説明

コーティング方法

【課題】コーティング液を均一な膜厚でコーティングすることができるコーティング方法を提供する。
【解決手段】被塗布面にコーティング液を塗布した後、コーティング液を浸み込ませたセルローススポンジで、被塗布面に塗布されたコーティング液を塗り広げる。被塗布面の上のコーティング液の塗布厚みを均一化することができ、均一な膜厚のコーティング膜を形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング液を均一に塗布するコーティング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ビルの壁面やガラス面などに耐候性成分や防汚性成分を含有するコーティング液をコーティングして、耐候性や防汚効果のあるコーティング膜を形成することが行なわれている。このような耐候性成分や防汚性成分を含有するコーティング液は一般に水溶液やアルコール溶液として調製されており、スプレーガンを用いてコーティング液をスプレーすることによって、コーティングが行なわれている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
しかし、ビルの壁面のような屋外の高所では、風が強く吹き付けることが多いので、スプレーガンを用いてコーティング液をスプレーする場合、コーティング液の噴霧粒子が風で吹き飛ばされて、コーティング液のロスが大きく発生するという問題があった。またスプレーガンを用いる場合、コンプレッサー等の電動機器を必要とするので、このような機器がビルの高所から落下することによる災害のおそれもある。
【0004】
そこで、ペイントローラーを用い、ローラーにコーティング液を浸み込ませた状態で、ビルの壁面やガラス面などの被塗布面にローラーを転動させることによって、コーティング液をコーティングすることも行なわれている(例えば特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2008−73588号公報
【特許文献2】特開2004−136156号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のように水溶液やアルコール溶液で形成されているコーティング液は、一般の塗料などと比較して粘度が低いので、ペイントローラーを用いて塗布する場合、液ダレが生じたり、また塗り始めの部分は膜厚が厚く、塗り終わりの部分は膜厚が薄くなるというように、均一な膜厚でコーティングすることが難しいという問題がある。特に、塗り残しがないように、ペイントローラーの転動の軌跡が一部重複するようにして塗布する必要があるので、コーティング液が重ねて塗られる部分は他の部分よりも塗布の膜厚が厚くなることを避けることができない。コーティング液をコーティングして形成される耐候性や防汚効果のあるコーティング膜は透明な膜であるが、このように膜厚が不均一であると、光の干渉作用によって干渉縞が生じたり、濃淡による色ムラが生じたりするため、ビルなどの外観を著しく損ねるという問題が発生するのである。
【0006】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、コーティング液を均一な膜厚でコーティングすることができるコーティング方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1に係るコーティング方法は、被塗布面にコーティング液を塗布した後、コーティング液を浸み込ませたセルローススポンジで、被塗布面に塗布されたコーティング液を塗り広げることを特徴とするものである。
【0008】
被塗布面にペイントローラーなどの塗布具を用いてコーティング液を塗布した状態では、コーティング液の塗布厚は均一ではないが、コーティング液を浸み込ませたセルローススポンジを用いて、被塗布面に塗布されたコーティング液を塗り広げることによって、被塗布面の上のコーティング液の塗布厚みを均一化することができるものである。
【0009】
また請求項2の発明は、請求項1において、先端にセルローススポンジのシートを帯状に幅広く取り付けたスクイジーを用い、スクイジーのこのセルローススポンジのシートの先端でコーティング液を塗り広げることを特徴とするものである。
【0010】
塗工具においてセルローススポンジは帯状のシートの形態で取り付けられており、スクイジーのブレードのような作用で、被塗布面に塗布されたコーティング液を均一に塗り広げる作業を容易に行なうことができるものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、コーティング液を浸み込ませたセルローススポンジを用いて、被塗布面に塗布されたコーティング液を塗り広げることによって、被塗布面の上のコーティング液の塗布厚みを均一化することができ、均一な膜厚のコーティング膜を形成することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0013】
セルローススポンジは、パルプ由来のセルロースと、補強繊維として配合されている亜麻、綿などの天然繊維からなるものである。そしてセルローススポンジは一般に次のようにして製造されている。まず天然パルプを苛性ソーダ液に浸漬して粉砕し、パルプを老成した後に二硫化炭素を添加して硫化する。次にパルプと綿等の補強繊維とが65:35程度の質量比率になるように、補強繊維を混合し、これに苛性ソーダ液を加えて溶解することによってビスコースを調製する。このビスコースに結晶芒硝を混合した後、加圧成形し、これを煮沸して加熱することによって凝固させてセルロース再生体を調製する。そして水洗して芒硝を洗い流してスポンジ状にした後に、洗浄や酸処理等の後処理を行なうことによって、セルローススポンジを得ることができる。
【0014】
セルローススポンジは芒硝が溶解して抜けた跡として微細な連通気泡を有するものであり、またセルロースは親水基を有するために水と馴染み易い。このため、微細気泡による毛細管現象で自己吸水性及び自己保水性を有するものであり、吸収した水分が流れ落ちることなく保持することができるものである。
【0015】
このようなセルローススポンジは、特公昭42−15788号公報、特開平5−305967号公報、特開平11-49881号公報、特開2007−77320号公報などで従来から公知のものであり、例えば、東レ・ファインケミカル(株)製の「東レ・セルローススポンジ」として市販されているものを使用することができる。
【0016】
セルローススポンジは一般にブロック状に成形されるものであるが、本発明ではこのセルローススポンジをスライスしてシート状に形成したものを用いるのが好ましい。ここで、セルローススポンジの微細気泡の直径や空隙率(気泡の容積/全体積)は、結晶芒硝の粒径や配合量で調整することができるものであり、特に限定されるものではないが、セルローススポンジの微細気泡の直径は100〜1500μm、空隙率は20〜80%のものが好ましい。
【0017】
図1は、このようなセルローススポンジのシート1を用いて作製したスクイジーAの一例を示すものであり、グリップ2の先端にシート取付部3を直交して設けることによって、T字形に形成してある。シート取付部3は下方へ開口するチャンネル状に形成されるものであり、断面C字形の保持部3aと保持部3aの両下端縁に下方へ突出して設けた平行な一対のフランジ3b、3bとから形成してある。そしてセルローススポンジのシート1を二つ折りあるいは四つ折りにして細長い帯状にし、折り曲げ側の部分が保持部3a内に収容されるようにセルローススポンジのシート1をシート取付部3内に差し込むと共に、このセルローススポンジのシート1の長手側の側端部を全長に亘ってフランジ3b、3b間の開口から突出させることによって、スクイジーAを形成するようにしてある。このとき、保持部3a内に収容した部分においてセルローススポンジのシート1の折り曲げ部内に棒状のストッパー4を差し込んで、保持部3a内の部分の直径を大きくすることによって、セルローススポンジのシート1を抜け外れることなく、シート取付部3に取り付けることができるものであり、またストッパー4を抜くことによって、シート取付部3へのセルローススポンジのシート1の取り替えを行なうことができるものである。
【0018】
次に、上記のセルローススポンジを用いて行なう本発明のコーティング方法について説明する。
【0019】
コーティング液としては、特に限定されるものではないが、例えば、耐候性成分や防汚性成分などを、水に溶解乃至分散させた水溶液や、アルコールに溶解させたアルコール溶液として調製されたものを用いることができる。
【0020】
そしてまず、ビルの外壁や窓ガラスなど、被塗布面にコーティング液を塗布する。コーティング液の塗布は、スプレーのような非接触方式でなく、接触方式で行なうものであり、コーティング液を含ませた塗工具を被塗布面に接触させることによって、塗工具から被塗布面にコーティング液を移動させるようにして塗布を行なうものである。接触方式でコーティング液を塗布することによって、ビルの壁面のように屋外の高所で風が強く吹くなかで作業をしても、コーティング液が風で吹き飛ばされるようなことなく、塗布を行なうことができるものである。
【0021】
このような接触方式の塗工具としては、ペイントローラーや刷毛など各種のものがあるが、広い面積に隈なく迅速に塗布することができるために、ペイントローラーを用いるのが好ましい。図2のようなペイントローラー5を用いる場合、ローラー6にコーティング液を含ませ、被塗布面に沿ってこのローラー6を転動させることによって、被塗布面の全面にコーティング液を塗布することができるものである。
【0022】
このようにペイントローラー5などを用いて被塗布面にコーティング液を塗布した状態では、塗布の膜厚は均一ではない。通常、塗り始めの部分は膜厚が厚く、塗り終わりの部分は膜厚が薄くなるというように、塗布の膜厚は不均一になり易いものであり、また塗り残しがないように一部を重複させて塗布を行なうと、コーティング液が重ねて塗られる部分は他の部分よりも塗布の膜厚が厚くなるのである。さらに塗布膜厚の厚い部分には液ダレも生じる。
【0023】
次に、このようにコーティング液を被塗布面に塗布した後、被塗布面をスクイジーAのセルローススポンジのシート1でこするようにして、コーティング液を塗り広げる。このとき、スクイジーAのセルローススポンジのシート1には上記のコーティング液を浸み込ませて含ませた状態で用いるものであり、スクイジーAのシート取付部3から下方へ突出するセルローススポンジのシート1の先端縁を全長に亘って被塗布面に接触させた状態で、セルローススポンジのシート1の先端縁の長手方向と垂直な方向にスクイジーAを移動させることによって、被塗布面に塗布されたコーティング液をセルローススポンジのシート1で塗り広げるようにするものである。
【0024】
このように被塗布面に塗布されたコーティング液をセルローススポンジのシート1で塗り広げることによって、被塗布面に塗布されたコーティング液のうち、膜厚の厚い部分のコーティング液は膜厚の薄い部分へと移動され、コーティング液の塗布膜厚を均一化することができるものである。そしてセルローススポンジのシート1にはコーティング液が予め浸み込ませてあるので、被塗布面に塗布されているコーティング液がセルローススポンジのシート1に吸収されることがなく、また膜厚の厚い部分のコーティング液を膜厚の薄い部分へ過剰に移動させて却って膜厚が不均一になったりすることがなく、コーティング液を均一な膜厚に塗り広げることができるものである。
【0025】
ここで、セルローススポンジは、親水基を有するために水と馴染み易く、また微細な連通気泡による毛細管現象で自己吸水性及び自己保水性を有するために、吸収した水分が流れ落ちることなく保持することができるものである。このため、水溶液として調製されるコーティング液をセルローススポンジのシート1に浸み込ませるにあたって、コーティング液がセルローススポンジのシート1から垂れ落ちるようなことはなく、またセルローススポンジのシート1を被塗布面に押し当ててコーティング液を塗り広げる際に、セルローススポンジのシート1に浸み込ませたコーティング液がセルローススポンジのシート1から押し出されて、却ってコーティング液の塗布膜厚が不均一になるようなことがなくなるものである。
【0026】
上記のようにコーティング液をセルローススポンジのシート1で塗り広げて被塗布面にコーティング液を均一な厚みでコーティングした後、乾燥させることによって、耐候性や防汚効果のあるコーティング膜を被塗布面に形成することができるものである。そしてこのコーティング膜は膜厚が均一であるため、光の干渉作用によって干渉縞が生じるようなことがなく、ビルなどの外観を損ねることを未然に防ぐことができるものである。
【0027】
上記の実施の形態では、セルローススポンジのシート1をスクイジーAに取り付けて使用するようにしたが、このようなものに限定されるものではなく、セルローススポンジを板状の形態で用いるようにすることも可能であり、場合によっては、スクイジーAなどの工具に取り付けることなく、ブロック状のセルローススポンジをそのまま用いることも可能である。
【0028】
また、コーティング液をコーティングする被塗布面は、上記のようなビルの壁面や窓ガラスなどに限定されるものではなく、船底、車体、建築物の内外の天井、床、壁面など任意のものを適用することができるものであり、被塗布面の材質も、コンクリート、タイル、ガラス、アルミニウムなどの金属、サイディング面、塗装面など任意のものを適用することができるものである。
【実施例】
【0029】
次に本発明を実施例によって例証する。
【0030】
(実施例1)
コーティング液として、リン酸チタニア組成の耐候性・防汚性セラミックコーティング水溶液を用いた。またセルローススポンジのシートとして、東レ・ファインケミカル(株)製の「東レ・セルローススポンジ タイプPC107」(微細気泡の平均直径1500μm、空隙率50%)を厚み3mmにスライスしたものを用い、図1のようなスクイジーAを作製した。
【0031】
そして図2のようなペイントローラー5を用いて、ビルのタイルの壁面にコーティング液を30g/mの塗布量で塗布した。
【0032】
次に、スクイジーAのセルローススポンジのシート1をコーティング液中に浸漬してコーティング液を浸み込ませた後、ビルの壁面に塗布したコーティング液をスクイジーAのセルローススポンジのシート1で引き延ばし、コーティング液の塗布厚みが均一になるようにした。
【0033】
この後、48時間放置してビルの壁面に塗布したコーティング液を乾燥させ、コーティング膜を形成した。このコーティング膜を観察したところ、干渉縞は発生していず、膜厚が均一であることが確認された。
【0034】
(比較例1)
実施例1と同様にして、ペイントローラー5を用いてビルのタイルの壁面にコーティング液を塗布した後、そのまま48時間放置してコーティング液を乾燥させ、コーティング膜を形成した。このコーティング膜を観察したところ、液ダレによる凹凸や、干渉縞が発生しており、膜厚は不均一であった。
【0035】
(比較例2)
実施例1と同様にして、ペイントローラー5を用いてビルのタイルの壁面にコーティング液を塗布した後、セルローススポンジのシート1にコーティング液を浸み込ませず乾燥した状態のままのスクイジーAを用いて、ビルの壁面に塗布したコーティング液を引き延ばした。
【0036】
この後、48時間放置してビルの壁面に塗布したコーティング液を乾燥させ、コーティング膜を形成した。このコーティング膜を観察したところ、干渉縞が発生しており、膜厚は不均一であった。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】スクイジーの一例を示す斜視図である。
【図2】ペイントローラーの一例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0038】
1 セルローススポンジのシート
A スクイジー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗布面にコーティング液を塗布した後、コーティング液を浸み込ませたセルローススポンジで、被塗布面に塗布されたコーティング液を塗り広げることを特徴とするコーティング方法。
【請求項2】
先端にセルローススポンジのシートを帯状に幅広く取り付けたスクイジーを用い、スクイジーのこのセルローススポンジのシートの先端でコーティング液を塗り広げることを特徴とする請求項1に記載のコーティング方法。

【図1】
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【図2】
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