説明

ゴム組成物及びそれを用いたタイヤ

【課題】低ロス性(低発熱性)及び耐摩耗性に大幅に優れたゴム組成物と、該ゴム組成物を用いた操縦安定性にも優れたタイヤ。
【解決手段】
天然ゴムラテックスを酸化した後、極性基含有ヒドラジド化合物を付加するか、天然ゴムの分子末端のリン脂質を加水分解して極性基を有するカルボン酸化合物、アルデヒド、イソシアネート類等を縮合して天然分子末端に極性基を導入した変性天然ゴムをゴム成分に使用し、無機充填剤及びカップリング剤として特定の有機ケイ素化合物を含むゴム組成物で、有機ケイ素化合物は、分子内に窒素原子とケイ素原子を含む環状構造を有し、かつ、一つ以上の硫黄原子を有し、立体障害の小さな基が一つ以上ケイ素原子に結合した部位を有する有機ケイ素化合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性天然ゴム及びそれを用いたゴム組成物、詳しくは天然ゴムの分子内に極性基を導入した変性天然ゴムと有機ケイ素化合物を含む低ロス性、耐摩耗性に優れたゴム組成物、及びそれを用いたタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の低燃費化に対する要求が強くなりつつあり、転がり抵抗の小さいタイヤが求められている。そのため、タイヤのトレッド等に使用するゴム組成物として、低ロス性、低発熱性に優れたゴム組成物が求められている。また、トレッド用のゴム組成物においては、低ロス性に加え、耐摩耗性及び破壊特性に優れることが求められる。これに対して、ゴム組成物の低ロス性、耐摩耗性及び破壊特性を改良するには、ゴム組成物中のカーボンブラックやシリカ等の充填剤とゴム成分との親和性を向上させることが有効であり、補強用充填剤を改良すること及びゴム成分を改良することが行われている。
【0003】
例えば、ゴム組成物中の充填剤とゴム成分との親和性を向上させ、充填剤による補強効果を向上させるために、末端変性により充填剤との親和性を向上させた合成ゴムや、官能基含有単量体を共重合させて充填剤との親和性を向上させた合成ゴム等が開発されている。
【0004】
一方、天然ゴムに関しては、例えば、天然ゴムラテックスにビニル系単量体を添加してグラフト重合する技術(特許文献1〜6参照)が知られており、該技術で得られたグラフト化天然ゴムは、接着剤用途等で実用化されている。しかしながら、これらのグラフト化天然ゴムは、単量体として多量(20〜50質量%)のビニル化合物をグラフト化しているため、カーボンブラックやシリカなどの充填剤を配合すると、大幅な粘度上昇を招き、加工性が低下してしまう。また、多量のビニル化合物が天然ゴム分子鎖に導入されているため、天然ゴム自身の特性を変え、天然ゴム本来の優れた物理特性(粘弾性、引張試験等における応力−歪曲線)が損なわれてしまう。そのため、該技術で得られたグラフト化天然ゴムを用いても、充填剤との親和性を向上させ、補強効果を向上させることはできない。また、タイヤの耐屈曲亀裂性能及び強度を改善するためエポキシ化天然ゴムを使用することが提案されている(特許文献7参照)。
【0005】
これに対して、天然ゴムラテックスに極性基含有単量体を添加し、該極性基含有単量体を天然ゴムラテックス中の天然ゴム分子にグラフト重合させ、更に凝固及び乾燥してなる変性天然ゴムをゴム成分として使用することで、ゴム成分と充填剤との親和性を向上させてゴム組成物の補強性を改善し、ゴム組成物の低ロス性、耐摩耗性及び破壊特性を向上させる技術が開示されている(特許文献8参照)が、昨今、ゴム組成物の低ロス性及び耐摩耗性を更に向上させることが要求されている。
【0006】
一方、タイヤの湿潤面における性能及び転がり抵抗の低減とを両立する技術として、ゴム組成物の充填剤としてシリカを用いることが知られているが(例えば、特許文献9〜12)、シリカは、その表面官能基であるシラノール基の水素結合により粒子同士が凝集する傾向にあり、また、ゴム分子とのぬれ性も劣り、ゴム中へのシリカの分散は良くない。これをよくするためには混練時間を長くする必要がある。さらに、ゴム中へのシリカの分散が不十分であるとゴム組成物のムーニー粘度が高くなり、押出しなどの加工性に劣る。また、シリカ粒子の表面は酸性であることから、ゴム組成物を加硫する際に加硫促進剤として使用される塩基性物質を吸着し、加硫が十分行われず、弾性率が上がらないという問題も有していた。
【0007】
これらの欠点を改良するために、シランカップリング剤が開発されたが、依然としてシリカの分散は十分なレベルには達しておらず、依然として改良の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−287121号公報
【特許文献2】特開平6−329702号公報
【特許文献3】特開平9−25468号公報
【特許文献4】特開2000−319339号公報
【特許文献5】特開2002−138266号公報
【特許文献6】特開2002−348559号公報
【特許文献7】特開2007−56205号公報
【特許文献8】国際公開第2004/106397号パンフレット
【特許文献9】特開平6−248116号公報
【特許文献10】特開平7−70369号公報
【特許文献11】特開平8−245838号公報
【特許文献12】特開平3−252431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、従来よりも、低ロス性(低発熱性)及び耐摩耗性に大幅に優れたゴム組成物と、該ゴム組成物を用いた操縦安定性にも優れたタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意検討した結果、低ロス性及び耐摩耗性に優れたゴム組成物を得るには、補強用充填剤の分散性を向上させつつ、補強層を増加することが有効との考えから、シリカ等の無機充填剤及びそれらと反応性の高いシランカップリング剤を用い、かつ該シランカップリング剤と反応性の高い分子末端に極性基が存在する変性天然ゴムをゴム成分とするゴム組成物を用いることで上記目的を達成することを見出した。
【0011】
上記のように、天然ゴムラテックス中の天然ゴム分子に極性基含有単量体をグラフト重合することで、極性基を天然ゴム分子の主鎖に導入することはできるが、鎖状分子運動を考えると末端に官能基が存在する方が充填剤との相互作用を高めることができる。これは通常ポリマーでは、補強、架橋などにより拘束された場合でも、末端に自由鎖があるため、自由に動くことができるためである。また、このことは、合成ゴムの末端変性が高い変性効果を示していることからも期待される。
しかし、天然ゴムラテックス中の天然ゴム分子に極性基含有単量体をグラフト重合して、極性基を天然ゴム分子に導入しても極性基が導入される位置は分子末端に限らない。また、天然ゴム分子の末端を変性する技術として、メタセシス触媒と極性基含有オレフィンを用いて極性基を導入する技術が特開2007−204637に開示されているが、触媒が高価で製造コストが高い。
【0012】
本発明のゴム組成物は、天然ゴムラテックスを酸化した後、極性基含有ヒドラジド化合物を添加することによって、極性基が分子鎖の末端に付加した変性天然ゴムを製造し、ゴム成分として使用する。天然ゴムラテックスの酸化はカルボニル化合物を添加し、空気又はオゾン酸化を行うのが好ましく、その後極性基含有ヒドラジド化合物を天然ゴムラテックス中のゴム成分に対して0.01〜5.0質量%付加する。
また、天然ゴムの分子末端には、蛋白質とリン脂質が結合している。本発明においては、このリン脂質を加水分解した後、極性基を有するカルボン酸化合物、極性基を有するアルデヒド類、極性基を有するイソシアネート類等を縮合することによって分子末端に極性基が存在する変性天然ゴムを得ることもできる。極性基の含有量は変性天然ゴム中のゴム成分の0.0005〜0.2質量%である。
【0013】
本発明のゴム組成物は、分子末端に極性基を導入した変性天然ゴムをゴム成分に使用し、無機充填剤及びカップリング剤として特定の有機ケイ素化合物を含むが、有機ケイ素化合物としは分子内に窒素原子とケイ素原子を含む環状構造を有し、かつ、一つ以上の硫黄原子を有し、立体障害の小さな基が一つ以上ケイ素原子に結合した部位を有するケイ素化合物である。シリカ等の無機充填剤との反応速度が高く、カップリング反応の効率を上げ、ゴム組成物のヒステリシスを大幅に低下させて、耐摩耗性を向上させる。
本発明のタイヤは、該ゴム組成物をタイヤ部材のいずれかに用いたタイヤである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、分子末端に極性基が存在する変性天然ゴムをゴム組成物のゴム成分に、有機ケイ素化合物をカップリング剤として使用することで、従来の極性基含有単量体で変性した天然ゴム分子のいたるところに極性基が存在する変性天然ゴムを含むゴム組成物よりも、充填剤の分散性が高く、低ロス化するとともに、カップリング剤との反応性も高いので、補強層が増大して耐摩耗性に優れたゴム組成物が得られ、その上弾性率も高いので操縦安定性に優れたタイヤが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明で使用する変性天然ゴムの原料として用いる天然ゴムラテックスとしては、フィールドラテックス、アンモニア処理ラテックス、遠心分離濃縮ラテックス、界面活性剤や酵素で処理した脱蛋白ラテックス、前記のものを組み合わせたものなど、いずれも使用することができる。副反応を少なくするためには、天然ゴムラテックスの純度を上げて使用するとよい。
【0016】
上記天然ゴムラテックスの酸化は公知の方法で行うことができる。例えば、特開平8−81505号公報に従って、有機溶剤に1〜30質量%の割合で溶解した天然ゴムラテックスを金属系酸化触媒の存在下で空気酸化することによって天然ゴムラテックスの酸化を行うことができる。ここで、空気酸化を促進するために用いられる金属系酸化触媒の好適な金属種はコバルト、銅、鉄等であり、これらの塩化物や有機化合物との塩や錯体が用いられる。なかでも塩化コバルト、コバルトアセチルアセトナート、ナフテン酸コバルト等のコバルト系触媒が好適である。
【0017】
有機溶媒としては、それ自体がゴムと反応せず、また容易に酸化されることがなく、ゴムを溶解するものであれば良く、種々の炭化水素系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、有機ハロゲン系溶媒等が好適に用いられる。炭化水素系溶媒としては、例えばヘキサン、ガソリン等が使用可能である。芳香族炭化水素系溶媒としては、例えばトルエン、キシレン、ベンゼン等が使用可能である。有機ハロゲン系溶媒としては、例えばクロロホルム、ジクロロメタン等が使用可能である。中でも芳香族炭化水素系のトルエンを用いるのが好適である。また、それらとアルコール等との混合溶媒を用いることも可能である。
【0018】
また、特開平9−136903号公報に記載されているように、天然ゴムラテックスにカルボニル化合物を添加し、天然ゴムラテックスを酸化することによって、酸化を行うことができる。天然ゴムラテックスに添加するカルボニル化合物は、ゴム分に関係なくラテックス容量に対して20容量%(V/V%)以下、好ましくは0.5〜10容量%となるように添加するのが適当である。カルボニル化合物の濃度が上記範囲を超えても問題はないが、反応性を高めないばかりか、経済的に不利となる虞がある。ここで、カルボニル化合物の好適な例としては、種々のアルデヒド類、ケトン類等があげられる。
【0019】
アルデヒド類としては、例えばホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、n−バレルアルデヒド、カプロアルデヒド、ヘプタアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、トルアルデヒド、ニトロベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド、アニスアルデヒド、バニリン、ピペロナール、メチルバレルアルデヒド、イソカプロアルデヒド、パラホルムアルデヒド等があげられる。
【0020】
ケトン類としては、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルn−プロピルケトン、ジエチルケトン、イソプロピルメチルケトン、ベンジルメチルケトン、2−ヘキサノン、3−ヘキサノン、イソブチルメチルケトン、アセトフェノン、プロピオフェノン、n−ブチロフェノン、ベンゾフェノン、3−ニトロ−4’−メチルベンゾフェノン等があげられる。
【0021】
上記カルボニル化合物を天然ゴムラテックスに添加して酸化を行うことができるが、酸化方法として空気酸化を行う場合、特開平9−136903号公報に記載されているように、空気酸化を促進するためにラジカル発生剤の存在下で空気酸化を行うのが好ましい。ラジカル発生剤としては、例えば過酸化物系ラジカル発生剤、レドックス系ラジカル発生剤、アゾ系ラジカル発生剤等が好適に用いられる。過酸化物系ラジカル発生剤としては、例えば過酸化ベンゾイル、過酸化ジ−t−ブチル、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、過酸化ラウロイル、ジイソプロピルペルオキシカルボナート、ジシクロヘキシルペルオキシカルボナート等が使用できる。
【0022】
レドックス系ラジカル発生剤としては、例えばクメンヒドロキシペルオキシドとFe(II)塩、過酸化水素とFe(II)塩、過硫酸カリウム又は過硫酸アンモニウムと亜硫酸ナトリウム、過塩素酸ナトリウムと亜硫酸ナトリウム、硫酸セリウム(IV)とアルコール、アミン又は澱粉、過酸化ベンゾイルや過酸化ラウロイル等の過酸化物とジメチルアニリン、tert−ブチルハイドロパーオキサイドとテトラエチレンペンタミン等が使用できる。
【0023】
アゾ系ラジカル発生剤としては、例えばアゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、アゾビスイソブチルアミジン塩酸塩、4,4’−アゾビス−4−シアノ吉草酸等が使用できる。
【0024】
ラジカル発生剤は天然ゴムラテックス中に溶解又は分散させて用いられる。ラジカル発生剤の添加量は、天然ゴム固形分に対して0.01〜5質量%、好ましくは0.05〜1質量%であるのが適当である。ラジカル発生剤の濃度が上記範囲より低いと空気酸化の速度が遅く実用的でない。一方、ラジカル発生剤の濃度が上記範囲を超えると、分子鎖切断が進み、分子量の低下に伴い、ゴム組成物としての低ロス性、耐摩耗性、破壊強度が悪化するおそれがある。
【0025】
空気酸化では、溶液を空気と均一に接触させることが望ましい。空気との接触を均一にする手法は特に限定されないが、例えば振盪フラスコ中で振盪させるほか、攪拌や空気を吹き込むバブリング等により容易に行うことができる。空気酸化を進める温度は、通常、室温〜100℃で行われるが、特に限定されるものではない。反応は、通常1〜5時間程度で終了する。
【0026】
また、特開2001−261707号公報の記載に従って、天然ゴムラテックスにオゾン含有ガスを吹き込み、オゾンの酸化作用で天然ゴムラテックスの酸化を行うことができる。この方法では、過酸化水素の添加により、分解反応が促進される。
【0027】
本発明で使用する変性天然ゴムは、上記の手法によって、天然ゴムラテックスを酸化した後、極性基含有ヒドラジド化合物を添加することによって得られる。極性基含有ヒドラジド化合物は、天然ゴムラテックスを酸化して得られた酸化天然ゴムラテックスに添加してもよいし、又は得られた酸化天然ゴムラテックスを凝固して得られた酸化天然ゴムに添加してもよい。
【0028】
上記手法で得られた酸化天然ゴムラテックスは、天然ゴム分子鎖の末端にカルボニル基を有する。極性基含有ヒドラジド化合物は、高い反応性を有し、そのため、酸化天然ゴムラテックス又は該酸化天然ゴムラテックスを凝固して得られた酸化天然ゴム中のゴム分子末端のカルボニル基と容易に反応する。よって、酸化天然ゴムラテックス又は酸化天然ゴムに極性基含有ヒドラジド化合物を添加することで、高価な触媒を用いることなく、天然ゴム分子末端に、容易に極性基を導入することができる。
【0029】
極性基含有ヒドラジド化合物としては、分子内に少なくとも一つの極性基を有するヒドラジド化合物であれば特に制限されない。極性基としては、具体的には、例えば、アミノ基、イミノ基、ニトリル基、アンモニウム基、イミド基、アミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基、エポキシ基、オキシカルボニル基、含窒素複素環基、含酸素複素環基、スズ含有基、アルコキシシリル基などを好適に挙げることができる。これらの極性基含有ヒドラジド化合物は、それぞれ単独で、又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0030】
アミノ基含有ヒドラジド化合物としては、1分子中に第1級、第2級及び第3級アミノ基から選ばれる少なくとも1つのアミノ基を有するヒドラジド化合物が挙げられる。これらのアミノ基含有ヒドラジド化合物は、それぞれ単独、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
第1級アミノ基含有ヒドラジド化合物としては、例えば、2−アミノアセトヒドラジド、3−アミノプロピオン酸ヒドラジド、4−アミノブタン酸ヒドラジド、2−アミノベンゾヒドラジド、4−アミノベンゾヒドラジド等が挙げられる。
【0032】
第2級アミノ基含有ヒドラジド化合物としては、例えば、2−(メチルアミノ)アセトヒドラジド、2−(エチルアミノ)アセトヒドラジド、3−(メチルアミノ)プロピオン酸ヒドラジド、3−(エチルアミノ)プロピオン酸ヒドラジド、3−(プロピルアミノ)プロピオン酸ヒドラジド、3−(イソプロピルアミノ)プロピオン酸ヒドラジド、4−(メチルアミノ)ブタン酸ヒドラジド、4−(エチルアミノ)ブタン酸ヒドラジド、4−(プロピルアミノ)ブタン酸ヒドラジド、4−(イソプロピルアミノ)ブタン酸ヒドラジド、2−(メチルアミノ)ベンゾヒドラジド、2−(エチルアミノ)ベンゾヒドラジド、2−(プロピルアミノ)ベンゾヒドラジド、2−(イソプロピルアミノ)ベンゾヒドラジド、4−(メチルアミノ)ベンゾヒドラジド、4一(エチルアミノ)ベンゾヒドラジド、4−(プロピルアミノ)ベンゾヒドラジド、4−(イソプロピルアミノ)ベンゾヒドラジド等が挙げられる。
【0033】
第3級アミノ基含有ヒドラジド化合物としては、例えば、N,N−ジ置換アミノアルカン酸ヒドラジド化合物、N,N−ジ置換アミノベンゾヒドラジド化合物等が挙げられる。これらの化合物としては、例えば、2−(ジメチルアミノ)アセトヒドラジド、2−(ジエチルアミノ)アセトヒドラジド、3−(ジメチルアミノ)プロピオン酸ヒドラジド、3−(ジエチルアミノ)プロピオン酸ヒドラジト、3−(ジプロピルアミノ)プロピオン酸ヒドラジド、3−(ジイソプロピルアミノ)プロピオン酸ヒドラジド、4−(ジメチルアミノ)ブタン酸ヒドラジド、4−(ジエチルアミノ)ブタン酸ヒドラジド、4−(ジプロピルアミノ)ブタン酸ヒドラジド、4−(ジイソプロピルアミノ)ブタン酸ヒドラジド、2−(ジメチルアミノ)ベンゾヒドラジド、2−(ジエチルアミノ)ベンゾヒドラジド、2−(ジプロピルアミノ)ベンゾヒドラジド、2−(ジイソプロピルアミノ)ベンゾヒドラジド、4−(ジメチルアミノ)ベンゾヒドラジド、4−(ジエチルアミノ)ベンゾヒドラジド、4−(ジプロピルアミノ)ベンゾヒドラジド、4−(ジイソプロピルアミノ)ベンゾヒドラジド等が挙げられる。
【0034】
また、アミノ基の代わりに含窒素複素環基であってもよく、その含窒素複素環基としては、例えば、ピロール、ヒスチジン、イミダソール、トリアゾリジン、トリアゾール、トリアジン、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、インドール、キノリン、プリン、フェナジン、プテリジン、メラミン等が挙げられる。なお、合窒素複素環は、他のへテロ原子を環中に含んでいてもよい。含窒素複素環基としてピリジル基を有するヒドラジド化合物としては、例えば、イソニコチノヒドラジド、ピコリノヒドラジドが挙げられる。これら含窒素複素環基含有ヒドラジド化合物は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合せて用いてもよい。
【0035】
ニトリル基を有するヒドラジド化合物としては、2−ニトロアセトヒドラジド、3−ニトロプロピオン酸ヒドラジド、4−ニトロブタン酸ヒドラジド、2−ニトロベンゾヒドラジド、4−ニトロベンゾヒドラジド等が挙げられる。これらのニトリル基含有ヒドラジド化合物は一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合せて用いてもよい。
【0036】
ヒドロキシル基含有ヒドラジド化合物としては、1分子中に少なくとも1個のヒドロキシル基を含有するヒドラジド化合物が挙げられる。このようなヒドロキシル基含有ヒドラジド化合物としては、例えば、2−ヒドロキシアセトヒドラジド、3−ヒドロキシプロピオン酸ヒドラジド、4−ヒドロキシブタン酸ヒドラジド、2−ヒドロキシベンゾヒドラジド、4−ヒドロキシベンゾヒドラジドが挙げられる。これらのヒドロキシル基含有ヒドラジド化合物は一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合せて用いてもよい。
【0037】
カルボキシル基を含有するヒドラジド化合物としては、3−カルボキシプロピオン酸ヒドラジド、4−カルボキシブタン酸ヒドラジド、フタル酸モノヒドラジド、テレフタル酸モノヒドラジド等が挙げられる。これらカルボキシル基含有ヒドラジド化合物は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合せて用いてもよい。
【0038】
エポキシ基を有するヒドラジド化合物としては、2−(オキシラン−2−イル)アセトヒドラジド、3−(オキシラン−2−イル)プロパン酸ヒドラジド、3−(テトラヒドロ−2H−ピラン−4−イル)プロパン酸ヒドラジド等が挙げられる。これらエポキシ基含有ヒドラジド化合物は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合せて用いてもよい。
【0039】
スズ含有基を有するヒドラジド化合物としては、3−(トリブチルスズ)プロピオン酸ヒドラジド、3−(トリメチルスズ)プロピオン酸ヒドラジド、3−(トリフェニルスズ)プロピオン酸ヒドラジド、3−(トリオクチルスズ)プロピオン酸ヒドラジド、4−(トリブチルスズ)ブタン酸ヒドラジド、4−(トリメチルスズ)ブタン酸ヒドラジド、4−(トリフェニルスズ)ブタン酸ヒドラジド、4−(トリオクチルスズ)ブタン酸ヒドラジド、2−(トリブチルスズ)ベンゾヒドラジド、4−(トリブチルスズ)ベンゾヒドラジド、2−(トリメチルスズ)ベンゾヒドラジド、4−(トリメチルスズ)ベンゾヒドラジド、2−(トリオクチルスズ)ベンゾヒドラジド、4−(トリオクチルスズ)ベンゾヒドラジド等のスズ含有ヒドラジド化合物を挙げることができる。これらスズ含有ヒドラジド化合物は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合せて用いてもよい。
【0040】
アルコキシシリル基を含有するヒドラジド化合物としては、2−(トリメトキシシリル)アセトヒドラジド、2−(トリエトキシシリル)アセトヒドラジド、3−(トリメトキシシリル)プロピオン酸ヒドラジド、3−(トリエトキシシリル)プロピオン酸ヒドラジド、4−(トリメトキシシリル)ブタン酸ヒドラジド、4−(トリエトキシシリル)ブタン酸ヒドラジド、2−(トリメトキシシリル)ベンゾヒドラジド、2−(トリエトキシシリル)ベンゾヒドラジド、4−(トリメトキシシリル)ベンゾヒドラジド、4−(トリエトキシシリル)ベンゾヒドラジド等を挙げることができる。これらアルコキシシリル基含有ヒドラジド化合物は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合せて用いてもよい。
【0041】
極性基含有ヒドラジド化合物の添加方法としては、下記の3通りが挙げられる。
第1の方法は、上記酸化反応した天然ゴムラテックスを凝固、粉砕し、クラム化した後、極性基含有ヒドラジド化合物を添加する。その後、例えば、ミキサー、押出機、混練機(プリブレーカー)等を用いて混練を行い、乾燥した変性天然ゴムを得ることができる。
【0042】
第2の方法は、上記酸化反応した天然ゴムラテックスを凝固、粉砕、乾燥した後、極性基含有ヒドラジド化合物を添加する。例えば、乾燥後の固形の酸化天然ゴムへの極性基含有ヒドラジド化合物溶液の添加をミキサー、押出機、混練機等により行う工程が挙げられ、好ましくは、分散性向上の点から混練磯で混合することが好ましい。
【0043】
第3の方法は、上記酸化反応した天然ゴムラテックス中に、水及び必要に応じて乳化剤を加えたものの中に極性基含有ヒドラジド化合物を加え、所定の温度で攪拌して反応させる。極性基含有ヒドラジド化合物の酸化天然ゴムラテックスへの添加に際しては、予め酸化天然ゴムラテックス中に乳化剤を加えておくか、あるいは極性基含有ヒドラジド化合物を乳化した後、酸化天然ゴムラテックスに加える。必要に応じて有機過酸化物を添加することもできる。使用し得る乳化剤としては、特に限定されないが、ノニオン系の界面活性剤、例えばポリオキシエチレンラウリルエーテル等が挙げられる。このようにして極性基含有ヒドラジド化合物を添加し、反応させて得られた変性天然ゴムラテックスを凝固、乾燥することによって、変性天然ゴムを得ることができる。
【0044】
なお、上述した3つの方法において、酸化天然ゴムラテックス又は変性天然ゴムラテックスを凝固するのに用いる凝固剤としては、特に限定されるものではないが、ギ酸、硫酸等の酸や、塩化ナトリウム等の塩が挙げられる。また、酸化天然ゴムラテックス又は変性天然ゴムラテックスの乾燥は、真空乾燥機、エアドライヤー、ドラムドライヤー等の乾燥機を用いて行うことができる。
【0045】
上記のようにして得られた変性天然ゴムは、天然ゴム分子鎖の末端に、下記一般式(A):
【化1】

(式中、Rは、置換基としてアミノ基、イミノ基、ニトリル基、アンモニウム基、イミド基、アミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基、エポキシ基、オキシカルボニル基、スズ含有基、アルコキシシリル基からなる群から選ばれる極性基を少なくとも1種有する炭素数1〜4のアルキル基、置換基として該極性基を少なくとも1種有するフェニル基、又は含窒素複素環基及び含酸素複素環基からなる群から選ばれる少なくとも1種の極性基である)で表される極性基を有する。
なお、上記一般式(A)中のRは上述したような極性基含有ヒドラジド化合物のヒドラジド基以外の部分に由来するものである。
【0046】
上記変性天然ゴムをカーボンブラックやシリカ等の充填剤と配合したとき、加工性を低下させずに低ロス特性や耐摩耗性を向上させるには、天然ゴムの各分子にまんべんなく少量の極性基が導入されることが重要であるため、上記変性天然ゴムにおいて極性基含有ヒドラジド化合物の付加量は、天然ゴム中のゴム成分に対し0.01〜5.0質量%が好ましく、0.01〜1.0質量%がより好ましい。
【0047】
さらに、本発明では、次のような方法で変性した変性天然ゴムを使用することもできる。
通常、天然ゴムの分子末端には、蛋白質とリン脂質が結合しており、その末端の蛋白質同士及びリン脂質同士が更に結合・会合して高次分岐構造を形成していると推測されるが、この分岐を形成しているリン脂質を加水分解する。
リン脂質の加水分解は、公知の方法で行うことができ、例えば国際公開公報WO2004/052935に記載の方法が適用できる。
【0048】
リン脂質を加水分解する方法としては、天然ゴムラテックスにアルカリ、あるいはリパーゼ及び/又はホスホリパーゼで酵素処理することが挙げられる。
アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられ、リパーゼ及びホスホリパーゼとしては、特に限定されず、細菌由来のもの、糸状菌由来のもの、酵母由来のものいずれでも構わない。また、リパーゼ及びホスホリパーゼは、100(U/g)以上、好ましくは1000(U/g)以上、より好ましくは10000(U/g)以上、更に好ましくは100000(U/g)以上であることが良い。このようなリパーゼ及びホスホリパーゼとしては市販品のリパーゼM「アマノ」10(天野エンザイム株式会社製)、リパーゼOF(名糖株式会社製)、ホスホリパーゼA1(三共株式会社製)等を挙げることができる。
【0049】
このような酵素処理に際しての上記リパーゼ及び/又はホスホリパーゼの添加量は、天然ゴムラテックス中の固形成分100質量部に対して0.005〜10質量部、特に0.01〜1.0質量部の範囲であることが好ましい。上記範囲の添加量であれば、天然ゴムラテックス中のリン脂質の分解が適宜行われる。
上記リパーゼ及び/又はホスホリパーゼの添加量(総量)が0.005〜10質量部であれば、リン脂質の分解反応が十分に行われ、しかも天然ゴムに含まれる脂肪酸の分解も少なく、ゴムの伸張結晶性が低下することなく引張強度や耐摩耗性が向上する。
【0050】
このような酵素を添加するにあたり、他の添加剤、例えばpH調整剤としてリン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸ナトリウム等のリン酸塩や酢酸カリウム、酢酸ナトリウム等の酢酸塩、さらに硫酸、酢酸、塩酸、硝酸、ギ酸、クエン酸、コハク酸等の酸類またはその塩、あるいはアンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等を使用することができる。酵素処理は、アルカリ性、好ましくはpH8以上、より好ましくは9以上のアルカリ性で行うことで天然ゴムラテックスを凝固することなく、処理できる。
【0051】
上記酵素処理は、温度70℃以下、好ましくは温度60℃以下でなされること、更に好ましくは50℃以下で処理される。酵素処理温度が70℃以下であれば、天然ゴムラテックスが凝固することなく安定して処理できる。凝固すると酵素による分解効果が低下する。
【0052】
また、天然ゴムラテックスの酵素処理には、界面活性剤を併用して処理することが良い。界面活性剤としては、非イオン界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤等が使用でき、特に、非イオン界面活性剤、陰イオン性界面活性剤等が使用することが好ましい。
非イオン界面活性剤としては、例えばポリオキシアルキレンエーテル系、ポリオキシアルキレンエステル系、多価アルコール脂肪酸エステル系、糖脂肪酸エステル系、及びアルキルポリグリコシド系などが好適である。
陰イオン界面活性剤には、例えばカルボン酸系、スルホン酸系、硫酸エステル系、及びリン酸エステル系などが好適である。
カルボン酸系界面活性剤としては、例えば脂肪酸塩、多価カルボン酸塩、ロジン酸塩、ダイマー酸塩、ポリマー酸塩、トール油脂肪酸塩等が挙げられる。スルホン酸系界面活性剤としては、例えばアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、ジフェニルエーテルスルホン酸塩等が挙げられる。硫酸エステル系界面活性剤としては、例えばアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、トリスチレン化フェノール硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンジスチレン化フェノール硫酸エステル塩等が挙げられる。リン酸エステル系界面活性剤としてはアルキルリン酸エステル塩、ポリオキシアルキレンリン酸エステル塩等が挙げられる。
【0053】
上記の如く酵素処理された天然ゴムラテックスは、pH調整などを行って、そのまま、あるいは遠心分離機などでコム成分を濃縮して、極性基含有化合物との反応に使用する。
【0054】
上記の方法で得られたリン脂質加水分解天然ゴムは、天然ゴム分子鎖の末端の結合脂質が加水分解され、ヒドロキシル基を有する。ヒドロキシル基と反応する極性基を有する化合物と該ヒドロキシル基が、縮合することで天然ゴム分子末端に容易に極性基を導入できる。
【0055】
極性基の具体例としては、アミノ基、イミノ基、ニトリル基、アンモニウム基、イミド基、アミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基、エポキシ基、オキシカルボニル基、チオール基、含窒素複素環基、含酸素複素環基、スズ含有基及びアルコキシシリル基等を好適に挙げることができる。
上記ヒドロキシル基と反応する極性基を有する化合物としては、上記極性基の外にカルボキシル基、アルデヒド基、カルボニル基、アルコキシル基、ヒドロキシル基、シソシアナト基などを有する化合物が挙げられ、特に極性基含有カルボン酸が好ましく用いられる。
【0056】
極性基としてアミノ基を含有する化合物は、1分子中に第1級、第2級及び第3級アミノ基から選ばれる少なくとも1つのアミノ基を含有する化合物が挙げられる。これらアミノ基を有する化合物の中でも、第3級アミノ基含有化合物が特に好ましい。これらアミノ基含有化合物は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合せて用いてもよい。
【0057】
第1級アミノ基含有化合物としては、例えば7−アミノヘプタン酸、β−アラニン等が挙げられる。
第2級アミノ基含有化合物としては、例えば7−(エチルアミノ)ヘプタン酸等が挙げられる。
第3級アミノ基含有化合物としては、例えば7−(ジエチルアミノ)ヘプタン酸等が挙げられる。
【0058】
また、アミノ基の代わりに、含窒素複素環基であってもよく、含窒素複素環としては、例えばピロール、ヒスチジン、イミダゾール、トリアゾリジン、トリアゾール、トリアジン、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、インドール、キノリン、プリン、フェナジン、プテリジン、メラミン等が挙げられる。含窒素複素環は、他のヘテロ原子を環中に含んでいてもよい。
例えばピリジル基を有する化合物として、イソニコチン酸等が挙げられる。
【0059】
上記ニトリル基含有化合物としては、7−シアノヘプタン酸等が挙げられ、これらニトリル基含有化合物は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合せて用いてもよい。
【0060】
ヒドロキシル基含有化合物としては、1分子中に少なくとも1個のヒドロキシル基を含有する化合物が挙げられる。例えばヒドロキシル基含有カルボン酸として6−ヒドロキシヘキサン酸等が挙げられる。これらヒドロキシル基含有化合物は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合せて用いてもよい。
【0061】
カルボキシル基含有化合物としは、ピメリン酸等を挙げることができる。これらカルボキシル基含有化合物は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合せて用いてもよい。
【0062】
エポキシ基を有する化合物としては、6−(オキシラン−2−イル)ヘキサン酸等が挙げられる。これらのエポキシ基を有する化合物は一種のみを用いてもよいし、二種以上を併用することもできる。
【0063】
極性基含有化合物は、溶媒に可溶なものはそのまま添加してもよいし、溶液として添加してもよい。また、難溶性のものは、乳化して添加するのが好ましい。
【0064】
カルボン酸とヒドロキシル基との反応では、縮合剤を反応促進剤として用いてもよい。縮合剤としては、カルボジイミド系縮合剤、トリアジン系縮合剤、ホスホニウム型縮合剤、ベンゾトリアゾール型縮合剤、イミダゾール系縮合剤、または極性基含有ハロゲン化カルボン酸等が使用でき、具体的には、例えばEDC(1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドヒドロクロライド)、DMT−MM(4−(4,4−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルフォリニウムクロライド)、BOP(ベンゾトリアゾール−1−イル−オキシ−トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスフェイト)、PYBOP(ベンゾトリアゾール−1−イル−オキシ−トリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスフェイト)、HBTU(o−(ベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェイト)、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オンなどがある。
【0065】
また、縮合剤の活性を上げるために、さらにHOBT(1−ヒドロキシベンゾトリアゾール)、DMAP(4−ジメチルアミノピリジン)、HOSU(N−ヒドロキシスクシンイミド)、HOAT(1−ヒドロキシ−7−アザベンゾトリアゾール)、TBTU(o−(ベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムテトラフルオロボラレート)などを加えるとよい。この中で、EDCとDMAPの組合せは高収率で反応するので望ましい。
縮合剤や促進剤は、溶媒に可溶なものはそのまま添加してもよいし、溶液として添加してもよい。難溶性のものは、乳化して添加するのが好ましい。
【0066】
上記ヒドロキシル基と反応する極性基含有化合物をリン脂質を加水分解した天然ゴム分子に反応させるには、該天然ゴムをトルエンなどの溶媒に溶解した溶液中に、極性基含有化合物及び反応を促進させるための縮合剤を加え、所定の温度で撹拌することで、極性基含有化合物を天然ゴム分子の末端に縮合させる。なお、極性基含有化合物のリン脂質加水分解天然ゴムヘの添加においては、予め溶媒中に乳化剤を加えてもよいし、極性基含有化合物を乳化剤で乳化した後に溶媒に加えてもよい。リン脂質加水分解天然ゴム溶液及び/又は極性基含有化合物の乳化に使用できる乳化剤としては、特に限定されず、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のノニオン系の界面活性剤が挙げられる。
【0067】
ゴム組成物の加工性を低下させることなく低ロス性及び耐摩耗性を向上させるには、各天然ゴム分子に上記極性基含有化合物が均一に導入されることが重要であるため、上記変性反応は、撹拌しながら行うことが好ましく、例えば、リン脂質加水分解天然ゴム及び極性基含有化合物等の反応成分を反応容器に仕込み、20〜60℃で2〜12時間反応させることで、天然ゴム分子に極性基含有化合物が縮合、付加した変性天然ゴムが得られる。
【0068】
上記変性天然ゴムの極性基含有量は、変性天然ゴム中のゴム成分に対して0.0005〜0.2質量%の範囲が好ましく、0.005〜0.1質量%の範囲がより一層好ましい。変性天然ゴムの極性基含有量が0.0005〜0.2質量%であれば、粘弾性、S−S特性(引張試験機における応力−歪曲線)等の天然ゴム本来の優れた物理特性を維持し、ゴム組成物の低ロス性及び耐摩耗性を改良できる。しかもゴム組成物の加工性も良い。
【0069】
上記のようにして得た変性天然ゴムをアルコール、水等の貧溶媒を用いて再沈殿、回収し、洗浄後、真空乾燥機、エアドライヤー、ドラムドライヤー等の乾燥機を用いて乾燥することで、固形状態の変性天然ゴムが得られる。変性天然ゴムを回収するのに用いる再沈殿用の貧溶媒としては、特に限定されるものではなく、水、エタノール、2−プロパノール等のアルコール、アセトンや、これらの貧溶媒同士の混合溶媒が挙げられる。
【0070】
上記変性天然ゴムは、ゴム組成物として、優れた低ロス性、耐摩耗性及び破壊強度を確保するという観点から、ゲル浸透クロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算重量平均分子量が200,000以上であるのが好ましく、400,000以上であるのがより好ましい。
【0071】
次に、本発明で使用する有機ケイ素化合物について説明する。
本発明で使用する有機ケイ素化合物は、分子内に、窒素原子(N)及びケイ素原子(Si)を含む環状構造と、一つ以上の硫黄原子(S)とを有し、且つ立体障害の小さな基が一つ以上ケイ素原子(Si)に結合している部位を有することを特徴とする。本発明の有機ケイ素化合物は、窒素原子(N)とケイ素原子(Si)とを含む環状構造を有し、該環状構造は、ケイ素−酸素結合(Si−O)を含む場合であっても、安定である。そのため、ケイ素−酸素結合(Si−O)が加水分解してアルコール成分が発生することがなく、使用中の揮発性有機化合物(VOC)ガスを低減できる。
【0072】
本発明で使用する有機ケイ素化合物は、シリカ等の無機充填剤の表面との親和性が高いアミノ基、イミノ基、置換アミノ基、置換イミノ基等の含窒素官能基を含むため、窒素原子の非共有電子対が、有機ケイ素化合物と無機充填剤の反応に関与でき、カップリング反応の速度が速い。しかし、窒素原子(N)とケイ素原子(Si)とを含む環状構造が二環性の構造の場合、ケイ素原子(Si)周辺の立体障害が大きいため、無機充填剤との反応性が低く、カップリング効率が大幅に低下してしまう。本発明で使用する有機ケイ素化合物は、立体障害の小さな基が一つ以上ケイ素原子に結合している部位を有するため、シリカ等の無機充填剤との反応性が高い。そのため、従来のシランカップリング剤に代えて、この有機ケイ素化合物を無機充填剤配合ゴム組成物に添加することで、カップリング効率が向上し、その結果として、ゴム組成物のヒステリシスロスを大幅に低下させつつ、耐摩耗性を大幅に向上させることが可能となる。また、本発明の有機ケイ素化合物は、添加効率が高いため、少量でも高い効果が得られ、配合コストの低減にも寄与する。
【0073】
本発明において、立体障害の小さな基としては、水素原子(−H)、メチル基(−CH)及びヒドロキシル基(−OH)が好ましい。水素原子、メチル基又はヒドロキシル基がケイ素原子(Si)に結合している場合、有機ケイ素化合物と無機充填剤との反応性が特に高く、カップリング効率を大幅に向上させることができる。また、本発明の有機ケイ素化合物は、ケイ素−酸素結合(Si−O)を1〜6個有することが好ましい。有機ケイ素化合物がケイ素−酸素結合(Si−O)を1〜6個有する場合、シリカ等の無機充填剤との反応性が高く、カップリング効率が更に向上する。
【0074】
本発明で使用する有機ケイ素化合物として、具体的には、下記一般式(I)で表わされる化合物が好ましい。該有機ケイ素化合物は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0075】
【化2】

[式中、Aは硫黄原子(S)を含み且つゴム成分と反応する基であり、
1及びR2はそれぞれ独立して−M−C2l−(ここで、Mは−O−又は−CH−で、lは0〜10である)で表わされ、但し、R及びRの一つ以上は、Mが−O−であり、Rは水素原子、メチル基又はヒドロキシル基、Rは−C2n+1であり、nは0〜20である。]
【0076】
一般式(I)において、Aは、硫黄原子(S)を含み且つゴム成分と反応する基である。式(I)で表わされる有機ケイ素化合物は、環状構造部分がシリカ等の無機充填剤と反応するため、分子内に更にゴム成分と反応する基を有することで、ゴム成分と無機充填剤とのカップリング能力を有することとなる。ここで、硫黄原子(S)を含み且つゴム成分と反応する基は、ポリサルファイド基、チオエステル基、チオール基、ジチオカーボネート基、ジチオアセタール基、ヘミチオアセタール基、ビニルチオ基、α−チオカルボニル基、β−チオカルボニル基、S−CO−CH2−O部分、S−CO−CO部分(チオジケトン基)、及びS−CH−Si部分からなる群から選択される少なくとも一種を含むことが好ましく、ポリサルファイド基及びチオエステル基の少なくとも一方を含むことが特に好ましい。
【0077】
一般式(I)において、R及びRはそれぞれ独立して−M−C2l−で表わされ、ここで、Mは−O−又は−CH2であり、lは0〜10である。但し、R及びRの一つ以上は、Mが−O−である。
−C2l−は、lが0〜10であるため、単結合又は炭素数1〜10のアルキレン基であり、ここで、炭素数1〜10のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基等が挙げられ、該アルキレン基は、直鎖状でも分岐状でもよい。
【0078】
一般式(I)において、Rは、水素原子、メチル基又はヒドロキシル基である。該Rは、立体障害が小さいため、ゴム成分と無機充填剤とのカップリング反応の向上に大きく寄与する。
【0079】
一般式(I)において、Rは−C2n+1で、nは0〜20である。
−C2n+1は、nが0〜20であるため、水素又は炭素数1〜20のアルキル基である。ここで、炭素数1〜20のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ノナデシル基、エイコシル基等が挙げられ、該アルキル基は、直鎖状でも、分岐状でもよい。
【0080】
上記一般式(I)中のAは、下記一般式(II)、(III)又は(IV)で表わされことが好ましい。
【化3】

[式(II)中のR、R、R及びRは上記と同義であり、式(II)、(III)及び(IV)中のRは下記一般式(V)又は(VI)
【0081】
【化4】

(式中、M及びlは上記と同義、mは0〜10であり、X及びYはそれぞれ独立して−O、−NR−又は−CH−で、Rは−OR、−NR又は−Rで、Rは−NR−、−NR−NR−又は−N=N−であり、但し、Rは上記と同義、RはCqH2q+1で、qは1〜10である)或いは−M−C2l−(M及びlは上記と同義である)で表わされ、
【0082】
式(III)中のRは下記一般式(VII)又は(VIII)、
【化5】

(式中、M、X、Y、R、l及びmは上記と同義、R10は−NR、−NR−NR、−N=NRである)或いは−C2l−R11(R11は−NR、−NR−NR、−N=NR又は−M−C2m+1或いは炭素数6〜20の芳香族炭化水素基であり、但し、R、R、M、l及びmは上記と同義である)で表わされ、
式(II)及び(III)中のxは1〜10であるが、好ましくは2〜4である。
【0083】
上記式(V)及び(VI)において、Mは−O−又は−CH2−であり、l及びmは0〜10である。また、上記式(V)おいて、X及びYはそれぞれ独立して−O−、−NR−又は−CH−であり、Rは−OR、−NR又は−Rであり、ここで、Rは−C2n+1で、Rは−C2q+1である。更に、上記式(VI)おいて、Rは、−NR−、−NR−NR−又は−N=N−であり、ここで、Rは−C2n+1である。
−C2n+1については、上述の通りであり、−C2m−は、mが0〜10であるため、単結合又は炭素数1〜10のアルキレン基である。ここで、炭素数1〜10のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基等が挙げられ、該アルキレン基は、直鎖状でも分岐状でもよい。
また、−C2q+1は、qが0〜10であるため、水素又は炭素数1〜10のアルキル基である。ここで、炭素数1〜10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基等が挙げられ、該アルキル基は、直鎖状でも、分岐状でもよい。
【0084】
上記式(III)中のRは、上記一般式(VII)又は式(VIII)、或いは−C2l−R11で表わされ、特には−C2l+1で表わされることが好ましい。但し、M、X、Y、R、R10、l及びmは上記と同義である。ここで、R11は、−NR、−NR−NR、−N=NR又は−M−C2m+1或いは炭素数6〜20の芳香族炭化水素基であり、R、R、M、l及びmは上記と同義である。
なお、−C2l−については、上述の通りであり、また、−C2m+1は、mが0〜10であるため、水素又は炭素数1〜10のアルキル基であり、炭素数1〜10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基等が挙げられ、該アルキル基は、直鎖状でも、分岐状でもよい。また、炭素数6〜20の芳香族炭化水素基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、クメニル基、ナフチレン基、トリレン基等のアリール基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基が挙げられる。
【0085】
上記式(I)の化合物において、Mは−O−(酸素)であることが好ましい。この場合、Mが−CH2−である化合物と比べてシリカ等の無機充填剤との反応性が高い。
【0086】
また、式(I)において、R及びRはそれぞれ独立して−O−C2l−で表わされることが好ましく、Rは水素原子、メチル基又はヒドロキシル基であり、上記Rは−CH−C2l−で表わされることが好ましく、上記Rは−C2l−CHで表わされる直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、又は炭素数6〜20の芳香族炭化水素基であることが好ましい。
【0087】
本発明で使用する有機ケイ素化合物は、例えば、(C2l+1O)Si−A[式中、l、R及びAは上記と同義である]で表わされる化合物に対し、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン等のアミン化合物を加え、さらに触媒としてp-トルエンスルホン酸、塩酸等の酸や、チタンテトラn-ブトキシド等のチタンアルコキシドを添加し、加熱して、2つのC2l+1O−を−R−NR−R−で表わされる二価の基で置換することで合成できる。
【0088】
本発明の有機ケイ素化合物として、具体的には、3-オクタノイルチオ-プロピル(メチル)1,3-ジオキサ-6-メチルアザ-2-シラシクロオクタン、ビス(3-(メチル)1,3-ジオキサ-6-メチルアザ-2-シラシクロオクチル-プロピル)ジスルフィド、3-オクタノイルチオ-プロピル(ヒドロキシ)1,3-ジオキサ-6-メチルアザ-2-シラシクロオクタン、ビス(3-(ヒドロキシ)1,3-ジオキサ-6-メチルアザ-2-シラシクロオクチル-プロピル)ジスルフィド、3-オクタノイルチオ-プロピル(ヒドロ)1,3-ジオキサ-6-メチルアザ-2-シラシクロオクタン、ビス(3-(ヒドロ)1,3-ジオキサ-6-メチルアザ-2-シラシクロオクチル-プロピル)ジスルフィド、3-オクタノイルチオ-プロピル(メチル)1,3-ジオキサ-6-ブチルアザ-2-シラシクロオクタン、ビス(3-(メチル)1,3-ジオキサ-6-ブチルアザ-2-シラシクロオクチル-プロピル)ジスルフィド等が挙げられる。
【0089】
本発明のゴム組成物は、上記変性天然ゴムと無機充填剤及び上記の有機ケイ素化合物を配合することを特徴とする。ゴム成分として上記変性天然ゴム以外に未変性の天然ゴムや各種合成ゴムを含むことができる。
充填剤の配合量は、特に限定されるものではないが、上記ゴム成分100質量部に対して5〜140質量部の範囲が好ましく、10〜70質量部の範囲が更に好ましい。充填剤の配合量が5〜140質量部では、ヒステリシスを低下させ、加工性もよい。
【0090】
有機ケイ素化合物は、前記無機充填剤の配合量の1〜20質量%配合する。有機ケイ素化合物の含有量が無機充填剤の配合量の1〜20質量%であれば、ゴム組成物のヒステリシスロスを低下させ、しかも耐摩耗性を向上させる効果が十分である。
【0091】
本発明のゴム組成物に用いる充填剤としては、カーボンブラック及び無機充填剤が挙げられ、カーボンブラックとしては、GPF、FEF、SRF、HAF、ISAF、SAFグレードのもの等が挙げられる。
【0092】
無機充填剤としては、シリカ及び下記式(B):
aM・bSiO・dHO ・・・ (B)
[式中、Mは、アルミニウム、マグネシウム、チタン、カルシウム及びジルコニウムからなる群から選ばれる金属、これらの金属の酸化物又は水酸化物、及びそれらの水和物、またはこれらの金属の炭酸塩から選ばれる少なくとも一種であり、a、b、c及びdは、それぞれ1〜5の整数、0〜10の整数、2〜5の整数、及び0〜10の整数である]で表される無機化合物が挙げられる。これら充填剤は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0093】
上記式(B)の無機化合物としては、γ-アルミナ、α-アルミナ等のアルミナ(Al);ベーマイト、ダイアスポア等のアルミナ一水和物(Al・HO);ギブサイト、バイヤライト等の水酸化アルミニウム[Al(OH)];炭酸アルミニウム[Al(CO)]、水酸化マグネシウム[Mg(OH)]、酸化マグネシウム(MgO)、炭酸マグネシウム(MgCO)、タルク(3MgO・4SiO・HO)、アタパルジャイト(5MgO・8SiO・9HO)、チタン白(TiO)、チタン黒(TiO2n−1)、酸化カルシウム(CaO)、水酸化カルシウム[Ca(OH)]、酸化アルミニウムマグネシウム(MgO・Al)、クレー(Al32SiO)、カオリン(Al・2SiO・2HO)、パイロフィライト(Al・4SiO・HO)、ベントナイト(Al・4SiO・2HO)、ケイ酸アルミニウム(AlSiO、Al・3SiO・5HO等)、ケイ酸マグネシウム(MgSiO、MgSiO等)、ケイ酸カルシウム(CaSiO等)、ケイ酸アルミニウムカルシウム(Al・CaO・2SiO等)、ケイ酸マグネシウムカルシウム(CaMgSiO)、炭酸カルシウム(CaCO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、水酸化ジルコニウム[ZrO(OH)・nHO]、炭酸ジルコニウム[Zr(CO)]、各種ゼオライトのように電荷を補正する水素、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含む結晶性アルミノケイ酸塩等を挙げることができる。
【0094】
無機充填剤としては、シリカ、水酸化アルミニウム、アルミナ、クレー、炭酸カルシウム等が挙げられ、これらの中でも、補強性の観点から、シリカ及び水酸化アルミニウムが好ましく、シリカが特に好ましい。無機充填剤がシリカの場合は、有機ケイ素化合物は、シリカ表面のシラノール基との親和力の高い官能基及び/又はケイ素原子(Si)との親和性が高い官能基を有するため、カップリング効率が大幅に向上して、ゴム組成物のヒステリシスロスを低下させ、耐摩耗性を向上させる効果が一層顕著になる。シリカとしては、特に制限はなく、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)等を使用することができ、一方、水酸化アルミニウムとしては、ハイジライト(登録商標、昭和電工製)を用いることが好ましい。
【0095】
シリカは、BET表面積が40〜350m/gであることが好ましい。シリカのBET表面積がこの範囲であれば、シリカの粒子径が適切となり、耐摩耗性の向上とヒステリシスロスの低下になる。
【0096】
本発明のゴム組成物には、上記ゴム成分、無機充填剤及び有機ケイ素化合物の他に、ゴム工業界で通常使用される配合剤、例えば、老化防止剤、軟化剤、ステアリン酸、亜鉛華、加硫促進剤、加硫剤等を本発明の目的を害しない範囲内で適宜選択して配合することができる。これら配合剤としては、市販品を好適に使用することができる。
本発明のゴム組成物は、変性天然ゴムを含むゴム成分、無機充填剤及び有機ケイ素化合物に、必要に応じて適宜選択した各種配合剤を配合して、混練り、熱入れ、押出等することにより製造することができる。
【0097】
本発明のタイヤは、上記ゴム組成物を用いることを特徴とし、上記ゴム組成物をトレッドに用いることが好ましい。上記ゴム組成物をトレッドに用いたタイヤは、転がり抵抗が大幅に低下し、破壊特性及び耐摩耗性に優れる。なお、本発明のタイヤは、上記ゴム組成物をタイヤ部材のいずれかに用いる以外特に制限は無く、常法に従って製造することができる。また、タイヤに充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【0098】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0099】
製造例1
変性天然ゴムAの製造
(酸化天然ゴム製造工程)
フィールドラテックスをラテックスセパレーター[斎藤遠心工業製]を用いて回転数7500rpmで遠心分離して、乾燥ゴム濃度60%の濃縮ラテックスを得た。この濃縮ラテックス1000gを、撹拌機及び温調ジャケットを備えたステンレス製反応容器に投入し、1000gの水を加えた。その後、過硫酸カリウム9.0g、プロピオンアルデヒド3.0gを添加し、60℃、30時間攪拌しながら反応させることで酸化天然ゴムラテックスを得た。次に、ギ酸を加えることでpHを4.7に調整し凝固させた。この固形物をクレーパーで5回処理し、シュレッダーを通してクラム化した。
(変性工程)
得られた凝固物の乾燥ゴム含有量を求めた後、乾燥ゴム量換算で600gの凝固物とイソニコチノヒドラジド3.0gのエマルジョン溶液を混練機(プレブレーカー)内で室温にて30rpmで2分間練りこみ、均一に分散させ、乾燥した変性天然ゴムAを得た。また、該変性天然ゴムAを石油エーテルで抽出し、さらにアセトンとメタノールの2:1混合溶媒で抽出することにより、未反応のヒドラジド化合物の分離を行ったところ、抽出物の分析から未反応のヒドラジド化合物は検出されず、よって該変性天然ゴムAにおけるイソニコチノヒドラジドの付加量は天然ゴムラテックス中のゴム成分に対して0.50質量%であった。また、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー[GPC:東ソー製HLC−8020、カラム:東ソー製GMH−XL(2本直列)、検出器:示差屈折率計(RI)]で単分散ポリスチレンを基準として、変性天然ゴムAのポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)を求めたところ、Mwは873000であった。
【0100】
製造例2〜3
変性天然ゴムB及びCの製造
イソニコチノヒドラジド3.0gの代わりに、製造例2では3−(ジメチルアミノ)プロピオン酸ヒドラジド3.0g、製造例3では4−ヒドロキシベンゾヒドラジド3.3gを加え、それ以外は上記実施例1と同様にして変性天然ゴムB及びCを得た。また、変性天然ゴムAと同様にして、変性天然ゴムB、Cにおける極性基含有ヒドラジド化合物の付加量と重量平均分子量(Mw)を求めた。変性天然ゴムBでは、それぞれ0.50質量%と906000、変性天然ゴムCでは、それぞれ0.55質量%と890000であった。
【0101】
製造例4
有機ケイ素化合物A製造
500mlの4ツ口フラスコに、3-オクタノイルチオ-プロピルジエトキシメチルシラン60g、N-メチルジエタノールアミン20g(1.02eq)、チタンテトラ-n-ブトキシド0.8g、トルエン220mlを計量する。メカニカルスターラーで攪拌しながら、乾燥窒素を流しつつ(0.2l/min)フラスコをオイルバスで過熱し、ジムロートコンデンサーを取り付け、11時間還流を行った。その後、20hPa/40℃にてロータリーエバポレーターにより溶媒を除去、続いて、ロータリーポンプ(10Pa)とコールドトラップ(ドライアイス+エタノール)にて残存する揮発分を除去し、70gの黄色透明の液体有機ケイ素化合物Aを得た。ガスクロマトグラフィー(GC)による分析結果で得られた液体は10%の原料と90%の目的物からなることを確認した。また、得られた液体をH−NMRで分析したところ、H−NMR(CDCl,700MHz,δ;ppm)=3.8(m;4H),2.8(t;2H),2.5(m;6H),2.4(m;3H),1.6(m;4H),1.3(m;8H),0.8(t;3H),0.7(t;2H),0.1(s;3H)であり、式(I)で表わされ、Aが式(III)であり、Rが−CHで、Rが−O−CHCH−(但し、O側がSiに連結)、Rが−O−CHCH−(但し、O側がSiに連結)、Rが−CH、Rが−CHCHCH−で、Rが−C15であり、xが1である化合物[即ち、3’−オクタノイルチオ−プロピル−(1−メチル)−1,3−ジオキサ−6−メチルアザ−2−シラシクロオクタン]であることが分かった。
【0102】
製造例5
有機ケイ素化合物Bの製造
500mlの4ツ口フラスコに、ビス(3−ジエトキシメチルシリルプロピル)ジスルフィド40g、N−メチルジエタノールアミン20g(1.02eq)、チタンテトラ−n−ブトキシド0.8g、トルエン220mlを計量する。メカニカルスターラーで攪拌しながら、乾燥窒素を流しつつ(0.2l/min)フラスコをオイルバスで過熱し、ジムロートコンデンサーを取り付け、11時間還流を行った。その後、20hPa/40℃にてロータリーエバポレーターにより溶媒を除去、続いて、ロータリーポンプ(10Pa)とコールドトラップ(ドライアイス+エタノール)にて残存する揮発分を除去し、50gの黄色透明の液体有機ケイ素化合物Bを得た。ガスクロマトグラフィー(GC)による分析結果で得られた液体は10%の原料と90%の目的物からなることを確認した。また、得られた液体をH−NMRで分析したところ、
H−NMR(CDCl,700MHz,δ;ppm)=3.8(m;8H),2.7(t;4H),2.5(m;8H),2.4(m;6H),1.8(m;4H),0.7(t;4H),0.1(s;6H)であり、式(I)で表わされ、Aが式(II)であり、Rが−CH、Rが−O−CHCH−(但し、O側がSiに連結)、Rが−O−CHCH−(但し、O側がSiに連結)、Rが−CH、Rが−CHCHCH−、xが2である化合物[即ち、ビス(2−(メチル)1,3−ジオキサ−6−メチルアザ−2−シラシクロオクチル−プロピル)ジスルフィド]であることが分かった。
【0103】
実施例1〜6及び比較例1〜6
表1に従う配合処方のゴム組成物を、バンバリーミキサーにて混練して調製した。

各実施例、比較例において、ゴム組成物を145℃、33分間の条件で加硫し、加硫ゴムの損失係数(tanδ)、貯蔵弾性率(G’)及び耐摩耗性を下記の方法で評価した。結果を表1に示す。
【0104】
(1)貯蔵弾性率(G’)及び損失係数(tanδ)
上島製作所製スペクトロメーター(動的粘弾性測定試験機)を用い、周波数52Hz、初期歪10%、測定温度60℃、動歪1%で、加硫ゴムのtanδを測定し、比較例1の値を100として指数表示し、た。指数値が小さい程、tanδが低く、ゴム組成物が低ロス性であり、貯蔵弾性率は指数が大きいほど操縦安定性が良好になることを示す。
【0105】
(2)耐摩耗性
ゴム組成物を145℃で33分間加硫して得た加硫し、JIS K 6264−2:2005に準拠し、ランボーン型摩耗試験機を用いて、室温、スリップ率25%の条件で試験を行い、比較例1の摩耗量の逆数を100として指数表示した。指数値が大きい程、摩耗量が少なく、耐摩耗性に優れることを示す。
【0106】
【表1】

【0107】
1 変性天然ゴムA〜Cは製造例1〜3で製造したもの、
2 天然ゴムDは天然ゴムラテックスをそのまま凝固したもの
3 旭カーボン製、 #80
4 日本シリカ工業(株)製, ニップシールAQ、
BET表面積=220 m/g
5 ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド
6 3−オクタノイルチオ−プロピルトリエトキシシラン
7 有機ケイ素化合物は製造例4〜5で製造したもの
8 大内新興化学工業製、ノクラック6C
9 大内新興化学工業製、ノクラック224
10 三新化学工業製、サンセラーD
11 三新化学工業製、サンセラーDM
12 三新化学工業製、サンセラーNS
【0108】
表1から、変性天然ゴム及び有機ケイ素化合物のどちらも使わないか、どちらか一方だけ配合したゴム組成物は、tanδを大幅に低減、即ち、ヒステリシスロスを大幅に低減して、低発熱性にしつつ、貯蔵弾性率(G’)が大きく、操縦安定性が向上すると共に、耐摩耗性を大幅に改善できることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子鎖末端に極性基を有する変性天然ゴムと、分子内に窒素原子及びケイ素原子を含む環状構造と、一つ以上の硫黄原子とを有し、かつ立体障害の小さな基が一つ以上ケイ素原子に結合している部位を有する有機ケイ素化合物を含むことを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
変性天然ゴムが、天然ゴムラテックスを酸化した後、極性基含有ヒドラジド化合物を付加して、分子末端に極性基を導入した変性天然ゴムであることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
天然ゴムラテックスの酸化を天然ゴムラテックスにカルボニル化合物を添加し、空気酸化することによって行うことを特徴とする請求項2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
カルボニル化合物が、アルデヒド類及び/又はケトン類であることを特徴とする請求項3に記載のゴム組成物。
【請求項5】
空気酸化をラジカル発生剤の存在下で行うことを特徴とする請求項3または4に記載のゴム組成物。
【請求項6】
ラジカル発生剤が、過酸化物系ラジカル発生剤、レドックス系ラジカル発生剤及びアゾ系ラジカル発生剤からなる群から選ばれることを特徴とする請求項5に記載のゴム組成物。
【請求項7】
極性基含有ヒドラジド化合物の極性基が、アミノ基、イミノ基、ニトリル基、アンモニウム基、イミド基、アミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基、エポキシ基、オキシカルボニル基、含窒素複素環基、含酸素複素環基、スズ含有基およびアルコキシシリル基からなる群からえらばれる少なくとも一つであることを特徴とする請求項2〜6のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項8】
変性天然ゴム中の極性基含有ヒドラジド化合物の付加量が、天然ゴムラテックス中のゴム分に対して0.01〜5.0質量%であることを特徴とする請求項2〜7のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項9】
天然ゴムの分子鎖の末端に、一般式(A)で表される極性基を有する変性天然ゴムを含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のゴム組成物。
【化1】

[式中、Rは、置換基としてアミノ基、イミノ基、ニトリル基、アンモニウム基、イミド基、アミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基、エポキシ基、オキシカルボニル基、スズ含有基、アルコキシシリル基からなる群から選ばれる極性基を少なくとも1種有する炭素数1〜4のアルキル基、置換基として該極性基を少なくとも1種有するフェニル基、又は含窒素複素環基及び含酸素複素環基からなる群から選ばれる少なくとも1種の極性基である。〕
【請求項10】
変性天然ゴムが、天然ゴム分子のリン脂質を加水分解した後、極性基含有化合物を縮合して天然ゴム分子末端に極性基を導入した変性天然ゴムであることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項11】
極性基含有化合物が、ヒドロキシル基と反応する基を有する化合物であることを特徴とする請求項10に記載のゴム組成物。
【請求項12】
ヒドロキシル基と反応する基が、カルボキシル基、アルデヒド基、カルボニル基、アルコキシル基、ヒドロキシル基及びイソシアナト基であることを特徴とする請求項11にゴム組成物。
【請求項13】
ヒドロキシル基と反応する基が、カルボキシル基であることを特徴とする請求項12にゴム組成物。
【請求項14】
極性基含有化合物の極性基が、アミノ基、イミノ基、ニトリル基、アンモニウム基、イミド基、アミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基、エポキシ基、オキシカルボニル基、チオール基、含窒素複素環基、含酸素複素環基、スズ含有基及びアルコキシシリル基からなる群から選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする請求項10〜13のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項15】
極性基含有化合物の添加量が、天然ゴムラテックス中の天然ゴム成分に対して0.0005〜0.20質量%であることを特徴とする請求項10〜14のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項16】
ゴム組成物のゴム成分100質量部中に、変性天然ゴムを20質量部以上含むことを特徴とする請求項1〜15のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項17】
有機ケイ素化合物中の立体障害の小さな基が、水素原子、メチル基およびヒドロキシル基からなる群から選んだ少なくとも一つであることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項18】
有機ケイ素化合物が、下記一般式(I)であらわされる化合物であることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【化2】

[式中、Aは、下記一般式(II)、式(III)又は式(IV):
【化3】

(式(II)及び式(III)中、xは1〜10である)
式(II)、式(III)及び式(IV)中のRは、下記一般式(V)、式(VI)または−M−C2l−:
【化4】

式(III)中のRは下記一般式(VII)、式(VIII)または−C2l−R11
【化5】

を表し、式(I)〜(VIII)を通じて共通に、それぞれ独立して、
及びRはそれぞれ独立して−M−C2l−(ただし、R及びRの一つ以上は、Mが下記定義のうち−O−である)、
は水素原子、メチル基又はヒドロキシル基、
は−C2n+1
は−C2q+1
は−OR、−NR又は−R
は−NR−、−NR−NR−又は−N=N−、
10は−NR、−NR−NR又は−N=NR
11は−NR、−NR−NR、−N=NR又は−M−C2m+1又は炭素数6〜20の芳香族炭化水素基
Mは−O−又は−CH−、
l、m、及びqはそれぞれ独立して0〜10、
nは0〜20、
X及びYはそれぞれ独立して−O−、−NR−又は−CH−を表す]
【請求項19】
有機ケイ素化合物が、式(I)中のAが式(II)で表され、式中のR及びRが独立して−O−C2l−、Rが−CH−C2l−(lはそれぞれ独立して0〜10)で表される有機ケイ素化合物であることを特徴とする請求項18に記載のゴム組成物。
【請求項20】
有機ケイ素化合物が、式(I)中のAが式(III)で表され、式中のR及びRが独立して−O−C2l−、Rが−CH−C2l−、Rが−C2l−CH−C2m+1(lはそれぞれ独立して0〜10、mは0〜10)
で表される有機ケイ素化合物であることを特徴とする請求項18に記載のゴム組成物。
【請求項21】
請求項1〜20のいずれかに記載のゴム組成物に、さらに無機充填剤を配合することを特徴とするゴム組成物。
【請求項22】
ゴム成分100質量部に対して、無機充填剤5〜140質量部を配合し、有機ケイ素化合物を該無機充填剤の1〜20質量%配合することを特徴とする請求項21に記載のゴム組成物。
【請求項23】
無機充填剤が、シリカまたは水酸化アルミニウムである請求項21または22に記載のゴム組成物。
【請求項24】
シリカのBET表面積が、40〜350m/gであることを特徴とする請求項23に記載のゴム組成物。
【請求項25】
請求項1〜24のいずれかに記載のゴム組成物を用いたタイヤ。

【公開番号】特開2011−246514(P2011−246514A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118141(P2010−118141)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】