説明

コンピュータ支援設計により高親和性の抗体又はタンパク質分子を得る方法

本発明は、抗体親和性の成熟過程中のメカニズムと伝統的なコンピュータシミュレーション技術とを結合させ、コンピュータ支援設計によって抗体親和性を高める方法を提供するものであり、当該方法は、1)既知の抗体又はタンパク質分子複合体の共結晶構造に基づいて、候補となる抗体又はタンパク質分子の仮想突然変異部位を決定する工程と、2)該候補となる仮想突然変異部位におけるアミノ酸変異を順番にコンピュータシミュレーションして、初期最適化された分子構造を得る工程と、3)前記工程2)において得られた前記初期最適化された分子構造について、コンピュータシミュレーションの方法で配座探索をする工程と、4)前記工程3で得られた最適化後の抗体又はタンパク質分子構造について全エネルギー及び平均二乗偏差を分析し、エネルギーが最も低く、且つ平均二乗偏差値が小さい突然変異体の配座を選んで、標的分子との結合エネルギーを分析し、シミュレーション構造を得る工程と、5)前記工程4で得られたシミュレーション構造により、親和性の向上した抗体又はタンパク質分子の突然変異体を予測・実験検証する工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<技術分野>
本発明は、医薬生物技術分野に関し、具体的には、コンピュータ支援設計によって親和性を向上させた抗体又はタンパク質分子を得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
<背景技術>
前世紀80年代以降、解析されたタンパク質構造の数が年ごとに増加し、ユーザフレンドリーなインタフェースを有する構造分析のソフトウェアも継続的に発展しており、これにより、分子の相互認識の原子レベルをより深く理解することが可能となっている。従来、構造の上で、酵素の特異性を改変する研究については、いくつかの成功例があり、これらは、タンパク質機能を改変することが近い将来に可能になることを示唆している。現在まで、研究者たちはコンピュータ支援設計によって、いくつかの研究モデルで酵素活性を改変し、抗体親和性を高め、さらに、改変により自然界で存在しない触媒活性が生じることをすでに達成している。抗体親和性の改善は、その検出感度の向上、解離時間の延長、薬剤投与量の低減及び薬効の増強に対して、重要な意義を有する。
【0003】
現在、抗体親和性を高める方法は、主に元親のモノクローナル抗体を改変テンプレートとして用い、その突然変異体抗体ライブラリー(例えば、リボソーム提示、酵母ツーハイブリッド系、ファージ提示抗体ライブラリー等)を構築することによりスクリーニングし、最終的には、より高い親和性のモノクローナル抗体が得られる。しかし、これらの技術には大きな制限があり、例えば、あらゆる部位を十分覆うことができ、如何なるアミノ酸にも突然変異することができる突然変異ライブラリーを構築することは難く、また、抗体ライブラリーの構築及びそのスクリーニング過程は時間や手間が掛かり、さらに、目的タンパク質を発現することが困難である場合、又はインビトロスクリーニングの環境下における結合が不安定な場合に、抗体ライブラリーをスクリーニングすることが困難である。
【0004】
従来の抗体ライブラリー技術と比べ、コンピュータ支援設計によれば、仮想突然変異を通して抗体ライブラリーをスクリーニングすることができ、実験に必要な時間を大幅に節約することができる。また、コンピュータ支援設計により、抗体結合ドメインのあらゆる部位に対して、単一及び複数の部位で仮想突然変異を行うことができる。一般的には、その突然変異が予測されたアミノ酸は、1つだけでも抗体親和性を顕著に高めることができる。しかし、従来のコンピュータ支援設計の方法においては、正確性が低く、計算量が過大になるといったいくつかの問題が今もなお存在している。例えば、タンパク質の改変及びシミュレーション試験において、生物情報科学者は、リガンドと接触する接触面のあらゆるアミノ酸をプロリン以外の他のアミノ酸に突然変異させることにより、タンパク質を改変する試みを常に行っている。しかし、タンパク質間の接触面のアミノ酸の数が多いため、特定のアミノ酸を選択せずにあらゆるアミノ酸を突然変異させると、莫大な計算量が必要となり、また、コンピュータの速度に制限されることに起因して、計算を簡略化するために多くの近似値が必要となり、最終的には、多大な計算時間の無駄となり、且つ必ずしも高い予測正確性を生み出すことができない。計算時間を増加させることなく、むしろ低減させ、迅速且つ正確に高親和性の突然変異部位が得られる方法を探究することは、非常に必要かつ有意義である。
【発明の概要】
【0005】
<発明の概要>
本発明は、コンピュータ支援設計によって親和性の高い抗体を得る方法を提供することを目的とする。当該方法は、抗体進化メカニズムとコンピュータシミュレーション技術とを結合させ、コンピュータシミュレーション中の真の陽性部位を増加させ、タンパク質親和性の予測正確性を顕著に向上させる。
【0006】
本発明者らは、まず、抗体親和性の成熟過程中のメカニズムをまとめ、抗体親和性を迅速に効率よく(且つ57%よりも高い正確性で)向上させるために、抗体進化メカニズムに基づいたコンピュータ支援設計方法を確立した。本発明に記載の方法の汎用性を証明するために、当該方法は、融合タンパク質受容体親和性の向上試験をさらに行い、近似的な正確性を得る。原則として、本発明の方法は、タンパク質複合体間の相互作用を向上させるために広く応用され、生物学的及び医学的な意義を持つタンパク質の開発を促進する。同時に、本発明の方法は、抗体進化メカニズムとコンピュータシミュレーション技術とを結合させ、将来のコンピュータ支援設計のために新しいアイデアを提供する。
【0007】
本発明に係るコンピュータ支援設計により抗体親和性を高める方法は、以下の工程を含む:
1)既知の抗体又はタンパク質分子複合体の共結晶構造に基づいて、該候補となる抗体又はタンパク質分子の仮想突然変異部位を決定する工程と、
2)該候補となる仮想突然変異部位におけるアミノ酸変異を順番にコンピュータシミュレーションし、初期最適化された分子構造を得る工程と、
3)前記初期最適化された分子構造について、コンピュータシミュレーションによって配座探索をし、仮想突然変異させた後の抗体又はタンパク質分子のシミュレーション構造を得る工程と、
4)前記最適化後の抗体又はタンパク質分子構造について全エネルギー及び平均二乗偏差(root mean square deviations)を分析し、エネルギーが最も低く、且つ平均二乗偏差値が小さい突然変異体の配座を選択し、標的分子との結合エネルギーを分析し、シミュレーション構造を得る工程と、
5)前記シミュレーション構造により、親和性の向上した抗体又はタンパク質分子の突然変異体を予測し、該突然変異体を構築し、発現させて、実験検証によって抗体又はタンパク質分子の親和性の向上を立証し、高親和性を有する抗体又はタンパク質突然変異体を得る工程と、を含む。
【0008】
ここで、前記工程1)において、既知の抗体又はタンパク質の親和性の成熟過程中での結晶構造上の変化特性に基づいて、仮想突然変異部位を決定し、それらのタンパク質複合体接触面及び表面において偏重性分布を有する(biased distribution)アミノ酸を選択して候補となる突然変異アミノ酸とすることが好ましい。選択された突然変異部位は、抗体又はタンパク質分子と、抗原又は結合タンパク質との間の接触面の外周に位置し、且つ抗原又は結合タンパク質と相互作用しない。
【0009】
前記工程2)において、前記仮想突然変異部位を、Glu、Arg、Asn、Ser、Thr、Tyr、Lys、Asp、Pro及び/又はAlaからなる群から選択されるアミノ酸に突然変異させることが好ましい。
【0010】
前記工程4)は:
a)前記工程3)で得られた前記初期最適化された抗体又はタンパク質分子を全エネルギーに基づいて順に並び替える工程と、
b)抗体又はタンパク質分子複合体の共結晶構造情報によって、標的分子に対する結合に関して重要とされるアミノ酸を決定する工程と、
c)前記結合に関して重要とされるアミノ酸を突然変異させ、最適化後の構造と結晶構造とをシミュレートし、平均二乗偏差分析を行い、それらの全エネルギーが最も低く、且つ平均二乗偏差値が相対的に小さい突然変異体構造を選択して結合エネルギーの計算及び分析を行い、順に並び替える工程と、
d)前記工程c)の並び替え結果により、高親和性の抗体又はタンパク質分子のシミュレーション構造を得る工程と、を含むことが好ましい。
【0011】
[突然変異部位の選択]
本発明において、突然変異部位の選択では、主に既知の抗体親和性の成熟過程中での結晶構造上の変化特性に基づいて、タンパク質複合体接触面及び表面において偏重性分布を有するアミノ酸が選択される。
【0012】
突然変異を選択するストラテジーは、まず以下の要請を満足する必要がある:i)突然変異の部位はCDR領域に位置することが望ましく、発生可能な免疫原性を可能な限り避けなければならない、ii)突然変異の部位が多すぎないように、限定された位置において親和性を相乗的且つ顕著に向上させ、抗体接触面を過度に改変することがない、iii)最終的な方法は、効率よく、正確性が高い方法である必要があり、限られた突然変異により高い親和性を有する抗体を迅速に得ることができる。
【0013】
本発明により選択された突然変異部位は、以下の2つの特徴を有する。i)単一のサイトの突然変異が拡大可能な位置を有することを最大限に保証することができる。ii)複数の突然変異の組み合わせによって最適な相乗性を示し、アミノ酸抗体の親和性を極めて向上させることを最大限に確保することができる。
【0014】
Clark L Aらは、PDBデータベース中の抗原抗体の共結晶に関して数学的および統計学的分析を行い、情報探索技術により、抗体接触面に広く分散したアミノ酸組成に偏重性(distributed)があるという知見を得ている[図2を参照、Clark L A, Ganesan S, Papp S, et al. Trends in antibody sequence changes during the somatic hypermutation process.[J]. J Immunol. 2006, 177(1): 333-340;Lo C L, Chothia C, Janin J. The atomic structure of protein-protein recognition sites.[J]. J Mol Biol. 1999, 285(5): 2177-2198]。上記アミノ酸分布の偏重性に基づき、本発明は、高い確率で抗体接触面及び表面に存在するアミノ酸を選択して、突然変異の候補となるアミノ酸とする。従来の予測正確性に基づいて、このような目的を持つスクリーニングにより、抗体接触面における存在確率が低く、偽陽性と予測されたアミノ酸を排除し、予測正確性を向上させることが可能となる。
【0015】
Reichmannらの研究によれば、タンパク質接触面はクラスタリング分布を呈し、クラスター内に位置するアミノ酸の突然変異は、多くの場合、優れた相乗効果を発揮することができない。しかしながら、互いに異なるクラスターの間で生じるアミノ酸の突然変異は、アミノ酸間の相乗性を最大限に発揮しうる。同時に、抗体の親和性が成熟される過程において、接触面の中心域は、親和性に対して大きく寄与するのが一般的であり、より十分に発達する領域である。その一方、接触面の外面は、体内における親和性成熟が制限されること、また、抗原のエンドサイトーシスに起因して、抗体の親和性が良好でなく、また、これらの箇所もしばしば進化が十分ではない。したがって、本発明によれば、抗原および抗体間の接触面の外面上のアミノ酸部位を突然変異部位として選択し、抗原と相互作用しないこれらのアミノ酸部位を選択することが望ましい。
【0016】
したがって、本発明によれば、選択された抗体突然変異部位は以下の特徴を有する。(1)選択された突然変異部位:抗体接触面の外側(外面)に位置し、且つ抗原物質と相互作用しないことが望ましい。(2)選択された突然変異部位を、Glu、Arg、Asn、Ser、Thr、Tyr、Lys、Asp、Pro及びAlaからなる群より選択されるアミノ酸に突然変異させる。
【0017】
<コンピュータシミュレーションによる突然変異の方法>
PDBデータベース(PDB; Berman, Westbrook et al. (2000), Nucleic Acids Res. 28, 235-242; http://www.pdb.org/)により得られたPDBファイルをInsightII(accelrys社)に導入し、CVFF(Consistent Valence Force Field)[Pnina D O. Structure and energetics of ligand binding to proteins: Escherichia coli dihydrofolate reductase-trimethoprim, a drug-receptor system[J]. Proteins: Structure, Function, and Genetics. 1988, 4(1): 31-47]を利用して、Biopolymerモジュール(InsightIIパッケージ中のモジュール)により水素を付加し、タンパク質のあらゆる重原子を固定した状態で、加えられた水素結合に対して、5000ステップのエネルギー最小化(ステップの長さは1fs)を行う。エネルギーが最小化された最適化後の構造が得られ、抗原から6Åの距離が接触面として設定される。接触面の周囲25Åの距離で水分子を加える。選択されたアミノ酸部位にアミノ酸の突然変異を行い、突然変異部位から6Åの距離のアミノ酸分子を自動的に回転異性体(auto_rotamer)とし、空間上の最も適した開始部位を選択する[Dunbrack R L. Rotamer Libraries in the 21st Century[J]. Current Opinion in Structural Biology. 2002, 12(4): 431-440. Ponder J W, Richards F M. Tertiary templates for proteins : Use of packing criteria in the enumeration of allowed sequences for different structural classes[J]. Journal of Molecular Biology. 1987, 193(4): 775-791.]。タンパク質複合体の外側の水分子、及びタンパク質複合体の接触界面外の抗体分子を固定(constraint)し、シミュレーションアニーリングを行い、もっとも適切な接触モデルを探求した。
【0018】
まず、クーロン相互作用を伴わない4次のVDW(ファンデルワールス)法(Quartic VDW (van der waals) with coulombic interactions off )を用いて初回のスクリーニングを行って可能な結合配座を選択し、この過程中におけるファンデルワールス力及び水素結合の定数を0.5に低下させ、1回あたり6000ステップで探索し、最終的に60個の初期最適化された後の配座を得る。その後、初回に得た60個の配座に対して、それぞれセル多重極法(cell_mutipole)によってより細かく探索する [Ding H Q, Karasawa N, Goddard I I. Atomic level simulations on a million particles: The cell multipole method for Coulomb and Londonnonbond interactions[J]. J. Chem. Phys. 1992, 97(6): 4309-4315]。
【0019】
この時、ファンデルワールス力及びクーロン力の選択定数を0.5に設定し、1段階あたり100fsで、500K〜280Kまで50段階を行い、最終的に得られた構造は、6000ステップでエネルギーの最小化をする[Senderowitz H, Guarnieri F, Still W C. A Smart Monte CarloTechnique for Free Energy Simulations of Multiconformational Molecules. Direct Calculations of the Conformational Populations of Organic Molecules[J]. J. Am. Chem. Soc. 1995, 117(31): 8211-8219.]。得られた構造に対して結合エネルギー、全エネルギー及び平均二乗偏差(root mean square deviation(RMSD))のスコアリングをし、全エネルギーが一番低く、且つRMSD値が相対的に小さい配座を選択する。
【0020】
選択された複合体をcharmm V34b1に導入し(Bernard, R. B. and E. B. Robert, et al. (1983). "CHARMM: A program for macromolecular energy, minimization, and dynamics calculations." J Comput Chem. 4(2): 187-217.)、charmm力場を用いた生成(HBUILD)命令によってPDB構造の重原子に水素を付加する(Becker, O. M. and M. Karplus (2005). Guide to Biomolecular Simulations (Focus on Structural Biology) for charmm , Springer.)。Generalized Born with a simple Switching(GBSW)[Im, W., Lee, M. S. & Brooks, C. L. Generalized born model with a simple smoothing function. J. Comput. Chem. 24, 1691-1702 (2003)]の非明示的水モデルを使用してすべての系に対してエネルギー最小化させる。平衡になった後の複合体の相対的な結合エネルギーについて、MM-PBSAの方法で評価を行う[Kuhn, B., Gerber, P., Schulz-Gasch, T. & Stahl, M. Validation and use of the MM-PBSA approach for drug discovery. J. Med. Chem. 48, 4040-4048 (2005). Alonso, H., Bliznyuk, A. A. & Gready, J. E. Combining docking and molecular dynamic simulations in drug design. Med. Res. Rev. 26, 531-568 (2006).]。
【0021】
結合自由エネルギーは以下の式で評価する:
【0022】
【数1】

【0023】
(Fogolari, F. and A. Brigo, et al. (2003). "Protocol for MM/PBSA molecular dynamics simulations of proteins." Biophys J 85(1): 159-66.)
ここで、EmmはCVFF力場を用いて計算により得られた分子力学エネルギーであり、ΔGsolvは溶媒和自由エネルギーであり、-TΔSは溶質のエントロピーである。
【0024】
【数2】

【0025】
ここで、分子力学エネルギーは分子内エネルギー、ファンデルワールス力及び静電相互作用の3成分からなる。それぞれの抗体は、抗原に結合または非結合である時に構造が変化なく、したがって、分子力学エネルギーの内部エネルギーの部分は、結合自由エネルギーに対する寄与がゼロになる。
【0026】
【数3】

【0027】
ΔGPBは、静電気的な溶媒和エネルギーを表し、ΔGnpは、非極性溶媒和エネルギーを表す。
【0028】
元の抗体上のみで点突然変異を生じさせ、変動が小さいため、-TΔSの変化は無視することができる。Kollmanらは、親和性が成熟した抗体及びその胚細胞系抗体(germline antibody)に対して動力学シミュレーション及び結合エネルギーの分析を行い、ΔGnp及び-TΔSが親和性の成熟過程において変化が小さく、結合エネルギーに対する寄与が大きくないことを見出している[Chong L T, Duan Y, Wang L, et al. Molecular dynamics and free-energy calculations applied to affinity maturation in antibody 48G7.[J]. Proc Natl Acad Sci U S A. 1999, 96(25): 14330-14335.]。ΔGPBは通常、タンパク質の結合に対してマイネスの作用を示すが、タンパク質間の静電気相互作用によって補償され、タンパク質間に比較的安定な結合を形成する[Novotny J, Sharp K. Electrostatic fields in antibodies and antibody/antigen complexes.[J]. Prog Biophys Mol Biol. 1992, 58(3): 203-224. Novotny J, Bruccoleri R E, Davis M, et al. Empirical free energy calculations: a blind test and further improvements to the method.[J]. J Mol Biol. 1997, 268(2): 401-411.]。したがって、ここでは、結合エネルギーを評価する式を簡略化し、分子力学が結合エネルギーに対する寄与のみを計算する。
【0029】
<コンピュータシミュレーション法による突然変異後の構造に対する配座探索>
まず、クーロン相互作用を伴わない4次のVDW(ファンデルワールス)法(Quartic VDW (van der waals) with coulombic interactions off)を用いて突然変異後の構造を最適化し、条件を満足する一定数の初期最適化後の構造を得る。
【0030】
タンパク質分子の分子数が多く、自由度が大きいため、タンパク質分子の配座探索は依然として構造シミュレーションのボトルネックである。初期配座の探索中、本発明は、まず単純な剛体球モデルでファンデルワールス力(van der waals)を評価し、そして分子間のクーロン力の影響を計算しない。したがって、エネルギー界面がより平滑になり、局所エネルギー最小値を相対的に探索しやすくすることができる。クーロン相互作用を伴わない4次のVDW(ファンデルワールス)法(Quartic VDW (van der waals) with coulombic interactions off)は、通常、最初の配座の空間探索に用いられる。その後、セル多重極法(cell_mutipole)により得られた初期構造をさらに最適化し、最終的に精密に配座探索を行い、エネルギー最適化後の抗体又はタンパク質分子を得ることができる。
【0031】
生物巨大分子に対して、無限遠のカットオフ(cutoff)法をそのまま使用してシミュレーションを行うことは、膨大な時間を要し、現在の最速のコンピュータを使用しても不可能である。セル多重極法(Cell_mutipole)は、迅速で効率のよい方法であり、システム分子数の計算と線型的な関係となる計算規模及び適度な内部メモリ容量を有し、特に巨大分子のシミュレーションに用いられる [Ding, H. Q. and N. Karasawa, et al. (1992). "Atomic level simulations on a million particles: The cell multipole method for Coulomb and Londonnonbond interactions." J. Chem. Phys. 97(6): 4309-4315.] 。
【0032】
<最適化構造に対する総合評価>
最適化後の構造に対してエネルギースコアリング指数、平均二乗偏差(RMSD)等の指標の総合評価をし、予測された親和性が向上された抗体の突然変異点が得られる。具体的な工程は:まず、上記のエネルギー最適化後の抗体又はタンパク質分子を全エネルギーに基づいてスコアリングをして、高い方から低い方に順に並び替えをする。その後、タンパク質複合体の結晶構造情報に基づき、標的分子上に結合する際に重要とされるアミノ酸を決定する。これらの結合に関して重要とされるアミノ酸に対して突然変異シミュレーションを行った後、結晶構造とRMSD分析(重原子)を行い、それらの全エネルギーが最も低く、且つRMSD数値が相対的に小さい突然変異体構造を選択して結合エネルギーの計算及び分析を行う。最終的に抗体又はタンパク質分子について親和性を高めることができるシミュレーション構造が得られる。
【0033】
予測された抗体又はタンパク質分子の親和性を高めることができる突然変異体を構築し、発現させ、抗体又はタンパク質の親和性向上に関する実験検証を行い、抗体又はタンパク質親和性を高めることができる突然変異体を得ることができる。
【0034】
本発明は、最終に抗体親和性の成熟過程のメカニズムと伝統的なコンピュータシミュレーション技術とを組み合わせることにより、抗体又はタンパク質分子親和性を高める方法を発展させる。本発明の方法は、コンピュータシミュレーションによりタンパク質親和性を予測する精度を明らかに向上させ、計算量を大幅に減少させ、抗体親和性を高めるための実験室コストを低減し、簡単かつ効率のよいタンパク質親和性の改変を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0035】
<図面の説明>
【図1】図1は本発明方法の実験のフローチャートを示す。
【図2】図2はアミノ酸分布の偏重性(biased distributed)分析を示す。
【図3】図3は実験検証によりトラスツズマブ(Trastuzumab)に対する親和性を高めることができる突然変異部位を示す。図3に示すように、重鎖55位はAsn、重鎖102位はAsp、軽鎖28位はAsp及び軽鎖93位はThrである。
【図4】図4はトラスツズマブ(Trastuzumab)重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)のヌクレオチド配列及びアミノ酸配列を示す。
【図5】図5は実験検証によりリツキシマブ(Rituximab)との親和性を高めることができる突然変異部位を示す。図5に示すように、H57Asp及びH102Tyrである。
【図6】図6はリツキシマブ(Rituximab)重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)のヌクレオチド配列及びアミノ酸配列を示す。
【図7】図7は同じサンプル濃度下におけるバイアコア(biacore)検出による、リツキシマブ(Rituximab)及びリツキシマブ(Rituximab)突然変異体のセンサーグラム(sensorgram)図を示す。
【図8】図8はCTLA-4細胞外ドメインのヌクレオチド配列及びアミノ酸配列を示す。
【図9】図9は同じサンプル濃度下におけるバイアコア(biacore)検出による、アバタセプト(Abatacept)及びCTLA-4/Ig突然変異体のセンサーグラム(sensorgram)図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
<発明を実施するための最良の形態>
以下の実施形態において、成熟抗体(Trastuzumab及びRituximab)及び融合タンパク質受容体(CTLA4-Ig)の親和性を向上させる実験的な方法を詳しく説明し、これら実施形態により本発明の特徴及び利点をさらに理解することができる。
【0037】
[トラスツズマブ(Trastuzumab)抗体親和性を向上させる試験の説明]
トラスツズマブ(Trastuzumab)(ハーセプチン(Herceptin))はアメリカGenentech 社により開発された、HER2を標的としたヒト化モノクローナル抗体であり、HER2受容体に対して高度な親和性を有し、HER2/neuを過剰に発現する転移性乳癌の治療に用いられる。
【0038】
本発明では、コンピュータ支援設計によりインビトロで親和性向上の過程をシミュレーションし、体内における親和性の成熟過程の制限を克服し、さらにエピトープが同じであり、極めて高い親和性を有するトラスツズマブ(以下、Trastuzumab)が得られる。最終的には、インビボ、インビトロの実験により繰り返して検証され、より強い抗腫瘍活性を有する新たなTratuzumabが得られる。
【0039】
[コンピュータシミュレーションによるTrastuzumabの親和性を向上させる予測]
コンピュータシミュレーションの予測精度を評価するために、まずトラスツズマブ(以下、Trastuzumab)の結合ドメインにおけるあらゆるアミノ酸部位を選択し、これらに対して仮想突然変異を行い、順番にそれぞれその他の19種類のアミノ酸に突然変異させた。TrastuzumabとHer2の共結晶PDBファイル(1N8Z)をInsightII(accelrys社)に導入し、CVFF力場を使用し、Biopolymerにより水素を付加させ、タンパク質のあらゆる重原子を固定した状態で、加えられた水素結合に対してエネルギー最小化を行った:まず、最大微分値(maximum derivative)が1000 kcal/mol/Aより小さくなるまで、最急降下法(Steepest descent method)によってエネルギー最小化をし、さらに共役勾配法(conjugate gradient method)を利用してエネルギー最小化をし、全部で10000ステップ(ステップ長さが1fs)を行い、最終的に収束値(convergence)を0.01になるようにした。最適化後の構造が得られ、抗原から6Åの距離を接触面に設定した。接触面の周り25Åの距離で水分子を付加した。選択された突然変異位置でアミノ酸の突然変異をさせ、その後、Ponder及びRichardsによりまとめられた回転異性体ライブラリーに基づき、突然変異部位から6Å距離のアミノ酸分子に対して自動的に回転異性体(auto_rotamer)とし、空間上の最も適した開始部位を選択した。外側の水分子と接触界面以外の抗体分子を束縛し(fixed)、シミュレーションアニーリングを行い、最も可能性のある接触モデルを探索した。
【0040】
本発明では、2ステップ法を採用して可能な配座を探索した:まず、クーロン相互作用を伴わない4次のVDW法(quartic_vdw_no_Coulomb)で初回のスクリーニングを行い、可能な結合配座を探索し、この過程中のファンデルワールス力の影響因子を0.5に低下させ、1回あたり3000ステップで探索し、最終的に60個の望ましい結果を得た。その後、初回で得られた60個の配座に対して、セル多重極法(cell_mutipole)で4000ステップ(1ステップの長さ=1fs)のエネルギー最小化を行い、この時、ファンデルワールス力及びクーロン力の選択の影響因子を0.5に設定し、その後、温度を500K〜280Kとして50段階で行い、1段階あたり100fsとし、最終的に得られた構造について8000ステップのエネルギー最小化を行った。得られた構造に対して結合エネルギー、全エネルギー及びRMSDのスコアリングをし、最も可能性のある構造を選択し、異なる突然変異体間の結合エネルギーの評価を行った。表1に示すように、コンピュータで予測する方法の正確性は、近年来18.2%に達している。
【0041】
[Trastuzumabの親和性向上のための設計ストラテジー]
まず、Trastuzumab及びHer2抗原上の接触面について分析した:TrastuzumabとHer2抗原の接触溶媒和表面は675Åであり、これは、比較的大きい接触面である。接触面の外側のアミノ酸について、順番に仮想突然変異させた。上記と同様のコンピュータシミュレーション工程を利用し、最終的に予測に基づき、最も改善効果が高いと予測された10個のサンプルを選択して実験検証を行った。
【0042】
[実施例1 ヒトの抗体の軽、重鎖定常領域遺伝子のクローン]
リンパ細胞分離液(鼎国生物技術発展公司の製品)を用いて健康なヒトのリンパ細胞を分離し、トリゾール(Trizol)試薬(Invitrogen社の製品)で全RNAを抽出し、文献(Cloned human and mouse kappa immunoglobulin constant and J region genes conserve homology in functional segments. Hieter PA, Max EE, Seidman JG, Maizel JV Jr, Leder P. Cell. 1980 Nov;22(1 Pt 1):197-207)及び文献(The nucleotide sequence of a human immunoglobulin C gamma1 gene. Ellison JW, Berson BJ, Hood LE. Nucleic Acids Res. 1982 Jul 10;10(13):4071-9)に報告された配列に基づきそれぞれプライマーを設計した。HC sense: GCTAG CACCA AGGGC CCATC GGTCT TCC、HC antisense: TTTAC CGGGA GACAG GGAGA GGCTC TTC、Lc sense:ACTGT GGCTG CACCA TCTGT CTTCA TCT、Lc antisense: ACACT CTCCC CTGTT GAAGC TCTTT GTG。RT-PCR反応で抗体重鎖及び軽鎖定常領域遺伝子を増幅した。PCR産物をアガロースゲル電気泳動で精製・回収し、pGEM-Tベクター(Promega社)にクローニングし、シークエンス検証した後、正確なクローンが得られたことを確認した。配列番号:1が重鎖定常領域(CH)のヌクレオチド配列を表し、配列番号:2が重鎖定常領域(CH)のアミノ酸配列を表し、配列番号: 3及び配列番号: 4がそれぞれ軽鎖定常領域(CL)のヌクレオチド配列及びアミノ酸配列を表す。本実施例中、正確なクローンをpGEM-T/CH及びpGEM-T/CLとして記載した。
【0043】
[実施例2 抗Her2ヒト化抗体Trastuzumabの発現ベクターの構築]
1992年に発表されたPNAS上の抗ヒトHer2モノクローナル抗体の資料及び配列(Carter, P. and L. Presta, et al. (1992). Humanization of an anti-p185HER2 antibody for human cancer therapy. Proc Natl Acad Sci U S A 89(10): 4285-9)を参照して、抗ヒトHer2モノクローナ抗体Trastuzumabの重鎖可変領域遺伝子(Her2VH)及び軽鎖可変領域遺伝子(Her2VL)を合成した。これを図4に示す。
【0044】
Her2VH遺伝子及びpGEM-T/CHベクターをテンプレートとし、PCRを繰り返すことによりヒト化抗体重鎖遺伝子を合成した。反応条件は:95℃ 15分、94℃ 50秒→58℃50秒→72℃ 50秒(30サイクル)、72℃ 10分である。このヒト化重鎖遺伝子は、5'末端に制限酵素部位Hind III及びシグナルペプチド遺伝子配列を含有し、3'末端に翻訳終止コドンTAA及び制限酵素部位EcoR Iを含有する。シグナルペプチド遺伝子配列は:ATG GAT TTT CAG GTG CAG ATT TTC AGC TTC CTG CTA ATC AGT GCC TCA GTC ATA ATA TCC AGA GGAである。最後に、アガロースゲル電気泳動でPCR産物を分離し、目的バンドを回収してpGEMT ベクターにクローニングし、陽性クローンをスクリーニングしてシークエンスをした。シークエンスの正確なクローンを選択してHind III及びEcoR Iで消化し、アガロースゲル電気泳動でヒト化抗体の重鎖断片Her2VHCHを精製・回収し、Hind III及びEcoR Iで消化したプラスミドpcDNA3.1(+)(アメリカInvitrogen社の製品)と連結させ、ヒト化重鎖真核発現ベクターpcDNA3.1(+)(Her2VHCH)を構築した。
【0045】
Her2VL遺伝子及びpGEM-T/CLベクターをテンプレートとし、PCRを繰り返すことによりヒト化抗体軽鎖遺伝子を合成し、反応条件は:95℃ 15分、94℃ 50秒→58℃ 50秒→72℃ 50秒(30サイクル)、72℃ 10分であり、PCR産物Her2VLCLが得られ、Her2VLCLは、その5'末端に制限酵素部位Hind III及びシグナルペプチド遺伝子配列を含有し、3'末端に翻訳終止コドンTAA及び制限酵素部位EcoR Iを含有する。シグナルペプチド遺伝子配列は:ATG GAT TTT CAG GTG CAG ATT TTC AGC TTC CTG CTA ATC AGT GCC TCA GTC ATA ATA TCC AGA GGAである。シークエンスの正確なクローンを選択してHind III及びEcoR Iで消化し、アガロースゲル電気泳動でヒト化抗体軽鎖断片C2B8VLCLを精製・回収し、Hind III及びEcoR Iで消化したプラスミドpcDNA3.1ベクター(アメリカInvitrogen社の製品)と連結させ、ヒト化軽鎖真核発現ベクターpcDNA3.1(Her2VLCL)を構築した。
【0046】
[実施例3 キメラ抗体の安定発現と精製]
3.5cmの組織培養皿に 3×105 CHO-K1 細胞(ATCC CRL-9618)を接種し、90%-95%コンフルエンス(confluence)になるまで組織培養してトランスフェクションをした:プラスミド10μg(プラスミドpcDNA3.1(+)(Her2VHCH)4μg、プラスミドpcDNA3.1(Her2VLCL)6μgを含む)及び20μl Lipofectamine2000 試薬(Invitrogen 社の製品)をそれぞれ500μl無血清DMEM培地に溶解させ、室温で5分間静置し、上記2種の液体を混合させ、室温で20分間インキュベーションしてDNA-リポソーム複合体を形成させ、その間、培養皿中の血清含有培地を3ml無血清DMEM培地に替えて、その後、形成されたDNA-リポソーム複合体をプレートに加えて、CO2インキュベーターで4時間培養した後、2ml 10%血清含有DMEM完全培地を補給し、CO2インキュベーターにて続けて培養した。24hトランスフェクションした後、細胞を600μg/ml G418含有選択培地で培養し、抗性クローンをスクリーニングした。細胞培養上清を取り、ELISAを用いて高発現クローンを検出・スクリーニングした:ヒツジ抗ヒトIgG (Fc)をELISAプレートに被覆し、4℃で一晩置き、2%BSA-PBSで37℃で2hブロッキングをし、測定待ちの抗性クローン培養上清又は標准品(Human myeloma IgG1、κ)を加えて、37℃で2hインキュベーションし、HRP-ヒツジ抗ヒトIgG(κ)を加えて結合反応を行い、37℃で1hインキュベーションし、TMBを加えて37℃で5min反応させ、最後にH2SO4で反応を停止させ、A450値を測定した。スクリーニングして得られた高発現クローンを無血清培地で培養し、Protein A親和性カラム(GE社の製品)を用いてヒト化抗体trastuzumabを分離・精製した。精製された抗体をPBSで透析し、最後に紫外線吸収法によって精製後の抗体の濃度を定量して確定した。
【0047】
[実施例4 Trastuzumab抗体突然変異体の構築及び発現]
overlap PCRの手法でTrastuzumab抗体突然変異体を構築した。その構築と発現、精製方法はTrastuzumabヒト化抗体の方法と同様である。構築された抗体突然変異体は計10個であり、それぞれをHmut1〜Hmut10とし、これらの具体的なアミノ酸配列をそれぞれ配列番号:5〜配列番号:24に示す。
【0048】
[実施例5 Trastuzumab突然変異体のELISA同定]
Her2細胞外ドメインタンパク質をCarterによって開示された方法で発現・精製し、その後、ELISAプレートに被覆し、37度で2時間インキュベーションした。その後、濃度を一定とした抗体と、等比で稀釈したHer2細胞外ドメインタンパク質とを共に室温で1時間インキュベーションした。その後、インキュベーションされた抗体抗原複合体中の遊離の抗体量を同定することにより、親和性の程度を計算した。具体的には、 [Carter P, et al. (1992) Humanization of an anti-p185HER2 antibody for human cancer therapy. Proc Natl Acad Sci USA 89: 4285-4289;Friguet B, Chaffotte AF, Djavadi-Ohaniance L, Goldberg ME (1985) Measurements of the true affinity constant in solution of antigen-antibody complexes by enzyme-linked immunosorbent assay. J Immunol Methods 77:305-319]を参照。最終的に、10の実験群中において6つの部位の親和性を向上させることができ、精度は60%に達していた。ここで、実検により証明されたTrastuzumab親和性を高めることができる4つの突然変異部位を図3に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
[リツキシマブ(Rituximab)抗体親和性を向上させる試験の説明]
リツキシマブ(以下、Rituximab)はヒトマウスキメラモノクローナル抗体であり、遺伝子工学によってマウスFab及びヒトFcにより構成され、分子量は約150kDaで、特異的にBリンパ細胞表面のCD20抗原と結合することができ、最終にBリンパ細胞をアポトーシスに導き、非ホジキンリンパ腫等の治療に用いられる。
【0052】
≪リツキシマブ(Rituximab)部位特異的突然変異の試験方法≫
[Rituximab抗体突然変異のストラテジー]
まず、Rituximab上の接触面について分析した:通常、短いペプチドとタンパク質との間の溶媒接触可能表面(SAS)が400-700Åであり、タンパク質とタンパク質との間の溶媒接触可能表面よりも小さいのが一般的である。Rituximabと短いペプチドであるCD20との間のSASが440Åであり、短いペプチドとタンパク質の相互作用におけるSASが比較的小さいものと考えられる。接触面の外側のアミノ酸を選択し、順番に仮想突然変異させた。
【0053】
RituximabとCD20抗原ペプチドの共結晶PDBファイルをInsightII(accelrys社)に導入し、CVFF力場を使用し、Biopolymerにより水素を付加させ、タンパク質のあらゆる重原子を固定した状態で、加えられた水素結合について10000ステップのエネルギー最小化(ステップ長さが1fs)を行い、最終に収束値(convergence)が0.01になるようにした。最適化後の構造が得られ、抗原から6Åの距離を接触面に設定した。接触面周り25Åの距離で水分子を付加した。選択された突然変異部位でアミノ酸の突然変異をさせ、その後、Ponder及びRichardsによりまとめられた回転異性体ライブラリーに基づき、突然変異部位から6Åの距離のアミノ酸分子に対して自動的に回転異性体(auto_rotamer)とし、空間上の最も適した開始部位を選択した。外側の水分子及び接触界面以外の抗体分子を束縛し、シミュレーションアニーリング法で、最も可能性のある接触モデルを探索した。
【0054】
本発明では、2ステップ法を採用して可能な配座を探索した:まず、クーロン相互作用を伴わない4次のVDW法(quartic_vdw_no_coul)で初回のスクリーニングを行い、可能な結合配座を探索し、この過程中のファンデルワールス力の影響因子を0.5に低下させ、1回あたり6000ステップで探索し、最終的に60個の望ましい結果が得られた。その後、初回で得られた60個の配座に対してセル多重極法(cell_mutipole)で4000ステップ(1ステップの長さ=1fs)のエネルギー最小化を行い、この時、ファンデルワールス力及びクーロン力の選択の影響因子を0.5に設定し、その後、温度を500K〜280Kとして50段階で行い、1段階あたり100fsを行い、最終的に得られた構造についてさらに8000ステップのエネルギー最小化を行った。上記過程で得られた構造についてRMSD(Root mean square deviation:平均二乗偏差)分析を行い、得られた構造複合体中の抗原ペプチド上で抗体と強固に結合したアミノ酸と、突然変異前のアミノ酸との配座変化(重原子)を比較した。最終的に、それらの全エネルギーが最も低く且つRMSDが相対的に低い構造を選択した。
【0055】
選択された構造をcharmmに導入し、エネルギー最小化を行った。MM-PBSA法によってエネルギー評価を行った。コンピュータの予測方法の正確性を評価するために、本発明者らは、3つの候補部位において、親和性を高めることができると予測されたアミノ酸及び親和性が低下すると予測されたアミノ酸をそれぞれ選択して試験検証を行った。
【0056】
≪Rituximab抗体の構築≫
[実施例6 ヒトの抗体の軽、重鎖定常領域遺伝子のクローン]
リンパ細胞分離液(鼎国生物技術発展公司の製品)を用いて健康なヒトのリンパ細胞を分離し、トリゾール(Trizol)試薬(Invitrogen社の製品)で全RNAを抽出し、文献(Cloned human and mouse kappa immunoglobulin constant and J region genes conserve homology in functional segments. Hieter PA, Max EE, Seidman JG, Maizel JV Jr, Leder P. Cell. 1980 Nov; 22(1 Pt 1):197-207)及び文献(The nucleotide sequence of a human immunoglobulin C gamma1 gene. Ellison JW, Berson BJ, Hood LE. Nucleic Acids Res. 1982 Jul 10;10(13):4071-9)に報告された配列に基づき、それぞれプライマーを設計した:HC sense: GCTAG CACCA AGGGC CCATC GGTCT TCC、HC antisense: TTTAC CGGGA GACAG GGAGA GGCTC TTC、Lc sense:ACTGT GGCTG CACCA TCTGT CTTCA TCT、 Lc antisense: ACACT CTCCC CTGTT GAAGC TCTTT GTG。RT-PCR反応で抗体重鎖及び軽鎖定常領域遺伝子を増幅させた。PCR産物をアガロースゲル電気泳動で精製・回収し、pGEM-Tベクターにクローニングし、シークエンス検証した後、正確なクローンが得られたことを確認した。配列番号:1及び配列番号:2がそれぞれ重鎖定常領域(CH)のヌクレオチド配列及びアミノ酸配列を示した。配列番号:3及び配列番号:4がそれぞれ軽鎖定常領域(CL)のヌクレオチド配列及びアミノ酸配列を示す。本実施例中、正確なクローンをpGEM-T/CH及びpGEM-T/CLとして記載した。
【0057】
[実施例7 抗CD20キメラ抗体Rituximabの発現ベクターの構築]
アメリカ特許US 6,399,061に開示された抗ヒトCD20モノクローナル抗体の資料及び配列、全遺伝子を参照して抗ヒトCD20モノクローナル抗体Rituximab(C2B8)重鎖可変領域遺伝子(C2B8VH)及び軽鎖可変領域遺伝子(C2B8VL)を合成した。図6に、C2B8重鎖及び軽鎖可変領域のヌクレオチド配列及びアミノ酸配列を示す。
【0058】
C2B8VH遺伝子及びpGEM-T/CHベクターをテンプレートとし、PCRを繰り返すことによりヒト化抗体重鎖遺伝子を合成した。反応条件は:95℃ 15分、94℃ 50秒→58℃ 50秒→72℃ 50秒(30サイクル)、72℃ 10分である。このヒト化重鎖遺伝子は、5'末端に制限酵素部位Hind III及びシグナルペプチド遺伝子配列を含有し、3'末端に翻訳終止コドンTAA及び制限酵素部位EcoR Iを含有する。シグナルペプチド遺伝子配列が:ATG GGA TTC AGC AGG ATC TTT CTC TTC CTC CTG TCA GTA ACT ACA GGT GTC CAC TCCである。最後に、アガロースゲル電気泳動でPCR産物を分離し、目的バンドを回収してpGEMT ベクターにクローニングし、陽性クローンをスクリーニングしてシークエンスをした。シークエンスの正確なクローンを選択してHind III及びEcoR Iで消化し、アガロースゲル電気泳動でヒト化抗体の重鎖断片C2B8VHCHを精製・回収し、Hind III及びEcoR Iで消化したプラスミドpcDNA3.1(+)(アメリカInvitrogen社の製品)と連結させ、ヒト化重鎖真核発現ベクターpcDNA3.1 (+) (C2B8VHCH)を構築した。
【0059】
C2B8VL遺伝子及びpGEM-T/CLベクターをテンプレートとし、PCRを繰り返すことによりヒト化抗体軽鎖遺伝子を合成した。反応条件は:95℃ 15分、94℃ 50秒→58℃ 50秒→72℃ 50秒(30サイクル)、72℃ 10分であり、PCR産物C2B8VLCLが得られ、C2B8VLCLは、その5’末端に制限酵素部位Hind III及びシグナルペプチド遺伝子配列を含有し、3'末端に翻訳終止コドンTAA及び制限酵素部位EcoRIを含有する。シグナルペプチド遺伝子配列は:ATG GAT TTT CAA GTG CAG ATT TTC AGC TTC CTG CTA ATC AGT GCT TCA GTC ATA ATG TCC AGA GGAである。シークエンスの正確なクローンを選択してHind III及びEcoR Iで消化し、アガロースゲル電気泳動によりヒト化抗体軽鎖断片C2B8VLCLを精製・回収し、Hind III及びEcoRIで消化したプラスミドpcDNA3.1ベクター(アメリカInvitrogen社の製品)と連結させ、ヒト化軽鎖真核発現ベクターpcDNA3.1 (C2B8VLCL)を構築した。
【0060】
[実施例8 キメラ抗体の安定発現と精製]
3.5cmの組織培養皿に 3×105 CHO-K1 細胞(ATCC CRL-9618)を接種し、90%-95%コンフルエンスになるまで組織培養してトランスフェクションをした:プラスミド10μg(プラスミドpcDNA3.1(+)(C2B8VLCL)4μg、プラスミドpcDNA3.1(C2B8VLCL)6μgを含む)及び20μl Lipofectamine2000 試薬(Invitrogen 社の製品)をそれぞれ500μl無血清DMEM培地に溶解させ、室温で5分間静置し、上記2種の液体を混合させ、室温で20分間インキュベーションしてDNA-リポソーム複合体を形成させ、その間、培養皿中の血清含有培地を3ml無血清DMEM培地に替えて、その後、形成されたDNA-リポソーム複合体をプレートに加えて、CO2インキュベーターで4時間培養した後、2ml 10%血清含有DMEM完全培地を補給し、CO2インキュベーターにて続けて培養した。24hトランスフェクションした後、細胞を600μg/ml G418含有選択培地で培養し、抗性クローンをスクリーニングした。細胞培養上清を取り、ELISAを用いて高発現クローンを検出・スクリーニングした:ヒツジ抗ヒトIgG (Fc)をELISAプレートに被覆し、4℃で一晩置き、2%BSA-PBSで37℃で2hブロッキングをし、測定待ちの抗性クローン培養上清又は標准品(Human myeloma IgG1、κ)を加えて、37℃で2hインキュベーションし、HRP-ヒツジ抗ヒトIgG(κ)を加えて結合反応を行い、37℃で1hインキュベーションし、TMBを加えて37℃で5min反応させ、最後にH2SO4で反応を停止させ、A450値を測定した。スクリーニングして得られた高発現クローンを無血清培地で培養し、Protein A親和性カラム(GE社の製品)を用いてキメラ抗体C2B8を分離・精製した。精製された抗体をPBSで透析し、最後に紫外線吸収法によって精製後の抗体の濃度を定量して確定した。
【0061】
[実施例9 C2B8抗体突然変異体の構築及び発現]
overlap PCRの形態でC2B8抗体突然変異体を構築した。その構築と発現、精製方法はC2B8キメラ抗体の方法と同様である。構築された抗体突然変異体は計10個であり、それぞれをRmut1〜Rmut7とし、これらの具体的なアミノ酸配列をそれぞれ配列番号: 25〜配列番号: 38に示す。
【0062】
[実施例10 Rituximab及び突然変異体のバイアコア(biacore)同定]
SAチップを50μl/minのPBS溶液中で25℃、30分間にわたって平衡させ、その後、1回を1分間として1M NaCl および50mM NaOHの活性化液で3回活性化させた。ビオチン(biotin)に標識された抗原ペプチド(それが、ヒトCD20分子細胞外ドメインの一部分の断片であり、その由来は文献( Structural Basis for Recognition of CD20 by Therapeutic Antibody Rituximab. Du, J.; Wang, H.; Zhong, C. (...). J Biol Chem, 2007, 282(20): 15073-15080を参照する)を最終的に濃度 1μg/mlまで希釈し、10μl/minの流速で被覆した。ΔRuは1000であった。その後、チップを50μl/minのPBSバッファー溶液中で10分間にわたって平衡させた。平衡後のチップを0.04%のビオチン溶液でブロッキングした。抗体を二重希釈によって、5つの濃度勾配で希釈し、50μl/minの流速で75秒間にわたって注入し、その後、PBSで10分間解離させた。図7に同じサンプル濃度下でバイアコアにより検出したセンサーグラム(sensorgram)図を示す。具体的に検出された親和性の数値を表3に示す。結果として、C2B8抗体突然変異体Rmut3の親和性が6.08倍向上し、C2B8抗体突然変異体Rmut7の親和性が3.96倍向上した。予測精度は71.4%に達した。図5に示されるように、その中に、親和性が向上した突然変異部位は重鎖57位のAsp及び重鎖102位のTyrであった。
【0063】
【表3】

【0064】
[CTLA4-Ig融合受容体親和性の向上試験の説明]
細胞障害性T細胞抗原4 (Cytotoxic T-Lymphocyte Antigen 4、CTLA-4)は、ホモダイマーであり、主に活性化T細胞で発現され、CD28と高い相同性を有する。
【0065】
アバタセプト(Abatacept)はCTLA-4細胞外ドメインと免疫グロブリンとの融合タンパク質であり、B7分子と結合することによりT細胞の活性化を抑制し、さらに特異性の共刺激因子調節剤として、抗TNF-α治療が無効である関節リウマチの治療に用いられる。ベラタセプト(Belatacept)も同様に施貴宝公司により開発されたものであり、アバタセプト(Orencia)と比較して2つアミノ酸が異なるのみであるが、リガンド(CD80、CD86)との親和性を顕著に向上させた。
【0066】
[CTLA4/Ig部位特異的突然変異の試験方法]
CTLA4/IgとCD86との共結晶PDBファイル(1i85)をInsightII(accelrys社)に導入し、CVFF力場を使用し、Biopolymerにより水素を付加させ、タンパク質のあらゆる重原子を固定した状態で、水素結合に対してエネルギー最小化を行った:まず最大微分値(maximum derivative)が1000 kcal/mol/Aより小さくなるまで、最急降下法(Steepest descent method)でによってエネルギー最小化を行い、さらに共役勾配法(conjugate gradient method)を用いてエネルギー最小化を行い、全部で10000ステップ(ステップ長さが1fs)を行い、最終的に収束値(convergence)を0.01になるようにした。最適化後の構造が得られ、抗原から6Åの距離を接触面に設定した。接触面周りの25Åの距離で水分子を付加した。選択された突然変異部位でアミノ酸を突然変異させ、その後、Ponder及びRichardsによりまとめられた回転異性体ライブラリーに基づき、突然変異部位から6Åの距離のアミノ酸分子に対して自動的に回転異性体(auto_rotamer)とし、空間上の最も適した開始部位を選択した。外側の水分子と接触界面以外の抗体分子を束縛し(fixed)、シミュレーションアニーリング法で、最も可能性のある接触モデルを探求した。
【0067】
本発明では、2ステップ法を採用して可能な配座を探索した:まず、クーロン相互作用を伴わない4次のVDW法(quartic_vdw_no_Coulomb)で初回のスクリーニングを行い、可能な結合配座を探索し、この過程中のファンデルワールス力の影響因子を0.5に低下させ、1回あたり3000ステップで探索し、最終的に60個の望ましい結果を得た。その後、初回で得られた60個の構造に対して、セル多重極法(cell_mutipole)で4000ステップ(1ステップの長さ=1fs)のエネルギー最小化を行い、この時、ファンデルワールス力及びクーロン力の選択の影響因子を0.5に設定し、温度を500K〜280Kとして50段階で行い、1段階あたり100fsとし、最終的に得られた構造について再び8000ステップのエネルギー最小化を行った。得られた構造に対して結合エネルギー、全エネルギー及びRMSDのスコアリングをし、最も可能な構造を選択し、異なる突然変異体間の結合エネルギーを評価した。コンピュータの予測方法の精度を評価するために、本発明者らは、3つの候補部位において、それぞれ親和性を高めることができると予測されたアミノ酸を選択して試験検証を行った。
【0068】
≪CTLA4/Ig突然変異体の構築及び機能検出≫
[実施例11 CTLA-4細胞外ドメイン遺伝子及びFc領域遺伝子のクローン]
リンパ細胞分離液を用いて健康なヒトのリンパ細胞を分離し、トリゾール(Trizol)試薬(Invitrogen社の製品)で全RNAを抽出し、プライマーを設計してCTLA-4細胞外ドメイン遺伝子(GeneID: 1493)を増幅し、センスプライマーFC:GCCCAGATTCTGATCAGGAGCCCAAATCTTCTGAC及びアンチセンスプライマーFC:GAATTCTCATTTACCCGGAGACAGG を用いてホットスタートPCRにより抗体Fc領域を増幅した。反応条件は:94℃15分、94℃ 45秒→60℃ 45秒→72℃ 1分10秒(30サイクル)、72℃ 10分である。PCR産物をアガロースゲル電気泳動により精製・回収し、pGEM-T(promega)ベクターにクローニングし、シークエンス検証した後、正確なクローンが得られたことを確認した。図8にCTLA-4のヌクレオチド及びアミノ酸配列を示す。配列番号:39 及び配列番号:40がそれぞれFc領域のヌクレオチド配列及びアミノ酸配列を示す。本実施例中、正確なクローンをpGEM-T/CT及びpGEM-T/Fcと記載した。
【0069】
[実施例12 CTLA-4/Ig融合タンパク質の発現ベクターの構築]
プライマーを設計して、合成されたシグナルペプチド配列(配列番号:41)とクローニングしたCTLA-4の細胞外ドメイン遺伝子断片とについてoverlap PCRを行った。連結されたシークエンスによって得られた正確な断片と抗体Fc断片とについてoverlap PCRを行い、結果産物をpGEM-Tベクターに組み入れてシークエンスした。CTLA-4/Ig融合受容体タンパク質遺伝子をシークエンスの正確なクローンを選択してHind III及びEcoR Iで消化し、アガロースゲル電気泳動により精製・回収して、Hind III及びEcoRIで消化したプラスミドpcDNA3.1(+)(アメリカInvitrogen社の製品)と連結させ、ヒト化重鎖の真核発現ベクターpcDNA3.1 (+)を構築した。これを、pcDNA3.1(+)(CTLA-4/Ig)と記載した。
【0070】
[実施例13 融合受容体の安定発現と精製]
3.5cmの組織培養皿に3×105 CHO-K1細胞(ATCC CRL-9618)を接種し、90%-95%コンフルエンスになるまで組織培養してトランスフェクションをした:プラスミド10μg(プラスミドpcDNA3.1(+)(CTLA-4/Ig)10μg)及び20μl Lipofectamine2000 試薬(Invitrogen 社の製品)をそれぞれ500μl無血清DMEM培地に溶解させ、室温で5分間静置し、上記2種の液体を混合させ、室温で20分間インキュベーションしてDNA-リポソーム複合体を形成させ、その間、培養皿中の血清含有培地を3ml無血清DMEM培地に替えて、その後、形成されたDNA-リポソーム複合体をプレートに加えて、CO2インキュベーターで4時間培養した後、2ml 10%血清含有DMEM完全培地を補給し、CO2インキュベーターにて続けて培養した。24hトランスフェクションした後、細胞を600μg/ml G418含有選択培地で培養し、抗性クローンをスクリーニングした。細胞培養上清を取り、ELISAを用いて高発現クローンを検出・スクリーニングした:ヒツジ抗ヒトIgG (Fc)をELISAプレートに被覆し、4℃で一晩置き、2%BSA-PBSで37℃で2hブロッキングをし、測定待ちの抗性クローンの培養上清又は標准品(Abatacept)を加えて、37℃で2hインキュベーションし、HRP-ヒツジ抗ヒトFc(CH2)を加えて結合反応を行い、37℃で1hインキュベーションし、TMBを加えて37℃で5min反応させ、最後にH2SO4で反応を停止させ、A450値を測定した。スクリーニングして得られた高発現クローンを無血清培地で培養し、Protein A親和性カラム(GE社の製品)を用いてキメラ抗体C2B8を分離・精製した。精製された抗体をPBSで透析し、最後に紫外線吸収法で定量した。
【0071】
[実施例14 融合受容体突然変異体の構築及び発現]
overlap PCRの手法でCTLA-4/Ig突然変異体を構築し、その構築(図8に示す)と発現、精製の方法はCTLA-4/Ig融合タンパク質の方法と同様である。突然変異体のアミノ酸配列を配列番号:42〜配列番号:50に示す。
【0072】
[実施例15 Abatacept、CTLA-4/Ig突然変異体のbiacore同定]
CM5チップを50μl/minのリン酸塩バッファー(PBS)溶液中に25℃で30分間にわたって平衡させ、その後、100μlのN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)と100μlの1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド(EDC)との混合物で10μl/mlの流速で8分間にわたってチップを活性化させた。その後、最終濃度が5μg/mlであるCD86-Fc(R&D社)タンパク質を10μl/mlの流速でチップに被覆し、最終的にΔRuは100 Ruであった。その後、チップを50μl/minのPBSバッファー溶液中で10分間にわたって平衡させた。検出待ちのサンプルを二重希釈によって、5つの濃度勾配で希釈し、50μl/minで75秒間にわたって注入し、その後、PBSで10分間解離させた。図9において、同じサンプル濃度下でバイアコアにより検出されたセンサーグラム(sensorgram)図を示す。具体的に検出された親和性数値を表4に示す。ここで、本発明により構築されたCTLA-4/Igの親和性と、Abataceptの親和性とは類似している。親和性をより改善することができた単点突然変異体は、以下の通りであった:突然変異体CTmut1及びCTmut2であり、親和性がそれぞれ4.04及び3.98倍向上した。突然変異体CTmut6の親和性が2.29倍向上した。突然変異体CTmut10の親和性が2.68倍向上した。結果としてに予測精度は70%に達した。
【0073】
【表4】

【0074】
<産業上の応用性>
本発明の方法は、タンパク質複合体間の親和性を高めるために広く応用され、生物学的及び医学的な意義を持つ高親和性タンパク質分子開発を促進させることができる。同時に、抗体の進化メカニズムとコンピュータシミュレーション技術とを結合させ、将来のコンピュータ支援設計のために新しい知見を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)既知の抗体又はタンパク質分子複合体の共結晶構造に基づいて、候補となる抗体又はタンパク質分子の仮想突然変異部位を決定する工程と、
2)該候補となる仮想突然変異部位におけるアミノ酸変異を順番にコンピュータシミュレーションして、初期最適化された分子構造を得る工程と、
3)前記初期最適化された分子構造について、コンピュータシミュレーションによって配座探索をし、仮想突然変異させた後の抗体又はタンパク質分子のシミュレーション構造を得る工程と、
4)前記最適化後の抗体又はタンパク質分子構造について全エネルギー及び平均二乗偏差を分析し、エネルギーが最も低く、且つ平均二乗偏差値が小さい突然変異体の配座を選択して、標的分子との結合エネルギーを分析し、シミュレーション構造を得る工程と、
5)前記シミュレーション構造により、親和性の向上した抗体又はタンパク質分子の突然変異体を予測し、該突然変異体を構築し、発現させて、実験検証によって抗体又はタンパク質分子の親和性の向上を立証し、高親和性を有する抗体又はタンパク質突然変異体を得る工程と、
を含む、コンピュータ支援設計により高親和性の抗体又はタンパク質分子を得る方法。
【請求項2】
前記工程1)において、既知の抗体又はタンパク質の親和性の成熟過程中での結晶構造上の変化特性に基づいて、仮想突然変異部位を決定し、それらのタンパク質複合体接触面及び表面において偏重性分布を有するアミノ酸を選択して候補となる突然変異アミノ酸とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
抗体又はタンパク質分子複合体の共結晶構造に基づいて、前記工程1)に記載の前記突然変異部位の選択を行い、該選択された突然変異部位は、抗体又はタンパク質分子と、抗原又は結合タンパク質との間の接触面の外周に位置し、且つ抗原又は結合タンパク質と相互作用しない、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記工程2)において、前記仮想突然変異部位を、Glu、Arg、Asn、Ser、Thr、Tyr、Lys、Asp、Pro及び/又はAlaからなる群から選択されるアミノ酸に突然変異させる、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記工程4)は、
a)前記工程3)で得られた前記初期最適化された抗体又はタンパク質分子を全エネルギーに基づいて順に並び替える工程と、
b)抗体又はタンパク質分子複合体の共結晶構造情報によって、標的分子に対する結合に関して重要とされるアミノ酸を決定する工程と、
c)前記結合に関して重要とされるアミノ酸を突然変異させ、最適化後の構造と結晶構造とをシミュレートし、平均二乗偏差分析を行い、それらの全エネルギーが最も低く、且つ平均二乗偏差値が相対的に小さい突然変異体構造を選択して結合エネルギーの計算及び分析を行い、順に並び替える工程と、
d)前記工程c)の並び替え結果により、高親和性の抗体又はタンパク質分子のシミュレーション構造を得る工程と、を含む、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2013−505707(P2013−505707A)
【公表日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−530069(P2012−530069)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【国際出願番号】PCT/CN2009/001079
【国際公開番号】WO2011/035456
【国際公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(511158904)上海抗体薬物国家工程研究中心有限公司 (1)
【Fターム(参考)】