説明

コーティング層の形成方法及びコーティング成形物

【課題】 高温下における防汚染性に優れ、簡単かつ低コストでコーティング層を形成することのできる方法を提供する。
【解決手段】 基材1の表面にコーティング層2を形成する方法において、ポリシラザンとアクリル系樹脂とを含有するコーティング液を、前記ポリシラザンと前記アクリル系樹脂との混合割合を変えて複数種類準備し、前記アクリル系樹脂の混合割合が高い前記コーティング液から順に、前記複数種類のコーティング液を取り替えつつ、前記基材の表面に複数回塗り重ねて、前記コーティング層を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として樹脂基材の表面にコーティング層を形成する方法及びコーティング層を形成したコーティング成形物に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂基材等の基材の表面に、汚染防止等を目的としたコーティング層を形成する方法及びコーティング成形物として、従来から種々のものが公知又は提案されている(例えば特許文献1〜4参照)。
【特許文献1】特開平7−305029号公報
【特許文献2】特開2000−73012号公報
【特許文献3】特開2002−105676号公報
【特許文献4】特開2003−347294号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記したような従来のコーティング層の形成方法及びコーティング成形物は、接触する媒体が室温程度の比較的低温物の場合には優れた防汚染性を発揮するものの、高温の媒体に長時間接触していると、当該媒体が染みとなって長期間残存し、基材の外観を著しく低下させるという問題がある。この種の問題としては、例えば、食器のカレー染みや浴槽の黄ばみ等を挙げることができる、
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたもので、高温下における防汚染性に優れ、簡単かつ低コストでコーティング層を形成することのできる方法及び残存汚染が生じにくいコーティング成形物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の目的を達成するために請求項1に記載の発明は、基材の表面にコーティング層を形成する方法において、ポリシラザンとアクリル系樹脂とを含有するコーティング液を、前記ポリシラザンと前記アクリル系樹脂との混合割合を変えて複数種類準備し、前記アクリル系樹脂の混合割合が高い前記コーティング液から順に、前記複数種類のコーティング液を取り替えつつ、前記基材の表面に複数回塗り重ねて、前記コーティング層を形成した方法である。
なお、本発明においてコーティング液を塗布する形態として種々のものを採用することができる。例えば、刷毛による手塗り、機械による機械塗りの他、静電塗装やスプレーやスパッタによる吹きつけによる方法も可能である。
【0005】
請求項2に記載するように、前記アクリル系樹脂を含み前記ポリシラザンを含まない第二コーティング液と、前記ポリシラザンを含み前記アクリル系樹脂を含まない第三コーティング液とをさらに準備し、前記基材の表面に前記第二コーティング液を塗布した後に、前記コーティング液を一回又は複数回塗り重ね、最後に前記第三コーティング液を塗り重ねるようにしてもよい。
この方法によって得られるコーティング成形物は、基材の表面側でコーティングがアクリル系樹脂を含みポリシラザンを含まない組成で、コーティング層の表面でポリシラザンを含みアクリル系樹脂を含まない組成である。
【0006】
また、請求項3に記載するように、先に塗布した前記コーティング液又は前記第二コーティング液が半乾燥状態のときに、次のコーティング液を塗り重ねるようにしてもよい。
このようにすることで、コーティング層の組成変化を直線状又はなだらかな曲線状のものに近づけることができる。
さらに、請求項4に記載するように、前記コーティング液,前記第二コーティング液又は前記第三コーティング液を塗布する工程において、各塗布工程の少なくとも一つが、塗布後の焼成工程を有していてもよい。例えば、コーティング液を塗布し、コーティング液が乾燥した後に、オーブン等に基材を投入して、所定の温度で焼成するようにしてもよいし、コーティング液の塗布を何回か繰り返した後に、焼成を行うようにしてもよい。
なお、本発明においては、前記複数のコーティング液,前記第二コーティング液及び前記第三コーティング液のうちの少なくとも一つが、シリカナノ粒子を含んでいてもよい。
【0007】
本発明の別の方法は、請求項5に記載するように、基材の表面にコーティング層を形成する方法において、(i) ポリシラザンを含有しないアクリル系樹脂コーティング液とアクリル系樹脂を含有しないポリシラザン含有コーティング液とを準備し、(ii) 前記アクリル系樹脂コーティング液を前記基材の表面に塗布し、
(iii) 前記アクリル系樹脂コーティング液を塗布した直後又は前記アクリル系樹脂コーティング液が乾燥する前に、前記ポリシラザン含有コーティング液を前記アクリル系樹脂コーティング液の上に塗り重ね、(iv) 前記ポリシラザン含有コーティング液を塗布した直後又は前記ポリシラザン含有コーティング液が乾燥する前に、前記アクリル系樹脂コーティング液の濃度を低くして前記ポリシラザン含有コーティング液の上に塗り重ね、(v) 前記アクリル系樹脂コーティング液を塗布した直後又は前記アクリル系樹脂コーティング液が乾燥する前に、前記ポリシラザン含有コーティング液の濃度を高くして前記アクリル系樹脂コーティング液の上に塗り重ね、(vi) 前記(iv)及び(v)の工程を、上層に向かうに従って前記アクリル系樹脂コーティング液の濃度を低くしつつ、前記ポリシラザン含有コーティング液の濃度を高くしながら一回又は複数回繰り返し、最後に、前記ポリシラザン含有コーティング液を塗布した方法である。
【0008】
(i)〜(vi)の工程を一回行った後、最後に前記ポリシラザン含有コーティング液を塗布するようにしてもよいし、(i)〜(vi)の工程を一回行った後にさらに(iv)及び(v)の工程を一回又は複数回繰り返し、最後に前記ポリシラザン含有コーティング液を塗布するようにしてもよい。
この場合、ポリシラザン含有コーティング液及び前記アクリル系樹脂コーティング液のうちの少なくとも一つが、シリカナノ粒子を含むものであってもよい。
また、この方法においても、請求項6に記載するように、前記アクリル系樹脂コーティング液を塗布した後に前記ポリシラザン含有コーティング液を塗布する工程において、各塗布工程の少なくとも一つが、塗布後の焼成工程を有するものであってもよい。
本発明の方法により基材の表面に形成するコーティング層は、コーティング成形物の用途とその使用環境に応じて適切な組成のものを用いる。例えば、コーティング成形物が食器の場合には、請求項7に記載するように、前記コーティング液におけるポリシラザンとアクリル系樹脂との比率(wt%比)が1.2〜2.0(1.2以上2.0以下、この明細書において数値範囲を表す「〜」の解釈については以下同じ)の範囲内のものを準備してコーティング層の下層部分を形成し、同0.66〜1.6の範囲内のものを準備してコーティング層の中層部分を形成し、同0.4〜0.66の範囲内のものを準備してコーティング層の上層部分を形成する前記コーティング液におけるポリシラザンに対するアクリル系樹脂の比率は、コーティング層の下層部分で1.2〜2.0の範囲内、同中層部分で0.66〜1.6の範囲内、同上層部分で0.4〜0.66の範囲内とするのが好ましい。
【0009】
本発明の成形物は、請求項8に記載するように、基材の表面にコーティング層を形成したコーティング成形物であって、前記基材の表面からコーティング層の表面に至るまでに、ポリシラザンとアクリル系樹脂との混合割合が徐々に変化する構成としてある。
この場合、請求項9に記載するように、前記基材の表面では前記コーティング層がポリシラザンを含まず、前記コーティング層の表面では前記コーティング層が前記アクリル系樹脂を含まないように構成してもよい。
前記コーティング液におけるポリシラザンに対するアクリル系樹脂の比率(wt%比)は、コーティング成形物の用途と使用環境に応じて適切なものを選択する。例えば、コーティング成形物が食器である場合は、コーティング層の下層部分で1.2〜2.0の範囲内、同中層部分で0.66〜1.6の範囲内、同上層部分で0.4〜0.66(wt%)の範囲内とするのが好ましい。
なお、本発明のコーティング成形物の概念を、図1に示す。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高温下において防汚染性に優れるコーティング層の形成方法及びコーティング成形物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の造形方法の好適な実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
[基材]
本発明を適用することができる基材は、主として樹脂基材である。
本発明が適用される樹脂基材としては、全体が樹脂で成形された樹脂成形体の他、表面を樹脂被覆したガラス(セラミック)や金属,木材等の基材からなる樹脂被覆成形体を挙げることができる。これら成形体としては、例えば、浴室回りで使用される浴槽、浴槽用エプロン、浴室壁(浴室用壁)、浴室カウンター、洗い場(防水パン)、洗面カウンター、洗面ボウル、キッチン回りで使用されるキッチンカウンター、(側板パネル、底板パネル、背板パネル等の)キッチンキャビネット用パネル部材、食器、壁材及び床材又は食器洗浄器、サニタリー用品、自動車部品等の広範な分野の成形体が含まれる。
【0012】
[ポリシラザン]
ポリシラザンとしては、公知又は市販の種々のものを用いることができる。
例えば特開平7−305029号公報で開示されているものとして、主として一般式(I)
【0013】
【数1】

(但し、R1 ,R2 ,R3 はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、またはこれらの基以外でケイ素に直結する基が炭素である基、アルキルシリル基、アルキルアミノ基、アルコキシ基を表わす。ただし、R1 ,R2 ,R3 のうち少なくとも1つは水素原子である。)で表わされる単位からなる主骨格を有する数平均分子量が100〜5万のポリシラザンを挙げることができる。
また、例えば、特開2000−073012号公報に記載されているものとして、
【0014】
【数2】

【0015】
【数3】

【0016】
【数4】

上記一般式(1)で表されるシラザン構造を分子鎖中に含有する数平均分子量が100〜100,000のアミン残基含有ポリシラザン、上記一般式(2)で表されるシラザン構造を有するポリシラザン、上記一般式(3)で表されるシラザン構造を有するポリシラザンを挙げることができる。
上記のポリシラザンを溶解した溶液としては、市販のもの、例えばAZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製のアクアミカ(登録商標)、NL110Aシリーズを用いることができる。
【0017】
[アクリル系樹脂]
アクリル系樹脂としては、公知又は市販のものを用いることができる。例えば、上記の特開平7−305029号公報には、アクリル系樹脂として、アクリル酸エステル(アルコール残基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基、フェニルエチル基等を例示できる);メタクリル酸エステル(アルコール残基は上記と同じ);2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等の如きヒドロキシ含有モノマー;アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N,N−ジメチロールアクリルアミド、N−メトキシメチルアクリルアミド、N−メトキシメチルメタクリルアミド、N−フェニルアクリルアミド等の如きアミド基含有モノマー;N,N−ジエチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート等の如きアミノ基含有モノマー;グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル等の如きエポキシ基含有モノマー;スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、及びそれらの塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等)等の如きスルホン酸基又はその塩を含有するモノマー;クロトン酸、イタコン酸、アクリル酸、マレイン酸、フマール酸、及びそれらの塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等)等の如きカルボキシル基又はその塩を含有するモノマー;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の無水物を含有するモノマー;その他ビニルイソシアネート、アリルイソシアネート、スチレン、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルトリスアルコキシシラン、アルキルマレイン酸モノエステル、アルキルフマール酸モノエステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アルキルイタコン酸モノエステル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、塩化ビニル等の単量体の組合せからつくられたものが例示されている。市販のものとしては、例えば、三菱レーヨン製BR71,BR80を用いることができる。
なお、本発明では、UV(紫外線)硬化型のアクリル系樹脂を用いてもよい。
【0018】
[コーティング液]
ポリシラザン及びアクリル系樹脂を溶解できる溶剤としては、キシレンやトルエンを挙げることができる。
ポリシラザン及びアクリル系樹脂をそれぞれ前記溶剤に溶かした溶液を作り、この溶液を適宜の割合で混合させて、混合割合の異なる複数種類のコーティング液を作る。または、予め所定の混合割合で、溶剤中にポリシラザン及びアクリル系樹脂を溶解し、異なる混合割合で複数のコーティング液を作るようにしてもよい。
この実施形態では、ポリシラザンを含まずアクリル系樹脂を含むアクリル系樹脂含有コーティング液(第二コーティング液)と、アクリル系樹脂を含まずポリシラザンを含むポリシラザン含有コーティング液(第三コーティング液)の二種類を準備し、これらを適当な混合割合で混ぜ合わせてポリシラザン及びアクリル系樹脂の双方を含むコーティング液を作る。このコーティング液に含まれるポリシラザンの量は、3〜15wt%の範囲内とするのが好ましい。また、このコーティング液に含まれるアクリル系樹脂の量は、15〜3wt%の範囲内とするのが好ましい。
コーティング液に含まれるポリシラザン及びアクリル系樹脂の混合割合の変化例を以下の表1に示す
【0019】
【表1】

【0020】
[充填剤]
本発明においては、必須ではないが、必要に応じて適当な充填剤を加えてもよい。充填剤の例としてはシリカ、アルミナ、ジルコニア、マイカを始めとする酸化物系無機物あるいは炭化珪素、窒化珪素等の非酸化物系無機物の微粉等が挙げられる。また用途によってはアルミニウム、亜鉛、銅等の金属粉末の添加も可能である。さらに充填剤の例を詳しく述べれば、ケイ砂、石英、ノバキュライト、ケイ藻土などのシリカ系:合成無定形シリカ:カオリナイト、雲母、滑石、ウオラストナイト、アスベスト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等のケイ酸塩:ガラス粉末、ガラス球、中空ガラス球、ガラスフレーク、泡ガラス球等のガラス体:窒化ホウ素、炭化ホウ素、窒化アルミニウム、炭化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ホウ化チタン、窒化チタン、炭化チタン等の非酸化物系無機物:炭酸カルシウム:酸化亜鉛、アルミナ、マグネシア、酸化チタン、酸化ベリリウム等の金属酸化物:硫酸バリウム、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、弗化炭素その他無機物:アルミニウム、ブロンズ、鉛、ステンレススチール、亜鉛等の金属粉末:カーボンブラック、コークス、黒鉛、熱分解炭素、中空カーボン球等のカーボン体等があげられる。また、適宜に色素を添加してもよい。
【0021】
[シリカナノ粒子]
充填剤としてシリカナノ粒子を添加することの利点としては、ポリシラザンがSiOに転化するときの体積収縮を抑制する点が挙げられる。
シリカナノ粒子としては、平均粒径nm〜50nmの範囲内のものを用いることができる。また、溶媒可溶性シリカナノ粒子を、トルエン等の溶媒に溶解させたものが、公知又は市販されている。
【0022】
[コーティング層形成の第一の実施形態]
上記の表1のNo1〜No3に示したように、ポリシラザンとアクリル系樹脂とを含み、その混合割合を変化させたコーティング液を複数準備する。
そして、脱脂の前処理を施した基材の表面に、アクリル系樹脂の混合濃度の高いものから順に塗布していく。例えば、上記の表1のようなコーティング液では、No1,No2,No3の順で塗布していくわけである。
塗布したコーティング液が完全に乾燥するごとに次のコーティング液を塗り重ねるようにしてもよいが、塗布したコーティング液が半乾きの状態のときに次のコーティング液を塗布するようにしてもよい。
前者のように塗り重ねることで、コーティング層を形成するコーティング組成(アクリル系樹脂とポリシラザンとの組成割合)が、基材側から階段状に変化することになる。
後者のように半乾き状態で塗り重ねることで、二種類のコーティング液が境界面付近で混ざり合って、コーティング層における前記組成割合の変化をほぼ直線状又はなだらかな曲線状に近づけることができる。
予定された全てのコーティング液を塗布し終えた後、例えば室温下で一定時間放置して自然乾燥させ、コーティング層を完成させる。
【0023】
[コーティング層形成の第二の実施形態]
ポリシラザンとアクリル系樹脂とを所定の混合割合で含む一種類のコーティング液又は上記表1のNo1〜No3のように、ポリシラザンとアクリル系樹脂とを含み、その混合割合を変化させた複数のコーティング液を準備する。さらに、アクリル系樹脂を含みポリシラザンを含まないアクリル系樹脂含有コーティング液(第二コーティング液)と、ポリシラザンを含みアクリル系樹脂を含まないポリシラザン含有コーティング液(第三コーティング液)とを準備する。
そして、脱脂等の前処理を施した基材の表面に、第二コーティング液を塗布し、次いで、ポリシラザン及びアクリル系樹脂の双方を含むコーティング液を塗布する。複数のコーティング液を数回塗り重ねる場合は、先の実施形態と同様に、アクリル系樹脂の混合濃度の高いものから順に塗布していく。
最後に、第三コーティング液を塗布する。この後、例えば室温下で自然乾燥させ、コーティング層を完成させる。この実施形態でも、塗布したコーティング液が完全に乾燥するごとに次のコーティング液を塗り重ねるようにしてもよいし、塗布したコーティング液が半乾きの状態のときに次のコーティング液を塗布するようにしてもよい。
この実施形態では、コーティング層の一番下のコーティング組成はポリシラザンを含まず、最上層のコーティング組成はアクリル系樹脂を含まない。
【0024】
[コーティング層形成の第三の実施形態]
この実施形態において準備するコーティング液は、濃度の異なる複数のポリシラザン含有コーティング液と、濃度の異なる複数のアクリル樹脂含有コーティング液である。そして、複数の前記アクリル樹脂含有コーティング液のうち、最も濃度の高い前記アクリル樹脂コーティング液を前記基材の表面に塗布した後、このアクリル樹脂コーティング液が乾燥する前に、つまり半乾きの状態のときに、複数の前記ポリシラザン含有コーティング液のうち、最も濃度の低い前記ポリシラザン含有コーティング液を塗り重ねる。
この後、半乾き状態のときに、最初に塗布したアクリル樹脂コーティング液よりも低い濃度のアクリル樹脂コーティング液を塗布し、最初に塗布したポリシラザン含有コーティング液よりも高い濃度のポリシラザン含有コーティング液を塗布する。このように、アクリル樹脂コーティング液とポリシラザン含有コーティング液の濃度を変えながら、アクリル樹脂コーティング液と前記ポリシラザン含有コーティング液とを交互に塗り重ねる。最後に塗布するのは、最も濃度の高いポリシラザン含有コーティング液である。この後、例えば室温下で自然乾燥させ、コーティング層を完成させる。
この実施形態では、コーティング層の一番下のコーティング組成はポリシラザンをほとんど含まず、最上層のコーティング組成はアクリル系樹脂をほとんど含まない。
なお、上記の第一〜第三の実施形態において、適宜に色素を加えたコーティング液を用いて、コーティング成形品を着色することも可能である。
【0025】
[焼成]
上記の手順でコーティング層を完成させた基材は、必要に応じて、オーブン等で焼成を行う。
また、コーティング層形成の途中において、焼成を一回又は複数回行うようにしてもよい。この場合、コーティング液を塗布するごとに乾燥させ、基材をオーブンに入れて焼成を行うようにしてもよい。また、コーティング液を複数回塗布した後に乾燥を行って基材をオーブンに入れ、焼成を行うようにしてもよい。
【0026】
上記工程を経て形成されたコーティング成形物の概念図を図1に示す。図1において左側が基材及びコーティング層の構成図(部分)、右側がアクリル系樹脂とポリシラザンとの濃度割合の理想的な変化を示すグラフである。図示するように、基材1の表面に近づくほどアクリル系樹脂の濃度割合が高くなり、コーティング層2の表面に近づくほどポリシラザンの濃度割合が高くなる。
【0027】
[実施例1]
上記実施形態に基づいて、本発明のコーティング成形物を製造した。
(1) 基材
食器等に用いられるPBT(ポリブチレンテレフタレート)樹脂で、長さ4cm、幅2cm,厚さ3mmの試験片を形成した。
(2) コーティング液
(i) コーティング液
AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製アクアミカ(登録商標)、NL110A−20(アクリル系樹脂含を含まずポリシラザンを20wt%含むもの)をベースとして、ポリシラザン含有量5wt%、アクリル系樹脂含有量4wt%のものを準備した。
(ii) 第二コーティング液
キシレンを溶媒とし、ポリシラザンを含まずアクリル系樹脂を含有するコーティング液(三菱レーヨン製BR71(商品名))をベースとして、アクリル系樹脂含有量5wt%、ポリシラザン含有量0%のものを準備した。
(iii) 第三コーティング液
AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製アクアミカ(登録商標)、NL110A−20をベースとして、アクリル系樹脂を含まずポリシラザンを含有するコーティング液(ポリシラザン含有量5wt%、アクリル系樹脂含有量0%)を準備した。
この実施例における(i)のコーティング液を「No2」、(ii)の第二コーティング液を「No1」、(iii)の第三コーティング液を「No3」として、ポリシラザンとアクリル系樹脂の混合比率を以下の表に示す。
【0028】
【表2】


(3) 塗布
第二の実施形態と同様に、脱脂の前処理を施した基材の表面に、(ii)の第二コーティング液(No1)を塗布し、半乾き状態のときに、ポリシラザン及びアクリル系樹脂の双方を含む(i)のコーティング液(No2)を塗布する。最後に、コーティング液が半乾き状態のときに、(iii)の第三コーティング液(No3)を塗布した。
(4) 乾燥及び焼成
室温下で数時間放置して自然乾燥させ、コーティング層を完成させた。コーティング層の組成は、基材の表面近くではポリシラザンをほとんど含まず、コーティング層の表面近くではアクリル系樹脂をほとんど含まないものである。この後、基材をオーブンに入れ、170℃30分で焼成し、常温で三週間放置してガラス転化した。
(5) 結果
当該試験片の上にカレーを載せ、室温、80℃、120℃、150℃で30分放置し、カレーを洗い落とした後に試験片の表面に汚れ(染み)が残存するか否かを調べた。
その結果を以下の表3に示す。なお、比較例は、本発明のコーティング層を形成しない同一材質の試験片である。
【0029】
【表3】

比較結果からわかるように、本発明のコーティング層を形成することで、120℃以下では、残存汚れの発生を効果的に防止することができた。
【0030】
[実施例2]
出願人は、上記実施形態に基づいて、さらに詳細な実験を行い、150℃程度まで残存汚れが生じないコーティング成形物の溶液を検討した。
(1) 三菱レーヨン社製アクリル樹脂BR−80をキシレンに溶解し、10wt%溶液とした。次に、AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製のポリシラザン(NL110A-10)の10wt%キシレン溶液と、前記のBR−80の10wt%キシレン溶液とを、下記の比率となるようにスターラーで混合し、コーティング液とした。
[溶液1]PHPS:BR80=5:10(wt%)、
[溶液2]PHPS:BR80=5:8(wt%)、
[溶液3]PHPS:BR80=5:6(wt%)、
[溶液4]PHPS:BR80=5:4(wt%)、
[溶液5]PHPS:BR80=5:2(wt%)、
白色のアクリルウレタン樹脂コーティング(ポリシラザン含まず)を表面にスプレーコーティングし、130℃で60分加熱乾燥した80×40×3mmのPBT樹脂プレートを準備した。そして、上記コーティング液を用い、自動引き上げ装置を使用して、引き上げ速度1mm/secにてディップコーティングを行なった。その後、室温で10分間乾燥した。次に170℃で1時間焼付し、上記溶液ごとに、無色透明なセラミック/アクリル樹脂系塗膜を形成した5種類の第一の試験片を得た。
それぞれの第一の試験片の上に、カレールー(ヱスビ−食品株式会社製「ゴールデンカレー」(登録商標))を水で溶解したものを数滴垂らし、150℃で30分間オーブン加熱した。そして、塗膜のクラックの発現を100倍マイクロスコープにて観察した。
その結果を以下の表4に示す。
【0031】
【表4】

【0032】
(2) 次に、三菱レーヨン社製アクリル樹脂BR−80の10wt%キシレン溶液と、AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製のポリシラザン(NL110A-5)の5wt%キシレン溶液とを、下記の比率となるようにスターラーで混合し、コーティング液とした。
[溶液6]PHPS:BR80=5:8(wt%)、
[溶液7]PHPS:BR80=5:5(wt%)、
[溶液8]PHPS:BR80=5:3.3(wt%)、
[溶液9]PHPS:BR80=5:2(wt%)、
[溶液10]PHPS:BR80=5:1.25(wt%)、
これらコーティング液に、(1)の溶液3を用いて塗膜を形成した第一の試験片を漬け、自動引き上げ装置を使用して引き上げ速度1mm/secにてディップコーティングを行なった。その後、室温で10分間乾燥した。次に170℃で1時間焼付し、無色透明なセラミック/アクリル樹脂系塗膜を形成した5種類の第二の試験片を得た。
先と同じカレールーを水で溶解して上記第二の試験片のそれぞれに数滴垂らし、150℃×30分でオーブン加熱を実施し、クラックの発現を100倍マイクロスコープにて観察した。
その結果を表5に示す。
【0033】
【表5】

【0034】
(3) 次に、三菱レーヨン社製アクリル樹脂BR−80の10wt%キシレン溶液と、AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製のポリシラザン(NL110A-5)の5wt%キシレン溶液とを、下記の比率となるようにスターラーで混合し、コーティング液とした。
[溶液11]PHPS:BR80=5:3.3(wt%)、
[溶液12]PHPS:BR80=5:2(wt%)、
[溶液13]PHPS:BR80=5:1.25(wt%)、
[溶液14]PHPS:BR80=5:0(wt%)、
これらコーティング液に、(2)の溶液8を用いて塗膜を形成した第二の試験片を漬け、自動引き上げ装置を使用して引き上げ速度1mm/secにてディップコーティングを行なった。その後、室温で10分間乾燥した。次に170℃で1時間焼付し、無色透明なセラミック/アクリル樹脂系塗膜を形成した4種類の第三の試験片を得た。
上記と同様のカレールーを水で溶解したものを第三の試験片のそれぞれに数滴垂らし、150℃×30分でオーブン加熱を実施して、クラックの発現を100倍マイクロスコープにて観察した。
その結果を表6に示す。
【0035】
【表6】

【0036】
以上の結果より、(1)〜(3)の中から好適な溶液を選択して、樹脂基材(PBT樹脂プレート)の表面から順に、
1層目:白色のアクリルウレタン樹脂コーティング層、
2層目(下層部分):[溶液3]PHPS:BR80=5:6(wt%)、
3層目(中層部分):[溶液8]PHPS:BR80=5:3.3(wt%)、
4層目(上層部分):[溶液12]PHPS:BR80=5:2(wt%)
のコーティング層を形成した完成試験片(コーティング成形物)を得た。このように得られた完成試験片では、PHPSに対するBR80の相対的な割合が徐々に変化している。
この完成試験片を使って、カレーの色素拡散実験を150℃×30分で繰り返し30回行ったが、色素汚染は確認できなかった。このように、PHPSとPMMAの割合を徐々に変化させた本発明のコーティング成形物は、高温環境下での汚染を効果的に防止できることがわかる。
なお、下層部分については、クラックが発生しなかった溶液1〜3の中のいずれか一つ又は複数、中層部分については、クラックが発生しなかった溶液6〜8の中のいずれか一つ又は複数(最も好ましいのは溶液8)、上層部分については、クラックの発生と色素汚染が認められなかった溶液11及び/又は12を選択するようにしてもよい。このときも、下層部分、中層部分、上層部分における溶液の組合せは、アクリル系樹脂とポリシラザンとの比率が図1に示すような勾配を形成するようなものを選択する。また、この際、コーティング成形物の用途と使用環境に応じて、アクリル系樹脂とポリシラザンとの最適な比率を実験によって求めるようにする。また、前記上層部分の上に、クラックと色素汚染が生じないことを条件に、アクリル樹脂を含まないポリシラザンのみの表面層を形成してもよい。
【0037】
本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。
例えば、上記の第三の実施形態では、先に塗布したコーティング液が半乾き状態のときに次のコーティング液を塗布するものとして説明したが、コーティング液を塗布した直後に次のコーティング液を塗布するようにしてもよい。
また、基材の表面に塗布するアクリル系樹脂含有コーティング液として、UV硬化形のアクリル系樹脂を主体とするものを用い、塗布後にUV照射によって硬化させるようにしてもよい。
さらに、上記の実施形態及び実施例では、コーティング液(第二の実施形態では第二及び第三コーティング液を含めて)を三回塗布するものとして説明したが、混合割合の異なるコーティング液を複数種類準備し、四回又はそれ以上の回数塗り重ねるようにしてもよいことは勿論である。
また、予定された全てのコーティング液を塗り終えた後の乾燥は、室温下の自然乾燥でもよいが、乾燥炉で強制的に乾燥させてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、食器に限らず、浴槽やキッチン、サニタリー用品、自動車等の材料のコーティング層形成及びこれらに用いられるコーティング成形物に広く適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明のコーティング成形物の概念図で、左側が基材及びコーティング層の構成図(部分)、右側がアクリル系樹脂とポリシラザンとの濃度割合の変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0040】
1 基材
2 コーティング層



【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面にコーティング層を形成する方法において、
ポリシラザンとアクリル系樹脂とを含有するコーティング液を、前記ポリシラザンと前記アクリル系樹脂との混合割合を変えて複数種類準備し、
前記アクリル系樹脂の混合割合が高い前記コーティング液から順に、前記複数種類のコーティング液を取り替えつつ、前記基材の表面に複数回塗り重ねて、前記コーティング層を形成したこと、
を特徴とするコーティング層の形成方法。
【請求項2】
前記アクリル系樹脂を含み前記ポリシラザンを含まない第二コーティング液と、前記ポリシラザンを含み前記アクリル系樹脂を含まない第三コーティング液とをさらに準備し、
前記基材の表面に前記第二コーティング液を塗布した後に、前記コーティング液を一回又は複数回塗り重ね、最後に前記第三コーティング液を塗り重ねたことを特徴とする請求項1に記載のコーティングの形成方法。
【請求項3】
先に塗布した前記コーティング液又は前記第二コーティング液が半乾燥状態のときに、次のコーティング液を塗り重ねることを特徴とする請求項1又は2に記載のコーティング層の形成方法。
【請求項4】
前記コーティング液,前記第二コーティング液又は前記第三コーティング液を塗布する工程において、各塗布工程の少なくとも一つが、塗布後の焼成工程を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のコーティング層の形成方法。
【請求項5】
基材の表面にコーティング層を形成する方法において、
(i) ポリシラザンを含有しないアクリル系樹脂コーティング液とアクリル系樹脂を含有しないポリシラザン含有コーティング液とを準備し、
(ii) 前記アクリル系樹脂コーティング液を前記基材の表面に塗布し、
(iii) 前記アクリル系樹脂コーティング液を塗布した直後又は前記アクリル系樹脂コーティング液が乾燥する前に、前記ポリシラザン含有コーティング液を前記アクリル系樹脂コーティング液の上に塗り重ね、
(iv) 前記ポリシラザン含有コーティング液を塗布した直後又は前記ポリシラザン含有コーティング液が乾燥する前に、前記アクリル系樹脂コーティング液の濃度を低くして前記ポリシラザン含有コーティング液の上に塗り重ね、
(v) 前記アクリル系樹脂コーティング液を塗布した直後又は前記アクリル系樹脂コーティング液が乾燥する前に、前記ポリシラザン含有コーティング液の濃度を高くして前記アクリル系樹脂コーティング液の上に塗り重ね、
(vi) 前記(iv)及び(v)の工程を、上層に向かうに従って前記アクリル系樹脂コーティング液の濃度を低くしつつ、前記ポリシラザン含有コーティング液の濃度を高くしながら一回又は複数回繰り返し、
最後に、前記ポリシラザン含有コーティング液を塗布したこと、
を特徴とするコーティング層の形成方法。
【請求項6】
前記アクリル系樹脂コーティング液を塗布した後に前記ポリシラザン含有コーティング液を塗布する工程において、各塗布工程の少なくとも一つが、塗布後の焼成工程を有することを特徴とする請求項5に記載のコーティング層の形成方法。
【請求項7】
前記コーティング液におけるポリシラザンとアクリル系樹脂との比率が1.2〜2.0の範囲内のものを準備してコーティング層の下層部分を形成し、同0.66〜1.6の範囲内のものを準備してコーティング層の中層部分を形成し、同0.4〜0.66の範囲内のものを準備してコーティング層の上層部分を形成することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のコーティング層の形成方法。
【請求項8】
基材の表面にコーティング層を形成したコーティング成形物であって、
前記基材の表面からコーティング層の表面に至るまでに、ポリシラザンとアクリル系樹脂との混合割合が徐々に変化することを特徴とするコーティング成形物。
【請求項9】
前記コーティング層が、前記基材の表面近傍ではポリシラザンを含まず、前記コーティング層の表面近傍では前記アクリル系樹脂を含まないことを特徴とする請求項8に記載のコーティング成形物。
【請求項10】
前記コーティング液におけるポリシラザンに対するアクリル系樹脂の比率が、コーティング層の下層部分で1.2〜2.0の範囲内、中層部分で0.66〜1.6の範囲内、上層部分で0.4〜0.66の範囲内であることを特徴とする請求項8又は9に記載のコーティング層の形成方法。







【図1】
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【公開番号】特開2008−161856(P2008−161856A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−153730(P2007−153730)
【出願日】平成19年6月11日(2007.6.11)
【特許番号】特許第4079984号(P4079984)
【特許公報発行日】平成20年4月23日(2008.4.23)
【出願人】(591190128)株式会社下村漆器店 (2)
【Fターム(参考)】