説明

コーヒーアロマを増強する硫黄化合物及びそれを含む生成製品

食物又は飲物中に提供されるコーヒーフレーバーの官能性を増大させるのに十分な量の1種又は複数の直鎖C〜Cメルカプトアルカノンの方法及び使用。この化合物を使用して、可溶性コーヒー粉末の製造中に少なくとも一部分取り去られたフレーバー又はアロマを補充し、又は増強することができる。アロマ提供化合物を可溶性コーヒー粉末に加えてから、アロマ提供化合物を、食物又は飲物中のコーヒーフレーバーを増大させるのに十分な量で食物又は飲物に組み込む又は加えることができる。こうしたアロマ提供物質のうちの1種又は複数を含む食品及び飲物も含まれる。最終製品で望まれるフレーバー特性及びアロマに応じて、他のアロマ提供物質を食品及び飲物に加えることができる。本発明で使用する特に適切な追加用アロマ提供化合物は、4−メトキシ−2−メチルブタン−2−チオールのみ、又はそれとコーヒーの芳香を含む他の硫黄を組み合わせたものであることが分かった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食物又は飲物中に提供されるコーヒーフレーバーの官能特性を増大させる直鎖C〜Cメルカプト−アルカノンの方法及び使用、並びにそれらを含む食物及び飲物に関する。
【背景技術】
【0002】
消費者は、あるアロマとある製品とを関連付けるので、多くの製品にとってアロマは重要である。製品がその製品に関連するアロマを欠く場合、製品に対する消費者の感覚に悪影響を及ぼす。このことは、特に、コーヒーフレーバー又はアロマを含む可溶性コーヒー粉末並びに飲物及び食物製品の分野で問題であるが、他の分野でも存在する。抽出、濃縮及び乾燥を含む工業的方法から得られる可溶性コーヒー粉末は、通常実質的にはアロマを有さない。この理由から、可溶性コーヒー粉末の加工中に逸散するコーヒーアロマを回収し、こうしたアロマを濃縮コーヒー抽出物中に再び加えてから可溶性コーヒー粉末を乾燥させるのが慣例である。
【0003】
コーヒーアロマは、通常、可溶性コーヒー粉末の加工中いくつかの段階で、例えば、コーヒー抽出物を水蒸気ストリッピングしてから濃縮し、可溶性コーヒー固形物を乾燥することによって回収される。
【0004】
アロマの回収方法の例は、米国特許第3,535,118号及び国際特許出願公開WO97/10721に記載されている。こうした方法で起こり得る問題の1つは、淹れたてのコーヒーで得られるアロマの成分のすべてが、加工中に捕集されるのではないことである。いくつかのアロマ成分が、失われる。これらの成分をインスタントコーヒー粉末に加えた場合、インスタントコーヒー粉末から調製される飲物のアロマが改善される。さらに、従来の回収技術の多くは、アロマ成分を損ない若しくは変質させ、又はコーヒー抽出物若しくは固形物としばしば接触するアロマ化合物は、回収された水性アロマの保存中に分解される。
【0005】
様々な特許が、ある種のフレーバー付与組成物又はアロマ抽出法を開示している。米国特許第3,540,889号は、パーコレートしたコーヒーに周知の化合物のメチルメルカプタンを加えてから乾燥することによって可溶性コーヒーのフレーバーを増強することを開示している。
【0006】
米国特許第3,713,848号は、少なくとも1種の分鎖アルカンチオールを加えて食材のフレーバーを変えることにより食材フレーバーを改変する方法を開示している。提供されるフレーバーは、精製した豚肉の脂身又は鶏肉の脂身の特徴で例示される焼かれた肉のフレーバーであると述べられており、それらのうちのいくつかは、焼かれたタマネギの特徴も有する。
【0007】
米国特許第3,773,524号は、あるα−ケトチオール、特に2−メルカプト−3−ブタノンを使用して、食材に肉フレーバー及びアロマを付与することを開示している。
【0008】
米国特許第3,873,746号は、メチルメルカプタンを過剰なカルボニル化合物と反応させ、さらに加工を施し、反応物をコーヒー製品に加えることによって、合成コーヒーアロマ組成物を使用したアロマ付与コーヒーを製造する新規な方法を開示している。
【0009】
米国特許第3,892,878号は、特定の式のアルカンジチオール、メルカプトアルカノール、アルカンジメルカプト硫化物、又はアルカンヒドロキシメルカプト硫化物を使用して、特に肉及び鶏肉フレーバー組成物のための、主に肉、肝臓、タマネギ、及び/又はニンニクフレーバー、並びに乳製品及び果物フレーバーを提供することで食材のフレーバーを変えることを開示している。
【0010】
米国特許第4,224,351号は、シクロヘキサノンチオールと、香料中の着香剤及び芳香改質剤として、また天然の又はインスタントのコーヒーの焙煎及び/又は焙焼特性を増強することを含むフレーバー付与及び風味改質剤としてのシクロヘキサノンチオールの使用を開示している。
【0011】
米国特許第4,378,380号は、メチルメルカプタン、過剰モル濃度のカルボニル化合物、及びフルフリルメルカプタンを含む周知のコーヒー香味剤を、可溶性コーヒー固形物又はコーヒー様の固形粉末状食材と組み合わせることを開示している。
【0012】
米国特許第4,024,289号は、2−メルカプト−3−ペンタノンを含めたいくつかのα−オキシ(オキソ)メルカプタンのうちの1種を使用して食材の果物フレーバーを増強することを開示している。
【0013】
英国特許出願公開GB2116823Aは、4−メチル−4−メルカプト−2−ペンタノンを使用して、コーヒーを含めた食材のフレーバーを増強することを開示している。
【0014】
特開2001−128620は、無菌状態下でコーヒー及び茶飲料を製造するための回収フレーバーを教示している。ジュース、コーヒー、又は茶飲料を濃縮する際に、このフレーバー成分を回収する。次いで、この回収フレーバーは、メチオナール、メチルメルカプタン、フルフリルメルカプタン、ギ酸3−メルカプト−3−メチルブチル、2−イソブチル−3−メトキシピラジン、フラネオール、ソトロン、2,3−ブタンジオン、2,3−ペンタンジオン、ダマセノン、グアイアコール、4−ビニルグアイアコール、バニリン、(Z)−1,5−オクタジエン−3−オン、4−メトキシ−2−メチル−2−ブタンチオール、及び4−メルカプト−4−メチル−2−ペンタノンを含めた、前記特開に記載される1種又は複数の化合物と一緒にされ、同じ種類の茶又はコーヒー飲料に使用される。フルフリルチオール又はギ酸3−メルカプト−3−メチルブチルを含むコーヒーフレーバーが、特に開示されている。
【0015】
国際公開WO02/076239は、コーヒーアロマなどのアロマ提供成分を、保管中に所望のフレーバー若しくはアロマが損失又は分解しないように安定化する方法を教示している。安定化剤をアロマ提供成分に含めて、望ましくない化合物と化学的に相互作用させて、安定なアロマ提供成分を形成させる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
様々な着香剤、フレーバー付与、及びアロマ化合物、並びに改良されたアロマを有する様々なコーヒー製品があるにもかかわらず、食物又は飲物中に提供されるコーヒーフレーバーの官能特性を増大させるのに十分な量で提供することのできる回収又は合成コーヒーアロマが依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、食物又は飲物中に提供されるコーヒーフレーバーの官能特性を増大させるのに十分な量のアロマ提供物質の使用に関する。このアロマ提供物質は、淹れたてのコーヒーから得られる、又はその中に存在するフレーバー若しくはアロマの一部分を与える。コーヒーフレーバー付与の官能特性を増大させるために、ある直鎖メルカプトアルカノンを単独で又は混合して使用した場合、驚くべき効果があることが今回分かった。こうした化合物のいくつかは、食物に肉のフレーバーを付与するための添加剤として提案されているが、コーヒーフレーバーの官能特性を増大させる性質を有するとは予想できなかった。
【0018】
したがって、第1の実施形態では、本発明は、食物又は飲物中に提供されるコーヒーフレーバーの官能特性を増大させるのに十分な量のアロマ提供物質の使用であって、アロマ提供物質が直鎖C〜Cメルカプトアルカノン類又はその2種以上の混合物であることを特徴とする使用を提供する。直鎖C〜Cメルカプトアルカノン類は、好ましくは3−メルカプト−2−ブタノン、2−メルカプト−3−ペンタノン及び3−メルカプト−2−ペンタノンのうちの1種又は複数である。
【0019】
本発明はさらに、食品又は飲料中に提供されるコーヒーフレーバーの官能特性を増大させる方法において、食品又は飲料を提供すること、及び食品又は飲料のコーヒーフレーバーを増大させるのに十分な量の少なくとも1種のアロマ提供物質を食品又は飲料中に加える又は組み込むことを含む方法であって、アロマ提供物質が、直鎖C〜Cメルカプトアルカノン類又はその2種以上の混合物であることを特徴とする方法に関する。本発明はさらに、増強された官能特性を有し、こうした方法によって得られる食品又は飲料に関する。
【0020】
一実施形態では、消費可能な成分として、還元(reconstitutable)飲料、即席(ready−to−drink)飲料、アルコール飲料、パン生地をベースとする製品、冷凍菓子製品、チョコレート若しくはその類似物、シリアル、又は塗布可能な乳製品若しくは乳製品の代用品、或いはそのいずれの混合物を組み込んだ食品又は飲料が挙げられる。
【0021】
上述の実施形態の各々は、本発明の食物又は飲物及び方法に等しく適用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
コーヒーフレーバーの基本的な分析研究に基づいて、有利な直鎖C〜Cメルカプトアルカノン類を含めて5種の硫黄化合物がコーヒー中で初めて同定された(表1、実施例1も参照)。(同じコーヒーブレンドから得た)コーヒー飲料(brew)と可溶性コーヒーの定量分析から、3−メルカプト−2−ブタノン、3−メルカプト−2−ペンタノンと2−メルカプト−3−ペンタノンの混合物、及び4−メトキシ−2−メチル−ブタン−2−チオールが、この飲料中に著しく高い濃度で存在することが明らかになった。前記硫黄化合物を含む単離したコーヒーに加えて、こうした化合物の天然の同じバージョンを、例えば、コーヒー飲料とそれに対応する可溶性コーヒーとの間に見られる差に関係する濃度で使用することができる。こうした化合物は、驚くべきことに、増強された又は強化されたコーヒーフレーバーを有する食品及び飲物を製造する際に役立つ。好ましいメルカプトアルカノンは、3−メルカプト−2−ブタノン、2−メルカプト−3−ペンタノン、3−メルカプト−2−ペンタノン、及びその2種以上の混合物である。理想的には、このメルカプトアルカノンを、猫臭(catty)−硫黄臭、果物風味、焙煎風味、芳香特性を付与して食物又は飲物の淹れたてコーヒー官能特性を増大させるのに十分な量で使用する。
【0023】
メルカプトアルカノンのうちの1種又は複数を、食品又は飲料中に可溶性コーヒー粉末を加える又は組み込むことにより、食物又は飲物中に提供されるコーヒーフレーバーの官能特性を増大させるのに十分な量で使用することが好ましい。メルカプトアルカノンが、可溶性コーヒー粉末の従来法による製造中に少なくとも一部分除去され又は破壊されたフレーバー又はアロマを補充することが好ましい。このアロマ提供化合物は、通常可溶性コーヒー粉末に加え、このように加えるとき、この化合物を、通常、食品又は飲料中のコーヒーフレーバーを増大させるのに十分な量で食品又は飲料に組み込み又は加える。
【0024】
このアロマ提供物質は、米国特許第6,455,093号及び同第6,592,922号に記載される技術を含めて、当業者に周知の利用可能な技術によって合成又は単離することができる。これらの特許の各々をその明示の参照により本明細書に組み込む。こうしたアロマ提供物質は、コーヒー粉砕物中に存在し、この粉砕物から極少量回収することができ、したがって、アロマ提供化合物を単離する際に、このアロマ提供化合物を希釈し、改質させ、又はそれと反応する可能性がある他の化合物でこのアロマ提供化合物が汚染されるのを回避するように注意すべきである。好ましくは、単離した各アロマ提供物質化合物は、少なくともほぼ純粋である。
【0025】
追加のアロマ提供物質をメルカプトアルカノンと組み合わせて使用して、食品又は飲料のアロマ特性を改変させることがしばしば望まれる。したがって、メルカプトアルカノンは、猫臭−硫黄臭、果物風味、焙煎風味を提供し、特に、4−メトキシ−2−メチルブタン−2−チオールによって提供されるブラックカラント−硫黄臭及び果物風味特性によってそれを補充する。したがって、好ましい実施形態では、直鎖C〜Cメルカプトアルカノン類のうちの1種又は複数を、4−メトキシ−2−メチルブタン−2−チオール、並びに/又は化合物4−メルカプト−4−メチル−2−ペンタノン、メチオナール、及び4メルカプト−4−メチルブチルホルマートのうちの1種若しくは複数と組み合わせて使用する。
【0026】
ある食物又は飲物では、メルカプトアルカノンを、ビス−(メチルチオ)メタン、1−メチルチオ−1−エタンチオール、3−メルカプト−3−メチルブタン−2−オン;硫黄化合物、ピラジン、グアイアコール、フラノン、アルデヒド、ジケトンなどコーヒー中に存在する周知の主要なアロマ化合物のいずれか、並びにこれらのうちの2種以上の混合物などの追加コーヒーアロマ物質と混合して使用することさえ可能である。
【0027】
コーヒー中のメルカプトアルカノンの同定は、例えば、質量スペクトル、ガスクロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー/オルファクトメトリー、芳香品質、RI指数、標準のコクロマトグラフィーなど、又はその組合せを使用して当業者により確認することができる。
【0028】
本発明で使用されるアロマ提供メルカプトアルカノンは、当業者に利用可能などんな種類の食品又は飲料の調製において使用することもできる。理想的には、その調製は、食品又は飲物のコーヒーフレーバーを所望のレベルに増大させるのに十分な量のアロマ提供メルカプトアルカノン化合物の1種又は複数を、この食品や飲物製品など消費可能な成分と一緒にすることを含む。「消費可能な成分」とは、通常、例えば、還元飲料、コーヒーミックス、即席飲料、アルコール飲料、パン生地をベースとする製品、冷凍菓子製品、チョコレート若しくはその類似品、シリアル、又は塗布可能な乳製品若しくは乳製品の代用品、或いはそのいずれの混合物を含めた食物若しくは飲料である。
【0029】
本発明に従って調製できる飲物には、即席コーヒー飲料、粉末コーヒー飲料、コーヒーフレーバー付きアルコール飲料、コーヒーフレーバー付きワインクーラー若しくはカクテル、コーヒーフレーバーを有する新鮮なミルク、還元(reconstitutable)ミルク、若しくは他のタイプのミルク、コーヒーフレーバーを有する炭酸清涼飲料など、又はそのいずれの組合せなど、任意のコーヒーフレーバー付き飲物、又はコーヒーアロマ若しくはフレーバーを有する飲物が含まれる。
【0030】
本発明に従って調製してコーヒーフレーバーを増大させることができる食品には、ケーキ、クッキー、ブラウニー、及び砂糖でコーティングした若しくはコーティングしていないウエハースを含めたパン生地をベースとする製品;シャーベット及びアイスクリームを含めた冷凍菓子製品;チョコレート、チョコレート類似物、又は他の非冷凍菓子製品及び類似物;シリアル;粗挽きの穀物(grit);ビスケット;ベイグル;マフィン;ビスコット;パスタ;チーズ、クリームチーズ、ヨーグルト、バター、マーガリン、ピーナッツバターを含めたナッツをベースとするスプレッドなど塗布可能な食物又は他の乳製品若しくは非乳製品材料及び類似物;そのいずれの組合せなどのデザートが含まれる。一実施形態では、食品又は飲料は、コーヒー又はコーヒー関連製品、例えば、淹れたてのコーヒー、可溶性コーヒー粉末、粉ミルク及びクリームを含む3成分混合の(3−in−1)粉末コーヒー、アイスコーヒー、エスプレッソなどである。
【0031】
アロマ提供物質の十分な量がいくらであるかは、当業者には容易に明らかとなるように、とりわけ、少なくとも、含まれる1種又は複数の物質の種類、所望のコーヒーフレーバーの混合及び強さ、既に存在する他のコーヒーフレーバー付き成分からのフレーバーの強さ、食品又は飲料の存在量、及び製造される食物又は飲物の種類によって変わる。コスト上の問題、並びに加工、輸送及び保管条件も、十分な量がいくらであるかを決定する要因になる可能性がある。しかし、アロマ提供物質は、猫臭−硫黄臭、果物風味、焙煎風味、芳香特性を付与して食物又は飲物の淹れたてコーヒー官能特性を増大させるのに十分な量で存在することが好ましい。同様に、このアロマ提供物質が、4−メトキシ−2−メチルブタン−2−チオール、並びに/又は化合物4−メルカプト−4−メチル−2−ペンタノン、メチオナール及び4メルカプト−4−メチルブチルホルマートのうちの1種又は複数と混合して含まれる場合、果物風味、ブラックカラント−硫黄臭の芳香特性を付与して食物又は飲物の淹れたてコーヒー官能特性を増大させるのに十分な量でアロマ提供物質を使用することが好ましい。アロマ提供物質の適量は、典型的な食品又は飲料の約0.004ppbから約1ppmの間で変わり得るが、好ましくは食品又は飲料の0.5ppm未満、例えば、0.5ppb〜0.4ppmである。
【0032】
コーヒー自体から得られるアロマは不安定であることが知られており、いくつかの従来法を含めて、アロマを単離するための様々な努力が、本出願に記載されている。本発明のアロマ提供化合物は、合成し、又はコーヒー自体から抽出することができるので、驚くべきことに且つ思いがけずに、食物又は飲物、さらにはコーヒー飲物自体に、コーヒーに自然に存在するよりも多い量のアロマ提供化合物を提供することができる。このため、本発明のアロマ提供化合物を、食品又は飲料中に加える際、おおよそ天然の淹れたてコーヒーに比べて50〜220倍高い濃度で使用できるようになる。したがって、このアロマの一部分が、時間と共に不安定になり、又はコーヒーマトリックス及び/若しくは他のアロマ化合物によって覆い隠されてしまうとき、淹れたてのコーヒーアロマ又はフレーバーに見られるのと少なくとも同等の量をもたらすのに十分な量が食品又は飲料中に残り、適当な官能コーヒー特性が引き続き得られるようになる。
【0033】
商業上利用可能な任意の方法を使用して、アロマ提供物質を食品又は飲料中に加える間、及びその後も、アロマ提供物質の適当な安定性を確保することができる。特に適切な技術の1つには、アロマ提供化合物を別々に又は任意の組合せでカプセル化することが含まれる。カプセル化は、当業者に利用可能な適切な任意の技術、例えば、噴霧乾燥、真空凍結乾燥若しくは押出し、又はそれらの組合せによって実施することができる。
【0034】
このアロマ提供物質は、取扱い、安定性、並びに選択した食品又は飲料との混合を容易にするために、通常は、1種又は複数のキャリアと共に提供する。特に適切なキャリアとしては、好ましくは炭水化物ポリマーを含めて、1種又は複数の炭水化物材料が挙げられる。一例を挙げると、5%MCTオイルを含む又は含まない33DEコーンシロップ固形物(Glucidex IT33)などのマルトデキストリンは、アロマ提供物質又は他のこうした不安定な物質用の適切なキャリアとして働くことができる。
【0035】
1種又は複数の従来の成分を含むフレーバー付与剤やフレーバー強化剤などのフレーバー付与補助剤を、本発明のアロマ提供物質と共に使用することができることも理解されたい。例としては、飽和又は不飽和脂肪酸、及びアミノ酸;第一級アルコールや第二級アルコールなどのアルコール;エステル;アルデヒド及びケトンを含めたカルボニル化合物;ラクトン;グアイアコールなどのベンゼン誘導体を含めた環状有機物質;脂環式化合物;フラン、ピリジン、ピラジン、フラノンなどのヘテロ環式化合物;従来のタイプのチアゾール、チオール、スルフィド、ジスルフィドなどを含めた他の硫黄含有材料;グルタミン酸一ナトリウム、グアニル酸塩、イノシン酸塩などのフレーバー増強剤;バニリン、天然ゴムなど天然及び合成の香味料(flavorant);香辛料;ハーブ;アニス及びその油、アルカンナ根抽出物、月桂樹の葉、トウガラシ抽出物などを含めた精油及び抽出物;並びにその任意の組合せが挙げられる。
【0036】
特定のフレーバー付与補助剤は、本発明のアロマ化合物が提供される食品又は飲料の所望の最終量及び形態に応じて、固体、液体、又は両方とすることができる。好ましい一実施形態では、任意のフレーバー付与補助剤及びアロマ提供物質を、分散、混合などして、少なくともほぼ均一な媒体を提供する。フレーバー付与補助剤が存在する場合にはその選択及び量は、本発明に従って使用されるコーヒーアロマ提供物質を含む最終食品又は飲料において望まれる特定の官能特性に依存する。
【0037】
本発明はまた、こうした消費可能な製品用の包装に関する。食物若しくは飲物製品、又はその組合せなどの消費可能な製品を、既に一緒にした又は別個の容器に入れたアロマ提供化合物及び消費可能成分と共に調製し提供することができる。例えば、この消費可能な成分が、粉末又はその他の固形物であり、アロマ提供物質が、液体状、ペースト状、オイル状、又は他の流動可能な形である場合、それらを別々に、ただし好ましくは隣接させておくことが望ましいかもしれない。一実施形態では、アロマ提供物質及び消費可能成分を、取外し可能な仕切りによって分離された隣接する区画に提供する。好ましい実施形態では、この取外し可能な仕切りを適当な位置で壊して、アロマ提供物質と消費可能成分とを一緒になることができる。別の実施形態では、一方の少なくとも一部分は、固体又は粉末の形であり、もう一方の少なくとも一部分は、液体であり、それらを一緒にすることは容易である。この仕切りはまた、簡単に取外し又は開けることができ、さらなる補助により又は補助なしで、分離している部分を一緒にすることができる。重力又は振盪を用いて、分離している成分の混合を促進することもできる。例えば、液体部分と固体部分の間の仕切りを取り除いた後、液体が、流れ落ち、固体又は粉末部分と混合することができるように、液体部分を固体又は粉末部分の上の区画に入れることができる。恒久的仕切りの場合、スプーン、場合によりポンプ(例えば、固体又は粉末成分上に液体を噴霧する噴霧器)に接続された供給ラインなど適切な任意の機構によって、一方の区画中にもう一方の部分を加えることができる。当業者に利用可能な従来の恒久的な又は取外し可能などんな仕切りシステムを使用することもできる。使用する直前まで消費可能な食品又は飲料からアロマ提供化合物をこうして分離すると、それを実施するとき、有利には、著しく長い保存期間を提供することができ、且つ/又は著しく強い淹れたてコーヒー官能特性を提供することができる。理論に束縛されるものではないが、これは、アロマ提供物質が消費可能成分と長い期間接している場合に起こり得る不安定性を最小限に抑え又は回避することによって促進されると考えられる。
【0038】
食品又は飲料の場合、この消費可能成分は、消費に適した任意の食物又は食用物質を含むことができる食用成分である。「食用」とは、栄養摂取若しくは娯楽、又は両方のために食する通常の食物に加えて、例えばチューインガムなどを含めて消化して消費するのに適したどんなものをも意味する。こうした製品は、通常、栄養的価値を有するが、必ずしもその必要はない。好ましくは、こうした食品又は飲料には、FDAにより一般に安全であると見なされるものとして(「GRAS」)分類されるどんなものも含まれる。この食用成分は、液体、粉末、若しくは固体、又はスプレッドやペーストなどそれらを組み合わせた形でよく、或いはそれぞれの部分が別々の相の形のものでもよい。食品又は飲料の場合、本発明の消費可能成分は、すぐに使える物、すぐに食べられる物、すぐに飲める物、すぐに焼ける物、又は消費者が使用する前に他の食用物質と共に調理又は混合するなどさらなる動作の必要な生の成分として利用可能である。
【0039】
本発明の好ましい実施形態は、以上の説明に記載してきたが、本発明は、本明細書に記載される特定の実施形態に限定されるものではなく、当業者によって様々な改変が可能なことを理解されたい。使用される材料及び化学的詳細は、本発明によって開示され、教示される方法及び組成物から逸脱することなく、本明細書の記載例とはわずかに違っても、又は改変されていてもよいことを理解されたい。
【0040】
アロマ提供硫黄化合物で得られた分析及び感覚試験の結果の例として、以下の実施例を提供する。
【実施例1】
【0041】
コーヒー中のアロマ提供硫黄化合物の同定及び定量
様々なストリッピング技術により(例えば、米国特許第3,535,118号に記載される方法により得られる低温コンデンサー分画を使用して)焙煎粉砕コーヒーから得た濃縮アロマ分画中で、新たな硫黄化合物を同定した。この濃縮アロマ分画をジクロロメタンに溶解し、gc/オルファクトメトリーによって分析した。gc/ms分析については、トミナガら、1998年、J.Agric.Food Chem.、46巻、1044〜1048頁に従って、硫黄化合物を単離精製した。コーヒーにおいて新たに同定された硫黄化合物を表1及び図1に示す。異なる極性の2〜3本のカラム上での保持指数(n−アルカンに対して)、標準のコクロマトグラフィー、及び匂い嗅ぎ装置(sniffing port)上の芳香品質、並びに質量分析に基づいて化合物1〜3及び5を同定した。チオール4及び6は、質量スペクトル以外の前述のすべての基準に基づいて仮に同定した。
【0042】
コーヒー飲料及び可溶性コーヒー中の硫黄化合物の定量
コーヒー飲料(焙煎粉砕アラビカコーヒー300gから、CTn90焙煎度)を、同位体標識したd3−3−メルカプト−2−ペンタノン(内部標準)でスパイクし、高真空下で蒸留を行い、ジクロロメタンで抽出した。p−ヒドロキシ水銀安息香酸によるチオールの単離及び誘導体化を前述の参照文献に従って行った。チオール1〜3(表1)をgc/msによって定量し、チオール5をgc/gc/msによって定量した。結果は、表2にまとめた。
【0043】
【表1】

【0044】
【化1】

【0045】
【表2】

【実施例2】
【0046】
アロマ提供物質3−メルカプト−2−ブタノン及び3−メルカプト−2−ペンタノンを含む可溶性コーヒー及び含まない可溶性コーヒー官能評価を行った。4−メトキシ−2−メチルブタン−2−チオールなど他の硫黄化合物、並びにメチオナール及び4メルカプト−4−メチルブチルホルマートでスパイクした可溶性コーヒーをさらに評価して、本発明のアロマ提供物質の優れた影響を実証した(コーヒー飲料中のこうした化合物の濃度は、可溶性コーヒーに比べてより高いことも分析により明らかになった)。
【0047】
この実施例は、アロマ提供物質の混合物の使用、及び可溶性コーヒー(100%アラビカ、CTn90)の官能プロファイルへのこれらの影響について説明する。3−メルカプト−2−ブタノン及び3−メルカプト−2−ペンタノンからなる原液をエタノール中で調製し、コーヒーサンプル中のエタノールの最終濃度が水1リットル当たり50mgを超えない程度まで水で希釈した(したがって、官能プロファイルへの影響はない)。こうして混合物Iを提供した。さらに、周知の硫黄化合物からなる2種の他の混合物(4−メトキシ−2−メチルブタン−2−チオールを含む混合物II、メチオナール及び4メルカプト−4−メチルブチルホルマートを含む混合物III)を上述の通り調製した。官能評価用の可溶性コーヒーに加えた混合物I、II、及びIIIの量を表3にまとめて示す。これらの量は、多くの官能実験から最適化され、最も望ましい官能効果を与えた。
【0048】
【表3】

【0049】
官能評価:可溶性コーヒーは、各官能試験(sensory session)の前に次のように新たに調製した。可溶性コーヒー飲物1000ml当たり可溶性コーヒーl5gを使用した。可溶性コーヒー粉末を、混合物I、II又はIIIでスパイクし、熱湯(65℃)で溶かし戻した。溶液を撹拌しながら2分間平衡に保ち、次いで8人の訓練された審査員に出した。審査員に、標準(スパイクがつけられていない可溶性コーヒー)及び試験毎に符号化された2つのサンプルを与え、上記のカップの官能特性の差について述べるように求めた。
【0050】
表4に示した結果は、アロマ提供物質の3−メルカプト−2−ブタノン及び3−メルカプト−2−ペンタノンが、淹れたてコーヒー官能特性に関係する、猫臭−硫黄臭、焙煎風味、新鮮さなどのアロマ特性を増大させるという点で最も機能していることを明らかに実証している。
【0051】
【表4】

【実施例3】
【0052】
4−メトキシ−2−メチルブタン−2−チオール、並びに/又は化合物4−メルカプト−4−メチル−2−ペンタノン、メチオナール、及び4メルカプト−4−メチルブチルホルマートのうちの1種若しくは複数と組み合わせて使用するアロマ提供物質である3−メルカプト−2−ブタノン及び3−メルカプト−2−ペンタノンを含む可溶性コーヒー及び含まない可溶性コーヒーの官能評価を行った。
【0053】
純粋な可溶性コーヒー及び官能評価用のサンプルの調製は、実施例2に記載したのと同じである。可溶性コーヒーに加えた混合物の組成物を表5にまとめた。この適用量は、多くの官能実験から最適化され、本発明者らに最も望ましい官能効果を与えた。
【0054】
【表5】

【0055】
実施例2に記載したように官能評価を行った。表6に示した結果は、この混合物が、果物風味、ブラックカラント−硫黄臭、及び新鮮な芳香特性を与え、可溶性コーヒーの淹れたてコーヒー官能特性を増大させるのに使用できることを示している。
【0056】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
食物又は飲物中に提供されるコーヒーフレーバーの官能特性を増大させるのに十分な量のアロマ提供物質の使用であって、前記アロマ提供物質は、直鎖C〜Cメルカプトアルカノン類又はその2種以上の混合物であることを特徴とする使用。
【請求項2】
前記アロマ提供物質が、3−メルカプト−2−ブタノン、2−メルカプト−3−ペンタノン、3−メルカプト−2−ペンタノン、又はその2種以上の混合物であることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記アロマ提供物質が、猫臭−硫黄臭、果物風味、焙煎風味、芳香特性を付与して、食物又は飲物の淹れたてコーヒー官能特性を増大させるのに十分な量で存在することを特徴とする、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記アロマ提供物質が、4−メトキシ−2−メチルブタン−2−チオール、並びに/又は化合物4−メルカプト−4−メチル−2−ペンタノン、メチオナール、及び4メルカプト−4−メチルブチルホルマートのうちの1種若しくは複数と組み合わせて使用されることを特徴とする、前記いずれかの請求項に記載の使用。
【請求項5】
前記硫黄化合物のうちの1種又は複数が、果物風味、ブラックカラント−硫黄臭、芳香特性を付与して、食物又は飲物の淹れたてコーヒー官能特性を増大させるのに十分な量で存在することを特徴とする、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
食物又は飲物中に提供されるコーヒーフレーバーの官能特性を増大させる方法において、食物又は飲物を提供すること、並びに少なくとも1種のアロマ提供物質を前記食物又は飲物のコーヒーフレーバーを増大させるのに十分な量で前記食物又は飲物に加える又は組み込むことを含む方法であって、前記アロマ提供物質は、直鎖C〜Cメルカプトアルカノン類又はその2種以上の組合せであることを特徴とする方法。
【請求項7】
増強された官能特性を有し、請求項6に記載の方法によって得られる食物又は飲物。
【請求項8】
食物又は飲物中のコーヒーフレーバーの官能特性を増強するのに十分な量の消費可能成分及び少なくとも1種のアロマ提供物質を含む食物又は飲物であって、前記アロマ提供物質は、直鎖C〜Cメルカプトアルカノン類、又はその2種以上の混合物であることを特徴とする食物又は飲物。
【請求項9】
前記アロマ提供物質が、3−メルカプト−2−ブタノン、2−メルカプト−3−ペンタノン、3−メルカプト−2−ペンタノン、又はその2種以上の混合物であることを特徴とする、請求項7又は8に記載の食物又は飲物。
【請求項10】
前記アロマ提供物質と、4−メトキシ−2−メチルブタン−2−チオール、並びに/又は化合物4−メルカプト−4−メチル−2−ペンタノン、メチオナール、及び4メルカプト−4−メチルブチルホルマートのうちの1種若しくは複数との混合物を含むことを特徴とする、請求項7から9までのいずれかに記載の食物又は飲物。
【請求項11】
前記消費可能成分が、還元(reconstitutable)飲料、即席(ready−to−drink)飲料、アルコール飲料、パン生地をベースとする製品、冷凍菓子製品、チョコレート若しくはその類似物、シリアル、又は塗布可能な乳製品若しくは乳製品の代用品、或いはそれらのいずれかの混合物を含むことを特徴する、請求項7から10までのいずれかに記載の食物又は飲物。

【公表番号】特表2007−508828(P2007−508828A)
【公表日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−536008(P2006−536008)
【出願日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【国際出願番号】PCT/EP2004/011556
【国際公開番号】WO2005/039313
【国際公開日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【出願人】(599132904)ネステク ソシエテ アノニム (637)
【Fターム(参考)】