説明

コンピュータ演算処理方法およびプログラム

【課題】 モデルに依存しないエントロピー最大法を用いてリスク中立確率分布を求めるコンピュータ演算処理方法を提供すること。
【解決手段】 任意に設定される情報が入力される入力装置101、種々の市場性情報のソースである市場102、各種入力を受けて本発明の演算処理を行い出力命令を発行する計算機103、市場からの情報を収集して計算機103に入力するインタフェース104、本発明のプログラムおよび演算処理中に発生する各種データを格納などする記憶装置105、および主な出力方法である表示装置106等からなる。なお、演算処理の結果の出力は、表示装置106のほかに記憶装置105に格納し、印刷装置に印刷し、あるいは通信回線を介して送信することができるのは言うまでもない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピュータ演算処理方法およびプログラムに関し、より詳細にはエントロピー最大法を使用してリスク中立確率分布を求めるコンピュータ演算処理方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
以下に本発明のエントロピー最大法を使用してリスク中立確率分布を求めるコンピュータ演算処理の背景となる技術について説明する。
【0003】
(ブラック・ショールズモデル)
経済学者であるポール・サミュエルソンによって提唱された幾何ブラウン運動に従うモデルを用いて、原資産価格の動向に依存せずにリスクから中立した確率によって定まるデリバティブの価格が存在するという概念がフィッシャー・ブラックおよびマイロン・ショールズにより1973年に導入された。彼らは支払額が未来株価の値に依存する派生商品(デリバティブ)の価格が株価のドリフト(原資産価格の動きの基本的な方向性を示す動き)に依存しないことをモデルを用いて具体的に示し、それまでの考え方を一新した(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
具体的にはブラックおよびショールズは、株価Sの時間発展を表すモデルとして、以下の確率微分方程式
【0005】
【数1】

【0006】
を用いた。ここにWはリスク中立確率分布における標準的ブラウン運動であり、rは一定と看做された金利であり、σは株価のボラティリティを表す。
【0007】
ブラック・ショールズのモデルによると、例えばヨーロッパ型コールオプションの価格を金利r、ボラティリティσ、行使価格Kおよび満期Tに依存した簡単な以下の期待値
【0008】
【数2】

【0009】
として求めることができる。ただし、Eはリスク中立確率測度のもとにおける期待値である。
【0010】
上述のように、リスクから中立した確率という概念から見ると、ブラック・ショールズのモデルとは、株価の現在値に対する相対的な変化分のうち、ランダムな成分がブラウン運動によって記述されるモデルであるということができる。すなわち、微小時間における株価の変化分のうちのランダムな成分を株価自体で割った値が、ブラウン運動の変化分に比例するというモデルである。この微小時間における株価の変動量は予測可能な決定的成分と、予測不可能なランダム成分とに分けることができる。上述のランダムな成分とは、微小時間における株価の変動量において予測不可能な成分のことである。ここで、予測可能な成分は金利によって定まる株価の増加分(つまり、株の現在価格と等しい金額に対する市場の利息)であり、予測不可能な成分はリスク中立確率分布におけるブラウン運動の変化分に比例し、その比例定数は株の「ボラティリティ」と呼ばれ、株価変動の揺らぎ度合いを与えるものである。
【0011】
このため、ブラック・ショールズの株価モデルにおいて指定しなければならないのは、株価の現在値、金利およびボラティリティの3つの変数である。実際にオプションの価格を求める手続きにおいては、まず、ボラティリティ変数を固定し、そしてモデルに従って将来の株価の期待値が現在の株価と等しくなるような確率システム(すなわちリスク中立確率分布)を求める。求められた確率分布を用いて今度はオプション契約の満期支払額の期待値を計算する。
【0012】
その結果がいわゆる「ブラック・ショールズのオプション評価公式」である。従って、この公式は現在株価、金利、ボラティリティの他にもオプション契約の満期及び行使価格に依存する。すなわち、オプションの価格は5つの変数を指定することにより定まる。これら5つの変数に関してオプションの満期および行使価格は顧客と商品提供者との契約で定められている通りであり、また金利や現在株価の値は市場において調べることができるものである。
【0013】
(ボラティリティ)
これに対し、ボラティリティは唯一観測不可能な量である。なぜならば、ボラティリティは、現時点における株価変動の大きさを表すものだからである。過去のボラティリティであれば株価データを調査することによって推定することできるが、現時点および未来のボラティリティを正確に定めることは不可能である。しかし、ブラック・ショールズの評価式を用いるためには何らかのボラティリティの値を定める必要がある。
【0014】
この変数を定める方法として以下のような、インプライド(暗示的)ボラティリティと呼ばれる手法が一般に用いられる。すなわち、ブラック・ショールズの評価式において満期や行使価格などの変数を指定し、実際に市場において取引されている同様の取引におけるオプション価格の相場を調べ、オプションの市場価格と一致するボラティリティの値を逆算するのである。この手法は、市場の調査に基づいて既に市場に存在するオプション価格が「暗示する」ボラティリティを用いることから、インプライド・ボラティリティと呼ばれる。
【0015】
ブラック・ショールズの評価式を使用するにあたっては、このようなインプライド・ボラティリティが用いられるが、これには問題が伴う。仮に同じ満期の、しかし異なる行使価格を持つオプションの市場価格を用いてインプライド・ボラティリティを求めた場合、異なる値が得られるのである。また、異なる満期を持つオプションの市場価格を用いてインプライド・ボラティリティを逆算した場合にも異なる値が得られる。
【0016】
これは、実際に市場で取引されるオプションの価格がブラック・ショールズのモデルによって求められていないから、というのが理由の一つであるが、より根本的に問題となるのは、ブラック・ショールズのモデルで前提となる一定ボラティリティとは、実際の株価変動を正しく記述していないことである。
【0017】
そこで、ある特定の満期に対して、ブラック・ショールズの公式及び市場で取引される様々な行使価格に対応するオプション価格のデータを用いて得られるインプライド・ボラティリティを求めると(つまりインプライド・ボラティリティを行使価格の関数として求めると)、スマイルと呼ばれる二次関数に似た曲線が一般に得られる。
【0018】
次にこの操作をそれぞれの満期に対して行った場合、それによってインプライド・ボラティリティを行使価格及び満期に対する二変数関数として求めることが可能である。その結果得られた曲面を「ボラティリティ面」と呼ぶ。
【0019】
実際、オプションの価格をトレーダーが引用するときには一般に、ボラティリティ面上のインプライド・ボラティリティの値が用いられ、その値をブラック・ショールズの公式に代入すれば実際の価格が求まる。
【0020】
(ブラック・ショールズモデルの応用)
さて、ブラック・ショールズの公式において最も重要な点とは裁定機会を与えないことにある。また、ブラック・ショールズのモデルによるとリスクを除去するようなヘッジ手段が具体的に求まるという利点がある。この反面、ブラック・ショールズモデルは手数料なし、ボラティリティ一定など実際の市場を正しく記述するモデルではないため、世界の投資銀行やヘッジファンドでは、ブラック・ショールズのモデルをより拡張させてデリバティブの評価を行ってきた。
【0021】
ブラック・ショールズのモデルを拡張したモデルは非常に多く存在し、これらを数値的に導入する手法として二項樹モデルおよびそれをボラティリティに拡張したものなどがある。(例えば、非特許文献2参照)
このような評価手法を用いて、世界中の投資銀行やヘッジファンド、金融関連の研究所などにデリバティブ評価装置を供給している企業も多くあり、代表的な企業としてはカナダのアルゴリズミック社や、アメリカのMathWorks社(MATLAB)などがある。これらの評価装置はどれも、ブラック・ショールズまたはその拡張モデルや二項樹モデル、それをボラティリティに拡張したモデルを用いたものが主流であり、原資産に対する時間発展を表すモデルに依存する。
【0022】
また、計算時の入力情報としては、任意に設定する情報として行使価格および満期があり、市場から入手する情報としては原資産価格、原資産利回り、短期金利(安全利子率)およびボラティリティ(予想変動率)がある。これらの変数に依存したモデルは、具体的には市場にて取引されるバニラオプションの価格を用いて修正される。このモデルの修正を行うことを「キャリブレーション」と呼ぶ。したがって、バニラオプションの価格を用いたキャリブレーションにより修正されたモデルを用いて他のエキゾチックオプションの値段を設定することが、原資産に対する時間発展を表すモデルに依存した評価により可能となる。
【0023】
(原資産に対する時間発展を表すモデルの問題点)
しかし、裁定機会を与えないような確率測度とは、あくまでも株式などの原資産に対する変動(時間発展)を記述するモデルに依存したものであるが、そもそもモデルによって実際の株価を正しく表すことは不可能である。すなわち、たとえ十分なキャリブレーションを行なったとしても、オプションの価格がモデルの選択に左右されることは明らかである。
【0024】
また、実際に市場で取引されるオプションとは、普通「ファクター・モデル」と呼ばれる、幾つかの変数によって指定されたものが主である。このため、モデルを指定する変数の数を増やせば、どのようなモデルであっても、実際に市場で取引されるバニラオプション商品の値段で正確にキャリブレーションを行なうことが可能である。したがって、モデルに依存したキャリブレーション手法においては、キャリブレーションが、与えられたデータに対してオーバ・フィットとなる可能性が高いというリスクがある。
【0025】
オーバ・フィットとなった場合、例えば実際の市場取引データを入手できないとき、または市場でまだ取引されていない行使価格の取引のとき、バニラオプション商品の値段を付け間違えてしまう可能性が高い。市場においてオプション商品の値段を付け間違えた場合、直ちに他の競業者に喰いものにされてしまうという問題がある。
【0026】
以上をまとめると、ブラック・ショールズ等で用いられる、原資産に対する時間発展を表すモデルは、決して実際の価格変動を正しく記述するものではなく、その結果、モデルに起因するリスクに関する損失から逃れることができないのである。
【0027】
実際、一般に市場で認められているモデルの幾つかはヴァニラ商品のスマイル(インプライド・ボラティリティを行使価格の関数として表した曲線)のほぼ完璧なキャリブレーションが可能であるが、Schoutensらは、これらを用いてエキゾチックオプションの評価を行い、その価格に大きな開きが見られるという問題点、すなわちオーバ・フィットとなりうることを示した(例えば、非特許文献2参照)。
【0028】
このため、オプションの評価に必要となるリスク中立確率を、モデルに依存しないような手段で妥当に求めることはリスクを減じるために重要となることから、モデルに依存しないシャノンのエントロピーを用いた手法が提案されている(例えば、非特許文献3参照)。
【0029】
【非特許文献1】「Journal of Political Economy, 81, 637-659」(Black & Scholes, 1973)
【非特許文献2】「A Perfect Calibrations! Now What?, Technical Report, Katholike Universiteit of Leuven」(W. Schoutens, E. Simons, J. Tistaert, 2003)
【非特許文献3】「The maximum entropy distribution of an asset inferred from option prices, Journal of Financial and Quantitative Analysis, 31, pp. 143-159」(P. W. Buchen, M. Kelly, 1996)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
しかしながら、提案されているシャノンのエントロピーを用いた手法は、その結果得られる分布が指数分布に従うことが知られているが、実際の市場価格のテール分布は一般にパワー則に従っており、実際の市場とは適合しないという問題がある。
【0031】
よって、一方では原資産に対する時間発展を表すモデルに依存せず、また他方では分布のテールに対するパワー則が得られるキャリブレーション手法を見出すことが望まれる。
また、従来のノンパラメトリック手法だとリスク中立分布からヘッジ戦略を決定することができなかったため、ヘッジ戦略が与えられなければ実際に収益を上げることも難しくなるが、時間が反転する経済に注目することによってこの問題が解決される。
【0032】
さらに、上述のように、従来提供されているデリバティブ評価装置は、オプション評価の理論に難解な部分があり、専ら投資銀行やヘッジファンド、金融関連の研究所などいわゆる専門家向けのものであったため、一般の個人投資家にとってオプション性のあるデリバティブ商品は従来馴染みの薄いものであった。例えば、オプション性のあるデリバティブの一つである株式オプションは、投資的な意味でも保険的な意味でも魅力があり、このようなデリバティブ商品は金融商品として有望なものであるにもかかわらず、市場の裾野を広げることができないという問題がある。
【0033】
また、株式オプションの評価は、限られた投資家を対象にしており、投資意欲のある一般の個人投資家にとって、原資産に対する時間発展を表すモデルに依存する評価方法で与えられたオプションの価格が裁定機会を含むものなのかどうか、または合理的なものなのかどうかを知る手段がなかった。
【0034】
本発明は、このような問題に鑑みて為されたものであり、モデルに依存しないエントロピー最大法を用いてリスク中立確率分布を求めるコンピュータ演算処理方法を提供することを目的とする。
【0035】
また、これに加えてテール分布がパワー則に従うリスク中立確率分布を求めるコンピュータ演算処理方法を提供することにより、実際の市場における株価変動が従うパワー則のテール分布を得ることを目的とする。
【0036】
さらに、エントロピー最大法を用いて得られる解の時間反転対称性に基づき、後退経済におけるリスク中立確率分布によりオプションのガンマを得るコンピュータ演算処理方法を提供することを目的とする。
【0037】
また、上記で得られたガンマを積分することによりヘッジ戦略デルタを得るコンピュータ演算処理方法を提供することを目的とする。
【0038】
さらに、上記で得られたリスク中立確率分布のパワー係数によりテール分布変数μを得るコンピュータ演算処理方法を提供することを目的とする。
【0039】
また、一般投資家でも特別な知識を必要とせず、容易にデリバティブ商品の評価が可能なデリバティブ評価装置あるいはシステムを知ることができるコンピュータ演算処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0040】
このような目的を達成するために、本出願の請求項1に記載の発明は、所定の情報を係数として有する複数の拘束条件式に基づいてノンパラメトリック手法によりリスク中立確率分布をコンピュータの所定のプログラムによって取得するコンピュータ演算処理方法において、予め記憶手段に格納されたエントロピーを最大とする所定のリスク中立確率分布式を記憶手段から読み出して、複数の拘束条件式に代入し、ラグランジュの未定乗数を含む連立方程式を生成して記憶手段に格納する連立方程式生成ステップと、記憶手段から生成された連立方程式を読み出して、数値計算演算手段により連立方程式の解を求め、ラグランジュの未定乗数の各々を確定しラグランジュの乗数として記憶部に格納するラグランジュの乗数算出ステップと、記憶部から読み出されたラグランジュの乗数によって確定された所定のリスク中立確率分布式に基づいて演算手段により確率分布を生成し、出力手段により出力する出力ステップとを備えたことを特徴とする。
【0041】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のコンピュータ演算処理方法において、リスク中立確率分布式は、レニーのエントロピーを最大とする所定のリスク中立確率分布式であり、複数の拘束条件式は、確率分布規格化条件式、入力データ拘束条件式およびリスク中立拘束条件式であり、連立方程式生成ステップにおいて、連立方程式は前記リスク中立確率分布式におけるパワー係数に所定の値を設定して生成され、演算手段により、記憶部から読み出されたラグランジュの乗数によって確定された所定のリスク中立確率分布式においてパワー係数に複数の値を設定して複数の確率分布式を生成し、生成された複数の確率分布式のうち確率分布の円滑度が最大となる所定の値を求める確率分布式のパワー係数とするパワー係数確定ステップをさらに備えたことを特徴とする。
【0042】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のコンピュータ演算処理方法において、パワー係数算出ステップにおいて、生成された確率分布の所定の各点の左右における勾配値の差を求め勾配値の差の絶対値の合計が最小となるパワー係数を円滑度が最大となるパワー係数とすることを特徴とする。
【0043】
請求項4に記載の発明は、請求項2または3に記載のコンピュータ演算処理方法においいて、所定のリスク中立確率分布式p(x)は、流動性の高いデリバティブ商品の価格を用いて満期の原資産価格に対するリスク中立確率分布を示すことを特徴とする。
【0044】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載のコンピュータ演算処理方法において、所定のリスク中立確率分布式p(x)は、
【0045】
【数3】

【0046】
であり、D(x)はデリバティブに対応する支払い関数であり、λ、β、νはラグランジュの未定乗数、nは拘束条件の数、およびαはパワー係数であることを特徴とする。
【0047】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載のコンピュータ演算処理方法において、確率分布規格化条件式は
【0048】
【数4】

【0049】
であり、入力データ拘束条件式は
【0050】
【数5】

【0051】
であり、およびリスク中立拘束条件式は
【0052】
【数6】

【0053】
であり、所定の情報であるC、T、S0、およびr(t)はそれぞれデリバティブの価格、デリバティブの満期、現在の資産価値、および時間tにおける金利であり、D(x)は一般にデリバティブに対応する支払い関数であることを特徴とする。
【0054】
請求項7に記載の発明は、請求項2または3に記載のコンピュータ演算処理方法において、コールオプションに対して所定のリスク中立確率分布式p(x)は、流動性の高いコールオプションの価格を用いて満期の原資産価格に対するリスク中立確率分布を示すことを特徴とする。
【0055】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載のコンピュータ演算処理方法において、所定のリスク中立確率分布式p(x)は、
【0056】
【数7】

【0057】
であり、(x−Kはコールオプションの支払い関数、λ、β、νはラグランジュの未定乗数、Kは行使価格、nは拘束条件の数、およびαはパワー係数であることを特徴とする。
【0058】
請求項9に記載の発明は、請求項8に記載のコンピュータ演算処理方法において、確率分布規格化条件式は、
【0059】
【数8】

【0060】
であり、入力データ拘束条件式は
【0061】
【数9】

【0062】
であり、およびリスク中立拘束条件式は
【0063】
【数10】

【0064】
であり、(x−Kはコールオプションの支払い関数、所定の情報であるC、T、S0、およびr(t)はそれぞれコールオプションの価格、コールオプションの満期、現在の資産価値、および時間tにおける金利であることを特徴とする。
【0065】
請求項10に記載の発明は、請求項2または3に記載のコンピュータ演算処理方法において、デジタルオプションに対して所定のリスク中立確率分布式p(x)は、流動性の高いデジタルオプション商品の価格を用いて満期の原資産価格に対するリスク中立確率分布を示すことを特徴とする。
【0066】
請求項11に記載の発明は、請求項10に記載のコンピュータ演算処理方法において、所定のリスク中立確率分布式p(x)は、
【0067】
【数11】

【0068】
であり、Θはヘビサイド関数を表し、Θ(x−K)はデジタルオプションの支払い関数であり、λ、β、νはラグランジュの未定乗数、Kは行使価格、nは拘束条件の数、およびαはパワー係数であることを特徴とする。
【0069】
請求項12に記載の発明は、請求項11に記載のコンピュータ演算処理方法において、確率分布規格化条件式は、
【0070】
【数12】

【0071】
であり、入力データ拘束条件式は、
【0072】
【数13】

【0073】
であり、およびリスク中立拘束条件式は、
【0074】
【数14】

【0075】
であり、所定の情報であるC、T、S0、およびr(t)はそれぞれデジタルオプションの価格、デジタルプションの満期、現在の資産価値、および時間tにおける金利であることを特徴とする。
【0076】
請求項13に記載の発明は、請求項2ないし6のいずれかに記載のコンピュータ演算処理方法において、所定のリスク中立確率分布式を時間反転経済に応用したリスク中立確率分布は、
【0077】
【数15】

【0078】
であり、D(x)はデリバティブに対応する支払い関数であり、λ’、β’、ν’はラグランジュの未定乗数、およびnは拘束条件の数であって、
確率分布規格化条件式は、
【0079】
【数16】

【0080】
であり、入力データ拘束条件式は
【0081】
【数17】

【0082】
であり、およびリスク中立拘束条件式は
【0083】
【数18】

【0084】
であり、C、T、K、およびr(t)はそれぞれデリバティブの価格、デリバティブの満期、デリバティブの行使価格、および時間tにおける金利とすることにより、時間反転させた経済である後退経済におけるリスク中立確率を求めてデリバティブのガンマを算出し、出力ステップは、デリバティブのガンマをさらに出力することを特徴とする。
【0085】
請求項14に記載の発明は、請求項2、3、7、8または9に記載のコンピュータ演算処理方法において、所定のリスク中立確率分布式を時間反転経済に応用したリスク中立確率分布は、
【0086】
【数19】

【0087】
であり、λ’、β’、ν’はラグランジュの未定乗数、Sは現在の資産価値、およびnは拘束条件の数であって、確率分布規格化条件式は
【0088】
【数20】

【0089】
であり、入力データ拘束条件式は
【0090】
【数21】

【0091】
であり、およびリスク中立拘束条件式は
【0092】
【数22】

【0093】
であり、C、T、K、およびr(t)はそれぞれコールオプションの価格、コールオプションの満期、コールオプションの行使価格、および時間tにおける金利とすることにより、時間反転させた経済である後退経済におけるリスク中立確率を求めてオプションのガンマを算出し、出力ステップは、オプションのガンマをさらに出力することを特徴とする。
【0094】
請求項15に記載の発明は、請求項2、3、10、11または12に記載のコンピュータ演算処理方法において、所定のリスク中立確率分布式を時間反転経済に応用したリスク中立確率分布は、
【0095】
【数23】

【0096】
であり、Θはヘビサイド関数を表し、Θ(S−x)はデジタルオプションの支払い関数であり、λ’、β’、ν’はラグランジュの未定乗数、Sは現在の資産価値、およびnは拘束条件の数であって、確率分布規格化条件式は
【0097】
【数24】

【0098】
であり、入力データ拘束条件式は
【0099】
【数25】

【0100】
であり、およびリスク中立拘束条件式は
【0101】
【数26】

【0102】
であり、C、T、S、Kおよびr(t)はそれぞれデジタルオプションの価格、デジタルオプションの満期、現在の資産価値、デジタルオプションの行使価格、および時間tにおける金利とすることにより、時間反転させた経済である後退経済におけるリスク中立確率を求めてデジタルオプションのガンマを算出し、出力ステップは、デジタルオプションのガンマをさらに出力することを特徴とする。
【0103】
請求項16に記載の発明は、請求項13、14または15に記載のコンピュータ演算処理方法において、算出されたリスク中立確率γ(x)の積分を行なって、ヘッジ戦略デルタを算出し、出力ステップは、ヘッジ戦略デルタをさらに出力することを特徴とする。
【0104】
請求項17に記載の発明は、請求項2ないし12のいずれかに記載のコンピュータ演算処理方法において、パワー係数を用いて、テール分布変数
【0105】
【数27】

【0106】
を求め、出力ステップは、テール分布変数をさらに出力することを特徴とする。
【0107】
請求項18に記載の発明は、請求項1ないし17のいずれかに記載のコンピュータ演算処理方法において、ユーザ端末が、ユーザが所望のデリバティブ商品の原資産種別、希望行使価格および希望満期を含む設定情報の入力を受付けて前記コンピュータにネットワークを介して送信する端末送信ステップと、複数の拘束条件式が係数として有する所定の情報として、インタフェース手段により収集されたデリバティブ商品に関する市場情報と、ユーザ端末から送信された設定情報とをコンピュータが受信する情報受信ステップと、ユーザ端末により、出力手段が出力した確率分布をネットワークを介して受信して出力する端末受信ステップとをさらに備えたことを特徴とする。
【0108】
請求項19に記載の発明は、請求項18に記載のコンピュータ演算処理方法において、市場情報は、原資産の価格および現在の金利を含むことを特徴とする。
【0109】
請求項20に記載のプログラムは、コンピュータに、複数の拘束条件式に基づいてノンパラメトリック手法によりリスク中立確率分布をコンピュータの所定のプログラムによって取得するコンピュータ演算処理方法であって、予め記憶手段に格納されたエントロピーを最大とする所定のリスク中立確率分布式を記憶手段から読み出して、複数の条件式に代入し、ラグランジュの未定乗数を含む連立方程式を生成して記憶手段に格納する連立方程式生成ステップと、記憶手段から生成された連立方程式を読み出して、数値計算演算手段により連立方程式の解を求め、ラグランジュの未定乗数の各々を確定しラグランジュの乗数として記憶部に格納するラグランジュの乗数算出ステップと、記憶部から読み出されたラグランジュの乗数によって確定された所定のリスク中立確率分布式に基づいて演算手段により確率分布を生成し、出力手段により出力する出力ステップとを備えたコンピュータ演算処理方法を実行させる。
【0110】
請求項21に記載の発明は、所定の情報を係数として有する複数の拘束条件式に基づいてノンパラメトリック手法によりリスク中立確率分布を取得するコンピュータ装置であって、所定の情報を入力する情報入力手段と、予め記憶手段に格納されたエントロピーを最大とする所定のリスク中立確率分布式を記憶手段から読み出して、複数の拘束条件式に代入し、ラグランジュの未定乗数を含む連立方程式を生成して記憶手段に格納する連立方程式生成手段と、記憶手段から生成された連立方程式を読み出して、数値計算演算手段により連立方程式の解を求め、ラグランジュの未定乗数の各々を確定しラグランジュの乗数として記憶部に格納するラグランジュの乗数算出手段と、記憶部から読み出されたラグランジュの乗数によって確定された所定のリスク中立確率分布式に基づいて演算手段により確率分布を生成し、出力する出力手段とを備えたことを特徴とする。
【0111】
請求項22に記載の発明は、請求項21に記載のコンピュータ装置において、出力手段は、生成された確率分布と、パラメトリック手法により得られた確率分布とを対比可能な形で出力することを特徴とする。
【0112】
請求項23に記載の発明は、所定の情報の入力を受け取る入力手段と、受け取られた所定の情報を含む演算処理要求をネットワークを介して送信する送信手段と、演算処理要求に対する処理結果を受信して出力する出力手段とを含むクライアント端末と、クライアント端末からネットワークを介して送信された演算処理要求を受信する要求受信手段と、演算処理で使用するデータを格納する記憶手段と、受信した所定の情報を係数として有する複数の拘束条件式に基づいてノンパラメトリック手法によりリスク中立確率分布をコンピュータの所定のプログラムによって取得するコンピュータ演算処理方法を実行する演算処理実行手段と、演算処理により得られた結果をクライアント端末にネットワークを介して送信する結果送信手段とを含む演算処理サーバとを備えたことを特徴とする。
【0113】
請求項24に記載の発明は、請求項23に記載のリスク評価システムにおいて、演算処理実行手段は、予め記憶手段に格納されたエントロピーを最大とする所定のリスク中立確率分布式を記憶手段から読み出して、複数の拘束条件式に代入し、ラグランジュの未定乗数を含む連立方程式を生成して記憶手段に格納する連立方程式生成ステップと、記憶手段から生成された連立方程式を読み出して、数値計算演算手段により連立方程式の解を求め、ラグランジュの未定乗数の各々を確定しラグランジュの乗数として記憶部に格納するラグランジュの乗数算出ステップと、記憶部から読み出されたラグランジュの乗数によって確定された所定のリスク中立確率分布式に基づいて演算手段により確率分布を生成し、出力手段により出力する出力ステップとを含む演算処理方法を実行することを特徴とする。
【0114】
請求項25に記載の発明は、デリバティブのガンマをコンピュータの所定のプログラムによって取得するコンピュータ演算処理方法において、予め記憶手段に格納されたエントロピーを最大とする所定のリスク中立確率分布式を記憶手段から読み出して、所定の情報を係数として有する複数の拘束条件式に代入し、ラグランジュの未定乗数を含む連立方程式を生成して記憶手段に格納する連立方程式生成ステップと、記憶手段から生成された連立方程式を読み出して、数値計算演算手段により連立方程式の解を求め、ラグランジュの未定乗数の各々を確定しラグランジュの乗数として記憶部に格納するラグランジュの乗数算出ステップと、記憶部から読み出されたラグランジュの乗数によって確定された所定のリスク中立確率分布式に基づいて演算手段により確率分布を生成し、生成されたリスク中立確率分布式を時間反転経済に応用してオプションのガンマを取得手段により取得する取得ステップとを備えたことを特徴とする。
【0115】
請求項26に記載の発明は、オプションのガンマをコンピュータの所定のプログラムによって取得するコンピュータ演算処理方法において、予め記憶手段に格納されたエントロピーを最大とする所定のリスク中立確率分布式を記憶手段から読み出して、所定の情報を係数として有する複数の拘束条件式に代入し、ラグランジュの未定乗数を含む連立方程式を生成して記憶手段に格納する連立方程式生成ステップと、記憶手段から生成された連立方程式を読み出して、数値計算演算手段により連立方程式の解を求め、ラグランジュの未定乗数の各々を確定しラグランジュの乗数として記憶部に格納するラグランジュの乗数算出ステップと、記憶部から読み出されたラグランジュの乗数によって確定された所定のリスク中立確率分布式に基づいて演算手段により確率分布を生成し、生成されたリスク中立確率分布式を時間反転経済に応用してオプションのガンマを取得手段により取得する取得ステップとを備えたことを特徴とする。
【0116】
請求項28に記載の発明は、デジタルオプションのガンマをコンピュータの所定のプログラムによって取得するコンピュータ演算処理方法において、予め記憶手段に格納されたエントロピーを最大とする所定のリスク中立確率分布式を記憶手段から読み出して、所定の情報を係数として有する複数の拘束条件式に代入し、ラグランジュの未定乗数を含む連立方程式を生成して記憶手段に格納する連立方程式生成ステップと、記憶手段から生成された連立方程式を読み出して、数値計算演算手段により連立方程式の解を求め、ラグランジュの未定乗数の各々を確定しラグランジュの乗数として記憶部に格納するラグランジュの乗数算出ステップと、記憶部から読み出されたラグランジュの乗数によって確定された所定のリスク中立確率分布式に基づいて演算手段により確率分布を生成し、生成されたリスク中立確率分布式を時間反転経済に応用してオプションのガンマを取得手段により取得する取得ステップとを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0117】
以上説明したように、本発明によれば、予め記憶手段に格納されたエントロピーを最大とする所定のリスク中立確率分布式を記憶手段から読み出して、複数の拘束条件式に代入し、ラグランジュの未定乗数を含む連立方程式を生成して記憶手段に格納する連立方程式生成ステップと、記憶手段から生成された連立方程式を読み出して、数値計算演算手段により連立方程式の解を求め、ラグランジュの未定乗数の各々を確定しラグランジュの乗数として記憶部に格納するラグランジュの乗数算出ステップと、記憶部から読み出されたラグランジュの乗数によって確定された所定のリスク中立確率分布式に基づいて演算手段により確率分布を生成し、出力手段により出力する出力ステップとを備えているので、モデルに依存せず、テール分布がパワー則に従うリスク中立確率分布を得ることが可能となる。
【0118】
また、本発明のオプション評価手法を用いた評価装置あるいはシステムを提供することにより一般の個人投資家であっても商品をより合理的に正しく評価することができるため積極的な投資が促されるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0119】
(本発明の原理)
本発明は、以下の原理に従って達成される。
【0120】
(1)従来のモデルに依存した手法とは、決して実際の価格変動を正しく記述しないものであり、モデル・リスクに関する損失を被る可能性が大きいので、モデル・リスクを回避するためモデルを用いないノン・パラメトリック手法を基本とする。特にノン・パラメトリック手法のなかでも効率のよい、エントロピー最大法を用いる。
【0121】
(2)従来のノン・パラメトリック手法に基づくと、デリバティブの価格を設定することは可能となるが、その反面、正しいヘッジ戦略を見出すことが不可能であり、ヘッジ戦略が与えられなければ実際に収益を上げることも難しくなるため、特にバニラオプションに対する時間反転対称性を用いて、時間反転された経済におけるリスク中立確率が、バニラオプションのガンマによって与えられることに注目し、ヘッジ戦略(デルタやガンマ)を決定する。
【0122】
ここで、ノン・パラメトリック手法としてエントロピー最大法を用いる理由について説明する。本技術分野において、与えられた確率分布に対するエントロピーとは、その分布に伴う乱雑さの度合いを測るものである。一般には分布関数p(x)の凹関数を積分したものがエントロピー(H[p])であり、例えば以下の式で示される。
【0123】
【数28】

【0124】
上述の通りこのようなエントロピーは乱雑さを示すとともに、本技術分野で知られるように「負の情報量」という意味もある。したがって、エントロピーを最大とする分布とは、必要最小の情報量しか持たない分布ということができる。
【0125】
一般に未知の分布関数p(x)に対して何らかの情報が与えられると、その情報は分布関数p(x)に対する拘束を与えることとなる。このような拘束を満たす条件のもとでエントロピーを最大とする分布とは、上述のように最小の情報量しか持たない分布であるから、すなわち与えられていない情報を全く含まない分布ということができる。逆にエントロピーを最大にしない分布は、与えられてもいない情報を含む偏った分布なのである。
【0126】
したがって、エントロピーを最大にすることにより存在しない情報が除外されて最適な結果が与えられることから、モデルに依存しないリスク中立化率分布が得られると本発明では考える。
【0127】
以上の原理に従って、以下のような方針でコンピュータ演算処理を行う。
【0128】
(a)取引されるオプションの市場価格に対するデータが与えられたとき、これを用いて時間が前進する経済および後退する経済におけるリスク中立確率を、拘束を伴うエントロピー最大法によって並行して求める。
【0129】
(b)時間が前進する経済におけるリスク中立確率を用いて、取引されない行使価格に対するオプションの価格を決定する。その際、テール分布が最も滑らかになるようにμの値を決定する。
【0130】
(c)時間が後退する経済におけるリスク中立確率によりガンマを確定する。
【0131】
(d)ガンマを積分することによりヘッジ戦略のデルタを決定する。
【0132】
ここで、リスク中立確率分布を求める場合のエントロピー最大法はレニーのエントロピーを用いるが、別のエントロピーも使用することができるため、ここではレニーのエントロピーに加え、シャノンのエントロピーを用いた場合も説明する。リスク中立確率分布を求める場合のエントロピー最大法でレニーのエントロピーを用いる理由は、そのテールがパワー則に従うからである。すなわち、金融市場は一般にパワー則に従うことが示されており(「A theory of power-law distributions in financial market fluctuations, Nature 2003」( Xavier Gabaix, Parameswaran Gopikrishnan, Vasiliki Plerou, H. Eugene Stanley))、例えば市場における株価変動もテール分布はパワー則に従うといえる。したがって、リスク中立確率分布がパワー則に従うレニーのエントロピーを用いた手法がより現実の市場に近い解を与えるのである。
【0133】
(第1実施形態)
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。本実施形態では、コンピュータによりレニーのエントロピーを用いたエントロピー最大法によってリスク中立確率分布を求める演算処理方法を説明する。
【0134】
図1は、本発明にかかる一実施形態のシステム構成を示すブロック図である。本実施形態では、システムは任意に設定される情報が入力される入力装置101、種々の市場特性を示す情報のソースである市場102、各種入力を受けて本発明の演算処理を行い出力命令を発行する計算機103、市場からの情報を収集して計算機103に入力するインタフェース104、本発明のプログラムおよび演算処理中に発生する各種データを格納などする記憶装置105、および主な出力方法である表示装置106等からなる。なお、演算処理の結果の出力は、表示装置106のほかに記憶装置105に格納し、印刷装置(図示せず)に印刷し、あるいは通信回線(図示せず)を介して送信することができるのは言うまでもない。
【0135】
通常、オペレータが任意の情報(本実施形態では、原資産の種類、希望行使価格、希望満期など)を入力装置101から入力すると、インタフェース104は市場102から種々の情報(本実施形態では原資産の価格、流動性の高いオプションの満期など)を収集して計算機103に入力する。計算機103は、記憶部105から演算処理のプログラムを読み込んで入力された情報や市場の情報を用いて演算処理を行い表示装置106に出力する。
【0136】
以上により、オペレータは、希望行使価格、満期などの情報を入力すると、リスク中立確率(および後述するオプションの価格、ガンマ、ヘッジ戦略デルタおよびインプライドされたテール分布変数μなど)が算出されて表示装置106に表示されるので、その情報をもとにデリバティブ商品の評価をすることができる。
【0137】
(第1実施例)
以下に、本実施例の各演算処理、すなわちレニーのエントロピーを用いたエントロピー最大法を用いてリスク中立確率p(x)を求める演算処理方法を以下に説明する。図2は、本実施例のリスク中立確率p(x)を求める演算処理方法を示すフローチャートである。
【0138】
演算処理を行う計算機103には、入力装置101を介して行使価格K、満期Tなどが入力され、インタフェース104により市場からコールオプションの価格C(例えば中間価格。一般的にはコールオプションの価格は複数あるが、本実施例では信頼するに足る情報が1個の場合について説明する)、現在の原資産(株、インデックスまたは債権等)価値S、現在の金利r(ここで記述する例では、金利はオプションの満期までの間一定とする)などが収集され入力される(S201)。計算機103における演算処理は以上の情報に基づいて行なわれる。
【0139】
ここでは、拘束を伴うエントロピー最大法を用いるが、具体的な拘束とは以下の通りである。第1の拘束条件は、確率分布の規格化条件
【0140】
【数29】

【0141】
第2の拘束条件は、入力データに関する条件
【0142】
【数30】

【0143】
第3の拘束条件は、リスク中立条件
【0144】
【数31】

【0145】
これらの拘束条件(1)〜(3)が与えられた条件で、エントロピーを最大にする分布を決定する。本実施例では、具体的にレニーのエントロピー
【0146】
【数32】

【0147】
を用いるが、αは正の定数とする。上述の拘束に基づいてレニーのエントロピー(4)を最大とするリスク中立確率分布を計算すると、以下の解が求められる。
【0148】
【数33】

【0149】
但し、ここで3変数λ、β、νは拘束に伴うラグランジュの未定乗数であり、{X}=max{X,0}とする。αに所定の値を入れた式(5)を上記の式(1)、(2)および(3)に代入すると、未定乗数の満たす連立非線形方程式が得られる(S202〜S203)。ここで、エントロピー最大法により式(5)を求める方法は、詳述しないが本技術分野で知られた方法により行なうことができる。また、コンピュータを用いて式(5)を各拘束条件式に代入して連立非線型方程式を求める方法も本技術分野で知られたいずれの方法も用いることができるので、本実施例では詳述しない。
【0150】
これらの連立方程式は本技術分野で知られた数値計算(ルート・ファインダーなど)を用いて解くことが可能であり、その結果得られる根を(5)に代入することによって、満期Tの原資産価格Sに対するリスク中立確率p(x)を求めることができる(S204)。
【0151】
このようにして求められたp(x)は、αの値として代入した所定の値により種々の分布を示すこととなるためαの値を最も適切なものを特定しなければならない。本実施例では、求められたp(x)の分布が最も滑らかとなるαがリスク中立確率のパワー係数として最も適切であるためこれを基準に特定を行なう。すなわち、種々のαについて確率分布を生成し(S205)、各確率分布ごとに円滑度を求め、円滑度が最大となるαの値を確率分布が最も滑らかになるパワー係数として確定する(S206)。
【0152】
具体的には、図3に示すように種々のαによる確率分布を生成し、リスク中立確率分布の各点の左右における勾配値の差を求め、その絶対値を合計する。各確率分布の勾配値の絶対値合計のうち最小となるαをパワー係数とするのである。最後に得られたリスク中立確率分布を出力して終了する(S207)。
【0153】
本実施例では、説明のため上記のような限定的な式を用いたが、本発明で用いることができる種々の式はこれらに限られることなく、以上の説明から以下のような拡張された式を用いることができるのは当業者であれば容易に理解することができる。
【0154】
【数34】

【0155】
【数35】

【0156】
【数36】

【0157】
【数37】

【0158】
ここで、(x−Kはコールオプションの支払い関数、所定の情報であるC、T、S0、およびr(t)はそれぞれコールオプションの価格、コールオプションの満期、現在の資産価値、および時間tにおける金利である。
【0159】
同様に、デリバティブについてリスク中立確率分布の式を求めると以下のような式が得られる。
【0160】
確率分布規格化条件式は
【0161】
【数38】

【0162】
であり、入力データ拘束条件式は
【0163】
【数39】

【0164】
であり、およびリスク中立拘束条件式は
【0165】
【数40】

【0166】
リスク中立確率分布の式は、
【0167】
【数41】

【0168】
となる。ここで、D(x)はデリバティブに対応する支払い関数であり、λ、β、νはラグランジュの未定乗数、nは拘束条件の数、およびαはパワー係数である。
【0169】
さらに、デジタルオプションについてリスク中立確率分布の式を求めると以下のような式が得られる。
【0170】
確率分布規格化条件式は、
【0171】
【数42】

【0172】
であり、入力データ拘束条件式は、
【0173】
【数43】

【0174】
であり、およびリスク中立拘束式は、
【0175】
【数44】

【0176】
リスク中立確率分布の式は、
【0177】
【数45】

【0178】
である。ここで、Θはヘビサイド関数を表し、Θ(x−K)はデジタルオプションの支払い関数であり、λ、β、νはラグランジュの未定乗数、Kは行使価格、nは拘束条件の数、およびαはパワー係数である。また、所定の情報であるC、T、S0、およびr(t)はそれぞれデジタルオプションの価格、デジタルプションの満期、現在の資産価値、および時間tにおける金利である。
【0179】
(具体例での処理)
具体的に導かれるコールオプションの価格を図4に示す。入力データは、FTSE100の先物オプションの2004年1月27日のデータを用いた。ただし、満期は2004年3月19日であり、2004年1月27日のINDEXの値は4469である。
【0180】
以上により、モデルに依存せず、テール分布がパワー則に従うリスク中立確率分布を得ることが可能となる。
【0181】
(第2実施例)
本実施例は、シャノンのエントロピー最大法を用いて、後退経済におけるリスク中立確率γ(x)を算出するコンピュータ演算処理方法に関するものである。ヘッジ戦略(デルタやガンマ)を決定するため、ここでは特にバニラオプションに対する時間反転対称性を用いる。ここでデルタΔ(x)は以下のように示される。
【0182】
【数46】

【0183】
具体的には、時間反転された経済におけるリスク中立確率が、バニラオプションのガンマによって与えられることに注目する。
【0184】
本実施例でも第1実施例と同様にエントロピー最大法を用いるが、計算処理は上述のものと同様なので共通部分の説明は省略する。具体的な拘束とは以下の通りであるが、ここではシャノンのエントロピーを用いる。先ず、確率分布の規格化条件
【0185】
【数47】

【0186】
次に入力データに関する条件
【0187】
【数48】

【0188】
リスク中立条件
【0189】
【数49】

【0190】
これらの拘束条件が与えられた情況において、エントロピーを最大にする分布を決定する。ここではシャノンの以下のエントロピー式H[p]を用いる。
【0191】
【数50】

【0192】
その結果得られるオプション・ガンマは
【0193】
【数51】

【0194】
により与えられる。但しここでも三変数λ’、β’、ν’は拘束に伴うラグランジュの未定乗数である。式(9)を上記の式(6)、(7)および(8)に代入したとき、未定乗数の満たす連立非線形方程式が得られる。これらの連立方程式は数値計算(ルート・ファインダーなど)を用いて解くことが可能であり、その結果を(9)に代入することによって、満期の原資産価格に対する時間反転経済におけるキャリブレートされたリスク中立確率、すなわちオプションのガンマが求まる。なお、ガンマを求める際にレニーのエントロピーを用いた場合、(9)のようなパワー則が得られる。
【0195】
図5は、本実施例の方法により得られたガンマを示す図である。入力条件は、行使価格K=1、満期T=1(年)、現在の原資産価値S=0.92、現在の金利r=5%、インプライドボラティリティσ=10%とした。
【0196】
ここで、上述の第1実施例と同様、本実施例で用いた式の拡張を行なうと、コールオプションについて、各式は以下のように拡張することができるのは当業者であれば明らかである。この式ではレニーのエントロピーを用いる。
【0197】
【数52】

【0198】
【数53】

【0199】
【数54】

【0200】
【数55】

【0201】
ここで、λ’、β’、ν’はラグランジュの未定乗数、Sは現在の資産価値(実際には現在の資産価値は1つしかなく、また行使価格は複数あるため、それぞれの行使価格Kとそれに対応するコールオプションの価格Cとに対しスケーリング則、
【0202】
【数56】

【0203】
が満たされるように資産価値Sの値を逆算して求める)、およびnは拘束条件の数であり、C、T、K、およびr(t)はそれぞれコールオプションの価格、コールオプションの満期、コールオプションの行使価格、および時間tにおける金利である。
【0204】
また、デリバティブについては、
【0205】
【数57】

【0206】
【数58】

【0207】
【数59】

【0208】
【数60】

【0209】
ここで、λ’、β’、ν’はラグランジュの未定乗数、Sは現在の資産価値(実際には現在の資産価値は1つしかなく、また行使価格は複数あるため、それぞれの行使価格Kとそれに対応するデリバティブの価格Cとに対しスケーリング則、
【0210】
【数61】

【0211】
が満たされるように資産価値Sの値を逆算して求める)、およびnは拘束条件の数であり、C、T、K、およびr(t)はそれぞれデリバティブの価格、デリバティブの満期、デリバティブの行使価格、および時間tにおける金利である。また、D(x)はデリバティブに対応する支払い関数である。
【0212】
さらに、デジタルオプションについて式を拡張すると、
【0213】
【数62】

【0214】
【数63】

【0215】
【数64】

【0216】
【数65】

【0217】
ここで、λ’、β’、ν’はラグランジュの未定乗数、Sは現在の資産価値(実際には現在の資産価値は1つしかなく、また行使価格は複数あるため、それぞれの行使価格Kとそれに対応するデリバティブの価格Cとに対しスケーリング則、
【0218】
【数66】

【0219】
が満たされるように資産価値Sの値を逆算して求める)、およびnは拘束条件の数であり、C、T、S、Kおよびr(t)はそれぞれデジタルオプションの価格、デジタルオプションの満期、現在の資産価値、デジタルオプションの行使価格、および時間tにおける金利である。また、Θはヘビサイド関数を表し、Θ(S−x)はデジタルオプションの支払い関数である。
【0220】
これにより、時間反転経済におけるリスク中立確率分布(ガンマ)をキャリブレートすることができる。このガンマを用いることによって、ガンマヘッジの戦略を見出すことが可能となる。GREEKと呼ばれる変数に含まれるガンマは、ヘッジ戦略上重要である。
【0221】
(第3実施例)
本実施例では、ヘッジ戦略(デルタ)を求めるコンピュータ演算処理方法に関するものである。ヘッジ戦略(デルタ)を決定するため、上述の第2実施例で得られたガンマを用いる。具体的には、デルタはガンマを積分することによって求める。すなわち、以下のような式により積分値を求めることができる。
【0222】
【数67】

【0223】
本積分式の解法は、本技術分野で知られたいずれの手法によることもできる。
【0224】
図6は、本実施例の方法により得られたデルタを示す図である。入力条件は、第2実施例において求めた結果を示す図5と同じ条件である。すなわち、図5に示すガンマを積分した結果が図6に示されている。
【0225】
ここで、本実施例の方法により求めたオプション価格のグラフは図7の実線で示す曲線であり、これと比較するため同じ条件でブラック・ショールズにより得られた確率分布から求めたオプション価格のグラフを破線で示す。具体的には、上記図4の確率分布を求める条件のオプション価格C=0.9524はブラック・ショールズのモデルではボラティリティ30%の「アット・ザ・マネー」オプションの価格だから、その条件によりリスク中立確率分布を算出し、これに基づいてオプション価格を求めたものが図7の破線で示す曲線である。
【0226】
図7に示すように、本実施例により得られた結果は、ブラック・ショールズのモデルに比較的近似していることが理解される。
【0227】
以上により、ヘッジ戦略(デルタ)を得ることができるので、正しいヘッジ戦略を見出すことが可能となり、有効に実際の収益につなげていくことができる。
【0228】
(第4実施例)
本実施例は、テール分布を与える変数αを決定するコンピュータ演算処理方法に関するものである。ここで得られたリスク中立確率p(x)とは、式(5)からも伺えるように、キャリブレーションを行なった点において、連続ではあるが、微分不可能となっている。このため、分布関数p(x)の勾配値をキャリブレーションを行なった点の左右においてそれぞれ計算し、この勾配の差が最も小さくなるようなαの値を最善のものとして決定する。その理由とは、勾配の差を最も小さくするαの値はリスク中立確率分布を最も滑らかな(つまり微分可能な)関数に近いものとして与えるからである。
【0229】
実際のαは1/2<α<1の範囲に限られるが、テール分布p(x)〜x−μとなるμはαによって
【0230】
【数68】

【0231】
のように与えられることは式(5)より伺える。このため、αの値が1/2から1に渡って変化するにともないμの値は全ての可能な値(2<μ<∞)をとる。結果として、オプションの市場価格により暗示される、インプライド・テールを求めることが可能となる。
【0232】
従来の原資産モデルに基づいたアプローチでは、モデルが一度特定されると、それに基づいて様々なデリバティブの評価が行なえる。これに対して、本発明におけるアプローチは各種のデリバティブに対し個々にキャリブレーションを行なう必要があるが、この場合のキャリブレーションは容易で短時間に行なえ、さらに安定していることから、実用上問題とならない。
【0233】
(第2実施形態)
本実施形態は、上述の第1実施形態のコンピュータ演算処理を用いて、金融デリバティブの種々の指標を算出し、一般投資家がより容易に取引を行なうことを可能にすることを目的とする。
【0234】
すなわち、例えばウェブサイト上でエントロピー最大法を用いたノンパラメトリック手法を用いた株式オプション評価システムを提供することにより、従来一般市民では専門性が高すぎ取引が行なわれなかったオプション性デリバティブ商品の取引を促進することができるのである。このようなオプション性デリバティブ商品は従来の評価システムがその使用に専門性を要求するため、一般投資家にとって身近なものではなかったが、実際は、インサイダー情報やそれに類似する同業者情報などから裁定機会を無秩序に模索して利益に集まる現在の株式の売買を中心とする金融市場よりもリスクが少なく魅力的な商品である。したがって、従来の評価システムの問題を解決し一般投資家にも馴染み深いものとすることができれば、一般投資家の期待に合致するだけでなく金融市場全体の活性化にも繋がるものである。以上の目的を達成するために本実施形態が考案された。
【0235】
図8は、本実施形態のシステムの概念図である。本システムは、オプション市場取得モジュール801、コンピュータ演算処理サーバ802、プロバイダの提供するウェブサイト803、一般投資家等の使用する一般ユーザ端末804、および株式オプションディーラ等が使用する専門家端末805などを備える。これらの各構成要素は基本的に相互にネットワークで接続されているが、一般ユーザ端末804と専門家端末805とは特段接続されていなくても本発明の目的は達成される。また、特に一般ユーザ端末804および専門家端末805と、ウェブサイト803とは一般にインターネットで接続される。
【0236】
一般投資家は、一般ユーザ端末804からウェブサイト803を呼び出して、その案内に従い所望のデリバティブ商品について、必要な情報を設定する。ここで、必要な情報とは、希望満期、行使価格などであるがこれに限られない。図9の表示901に一般投資家の入力した様子を示す。
【0237】
図9は、本実施形態の一般ユーザ端末804に表示される設定画面や評価結果の出力画面を示す図である。設定情報として、満期、行使価格のほかに希望する銘柄は図9の表示902に示すように、銘柄リストから選ぶようにすることもできる。
【0238】
図10は、ウェブサイト803のサーバが一般ユーザ端末804に提供するサービスを示すフローチャートである。先ず、上記のようにデータ入力をすべき画面を表示しユーザの入力を待つ(S1001)、ユーザ入力があって必要情報が設定されユーザが評価開始を所望する入力を入れると、設定された情報がコンピュータ演算処理サーバ802に送信される(S1003)。情報を受信したコンピュータ演算処理サーバ802は、受信した情報とオプション市場取得モジュール801からの市場データとに基づいて、上述の第1実施形態の処理を行い、評価結果として所定の出力データの送信を行う。この評価結果を一般ユーザ端末が受信するとその内容を画面に表示する(S1004)。図9に示された出力表示903には、評価結果としてオプション評価額が示されているが、これに限られず、例えばリスク中立確率分布やガンマなどを出力するようにすることもできる。
【0239】
本実施形態では、一般投資家を中心に説明したが、本実施形態のシステムは専門家も使用することができるので、その場合は専門家端末805を介して一般投資家と同様の、またはそれ以上のサービスの提供を受けることができる。すなわち、投資銀行のリスク管理者やトレーダーは、従来から使用しているモデル依存型の評価システムよりも簡易であり、また一般投資家も使用していることから、モデルによって得られたオプション価格をチェックすることによって一般投資家との取引もスムーズに進めることができるのである。また、単にオプション価格のみならず、例えばマーケットによってインプライドされた将来株価のリスク中立分布などの情報を提供することもできる。このため、このような種々の情報を用いてより複雑なオプション評価を補助することができることから、スペキュレータ等においても本システムの評価結果に基づいて投資戦略を考えることが可能になる。
【0240】
以上、本実施形態のシステムを用いることにより、一般の個人投資家であっても商品をより合理的に正しく評価し、オプション価格についての直感を得ることができるためオプション性デリバティブ商品に対し積極的な投資が促される。
【0241】
また、このようなシステムを広くアクセスが容易なウェブサイトから提供することにより、大多数の投資家によりこの評価結果が使用されることとなり、市場に対しベンチマークを提供することとなる可能性がある。実際、本実施形態では一般投資家のみならず、専門家の使用も考慮しているから、本実施形態の評価システムにより算出価格が取引の目安となり、ベンチマークとなることが可能ということができる。
【図面の簡単な説明】
【0242】
【図1】本発明にかかる一実施形態のシステム全体を示すブロック図である。
【図2】本発明にかかる一実施形態の処理のフローを示す図である。
【図3】本発明の一実施形態の種々のαを用いた確率分布を示す図である。
【図4】本実施例の方法により得られたリスク中立確率分布を示す図である。
【図5】上記のリスク中立確率分布を2度積分して得られたオプション価格を現在株価Sの関数として求めたグラフを示す図である。
【図6】本実施例の方法により得られたガンマを示す図である。
【図7】本実施例の方法により得られたデルタを示す図である。
【図8】本発明の一実施形態のシステムの概念図である。
【図9】本発明の一実施形態の一般ユーザ端末に表示される設定画面や評価結果の出力画面を示す図である。
【図10】本発明の一実施形態のウェブサイトのサーバが一般ユーザ端末に提供するサービスを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0243】
101 入力装置
102 市場
103 計算機
104 インタフェース
105 記憶装置
106 表示装置
801 オプション市場取得モジュール
802 コンピュータ演算処理サーバ
803 ウェブサイト
804 一般ユーザ端末
805 専門家端末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の情報を係数として有する複数の拘束条件式に基づいてノンパラメトリック手法によりリスク中立確率分布をコンピュータの所定のプログラムによって取得するコンピュータ演算処理方法において、
予め記憶手段に格納されたエントロピーを最大とする所定のリスク中立確率分布式を該記憶手段から読み出して、前記複数の拘束条件式に代入し、ラグランジュの未定乗数を含む連立方程式を生成して前記記憶手段に格納する連立方程式生成ステップと、
前記記憶手段から前記生成された連立方程式を読み出して、数値計算演算手段により該連立方程式の解を求め、前記ラグランジュの未定乗数の各々を確定しラグランジュの乗数として前記記憶部に格納するラグランジュの乗数算出ステップと、
前記記憶部から読み出されたラグランジュの乗数によって確定された所定のリスク中立確率分布式に基づいて前記演算手段により確率分布を生成し、出力手段により出力する出力ステップと
を備えたことを特徴とするコンピュータ演算処理方法。
【請求項2】
前記リスク中立確率分布式は、レニーのエントロピーを最大とする所定のリスク中立確率分布式であり、前記複数の拘束条件式は、確率分布規格化条件式、入力データ拘束条件式およびリスク中立拘束条件式であり、
前記連立方程式生成ステップにおいて、前記連立方程式は前記リスク中立確率分布式におけるパワー係数に所定の値を設定して生成され、
演算手段により、前記記憶部から読み出されたラグランジュの乗数によって確定された前記所定のリスク中立確率分布式において前記パワー係数に複数の値を設定して複数の確率分布式を生成し、当該生成された複数の確率分布式のうち確率分布の円滑度が最大となる前記所定の値を前記求める確率分布式のパワー係数とするパワー係数確定ステップをさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載のコンピュータ演算処理方法。
【請求項3】
前記パワー係数算出ステップにおいて、前記生成された確率分布の所定の各点の左右における勾配値の差を求め該勾配値の差の絶対値の合計が最小となるパワー係数を前記円滑度が最大となるパワー係数とすることを特徴とする請求項2に記載のコンピュータ演算処理方法。
【請求項4】
前記所定のリスク中立確率分布式p(x)は、流動性の高いデリバティブ商品の価格を用いて満期の原資産価格に対するリスク中立確率分布を示すことを特徴とする請求項2または3に記載のコンピュータ演算処理方法。
【請求項5】
前記所定のリスク中立確率分布式p(x)は、
【数1】

であり、D(x)はデリバティブに対応する支払い関数であり、λ、β、νは前記ラグランジュの未定乗数、nは拘束条件の数、およびαは前記パワー係数であることを特徴とする請求項4に記載のコンピュータ演算処理方法。
【請求項6】
前記確率分布規格化条件式は
【数2】

であり、前記入力データ拘束条件式は
【数3】

であり、および前記リスク中立拘束条件式は
【数4】

であり、前記所定の情報であるC、T、S0、およびr(t)はそれぞれデリバティブの価格、デリバティブの満期、現在の資産価値、および時間tにおける金利であり、D(x)は一般にデリバティブに対応する支払い関数であることを特徴とする請求項5に記載のコンピュータ演算処理方法。
【請求項7】
コールオプションに対して前記所定のリスク中立確率分布式p(x)は、流動性の高いコールオプションの価格を用いて満期の原資産価格に対するリスク中立確率分布を示すことを特徴とする請求項2または3に記載のコンピュータ演算処理方法。
【請求項8】
前記所定のリスク中立確率分布式p(x)は、
【数5】

であり、(x−Kはコールオプションの支払い関数、λ、β、νは前記ラグランジュの未定乗数、Kは行使価格、nは拘束条件の数、およびαは前記パワー係数であることを特徴とする請求項7に記載のコンピュータ演算処理方法。
【請求項9】
前記確率分布規格化条件式は、
【数6】

であり、前記入力データ拘束条件式は
【数7】

であり、および前記リスク中立拘束条件式は
【数8】

であり、(x−Kはコールオプションの支払い関数、前記所定の情報であるC、T、S0、およびr(t)はそれぞれコールオプションの価格、コールオプションの満期、現在の資産価値、および時間tにおける金利であることを特徴とする請求項8に記載のコンピュータ演算処理方法。
【請求項10】
デジタルオプションに対して前記所定のリスク中立確率分布式p(x)は、流動性の高いデジタルオプション商品の価格を用いて満期の原資産価格に対するリスク中立確率分布を示すことを特徴とする請求項2または3に記載のコンピュータ演算処理方法。
【請求項11】
前記所定のリスク中立確率分布式p(x)は、
【数9】

であり、Θはヘビサイド関数を表し、Θ(x−K)はデジタルオプションの支払い関数であり、λ、β、νは前記ラグランジュの未定乗数、Kは行使価格、nは拘束条件の数、およびαは前記パワー係数であることを特徴とする請求項10に記載のコンピュータ演算処理方法。
【請求項12】
前記確率分布規格化条件式は、
【数10】

であり、前記入力データ拘束条件式は、
【数11】

であり、および前記リスク中立拘束条件式は、
【数12】

であり、前記所定の情報であるC、T、S0、およびr(t)はそれぞれデジタルオプションの価格、デジタルプションの満期、現在の資産価値、および時間tにおける金利であることを特徴とする請求項11に記載のコンピュータ演算処理方法。
【請求項13】
前記所定のリスク中立確率分布式を時間反転経済に応用したリスク中立確率分布は、
【数13】

であり、D(x)はデリバティブに対応する支払い関数であり、λ’、β’、ν’は前記ラグランジュの未定乗数、およびnは拘束条件の数であって、
前記確率分布規格化条件式は、
【数14】

であり、前記入力データ拘束条件式は
【数15】

であり、および前記リスク中立拘束条件式は
【数16】

であり、C、T、K、およびr(t)はそれぞれデリバティブの価格、デリバティブの満期、デリバティブの行使価格、および時間tにおける金利とすることにより、時間反転させた経済である後退経済におけるリスク中立確率を求めてデリバティブのガンマを算出し、
前記出力ステップは、前記デリバティブのガンマをさらに出力することを特徴とする請求項2ないし6のいずれかに記載のコンピュータ演算処理方法。
【請求項14】
前記所定のリスク中立確率分布式を時間反転経済に応用したリスク中立確率分布は、
【数17】

であり、λ’、β’、ν’は前記ラグランジュの未定乗数、Sは現在の資産価値、およびnは拘束条件の数であって、
前記確率分布規格化条件式は
【数18】

であり、前記入力データ拘束条件式は
【数19】

であり、および前記リスク中立拘束条件式は
【数20】

であり、C、T、K、およびr(t)はそれぞれコールオプションの価格、コールオプションの満期、コールオプションの行使価格、および時間tにおける金利とすることにより、時間反転させた経済である後退経済におけるリスク中立確率を求めてオプションのガンマを算出し、
前記出力ステップは、前記オプションのガンマをさらに出力することを特徴とする請求項2、3、7、8または9に記載のコンピュータ演算処理方法。
【請求項15】
前記所定のリスク中立確率分布式を時間反転経済に応用したリスク中立確率分布は、
【数21】

であり、Θはヘビサイド関数を表し、Θ(S−x)はデジタルオプションの支払い関数であり、λ’、β’、ν’は前記ラグランジュの未定乗数、Sは現在の資産価値、およびnは拘束条件の数であって、
前記確率分布規格化条件式は
【数22】

であり、前記入力データ拘束条件式は
【数23】

であり、および前記リスク中立拘束条件式は
【数24】

であり、C、T、S、Kおよびr(t)はそれぞれデジタルオプションの価格、デジタルオプションの満期、現在の資産価値、デジタルオプションの行使価格、および時間tにおける金利とすることにより、時間反転させた経済である後退経済におけるリスク中立確率を求めてデジタルオプションのガンマを算出し、
前記出力ステップは、前記デジタルオプションのガンマをさらに出力することを特徴とする請求項2、3、10、11または12に記載のコンピュータ演算処理方法。
【請求項16】
前記算出されたリスク中立確率γ(x)の積分を行なって、ヘッジ戦略デルタを算出し、
前記出力ステップは、前記ヘッジ戦略デルタをさらに出力することを特徴とする請求項13、14または15に記載のコンピュータ演算処理方法。
【請求項17】
前記パワー係数を用いて、テール分布変数
【数25】

を求め、
前記出力ステップは、前記テール分布変数をさらに出力することを特徴とする請求項2ないし12のいずれかに記載のコンピュータ演算処理方法。
【請求項18】
ユーザ端末が、ユーザが所望のデリバティブ商品の原資産種別、希望行使価格および希望満期を含む設定情報の入力を受付けて前記コンピュータにネットワークを介して送信する端末送信ステップと、
前記複数の拘束条件式が係数として有する前記所定の情報として、インタフェース手段により収集された前記デリバティブ商品に関する市場情報と、前記ユーザ端末から送信された設定情報とを前記コンピュータが受信する情報受信ステップと、
前記ユーザ端末により、前記出力手段が出力した確率分布をネットワークを介して受信して出力する端末受信ステップと
をさらに備えたことを特徴とする請求項1ないし17のいずれかに記載のコンピュータ演算処理方法。
【請求項19】
前記市場情報は、原資産の価格および現在の金利を含むことを特徴とする請求項18に記載のコンピュータ演算処理方法。
【請求項20】
コンピュータに、複数の拘束条件式に基づいてノンパラメトリック手法によりリスク中立確率分布をコンピュータの所定のプログラムによって取得するコンピュータ演算処理方法であって、
予め記憶手段に格納されたエントロピーを最大とする所定のリスク中立確率分布式を該記憶手段から読み出して、複数の条件式に代入し、ラグランジュの未定乗数を含む連立方程式を生成して前記記憶手段に格納する連立方程式生成ステップと、
前記記憶手段から前記生成された連立方程式を読み出して、数値計算演算手段により該連立方程式の解を求め、前記ラグランジュの未定乗数の各々を確定しラグランジュの乗数として前記記憶部に格納するラグランジュの乗数算出ステップと、
前記記憶部から読み出されたラグランジュの乗数によって確定された所定のリスク中立確率分布式に基づいて前記演算手段により確率分布を生成し、出力手段により出力する出力ステップと
を備えたコンピュータ演算処理方法を実行させるプログラム。
【請求項21】
所定の情報を係数として有する複数の拘束条件式に基づいてノンパラメトリック手法によりリスク中立確率分布を取得するコンピュータ装置であって、
前記所定の情報を入力する情報入力手段と、
予め記憶手段に格納されたエントロピーを最大とする所定のリスク中立確率分布式を該記憶手段から読み出して、前記複数の拘束条件式に代入し、ラグランジュの未定乗数を含む連立方程式を生成して前記記憶手段に格納する連立方程式生成手段と、
前記記憶手段から前記生成された連立方程式を読み出して、数値計算演算手段により該連立方程式の解を求め、前記ラグランジュの未定乗数の各々を確定しラグランジュの乗数として前記記憶部に格納するラグランジュの乗数算出手段と、
前記記憶部から読み出されたラグランジュの乗数によって確定された所定のリスク中立確率分布式に基づいて前記演算手段により確率分布を生成し、出力する出力手段と
を備えたことを特徴とするコンピュータ装置。
【請求項22】
前記出力手段は、前記生成された確率分布と、パラメトリック手法により得られた確率分布とを対比可能な形で出力することを特徴とする請求項21に記載のコンピュータ装置。
【請求項23】
所定の情報の入力を受け取る入力手段と、当該受け取られた所定の情報を含む演算処理要求をネットワークを介して送信する送信手段と、該演算処理要求に対する処理結果を受信して出力する出力手段とを含むクライアント端末と、
前記クライアント端末からネットワークを介して送信された演算処理要求を受信する要求受信手段と、前記演算処理で使用するデータを格納する記憶手段と、前記受信した所定の情報を係数として有する複数の拘束条件式に基づいてノンパラメトリック手法によりリスク中立確率分布をコンピュータの所定のプログラムによって取得するコンピュータ演算処理方法を実行する演算処理実行手段と、前記演算処理により得られた結果を前記クライアント端末にネットワークを介して送信する結果送信手段とを含む演算処理サーバと
を備えたことを特徴とするリスク評価システム。
【請求項24】
前記演算処理実行手段は、
予め記憶手段に格納されたエントロピーを最大とする所定のリスク中立確率分布式を該記憶手段から読み出して、前記複数の拘束条件式に代入し、ラグランジュの未定乗数を含む連立方程式を生成して前記記憶手段に格納する連立方程式生成ステップと、
前記記憶手段から前記生成された連立方程式を読み出して、数値計算演算手段により該連立方程式の解を求め、前記ラグランジュの未定乗数の各々を確定しラグランジュの乗数として前記記憶部に格納するラグランジュの乗数算出ステップと、
前記記憶部から読み出されたラグランジュの乗数によって確定された所定のリスク中立確率分布式に基づいて前記演算手段により確率分布を生成し、出力手段により出力する出力ステップと
を含む演算処理方法を実行することを特徴とする請求項23に記載のリスク評価システム。
【請求項25】
デリバティブのガンマをコンピュータの所定のプログラムによって取得するコンピュータ演算処理方法において、
予め記憶手段に格納されたエントロピーを最大とする所定のリスク中立確率分布式を該記憶手段から読み出して、所定の情報を係数として有する複数の拘束条件式に代入し、ラグランジュの未定乗数を含む連立方程式を生成して前記記憶手段に格納する連立方程式生成ステップと、
前記記憶手段から前記生成された連立方程式を読み出して、数値計算演算手段により該連立方程式の解を求め、前記ラグランジュの未定乗数の各々を確定しラグランジュの乗数として前記記憶部に格納するラグランジュの乗数算出ステップと、
前記記憶部から読み出されたラグランジュの乗数によって確定された所定のリスク中立確率分布式に基づいて前記演算手段により確率分布を生成し、当該生成されたリスク中立確率分布式を時間反転経済に応用して前記オプションのガンマを取得手段により取得する取得ステップと
を備えたことを特徴とするコンピュータ演算処理方法。
【請求項26】
オプションのガンマをコンピュータの所定のプログラムによって取得するコンピュータ演算処理方法において、
予め記憶手段に格納されたエントロピーを最大とする所定のリスク中立確率分布式を該記憶手段から読み出して、所定の情報を係数として有する複数の拘束条件式に代入し、ラグランジュの未定乗数を含む連立方程式を生成して前記記憶手段に格納する連立方程式生成ステップと、
前記記憶手段から前記生成された連立方程式を読み出して、数値計算演算手段により該連立方程式の解を求め、前記ラグランジュの未定乗数の各々を確定しラグランジュの乗数として前記記憶部に格納するラグランジュの乗数算出ステップと、
前記記憶部から読み出されたラグランジュの乗数によって確定された所定のリスク中立確率分布式に基づいて前記演算手段により確率分布を生成し、当該生成されたリスク中立確率分布式を時間反転経済に応用して前記オプションのガンマを取得手段により取得する取得ステップと
を備えたことを特徴とするコンピュータ演算処理方法。
【請求項27】
デジタルオプションのガンマをコンピュータの所定のプログラムによって取得するコンピュータ演算処理方法において、
予め記憶手段に格納されたエントロピーを最大とする所定のリスク中立確率分布式を該記憶手段から読み出して、所定の情報を係数として有する複数の拘束条件式に代入し、ラグランジュの未定乗数を含む連立方程式を生成して前記記憶手段に格納する連立方程式生成ステップと、
前記記憶手段から前記生成された連立方程式を読み出して、数値計算演算手段により該連立方程式の解を求め、前記ラグランジュの未定乗数の各々を確定しラグランジュの乗数として前記記憶部に格納するラグランジュの乗数算出ステップと、
前記記憶部から読み出されたラグランジュの乗数によって確定された所定のリスク中立確率分布式に基づいて前記演算手段により確率分布を生成し、当該生成されたリスク中立確率分布式を時間反転経済に応用して前記オプションのガンマを取得手段により取得する取得ステップと
を備えたことを特徴とするコンピュータ演算処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−350737(P2006−350737A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−176854(P2005−176854)
【出願日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【出願人】(500257300)ヤフー株式会社 (1,128)