説明

ゴム組成物およびこれをトレッドに用いた空気入りタイヤ

【課題】優れたグリップ性と耐破壊物性とをバランスよく兼ね備えたゴム組成物、およびこれを用いた空気入りタイヤを提供すること。
【解決手段】本発明のゴム組成物は、特定の重量平均分子量、結合スチレン量およびブタジエン部のビニル結合量の、リチウム系重合開始剤で重合されたスチレン−ブタジエン共重合体(A)と、天然ゴム、シス−1,4−ポリイソプレンゴム、結合スチレン量が25質量%以下のスチレン−ブタジエンゴム、およびブタジエンゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種のゴム成分(C)との合計100質量部に対して、特定の重量平均分子量、結合スチレン量およびブタジエン部の二重結合のうち60%以上が水素添加された水添スチレン−ブタジエン共重合体(B)を特定の割合で配合されてなり、かつ、前記共重合体(A)の結合スチレン量と前記共重合体(B)の結合スチレン量とが特定の関係にあるゴム成分を含んでなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高性能空気入りタイヤのトレッドに適したゴム組成物に関し、より詳しくはグリップ特性に優れるとともに良好な耐破壊性をも兼ね備えるゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、空気入りタイヤに用いられるゴム組成物には、種々の優れた性能を発揮することが要求されており、これは近年におけるタイヤの高性能化に伴い、益々顕著となっている。このような要求に対応すべく、より優れたグリップ性を発揮し得るよう、ゴム組成物に芳香族系の軟化剤を多量に配合することがなされている。ところが、多量の芳香族系軟化剤の配合は、特にサーキット場でのスポーツ走行における末期段階においては、摩耗肌の悪化に起因したグリップ低下をもたらすおそれがあり、さらなる改善が求められている。
【0003】
こうしたなか、特許文献1には、グリップ性と耐摩耗性との向上を図るため、低分子量スチレン−ブタジエン共重合体を用いたゴム組成物が開示されている。しかしながら、該ゴム組成物に含まれるポリマーには架橋性を有する二重結合があるために、一部の低分子量成分がマトリックスであるゴムと架橋形成して該マトリックス中に取り込まれ、充分なヒステリシスロスが発生しにくく、グリップ性を充分に向上させるのが困難な傾向にある。
【0004】
一方、特許文献2には、こうした架橋形成によって低分子量成分がマトリックス中に取り込まれることを回避するために、水素添加によって二重結合部を飽和させた水添低分子量スチレン−ブタジエン共重合体を用いたゴム組成物が開示されている。しかしながら、該組成物は水素添加されている分、共重合体とゴムとの相溶性が低下する傾向にあり、破壊物性の低下を引き起こす可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−101440号公報
【特許文献2】特開2000−129037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、充分なヒステリシスロスを発生させてグリップ性を向上させるとともに、マトリックスであるゴムとの相溶性を改善して優れた耐破壊物性をも発揮し得るゴム組成物は依然として皆無に等しい。とりわけ、スポーツ走行末期段階における摩耗肌の抑制や、耐チャンキング(トレッド部での極小の欠損部)の向上を図り、走行全般にわたって安定したグリップ性を発揮し得るゴム組成物は、未だ実現されるに至っていない。
【0007】
そこで、本発明は、優れたグリップ性と耐破壊物性とをバランスよく兼ね備えたゴム組成物、およびこれを用いた空気入りタイヤを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく、特定の水添低分子量スチレン−ブタジエン共重合体に対し、これに比して結合スチレン量の少ないスチレン−ブタジエン共重合体を用い、さらに特定のゴム成分を所定の量で配合することにより、空気入りタイヤのトレッドに好適なゴム組成物が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明のゴム組成物は、ゲル浸透クロマトグラフィーにより得られたポリスチレン換算重量平均分子量が4.0×105〜3.0×106であり、結合スチレン量が20〜45質量%、ブタジエン部のビニル結合量が20〜70%である、リチウム系重合開始剤で重合されたスチレン−ブタジエン共重合体(A)60〜95質量部と、
天然ゴム、シス−1,4−ポリイソプレンゴム、結合スチレン量が20質量%未満のスチレン−ブタジエンゴム、およびブタジエンゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種のゴム成分(C)5〜40質量部との合計100質量部に対して、
ゲル浸透クロマトグラフィーにより得られたポリスチレン換算重量平均分子量が5.0×103〜2.0×105であり、結合スチレン量が30〜70質量%、ブタジエン部の二重結合のうち60%以上が水素添加された水添スチレン−ブタジエン共重合体(B)を40〜140質量部の割合で配合されてなり、
かつ、前記共重合体(A)の結合スチレン量と前記共重合体(B)の結合スチレン量とが式(X):
前記共重合体(B)の結合スチレン量>前記共重合体(A)の結合スチレン量+10(質量%)・・・(X)
を満たす関係にあるゴム成分を含んでなることを特徴とする。
【0010】
前記共重合体(A)のポリスチレン換算重量平均分子量は7.0×105〜2.5×106であるのが望ましく、ブタジエン部のビニル結合量が30〜60%であるのが望ましい。
また、前記共重合体(B)のブタジエン部の二重結合のうち80%以上が水素添加されているのが好ましい。
【0011】
前記共重合体(A)の結合スチレン量と前記共重合体(B)の結合スチレン量とは、式(Y):
前記共重合体(B)の結合スチレン量≧前記共重合体(A)の結合スチレン量+15(質量%)・・・(Y)
を満たす関係にあってもよい。
【0012】
さらに、前記共重合体(A)100質量部に対して、前記共重合体(B)は40〜100質量部の割合で配合されてもよく、また、前記ゴム成分(C)は、結合スチレン量が20質量%未満のスチレン−ブタジエンゴムを含むのが望ましい。
本発明の空気入りタイヤは、上記本発明のゴム組成物をトレッドゴムに使用したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のゴム組成物によれば、上記のような特定の2種の共重合体と、特定のゴム成分とを用いていることから、これらが相まって特定のミクロ構造を有することとなる。こうした構造を有することに起因して、一部の低分子量成分がマトリックスであるゴムと架橋形成して充分なヒステリシスロスが発生しにくいといった状況を懸念する必要がなく、また共重合体とゴムとの相溶性も良好となるため、優れたグリップ性と耐破壊物性とを非常にバランスよく兼ね備える。
【0014】
したがって、走行全般にわたって安定したグリップ性能を発揮することができ、特にスポーツ走行のような過酷な使用条件下においても優れたグリップ性を保持しつつ、良好な耐破壊物性を発揮することができる。
【0015】
このようなゴム組成物をトレッドゴムとして採用すれば、過酷な走行条件下にも充分耐え得る本発明の空気入りタイヤを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のゴム組成物は、ゲル浸透クロマトグラフィーにより得られたポリスチレン換算重量平均分子量が4.0×105〜3.0×106であり、結合スチレン量が20〜45質量%、ブタジエン部のビニル結合量が20〜70%である、リチウム系重合開始剤で重合されたスチレン−ブタジエン共重合体(A)60〜95質量部と、
天然ゴム、シス−1,4−ポリイソプレンゴム、結合スチレン量が20質量%未満のスチレン−ブタジエンゴム、およびブタジエンゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種のゴム成分(C)5〜40質量部との合計100質量部に対して、
ゲル浸透クロマトグラフィーにより得られたポリスチレン換算重量平均分子量が5.0×103〜2.0×105であり、結合スチレン量が30〜70質量%、ブタジエン部の二重結合のうち60%以上が水素添加された水添スチレン−ブタジエン共重合体(B)を40〜140質量部の割合で配合されてなり、
かつ、前記共重合体(A)の結合スチレン量と前記共重合体(B)の結合スチレン量とが式(X):
前記共重合体(B)の結合スチレン量>前記共重合体(A)の結合スチレン量+10(質量%)・・・(X)
を満たす関係にあるゴム成分を含んでなることを特徴としている。
【0017】
本発明で用いるスチレン−ブタジエン共重合体(A)(以下、「共重合体(A)」ともいう)は、リチウム系重合開始剤で重合された共重合体であり、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC:gel permeation chromatography)により得られたポリスチレン換算重量平均分子量は、4.0×105〜3.0×106、好ましくは7.0×105〜2.5×106 である。上記重量平均分子量が4.0×105未満であると耐破壊物性が低下するおそれがあり、3.0×106を越えると重合溶液の粘度が高くなり生産性が低くなるおそれがある。
【0018】
共重合体(A)の結合スチレン量は、20〜45重量%、好ましくは25〜40重量%である。上記結合スチレン量が20重量%未満であると、耐破壊物性が低下するおそれがあり、グリップ特性をも同時に満足することが困難となる可能性がある。また、結合スチレン量が50重量%を超えると、耐摩耗性が低下するおそれがある。
【0019】
共重合体(A)のブタジエン部のビニル結合量は、20〜70%、好ましくは30〜60%である。上記ビニル結合量が20%未満であるとウェットスキッド抵抗性等の特性が不充分となるおそれがあり、70%を超えると耐摩耗性等の特性が低下するおそれがある。
【0020】
本発明で用いる水添スチレン−ブタジエン共重合体(B)(以下、「共重合体(B)」ともいう)は、ブタジエン部の一部が水素添加された共重合体であり、GPCにより得られたポリスチレン換算重量平均分子量は、5.0×103〜2.0×105、好ましくは5.0×103〜1.0×105である。上記重量平均分子量が5.0×103未満であると、破壊特性およびドライグリップ性が劣る可能性があり、2.0×105を超えると、ドライグリップ性が劣るおそれがある。
【0021】
共重合体(B)の結合スチレン量は、30〜70重量%、好ましくは35〜55重量%である。上記結合スチレン量が30重量%未満であると、グリップ性が不充分となるおそれがあり、70重量%を越えると、樹脂状になるため組成物が固くなり、グリップ性が低下するおそれがある。
【0022】
共重合体(B)は、そのブタジエン部の二重結合のうち60%以上、好ましくは80%以上が水素添加されている。上記水添率が60%未満では共重合体(A)の一部と架橋形成する可能性が高くなり、これがマトリックスであるゴム中に取り込まれることによって充分なヒステリシスロスが発生しにくく、グリップ性が低下するおそれがある。上限値については特に制限されず、水添率が高ければ高いほど共重合体(A)との共架橋性が下がる傾向にあるため、100%が最も好適である。水添率の上昇に伴ってヒステリシスロスが高くなり、グリップ性の向上を図ることができる。
【0023】
本発明のゴム組成物は、共重合体(A)の結合スチレン量と共重合体(B)の結合スチレン量が下記式(X)
前記共重合体(B)の結合スチレン量>前記共重合体(A)の結合スチレン量+10(質量%)・・・(X)
を満たす関係にある。該式を満たすことにより、共重合体(A)と共重合体(B)との良好な相溶性を確保することができる。これらの結合スチレン量の差が10質量%以下であると、相溶性が悪化する傾向にあり、共重合体(B)のゴム表面へのブリードが起こる可能性がある。したがって、タイヤのトレッドゴムに使用した場合、ケースゴム等の他部材との間に充分な接着性が得られないおそれがあるとともに、破壊強力も得られないおそれがある。
【0024】
こうした観点から、共重合体(A)と水添共重合体(B)の結合スチレン含量の差が15重量%以上、すなわち、共重合体(A)の結合スチレン量と共重合体(B)の結合スチレン量が下記式(Y)を満たす関係であるのがより望ましい。
前記共重合体(B)の結合スチレン量≧前記共重合体(A)の結合スチレン量+15(質量%)・・・(Y)
【0025】
本発明で用いるゴム成分(C)は、天然ゴム、シス−1,4−ポリイソプレンゴム、結合スチレン量が20質量%未満のスチレン−ブタジエンゴム、およびブタジエンゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種である。なお、結合スチレン量が20質量%未満のスチレン−ブタジエンゴムとは、上記共重合体(A)を構成するスチレン−ブタジエンゴム以外のものを意味し、該共重合体(A)とは別異のものである。
【0026】
上記共重合体(A)と共重合体(B)とで形成されたミクロ構造に対してこれらゴム成分(C)を配合すると、共重合体(B)が水素添加されていることに起因する共重合体とゴムとの相溶性の低下を効果的に抑制することができる。したがって、得られたゴム組成物を空気入りタイヤのトレッドゴムに用いれば、特にスポーツ走行末期においても摩耗肌発生を効果的に抑制して、より高いヒステリシスロスを発生させることができるので、走行全般にわたる安定したグリップ性を発揮することが可能となる。なかでも、結合スチレン量が20質量%未満のスチレン−ブタジエンゴムであるのが好ましく、結合スチレン量は10質量%以下であるのがより好ましい。なお、該結合スチレン量の下限値については特に制限されないが、通常1質量%以上である。したがって、上記ゴム成分(C)として、少なくとも上記スチレン−ブタジエンゴムを含むのが望ましい。
【0027】
本発明では、上記共重合体(A)と上記ゴム成分(C)との合計が100質量部となるよう、共重合体(A)60〜95質量部に対して、上記ゴム成分(C)を5〜40質量部の割合で配合する。好ましくは上記共重合体(A)70〜90質量部に対して、上記ゴム成分(C)を10〜30質量部の割合で配合する。そして、これら共重合体(A)とゴム成分(C)との合計100質量部に対して、上記共重合体(B)を40〜140質量部、好ましくは40〜110質量部の割合となるように配合する。さらに、上記共重合体(A)100質量部に対しては、上記共重合体(B)を40〜100質量部の割合で配合されるのが望ましい。なお、これらの量比の関係が保持されれば共重合体(A)、共重合体(B)およびゴム成分(C)の配合順序は特に制限されない。これら共重合体(A)、共重合体(B)およびゴム成分(C)が上述のような特定の量的関係を有することにより、特定のミクロ構造を形成して共重合体(B)の分散度合いが良好となり、マトリックスとの相溶性が向上するものと推定される。したがって、これが要因となって、優れたグリップ性と耐破壊物性とを両立し得るゴム組成物が得られるものと考えられる。
【0028】
上記共重合体(A)は、ブタジエンとスチレンとを炭化水素溶媒中でエーテルまたは第三級アミンの存在下にリチウム系重合開始剤を用いて共重合させることにより得られる。上記炭化水素溶媒としては、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン、シクロオクタンなどの脂環式炭化水素;プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカンなどの脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素を用いることができる。これらの炭化水素は単独でも、あるいは2種以上を混合して用いてもよい。これらの炭化水素の中では、脂肪族炭化水素および脂環式炭化水素が好ましい。
【0029】
上記重合開始剤としては、有機リチウム化合物が好ましく、たとえば、エチルリチウム、プロピルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウムなどのアルキルリチウム;フェニルリチウム、トリルリチウムなどのアリルリチウム;ビニルリチウム、プロペニルリチウムなどのアルケニルリチウム;テトラメチレンジリチウム、ペンタメチレンジリチウム、ヘキサメチレンジリチウム、デカメチレンジリチウムなどのアルキレンジリチウム;1,3−ジリチオベンゼン、1,4−ジリチオベンゼンなどのアリレンジリチウム;1,3,5−トリリチオシクロヘキサン、1,2,5−トリリチオナフタレン、1,3,5,8−テトラリチオデカン、1,2,3,5−テトラリチオ−4−ヘキシルーアントラセン等が挙げられる。これらのうち、好ましくは、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウムおよびテトラメチレンジリチウムであり、特に好ましくは、n−ブチルリチウムである。
【0030】
上記有機リチウム化合物の使用量は、反応操作における重合速度および生成される重合体の分子量によって決定されるが、通常、単量体100g当たりリチウム原子として0.02〜5mg原子程度、好ましくは0.05〜2mg原子である。
【0031】
共重合体(A)を得るための重合反応は、バッチ重合方式、連続重合方式のいずれの方式によっても行うことができる。上記重合反応における重合温度は、0〜130℃の範囲が好ましい。また、重合反応は、等温重合、昇温重合あるいは断熱重合のいずれの重合形式によっても行うことができる。さらに、重合を行う際には、反応容器内にゲルが生成するのを防止するために、1,2−ブタジエンなどのアレン化合物を添加することもできる。
【0032】
一方、上記共重合体(B)は、共重合体(A)と同様の方法により合成したポリマーを常法の水添方法により得ることができる。すなわち、有機カルボン酸ニッケル、有機カルボン酸コバルト、1〜3族の有機金属化合物からなる水素化触媒;カーボン、シリカ、けいそう土などで担持されたニッケル、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム金属触媒;コバルト、ニッケル、ロジウム、ルテニウム錯体等から選択される一種を触媒として1〜100気圧の加圧水素下で水素化する。
【0033】
さらにゴム成分(C)のうち、結合スチレン量が20質量%未満の上記スチレン−ブタジエンゴムについても、上記共重合体(A)と同様の方法により合成することができるが、タフデン(登録商標)1534などの上市のものを採用することもできる。
【0034】
本発明においては、共重合体(A)の重合溶液に共重合体(B)の重合溶液を添加し、ゴム成分(C)を添加して、スチレン−ブタジエン共重合体を含有している重合反応溶液を得、この溶液から通常の溶液重合法で用いられる方法(例えば、溶液状態で安定剤などを添加した後、直接乾燥するか、スチームストリッピングする方法)によって、ゴム分と溶剤とを分離して洗浄し、乾燥して、本発明のゴム組成物を得ることができる。または、混合機を用い、乾燥後の共重合体(A)及び共重合体(B)とゴム成分(C)とを乾燥状態でカーボンブラック等の充填剤とともに混練りして、本発明のゴム組成物を得ることもできる。
【0035】
本発明のゴム組成物のゴム成分は、さらにカーボンブラックまたはシリカなどの補強剤や各種の配合剤を加えてロール、バンバリーミキサー、ニーダーなどによって混練りした後、硫黄、加硫促進剤などを添加して加硫し、タイヤ用トレッドゴムとして用いることができる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例における各種物性は、次の方法にしたがって評価した。
【0037】
《分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)およびポリスチレン換算重量平均分子量》
MwおよびMw/Mnは、ウォーターズ社製244型GPCを用い、検知器として示差屈折計を用い、次の条件で測定する。
カラム:東洋ソーダ製カラムGMH−3、GMH−6、
G6000H−6
移動相:テトラヒドロフラン
【0038】
ポリスチレン換算重量平均分子量は、ウォーターズ社製単分散スチレン重合体を用い、GPCによる単分散スチレン重合体のピークの分子量とGPCのカウント数との関係を予め求めて検量線を作成し、これを用いて、重合体のポリスチレン換算での分子量を求めた。
【0039】
[共重合体(A−1)の合成]
充分に窒素置換した拌翼つきの5リットルオートクレーブに、シクロヘキサン3000g、テトラヒドロフラン(THF)12g、1,3−ブタジエン200gおよびスチレン100gを導入し、オートクレーブ内の温度を21℃に調整した。次に、n−ブチルリチウム0.10gを加えて昇温条件下で60分間重合し、モノマーの転化率が99%であることを確認した。その後、老化防止剤として2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾールを
3.5g加えた。分析値を表1に示す。
【0040】
[共重合体(A−2)の合成]
モノマーの仕込み比、触媒量等を変えた以外は共重合体(A−1)と同様にして、合成した。分析値を表1に示す。
【0041】
[共重合体(B−1)の合成]
充分に窒素置換した拌翼つきの5リットルオートクレーブに、シクロヘキサン3000g、テトラヒドロフラン(THF)12g、1,3−ブタジエン150gおよびスチレン150gを導入し、オートクレーブ内の温度を21℃に調整した。次に、n−ブチルリチウム1.50gを加えて昇温条件下で60分間重合し、モノマーの転化率が99%であることを確認したのちトリブチルシリルクロライド4.68gを加え重合を停止した後、予め別容器で調製したナフテン酸ニッケル:トリエチルアルミニウム:ブタジエン=1:3:3(モル比)の触媒液を共重合体中のブタジエン部1000モルに対しニッケル1モルとなるよう仕込んだ。その後、反応系内に水素圧力30atmで水素を導入し、80℃で反応させた。水素添加率は四塩化炭素を溶媒として用い、15重量%の濃度で測定した100MHzのプロトンNMRの不飽和結合部のスペクトルの減少から算出した。分析値を表2に示す。
【0042】
[共重合体(B−2)の合成]
モノマーの仕込み比、触媒量、水素圧力などを変えた以外は共重合体(B−1)と同様にして、合成した。分析値を表2に示す。
【0043】
[共重合体(B−3)の合成]
モノマーの仕込み比、触媒量、水素圧力などを変えた以外は共重合体(B−1)と同様にして、合成した。分析値を表2に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
[実施例1〜9、比較例1〜8]
表3〜5に示す配合にてバンバリーミキサーで混合してゴム組成物を得、該ゴム組成物を用いて競技用タイヤ(タイヤサイズ:215/40R18)を作製した。得られた競技用タイヤを競技用車両に装着して、テストコースを走行させ、テストドライバーにより以下の内容にしたがって各評価を行った。結果を表3〜5に示す。
【0047】
《走行初期グリップ(暖まり性)》
テストコース1周目における駆動性、制動性、ハンドル応答性、操舵時のコントロール性について、下記5段階の基準に従って総合的に判断し、評価した。なお、2以下はスポーツ用タイヤとして許容不可能である。
1:標準より明らかに劣る
2:標準より劣る
3:標準的な性能(コントロール)
4:標準より優れている
5:標準より明らかに優れている
【0048】
《クルージング時のグリップ》
テストコース5〜10周目における性能について、下記5段階の基準に従って総合的に判断し、評価した。なお、2以下はスポーツ用タイヤとして許容不可能である。
1:標準より明らかに劣る
2:標準より劣る
3:標準的な性能(コントロール)
4:標準より優れている
5:標準より明らかに優れている
【0049】
《摩耗肌(タイヤ表面の荒れ具合)および耐チャンキング性(トレッド部の小さな局部的欠け)》
テストコース10周走行後におけるタイヤ表面の荒れ具合及び耐チャンキング性について、下記5段階の基準に従って総合的に判断し、評価した。なお、2以下はスポーツ用タイヤとして許容不可能である。
1:標準より明らかに劣る
2:標準より劣る
3:標準的な性能(コントロール)
4:標準より優れている
5:標準より明らかに優れている
【0050】
【表3】

【0051】
【表4】

【0052】
【表5】

【0053】
※1:IR2200、JSR(株)製
(配合量はポリマー分。油展分はアロマオイルの配合量に合算して表示。)
※2:タフデン(登録商標)1534、結合スチレン量:18%、旭化成工業(株)製
(配合量はポリマー分。油展分はアロマオイルの配合量に合算して表示。)
※3:ノクラック 6C(N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン、大内新興化学工業(株)製)
※4:1,3−ジフェニルグアニジン
※5:ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド
※6:N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド
※7:アロマオイルと高シスー1,4−ポリイソプレンゴムまたはスチレン−ブタジエンゴムの油展分との総量をアロマオイルの配合量として表示。( )内は、アロマオイル+高シスー1,4−ポリイソプレンゴムまたはスチレン−ブタジエンゴムの油展分。
【0054】
上記表3〜5の結果から明らかなように、共重合体(B)およびゴム成分(C)を一切含まない比較例1は、実施例1〜9に比してクルージング時のグリップや摩耗肌および耐チャンキング性に問題があることがわかる。また比較例2〜4によれば、共重合体(B)を上記範囲内の量で配合してもゴム成分(C)を含まないことから、依然としてクルージング時のグリップや摩耗肌および耐チャンキング性に問題が残ることがわかる。
【0055】
さらに比較例5〜6によれば、実施例1〜9に比して、たとえゴム成分(C)を配合しても共重合体(A)に対する配合量比が上記範囲外であると、クルージング時のグリップに劣ることがわかる。
また、共重合体(B)の配合量が上記範囲外である比較例7、及び共重合体(A)の結合スチレン量と共重合体(B)の結合スチレン量とが上記式(X)を満たさない比較例8と、実施例1〜9を比較しても同様のことがいえる。
したがって、本発明のゴム組成物は、グリップ性の向上と優れた破壊特性をバランスよく兼ね備えるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲル浸透クロマトグラフィーにより得られたポリスチレン換算重量平均分子量が4.0×105〜3.0×106であり、結合スチレン量が20〜45質量%、ブタジエン部のビニル結合量が20〜70%である、リチウム系重合開始剤で重合されたスチレン−ブタジエン共重合体(A)60〜95質量部と、
天然ゴム、シス−1,4−ポリイソプレンゴム、結合スチレン量が20質量%未満のスチレン−ブタジエンゴム、およびブタジエンゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種のゴム成分(C)5〜40質量部との合計100質量部に対して、
ゲル浸透クロマトグラフィーにより得られたポリスチレン換算重量平均分子量が5.0×103〜2.0×105であり、結合スチレン量が30〜70質量%、ブタジエン部の二重結合のうち60%以上が水素添加された水添スチレン−ブタジエン共重合体(B)を40〜140質量部の割合で配合されてなり、
かつ、前記共重合体(A)の結合スチレン量と前記共重合体(B)の結合スチレン量とが式(X):
前記共重合体(B)の結合スチレン量>前記共重合体(A)の結合スチレン量+10(質量%)・・・(X)
を満たす関係にあるゴム成分を含んでなることを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
前記共重合体(A)のポリスチレン換算重量平均分子量が7.0×105〜2.5×106であることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記共重合体(A)のブタジエン部のビニル結合量が30〜60%であることを特徴とする請求項1または2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記共重合体(B)のブタジエン部の二重結合のうち80%以上が水素添加されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項5】
前記共重合体(A)の結合スチレン量と前記共重合体(B)の結合スチレン量とが式(Y):
前記共重合体(B)の結合スチレン量≧前記共重合体(A)の結合スチレン量+15(質量%)・・・(Y)
を満たす関係にあることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項6】
前記共重合体(A)100質量部に対して、前記共重合体(B)が40〜100質量部の割合で配合されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項7】
前記ゴム成分(C)が、結合スチレン量が20質量%未満のスチレン−ブタジエンゴムを含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のゴム組成物をトレッドゴムに使用したことを特徴とする空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2010−254922(P2010−254922A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−109772(P2009−109772)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】