説明

コントローラーおよびパラメーター制御方法

【課題】 楽曲データ編集作業中に画面の拡大/縮小と再生制御とを効率的に行なう。
【解決手段】 コントローラーのスライダー上でピンチ操作を行うと、操作点が2箇所と判断されて2点間距離の変化速度と変化量に応じて、DAW画面のズームインあるいはズームアウトが行われるようになる。また、コントローラーのスライダー上でスライド操作を行うと、操作点が1箇所と判断されてスライダーの移動速度や移動量の操作内容に応じてDAW機能が制御されるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、音響信号処理にかかるパラメーターを操作するコントローラーおよびパラメーター制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、コンピューターを用いる音響信号処理装置において、演奏データの録音や編集、ミキシング等の音響処理作業を行うことが知られている。音響信号処理装置で使用するコンピューターは、PC(パーソナルコンピューター)等の汎用のコンピューターとされ、音響信号処理装置に必要なオーディオインターフェースやMIDI(Musical Instrument Digital Interface)などの各種ハードウェア装置を備えている。また、コンピューターには音響信号処理機能を実行させるためのアプリケーションプログラムが実装されている。これにより、コンピューターにおいて、音響信号の記録や再生、あるいはエフェクト付与やミキシング等の音響信号処理機能が実現される。このような音響信号処理装置は、デジタルオーディオワークステーション(Digital Audio Workstation:DAW)と呼ばれている。このDAW機能をコンピューターに実行させるアプリケーションプログラムを、以下の説明においては「DAWソフト」という。
【0003】
PC上での音楽制作が一般的に行なわれているが、DAWソフトをPCにインストールすると、DAW上でMIDIデータを入力したり、オーディオデータを切り貼りしたりして楽曲を作ることができる。このような音楽制作を行う場合は、音楽波形の切り取りや貼り付けの適切なタイミングを設定する等の細かい作業が多いため、マウスやPCのキーボードで操作するのは煩雑であった。
このため、DAWソフトがインストールされたPCに、DAW操作のための専用のコントローラーを接続して、このコントローラーのつまみ、スライダー、ボタンなどを使用してDAWをリモートコントロールすることが行われている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Steinberg Media Technologies GmbH CC121オペレーションマニュアル,P.15-19,[online], [平成23年5月23日検索],インターネット<ftp://ftp.steinberg.net/Download/Hardware/CC121/CC121_OperationManual_ja.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
DAWを使用しての楽曲データ編集では、PCのディスプレイに表示されたDAWの画面を見ながら編集位置までロケーションバーを進めて、編集作業を行う。ロケーションバーは、現在の再生位置を示すとともに、編集位置を示すカーソルの役目をする。ロケーションバーを移動する際には、画面に表示されたトラックを横方向(時間軸方向)に縮小しておくと、曲の全体が俯瞰でき、効率的に目的の位置にロケーションバーを移動できる。一方、DAW上のオーディオデータを編集する際には、編集位置の波形を拡大することで、振幅やタイミングなどを把握しながら的確な編集が行なえる。したがって楽曲データの編集中は、画面を縮小した状態でロケーションバーを編集位置まで移動したあと、画面を拡大して波形編集を行い、編集後は再度画面を縮小してロケーションバーを次の編集位置まで移動する、というように、画面の拡大と縮小を繰り返す必要がある。
しかしながら、本来ならDAWの音楽的な機能をコントロールするためのコントローラーに画面の拡大/縮小のための操作子を追加すると、操作子が増えるために必要な操作子を探しづらくなったり、操作子が小さくなって操作しづらくなるなど、操作性が落ちてしまう。そのため従来の小型コントローラーでは、データの編集作業や再生制御はコントローラーで行うが画面の拡大/縮小についてはマウスやPCのキーボードショートカットで行うというように、コントローラーとマウス(またはキーボード)の操作を交互に行う必要があった。
そこで、本発明は、画面の拡大/縮小のための操作子を持たなくとも楽曲データ編集作業中に簡単な操作で画面の拡大/縮小が行なえ、編集作業を効率的に行なえる小型のコントローラーおよびパラメーター制御方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明のコントローラーは、曲の楽曲データが入力されたトラックを表示する表示手段に表示されている前記曲の再生状態を操作可能な操作子を備え、前記操作子を第1態様で操作すると前記曲の再生にかかる操作対象のパラメーターを変化させる指示が生成され、前記操作子を第2態様で操作すると前記表示手段に表示されている前記トラックを拡大あるいは縮小して表示する指示が生成されることを最も主要な特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、操作子を第1態様で操作すると曲の再生にかかる操作対象のパラメーターを変化させる指示が生成され、操作子を第2態様で操作すると表示手段に表示されているトラックを拡大あるいは縮小して表示する指示が生成されることから、楽曲データ編集作業中に画面の拡大/縮小と再生制御とを効率的に行うことができるようになる。この場合、ズームのための操作子がなくても、画面の拡大/縮小が行なえるようになり、ズーム専用の操作子を設ける必要がないので、操作の複雑化を防止したり、操作子を備える装置を小型化することができる。また、ズームと他の操作との間で、手の位置や視線を動かす必要がないので、作業を効率的に行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施例にかかるコントローラーをPCに接続したシステムの構成を示す図である。
【図2】本発明の実施例にかかるコントローラーのハードウェア構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施例にかかるコントローラーのパネルの構成を示す図である。
【図4】本発明にかかるコントローラーにおけるスライダーの第1態様の操作を説明するための図である。
【図5】本発明にかかるコントローラーにおけるスライダーの第2態様の操作を説明するための図である。
【図6】本発明にかかるコントローラーが実行するスライダー操作処理のフローチャートである。
【図7】本発明にかかるコントローラーにおけるスライダーに割り当てる機能を切り替える構成を示す図である。
【図8】本発明にかかるコントローラーの実施の態様であるマーカー入力の操作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のパラメーター制御方法は、本発明の実施例にかかるコントローラーにより実行される。以下に、本発明のパラメーター制御方法を実行する本発明の実施例にかかるコントローラーについて説明する。
本発明の実施例にかかるコントローラーをPC(パーソナルコンピュータ)に接続したシステムの構成を示す図を図1に示す。
図1に示すシステムにおいて、PC1には楽曲データを編集して音楽制作したり、エフェクト付与やミキシング等の音響処理機能を実現するためのDAW(Digital Audio Workstation)と呼ばれるアプリケーションソフトであるDAW1aがインストールされている。PC1はDAW1aを起動する汎用のパーソナルコンピュータであり、PC1においてDAW1aを起動することで、音響信号の記録や再生、あるいは音楽制作等の音響信号処理機能が実現される。PC1には、PC1を操作するためのポインティングデバイスであるマウス3と、PC1に文字入力などの操作を行なうための入力装置であるキーボード4と、電子楽器5と、デジタルミキサー6およびスピーカー7とが接続されている。電子楽器5やデジタルミキサー6からの音響信号はDAW1aに入力することができると共に、DAW1aから出力される音響信号をスピーカー7に供給することができる。PC1に接続されているマウス3とキーボード4を操作することにより、DAW1a等のアプリケーションの操作が行うことができる。また、DAW1aを操作するためのDAW専用の本発明にかかるコントローラー2がPC1に接続されている。例えば、コントローラー2は、PC1にUSB(Universal Serial Bus)接続されている。
【0010】
本発明の実施例にかかるコントローラー2のハードウェア構成を示すブロック図を図2に示す。
図2に示すようにコントローラー2におけるCPU(Central Processing Unit)20が管理プログラム(OS:Operating System)を実行しており、コントローラー2の全体の動作をOS上で制御している。コントローラー2は、コントローラー2の動作プログラムや各種データが格納される不揮発性のROM(Read Only Memory)21と、CPU20のワークエリアや各種データが記憶されるRAM(Random Access Memory)22を備えている。また、通信I/F23はコントローラー2をPC1に接続するための通信インタフェースであり、USBやイーサネット(登録商標)などのインタフェースとされる。通信I/F23を通じて、コントローラー2の操作に応じた信号がPC1に送信され、またDAW1aの動作状態に応じた信号をPC1から受信する。また、操作子25はコントローラー2のパネルに設けられた複数のスイッチやスライダーであって、各操作子にはDAWの機能が対応付けられている。検出回路24は操作子25をスキャンして操作された操作子や操作態様を検出する検出回路である。検出された操作子の操作に応じてDAW1aの対象機能を実行する指示が通信I/F23から出力される。表示器27は各操作子の内部に設けられたLEDであり、表示回路26は操作子の操作に応じて、あるいはDAWから受信した信号に応じて、表示器27とされるLEDの点灯、消灯、点滅などの点灯制御を行なう回路である。各部はバス28に接続されている。
【0011】
次に、本発明の実施例にかかるコントローラー2のパネルの構成を図3に示す。
図3に示すようにコントローラー2は片手に持ってもう一方の手で操作できる程度の大きさの小型コントローラーであり、コントローラー2のパネルには、各種の操作子25が設けられている。上部から中央部にかけて3行3列で配置されている9個のスイッチSW1〜SW9と、下部に一列に配置されている3個のスイッチSW10〜SW12は、再生開始や停止、早送り、巻き戻し、ループ再生オンオフ、録音オンオフなどの再生制御を行ったり、新規トラックの作成やデータ挿入といった編集作業を行ったりするスイッチである。スイッチSW1〜SW12にはLEDが内蔵されており、スイッチSW1〜SW12の操作の状態やDAW1aの状態に応じて点灯/消灯する。SW7〜SW9の下には、横方向に細長い矩形状とされているタッチパッドからなるスライダー2aが配置されている。スライダー2aには、再生位置や再生速度などを制御する機能のうちの1つを割り当てて使用することができる。たとえば再生位置を制御する機能を割り当てた場合、スライダー2a上の操作に応じて、DAW1a上のロケーションバーが移動する。また、スライダー2aは操作態様に応じても異なる処理を実行するようにされており、上述した再生位置や再生速度の制御とは別に、PC1に表示されているDAW画面を拡大したり縮小したりする制御を行なうことができる。スライダー2aには、横方向に一列に配列されている複数個のLED2bが内蔵されており、スライダー2aに割り当てられている機能とDAW1aの動作状態に応じてLED2bの点灯位置が変わるようになる。さらに、スライダー2aの下に、スライダー2aが実行する機能を切り替えられるモード切替スイッチ2cが配置されている。モード切替SW2cを押しながらスライダー2aを操作することにより、スライダー2aを操作した際に実行される機能を切り替えることができる。また、モード切替SW2cにはLEDが内蔵されており、モード切替SW2cを押している間は内蔵されたLEDが点灯する。
【0012】
コントローラー2におけるスライダー2aの操作態様としては、指1本でスライダー2a上を横方向にスライドするスライド操作とされる第1態様の操作と、スライダー2a上で指2本を開いたり閉じたりするピンチ操作とされる第2態様の操作とがある。第1態様の操作の例を図4に第2態様の操作の例を図5に示す。図4および図5にはPC1においてDAWソフトを立ち上げた際にディスプレイに表示されるDAW画面30が示されている。DAW画面30には、曲の楽曲データを表示する領域が設けられており、この表示領域に複数のトラック(Track 1,Track 2,Track 3,Track 4,・・・・)の演奏データや音楽波形が表示されている。楽曲データは、一般にメロディパート、伴奏パートなどの複数のパートから構成され、各パートは1つ以上のトラックを含んでいる。Track 1,Track 2はMIDI等の演奏データのトラックとされ、Track 3,Track 4はボーカル等の音楽波形のトラックとされている。トラックの表示領域には再生位置を示すロケーションバー31が表示されている。再生ボタンを押したときに、各トラックはロケーションバー31の位置から再生され、再生が進行すると再生位置に合わせてロケーションバーが右方向に移動する。また、トラックの表示領域には小節や拍を示す位置が縦の破線で表示されている。
【0013】
図4に示す第1態様の操作では、スライダー2aに再生位置を示すロケーションバー31を移動するロケート機能が割り当てられている場合に、1本の指32でスライダー2a上を横方向にスライド操作する操作とされている。この場合は、ロケーションバー31(再生位置)がスライド操作に応じて移動していく。例えば、スライダー2a上の1本の指32を左から右に向かってスライド操作すると、位置aにあったロケーションバー31(再生位置)を位置aより右の位置bに移動する指示が、コントローラー2の通信I/F23を通じてPC1に送信される。これにより、ロケーションバー31(再生位置)が位置bに移動して表示されるようになる。また、スライダー2a上の1本の指32を右から左に向かってスライド操作すると、ロケーションバー31(再生位置)の位置を左に移動する指示が、コントローラー2の通信I/F23を通じてPC1に送信される。これにより、ロケーションバー31(再生位置)が現在位置より左側に移動して表示されるようになる。このように、指32を動かす向きに応じて、ロケーションバー31の移動する方向が変わるが、指32を動かす速さと変化量に応じて、ロケーションバー31の移動する速さと移動量が変わる。なお、スライダー2aに別の機能が割り当てられている場合は、1本の指32でスライダー2aをスライド操作した際に割り当て機能に応じた処理が行われる。
【0014】
図5に示す第2態様の操作は、2本の指32を用いてスライダー2a上でピンチ操作した場合である。この場合は、図示するように2本の指32を開く(広げる)と、矢印で図示するように画面における範囲Cの領域に表示されているトラックの演奏データや音楽波形の部分を横方向に拡大する指示が、コントローラー2の通信I/F23を通じてPC1に送信される。これにより、DAW画面30の範囲Cにおける横方向の時間軸が拡大されて拍位置を示す破線の間隔が図示するように拡がり、音楽波形においては波形態様の詳細が表示されるようになる。そして、指32を動かす速さと変化量に応じて、拡大の速さと拡大率が変わる。また、2本の指32を閉じる(近づける)と、画面における範囲Cの領域に表示されているトラックの演奏データや音楽波形の部分を横方向に縮小する指示が、コントローラー2の通信I/F23を通じてPC1に送信される。これにより、DAW画面30の範囲Cにおける横方向の時間軸が縮小されて表示される。なお、第2態様の操作は現在スライダー2aに割り当てられている機能やモード切替SW2cの操作有無に関わらず、ピンチ操作に応じて画面のズームインあるいはズームアウトが行われる。
【0015】
次に、本発明にかかるコントローラー2のスライダー2aが操作されたときに、コントローラー2で実行されるスライダー操作処理のフローチャートを図6に示す。
スライダー2aに対する操作が検出回路24において検出されると、図6に示すスライダー操作処理がスタートされて、ステップS10にてスライダー2aの1箇所を操作したか、2箇所を操作したかが判断される。スライダー2aの1箇所を操作した場合は、スライド操作(第1態様の操作)が行われたと判断されてステップS13に分岐し、スライダー2aの2箇所を操作した場合は、ピンチ操作(第2態様の操作)が行われたと判断されてステップS11に進む。ステップS11では、2箇所の操作点における2点間の変化が検出される。このステップS11で検出された2点間距離の変化速度と変化量に応じて、DAW画面30のズームインあるいはズームアウトを行う指示が、ステップS12にて通信I/F23を通じてPC1に送信される。この場合、2本の指を開くピンチアウト操作を行うと2点間距離が拡がったと検出されて、DAW画面30の範囲Cの領域を横方向に拡大する指示がPC1に送信され、2本の指を閉じるピンチイン操作を行うと2点間距離が縮まったと検出されて、DAW画面30の範囲Cの領域を横方向に縮小する指示がPC1に送信される。PC1では、2点間距離の変化方向と変化速度と変化量に応じた指示を受信して、この指示に応じてDAW画面30の範囲Cの領域を横方向に拡大/縮小して表示する。
【0016】
これにより、現在スライダー2aに割り当てられている機能やモード切替SW2cの操作有無に関わらず、DAW画面30の範囲Cの領域を横方向に拡大(2本の指を開いたとき)されたり縮小(2本の指を閉じたとき)されたりするようになる。なお、2箇所を操作したと判定された場合は、2点間の距離が近づくか、遠ざかるかによって制御しているため、2点間の距離が変わらない場合(たとえば指2本を平行に操作した場合)、ズーム機能は働かない。また、3点以上にタッチした場合は、タッチした順の早いほうから2点のみが認識され、3点目以降は無視される。さらに、2箇所を操作したと判断された場合(2本指のピンチ操作時)は、操作に応じたLED2bの点灯変化はない。
【0017】
1箇所で操作されたと判断されて分岐されたステップS13では、モード切替SW2cを押しながらの操作であるか、スライダー2aのみの操作であるかが判断される。ここで、モード切替SW2cを押さずに、スライダー2aのみが操作されたと判断された場合は、ステップS14に進みスライダー2aに現在割り当てられている機能が確認される。ここでは、確認された機能がロケーションバー31を移動するロケート機能であるとする。この場合は、ステップS15にてスライダー2aの操作の向き、速度、操作量が検出され、ステップS15で検出されたスライダー2aの操作の向き、速度、操作量に応じてロケーションバー31を移動させる指示が、ステップS16にて通信I/F23を通じてPC1に送信される。PC1では、受信された操作内容の指示に応じてDAW画面30におけるロケーションバー31を移動させる。なお、スライダー2aにロケーションバー31を移動するロケート機能とは別の機能が割り当てられている場合は、ステップS16で割り当てられている機能に応じた処理が行なわれる。そして、ステップS17にて、スライダー2aに現在割り当てられている機能と、DAW1aの状態に応じてLED2bの点灯状態が制御される。
【0018】
また、ステップS13にてモード切替SW2cを押しながらスライダー2aを操作したと判断された場合は、ステップS18に進みスライダー2aから指を離したときの位置に応じてスライダー2aに割り当てる機能を切り替える。ここで設定された内容はRAM22に保存され、次回スライダー2aを第1態様で操作した際に有効になる。そして、ステップS18で割り当てられた機能に応じてスライダー2aの内部のLED2bのうちの1つがステップS19にて点滅される。たとえば機能Aが割り当てられたら、図7に示す領域Aのほぼ中央に位置するLED2bが点滅する。ステップS12、ステップS17あるいはステップS19の処理が終了するとスライダー操作処理は終了する。
【0019】
ここで、スライダー2aに割り当てられる機能の例について説明する。この例ではスライダー2aに割り当てられる機能として4つの機能A,機能B,機能C,機能Dが用意されており、4つの機能のいずれかに切り替えることができる。
機能Aはロケート機能であり、スライダー2aのスライド操作の向き、速さ、操作量に応じて、DAW画面30上のロケーションバー31(再生位置)を左右に移動させることができる。移動中には曲データは再生されない。曲再生中にロケーションバー31を移動させると、移動中は再生が中断され、移動操作を終えたら再生が再開される。スライド操作の操作量と画面上でのロケーションバーの移動量は画面の拡大率によらず一定であり、スライダーを左端から右端まで操作したときに画面表示幅の1.5倍の量だけロケーションバーが左から右に進む。つまり画面に1小節しか表示されていないときには1回のスライド操作で最大1.5小節分しかロケーションバーが進まないが、画面に20小節表示させると、1回の操作で30小節分進めることができる。すなわち、画面を縮小した状態でロケーションバー31を移動すると曲の先頭や末尾に速く移動することになる。なお、スライダー2aにロケート機能が割り当てられているときは、LED2bの左端から、曲全体の長さに対するロケーションバー31の位置に対応するLED2bまでが点灯される。このため、スライダー上でスライド操作を行なってロケーションバーを動かしたり、曲の再生を行なってロケーションバーが動いたりすると、LEDの点灯数が変わる。
機能Bはジョグ機能であり、スライダー2aのスライド操作の向きと操作量に応じてDAW上のジョグホイールが回転する。ジョグホイールの回転角に応じて、曲データは0倍速(再生停止)から1倍速(等速)の間でスロー再生され、再生位置に合わせてロケーションバー31が移動する。右方向の回転が順再生、左方向の回転が逆再生となり、回転角が大きいほど再生速度が速くなるが、等速になるとそれ以上はジョグホイールを回転させても再生速度は変わらない。スライダー2aの左端から右端までスライド操作すると、ジョグホイールは右方向に180°回転する。なお、DAW上のジョグホイールの回転角を表示するように、当該位置に対応するLED2bが点灯される。すなわち、回転角が0〜−180°が左半分のLED2bに対応し、0〜180°が右半分のLED2bに対応し、点灯されるLED2bが右端まで到達すると左端へと移動する。LED2bの点灯状態は、画面の拡大率には影響されない。
【0020】
機能Cはシャトル機能であり、スライダー2aのスライド操作の向きと操作量に応じてDAW上のシャトルホイールが回転する。シャトルホイールは左右それぞれの方向に0〜135°の範囲で回転し、回転角に応じて曲データは0倍速(再生停止)から4倍速の間で早送り再生され、再生位置に合わせてロケーションバー31が移動する。右方向の回転が順再生、左方向の回転が逆再生となり、回転角が大きいほど再生速度が速くなる。スライダー2aの幅の半分だけ(たとえば中央から右端まで)スライド操作すると、シャトルホイールは135°回転する。それ以上の操作量で、たとえば左端から右端まで操作しても、135°しか回転しない。なお、DAW上のシャトルホイールの回転角を表示するように、シャトルホイールの回転量に対応する数のLED2bが点灯される。すなわち、中央のLEDを起点として、操作量に応じた位置までのLED2bが点灯する。回転角0〜135°が右半分のLED2bに、0〜−135°が左半分のLED2bに対応する。操作の起点はスライダー2aの中央である必要はなく、どの位置で操作してもLED2bは中央から点灯する。スライダー2a上から指を離すと、シャトルホイールが中央復帰するため中央のLEDのみが点灯する。LED2bの点灯状態は、画面の拡大率には影響されない。
機能Dはスクロール機能であり、スライダー2aのスライド操作の向き、速さ、操作量に応じて、画面が時間軸方向にスクロールされる。ロケーションバー31は移動せず、再生速度も変化しない。操作量と画面上でのスクロール移動量は画面の拡大率によらず一定なので、画面を縮小した状態でスクロールすると曲の先頭や末尾に速く移動できる。なお、DAWの画面幅に対する現在のスクロールバーの大きさと位置に応じて、LED2bが点灯される。
【0021】
図7に示すようにスライダー2aの領域は、割り当てられる機能数と同数の領域A,領域B,領域C,領域Dの4つの領域に分割されている。そして、モード切替SW2cを押しながら領域Aにタッチすることで、スライダー2aに機能Aが割り当てられるようになる。同様にして、モード切替SW2cを押しながら領域B,領域Cあるいは領域Dにタッチすることで、スライダー2aに機能B,機能Cあるいは機能Dが割り当てられるようになる。このように、モード切替SW2cを押しながら領域A〜Dのいずれかにタッチすることで、スライダー2aの機能をタッチした領域に応じた機能に切り替えることができる。そして、モード切替SW2cの押下中は、スライダー2aに割り当てられている機能に対応する領域A〜Dのほぼ中央に位置するLED2bが点滅する。これにより、モード切替SW2cを押すことにより、現在スライダー2aに割り当てられている機能が何であるかを確認することができる。
【0022】
次に、本発明にかかるコントローラー2の実施の態様として、楽曲データにマーカーを入力する操作を説明する。マーカー入力の操作をフローチャートで図8に示す。マーカーとは、楽曲中の特定のポジションに対して印を付ける機能であり、印を付けたポジションからすぐに再生することができる。楽曲データが、「イントロ」「第1のメロディ(Aメロ)」「第2のメロディ(Bメロ)」「サビ」「間奏」「エンディング」のセクションで構成される場合には、各セクションの区切り位置にマーカーを入力しておくと便利になり、マーカー入力の操作では上記した区切り位置にそれぞれマーカーを入力することができる。
マーカーは、コントローラー2におけるスイッチSW1を押したときに、現在のロケーションバー31のポジションに入力される。つまり、マーカー入力作業の流れとしては、まずマーカーを入力したい位置の付近までロケーションバー31を移動し、次に波形を見たりスロー再生して音を聞いたりしながらマーカーを入力する厳密な位置までロケーションバー31を移動し、スイッチSW1を押してマーカーを入力することになる。そこで、スライダー2aにロケート機能が設定されていることを確認して、マーカーを入力したい目的の位置にすぐロケーションバー31を移動できるよう、スライダー2a上においてピンチ操作を行うことによりDAW画面30の範囲Cの領域を横方向に拡大あるいは縮小する(ステップS20)。例えば、8小節のイントロの後にAメロが始まる場合は、6小節目あたりにロケーションバー31を移動させてから再生開始すると、1つ目のマーカー入力位置であるAメロ開始位置にすぐ到達できるようになるため、ロケーションバーを1度のスライド操作で6小節目まで移動できる程度の拡大率になるようにする。次いで、スライダー2a上でスライド操作を行うことにより、目的の位置の付近までロケーションバー31を移動させる(ステップS21)。
【0023】
そして、コントローラー2のスイッチSW11を押すことによりステップS21で設定したロケーションバー31の位置から再生が開始され(ステップS22)、マーカーを入力したい位置まで到達するよう再生を進める(ステップS23)。ここで、モード切替SW2cを押しながらスライダー2aの領域Bにタッチして、スライダー2aの機能をジョグ機能に切り替える(ステップS24)。次いで、ステップS25ないしステップS27の操作を行うことにより目的の位置の付近まで到達したロケーションバー31を、ジョグ機能とされたスライダー2a上でスライド操作を行うことにより目的の位置の付近を前後にゆっくり移動させながら、マーカー入力位置をピンポイントで決定する。このステップS25では、DAW画面30に表示されている音楽波形を見ながらマーカー入力位置を決定するため、スライダー2a上で2本の指を開くピンチアウト操作を行うことにより表示されている音楽波形を拡大する。また、ステップS26では、拡大された音楽波形を見ながらジョグ機能とされたスライダー2a上でスライド操作を行なうことによりスロー再生し、再生音と音楽波形の両方から最適なマーカー位置を決める。耳で聞いてちょうどよい区切りであるのはもちろん、音楽波形の振幅が最も小さい箇所を区切り位置とすることで、より厳密に音楽的な区切り位置をマーカー位置として決定できる。ステップS27では、マーカー入力位置がピンポイントで特定できたかどうかを判断する。表示されている音楽波形の拡大率を少しずつ上げながら範囲を狭めていくことになるので、ステップS25ないしステップS27の操作は繰り返し行われる。
【0024】
マーカー位置が決まったらマーカーを入力する操作を行う。この操作ではコントローラーのスイッチSW1を押して、現在のロケーションバー31のポジションにマーカーを入力する(ステップS28)。入力時のマーカー名称は、マーカーを入力した順に「マーカー1」,「マーカー2」・・・などの初期値が設定される。そして、ステップS28で入力したマーカーが最後のマーカーかどうかを判断する(ステップS29)。ここで、最後のマーカーと判断された場合は、マーカー入力を終了する。また、最後のマーカーでなければ、次のマーカーを入力するためステップS30に進む。ステップS30では、モード切替SW2cを押しながらスライダー2aの領域Cにタッチすることにより、スライダー2aの機能をシャトル機能に切り替える。
【0025】
次いで、ステップS31ないしステップS33にて次のマーカーの入力位置の付近までロケーションバー31を進める操作を行う。数小節ほど離れた次のマーカー位置まで進めたいが、現在はステップS25で行われた拡大縮小操作により音楽波形がかなり拡大された状態になっているため、ロケーションバー31が表示されている画面を縮小する。また、次のマーカー入力位置(たとえば「Bメロ」)で曲調が変化することが考えられるため、再生音を聞きながらロケーションバー31を高速移動していくのが効率的である。このステップS31では、DAW画面30における範囲Cの領域を横方向に縮小するようスライダー2a上で2本の指を閉じるピンチイン操作を行う。曲を俯瞰して次の入力位置を確認できる程度の縮小率でよいが、この時点で「次のマーカー入力位置」は不明であるのでとりあえず数小節程度が表示されるくらいに縮小すればよい。ステップS32では、シャトル機能とされたスライダー2a上でスライド操作することにより、早送り再生しながら、ロケーションバー31を目的とする位置の付近まで進める。ここで、画面をもっと縮小あるいは拡大した方がよいと判断(ステップS33)されたら、ステップS31に戻って適切な拡大率にしてステップS32でシャトル操作を行ない、次のマーカー入力位置付近までロケーションバー31を進める。
以降は、ステップS23に戻り上記したステップS24ないしステップS33の操作が、ステップS29で最後のマーカーと判断されるまで繰り返し行われる。これにより、楽曲データの所定のポジションにマーカーを入力することができ、選択されたマーカーのポジションから再生することができるようになる。
【0026】
上記したステップS20,ステップS24〜S26,ステップS30〜S32の操作は全てスライダー2a上のスライド操作およびピンチ操作であり、ユーザーは手の位置をスライダー2aから動かす必要がないため、手元を見なくても操作することができる。したがって、DAW画面30を注視したままで必要な編集作業が行える。特にステップS25〜S26,ステップS31〜S32では、ロケーションバーが目的の位置に到達するまで何度も拡大縮小の操作とロケーションバー31の移動操作を繰り返す必要があるため、手の位置や視線を動かさずに音を聞いたり画面上の音楽波形を見たりするのに集中できることで効率が良くなる。このように、コントローラー2を使用しての楽曲データ編集中は、拡大縮小の操作およびロケーションバー31の移動の操作は、スロー再生や早送り再生と組み合わせながら何度も頻繁に繰り返されるが、これらの操作をスライダー2a上のスライド操作およびピンチ操作により行なえるので、手元に目線を移動しなくとも画面上の音楽波形を注視したまま効率的に編集作業を行えるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
以上に、本発明のパラメーター制御方法を実行する本発明にかかるコントローラーについて説明した。この本発明のコントローラーにおけるスライダーは、タッチパッドから構成されているとしたが、これに限ることはなく物理的なスライダーやノブ、ボタンでも実現することができる。たとえばロケーションバーの移動操作に対応した[<][>]ボタンとして、2つのボタンの同時押しや長押し、あるいは他のボタンと併用することで画面の拡大や縮小が行なえるようになる。
また、本発明のコントローラーにより画面のズームを行う際に、横方向(時間軸方向)への拡大/縮小に替えて、縦方向への拡大/縮小を行ったり、縦横の両方向に拡大/縮小するようにしてもよい。
さらに、本発明のコントローラーのスライダーに割り当てる機能としては、ロケーションバーの移動に関わらない機能であってもよい。たとえばボリュームやパンの変更、テンポ変更や、タップテンポ機能(スライダー上でタップすることでテンポを変更する)など、DAWの持つ機能に対応したものであればなんでもよい。
【符号の説明】
【0028】
1 PC、1a DAW、2 コントローラー、2a スライダー、2b LED、2c モード切替スイッチ、3 マウス、4 キーボード、5 電子楽器、6 デジタルミキサー、7 スピーカー、20 CPU、21 ROM、22 RAM、23 通信I/F、24 検出回路、25 操作子、26 表示回路、27 表示器、28 バス、30 DAW画面、31 ロケーションバー、32 指、SW1〜SW12 スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲の楽曲データが入力されたトラックを表示する表示手段に表示されている前記曲の再生状態を操作可能な操作子を備え、
前記操作子を第1態様で操作すると前記曲の再生にかかる操作対象のパラメーターを変化させる指示が生成され、前記操作子を第2態様で操作すると前記表示手段に表示されている前記トラックを拡大あるいは縮小して表示する指示が生成されることを特徴とするコントローラ。
【請求項2】
前記操作子には、前記曲の再生位置を移動させるだけの第1機能と、前記曲の再生位置を移動させながら移動と同じ速度で曲再生を行う場合に、前記曲を早送り再生する第2機能と、前記曲をスロー再生する第3機能とのいずれかを割り当てることができ、前記操作子を第1態様で操作した際には、前記操作子に現在割り当てられている機能が実行され、前記操作子を第2態様で操作した際には、前記操作子に割り当てられている機能に関わらず、前記表示手段に表示されている前記トラックを拡大あるいは縮小して表示する指示が生成されることを特徴とする請求項1記載のコントローラ。
【請求項3】
楽曲データが入力されたトラックを表示する表示手段に表示されている前記曲の再生状態を制御する操作子を備えたコントローラにおけるパラメーター制御方法であって、
前記操作子が操作された際に、前記操作子の操作態様が第1態様であった場合は、前記曲の再生にかかる操作対象のパラメーターを変化させる指示を生成し、前記操作子の操作態様が第2態様であった場合は、前記表示手段に表示されている前記トラックを拡大あるいは縮小して表示する指示を生成することを特徴とするパラメーター制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−8262(P2013−8262A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141420(P2011−141420)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】