説明

コンロッド分割装置の分割用治具

【課題】コンロッドを正しく分割できるようにするとともにコストダウンを図りながら、コンロッドを速く着脱することができるコンロッド分割用治具を提供する。
【解決手段】第1のスライダ13と第2のスライダ14を備える。これらのスライダのうち少なくとも一方を他方に対して移動可能に構成する。前記第1のスライダ13にクランクピン孔9に嵌合する第1の押圧部材23と、コンロッド小端部6のピストンピン孔7に嵌合するピン24とを設ける。前記第2のスライダ14にクランクピン孔9に嵌合する第2の押圧部材32と、コンロッド大端部8の締付座11に対向する受圧面38を設ける。この受圧面38と前記締付座11とを隙間Sをおいて対向するように形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンロッド大端部が破断によって分割されるエンジン用コンロッドを分割時に保持するコンロッド分割装置の分割用治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車用エンジンのコンロッドのように高い強度が必要なコンロッドは、鍛造によって形成されている。この種のコンロッドは、コンロッド大端部とコンロッド小端部とを有するコンロッド母材が鍛造によって形成され、前記コンロッド大端部にクランクピン孔が形成された状態では、コンロッド大端部がコンロッド本体とキャップとに分割されている。このキャップは、コンロッド本体との間にクランクピンを挟む状態でコンロッド本体に2本のキャップ固定用ボルトによって締結される。
【0003】
コンロッド大端部を上述したように分割するに当たっては、分割後にキャップをコンロッド本体に組付けたときのキャップの位置決め精度を向上させてクランクピン孔の真円度を向上させるために、破断によって行うことがある(例えば特許文献1参照)。
この破断は、コンロッド大端部のクランクピン孔に分割用治具の一対の押圧部材を嵌合させ、これらの押圧部材の間にコンロッド分割装置により楔を打ち込むことによって行っている。
【0004】
特許文献1に示された前記分割用治具は、コンロッド本体側に位置する第1の支持部材と、コンロッドのキャップ側に位置する第2の支持部材とを備えている。前記第1の支持部材は、クランクピン孔内におけるコンロッド本体側となる半部に嵌合する半割円柱状の第1の押圧部材と、コンロッド小端部の外面が係合する係合片とによってコンロッドを保持するように構成されている。また、この第1の支持部材は、支持用フレームにコンロッドの長手方向に移動自在に保持され、このフレームを介してコンロッド分割装置に取付けられている。
【0005】
前記第2の支持部材は、クランクピン孔内におけるキャップ側となる半部に嵌合する半割円柱状の第2の押圧部材と、この第2の押圧部材と協働してコンロッド大端部を挟持する油圧式クランプ装置とを備え、コンロッド分割装置に固定されている。
前記油圧式クランプ装置は、コンロッド大端部の両側部を押圧する押圧子と、これらの押圧子を駆動する油圧シリンダとから構成されている。
【0006】
このように構成された従来の分割用治具を用いてコンロッドを破断により分割するためには、先ず、前記第1および第2の押圧部材をコンロッド大端部のクランクピン孔に嵌合させることによりこの分割用治具に装着させ、コンロッド大端部を前記クランプ装置によって第2の支持部材に固定する。次に、前記第1の押圧部材と第2の押圧部材との間に楔を係合させ、この楔をコンロッド分割装置によって前記押圧部材間に打ち込む。
【0007】
前記楔が押圧部材間に圧入されることにより、コンロッド分割装置に固定されている第2の支持部材に対して第1の支持部材が離間する方向へ移動することにより、コンロッド大端部が破断によってコンロッド本体とキャップとに分割される。
なお、本出願人は、本明細書に記載した先行技術文献情報で特定される先行技術文献以外には、本発明に密接に関連する先行技術文献を出願時までに見付け出すことはできなかった。
【特許文献1】特表2001−512049号公報(第8−10頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように構成された従来の分割用治具は、コンロッド大端部を分割する度に前記クランプ装置によるコンロッド大端部の固定と開放とを行わなければならないから、コンロッド分割のサイクルタイムが長くなるという問題があった。また、前記従来の分割用治具は、油圧シリンダを使用した高価なクランプ装置が設けられているから、コンロッドを分割するための設備が高くなるという問題もあった。
【0009】
このような不具合は、クランプ装置を用いないようにすることによって、ある程度は解消することができる。しかし、コンロッド大端部のキャップ部分を保持する部材が何もないと、コンロッド大端部の二箇所の破断部分を正しく破断することが難しくなる。これは、前記二箇所の破断部分は、厳密には同時に破断することは殆どなく、一方の破断部分が先に破断した後に他方の破断部分が破断するからである。すなわち、分割時にキャップ部を第2の押圧部材によって押圧するだけであると、一方の破断部分が破断した後にこの破断部分の破断面の間隔が拡がるだけとなり、他方の破断部分を破断させることができなくなるおそれがある。このようにコンロッド大端部の一側部しか破断させることができなかったコンロッドは不良品になってしまう。
【0010】
本発明はこのような問題を解消するためになされたもので、コンロッドを正しく分割できるようにするとともにコストダウンを図りながら、コンロッドを速く着脱することができるコンロッド分割用治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的を達成するため、本発明に係るコンロッド分割装置の分割用治具は、コンロッド大端部のクランクピン孔に嵌合する一対の押圧部材を有し、これらの押圧部材の間に楔を圧入することによりコンロッド大端部を分割するコンロッド分割装置の分割用治具において、前記押圧部材のうちコンロッド小端部側に位置する一方の押圧部材をコンロッド小端部のピストンピン孔に嵌合するピンを有する第1の支持部材に設け、他方の押圧部材を前記第1の支持部材とは別体に形成された第2の支持部材に設け、これら両支持部材のうち少なくとも一方を他方に対して移動可能に構成し、前記第2の支持部材にコンロッド大端部の両側部の端面に対向する受圧面を形成し、この受圧面と前記端面とを隙間をおいて対向するように形成したものである。
【0012】
請求項2に記載した発明に係るコンロッド分割装置の分割用治具は、請求項1に記載した発明に係るコンロッド分割装置の分割用治具において、受圧面とコンロッド大端部の端面との間の隙間を約0.2mm〜0.4mmとしたものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る分割用治具は、コンロッドのクランクピン孔とピストンピン孔とに押圧部材とピンとを嵌合させることによりコンロッドを装着することができる。このため、この分割用治具は、コンロッドの装着を嵌合のみによって速やかに行うことができ、分割後にコンロッド本体とキャップとを押圧部材やピンから引き抜くことによって速やかに取外すことができる。しかも、本発明に係る分割用治具は、コンロッドを固定する部材は備えていないから、コンロッド固定用のクランプ装置を備えた従来のものに較べると構造が簡素化され、設備のコストダウンを図ることができる。
【0014】
本発明に係る分割用治具は、一対の押圧部材の間に楔が圧入されることにより、コンロッド大端部をコンロッド本体側とキャップ側に押圧する。このため、前記楔の圧入により、コンロッド大端部におけるコンロッド本体とキャップとの接続部分に引張応力が集中する。そして、楔の圧入量がさらに増大することによって、前記接続部分に亀裂が生じる。このとき、コンロッド大端部のコンロッド本体とキャップとを接続する二箇所の接続部分のうち一方のみに亀裂が形成され、この亀裂が進行するにより一方の接続部分のみが破断した場合は、楔のさらなる圧入によって、破断面の間隔が拡がるようにキャップ部分の一側部がコンロッド本体側から離間する。
【0015】
このキャップ部分の一側部のさらなる変位は、キャップ部分の端面が第2の支持部材の受圧面に当接することによって規制される。このようにキャップ部の変位が規制されることにより、楔の圧入により生じる前記引張応力をコンロッド大端部の他側部に集中させることができ、この他側部をも破断させることができる。
したがって、本発明によれば、コンロッド分割作業のサイクルタイムの短縮することができるとともに、コンロッドをコンロッド本体とキャップとに正しく破断させることができるコンロッド分割装置の分割用治具を提供することができる。
【0016】
請求項2記載の発明によれば、コンロッドを第2の支持部材に嵌合により装着するときにこの第2の支持部材の受圧面にコンロッド大端部が当たることを防ぎながら、分割時にコンロッド大端部の一側部のみが破断されることを確実に防ぐことができる。このため、前記受圧面とコンロッド大端部の端面との間の隙間が適正になるコンロッド分割装置の分割用治具を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係るコンロッド分割装置の分割用治具を図1ないし図6によって詳細に説明する。
図1は本発明に係る分割用治具とコンロッドとを示す図で、同図(a)は分割用治具にコンロッドを装着した状態を示す平面図、同図(b)は(a)図におけるB−B線断面図、同図(c)は(a)図におけるC−C線断面図である。なお、図1(c)は受圧部材の一部を省略した状態で描いてある。図2はコンロッド大端部と受圧部材の一部を拡大して示す平面図、図3は楔を係合させた分割前の状態を示す断面図、図4は分割後の分割用治具とコンロッドを示す平面図、図5は図4におけるV−V線断面図、図6は本発明に係る分割用治具の斜視図である。
【0018】
これらの図において、符号1で示すものは、この実施の形態による分割用治具を示す。この分割用治具1は、自動二輪車用エンジン(図示せず)に組付けられるコンロッド2を保持し、図示していないコンロッド分割装置に装填するためのものである。前記コンロッド分割装置は、楔3を前記分割用治具1に係合させ、この状態で楔3に荷重を加える構造のものが用いられ、コンロッド2をコンロッド本体4(図4および図5参照)とキャップ5とに分割する。前記楔3は、両面を傾斜面とする板状に形成されている。
【0019】
前記コンロッド2は、図1に示すように、コンロッド小端部6にピストンピン孔7が形成されるとともに、コンロッド大端部8にクランクピン孔9と二つのボルト挿通孔10,10とが形成されている。これらの孔は、いずれも予め定めた精度となるように機械加工によって形成されている。前記ボルト挿通孔10は、コンロッド2を分割した後にコンロッド本体4にキャップ5を組付けるためのボルト(図示せず)を挿通させるためのもので、コンロッド大端部8にキャップ5側から孔開け加工を施すことによって形成されている。
【0020】
このコンロッド大端部8における前記ボルト挿通孔10が開口する端部には、所定の位置に所定の精度となるように機械加工によって締付座11{図1(c)参照}が形成されている。この締付座11によって本発明でいうコンロッド大端部の端面が構成されている。また、前記コンロッド2は、ピストンピン孔7やクランクピン孔9などの孔加工後に表面の全域に浸炭処理が施されており、分割時の荷重を低減させるために予め−80℃〜−100℃に冷却された状態で分割用治具1に装着されている。
【0021】
前記分割用治具1は、図1および図6に示すように、ベースプレート12と、このベースプレート12に移動自在に支持された第1のスライダ13および第2のスライダ14とによって構成されている。前記第1のスライダ13によって本発明でいう第1の支持部材が構成され、前記第2のスライダ14によって本発明でいう第2の支持部材が構成されている。
【0022】
前記ベースプレート12は、コンロッド2の長手方向に長くなる板状に形成され、第1および第2のスライダ13,14が移動自在に嵌合する凹部15が形成されている。この凹部15は、コンロッド2の長手方向に延びるように形成されている。この凹部15内には、前記第1のスライダ13の移動を規制するための第1のストッパー16と、第2のスライダ14の移動を規制するための第2のストッパー17とが設けられている。
【0023】
さらに、このベースプレート12の両側部には、コンロッド装着時に第1のスライダ13と第2のスライダ14とを適正な間隔をおいて離間させるためのスペーサ18と、第1および第2のスライダ13,14を前記凹部15内に保持するプレート19とが設けられている。前記スペーサ18は、前記凹部15の底に両側から臨むように設けられ、前記プレート19は、第1および第2のスライダ13,14の両側部に形成された段部21,21に係合している。
【0024】
前記第1のスライダ13と第2のスライダ14は、それぞれ工具鋼などの硬度が高い金属材料によって形成されている。前記第1のスライダ13は、前記ベースプレート12の凹部15内に移動自在に嵌合された板状のスライダ本体22と、このスライダ本体22の上に突設された第1の押圧部材23とピン24とから構成されている。
前記スライダ本体22は、図1(a)に示すように、コンロッド小端部6側に位置する一端部に前記第1のストッパー16と対向する当接面22aが形成されている。
【0025】
前記第1の押圧部材23は、図6に示すように、コンロッド大端部8のクランクピン孔9に嵌合する半割円柱状に成形されており、平坦な側面25が第2のスライダ14側を指向するように前記スライダ本体22に一体に形成されている。
この第1の押圧部材23におけるクランクピン孔9に嵌合する外周部の上端角部には、コンロッド装着時にこの第1の押圧部材23がクランクピン孔9内に入り易くなるように、面取加工によって傾斜面26{図1(b)参照}が形成されている。
【0026】
この第1の押圧部材23の前記側面25は、下端部が前記スライダ本体22の一端面と同一平面上に位置するように形成されている。また、この側面25の上部は、上方に向かうにしたがって漸次コンロッド小端部6に接近するように傾斜されている。この傾斜部分25aは、図1(b)および図3に示すように、前記楔3の一方の傾斜面3aと平行になるように形成されている。
【0027】
前記ピン24は、スライダ本体22に一体に形成され、図1(a)に示すように、前記ピストンピン孔7に嵌合する二つの突片24aが設けられている。これらの突片24aは、コンロッド2が第1のスライダ13に対して分割部分から離間する方向{図1(a)では右側}に移動することを規制している。
【0028】
前記第2のスライダ14は、前記ベースプレート12の凹部15内に移動自在に嵌合された板状のスライダ本体31と、このスライダ本体31の上に突設された第2の押圧部材32と受圧部材33とから構成されている。
前記スライダ本体31は、図1(a)に示すように、第1のスライダ13とは反対側の端部が前記第2のストッパー17と対向するように形成されている。このスライダ本体31と前記第1のスライダ13のスライダ本体22の移動方向の長さは、図1(a)に示すように、両スライダ本体22,31の互いに対向する一端面をそれぞれ前記スペーサ18に当接させた状態(前記一端面間の間隔が最小になる状態)で、他端面と第1または第2のストッパー16,17とが移動代D1,D2をおいて離間するように形成されている。このため、第1のスライダ13と第2のスライダ14は、ベースプレート12に対して前記移動代D1,D2だけコンロッド2の長手方向に移動可能になる。
【0029】
前記第2の押圧部材32は、図6に示すように、コンロッド大端部8のクランクピン孔9に嵌合する半割円柱状に成形されており、平坦な側面34が第1のスライダ13側を指向するように前記スライダ本体31に一体に形成されている。
この第2の押圧部材32におけるクランクピン孔9に嵌合する外周部の上端角部には、コンロッド装着時にこの第2の押圧部材32がクランクピン孔9内に入り易くなるように、面取加工によって傾斜面35{図1(b)参照}が形成されている。
【0030】
この第2の押圧部材32の前記側面34は、下端部が前記スライダ本体31の一端面と同一平面上に位置するように形成されている。また、この側面34の上部は、上方に向かうにしたがって漸次コンロッド小端部6から離間するように傾斜されている。この傾斜部分34aは、図1(b)および図3に示すように、前記楔3の他方の傾斜面3bと平行になるように形成されている。この第2の押圧部材32と前記第1の押圧部材23は、図1(a)に示すように、それぞれクランクピン孔9に嵌合した状態で前記側面25,34が楔挿入用空間36を隔てて離間するように形成されている。
【0031】
この楔挿入用空間36の幅(コンロッド2の長手方向の長さ)は、前記ベースプレート12に設けられた前記スペーサ18によって所定値となるように設定されている。すなわち、この分割用治具1においては、このスペーサ18に前記スライダ本体22,31を当接させることによって、第1および第2の押圧部材23,32の間に適正な幅の楔挿入用空間36が形成され、第1および第2の押圧部材23,32が正しくクランクピン孔9に嵌合するようになる。
【0032】
前記受圧部材33は、前記第2の押圧部材32との間にコンロッド大端部8のキャップ部分8aを挿入することができる位置に設けられており、前記スライダ本体31に一体に形成されている。この受圧部材33には、コンロッド2側へ突出する二つの受圧用凸部37,37が設けられている。
これらの凸部37の突出側端部には、コンロッド大端部8の両側部に形成された前記締付座11と対向する受圧面38(図2参照)が形成されている。この受圧面38は、図2に示すように、前記締付座11と平行になるとともに、この締付座11に隙間Sをおいて対向するように形成されている。この隙間Sは、この実施の形態では0.2mm〜0.4mmとなるように形成されている。このように隙間Sの大きさを設定した理由は、隙間Sが0.1mm以下になると、コンロッド大端部8が製造誤差によって相対的に大きく形成された場合、コンロッド大端部8をに第2の押圧部材32と受圧部材33との間に挿入することが難しくなるからである。また、前記隙間Sを0.5mm以上に設定した場合は、分割時にコンロッド大端部の一側部のみが破断し、他側部が破断されず不良品となってしまうからである。
【0033】
この隙間Sは、分割用治具1に別のコンロッドが装着された場合であっても、コンロッドの種類が同一であれば全てのコンロッドにおいて一致させることができる。これは、コンロッド2と第1および第2のスライダ13,14との位置決めがクランクピン孔9とピストンピン孔7とを用いて行われ、前記締付座11が機械加工によって所定の精度となるように形成されているからである。すなわち、前記隙間Sの大きさは、前記機械加工時の精度に対応する精度に形成されるからである。前記締付座11によって本発明でいうコンロッド大端部の両側部の端面が構成されている。また、この実施の形態による前記凸部37の上端角部には、コンロッド装着時にコンロッド大端部8が凸部37と第2の押圧部材32との間に入り易くなるように、面取加工によって傾斜面37aが形成されている。
【0034】
上述したように構成された分割用治具1は、図示していないコンロッド分割装置に取付けられた状態でコンロッド2が装着される。なお、この準備作業は、分割用治具1にコンロッド2を装着した後に分割用治具1をコンロッド分割装置に装填することによって行うこともできる。前記分割用治具1にコンロッド2を装着するためには、先ず、第1のスライダ13と第2のスライダ14とをベースプレート12上で平行移動させてこれら両者のスライダ本体22,31をそれぞれ前記スペーサ18に当接させる。
【0035】
次に、クランクピン孔9に第1および第2の押圧部材23,32を嵌合させるとともに、ピストンピン孔7に第1のスライダ13のピン24を嵌合させ、コンロッド2を第1および第2のスライダ13,14に載置する。このように第1および第2のスライダ13,14にコンロッド2を装着することによって、前記受圧部材33の受圧面38とコンロッド大端部8の前記締付座11とが隙間Sをおいて対向する。
【0036】
このようにコンロッド2が装填されたコンロッド分割装置は、図3に示すように、楔3を第1および第2の押圧部材23,32の間に挿入し、楔3の傾斜面3a,3bを両押圧部材23,32の側面25,34に接触させる。その後、コンロッド分割装置は、上述した状態で楔3に上方から荷重を加え、第1および第2の押圧部材23,32の間に楔3を圧入させる。この楔3の圧入により、前記両押圧部材23,32は、コンロッド大端部8をコンロッド本体4側とキャップ5側とに押圧する。この結果、コンロッド大端部8のコンロッド本体4とキャップ5との接続部分に引張応力が集中し、楔3がさらに進むことによって前記接続部分に亀裂が生じる。
【0037】
このとき、コンロッド大端部8のコンロッド本体4とキャップ5とを接続する二箇所の接続部分のうち一方のみに亀裂が形成され、この亀裂が進行するにより一方の接続部分のみが破断した場合は、楔3のさらなる圧入によって、破断面の間隔が拡がるようにキャップ部分8aの一側部がコンロッド本体4側から離間する。
このキャップ部分8aの一側部のさらなる変位は、キャップ部分8aの端面となる前記締付座11が受圧部材33の受圧面38に当接することによって規制される。このようにキャップ部分8aの変位が規制されることにより、楔3の圧入により生じる前記引張応力をコンロッド大端部8の他側部に集中させることができ、この他側部をも破断することができる。
【0038】
上述したように前記二箇所の接続部分が破断されてコンロッド2がコンロッド本体4とキャップ5とに分割された後、さらに楔3が進むことによって、図4および図5に示すように、コンロッド本体4を支持する第1のスライダ13と、キャップ5を支持する第2のスライダ14が互いに離間する方向に前記移動代D1,D2だけ移動する。楔3による押圧が終了した後、コンロッド分割装置は楔3を上昇させる。
【0039】
このように分割されたコンロッド本体4とキャップ5は、第1および第2の押圧部材23,32とピン24とが嵌合した状態で第1および第2のスライダ13,14に支持されているから、分割用治具1から上方に容易に取外すことができる。すなわち、工具を使用したり特別な操作を行うことなく、コンロッド本体4とキャップ5とを分割用治具1から上方に容易に取外すことができる。
【0040】
したがって、この実施の形態による分割用治具1は、コンロッド2の装着を嵌合のみによって速やかに行うことができ、分割後にコンロッド本体4とキャップ5とを第1および第2の押圧部材23,32やピン24から引き抜くことによって速やかに取外すことができる。また、この実施の形態による分割用治具1は、分割時にコンロッド大端部8の一側部のみが破断されることを第2のスライダ14の受圧部材33によって防ぐことができるから、コンロッド大端部8をクランプ装置などによって保持するものではないにもかかわらず、コンロッド2をコンロッド本体4とキャップ5とに正しく破断させることができる。
【0041】
この実施の形態による分割用治具1は、受圧部材33の受圧面38とコンロッド大端部8の締付座11との隙間Sが0.2mm〜0.4mmに設定されているから、コンロッド2を第2のスライダ14に嵌合により装着するときに受圧部材33の受圧面38にコンロッド大端部8が当たることを防ぎながら、分割時にコンロッド大端部8の一側部のみが破断されることを確実に防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係る分割用治具とコンロッドとを示す図である。
【図2】コンロッド大端部と受圧部材の一部を拡大して示す平面図である。
【図3】楔を係合させた分割前の状態を示す断面図である。
【図4】分割後の分割用治具とコンロッドを示す平面図である。
【図5】図4におけるV−V線断面図である。
【図6】本発明に係る分割用治具の斜視図である。
【符号の説明】
【0043】
1…分割用治具、2…コンロッド、3…楔、4…コンロッド本体、5…キャップ、6…コンロッド小端部、7…ピストンピン孔、8…コンロッド大端部、9…クランクピン孔、11…締付座、12…ベースプレート、13…第1のスライダ、14…第2のスライダ、23…第1の押圧部材、24…ピン、32…第2の押圧部材、33…受圧部材、37…凸部、38…受圧面、S…隙間。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンロッド大端部のクランクピン孔に嵌合する一対の押圧部材を有し、これらの押圧部材の間に楔を圧入することによりコンロッド大端部を分割するコンロッド分割装置の分割用治具において、前記押圧部材のうちコンロッド小端部側に位置する一方の押圧部材をコンロッド小端部のピストンピン孔に嵌合するピンを有する第1の支持部材に設け、他方の押圧部材を前記第1の支持部材とは別体に形成された第2の支持部材に設け、これら両支持部材のうち少なくとも一方を他方に対して移動可能に構成し、前記第2の支持部材にコンロッド大端部の両側部の端面に対向する受圧面を形成し、この受圧面と前記端面とを隙間をおいて対向するように形成したことを特徴とするコンロッド分割装置の分割用治具。
【請求項2】
請求項1記載のコンロッド分割装置の分割用治具において、受圧面とコンロッド大端部の端面との間の隙間を約0.2mm〜0.4mmとしてなるコンロッド分割装置の分割用治具。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−46511(P2006−46511A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−229043(P2004−229043)
【出願日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)