。
この良否判定方法は、コンデンサに蓄積されたエネルギを放電し、スタッド先端チップ部が溶融するアークポイント(AP)の基準となる第一基準点、該第一基準点からアークがスタッド中心より外側に向かって広がりエネルギがピークとなるピークポイント(PP)の基準となる第二基準点、及び母材とスタッドとが溶接接合されるコンタクトポイント(CP)の基準となる第三基準点の三つの時点において、溶接強度が許容され得る電流又は電圧の上限値及び下限値を、溶接条件に合わせてそれぞれ決めて、第一判定領域(AP判定領域)、第二判定領域(PP判定領域)及び第三判定領域(CP判定領域)とし、実際のスタッド溶接毎に、前記各判定領域における電流又は電圧を測定し、測定結果が各判定領域の下限から上限の範囲に入るか否かに基づいてスタッド溶接の良否判定を行うものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−221252号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記したスタッド溶接の要否判定方法によれば、作業者による目視確認や破壊検査を行うことなく溶接後の溶接状態の良否判定を行うことができるが、その良否判定の結果が、溶接ガンに起因するものなのかの良否の特定を行うことはできない。
具体的には、例えば、溶接ガンは、上記したようにハウジング100に対して筒状本体104が軸線方向に摺動可能に支持されているが、溶接時にスパッタ等が摺動部分に付着したり、摺動部分が損傷したりする等が原因で摺動部分の動きが悪くなったり、また、加圧用スプリング111の経年変化によって加圧力が不足してきたりする等が原因で作動不良に陥ることがあり、このような溶接ガンの動作不良が原因で溶接状態が悪くなることもある。
アークスタッド溶接に用いられる溶接ガンのようにスタッドの母材への押し込みをサーボモータで行えば溶接ガンの動作状態を正確に把握することは可能であるが、溶接時間が数msecと短いコンデンサ放電型スタッド溶接では、サーボモータを用いてスタッドの母材への押し込みを行うことは実質的に不可能である。
出願人は、母材と溶接ガンそのものの動作の良否判定について研究を重ねる過程で、母材とスタッドとが溶接接合されるコンタクトポイントが生じるタイミングが、溶接ガンの作動に大きく関係していることに着目した。コンタクトポイントは、母材とスタッドとが溶接接合されるスタッド溶接の中で一番重要なタイミングであり、このコンタクトポイントが最適の時間帯の範囲内に入っていないと溶接不良となるが、溶接ガンの摺動部分の動きが悪くなったり、また、加圧用スプリングの経年変化によって加圧力が不足してきたりする等の作動不良がおきると、コンタクトポイントが最適な時間帯からずれることになる。
図10(a)は、コンタクトポイントが最適な時間帯の範囲内で生じている電圧波形の一例を示す図であり、
図10(b)は、コンタクトポイントが最適な時間帯より後に生じている電圧波形の一例を示す図であり、
図10(c)は、コンタクトポイントが最適な時間帯より前に生じている電圧波形の一例を示す図である。
図10(b)に示すように、コンダンサ放電型スタッド溶接用溶接ガンにおいて、コンタクトポイントまでの時間がのびてしまう原因としては、以下の原因が考えられる。
・加圧用スプリングの加圧力が低い。
・経年変化(使用)により、溶接ガンの加圧用スプリングが弱まる。
・スパッタ等の付着により、溶接ガンの摺動部分の動きが悪くなる。
・溶接ガンの摺動部分の損傷により動きが悪くなる。
また、図10(c)に示すようにコンタクトポイントまでの時間が短くなってしまう原因としては、加圧用スプリングの加圧力が高い原因が考えられる。
本発明は、コンダンサ放電型スタッド溶接に用いられる溶接ガンとコンタクトポイントとの上記した関係を利用して、視覚的に捉えることができ、データ的点検が可能で、しかも正確に溶接ガンの作動良否の判定を行うことができるコンデンサ放電型スタッド溶接用溶接ガンの良否判定方法及び良否判定装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るコンデンサ放電型スタッド溶接機用溶接ガンの良否判定方法は、コンデンサに蓄積されたエネルギを放電し、スタッドと母材との間でアークを発生させてスタッドと母材を溶融させると同時に、スタッドを母材に押し付けて母材にスタッドを溶け込ませて溶接するコンデンサ放電型溶接機の良否判定方法であって、スタッドが母材に接触して溶接接合されるコンタクトポイントが生じるのに適したCP最適時間帯を予め決めると共に、前記CP最適時間帯の全体を含むように測定時間帯を予め決め、実際のスタッド溶接中に、前記測定時間帯において複数回溶接電流値又は溶接電圧値を測定し、測定した複数の溶接電流値又は溶接電圧値の大きさを比較して、電流値又は電圧値が下降から上昇に変化する変化時点を検出し、前記検出した変化時点が、最適時間帯内にあるか否かに基づいて溶接ガンの動作の良否判定を行うことを特徴とする。
また、本発明に係るコンデンサ放電型スタッド溶接機用溶接ガンの良否判定装置は、コンデンサに蓄積されたエネルギを放電し、スタッドと母材との間でアークを発生させてスタッドと母材を溶融させると同時に、スタッドを母材に押し付けて母材にスタッドを溶け込ませて溶接するコンデンサ放電型溶接機の良否判定装置であって、スタッドが母材に接触して溶接接合されるコンタクトポイントが生じるのに適したCP最適時間帯を決める最適時間帯決定手段と、前記CP最適時間帯の全体を含むように測定時間帯を決める測定時間帯決定手段と、実際のスタッド溶接中に、前記測定時間帯において複数回溶接電流値又は溶接電圧値を測定する測定手段と、測定した複数の溶接電流値又は溶接電圧値の大きさを比較して、電流値又は電圧値が下降から上昇に変化する変化時点を検出するコンタクトポイント検出手段と、前記検出したコンタクトポイントが、最適時間帯内にあるか否かに基づいて溶接ガンの動作の良否判定を行う良否判定手段とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係るコンデンサ放電型スタッド溶接用溶接ガンの良否判定方法は、コンデンサに蓄積されたエネルギを放電し、スタッドと母材との間でアークを発生させてスタッドと母材を溶融させると同時に、スタッドを母材に押し付けて母材にスタッドを溶け込ませて溶接するコンデンサ放電型溶接機の良否判定方法であって、スタッドが母材に接触して溶接接合されるコンタクトポイントが生じるのに適したCP最適時間帯を予め決めると共に、前記CP最適時間帯の全体を含むように測定時間帯を予め決め、実際のスタッド溶接中に、前記測定時間帯において複数回溶接電流値又は溶接電圧値を測定し、測定した複数の溶接電流値又は溶接電圧値の大きさを比較して、電流値又は電圧値が下降から上昇に変化する変化時点を検出し、前記検出した変化時点が、最適時間帯内にあるか否かに基づいて溶接ガンの動作の良否判定を行うので、コンタクトポイントが最適時間帯に生じているか否かを正確に判定することができ、それにより、経年劣化によるスプリングの加圧力の変化やスタッドの付着等による摺動部分の動きの悪化等のような溶接ガンそのものの動作不良の可能性を検知することができるようになる。
また、本発明に係る良否判定装置は、コンデンサに蓄積されたエネルギを放電し、スタッドと母材との間でアークを発生させてスタッドと母材を溶融させると同時に、スタッドを母材に押し付けて母材にスタッドを溶け込ませて溶接するコンデンサ放電型溶接用溶接ガンの良否判定装置であって、スタッドが母材に接触して溶接接合されるコンタクトポイントが生じるのに適したCP最適時間帯を決める最適時間帯決定手段と、前記CP最適時間帯の全体を含むように測定時間帯を決める測定時間帯決定手段と、実際のスタッド溶接中に、前記測定時間帯において複数回溶接電流値又は溶接電圧値を測定する測定手段と、測定した複数の溶接電流値又は溶接電圧値の大きさを比較して、電流値又は電圧値が下降から上昇に変化する変化時点を検出するコンタクトポイント検出手段と、前記検出したコンタクトポイントが、最適時間帯内にあるか否かに基づいて溶接ガンの動作の良否判定を行う良否判定手段とを備えているので、コンタクトポイントが最適時間帯に生じているか否かを正確に判定することができ、それにより、経年劣化によるスプリングの加圧力の変化やスタッドの付着等による摺動部分の動きの悪化等のような溶接ガンそのものの動作不良の可能性を検知することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】コンデンサ放電式溶接機を用いてスタッド溶接を実行している間に検出した電圧波形を示す図である。
【図2】(a)〜(c)はコンデンサ放電式溶接によるスタッド溶接のスタッド及び母材の状態を示す概略図である。
【図3】(a)はコンタクトポイントがCP最適時間帯D3で生じている例を、(b)はコンタクトポイントがCP最適時間帯D3で生じていない例を示している。
【図4】(a)はコンタクトポイントがCP最適時間帯D3の開始時点の付近で生じている例を、(b)はコンタクトポイントがCP最適時間帯D3の終了時点の付近で生じている例を示している。
【図5】測定時間帯D4をCP最適時間帯D3より十分に広く設定した例を示している。
【図6】本発明に係る良否判定装置の概略ブロック図である。
【図7】図6に示した良否判定装置における初期設定の流れを示すフローチャートである。
【図8】図6に示した良否判定装置における良否判定の流れを示すフローチャートである。
【図9】コンデンサ放電型スタッド溶接用の溶接ガンの部分断面図である。
【図10】(a)は、コンタクトポイントが最適な時間帯の範囲内で生じている電圧波形の一例を示す図であり、(b)は、コンタクトポイントが最適な時間帯より後に生じている電圧波形の一例を示す図であり、(c)は、コンタクトポイントが最適な時間帯より前に生じている電圧波形の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付図面を参照して本発明に係るスタッド溶接ガンの良否判定方法及び装置の実施の形態について説明していく。
【0009】
図1は、コンデンサ放電式溶接機を用いてスタッド溶接を実行している間に検出した電圧波形を示す図である。以下、データ取得、入力及び溶接ガンの良否判定に使用するスタッドは、製作誤差内にある正常なスタッドを用い、使用する母材についても傷、凹凸等の無い平板を用いる。
なお、コンデンサ放電式溶接によるスタッド溶接には、主に鋼製のスタッドでスタッド先端チップ部を母材に圧接した状態で溶接を開始するコンタクト方式と、アルミニウム製でスタッド先端チップ部を母材から離した状態からスタッドを母材に向けて押圧していくギャップ方式とがあるが、本発明はこれら両者に適用可能である。
横軸は時間を、縦軸は電圧を示している。
図1中、符号Lは下限溶接電圧を用いて溶接機でスタッド溶接をした時の下限電圧波形であり、符号Hは上限溶接電圧を用いてスタッド溶接をした時の上限電圧波形である。
ここで、「下限溶接電圧」とは、溶接後のスタッドの強度及び品質が許容され得る下限の溶接電圧であり、「上限溶接電圧」とは、溶接後のスタッドの強度及び品質が許容され得る上限の溶接電圧である。
これらの下限溶接電圧及び上限溶接電圧は、溶接条件(即ち、母材やスタッドの品質及び溶接後の品質等)に応じて、予め破壊試験や目視確認等により強度確認をして決められる。
また、図1中、D1はAP最適時間帯、D2はPP最適時間帯、そしてD3はCP最適時間帯をそれぞれ示している。
AP最適時間帯D1は、溶接機の溶接ガンのスイッチをONにし、溶接機のコンデンサに蓄積されたエネルギがスタッド1の先端チップ部1aで放電した後、チップ部1aが溶融するアークポイントAPを中心にして前後に許容時間を設定したことにより得られる時間帯である(図2(a)から(b)参照)。図中符号J1はAP判定領域を示しており、このAP判定領域J1は、AP最適時間帯D1と、下限電圧波形L及び上限電圧波形Hとで囲まれた範囲で画定されている。
アークポイントAPが発生した後、スタッド1と母材2との間にメインアークが発生し、そのアークがスタッド1の中心より外側に向かって広がり放電エネルギがピークとなりスタッド1と母材2が溶融される(図2(b)参照)。また、この時、同時にスタッド1は母材2に向かって圧接させられる。PP最適時間帯D2は、この時のスタッド1にかけられる電圧がピークに達する電圧ピークポイントPPを中心にして前後に許容時間を設定したことにより得られる時間帯である。図1中、符号J2はPP判定領域を示しており、このPP判定領域J2は、PP最適時間帯D2と、下限電圧波形L及び上限電圧波形Hとで囲まれた範囲で画定されている。
CP最適時間帯D3は、母材2にスタッド1が溶け込んで溶接が完了するコンタクトポイントCPを中心にして前後に許容時間を設定したことにより得られる時間帯である(図2(c)参照)。図1中、符号J3はCP判定領域を示しており、このCP判定領域J3は、CP最適時間帯D3と、下限電圧波形L及び上限電圧波形Hとで囲まれた範囲で画定されている。
出願人が提案した特許文献1に係る従来の溶接良否判定方法では、予め、AP判定領域J1、PP判定領域J2及びCP判定領域D3を設定しておき、実際の溶接時の電圧波形Mが、全ての判定領域J1〜J3を通るか否かに基づいて溶接の良否判定を行っていた。
【0010】
本発明に係るスタッド溶接ガンの良否判定方法では、前記判定領域J1〜J3は使用せずに、サンプリング溶接により最適コンタクトポイントを決め、そのコンタクトポイントに基づいてCP最適時間帯D3を設定し、さらにCP最適時間帯D3の全体を含むようにCP最適時間帯D3より長い測定時間帯D4を設定しておき、良否判定を行う時に、CP最適時間帯D3を決めたサンプリング溶接と同一条件(母材材質、スタッド材質、スタッド形状、充電電圧、溶接ガン加圧力)で実際にスタッド溶接を行う。そして、スタッド溶接を行う際に、前記測定時間帯D4の間、予め決めた所定の単位時間毎に実際の電圧値を測定し、隣接する測定結果(電圧値)を比較することにより、電圧が上昇しているか下降しているかを検出し、その検出結果に基づいて電圧波形Mの変化点、即ち、コンタクトポイントCPを検出する。そして、検出したコンタクトポイントCPがCP最適時間帯D3の範囲内で生じていない場合にはスタッド溶接ガンの動作不良と判定する。
具体的には、図3(a)の例では、時間T1における測定結果より時間T2における測定結果の方が電圧値が低く、かつ、時間T2における測定結果より時間T3における測定結果の方が電圧値が低い。また、時間T3における測定結果より時間T4における測定結果の方が電圧値が高く、その後は電圧値は上昇し続けている。これらの結果から、時間T2から時間T4の間で電圧波形Mが下降から上昇に変化していることがわかる。このように、測定時間単位で隣接する測定値から電圧値の変動状態(下降又は上昇)を検出し、前後の二つの変動状態を比較して、変動状態が下降から上昇に変化していれば、下降から上昇に変化する過程でコンタクトポイントCPが生じていることがわかる。これらの結果から、時間T2から時間T4の間、即ち、CP最適時間帯D3の間に、コンタクトポイントCPが生じていることが分かり、その結果、スタッド溶接ガンは動作不良を起こしていないことが分かる。
図3(b)の例では、時間T1における測定結果より時間T2における測定結果の方が電圧値が高く、その後も、電圧値は上昇し続け、下降することがない。これらの結果から、時間T1から時間T10にかけて電圧値は上昇し続け一度も下降していないことが分かる。これらの結果から、コンタクトポイントCPはCP最適時間帯D3の間では生じていないことが分かる。従って、この場合には、コンタクトポイントCPがCP最適時間帯D3より前か後にずれているため、スパッタ等の不純物の付着による摺動部分の不良や経年劣化による加圧用スプリングの不良等が原因で溶接ガンが動作不良を起こしている可能性があることが分かる。
前記CP最適時間帯D3は、上記したように、サンプリング溶接で決めた最適コンタクトポイントCPを中心にして前後に許容時間を設定することで決められ、測定時間帯D4は、前記CP最適時間帯D3の全体を含むように適当に設定される。図3(a)及び(b)においては、時間T2〜T9までの間がCP最適時間帯D3であり、時間T1〜T10までの間が測定時間帯D4である。
このようにCP最適時間帯D3の全体を含むように測定時間帯D4を設定することで、例えば図4(a)に示すように、良否判定時のコンタクトポイントがCP最適時間帯D3の開始時点T2の付近で生じている場合や、図4(b)に示すように良否判定時のコンタクトポイントがCP最適時間帯D3の終了時点T9の付近で生じている場合でも、正確にコンタクトポイントを検出することが可能になる。
図3及び図4では、測定時間帯D4(T1〜T10)は、CP最適時間帯D3(T2〜T9)より測定単位時間の一単位分だけ広く設定されている。このように測定時間帯D4は、CP最適時間帯D3の全体を含むように設定すればよいが、例えば、図5に示すように、測定時間帯D4をCP最適時間帯D3より十分に広く設定すれば、良否判定時にコンタクトポイントがCP最適時間帯D3に入っていない場合に、コンタクトポイントがCP最適時間帯D3の前にずれているのか、後ろにずれているのかを検出することも可能である。このように構成することで、コンタクトポイントのずれから、動作不良の原因を予測することが可能になる。図5の例では、測定時間帯D4は時間T1〜T18であり、CP最適時間帯D3は時間T5〜時間T12であり、良否判定時のコンタクトポイントは時間T3の付近で生じている。そして、測定結果からコンタクトポイントがCP最適時間帯D3の前にずれていることが分かるため、その原因を予測することも可能になる。
なお、図5に示す測定時間帯D4は、必ずしも最適時間帯D3の両側に設ける必要は無く、T12側のみに広く設定してもよい。通常、溶接ガンは、前記したようにコンタクトポイントまでの時間がのびる原因がほとんどであり、この方が溶接ガンの動作不良を把握しやすい。T12側以降にコンタクトポイントが無く、かつ良否判定で不良となれば、コンタクトポイントはT5以前に出現した可能性が高くなり、目安として加圧力が高いとの判断がたてられる。
測定時間帯D4において電圧値を測定する単位時間を短くすればコンタクトポイントCPが生じている時点をより正確に確認することが可能になる。
具体的には、例えば、図1に示す溶接波形では、データの取得間隔(単位時間)は50μsec.であり、CP最適時間帯D3は500μsec.、測定時間帯D4は700μsec.であり得る。
なお、データの取得間隔(単位時間)が100μsec.であっても十分に実用に供し得ることが確認されている。
【0011】
本実施例に係る溶接ガンの良否判定方法は、コンタクトポイントCPがCP最適時間帯D3の範囲内で生じていれば、溶接機の動作が良好に行われていると判断し、コンタクトポイントCPがCP最適時間帯D3の範囲内で生じていない場合には溶接ガンの動作不良が生じていると判断する。
【0012】
以下、図6及び図7を参照して、上記した本発明に係る溶接ガンの良否判定方法を実行する良否判定装置の実施の形態について説明していく。
図6は、本発明に係る良否判定装置の概略ブロック図、図7は、図6に示した良否判定装置の作用を示すフローチャートである。
図面に示すように、この良否判定装置10は、電圧測定部11、CP最適時間帯決定部12、測定時間帯決定部13、記憶部14、コンタクトポイント検出部15、及び良否判定手段16を有する。
電圧測定部11は、溶接用電源3の出力ライン4に設けられたシャント抵抗5からの信号を取得して溶接電圧値を測定する。尚、図6中、符号4及び4’は、溶接電流をスタッドに流すための回路を構成する出力ラインを示しており、符号7は、溶接ガン6に制御信号を送る制御ケーブルを示している。
使用者は、予め、溶接作業を行う溶接用電源3、溶接ガン6、スタッド1及び母材2を用いて、複数のスタッドで予備テスト溶接を行い、基準となる溶接ガン6の加圧力及び作業溶接電圧を破壊試験や目視確認等により強度と品質を確認して決める。
この基準となる溶接ガン6の加圧力及び作業溶接電圧は、予めデータとして提供されたり、経験値より決定することも可能である。
【0013】
加圧力及び作業溶接電圧(必要に応じて下限溶接電圧及び上限溶接電圧)の決定後、良否判定装置10を用いてCP最適時間帯D3及び測定時間帯D4を決める。
良否判定装置10の電源を入れ、始めに、スタッド1及び母材2の品種を選択する(ステップ1)。スタッド1及び母材2の品種は予め記憶部14に登録されている。
次いで、溶接ガン6の加圧力及び溶接電圧を予備テスト溶接(又はデータ、経験値でもよい)で決めた作業用溶接電圧にセットしてサンプリング溶接を行う(ステップ2)。
溶接後、溶接性の確認を行い(ステップ3)、強度及び品質に問題がなければ、電圧測定部11で検出した電圧値に基づいてCP最適時間帯決定部12でCP最適時間帯D3を決める(ステップ4)。
CP最適時間帯決定部12におけるCP最適時間帯D3の決定は、始めに検出した電圧値からコンタクトポイントを特定し、その後、コンタクトポイントの前後に適当な許容時間を付与することで決められる。なお、コンタクトポイントの特定は、コンタクトポイントに図1の時間軸に対する垂線を表示することにより決定する。各CP最適時間帯D3の決定は、サンプリング溶接で得られる電圧波形に基づいて自動的に行ってもよく、検出した電圧波形をディスプレイに表示して、作業者が手動で行ってもよい。
次いで、測定時間帯決定部13にて、測定時間帯D4を決定して(ステップ5)、初期設定を終了する。測定時間帯D4は、少なくともCP最適時間帯D3の全体を含むように決められる。
上記したようにして決定された測定時間帯D4は、必要に応じて溶接条件と関連付けして記憶部14に記憶され得る。尚、この良否判定装置は、溶接条件と関連付けして、前記測定時間帯D4を記憶部14に記憶させた場合には、溶接条件を入力することで記憶した測定時間帯D4を読み出して初期値として使用することができるように構成され得る。
なお、以上のステップ1からステップ5は、作業者が個々の条件で入力することもできるし、メーカが予め条件設定して出荷するようにしてもよい。
【0014】
次に、初期設定終了後に行う実際のスタッド溶接ガンの良否判定処理について図8に示すフローチャートを用いて説明する。
初期設定終了後は何時でも溶接ガンの良否判定を行うことができる。溶接機の良否判定を行う場合、始めに、溶接条件を初期設定時のサンプリング溶接と同一条件(母材材質、スタッド材質、スタッド形状、充電電圧、溶接ガン加圧力)に合わせてセットし(ステップ1)、次いで、実際にスタッド溶接を行う(ステップ2)。
スタッド溶接の間、電圧測定部11が溶接電圧の測定を行う(ステップ3)。尚、この溶接電圧の測定は、溶接開始から溶接終了まで連続して行ってもよいが、測定時間帯決定部13で決めた測定時間帯D4の間のみ測定を行ってもよい。また、測定時間帯D4の間は、予め決めた時間間隔で電圧値の測定が行われる。
次いで、コンタクトポイント検出部15において、測定した電圧値に基づいて、具体的には、上記したように隣接する電圧値を比較することによって、CP最適時間帯D3の範囲内における電圧波形の変化点、即ち、コンタクトポイントの検出を行う(ステップ4)。
次いで、良否判定手段16は、コンタクトポイントがCP最適時間帯D3の範囲内にあるか否かを判断する(ステップ5)。良否判定手段16は、コンタクトポイントがCP最適時間帯D3の範囲内にない場合には、溶接ガンの動作不良を判定結果として出力する。
コンタクトポイントがCP最適時間帯D3の範囲内にある場合には、良否判定手段13は、溶接ガンの動作が良好であることを判定結果として出力する。
【0015】
上記した実施例では、コンタクトポイントCPがCP最適時間帯D3の範囲内で生じているか否かのみを検出しているが、この構成は本実施例に限定されることなく、測定時間帯D4をCP最適時間帯D3より十分に長くとり、コンタクトポイントCPがCP最適時間帯D3の範囲内で生じていない場合に、コンタクトポイントCPがCP最適時間帯D3より前にずれているのか、後にずれているのかを判断することも可能である。このように構成することで、コンタクトポイントCPのずれがCP最適時間帯D3の前か後ろかに基づいて、溶接ガンの動作不良の原因を予測することが可能になる。
また、本発明に係る溶接ガン良否判定方法及び装置は、前記した溶接ガンの加圧用スプリングによる加圧に限定される必要は無く、例えば、空気圧による加圧など機械的加圧方式に適用することができる。
【符号の説明】
【0016】
L 下限電圧波形
H 上限電圧波形
M 実際の電圧波形
D1 AP最適時間帯
D2 PP最適時間帯
D3 CP最適時間帯
D4 測定時間帯
J1 AP判定領域
J2 PP判定領域
J3 CP判定領域
1 スタッド
1a 先端チップ部
2 母材
3 溶接用電源
4 出力ライン
5 シャント抵抗
6 溶接ガン
7 制御ケーブル
10 良否判定装置
11 電圧測定部
12 CP最適時間帯決定部
13 測定時間帯決定部
14 記憶部
15 コンタクトポイント検出部
16 良否判定手段

100 円筒状ハウジング
101 キャップ
102 ハンドル
103 トリガボタン
104 筒状本体
105 チャック
106 締付ナット
107 接続端子部材
108 溶接ケーブルの端子
109 ばね座
110 ばねザ
111 加圧用スプリング
112 調整ねじ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンデンサに蓄積されたエネルギを放電し、スタッドと母材との間でアークを発生させてスタッドと母材を溶融させると同時に、スタッドを母材に押し付けて母材にスタッドを溶け込ませて溶接するコンデンサ放電型スタッド溶接用溶接ガンの良否判定方法であって、
スタッドが母材に接触して溶接接合されるコンタクトポイントが生じるのに適したCP最適時間帯を予め決めると共に、前記CP最適時間帯の全体を含むように測定時間帯を予め決め、
実際のスタッド溶接中に、前記測定時間帯において複数回溶接電流値又は溶接電圧値を測定し、
測定した複数の溶接電流値又は溶接電圧値の大きさを比較して、電流値又は電圧値が下降から上昇に変化する変化時点を検出し、
前記検出した変化時点が、最適時間帯内にあるか否かに基づいて
溶接ガンの動作の良否判定を行う
ことを特徴とするコンデンサ放電型スタッド溶接用溶接ガンの良否判定方法。
【請求項2】
コンデンサに蓄積されたエネルギを放電し、スタッドと母材との間でアークを発生させてスタッドと母材を溶融させると同時に、スタッドを母材に押し付けて母材にスタッドを溶け込ませて溶接するコンデンサ放電型スタッド溶接用溶接ガンの良否判定装置であって、
スタッドが母材に接触して溶接接合されるコンタクトポイントが生じるのに適したCP最適時間帯を決める最適時間帯決定手段と、
前記CP最適時間帯の全体を含むように測定時間帯を決める測定時間帯決定手段と、
実際のスタッド溶接中に、前記測定時間帯において複数回溶接電流値又は溶接電圧値を測定する測定手段と、
測定した複数の溶接電流値又は溶接電圧値の大きさを比較して、電流値又は電圧値が下降から上昇に変化する変化時点を検出するコンタクトポイント検出手段と、
前記検出したコンタクトポイントが、最適時間帯内にあるか否かに基づいて溶接ガンの動作の良否判定を行う良否判定手段と
を備えていることを特徴とするコンデンサ放電型スタッド溶接用溶接ガンの良否判定装置。

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−240093(P2012−240093A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113921(P2011−113921)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(391002052)日本ドライブイット株式会社 (15)