説明

コンバインの前処理搬送制御

【課題】走行用HSTの回転速度と前処理用HSTの回転速度とを同調させて制御する穀稈搬送制御を備えたコンバインにおいて、刈り始めに前処理部の穀稈処理能力が低下することにより発生する刈り負け現象を抑制する。
【解決手段】刈り取り穀稈を検出する穀稈検出手段92,93によって刈り取り穀稈を検出した時、前処理用HST61の回転速度を一定値a以下に低下させない補正制御を実行することによって、刈り始めに前処理部15の穀稈処理能力が低下することにより発生する刈り負け現象を抑制すると共に、前処理用HST61の回転速度を実刈りタイミングに同調させて制御する穀稈搬送制御を構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前処理部で刈取った穀稈を脱穀部に向けて搬送するコンバインの前処理搬送制御の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のコンバインにおいては、走行用HSTの回転速度と前処理用HSTの回転速度を一定の比例関係で同調させて制御すると共に、T/M(トランスミッション)に設けた回転センサによって走行用HSTの回転開始を検知すると、前処理用HSTのHST駆動モータに増速回転指令を与えて、当該前処理用HSTの回転速度を、一定時間、走行用HSTの回転速度との一定の比例関係より増速させ、それによってコンバインの走行開始時における前処理部の穀稈の処理能力を向上させるように構成した前処理搬送制御が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2003−169527号公報(第5−6頁、図4−図5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上述した従来の前処理搬送制御では、T/Mに設けた回転センサによって走行用HSTの回転開始を検知すると、刈取り作業が開始されていない状態、即ち空刈りの状態で即座に前処理用HSTの回転速度が増速されるので動力ロスが大きく、また前記前処理用HSTの回転速度の増速に伴う運転フィーリング上の不具合も有していた。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、上記課題を解決することを目的としたものであって、走行用HSTと前処理用HSTの回転速度を同調させて制御すると共に、刈り取り穀稈を検出する穀稈検出手段を備えたコンバインにおいて、前記穀稈検出手段によって刈り取り穀稈を検出した時、前処理用HSTの回転速度を一定値以下に低下させない補正制御を実行するように構成したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、穀稈検出手段によって刈り始めの穀稈を検出した時、即ち実刈りを開始した時点で、前処理用HSTの回転速度を一定値以下に低下させない補正制御を実行するので、刈り始めに前処理部の穀稈処理能力が低下することにより発生する刈り負け現象が起こり難くなる。しかも、前処理用HSTの回転速度は、実刈りタイミングに同調して制御されるので運転フィーリング上の不具合も改善できると共に、動力ロスも少なくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明を実施するコンバイン10の側面図であって、該コンバイン10は、左右一対のクローラ走行装置11によって支持される機体フレーム12を有し、この機体12フレーム前部の左右一側には、エンジン13を搭載すると共に、該エンジン13の上方に運転席14を設けている。
【0007】
また、機体フレーム12の前方左側には、穀稈を刈取って搬送する前処理部15を昇降可能に支持すると共に、この前処理部15の後方には、刈取った穀稈を脱穀し、且つ脱穀した穀粒を選別する脱穀部16と、脱穀済みの排稈を排出処理する後処理部17とを連続して設けている。
【0008】
一方、運転席14の後方には、選別済みの穀粒を貯留する穀粒タンク18が設けてあり、この穀粒タンク18に貯留された穀粒は、穀粒タンク18の後面下端部に固設した固定パイプ(不図示)と、この固定パイプに回動可能に接続された縦パイプ19と、該縦パイプ19の上端に一体回動可能で、且つ、上下方向に起伏可能(上下昇降可能)に接続した穀粒排出オーガ20とを経由して機外に排出できるようになっている。
【0009】
また、前処理部15には、植立穀稈を分草する複数の分草体21を分草体支持フレーム22に一体的に取り付けてあり、更に前記複数の分草体21の後方には、この分草体21により分草された後の植立穀稈を引き起す引起装置23と、該引起装置23により引き起こした穀稈の株元を切断する刈刃装置24と、該刈刃装置24で刈り取られる穀稈を掻き込んで搬送する掻込搬送装置25と、該掻込搬送装置25の後方で刈取穀稈の稈長を検出して自動的に適正な扱ぎ深さに調節する扱深搬送装置26等の穀稈搬送装置が設けてあって、扱深搬送装置26の終端部まで搬送された刈取穀稈は、脱穀フィードチェン27を介して脱穀部16に供給される。
【0010】
そして、エンジン13を動力源とするコンバイン10の駆動系統は、図2に示すように構成されており、穀粒タンク18へは、エンジン13の出力軸13aに固定したエンジンプーリ31、伝動ベルト32、及び穀粒タンク18入力プーリ33を介してエンジン13の動力を入力し、この動力により穀粒タンク18の下部に設けられている図示しない穀粒排出螺旋を回転駆動させることができるようになっている。
【0011】
また、左右一対のクローラ走行装置11へは、エンジンプーリ31、伝動ベルト36、及びトランスミッションの入力プーリ37を介して、コンバイン10の走行駆動系を構成するトランスミッション(T/M)38にエンジン13の動力を入力すると共に、このトランスミッション38に設けた主変速機を構成する走行用油圧式無段変速装置41(以下、走行用HSTとする)と、副変速機構42及び歯車列43を介して変速した動力が当該クローラ走行装置11の駆動スプロッケット44に伝動されるようになっている。
【0012】
そして、脱穀部16へは、エンジンプーリ31、作業機伝動ベルト46、及び詳細は後述するギヤケース47の入力プーリ48を介して、当該ギヤケース47の入力軸51に動力を一旦伝動し、ここからカウンタプーリ52、脱穀伝動ベルト53、及び脱穀入力プーリ54を介して動力が伝動される。更にこの動力は、唐箕軸55を介して図示しない選別室の揺動選別体56等に伝動されると共に、伝動ベルト57等を介して扱胴58に伝動されるようになっている。
【0013】
前記ギヤケース47は、入力軸51から入力されるエンジンの動力を前処理用油圧式無段変速装置61(以下、前処理用HSTとする)で無段変速し、前処理部15及び脱穀フィードチェン27に伝動するように構成してあり、それによって、前処理部15及び脱穀フィードチェン27の穀稈搬送速度を任意に変更することができるようになっている。
【0014】
そして、前処理用HST61は、HSTポンプ(斜板式可変容量油圧ポンプ)62と、このHSTポンプ62からされる圧油によって駆動する油圧モータ(固定容量油圧ポンプ)63とを備えており、HSTポンプ62の斜板操作に応じて前処理用HST61を無断階に変速することができる。尚、本実施形態においては、HSTポンプ62の斜板に斜板制御用モータ64を連係し、この斜板制御用モータ64を介して斜板操作が行えるようになっている。
【0015】
また、ギヤケース47の出力軸65には、脱穀フィードチェン27に向けて延出させた脱穀フィードチェン駆動軸66が連結してあり、この脱穀フィードチェン駆動軸66は、機体フレーム12の上方で脱穀部16の前方に横設されて機体の左端部に至り、その先端に設けた駆動スプロケット67を介して当該脱穀フィードチェン27が駆動される。
【0016】
一方、ギヤケース47の前処理出力軸68には、前処理出力プーリ69が設けてあり、この前処理出力プーリ69から前処理伝動ベルト71、及び前処理入力プーリ72を介して前処理部15に動力が伝動される。そして、前処理出力プーリ69と前処理入力プーリ72との間には、ベルトテンション式の刈り取りクラッチ73が設けてあり、この刈り取りクラッチ73の入り/切り操作によって前処理部15への動力の供給が断続される。
【0017】
尚、上述したエンジンプーリ31と、ギヤケース47の入力プーリ48との間にもベルトテンション式の作業機クラッチ74が設けてあり、この作業機クラッチ74の入り/切り操作によってギヤケース47への動力の供給が断続される。
【0018】
また、図3に示すように、運転席14が設けられている操縦部81の前側には、前処理部15の昇降操作具を兼ねる操向レバー82が設けてあり、この操向レバー82によってコンバイン10の左右方向(操向)及び前処理部15の昇降操作が行える。
【0019】
そして、運転席14の左側には上述した走行用HST41を変速操作する操作具としての主変速レバー83や、トランスミッション38内の副変速機構42を操作して車速を段階的に変更する副変速レバー84を配設してある。
【0020】
また、図4に示すように、コンバイン10には、マイクロコンピュータ(CPU、ROM、RAM、EEPROM等を含む)を用いて構成される制御部91を備えている。
【0021】
詳述すると、制御部91の入力側には、扱深搬送装置26の中途部で搬送中の穀稈の有無を株元側で検出する穀稈メインセンサ92、分草体21・・間に導入される穀稈の通過位置を検出し、クローラ走行装置11の図示しないサイドクラッチを電磁ソレノイドバルブで選択的に断続させて、機体を刈り取り穀稈の条列に倣うように自動走行させるための左側の分草体支持フレーム22取り付けた髭状の方向センサ93、トランスミッション38の副変速軸94の軸端に取り付けて、該副変速軸94の回転速度をコンバイン10の走行速度として検出するトランスミッション回転センサ95、ギヤケース47の前処理出力軸68の軸端に取り付けて、該前処理出力軸68の回転速度を前処理部15における穀稈の搬送速度として検出する前処理HST回転センサ96、引起装置23の前側及びまたは穀粒排出オーガ20の排出口20aに取り付けて、前処理部15の前方及び近傍に存在する人間(人体)から放射される赤外線エネルギーを検出する赤外線センサ97,97、メンテナンス等を行う際に前記赤外線センサ97,97による人間の検出を解除する解除スイッチ98等を接続している。
【0022】
一方、制御部91の出力側には、HSTポンプ62の斜板に連係する斜板制御用モータ64、音による報知手段である警報ホーン99を接続している。
【0023】
そして、制御部91は、前処理部15における穀稈搬送速度を車速に応じて変化させる車速同調制御モード、即ち走行用HST41の回転速度が大きくなれば前処理用HST61の回転速度が大きくなる制御と、前処理部15における穀稈搬送速度を車速に拘らず設定速度に保つ定速制御モードを備えるだけでなく、当該定速駆動制御モードでは、設定速度を所定の操作に応じて変更できるようになっている。
【0024】
これにより、定速駆動制御モードを選択すれば、前処理部15における穀稈搬送速度を様々な作業条件に適応させることが可能になり、例えば、倒伏した穀稈を低速で刈取る際は、倒伏した穀稈の倒伏状態に応じて設定速度を変更することによって、穀稈搬送速度を最適化して倒伏した穀稈の処理効率及び処理精度を向上させることができる。
【0025】
次に、上述した車速同調制御モードを選択した場合の前処理部15における穀稈搬送制御の第一実施例を、図5に示すフローチャート及び図6に示す特性図に基づいて説明する。
【0026】
先ず、図5に示すステップS1では、引起装置23の前側及びまたは穀粒排出オーガ20の排出口20aに取り付けてある赤外線センサ97,97が、前処理部15の前方及び近傍に存在する人間を感知したか否かを判断し、YESであればステップS2に進み、NOであればステップS3に進む。
【0027】
ステップS2では、赤外線センサ97,97による人間の検出を解除する解除スイッチ98がON状態であるかOFF状態であるかを判断し、ON状態であればステップS3に進み、OFF状態であればステップS4に進む。
【0028】
ステップS4では、警報ホーン99を吹聴してステップS5に進んで前処理用HST61の駆動を停止させる。即ち、赤外線センサ97,97によって前処理部15の前方及び近傍に存在する人間(人体)が検出されると、音による報知手段である警報ホーン99で知らしめると共に、前処理部15の駆動を停止させて安全を図るように構成している。
【0029】
一方、ステップS3では、トランスミッション回転センサ95によって該トランスミッション38の副変速軸94が回転しているか否かを判断し、停止していればステップS5に進み前処理用HST61の駆動を停止させ、回転中であればステップS6に進む。
【0030】
そして、ステップS6では、トランスミッション回転センサ95によって検出した副変速軸94の回転数に基づいて、図6に実線で示す前処理用HST61の目標回転数(目標速度)A、即ち車速同調制御の目標値を演算してステップS7に進む。
【0031】
ステップS7では、前処理部15における刈り始めの穀稈を検出する手段としての方向センサ93がON状態であるかOFF状態であるかを判断し、OFF状態であればステップS8に進み、ON状態であればステップS9に進む。
【0032】
ステップS8では、扱深搬送装置26の中途部で搬送中の穀稈の有無を株元側で検出する穀稈メインセンサ92がON状態であるかOFF状態であるかを判断し、OFF状態であればステップS10に進み、ON状態であればステップS9に進む。
【0033】
つまり、前記ステップS7及びステップS8において、刈り取り穀稈を検出する検出手段である方向センサ93と穀稈メインセンサ92のうち、何れかのセンサが刈り取り穀稈を検出するとステップS9に進む。
【0034】
そして、ステップS9では、図6に点線で示すように、予め設定した低速域の車速における前処理用HST61の設定最低回転数(設定速度)aと、前処理用HST61の目標回転数(目標速度)Aとを比較し、目標回転数A>設定最低回転数aであればステップS10に進み、そうでなければステップS11に進む。
【0035】
即ち、ステップS10では、前処理用HST61を目標回転数(目標速度)A、即ち車速同調制御の目標値で駆動させる制御を実行する。
【0036】
一方、ステップS11では、前処理用HST61を設定最低回転数a、即ち前処理用HST61を一定値で駆動させる制御を実行する。
【0037】
上述の如く構成した車速同調制御モードによる穀稈搬送制御(第一実施例)によれば、前処理部15における穀稈検出手段である方向センサ92と穀稈メインセンサ92のうち、何れかのセンサが刈り取り穀稈を検出した時、即ち実刈りを開始した時点で、前処理用HST61の回転速度を一定値a以下に低下させない補正制御を実行するので、刈り始めに前処理部15の穀稈処理能力が低下することにより発生する刈り負け現象が起こり難くなる。しかも、前処理用HST61の回転速度は、実刈りタイミングに同調して制御されるので運転フィーリング上の不具合も改善できると共に、動力ロスも少なくすることができる。
【0038】
また、図7に示すフローチャート及び図8に示す特性図は、前処理部15における穀稈搬送制御の第二実施例を示したものであって、以下図面に基づいて説明する。
【0039】
尚、図7に示すステップS1〜ステップS6のフローについては、上述した第一実施例と同一なので説明を省略する。
【0040】
ステップS7では、図8に点線で示すように、予め設定した低速域の車速における前処理用HST61の設定最低回転数(設定速度)aと、前処理用HST61の目標回転数(目標速度)Aとを比較し、目標回転数A>設定最低回転数aであればステップS8に進み、そうでなければステップS9に進む。
【0041】
即ち、ステップS8では、前処理用HST61を目標回転数(目標速度)A、即ち車速同調制御の目標値で駆動させる制御を実行する。
【0042】
一方、ステップS9では、前処理部15における刈り始めの穀稈を検出する手段としての方向センサ93がON状態であるかOFF状態であるかを判断し、OFF状態であればステップS10に進み、ON状態であればステップS11に進む。
【0043】
ステップS10では、扱深搬送装置26の中途部で搬送中の穀稈の有無を株元側で検出する穀稈メインセンサ92がON状態であるかOFF状態であるかを判断し、OFF状態であればステップS5に進み前処理用HST61の駆動を停止させ、ON状態であればステップS11に進む。
【0044】
つまり、上述した第一実施例と同様にステップS9及びステップS10において、刈り取り穀稈を検出する検出手段である方向センサ93と穀稈メインセンサ92のうち、何れかのセンサが刈り取り穀稈を検出するとステップS11に進む。
【0045】
そして、ステップS11では、前処理用HST61を設定最低回転数a、即ち前処理用HST61を一定値で駆動させる制御を実行する。
【0046】
即ち、上述の如く構成した穀稈搬送制御の第二実施例によっても、第一実施例と同様に、前処理部15における穀稈検出手段である方向センサ93と穀稈メインセンサ92のうち、何れかのセンサが刈り取り穀稈を検出した時、即ち実刈りを開始した時点で、前処理用HST61の回転速度を一定値a以下に低下させない補正制御が実行されるので、刈り始めに前処理部15の穀稈処理能力が低下することにより発生する刈り負け現象が起こり難くなる。しかも、前処理用HST61の回転速度は、実刈りタイミングに同調して制御されるので運転フィーリング上の不具合も改善できると共に、動力ロスも少なくすることができるといった作用効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】コンバインの側面図。
【図2】コンバインの駆動系統図。
【図3】操縦部の斜視図。
【図4】制御部のブロック図。
【図5】穀稈搬送制御のフローチャート。(第一実施例)
【図6】走行速度と搬送速度の関係を示す特性図。(第一実施例)
【図7】穀稈搬送制御のフローチャート。(第二実施例)
【図8】走行速度と搬送速度の関係を示す特性図。(第二実施例)
【符号の説明】
【0048】
10 コンバイン
41 走行用HST
61 前処理用HST
92 穀稈検出手段(穀稈メインセンサ)
93 穀稈検出手段(方向センサ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用HST(41)と前処理用HST(61)の回転速度を同調させて制御すると共に、刈り取り穀稈を検出する穀稈検出手段(92,93)を備えたコンバイン(10)において、前記穀稈検出手段(92,93)によって刈り取り穀稈を検出した時、前処理用HST(10)の回転速度を一定値以下に低下させない補正制御を実行するように構成したことを特徴とするコンバインの前処理搬送制御。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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