説明

コーティング用組成物およびこれを被覆してなる樹脂被覆品

【課題】シロキサン結合を有する無機系硬化性組成物の特長を損なうことなく、この種の無機系硬化性組成物において解決困難な問題とされていた硬化後のクラック発生の問題がなく、従来にない高いレベルの耐擦傷性を付与することができ、その上保存性にも優れたコーティング用組成物およびその樹脂被覆品を提供すること。
【解決手段】(A)金属酸化物コロイドゾル、(B)アルコキシシラン加水分解縮合物、(C)β−ジケトン化合物、および(D)溶媒を必須成分とし、分子量分布が制御されてなることを特徴とする実質的に末端がSiOH型であるコーティング用組成物、およびこれを被覆してなる樹脂被覆品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコーティング用として好適なコーティング用組成物に関し、さらに詳しくは金属酸化物コロイドゾルを利用した、プラスチック、フィルム、軽金属など表面が軟質な基材に優れた耐擦傷性の保護被膜を形成するコーティング剤として有用なコーティング用組成物およびこれを被覆してなる樹脂被覆品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基材の表面保護には現在までに種々のものが使用されている。プラスチック材料は軽量性、加工性などの特徴をいかして多くの用途で用いられているが表面の耐擦傷性に劣る欠点がある。
表面が軟質であるプラスチック、軽金属など特に高いレベルの耐擦傷性を要求される用途ではシロキサン系の熱硬化型ハードコート剤が使用されている。このシロキサン系ハードコート剤については数多くの技術提案がなされてきた。例えば特許文献1および特許文献2には、トリヒドロキシシラン部分縮合物とコロイダルシリカからなるコーティング用組成物が開示されている。また、特許文献3および特許文献4には、アルキルトリアルコキシシランとテトラアルコキシシランとの部分縮合物を主成分とするコーティング用組成物が記載されているが 耐擦傷性、コーテイング液安定性では十分に満足するものではない。
【0003】
一方、特許文献5や特許文献6では、硬化を促進させる触媒的な役割としてチタンキレート化号物あるいはそれの部分加水分解縮合物をコーティング剤に添加し、硬化性を高めようとしているが安定性、耐クラック性では問題が残り改善されたとはいい難い。
【0004】
すなわち、これまでに提案されている無機シロキサン骨格の硬化性コーティング用組成物においては、造膜性や耐衝撃性、種々の外部刺激に対するクラック発生の問題がなく、しかも、経時安定性や、耐擦傷性に優れたハードコーティング剤組成物はいまだ実用化されていない。
【0005】
【特許文献1】特開昭51−2736号公報
【特許文献2】特開昭55−94971号公報
【特許文献3】特開昭48−26822号公報
【特許文献4】特開昭51−33128号公報
【特許文献5】特開平11−286652号公報
【特許文献6】特開平10−324827号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、シロキサン結合を有する無機系硬化性組成物の特長を損なうことなく、この種の無機系硬化性組成物において解決困難な問題とされていた硬化後のクラック発生の問題がなく、従来にない高いレベルの耐擦傷性を付与することができ、その上保存性にも優れたコーティング用組成物およびその樹脂被覆品を提供することを目的とする。
【0007】
さらに本発明は、硬化性を阻害することなく、硬質皮膜を形成せしめ、かつ、無機オルガノシロキサン化合物の硬質物性と有機ポリマーの造膜性、耐クラック性、可撓性、セルフヒーリング性、耐溶剤性、耐アルカリ性、耐炎性などの諸特性を併有する複合皮膜を形成し得るコーティング用組成物およびその樹脂被覆品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、
(A)金属酸化物コロイドゾル、(B)アルコキシシラン加水分解縮合物、(C)β−ジケトン化合物、(D)溶媒を必須成分とし、分子量分布が制御されてなることを特徴とする実質的に末端がSiOH型であるコーティング用組成物が上述問題点を解決するのに有効であることを見出した。
【0009】
本発明における組成について述べる。
(A)のソリッド分は(A)のソリッド分および(B)のソリッド分の合計量に対して5〜80質量%、好ましくは10〜60質量%、最も好ましくは20〜40%であり、同様に、(B)のソリッド分は(A)のソリッド分および(B)のソリッド分の合計量に対して20〜95質量%、好ましくは40〜90質量%、もっとも好ましくは60〜80質量%であるオルガノシロキサン樹脂組成物である。
【0010】
(C)β−ジケトン化合物の添加量としては、全体量の5〜10質量%が望ましい。
また、(D)溶媒の存在量としては、全体のソリッド分が1〜60質量%、好ましくは5〜40質量%、最も好ましくは10〜20質量%になるように調整されることが望ましい。
上述した各成分の添加量、存在量がこれより少な過ぎる場合、目的とする効果が十分に発揮できない可能性があり、多過ぎる場合は、当該コーティング用組成物により得られる皮膜について、安定性、透明性、耐クラック性など溶液特性、皮膜特性上不利である。
【0011】
また、当該コーティング用組成物の合成条件としては、(B)アルコキシシラン加水分解物のピーク分子量がポリスチレン換算で1000以下となるように分子量が制御された合成条件で合成されたものが好ましい。当該分子量が大き過ぎると、硬度の発現、特に耐擦傷性が不十分となる懸念がある。
【0012】
また、上記SiOH型オルガノシロキサン樹脂組成物の−SiOH基、もしくは含有する他の官能基と反応する、もしくは水素結合、および/または、π−π共役、配位結合などの化学的相互作用により安定化する官能基、部分を有する有機重合体を当該オルガノシロキサン樹脂組成物反応系に存在させることにより、容易に無機−有機ハイブリッド体を形成することが可能となる。そして、そのようにして得られた硬化皮膜は均質で、実質的に無色透明で、無機シロキサン樹脂組成物の硬度、耐擦傷性、耐熱性、耐候性、耐熱性、耐酸性など諸特性とハイブリッド化して導入される有機成分の諸特性を併有させることが可能となることを見出した。
【0013】
本発明のコーティング用組成物における(A)金属酸化物コロイドゾルとしては、コロイダルシリカが代表的なものとして例示される。これは、直径5〜200nm、好ましくは5〜40nmのシリカ微粒子が水または有機溶媒中にコロイド状に分散されたものである。なかでも酸性水溶液分散型コロイダルシリカが、(B)アルコキシシラン加水分解縮合物との反応を考慮した場合、容易に化合出来るSiOH表面状態を有しているため最も適している。
【0014】
かかるコロイダルシリカの具体例として、日産化学工業(株)製のスノーテックスO、触媒化成工業(株)製のカタロイドSN、日本化学工業(株)製のシリカドール30Aなどが挙げられる。また、アルカリ性コロイダルシリカに種々の有機酸、無機酸を添加することにより、pHを3〜5のコロイダルシリカ酸性準安定域に安定化させ、その表面をSiOH型としたものも同様に使用できる。
【0015】
有機溶媒分散型としては、具体的に日産化学工業(株)製のMA−ST、IPA−ST、NBA−ST、IBA−ST、EG−ST、XBA−ST、NPC−ST、DMAC−ST、触媒化成工業(株)製のOSCAL1132、OSCAL1232、OSCAL1332、OSCAL1432、OSCAL1532、OSCAL1632、OSCAL1732などが挙げられる。
【0016】
その他の金属酸化物コロイドゾルは、種々の機能性付与、例えば、導電性、光触媒活性、屈折率制御の目的で添加される。具体的には、マグネシウム酸化物、珪素酸化物とマグネシウム酸化物との共酸化物、カルシウム酸化物、バリウム酸化物、ホウ素酸化物、アルミニウム酸化物、インジウム酸化物、ゲルマニウム酸化物、錫酸化物、亜鉛酸化物、チタン酸化物、ジルコニウム酸化物、セシウム酸化物、インジウム錫酸化物、および錫アンチモン酸化物のコロイドゾルが単独であるいは混合物として用いることができる。
【0017】
これら金属酸化物コロイドゾルは、金属原子−酸素原子の繰り返しで構成されるが、末端部位においては金属原子と結合しない酸素原子の結合手(例えば、ヒドロキシ基、カルボキシル基のような形態)が存在し、オルガノシロキサンのSiOHと反応し得る。また、これらの金属コロイドゾルの粒子径は、0.005μm〜1μmであることが好ましい。
【0018】
本発明のコーティング用組成物において、(B)として用いるアルコキシシラン加水分解縮合物は、下記式(1)のアルコキシシランを加水分解縮合反応させたものであることが好ましい。
1a2bSi(R34-a-b ・・・ (1)
(式中、R1は炭素数1〜10のアルキル基を表し、R2はアリール基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アリール基、アルケニル基、エポキシ基、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、メルカプト基、アミノ基、ウレイド基およびシアノ基からなる群から選ばれる1以上の有機基からなる官能基を表し、R3は炭素数1〜10のアルコキシ基、アルケニロキシ基、アシロキシ基またはアルコキシアルコキシ基を表し、a,bはおのおの0,1,2のいずれかの整数であり、a+bは0,1,2のいずれかの整数である。)
【0019】
当該アルコキシシランとしては、例えばテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラn−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラn−ブトキシシラン、テトライソブトキシシラン、メチルトリメトキシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシン、ビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらは単独でも、混合して使用してもよく、あらかじめ部分的に加水分解を施しておいたものを使用してもかまわない。
【0020】
また、後述する種々の有機ポリマーとのハイブリッド化を促進する目的で、目的とする有機ポリマーとの相溶性、反応性、種々の化学的インタラクションを形成する有機化合物を予め反応せしめたものを使用することも可能である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、シロキサン結合を有する無機系硬化性組成物の特長を損なうことなく、この種の無機系硬化性組成物において解決困難な問題とされていた硬化後のクラック発生の問題がなく、従来にない高いレベルの耐擦傷性を付与することができ、その上保存性にも優れたコーティング用組成物およびその樹脂被覆品を提供することができる。
【0022】
また、本発明によれば、硬化性を阻害することなく、硬質皮膜を形成せしめ、かつ、無機オルガノシロキサン化合物の硬質物性と有機ポリマーの造膜性、耐クラック性、可撓性、セルフヒーリング性、耐溶剤性、耐アルカリ性、耐炎性などの諸特性を併有する複合皮膜を形成し得るコーティング用組成物およびその樹脂被覆品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明のコーティング用組成物について詳細に説明する。
本発明のコーティング用組成物は、(A)金属酸化物コロイドゾル、(B)アルコキシシラン加水分解縮合物、(C)β−ジケトン化合物、および(D)溶媒を必須成分とし、分子量分布が制御されてなることを特徴とするものである。
【0024】
本発明のコーティング用組成物における(A)と(B)の使用割合は組成物の安定性、得られる硬化膜の透明性、耐摩耗性、耐擦傷性、密着性および耐クラック性の点から設計される。(A)および(B)のソリッド合計量に対して(A)ソリッド分が5〜80質量%、好ましくは10〜60質量%、もっとも好ましくは20〜40%、(B)ソリッド分が20〜95質量%、好ましくは40〜90質量%、もっとも好ましくは60〜80質量%である、実質的に末端がSiOH型であるオルガノシロキサンのコーティング用組成物が適している。末端をSiOH型とすることにより、当該オルガノシロキサン樹脂組成物は被塗物表面に塗布され、加熱するだけで脱水縮合し、シロキサン結合を形成することができる。この時、末端がSiORで残っている場合は、塗布後、加水分解をする必要があり、環境の水分の影響を受けやすく、場合によっては触媒の添加が必要であったりするため適当ではない。
【0025】
また、これまでの研究から、本発明のコーティング用組成物において(B)として用いられるアルコキシシラン加水分解縮合物は、前記式(1)に示されるアルコキシシランの加水分解直後の発生期のSiOHが最も活性が高く、硬度、擦傷性が出やすいことがわかっている。即ち、(B)成分のアルコキシシラン加水分解縮合物のピーク分子量がポリスチレン換算で1000以下となるように分子量分布が制御された合成条件にて製造されることが、本発明のコーティング用組成物の最も重要な目的となる高硬度、高耐擦傷性、高耐摩耗性の発現につながることを意味する。
【0026】
上述したように、末端がSiOHでそのピーク分子量がポリスチレン換算で1000以下となるように分子量を制御するためには、前記式(1)に示されるアルコキシシランの加水分解条件が重要となる。
【0027】
即ち、下記式(1)
1a2bSi(R34-a-b ・・・ (1)
(式中、R1は炭素数1〜10のアルキル基を表し、R2はアリール基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アリール基、アルケニル基、エポキシ基、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、メルカプト基、アミノ基、ウレイド基およびシアノ基からなる群から選ばれる1以上の有機基からなる官能基を表し、R3は炭素数1〜10のアルコキシ基、アルケニロキシ基、アシロキシ基またはアルコキシアルコキシ基を表し、a,bはおのおの0,1,2のいずれかの整数であり、a+bは0,1,2のいずれかの整数である。)
のアルコキシシランモノマー1モルに対して水の添加量を((4−a−b)+0.2)/2モル〜20モル、好ましくは3モル〜10モル、最も好ましくは3.1モル〜6モルとすることにより達成される。
【0028】
水の添加量が不足する場合、末端がSiOHとなり得ず、アルコキシシリル基が残存してしまい、硬度の面で目的を十分に達成することができない可能性がある。一方、水の添加量が多過ぎる場合、得られた系が不安定化してしまう問題や、塗膜形成時の各種問題(白化、泡、不均質など)が生ずる懸念があるため好ましくない。
上述した水とは、系に添加されるすべての水分に言及される。即ち、添加される水分散金属酸化物コロイドゾル、加水分解触媒、有機ポリマーなどに含まれる水分を含めた総和である。
【0029】
本発明には、上記SiOH型オルガノシロキサン樹脂組成物の−SiOH基、もしくは含有する他の官能基と反応もしくは水素結合、および/または、π−π共役、配位結合などの化学的相互作用により安定化する官能基、部分を有する有機重合体を反応系中に存在させることができる。
【0030】
上記SiOH型オルガノシロキサン樹脂組成物の−SiOH基と反応もしくは水素結合により安定化する官能基、部分を有する有機重合体としては、アクリルシリコーン、アルコキシシリル基変性エポキシ樹脂、アルコキシシリル基変性ウレタン樹脂、アルコキシシリル基変性ポリエステル、アルコキシシリル基変性ポリブタジエン、アルコキシシリル基変性フッ素樹脂など各種シリル化ポリマー、エポキシ樹脂、各種グリシジルエーテル、アクリルポリオール、エポキシポリオールなどポリオール類、ポリウレタン樹脂、ポリアミド(ナイロン)樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリオキサゾリン樹脂、ポリチオール樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂などが例示される。
【0031】
また、π−π共役、配位結合などの化学的相互作用により安定化する官能基、部分を有する有機重合体としては、ポリスチレン、ビスフェノール型エポキシ樹脂、スチレン−マレイン酸共重合樹脂、各種アイオノマー樹脂、有機金属含有ポリマーなどが例示される。これら有機重合体はオルガノシロキサン部位と安定化、一体化して樹脂の骨格に取り込まれ、オルガノシロキサンの無機特性に対して有機特性を付与する特性上、合成のはじめの段階で仕込まれるべきである。いわゆる、オルガノシロキサン加水分解重縮合の系中に添加されるin situゾルゲル法が適用される。これら有機重合体の配合量としては(A)金属酸化物コロイドゾルソリッド分に(B)アルコキシシラン加水分解縮合物ソリッド分を加えた無機成分に対して、上記有機成分のソリッド比を有機/無機としたとき、5/95質量比〜50/50質量比が好ましい。この範囲を超えて有機重合体配合量が減ると、その添加効果が出にくくなり、また、多くなり過ぎると、無機特性、特に耐擦傷性が低下する懸念があるため好ましくない。
【0032】
本発明のコーティング用組成物における(C)β−ジケトン化合物としては、β−ジケトン類および/またはβ−ケトエステル類を示し、具体的にはアセチルアセトン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸−n−プロピル、アセト酢酸−i−プロピル、アセト酢酸−n−ブチル、アセト酢酸−sec−ブチル、アセト酢酸−t−ブチル、2,4−ヘキサン−ジオン、2,4−オクタン−ジオン、2,4−ノナン−ジオン、5−メチル−ヘキサンジオンなどをあげることができる。これらの添加量としては全体量の5〜10質量%が望ましい。これより少なすぎると、安定化効果は期待できず、多すぎても溶液安定化効果はあまり向上しない。
【0033】
本発明のコーティング用組成物に上述(C)β−ジケトン化合物を添加することにより、組成物合成時に過熱工程を適用しても、系の安定性を保つことが可能となり、上述したSiOH型オルガノシロキサン樹脂組成物の−SiOH基、もしくは含有する他の官能基と反応もしくは水素結合、および/または、π−π共役、配位結合などの化学的相互作用により安定化する官能基、部分を有する有機重合体を安定に反応系中に存在させることが可能となった。また、合成時、加熱工程を経ることにより、これまで、類似するオルガノシロキサン加水分解組成物に必要であった熟成期間が不要となり、合成直後でも安定な組成物を形成することが可能となる。
【0034】
本発明のコーティング用組成物には、さらに(D)溶媒が使用される。この溶媒としては前記オルガノシロキサン樹脂固形分が安定に溶解することが必要である。そのためには、使用される溶媒の少なくとも20質量%以上好ましくは50質量%以上がアルコールであることが望ましい。かかるアルコールとしては例えばメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1プロパノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノールなどが挙げられ、炭素数1〜4の低沸点アルコールが好ましく、溶解性、安定性、及び塗工性の点で2−プロパノールが特に好ましい。
【0035】
かかる溶媒中には、水分散型金属酸化物コロイドゾル中の水で加水分解反応に関与しない水分、アルコキシシランの加水分解に伴って発生する低級アルコール、有機溶媒分散型のコロイダルシリカを使用した場合にはその分散媒の有機溶媒、有機重合体が配合されれば、それに含まれる溶媒、コーティング用組成物のpH調整のために添加される酸も含まれる。
【0036】
pH調整のために使用される酸としては、塩酸、硫酸、燐酸、亜硝酸、硝酸、過塩素酸、スルファミン酸などの無機酸;蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、乳酸、パラトルエンスルホン酸などの有機酸;が挙げられ、pH調整の容易さの観点から、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸などの有機カルボン酸が好ましい。
【0037】
その他の溶媒としては、水/アルコールと混和することが必要であり、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタンなどのエーテル類、酢酸エチル、酢酸エトキシエチルなどのエステル類が挙げられる。
【0038】
本発明のコーティング用組成物は、酸および硬化触媒の含有量を調整することにより、pHを3.0〜6.0に調整することが好ましく、4.0〜5.5に調整することがより好ましい。このようにpHを調整することにより、本発明のコーティング用組成物の常温でのゲル化を防止し、保存安定性を増すことができる。
【0039】
なお、本発明のコーティング用組成物には、塗工性および得られる塗膜(被覆膜)の平滑性を向上させる目的で、公知のレベリング剤を配合することができる。かかるレベリング剤の配合量としては、既述の(A)〜(D)の全成分100質量部に対して0.01〜2質量部の範囲が好ましい。また、本発明の目的を損なわない範囲で紫外線吸収剤、光安定剤、染料、顔料、フィラーなどを配合しても構わない。
【0040】
本発明のコーティング用組成物の基材(被塗物)への塗布は、バーコート法、ディップコート法、フローコート法、スプレーコート法、スピンコート法、ローラーコート法などの方法を塗装される基材の形状や目標膜厚等所望とする塗膜の性状に応じて適宜選択することができる。
【0041】
本発明のコーティング用組成物が塗布された基材は、通常常温から基材の熱変形温度より低い温度で溶媒の乾燥、除去が行われ、熱硬化させる。熱硬化は基材の耐熱性に問題がない範囲で高い温度で行うほうがより早く硬化を完了させることができるので好ましい。かかる熱硬化の過程で、残留するSiOHが縮合反応を起こしてSi−O−Si結合を形成し、硬度、耐擦傷性、耐摩耗性に優れたコート層になる。熱硬化は通常50〜300℃の範囲で10分〜3時間、好ましくは60〜200℃の範囲で20分〜2時間であり、プラスチック基材においては、基材の耐熱性を考慮しながら、70〜135℃で30分間〜1時間程度加熱硬化する。
【0042】
また、本発明のコーティング用組成物には硬化を促進するために、縮合触媒(硬化触媒)を添加することができる。この目的で用いられる縮合触媒としては、例えば、オクチル酸錫、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ビストリエトキシシリケート等の有機錫化合物、チタン、ジルコニウム等の有機金属アルコラート類若しくは有機金属キレート類、燐酸または燐酸エステル類、酸性燐酸エステルとアミンの反応物、エポキシ化合物と燐酸およびモノ酸性燐酸エステルとの付加物、有機アミンのカルボン酸塩、各種アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属アルコラート、各種オニウム塩、ホスフィン類、アミン、アミジン、グアニジン類が挙げられる。
【0043】
これら縮合触媒の使用量としては、通常0.001〜2質量%の範囲であり、好ましくは0.005〜1質量%の範囲である。0.001質量%より少ないと硬化性が充分に発揮されない場合があって硬化不良を引き起こす懸念があり、反対に、2質量%より多く添加すると著しく使用可能時間を短くしてしまい、現実的でない。かかる縮合触媒を添加することにより、常温〜80℃以下の低温における硬化も可能となる。
【0044】
本発明のコーティング用組成物の厚みは、通常0.1〜20μm、好ましくは2〜10μm、最も好ましくは3〜8μmである。コート層の厚みがかかるで塗布された場合には、熱硬化時に発生する応力の為にコート層と基材との密着性が低下したりすることなく、本発明の目的とする十分な硬度、耐擦傷性、耐摩耗性を有するコート層が得られることとなる。
【実施例】
【0045】
次に、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、これにより本発明が限定されるものでないことは言うまでもない。
以下に実施例を挙げて説明する。
【0046】
[実施例1]
窒素導入管および温度計を取り付けた300mlの4口フラスコに、71.4gのメチルトリメトキシシラン、12.5gのアセト酢酸エチル、112.6gのイソプロピルアルコールを仕込み、窒素をバブリングしながら均一に攪拌した。
【0047】
別に、スノーテックスO40{日産化学工業社製シリカゾル、NV(固形分濃度)40%}37.5g、1mol/l(1N)酢酸水溶液4.5g、蒸留水11.1gを秤量し、均一になるまで混合した。これを上記4口フラスコに1時間かけて滴下ロートにて滴下した。この時、フラスコ内の温度は35℃に保った。
滴下終了後35℃に30分間保ち、その後30分かけて60℃に昇温し、3時間反応させ目的物を得た。得られた溶液は乳白色透明低粘性液体であった。
【0048】
[実施例2]
窒素導入管および温度計を取り付けた300mlの4口フラスコに、64.2gのメチルトリメトキシシラン、0.9gのMS−51(多摩化学工業社製)、4.3gのヘキシルトリメトキシシラン、2.1gのγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、12.5gのアセト酢酸エチル、87.6gのイソプロピルアルコール、25gのイソブタノールを仕込み、窒素をバブリングしながら均一に攪拌した。
【0049】
別に、スノーテックスO40(日産化学工業社製シリカゾル、NV40%)37.5g、1mol/l(1N)酢酸水溶液4.5g、蒸留水11.1gを秤量し、均一になるまで混合した。これを上記4口フラスコに1時間かけて滴下ロートにて滴下した。この時、フラスコ内の温度は35℃に保った。
滴下終了後35℃に30分間保ち、その後30分かけて60℃に昇温し、3時間反応させ目的物を得た。得られた溶液は乳白色透明低粘性液体であった。
【0050】
[実施例3]
窒素導入管および温度計を取り付けた300mlの4口フラスコに、18.2gのコンポブリッドAB3073(アトミクス社製アクリルシリコーン樹脂、NV55%、メタノール溶液)、57.1gのメチルトリメトキシシラン、12.5gのアセト酢酸エチル、110.3gのイソプロピルアルコールを仕込み、窒素をバブリングしながら均一に攪拌した。
【0051】
別に、スノーテックスO40(日産化学工業社製シリカゾル、NV40%)30g、1mol/l(1N)酢酸水溶液3.6g、蒸留水18.0gを秤量し、均一になるまで混合した。これを上記4口フラスコに1時間かけて滴下ロートにて滴下した。この時、フラスコ内の温度は35℃に保った。
滴下終了後35℃に30分間保ち、その後30分かけて60℃に昇温し、3時間反応させ目的物を得た。得られた溶液は乳白色透明低粘性液体であった。
【0052】
[実施例4]
窒素導入管および温度計を取り付けた300mlの4口フラスコに、33.4gのバーノック18−472(大日本インキ化学工業社製ウレタン樹脂、NV30%)、57.1gのメチルトリメトキシシラン、12.5gのアセト酢酸エチル、104.1gのイソプロピルアルコールを仕込み、窒素をバブリングしながら均一に攪拌した。
【0053】
別に、スノーテックスO40(日産化学工業社製シリカゾル、NV40%)30g、1mol/l(1N)酢酸水溶液3.6g、蒸留水8.9gを秤量し、均一になるまで混合した。これを上記4口フラスコに1時間かけて滴下ロートにて滴下した。この時、フラスコ内の温度は35℃に保った。
滴下終了後35℃30分間に保ち、その後30分かけて60℃に昇温し、3時間反応させ目的物を得た。得られた溶液は乳白色透明低粘性液体であった。
【0054】
[実施例5]
窒素導入管および温度計を取り付けた300mlの4口フラスコに、10gのトレジンEF30T(ナガセケムテックス社製ポリアミド樹脂、粉末状)、57.1gのメチルトリメトキシシラン、12.5gのアセト酢酸エチル、82.4gのメタノール、11gのイソプロピルアルコール、25gのイソブタノールを仕込み、窒素をバブリングしながら均一溶液になるまで攪拌した。
【0055】
別に、スノーテックスO40(日産化学工業社製シリカゾル、NV40%)30g、1mol/l(1N)酢酸水溶液3.6g、蒸留水18gを秤量し、均一になるまで混合した。これを上記4口フラスコに1時間かけて滴下ロートにて滴下した。この時、フラスコ内の温度は35℃に保った。
滴下終了後35℃に30分間保ち、その後30分かけて60℃に昇温し、3時間反応させ目的物を得た。得られた溶液は乳白色透明低粘性液体であった。
【0056】
[実施例6]
窒素導入管および温度計を取り付けた300mlの4口フラスコに、51.6gのメチルトリメトキシシラン、0.9gのMS−51(多摩化学工業社製)、4.3gのヘキシルトリメトキシシラン、2.1gのγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、12.5gのアセト酢酸エチル、76.3gのイソプロピルアルコール、10gのイソブタノールを仕込み、窒素をバブリングしながら均一に攪拌した。
【0057】
別に、アルミナゾル−520(日産化学工業社製アルミナゾル、NV20%)75.0g、1mol/l(1N)酢酸水溶液4.5gを秤量し、均一になるまで混合した。これを上記4口フラスコに1時間かけて滴下ロートにて滴下した。この時、フラスコ内の温度は35℃に保った。
滴下終了後35℃に30分間保ち、その後30分かけて60℃に昇温し、3時間反応させ目的物を得た。得られた溶液は乳白色透明低粘性液体であった。
【0058】
[比較例1]
窒素導入管および温度計を取り付けた300mlの4口フラスコに、102.0gのメチルトリメトキシシラン、12.5gのアセト酢酸エチル、80.7gのイソプロピルアルコールを仕込み、窒素をバブリングしながら均一に攪拌した。
【0059】
別に、1mol/l(1N)酢酸水溶液6.4g、蒸留水48.0gを秤量し、均一になるまで混合した。これを上記4口フラスコに1時間かけて滴下ロートにて滴下した。この時、フラスコ内の温度は35℃に保った。
滴下終了後35℃に30分間保ち、その後30分かけて60℃に昇温し、3時間反応させ目的物を得た。得られた溶液は無色透明低粘性液体であった。
【0060】
[比較例2]
実施例1において、アセト酢酸エチルを加えなかったこと以外は実施例1と同様にして合成したものを比較例2とした。
【0061】
[比較例3]
窒素導入管および温度計を取り付けた300mlの4口フラスコに、125gのメチルトリメトキシシラン、12.5gのアセト酢酸エチルを仕込み、窒素をバブリングしながら均一に攪拌した。
【0062】
別に、シリカドール33A(日本化学工業社製シリカゾル、NV33%)79.5g、1mol/l(1N)酢酸水溶液7.8g、蒸留水25.4gを秤量し、均一になるまで混合した。これを上記4口フラスコに1時間かけて滴下ロートにて滴下した。この時、フラスコ内の温度は35℃に保った。
滴下終了後35℃に30分間保ち、その後30分かけて60℃に昇温し、3時間反応させ目的物を得た。得られた溶液は乳白色透明粘性液体であった。
【0063】
[比較例4]
アトムコンポブリットXSG(アトミクス社製液状無溶剤型シリコーン樹脂、末端SiORタイプ)に、触媒としてジブチル錫ジラウレートを2%添加したものを比較例4とした。
【0064】
[評価塗膜作製方法]
各種塗膜評価用として、ポリカーボネート樹脂板の表面をイソブタノールで脱脂処理し、#20バーコーダーにて均一に塗布し、30分間セッティングした後130℃で1時間加熱硬化させた。
また、鉛筆硬度の評価用として、基材をボンデライト鋼板にして、上記と同様に塗膜形成したものを作製した。
【0065】
[評価方法]
(1)溶液外観:
得られた実施例1〜6および比較例1〜4のコーティング用組成物の溶液を試験管に満たし目視にて判定した。
【0066】
(2)塗膜外観:
評価用塗膜を目視にて濁り、艶びけ、ブツ、クラックなどの有無を確認した。
【0067】
(3)鉛筆硬度:
JISに従って実施した。当該評価のみ、基材がボンデライト鋼板のものを用いた。
【0068】
(4)耐擦傷性:
#0000スチールウールを用い、500gの荷重で20回擦った後の表面の傷つき状態を観察し、以下の評価基準で評価した。
○・・・全くキズがつかない
△・・・わずかにキズがつく
×・・・はっきりとキズがつく
【0069】
(5)コーティング用組成物の安定性:
得られた実施例1〜5および比較例1〜4のコーティング用組成物の溶液を密閉容器に封入し、3カ月間恒温室に放置したのちの状態を観察し、以下の評価基準で評価した
○・・・全く変化なし
×・・・顕著な増粘〜ゲル化
【0070】
(6)耐クラック性:
ポリカーボネート樹脂板の表面をイソブタノールで脱脂処理し、乾燥膜厚が20μmになるように調整して皮膜を形成させた時の塗膜外観を観察し、以下の評価基準で評価した。
○・・・クラック、割れ、はがれなどなし
×・・・クラック、割れ、はがれ発生
【0071】
(7)可撓性:
(6)の評価試験で得られた塗膜をポリカーボネート基材ごと10回たわませた後の塗膜外観を観察しし、以下の評価基準で評価した。
○・・・クラック、割れ、はがれなどなし
×・・・クラック、割れ、はがれ発生
【0072】
[結果]
実施例および比較例のコーティング用組成物のスペック、および上記評価試験の結果を下記表1および表2にまとめる。
【0073】
【表1】

【0074】
【表2】

【0075】
[結果の考察]
以上の結果より、本発明のコーティング用組成物によるコーティング膜が、硬質で耐擦傷性に優れたものであることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)金属酸化物コロイドゾル、(B)アルコキシシラン加水分解縮合物、(C)β−ジケトン化合物、および(D)溶媒を必須成分とし、分子量分布が制御されてなることを特徴とする実質的に末端がSiOH型であるコーティング用組成物。
【請求項2】
(B)アルコキシシラン加水分解縮合物のピーク分子量が、ポリスチレン換算で1000以下となるように分子量が制御された合成条件で合成された請求項1に記載のコーティング用組成物。
【請求項3】
−SiOH基と反応もしくは水素結合により安定化する官能基を有する有機重合体を含有する請求項1または2に記載のコーティング用組成物。
【請求項4】
(B)アルコキシシラン加水分解縮合物が、下記式(1)で表されるアルコキシシラン加水分解縮合物である請求項1〜3のいずれかに記載のコーティング用組成物。
1a2bSi(R34-a-b ・・・ (1)
(式中、R1は炭素数1〜10のアルキル基を表し、R2はアリール基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アリール基、アルケニル基、エポキシ基、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、メルカプト基、アミノ基、ウレイド基およびシアノ基からなる群から選ばれる1以上の有機基からなる官能基を表し、R3は炭素数1〜10のアルコキシ基、アルケニロキシ基、アシロキシ基またはアルコキシアルコキシ基を表し、a,bはおのおの0,1,2のいずれかの整数であり、a+bは0,1,2のいずれかの整数である。)
【請求項5】
前記式(1)中のbが1または2であり、かつR2で表される官能基と、反応する、もしくは水素結合、π−π共役、配位結合などの化学的相互作用により安定化する官能基を有する有機重合体を含有する請求項4に記載のコーティング用組成物。
【請求項6】
形成される硬化皮膜が実質的に無色透明である請求項1〜5に記載の硬化皮膜形成用のコーティング用組成物。
【請求項7】
請求項6に記載の硬化皮膜形成用のコーティング用組成物が被覆されてなることを特徴とする樹脂被覆品。

【公開番号】特開2007−262349(P2007−262349A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−92761(P2006−92761)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000101477)アトミクス株式会社 (16)
【Fターム(参考)】