説明

コード加工装置及び加工コードの製造方法

【課題】ディッピングコードの品質を向上させるコードの加工装置及び製造方法を提供する。
【解決手段】直線状に搬送されるコードにディッピング液を塗布するディッピング手段と、このディッピング手段を経たコードを挟持部で挟持してこのコードに加圧力を加えてディッピング液を絞り取る絞り手段を備えたコード加工装置において、搬送されるコードの位置が、絞り手段の挟持部に対しコードの位置を徐々に変更する位置変更手段を備え、絞り手段は、第1ロールと第2ロールとの間の挟持部でコードを挟持して加圧し、位置変更手段は、絞り手段の備える第1ロールと第2ロールの間の挟持部と平行な方向にコードを移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディッピング処理されたコードからディッピング液を絞り取るコード加工装置及び加工コードの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ゴム補強用に用いられるコードは、ディッピング液に浸漬させた後に、コードに付着する余剰な処理液を除去するためにロールで絞るように加圧される。
ゴム補強用に用いられるコードの処理は特許文献1に記載の加工装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−140123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の加工装置では、絞り手段の絞りロールの形成する挟持部に対して、コードの通過位置が同一なため、絞りロールに局所的な凹凸が発生してしまう。例えば、凹凸は、絞りロールが局所的に摩耗することや、ディッピング液が固着することにより生じてしまう。特に絞りロールの少なくとも一方が軟質の場合、摩耗欠損によってこのロールに窪みが生じ、この窪みにコードがはまり込んでしまい、コードの表面のディッピング液を絞り取るための絞り量が加工装置の運転時間の経過とともに少なくなり、ディッピングコード表面の品質にバラツキが生じるなどの問題がある。
【0005】
本発明は、前記課題を解決するため、絞りロールの局所的な摩耗を防ぎ、ディッピングコードの品質を向上させるコードの加工装置及び加工コードの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の形態としては、直線状に搬送されるコードにディッピング液を塗布するディッピング手段と、このディッピング手段を経たコードを挟持部で挟持してこのコードに加圧力を加えてディッピング液を絞り取る絞り手段を備えたコード加工装置において、上記搬送されるコードの位置が、上記絞り手段の挟持部に対しコードの位置を徐々に変更する位置変更手段を備える。
本発明によれば、絞り手段の挟持部に対しコードの位置を徐々に変更する位置変更手段を備えたことにより、絞り手段の挟持部においてコードに加圧力を加えてディッピング液を絞り取りつつ、挟持部で挟持されるコードの位置を変更させることができる。絞り手段の挟持部の局所的な摩耗を防ぎ、ディッピングコードの品質を向上させることができる。また、絞りロールが使用される寿命を延長させることができる。
【0007】
本発明の他の形態としては、上記絞り手段は、第1ロールと第2ロールとの間の挟持部でコードを挟持して加圧する。
本発明によれば、絞り手段が、第1ロールと第2ロールとの間の挟持部でコードを挟んで加圧することにより、コードを搬送しつつスムーズに加圧することができる。
【0008】
本発明の他の形態としては、上記第1ロールと第2ロールは、一方のロールのロール表面が硬質材で形成され、他方のロールのロール表面が軟質材で形成される。
本発明によれば、第1ロールと第2ロールは、一方のロールのロール表面が硬質材で形成され、他方のロールのロール表面が軟質材で形成されることにより、第1ロールと第2ロールがコードを加圧すると、硬質材のロールがコードを軟質材に押付け、押付けられた軟質材が変形してコードが局所的に加圧されることを防ぐ。また、硬質材のロールに比べて軟質材のロールが早く摩耗するので、ロールが摩耗したときに軟質材のロールのみ交換すれば良い。
【0009】
本発明の他の形態としては、上記位置変更手段は、上記絞り手段の備える第1ロールと第2ロールの間の挟持部と平行な方向にコードを移動させる。
本発明によれば、位置変更手段が、絞り手段の備える第1ロールと第2ロールの間の挟持部と平行な方向にコードを移動させることにより、絞り手段の第1ロールと第2ロールの間の挟持部に対してコードが一つの位置に留まることなく挟持部と平行に移動できる。
【0010】
本発明の他の形態としては、上記位置変更手段は、搬送されるコードが介在される間隙を有する櫛状のガイドピンを有するガイド部材によって構成され、コードを搬送方向に対し交差する方向に往復移動するようにガイドする。
本発明によれば、位置変更手段が、間隙を有する櫛状のガイド部材によってコードを往復移動させるようにガイドすることにより、コードは、ガイド部材のガイド方向(交差する方向)に往復移動することができる。
【0011】
本発明の他の形態としては、上記間隙は、搬送されるコードの直径の2倍以下に設定される。
本発明によれば、間隙が、搬送されるコードの直径の2倍以下に設定されることにより、コードをガイドする間隙の距離が小さいため、ガイド部材の移動方向が変更されるときでも、ガイド部材の移動に遅れることなくコードをガイドすることができる。
【0012】
本発明の他の形態としては、直線状に搬送されるコードにディッピング液を塗布するディッピング工程と、このディッピング工程を経たコードを挟持部で挟持してこのコードに加圧力を加えてディッピング液を絞り取る絞り工程とを有する加工コードの製造方法において、上記絞り工程の挟持部に対しコードの位置を徐々に変更する位置変更工程を有する。
本発明によれば、コードの位置を変更する位置変更手段を有することにより、絞り手段の挟持部に対して搬送されるコードの位置を変更することができる。
【0013】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴のすべてを列挙したものではなく、これらの特徴群の組合せもまた、発明となり得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係るタイヤ構造断面図。
【図2】本発明の実施形態1に係るコード加工装置の概略工程側面図。
【図3】本発明の実施形態1に係るコード加工装置の概略工程上面図。
【図4】本発明の実施形態1に係る位置変更手段及びガイド部材の拡大側面図。
【図5】本発明の実施形態1に係る絞り手段正面図。
【図6】本発明の実施形態1に係る位置変更手段作用図。
【図7】本発明の実施形態1に係る位置変更手段作用図。
【図8】本発明の実施形態1に係る位置変更手段作用図。
【図9】本発明の実施形態1に係る位置変更手段作用図。
【図10】本発明の実施形態2に係るガイド部材を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施形態1
以下、本発明の実施形態1について説明する。
図1は、本発明に係るコード加工装置により加工されるコードが用いられる例としてタイヤTの概略断面図を示す。タイヤTは、概略、インナーライナーT1、カーカスT2、ベルトT3、ビードコードT4、ビードフィラーT5などによって構成される。
インナーライナーT1は、タイヤTの内圧を保持して空気がタイヤT内部から漏れないようにタイヤTの内圧を保持するためのゴム層である。
【0016】
カーカスT2は、プライコードT6と呼ばれる繊維コード10やスチールコードを骨格としてカーカスゴムに接着して形成される。繊維コード10としては、ポリエステルやレーヨンが多く用いられる。カーカスT2の補強材に使用される繊維コード10は、すだれ状に加工されて繊維コード補強材となる。このすだれ状の繊維コード補強材に対して両面からゴム部材を加熱しながら加圧することによりカーカスT2が形成される。カーカスT2に求められる性能は、繰り返しの屈曲変形を受けてもカーカスゴムと繊維コード10との密着性を保持し、耐熱性に優れていることである。カーカスT2は、タイヤTのビード部において外側に折り返されビードコードT4とビードフィラーT5を包み込むように形成される。
【0017】
ベルトT3は、カーカスT2の中央上部に配置され、タイヤTの内圧や回転による変形を抑え、路面からの入力を受け止めて衝撃を緩和する役目を持つ。ベルトT3の補強用コードの素材には、レーヨン、ポリエステル、ガラス繊維が用いられていたが、最近ではほとんどスチールコードが用いられている。このベルトT3は、ベルトゴムとスチールコードとを接着して形成される。ベルトT3に求められる性能は、ベルトT3の端部で繰り返しせん断方向の力を受けても、ベルトゴムとスチールコードとの密着性を保持し、耐熱性に優れていることである。
【0018】
ビードコードT4は、スチールコードなどからなり、ホイールリムとの内圧を保持し、回転するタイヤTに作用するトルクに対してタイヤTとホイールリムとの間に滑りが生じないようにタイヤTをホイールリムに固定する役割を果たしている。このビードコードT4の周囲には、ゴムを基本素材とするビードフィラーT5が設けられる。
【0019】
ビードフィラーT5は、硬質や軟質のゴムからなる部材で、ビード部におけるカーカスT2の折り返し部分を満たしてビード部分の補強部材の役割を果たす。
上述したように、タイヤTは、タイヤTを構成する各部のゴム部材を繊維コード10やスチールコードによって補強するFRR(ファイバー・レインフォースド・ラバー)構造によって必要な強度が達成される。
【0020】
これら繊維コード10やスチールコードは、上述したベルトゴムやカーカスゴムなどとの密着性を向上させるために、図2に示すようなコード加工装置1によって加工される。
図2は、コード加工装置1において繊維コード10に加工を施す加工開始から加工終了までの一連の工程の概略を示している。
繊維コード10は、繊維コード10とカーカスゴムとの密着が促進するように、ディッピング液41としての接着溶剤が満たされた浴槽42に搬送されながらディッピングするディッピング手段40により接着溶剤のコーティング処理が施される。
【0021】
図2、図3は、本発明に係るコードに加工を施すコード加工装置1を概略的に示す概略工程図を示し、図2は概略工程図の側面図、図3は概略工程図の上面図である。
図2、図3を用いて全工程の概略を説明する。なお、コード加工装置1によって加工されるコードは、繊維を素材とする撚り線の繊維コード10として説明する。
【0022】
繊維コード10の加工は、ボビン36に巻付けられた撚り線の繊維コード10をボビン36から巻出す巻出し手段35から直線状に平行を保って最終工程まで搬送される。
次の工程では、ディップロール9を有し、繊維コード10を平行状態に保ちつつ一方向に搬送される複数本の繊維コード10をディッピング液41に浸漬するディッピング手段40による処理がなされる。
次の工程では、トラバーサー51及びガイド部材55を有するディッピングされた複数本の繊維コード10をコード搬送方向に対し交差する方向、本形態では直角方向に繊維コード10を往復移動させて位置を変更する位置変更手段50が設けられる。
次の工程では、第1ロール61と第2ロール62を有し、その間に形成される挟持部63で繊維コード10を挟んで加圧しディッピング液41を絞り取る絞り手段60が設けられる。
次の工程では、ディッピング液41が浸漬された複数本のコードを乾燥させる乾燥装置66を有する乾燥手段65が設けられる。
次の工程では、ボビン71を有し、乾燥した複数本の繊維コード10を巻取り手段70によって巻取ることにより繊維コード10の加工の工程が終了する。
なお、各工程の間には図示しない自在に回転可能な搬送ロールが適宜設けられ、各手段35、50、65などへの搬入、搬出を容易にしている。
【0023】
巻出し手段35では、加工される繊維コード10が巻付けられているボビン36から繊維コード10が巻出される。
巻出し手段35は、図外のターレットにボビン36が2つセットされ、一方の巻出しが終了すると、ターレットを回転させて他方のボビン36を巻出し位置に配置して繊維コード10を巻出すことにより巻出しが継続的に行われる。なお、ターレットは搬送される繊維コード10の本数と同じ個数が用意される。
【0024】
ディッピング手段40は、繊維コード10にディッピング液41としての接着溶剤を浸漬させる。ディッピング手段40において繊維コード10は、平行状態を保ちつつ一方向に搬送されたまま、ディップロール9にガイドされてディッピング液41が満たされた浴槽42に浸漬される。ディップロール9は、浴槽42に満たしたディッピング液41にディップロール9の一部が浸かるように配置される。これにより、ディップロール9にガイドされる繊維コード10は、搬送されたまま加工される。ディッピング手段40を経た繊維コード10は、位置変更手段50によってガイドされる。
【0025】
図4は、搬送される繊維コード10に位置変更手段50を配置した部分図及び部分拡大図を示す。図4に示すように、位置変更手段50は、搬送される繊維コード10が介在される間隙dを有する櫛状のガイドピン56を植設したガイド部材55より成り、ガイド部材55を繊維コード10の搬送方向に対し直角方向(ガイド部材55の長手方向)に、往復移動することによって繊維コード10が往復移動するようにガイドする。このガイド移動方向cは、後述する絞り手段60の備える第1ロール61と第2ロール62の間の挟持部63と平行な方向に繊維コード10を移動させる方向である。
【0026】
位置変更手段50は、トラバーサー51とガイド支持部材52とガイド部材55からなる。
トラバーサー51は、繊維コード10の搬送経路の脇に位置し、装置に取付けられるガイド支持部材52とガイド部材55をコード搬送方向に対して直角方向に往復移動させる往復運動を生成する装置である。
トラバーサー51の往復運動を生成する機構としては、リンク機構やカム機構などにより一方向に回転する回転運動を往復運動に変換しても良いし、ボールネジ機構によりモーターの回転を周期的に反転させて往復運動に変換しても良い。
また、直線的な往復運動だけでなく揺動運動でも良く、搬送される繊維コード10が、後述する絞り手段60の第1ロール61と第2ロール62の挟持部63と平行な方向に移動可能な機構であれば良い。
本構成によれば、位置変更手段50のガイド部材55がトラバーサー51により、コード搬送方向に対して直角方向に往復移動されることで、ガイド部材55にガイドされる繊維コード10を効率良くかつ、無理な力を掛けることなく往復移動させることができる。
なお、ガイド部材55をコード搬送方向に対して直角方向に往復移動するように構成したが、コード搬送方向に対して交差する方向に往復移動させて、搬送されるコードが搬送方向に対して直角方向に移動するようにしても良い。
【0027】
ガイド支持部材52は、一様幅の長手状の支持部材でトラバーサー51の往復運動をガイド部材55に伝達する。ガイド支持部材52の一端側は、トラバーサー51と結合、支持され、他端側にはガイド部材55のガイドピン56が上方を向くように下方から長尺材57と結合してガイド部材55を支持する。
【0028】
ガイド部材55は、後述する絞り手段60の第1ロール61と第2ロール62の挟持部63と平行な方向に繊維コード10が移動可能となるようにガイド支持部材52の上部に設けられる。ガイド部材55は、各繊維コード10の下部位置に位置され、かつ繊維コード10の直線状の搬送方向に対し、直角方向に延長する長尺材57と、この長尺材57に基部が植設された複数のガイドピン56を備える。ガイドピン56同士の間隙が間隙dとなるように等間隔に一列に配置して櫛状に形成される。
ガイドピン56の形状は、外周面が円筒形状のものを用いたが、形状はこの限りではなく、繊維コード10を傷つけずに滑らかにガイド可能なように形成されれば良い。
一列に配置されたガイドピン56の隣接するガイドピン56同士の間隙dには、繊維コード10がそれぞれガイドされるように掛けられる。隣接するガイドピン56同士は、間隙dを繊維コード10のコード並び幅Laよりも小さく、かつ搬送される繊維コード10が常にガイドピン56と接触しない大きさを有する。ガイドピン56の直径A、高さB及びガイドピン間隔Cは、繊維コード10をガイド可能な大きさ及び間隔で適宜選べば良い。
ガイドピン56の素材としては、表面が滑らかかつ耐摩耗性に優れた素材又はそのような加工が可能なものが好ましく、例えば軽金属などにメッキ処理を施せば良い。
【0029】
位置変更手段50の次に繊維コード10に加圧力を加えてディッピング液41を絞り取る絞り手段60が設けられる。
図5は、絞り手段60の挟持部63で挟持される繊維コード10を示す。
絞り手段60は、第1ロール61と第2ロール62からなる。一方の第1ロール61のロール表面61aが硬質材で形成され、他方の第2ロール62のロール表面62aが軟質材で形成される。例えば、ロール表面61aの硬質材は、ステンレスなどの耐摩耗性に優れた素材を用い、ロール表面62aの軟質材は、硬質ゴムなどの適度に加圧できる素材を用いて、繊維コード10に対する攻撃性を緩和しつつ加圧するような組合せにすれば良い。
第1ロール61と第2ロール62の間で、繊維コード10を挟持して絞る挟持部63が構成され、この挟持部63は、繊維コード10の搬送方向に対し直角方向に延長している。挟持部63は、繊維コード10の直径Dよりも小さい隙間となるように第1ロール61と第2ロール62とにより形成される。
【0030】
第1ロール61と第2ロール62の加圧力は、それぞれ回転しながら挟持部63で繊維コード10を挟持することにより得られる。例えば、第1ロール61と第2ロール62の互いの回転軸をバネなどで結合すれば、バネの復元力により一定の加圧力を得ることができる。なお、繊維コード10を加圧する方法は、上記の方法には限らない。
【0031】
図6〜図9は、ディッピング手段40から絞り手段60までの工程における位置変更手段50の移動に伴う絞り手段60への繊維コード10の作用を示す。なお、適宜図5を用いて説明する。図6は、位置変更手段50上を直線状に搬送される繊維コード10を示す。
図6に示すように、ガイド部材55に掛けられた各繊維コード10は、ガイドピン56,56の間の間隙dでそれぞれガイドされるように掛けられる。
例えば、ガイド部材55のガイドピン56aとガイドピン56bとの間隙dに繊維コード10aがガイドされるように掛けられる。
【0032】
図7は位置変更手段50のガイド部材55により繊維コード10が−y方向に位置変更される図を示す。なお、図中のxは繊維コード10の搬送方向、+yは繊維コード10の搬送方向に対し直角方向(ガイド移動方向c)で、かつ搬送方向に対し右方向であり、−yはその左方向を示す。
図7に示すように、ガイド部材55が、ガイド移動方向cの−y方向に移動すると、繊維コード10はガイドピン56に当接してガイド部材55の−y方向へ搬送位置が変更される。これに伴い、図5に示すように、絞り手段60の第1ロール61と第2ロール62の挟持部63で加圧される繊維コード10は、−y方向に距離m移動する。この繊維コード10を移動させる距離mが、繊維コード10のコード並び幅Laの半分以上の距離となるようにガイド部材55を−y方向へ移動させる。すなわち、繊維コード10の位置が、挟持部63に対し平行方向に変更される。
【0033】
挟持部63で加圧される繊維コード10が、繊維コード10のコード並び幅Laの半分以上の位置まで移動したガイド部材55は、トラバーサー51の働きにより移動方向を反転させる。この移動方向の反転に伴い、ガイドピン56bによって−y方向に移動していた繊維コード10aは、ガイドピン56bの+y方向への移動に追従しながら、直線状に搬送される位置まで戻る。これは、直線状に搬送されようと繊維コード10に作用する張力によるものである。したがって、挟持部63で加圧される繊維コード10も直線状に搬送される位置まで戻ることになる。
【0034】
直線状に搬送される位置まで戻った繊維コード10aは、+y方向に移動を続けるガイド部材55のガイドピン56aが当接するまで、直線状に搬送されたまま待機する待機時間が生じる。
図4の拡大図を用いてこの待機時間について説明する。待機時間は、ガイドピン56aとガイドピン56bの間隙dが、繊維コード10の直径Dに対して広い場合に生じる。ガイドピン56bが+y方向に移動するときに、繊維コード10aは、ガイドピン56bに当接しながら直線状に搬送される位置まで戻ろうとする。そして繊維コード10aが直線状に搬送される位置に戻ったときに、繊維コード10aは、ガイドピン56bから離れる。つまりガイドピン56bから離れたときからガイドピン56aに当接するまでの時間が待機時間となる。
待機時間は、ガイドピン56aとガイドピン56bとの間隙dから繊維コード10aの直径Dを減じて、ガイド部材55のy方向への移動速度Vで除すことにより得られる。
ここで待機時間をtとすれば、t=(d−D)/Vとなる。なお、待機時間は、−y方向にガイド部材55が移動するときにも同様に生じる。
この待機時間をなくすためには、間隙dを、搬送される繊維コード10の直径Dの2倍以下に設定すると良い。
【0035】
y方向に移動を続けたガイド部材55は、直線状に搬送される繊維コード10に対してガイドピン56を当接させて、繊維コード10とともにy方向に移動を開始する。これに伴い、挟持部63で加圧される繊維コード10の位置もy方向に移動させられる。
【0036】
図8は、位置変更手段50のガイド部材55とともに繊維コード10が+y方向に移動した図を示す。
上述した−y方向への移動と同様に、挟持部63で加圧される繊維コード10の位置が、直線状に搬送されるときのコード並び幅Laの半分以上の距離まで+y方向に移動したガイド部材55は、トラバーサー51の働きにより移動方向を−y方向に変更する。この反転に伴い、ガイドピン56aによって+y方向に移動した繊維コード10aは、ガイドピン56aの−y方向への移動に追従するように、直線状に搬送される図6の位置まで戻る。したがって、挟持部63で加圧される繊維コード10も図6の位置まで戻る。
【0037】
図9は、図7及び図8で示したガイド部材55の移動により、挟持部63で加圧される繊維コード10の位置が変更される範囲を示す。
上述したように、ガイド部材55が、−y方向から+y方向へ、+y方向から−y方向へ往復移動して、挟持部63で挟持される繊維コード10を直線状に搬送される位置から距離m、距離n移動させる。本発明において、この移動する距離m、距離nがコード並び幅Laの半分以上の距離に設定され、繊維コード10が、第1ロール61と第2ロール62との挟持部63と平行な方向に常に移動することによりロールの局所的な摩耗を防ぎ、ロールを徐々に、均一に摩耗させて、ロールの交換寿命を延ばすことができる。その結果、本発明により加圧される繊維コード10は、良好な絞りが得られ、均質かつ良質な加工済みの繊維コードになる。
【0038】
絞り手段60を経た繊維コード10は、乾燥手段65で乾燥される。
乾燥手段65は、乾燥装置66を備え、ディッピングすることにより浸漬された繊維コード10のディッピング液41を乾燥させる工程である。この乾燥手段65も、ディッピング手段40と同様に繊維コード10を搬送したまま行われる。ディッピングされた繊維コード10は、乾燥手段65により十分乾燥された後、巻取り手段70により巻取られる。
【0039】
巻取り手段70では、ディッピング加工済みの繊維コード10をボビン71に巻取る。ボビン71に巻取られた繊維コード10は、後の工程で用いられるディッピング加工済みコード部材となる。このボビン71への巻取りによりコード加工装置1における繊維コード10を加工するすべての工程が終了する。
【0040】
実施形態2
図10は、本発明に係る他の実施形態を示す。なお、実施形態1と同一の工程や手段については説明を省略する。実施形態2では、実施形態1と同一構成からなるコード加工装置1の位置変更手段50に設けられるガイド部材55が、効率良く繊維コード10を移動させるようにガイドピン56を配置した点にある。つまり、実施形態1の位置変更手段50で配置されたガイドピン56の配置を変更した点で異なる。
【0041】
実施形態2では、繊維コード10をガイドするガイドピン56,56の間隙dが狭くなるように設ける。間隙dを狭くする方法としては、実施形態1で示したガイドピン56の配置で、間隙dを狭くするようにガイドピン56を太くする方法が考えられる。この場合、搬送される繊維コード10のコード並び幅Laが狭いときには有効である。しかし、コード並び幅Laが広く設定されている場合には、ガイドピン56を太くして一列に配置する方法ではガイド部材55も大きくなってしまう。そこで実施形態2では、ガイドピン56を太くすることなく、繊維コード10をガイドするためにガイドピン56を千鳥状に長尺材57に植設して繊維コード10を搬送方向に対して直角方向に往復移動するようにガイドさせる。
【0042】
図10に示すように、繊維コード10の搬送方向にガイドピン56aとガイドピン56bによって形成される間隙dが、繊維コード10の直径Dの倍となるように千鳥状に長尺材57に植設する。このガイド部材55を繊維コード10の搬送方向に対して直角に配置する。
【0043】
直角に配置されたガイド部材55に対して繊維コード10を次のように掛ける。繊維コード10aはガイドピン56aとガイドピン56bの間に掛けられる。繊維コード10bはガイドピン56cとガイドピン56dとの間に掛けられる。以下同様に、繊維コード10は、コード並び幅Laの間にガイドピン56が2本介在するように掛けられる。
【0044】
実施形態2のようにガイド部材55にガイドピン56を設けることにより、実施形態1で示したガイド部材55のような、繊維コード10の位置を変更するときの待機時間がほとんど生じることがない。本実施形態2で生じる待機時間tは、ガイド部材55の移動速度をVとすると、t=(d−D)/Vであり、d=2Dより、t=D/Vである。ガイド部材55の移動方向の変更によって生じる待機時間を減少させるためには、繊維コード10をガイドするガイドピン56の間隙dが、繊維コード10の直径Dの2倍以下となるように設定すると良い。
【0045】
千鳥状にガイドピン56を長尺材57に植設したガイド部材55が、搬送方向に対し直角方向に往復移動して繊維コード10をガイドすることにより、搬送される繊維コード10を常に絞り手段60の第1ロール61と第2ロール62の間の挟持部63と平行な方向に移動させて、挟持部63において挟持される繊維コード10の位置を徐々に変更させることができる。
【0046】
したがって、ガイド部材55の往復移動する距離が、挟持部63の第1ロール61と第2ロール62とによって挟持される繊維コード10の位置が変更される距離よりも、コード並び幅Laの半分以上の距離に設定され、常に移動することによりロールの局所的な摩耗を防ぎ、ロールを徐々に、均一に摩耗させて、ロールの交換寿命を延ばすことができる。その結果、実施形態1と同様に、加圧される繊維コード10は、良好な絞りが得られ、均質かつ良質な加工済み繊維コードになる。
【0047】
以上、本発明を実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。上記実施形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0048】
1 コード加工装置、10 繊維コード、40 ディッピング手段、
41 ディッピング液、50 位置変更手段、51 トラバーサー、
52 ガイド支持部材、55 ガイド部材、56 ガイドピン、60 絞り手段、
61 第1ロール、62 第2ロール、63 挟持部、T タイヤ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線状に搬送されるコードにディッピング液を塗布するディッピング手段と、このディッピング手段を経たコードを挟持部で挟持してこのコードに加圧力を加えてディッピング液を絞り取る絞り手段を備えたコード加工装置において、上記搬送されるコードの位置が、上記絞り手段の挟持部に対しコードの位置を徐々に変更する位置変更手段を備えたことを特徴とするコード加工装置。
【請求項2】
上記絞り手段は、第1ロールと第2ロールとの間の挟持部でコードを挟持して加圧することを特徴とする請求項1に記載のコード加工装置。
【請求項3】
上記第1ロールと第2ロールは、一方のロールのロール表面が硬質材で形成され、他方のロールのロール表面が軟質材で形成されることを特徴とする請求項2に記載のコード加工装置。
【請求項4】
上記位置変更手段は、上記絞り手段の備える第1ロールと第2ロールの間の挟持部と平行な方向にコードを移動させることを特徴とする請求項2に記載のコード加工装置。
【請求項5】
上記位置変更手段は、搬送されるコードが介在される間隙を有する櫛状のガイドピンを有するガイド部材によって構成され、コードを搬送方向に対し交差する方向に往復移動するようにガイドすることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のコード加工装置。
【請求項6】
上記間隙は、搬送されるコードの直径の2倍以下に設定されることを特徴とする請求項5に記載のコード加工装置。
【請求項7】
直線状に搬送されるコードにディッピング液を塗布するディッピング工程と、このディッピング工程を経たコードを挟持部で挟持してこのコードに加圧力を加えてディッピング液を絞り取る絞り工程とを有する加工コードの製造方法において、上記絞り工程の挟持部に対しコードの位置を徐々に変更する位置変更工程を有することを特徴とする加工コードの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2010−168674(P2010−168674A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−10225(P2009−10225)
【出願日】平成21年1月20日(2009.1.20)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】