説明

ゴム組成物及びそれを用いた空気入りタイヤ

【課題】タイヤのブレーキ性能、低温作動性及び耐破壊性を十分に確保しながら、操縦安定性を向上させることが可能なゴム組成物を提供する。
【解決手段】芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体又は共役ジエン化合物重合体のブロック成分(A-1)と、該ブロック成分(A-1)よりガラス転移温度(Tg)が高い芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体又は共役ジエン化合物重合体のブロック成分(A-2)とからなる直鎖状ブロック共重合体(A)を含むゴム成分に対して、ポリスチレン換算重量平均分子量が1.0×103〜2.0×105である芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体又は共役ジエン化合物重合体であって、共役ジエン化合物部分の不飽和結合の20%以上が水素添加された低分子量重合体(B)を配合してなることを特徴とするゴム組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物及び該ゴム組成物を用いた空気入りタイヤに関し、特にタイヤのトレッドゴムに用いることにより、タイヤの操縦安定性、耐破壊性、ブレーキ性能及び低温作動性を高度にバランスさせることが可能なゴム組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の自動車の高度な動力性能の進化に対して、タイヤの特性として、より優れた操縦安定性、特に乾燥路面での操縦安定性が求められるようになってきた。他方、経済性及び安全性の観点からは、タイヤの耐破壊性を十分に確保することも重要な課題である。これに対して、タイヤに高い操縦安定性を付与するために、カーボンブラックを高充填したゴム組成物をトレッドゴムに適用し、ゴム組成物のヒステリシスをグリップに活かす方法、樹脂を高充填したゴム組成物をトレッドゴムに適用し、該樹脂のアドヒージョン効果をグリップに活かす方法等が採られてきた。しかしながら、これらの方法により操縦安定性が改良されたタイヤは、低温(約20℃)での弾性率(G)が上昇し、ブレーキ性能及び低温作動性が悪化するという問題があった。
【0003】
これに対し、ガラス転移温度(Tg)が低い可塑剤を配合したゴム組成物をトレッドゴムに適用すると、タイヤのブレーキ性能及び低温作動性が改良されるものの、高温(約60℃)での弾性率(G)が低下し、タイヤの操縦安定性が低下するという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題を解決し、タイヤのトレッドゴムに用いることにより、タイヤのブレーキ性能、低温作動性及び耐破壊性を十分に確保しながら、操縦安定性を向上させることが可能なゴム組成物を提供することにある。また、本発明の他の目的は、かかるゴム組成物をトレッドゴムに用いた、操縦安定性、耐破壊性、ブレーキ性能及び低温作動性が高度にバランスされた空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、ガラス転移温度(Tg)の異なる二種類のブロック成分からなる直鎖状のブロック共重合体を含むゴム成分に、特定の分子量及び水添率を有する低分子量重合体を配合したゴム組成物を、タイヤのトレッドゴムに用いることで、タイヤのブレーキ性能、低温作動性及び耐破壊性を十分に確保しながら、操縦安定性を改善できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0006】
即ち、本発明のゴム組成物は、芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体又は共役ジエン化合物重合体のブロック成分(A-1)と、該ブロック成分(A-1)よりガラス転移温度(Tg)が高い芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体又は共役ジエン化合物重合体のブロック成分(A-2)とからなる直鎖状ブロック共重合体(A)を含むゴム成分に対して、ポリスチレン換算重量平均分子量が1.0×103〜2.0×105である芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体又は共役ジエン化合物重合体であって、共役ジエン化合物部分の不飽和結合の20%以上が水素添加された低分子量重合体(B)を配合してなることを特徴とする。
【0007】
なお、上記ポリスチレン換算重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定した値である。また、各ブロック成分のガラス転移温度(Tg)とは、ブロック成分(A-1)及び(A-2)をモデルとした重合体をそれぞれ合成し、得られた各重合体についてのガラス転移温度(Tg)であり、ここで、ガラス転移温度(Tg)は、ASTM D3418−82に準拠し、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定した外挿開始温度(extrapolated onset temperature);Tfとする。
【0008】
本発明のゴム組成物において、前記低分子量重合体(B)の配合量は、前記直鎖状ブロック共重合体(A)を5質量%以上含むゴム成分100質量部に対し、5〜200質量部であることが好ましい。
【0009】
本発明のゴム組成物の他の好適例においては、前記ブロック成分(A-1)及び/又はブロック成分(A-2)が、ポリブタジエン又はスチレン−ブタジエン共重合体である。
【0010】
本発明のゴム組成物の他の好適例においては、前記直鎖状ブロック共重合体(A)が、(A-1)−(A-2)−(A-1)タイプ、(A-2)−(A-1)−(A-2)タイプ及び(A-1)-(A-2)タイプからなる群から選択される少なくとも一種である。ここで、該直鎖状ブロック共重合体(A)としては、(A-1)−(A-2)タイプが好ましい。なお、(A-1)−(A-2)−(A-1)タイプ等の表記は、直鎖状ブロック共重合体(A)の構造におけるブロック成分(A-1)及びブロック成分(A-2)の配列を示す。
【0011】
本発明のゴム組成物の他の好適例においては、前記低分子量重合体(B)が、ポリブタジエン又はスチレン−ブタジエン共重合体である。
【0012】
本発明のゴム組成物は、前記ブロック成分(A-1)のガラス転移温度(Tg1)が-110℃〜-30℃の範囲であり、前記ブロック成分(A-2)のガラス転移温度(Tg2)が-50℃〜100℃の範囲であることが好ましく、前記ブロック成分(A-1)のガラス転移温度(Tg1)が-80℃〜-30℃の範囲であり、前記ブロック成分(A-2)のガラス転移温度(Tg2)が-50℃〜0℃の範囲であることが更に好ましい。
【0013】
本発明のゴム組成物は、前記ブロック成分(A-1)の芳香族ビニル化合物の結合量(S1)(質量%)と共役ジエン化合物部分のビニル結合量(V1)(%)とが、下記式(I):
0 ≦ S1 + 0.7×V1 ≦ 70 ・・・ (I)
の関係を満たし、かつ、前記ブロック成分(A-2)の芳香族ビニル化合物の結合量(S2)(質量%)と共役ジエン化合物部分のビニル結合量(V2)(%)とが、下記式(II):
40 ≦ S2 + 0.7×V2 ≦ 120 ・・・ (II)
の関係を満たすことが好ましい。
【0014】
この場合において、前記ブロック成分(A-1)の芳香族ビニル化合物の結合量(S1)(質量%)と共役ジエン化合物部分のビニル結合量(V1)(%)とが、下記式(III):
25 ≦ S1 + 0.7×V1 ≦ 60 ・・・ (III)
の関係を満たし、かつ、前記ブロック成分(A-2)の芳香族ビニル化合物の結合量(S2)(質量%)と共役ジエン化合物部分のビニル結合量(V2)(%)とが、下記式(IV):
50 ≦ S2 + 0.7×V2 ≦ 80 ・・・ (IV)
の関係を満たすことが更に好ましい。
【0015】
本発明のゴム組成物において、前記直鎖状ブロック共重合体(A)は、ポリスチレン換算重量平均分子量が2.0×105〜3.0×106であることが好ましい。
【0016】
本発明のゴム組成物の他の好適例においては、前記直鎖状ブロック共重合体(A)及び低分子量重合体(B)が、Li、Co、Ni、Ti、Na及びNdからなる群から選択される少なくとも一種の金属を含んだ重合開始剤で重合される。
【0017】
本発明のゴム組成物の他の好適例においては、前記直鎖状ブロック共重合体(A)及び低分子量重合体(B)が、リチウム系重合開始剤で重合される。
【0018】
本発明のゴム組成物の他の好適例において、前記直鎖状ブロック共重合体(A)は、該直鎖状ブロック共重合体(A)を形成する各ブロック成分を、該ブロック成分の配列に従い順に重合して得られる。
【0019】
本発明のゴム組成物において、前記直鎖状ブロック共重合体(A)は、共役ジエン化合物部分のビニル結合量が10〜80%の範囲であり、芳香族ビニル化合物の結合量が0〜70質量%の範囲であることが好ましい。
【0020】
本発明のゴム組成物において、前記低分子量重合体(B)は、共役ジエン化合物部分のビニル結合量が10〜80%の範囲であり、芳香族ビニル化合物の結合量が0〜60質量%の範囲であることが好ましい。
【0021】
本発明のゴム組成物は、前記ブロック成分(A-1)の芳香族ビニル化合物の結合量(S1)と前記ブロック成分(A-2)の芳香族ビニル化合物の結合量(S2)との差が、10〜40質量%であることが好ましく、15〜25質量%であることが更に好ましい。
【0022】
本発明のゴム組成物は、前記ブロック成分(A-1)のガラス転移温度(Tg1)と前記ブロック成分(A-2)のガラス転移温度(Tg2)との差が、5℃〜30℃であることが好ましい。
【0023】
本発明のゴム組成物は、前記ブロック成分(A-1)と前記ブロック成分(A-2)との質量比(A-1/A-2)が、1/9〜9/1であることが好ましい。
【0024】
本発明のゴム組成物は、前記ブロック成分(A-1)の芳香族ビニル化合物の結合量(S1)が5〜40質量%であり、前記ブロック成分(A-2)の芳香族ビニル化合物の結合量(S2)が15〜70質量%であることが好ましく、前記ブロック成分(A-1)の芳香族ビニル化合物の結合量(S1)が15〜30質量%であり、前記ブロック成分(A-2)の芳香族ビニル化合物の結合量(S2)が30〜55質量%であることが更に好ましい。
【0025】
本発明のゴム組成物は、前記直鎖状ブロック共重合体(A)が、(A-1)−(A-2)タイプ又は(A-1)−(A-2)−(A-1)タイプを5質量%以上含有することが好ましい。
【0026】
本発明のゴム組成物の他の好適例においては、前記直鎖状ブロック共重合体(A)を含むゴム成分100質量部に対し、カーボンブラック及び/又は無機充填剤を10〜200質量部含有する。
【0027】
また、本発明の空気入りタイヤは、上記のゴム組成物をトレッドゴムに用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、ガラス転移温度(Tg)の異なる二種類のブロック成分からなる直鎖状のブロック共重合体を含むゴム成分に、特定の分子量及び水添率を有する低分子量重合体を配合してなり、タイヤのトレッドゴムに用いることにより、タイヤのブレーキ性能、低温作動性及び耐破壊性を十分に確保しながら、操縦安定性を向上させることが可能なゴム組成物を提供することができる。また、かかるゴム組成物をトレッドゴムに適用した、操縦安定性、耐破壊性、ブレーキ性能及び低温作動性が高度にバランスされた空気入りタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明のゴム組成物は、芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体又は共役ジエン化合物重合体のブロック成分(A-1)と、該ブロック成分(A-1)よりガラス転移温度(Tg)が高い芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体又は共役ジエン化合物重合体のブロック成分(A-2)とからなる直鎖状ブロック共重合体(A)を含むゴム成分に対して、
ポリスチレン換算重量平均分子量が1.0×103〜2.0×105である芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体又は共役ジエン化合物重合体であって、共役ジエン化合物部分の不飽和結合の20%以上が水素添加された低分子量重合体(B)を配合してなることを特徴とする。
【0030】
一般に、タイヤの操縦安定性の確保のためには、室温以上での弾性率(G)とヒステリシスロスを上昇させる必要がある。一方、低温作動性及びブレーキ性能は、低温(約20℃)での弾性率(G)が低いと、接地面積が大きくなるため、向上できる。加えて、高温(約60℃)でのヒステリシスロスの上昇は、ドライグリップ性能を向上させる。ここで、本発明のゴム組成物に用いる直鎖状ブロック共重合体(A)は、ガラス転移温度(Tg)が異なる二種類のブロック成分からなり、例えば、ブロック成分(A-1)と、該ブロック成分(A-1)よりガラス転移温度(Tg)が高いブロック成分(A-2)とが、(A-1)−(A-2)タイプ、(A-1)−(A-2)−(A-1)タイプ、(A-2)−(A-1)−(A-2)タイプ等の構造を形成することができる。そして、直鎖状ブロック共重合体(A)においては、比較的ガラス転移温度の低い部分(ブロック成分(A-1)由来の部分)が形成され、これにより、比較的分子量の低い重合体との相溶性が向上する。従って、本発明のゴム組成物においては、低分子量重合体(B)が存在するため、該低分子量重合体(B)と直鎖状ブロック共重合体(A)における比較的ガラス転移温度の低い部分との絡み合いが増える結果、室温以上での弾性率(G)とヒステリシスロスを向上させることができ、更には、低温での弾性率(G)を十分に確保することもできる。即ち、本発明のゴム組成物を空気入りタイヤのトレッドゴムに用いることで、タイヤの低温作動性及びブレーキ性能を十分に確保しながら、操縦安定性を向上させることができる。また、本発明のゴム組成物においては、直鎖状ブロック共重合体(A)と低分子量重合体(B)との絡み合いが増えるため、耐破壊性をも向上させることができる。
【0031】
また、本発明のゴム組成物に用いる低分子量重合体(B)は、共役ジエン化合物部分の不飽和結合の20%以上が水素添加されているため、直鎖状ブロック共重合体(A)との相溶性が更に向上する。この結果、直鎖状ブロック共重合体(A)との絡み合いが更に増えることになり、室温以上での弾性率(G)とヒステリシスロスを一層向上させることができる。
【0032】
本発明のゴム組成物の直鎖状ブロック共重合体(A)は、芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体又は共役ジエン化合物重合体のブロック成分(A-1)と、該ブロック成分(A-1)よりガラス転移温度(Tg)が高い芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体又は共役ジエン化合物重合体のブロック成分(A-2)とからなり、ここで、該ブロック共重合体(A)の構造としては、例えば、(A-1)−(A-2)タイプ、(A-1)−(A-2)−(A-1)タイプ、(A-2)−(A-1)−(A-2)タイプ等が挙げられる。また、上記直鎖状ブロック共重合体(A)は、上記の構造のうち少なくとも一種以上の配列を示す構造の直鎖状ブロック共重合体から形成されていればよく、例えば、(A-1)−(A-2)−(A-1)タイプ及び(A-2)−(A-1)−(A-2)タイプの混合物からなる直鎖状ブロック共重合体、(A-1)−(A-2)タイプ及び(A-1)−(A-2)−(A-1)タイプの混合物からなる直鎖状ブロック共重合体等のようにブレンドして用いることもできる。更に、上記直鎖状ブロック共重合体(A)は、低分子量重合体(B)との相互作用を向上させる観点から、末端に芳香族ビニル化合物の結合量が高いブロック成分が存在する構造のものを含むことが好ましく、(A-1)−(A-2)タイプ又は(A-1)−(A-2)−(A-1)タイプを5質量%以上含有することが好ましい。なお、上記直鎖状ブロック共重合体(A)は、線状の重合体であって、ブロック成分(A-1)及び(A-2)にカップリング剤等を用いて合成した分岐状の重合体でも、網目状の重合体でもないため、ゴム組成物の作業性に優れる。
【0033】
上記直鎖状ブロック共重合体(A)は、ポリスチレン換算重量平均分子量が2.0×105〜3.0×106であることが好ましい。上記直鎖状ブロック共重合体(A)のポリスチレン換算重量平均分子量が2.0×105未満では、ゴム組成物の破壊特性が低下する場合があり、一方、3.0×106を超えると、重合溶液の粘度が高くなり過ぎ生産性が低くなる。
【0034】
上記直鎖状ブロック共重合体(A)は、共役ジエン化合物部分のビニル結合量が10〜80%、好ましくは20〜60%の範囲であり、芳香族ビニル化合物の結合量が0〜70質量%の範囲であることが好ましい。ここで、上記直鎖状ブロック共重合体(A)の共役ジエン化合物部分のビニル結合量が10%未満では、直鎖状ブロック共重合体(A)のガラス転移温度(Tg)が低くなり過ぎ、高温での弾性率(G)とヒステリシスロスを十分に確保することができず、一方、80%を超えると、ゴム組成物の耐破壊性が低下する場合がある。また、上記直鎖状ブロック共重合体(A)の芳香族ビニル化合物の結合量が70質量%を超えると、ゴム組成物の耐摩耗性が低下する場合がある。
【0035】
上記直鎖状ブロック共重合体(A)においては、上記ブロック成分(A-2)のガラス転移温度(Tg2)が、上記ブロック成分(A-1)のガラス転移温度(Tg1)より高いこと以外は特に制限されず、例えば、上記ブロック成分(A-1)のガラス転移温度(Tg1)が-110℃〜-30℃の範囲であり、上記ブロック成分(A-2)のガラス転移温度(Tg2)が-50℃〜100℃の範囲であることが好ましく、上記ブロック成分(A-1)のガラス転移温度(Tg1)が-80℃〜-30℃の範囲であり、上記ブロック成分(A-2)のガラス転移温度(Tg2)が-50℃〜0℃の範囲であることが更に好ましい。ここで、ブロック成分(A-1)のガラス転移温度(Tg1)及びブロック成分(A-2)のガラス転移温度(Tg2)の両方が上記の特定した範囲内にあれば、ブレーキ性能及び操縦安定性が高度にバランスされる。
【0036】
また、上記直鎖状ブロック共重合体(A)においては、上記ブロック成分(A-1)のガラス転移温度(Tg1)と上記ブロック成分(A-2)のガラス転移温度(Tg2)との差が、5℃〜30℃であることが好ましい。ここで、ガラス転移温度(Tg)の差が5℃未満では、ブロック構造の効果が十分に発揮されず、一方、30℃を超えると、ブロック成分(A-1)とブロック成分(A-2)のセグメント間で非相溶となり、耐破壊性が低下する場合がある。
【0037】
上記直鎖状ブロック共重合体(A)は、特に制限されず、例えば、(A-1)−(A-2)タイプの構造の場合、リチウム系重合開始剤を用いて、単量体である芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物との混合物、又は単量体である共役ジエン化合物の重合を開始し、単量体の重合転化率が少なくとも5質量%、好ましくは10質量%以上まで重合反応を行いブロック成分(A-1)を製造し、次いで単量体である芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物との混合物、又は単量体である共役ジエン化合物を加えてさらに重合してブロック成分(A-2)を製造することにより得られる。また、上記直鎖状ブロック共重合体(A)が他の構造を形成する場合においては、上記の製造方法と同様にして、該直鎖状ブロック共重合体(A)を形成する各ブロック成分を、そのブロック成分の配列に従い順に重合して得ることができる。
【0038】
ここで、芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α-メチルスチレン、1-ビニルナフタレン、3-ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、ジビニルベンゼン、4-シクロヘキシルスチレン及び2,4,6-トリメチルスチレン等が挙げられ、これら芳香族ビニル化合物は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。一方、上記共役ジエン化合物としては、1,3-ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチルブタジエン、2-フェニル-1,3-ブタジエン、1,3-ヘキサジエン等が挙げられ、これら共役ジエン化合物は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。上記芳香族ビニル化合物の中でもスチレンが特に好ましく、上記共役ジエン化合物の中でも1,3-ブタジエンが特に好ましい。従って、上記直鎖状ブロック共重合体(A)を形成するブロック成分としては、ポリブタジエン及びスチレン−ブタジエン共重合体であることが好ましい。
【0039】
上記直鎖状ブロック共重合体(A)において、上記ブロック成分(A-1)の芳香族ビニル化合物の結合量(S1)(質量%)と共役ジエン化合物部分のビニル結合量(V1)(%)とが、上記式(I)の関係を満たし、かつ、上記ブロック成分(A-2)の芳香族ビニル化合物の結合量(S2)(質量%)と共役ジエン化合物部分のビニル結合量(V2)(%)とが、上記式(II)の関係を満たすことが好ましく、上記ブロック成分(A-1)の芳香族ビニル化合物の結合量(S1)(質量%)と共役ジエン化合物部分のビニル結合量(V1)(%)とが、上記式(III)の関係を満たし、かつ、上記ブロック成分(A-2)の芳香族ビニル化合物の結合量(S2)(質量%)と共役ジエン化合物部分のビニル結合量(V2)(%)とが、上記式(IV)の関係を満たすことが更に好ましい。各ブロック成分の芳香族ビニル化合物の結合量及び共役ジエン化合物のビニル結合量とが、上記式(I)及び式(II)の関係を満たす直鎖状ブロック共重合体(A)は、タイヤ用重合体として好適なガラス転移温度(Tg)を有する。
【0040】
また、上記ブロック成分(A-1)の芳香族ビニル化合物の結合量(S1)と上記ブロック成分(A-2)の芳香族ビニル化合物の結合量(S2)との差は、10〜40質量%であることが好ましく、15〜25質量%であることが更に好ましい。芳香族ビニル化合物の結合量の差が10質量%未満では、ブロック構造の効果が十分に発揮されず、一方、40質量%を超えると、ブロック成分(A-1)とブロック成分(A-2)のセグメント間で非相溶となる場合がある。
【0041】
更に、上記ブロック成分(A-1)の芳香族ビニル化合物の結合量(S1)が5〜40質量%であり、上記ブロック成分(A-2)の芳香族ビニル化合物の結合量(S2)が15〜70質量%であることが好ましく、上記ブロック成分(A-1)の芳香族ビニル化合物の結合量(S1)が15〜30質量%であり、前記ブロック成分(A-2)の芳香族ビニル化合物の結合量(S2)が30〜55質量%であることが更に好ましい。ここで、各ブロック成分の芳香族ビニル化合物の結合量が上記の特定した範囲内にある直鎖状ブロック共重合体(A)は、生産性と耐破壊性が高度にバランスされる。
【0042】
上記直鎖状ブロック共重合体(A)において、上記ブロック成分(A-1)と上記ブロック成分(A-2)との質量比(A-1/A-2)が、1/9〜9/1であることが好ましい。直鎖状ブロック共重合体(A)に占めるブロック成分(A-1)の割合が10質量%未満では(即ち、ブロック成分(A-2)の割合が90質量%を超えると)、高温での弾性率(G)を維持することが困難になり、一方、直鎖状ブロック共重合体(A)に占めるブロック成分(A-1)の割合が90質量%を超えると(即ち、ブロック成分(A-2)の割合が10質量%未満では)、直鎖状ブロック共重合体(A)のガラス転移温度(Tg)が低くなり過ぎ、高温での弾性率(G)及びヒステリシスロスを向上させることが困難になる。
【0043】
一方、本発明のゴム組成物の低分子量重合体(B)は、ポリスチレン換算重量平均分子量が1.0×103〜2.0×105である芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体又は共役ジエン化合物重合体であることを要する。上記低分子量重合体(B)のポリスチレン換算重量平均分子量が1.0×103未満では、室温以上での弾性率(G)及びヒステリシスロスに加えて、低温での弾性率(G)が十分に得られないため、タイヤの操縦安定性、耐破壊性、ブレーキ性能及び低温作動性を高度にバランスさせることができず、一方、2.0×105を超えると、ゴム組成物のウェットスキッド抵抗性及びドライグリップ性が不十分であるため、タイヤの操縦安定性を向上させることができない。
【0044】
更に、上記低分子量重合体(B)は、共役ジエン化合物部分の不飽和結合の20%以上が水素添加されていることを要し、40%以上が水素添加されていることが好ましい。低分子量重合体(B)の共役ジエン化合物部分の不飽和結合の水添率が20%未満では、低分子量重合体(B)がゴム組成物の架橋に関わってしまい、ゴム組成物における室温以上での弾性率(G)とヒステリシスロスの向上幅が小さく、タイヤの耐破壊性及び操縦安定性を十分に向上させることができない。
【0045】
上記低分子量重合体(B)は、共役ジエン化合物部分のビニル結合量が10〜80%の範囲であり、芳香族ビニル化合物の結合量が0〜60質量%の範囲であることが好ましい。ここで、上記低分子量重合体(B)の共役ジエン化合物部分のビニル結合量が10%未満では、ウェットスキッド特性及びドライグリップ特性が低下する場合があり、一方、80%を超えると、樹枝状になるためゴム組成物が固くなり、ウェットスキッド特性及びドライグリップ特性が低下する場合がある。また、上記低分子量重合体(B)の芳香族ビニル化合物の結合量が60質量%を超えると、低分子量重合体(B)が樹脂状になるためゴム組成物が固くなり、ウェットスキッド抵抗性及びドライグリップ性が低下し、タイヤの操縦安定性を向上させることができないことがある。
【0046】
上記低分子量重合体(B)は、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とを共重合、又は共役ジエン化合物を重合して製造される。ここで、芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α-メチルスチレン、1-ビニルナフタレン、3-ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、ジビニルベンゼン、4-シクロヘキシルスチレン及び2,4,6-トリメチルスチレン等が挙げられ、これら芳香族ビニル化合物は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。一方、上記共役ジエン化合物としては、1,3-ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチルブタジエン、2-フェニル-1,3-ブタジエン、1,3-ヘキサジエン等が挙げられ、これら共役ジエン化合物は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。上記芳香族ビニル化合物の中でもスチレンが特に好ましく、上記共役ジエン化合物の中でも、1,3-ブタジエンが特に好ましい。従って、上記低分子量重合体(B)としては、ポリブタジエン及びスチレン−ブタジエン共重合体が好ましい。
【0047】
上記低分子量重合体(B)は、例えば、上述の芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とを炭化水素溶媒中でエーテル又は第三級アミンの存在下、リチウム系重合開始剤を用いてアニオン重合によって重合させて得られる。また、上記重合体(B)は、水素化触媒の存在下、常法に従って水添させることができる。一方、上記直鎖状ブロック共重合体(A)は、上記した通りであるが、詳細には、例えば、上述の芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とを炭化水素溶媒中でエーテル又は第三級アミンの存在下、リチウム系重合開始剤を用いてアニオン重合によって重合させて、次いで重合体(A)のブロック成分の配列に従い順に芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とを加えて重合させて得られる。なお、上記直鎖状ブロック共重合体(A)は、上記低分子量重合体(B)と同様に任意に水添してもよい。
【0048】
ここで、上記炭化水素溶媒としては、特に限定されるものではないが、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン、シクロオクタン等の脂環式炭化水素、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン等の脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素等を用いることができる。これら炭化水素は、1種単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。これら炭化水素の中では、脂肪族炭化水素及び脂環式炭化水素が好ましい。
【0049】
また、上記リチウム系重合開始剤としては、有機リチウム化合物が好ましく、該有機リチウム化合物としては、エチルリチウム、プロピルリチウム、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム(sec-BuLi)、t-ブチルリチウム等のアルキルリチウム;フェニルリチウム、トリルリチウム等のアリールリチウム;ビニルリチウム、プロペニルリチウム等のアルケニルリチウム;テトラメチレンジリチウム、ペンタメチレンジリチウム、ヘキサメチレンジリチウム、デカメチレンジリチウム等のアルキレンジリチウム;1,3-ジリチオベンゼン、1,4-ジリチオベンゼン等のアリレンジリチウムの他;1,3,5-トリリチオシクロヘキサン、1,2,5-トリリチオナフタレン、1,3,5,8-テトラリチオデカン、1,2,3,5-テトラリチオ-4-ヘキシル-アントラセン等が挙げられる。これらの中でも、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、t-ブチルリチウム及びテトラメチレンジリチウムが好ましく、n-ブチルリチウムが特に好ましい。更に、上記リチウム系重合開始剤として、Macromolecules, vol.27, 5957-5963 (1994)に従いsec-BuLiとm-ジイソプロペニルベンゼンとの化合物(DiLi)を使用することもできる。上記リチウム系重合開始剤の使用量は、反応操作における重合速度及び生成させる(共)重合体の分子量によって決定され、通常、単量体100g当たりリチウム原子として0.02〜5mgの範囲が好ましく、0.05〜2mgの範囲が更に好ましい。なお、リチウム系重合開始剤に代えて、Co、Ni、Ti及びNdからなる群から選択される少なくとも一種の金属を含んだ重合開始剤を使用することもできる。
【0050】
上記重合体(A)及び重合体(B)を得るための重合反応は、バッチ重合方式、連続重合方式のいずれの方式によっても行うことができる。上記重合反応における重合温度は、0〜130℃の範囲が好ましい。また、重合反応は、等温重合、昇温重合及び断熱重合のいずれの重合形式によっても行うことができる。更に、重合を行う際には、反応容器内にゲルが生成するのを防止するために、1,2-ブタジエン等のアレン化合物を添加することもできる。
【0051】
上記水添は、例えば、合成された(共)重合体を、有機カルボン酸ニッケル、有機カルボン酸コバルト、1〜3族の有機金属化合物からなる水素化触媒;カーボン、シリカ、珪藻土等に担持したニッケル、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム金属触媒;コバルト、ニッケル、ロジウム、ルテニウム錯体等から選択される一種を触媒として、1〜100気圧の加圧水素下で水素化することで実施できる。
【0052】
本発明のゴム組成物は、上記直鎖状ブロック共重合体(A)を含むゴム成分を使用することを要するが、該直鎖状ブロック共重合体(A)を5質量%以上含むゴム成分を使用することが好ましい。ここで、該直鎖状ブロック共重合体(A)以外のゴム成分を含む場合においては、ゴム工業界で使用される一般的なゴム成分をブレンドすることができ、具体的には、天然ゴム(NR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、ブチルゴム(IIR)、エチレン−プロピレン共重合体等をブレンドすることができる。
【0053】
本発明のゴム組成物においては、上記直鎖状ブロック共重合体(A)を5質量%以上含むゴム成分100質量部に対して、上記低分子量重合体(B)を10〜200質量部の割合で配合することが好ましい。該ゴム成分100質量部に対する低分子量重合体(B)の配合量が10質量部未満では、タイヤの操縦安定性を十分に改良することができず、一方、200質量部を超えると、ゴム組成物のムーニー粘度が低くなり過ぎて生産性が悪くなる。
【0054】
本発明のゴム組成物は、上記直鎖状ブロック共重合体(A)を含むゴム成分100質量部に対して、カーボンブラック及び/又は無機充填剤を10〜200質量部含有することが好ましい。該カーボンブラック及び/又は無機充填剤の含有量が10質量部未満では、破壊特性等が十分でなく、一方、200質量部を超えると、ゴム組成物の作業性が低下する。
【0055】
上記カーボンブラックとしては、特に限定されるものではないが、FEF、SRF、HAF、ISAF、SAFグレードのもの等が挙げられる。また、該カーボンブラックとしては、ヨウ素吸着量(IA)が60mg/g以上で、且つジブチルフタレート(DBP)吸油量が80mL/100g以上のカーボンブラックが好ましい。カーボンブラックを配合することで、ゴム組成物の諸物性を改善することができるが、耐摩耗性を向上させる観点からは、HAF、ISAF、SAFグレードのものが更に好ましい。
【0056】
上記無機充填剤としては、シリカ;γ-アルミナ、α-アルミナ等のアルミナ(Al23);ベーマイト、ダイアスポア等のアルミナ一水和物(Al23・H2O);ギブサイト、バイヤライト等の水酸化アルミニウム[Al(OH)3];炭酸アルミニウム[Al2(CO3)3]、水酸化マグネシウム[Mg(OH)2]、酸化マグネシウム(MgO)、炭酸マグネシウム(MgCO3)、タルク(3MgO・4SiO2・H2O)、アタパルジャイト(5MgO・8SiO2・9H2O)、チタン白(TiO2)、チタン黒(TiO2n-1)、酸化カルシウム(CaO)、水酸化カルシウム[Ca(OH)2]、酸化アルミニウムマグネシウム(MgO・Al23)、クレー(Al23・2SiO2)、カオリン(Al23・2SiO2・2H2O)、パイロフィライト(Al23・4SiO2・H2O)、ベントナイト(Al23・4SiO2・2H2O)、ケイ酸アルミニウム(Al2SiO5、Al4・3SiO4・5H2O等)、ケイ酸マグネシウム(Mg2SiO4、MgSiO3等)、ケイ酸カルシウム(Ca2SiO4等)、ケイ酸アルミニウムカルシウム(Al23・CaO・2SiO2等)、ケイ酸マグネシウムカルシウム(CaMgSiO4)、炭酸カルシウム(CaCO3)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、水酸化ジルコニウム[ZrO(OH)2・nH2O]、炭酸ジルコニウム[Zr(CO3)2]、各種ゼオライトのように電荷を補正する水素、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含む結晶性アルミノケイ酸塩等が挙げられる。
【0057】
上記無機充填剤の中でも、シリカが特に好ましい。該シリカとしては、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等が挙げられ、これらの中でも、湿式シリカが好ましい。
【0058】
本発明のゴム組成物には、上記直鎖状ブロック共重合体(A)、低分子量重合体(B)、一般的なゴム成分、カーボンブラック、無機充填剤の他に、例えば、軟化剤、老化防止剤、シランカップリング剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、加硫剤等のゴム工業界で通常使用される添加剤を、本発明の目的を害しない範囲内で適宜選択して配合することができる。これら配合剤としては、市販品を好適に使用することができる。上記ゴム組成物は、上記直鎖状ブロック共重合体(A)を含むゴム成分に、上記低分子量重合体(B)と、必要に応じて適宜選択した各種配合剤とを配合して、混練り、熱入れ、押出等することにより製造することができる。
【0059】
本発明の空気入りタイヤは、上述したゴム組成物をトレッドゴムに用いたことを特徴とする。該タイヤは、高温での弾性率(G)とヒステリシスロスが高いことに加えて、低温での弾性率(G)を十分に抑えたゴム組成物を適用してなるため、操縦安定性、耐破壊性、ブレーキ性能及び低温作動性が高度にバランスされている。なお、本発明の空気入りタイヤは、上述のゴム組成物をトレッドに用いる以外特に制限は無く、常法に従って製造することができる。また、該タイヤに充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【実施例】
【0060】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0061】
以下の方法で共重合体(X-1)〜(X-6)、共重合体(Y-1)〜(Y-2)を合成し、得られた共重合体のスチレン結合量、ビニル結合量、ポリスチレン換算重量平均分子量、ガラス転移温度(Tg)及び水添率を下記の方法で測定した。
【0062】
(1)スチレン結合量
合成された共重合体のスチレン結合量は、1H-NMRスペクトルの積分比から算出した。
【0063】
(2)ビニル結合量
合成された共重合体のブタジエン部分のビニル結合量は、赤外法で分析した。
【0064】
(3)ポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)
合成された共重合体のポリスチレン換算重量平均分子量は、GPCで測定した。ここで、GPCとしてはウォーターズ社製244型GPCを用い、検知器としては示差屈折計を用い、カラムとしては東ソー製カラムGMH−3、GMH−6、G6000H−6を用い、移動相としてはテトラヒドロフランを用いた。また、標準物質としてウォーターズ社製単分散スチレン重合体を用い、GPCによる単分散スチレン重合体のピークの分子量とGPCのカウント数との関係を予め求めて検量線を作成し、これを用いて、共重合体のポリスチレン換算での分子量を求めた。
【0065】
(4)ガラス転移温度(Tg)
各共重合体におけるブロック成分(A-1)及び(A-2)をモデルとした重合体をそれぞれ合成し、得られた重合体についてのガラス転移温度(Tg)を、デュポン社製910型示差走査熱量計(DSC)を用い、ASTM D3418−82に記載の方法に従って測定し、各重合体を測定した際の外挿開始温度(extrapolated onset temperature);Tfをもって、対応するブロック成分のガラス転移温度;Tgとした。
【0066】
(5)水添率
合成された共重合体のブタジエン部の水添率は、四塩化炭素を溶媒として用い、15質量%の濃度で測定した100MHzの1H-NMRの不飽和結合部のスペクトルの減少から算出した。
【0067】
<共重合体(X-1)の合成>
十分に窒素置換した拌翼つきの5リットルオートクレーブに、シクロヘキサン3000g、テトラヒドロフラン(THF)12g、1,3-ブタジエン200g及びスチレン100gを導入し、オートクレーブ内の温度を21℃に調整した。次に、n-ブチルリチウム0.10gを加えて昇温条件下で60分間重合し、モノマーの転化率が99%であることを確認した。その後、老化防止剤として2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾールを3.5g加え、共重合体(X-1)を得た。分析値を表1に示す。
【0068】
<共重合体(X-2)の合成>
十分に窒素置換した拌翼つきの5リットルオートクレーブに、シクロヘキサン3000g、テトラヒドロフラン(THF)12g、1,3-ブタジエン155.6g及びスチレン100gを導入し、オートクレーブ内の温度を21℃に調整した。次に、n-ブチルリチウム0.10gを加えて昇温条件下でモノマーの転化率が99%になるまで重合した後、1,3-ブタジエン44.4gを加えてさらに重合を進行させた。1時間後、モノマーの転化率が99%であることを確認した。その後、老化防止剤として2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾールを3.5g加え、共重合体(X-2)を得た。分析値を表1に示す。
【0069】
<共重合体(X-3)〜(X-5)の合成>
重合開始時の1,3-ブタジエン及びスチレン仕込み量、並びに重合反応の途中で添加した単量体の種類及びその添加量を変えた他は、上記共重合体(X-2)と同様にして共重合体(X-3)〜(X-5)を合成した。分析値を表1に示す。
【0070】
<共重合体(X-6)の合成>
十分に窒素置換した拌翼つきの5リットルオートクレーブに、シクロヘキサン3000g、テトラヒドロフラン(THF)12g、1,3-ブタジエン130g及びスチレン80gを導入し、オートクレーブ内の温度を21℃に調整した。次に、重合開始剤としてMacromolecules, vol.27, 5957-5963 (1994)に従いsec-BuLiとm-ジイソプロペニルベンゼンとの化合物(DiLi)0.14gを加えて昇温条件下でモノマーの転化率が99%になるまで重合した後、スチレン20g、1,3-ブタジエン70gを加えてさらに重合を進行させた。2時間後、モノマーの転化率が99%であることを確認した。その後、老化防止剤として2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾールを3.5g加え、共重合体(X-6)を得た。分析値を表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
<共重合体(Y-1)の合成>
十分に窒素置換した拌翼つきの5リットルオートクレーブに、シクロヘキサン3000g、テトラヒドロフラン(THF)12g、1,3-ブタジエン200g及びスチレン100gを導入し、オートクレーブ内の温度を21℃に調整した。次に、n-ブチルリチウム1.50gを加えて昇温条件下で60分間重合し、モノマーの転化率が99%であることを確認した後、トリブチルシリルクロライドを4.68g加え、共重合体(Y-1)を得た。分析値を表2に示す。
【0073】
<共重合体(Y-2)の合成>
十分に窒素置換した拌翼つきの5リットルオートクレーブに、シクロヘキサン3000g、テトラヒドロフラン(THF)12g、1,3-ブタジエン200g及びスチレン100gを導入し、オートクレーブ内の温度を21℃に調整した。次に、n-ブチルリチウム1.50gを加えて昇温条件下で60分間重合し、モノマーの転化率が99%であることを確認したのちトリブチルシリルクロライドを4.68g加え重合を停止した後、予め別容器で調製したナフテン酸ニッケル:トリエチルアルミニウム:ブタジエン=1:3:3(モル比)の触媒液を共重合体中のブタジエン部1000モルに対しニッケル1モルとなるように仕込んだ。その後、反応系内に水素圧力30atmで水素を導入し、80℃で反応させ、共重合体(Y-2)を得た。分析値を表2に示す。
【0074】
【表2】

【0075】
次に、上記共重合体(X-1)〜(X-6)及び共重合体(Y-1)〜(Y-2)を用いて、表3に示す配合処方のゴム組成物を常法に従って調製し、通常の条件で加硫して得た加硫ゴムに対し、低温作動性、ブレーキ性能、操縦安定性及び耐破壊性を下記の方法で評価した。結果を表3に示す。
【0076】
(6)低温作動性及びブレーキ性能
レオメトリックス社製メカニカルスペクトロメーターを用い、せん断歪5%、温度20℃、周波数15Hzで弾性率(G)を測定し、比較例1の弾性率(G)を100として指数表示した。指数値が小さい程、低温作動性及びブレーキ性能が良好であることを示す。
【0077】
(7)操縦安定性
(a)高温での弾性率(G
レオメトリックス社製メカニカルスペクトロメーターを用い、せん断歪5%、温度60℃、周波数15Hzで弾性率(G)を測定し、比較例1の弾性率(G)を100として指数表示した。指数値が大きい程、操縦安定性が良好であることを示す。
(b)グリップ性能
レオメトリックス社製メカニカルスペクトロメーターを用い、せん断歪5%、温度60℃、周波数15Hzでtanδを測定し、比較例1のtanδを100として指数表示した。指数値が大きい程、ヒステリシスロスが大きく、グリップ性能に優れ、操縦安定性が良好であることを示す。
【0078】
(8)耐破壊性
JIS K 6301−1995に準拠して室温で引張試験を行い、加硫したゴム組成物の引張り強さ(Tb)を測定し、比較例1の引張り強さを100として指数表示した。指数値が大きい程、耐破壊性が良好であることを示す。
【0079】
【表3】

【0080】
*1 ISAF,東海カーボン(株)製,シースト3H.
*2 N-(1,3-ジメチルブチル)-N-フェニル-p-フェニレンジアミン,大内新興化学工業(株)製,「ノクラック6C」.
*3 ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド,大内新興化学工業(株)製,「ノクセラーDM」.
*4 N-t-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド,大内新興化学工業(株)製,「ノクセラーNS」.
【0081】
表3の結果から、ガラス転移温度(Tg)の異なる二種類のブロック成分からなる直鎖状ブロック共重合体(A)に、特定の分子量及び水添率を有する低分子量重合体(B)を配合した実施例1〜2のゴム組成物は、比較例1のゴム組成物と比べて、低温作動性、ブレーキ性能及び耐破壊性を十分に確保しながら、操縦安定性(高温での弾性率(G)及びグリップ性能)を大幅に改善できることが分かる。
【0082】
一方、比較例2の結果から、上記直鎖状ブロック共重合体(A)を含有しないゴム組成物では、低温作動性、ブレーキ性能、操縦安定性及び耐破壊性を高度にバランスさせることができないことが分かる。
【0083】
また、比較例4〜8の結果から、ガラス転移温度(Tg)の異なる二種類のブロック成分からなる直鎖状ブロック共重合体(A)に、水添されていない低分子量重合体を配合したゴム組成物は、低温作動性及びブレーキ性能を十分に確保できるものの、操縦安定性の向上効果が低いことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体又は共役ジエン化合物重合体のブロック成分(A-1)と、該ブロック成分(A-1)よりガラス転移温度(Tg)が高い芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体又は共役ジエン化合物重合体のブロック成分(A-2)とからなる直鎖状ブロック共重合体(A)を含むゴム成分に対して、
ポリスチレン換算重量平均分子量が1.0×103〜2.0×105である芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体又は共役ジエン化合物重合体であって、共役ジエン化合物部分の不飽和結合の20%以上が水素添加された低分子量重合体(B)を配合してなることを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
前記低分子量重合体(B)の配合量は、前記直鎖状ブロック共重合体(A)を5質量%以上含むゴム成分100質量部に対し、5〜200質量部であることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記ブロック成分(A-1)及び/又はブロック成分(A-2)が、ポリブタジエン又はスチレン−ブタジエン共重合体であることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記直鎖状ブロック共重合体(A)が、(A-1)−(A-2)−(A-1)タイプ、(A-2)−(A-1)−(A-2)タイプ及び(A-1)-(A-2)タイプからなる群から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項5】
前記直鎖状ブロック共重合体(A)が、(A-1)−(A-2)タイプであることを特徴とする請求項4に記載のゴム組成物。
【請求項6】
前記低分子量重合体(B)が、ポリブタジエン又はスチレン−ブタジエン共重合体であることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項7】
前記ブロック成分(A-1)のガラス転移温度(Tg1)が-110℃〜-30℃の範囲であり、前記ブロック成分(A-2)のガラス転移温度(Tg2)が-50℃〜100℃の範囲であることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項8】
前記ブロック成分(A-1)のガラス転移温度(Tg1)が-80℃〜-30℃の範囲であり、前記ブロック成分(A-2)のガラス転移温度(Tg2)が-50℃〜0℃の範囲であることを特徴とする請求項7に記載のゴム組成物。
【請求項9】
前記ブロック成分(A-1)の芳香族ビニル化合物の結合量(S1)(質量%)と共役ジエン化合物部分のビニル結合量(V1)(%)とが、下記式(I):
0 ≦ S1 + 0.7×V1 ≦ 70 ・・・ (I)
の関係を満たし、かつ、前記ブロック成分(A-2)の芳香族ビニル化合物の結合量(S2)(質量%)と共役ジエン化合物部分のビニル結合量(V2)(%)とが、下記式(II):
40 ≦ S2 + 0.7×V2 ≦ 120 ・・・ (II)
の関係を満たすことを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項10】
前記ブロック成分(A-1)の芳香族ビニル化合物の結合量(S1)(質量%)と共役ジエン化合物部分のビニル結合量(V1)(%)とが、下記式(III):
25 ≦ S1 + 0.7×V1 ≦ 60 ・・・ (III)
の関係を満たし、かつ、前記ブロック成分(A-2)の芳香族ビニル化合物の結合量(S2)(質量%)と共役ジエン化合物部分のビニル結合量(V2)(%)とが、下記式(IV):
50 ≦ S2 + 0.7×V2 ≦ 80 ・・・ (IV)
の関係を満たすことを特徴とする請求項9に記載のゴム組成物。
【請求項11】
前記直鎖状ブロック共重合体(A)は、ポリスチレン換算重量平均分子量が2.0×105〜3.0×106であることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項12】
前記直鎖状ブロック共重合体(A)及び低分子量重合体(B)が、Li、Co、Ni、Ti、Na及びNdからなる群から選択される少なくとも一種の金属を含んだ重合開始剤で重合されたことを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項13】
前記直鎖状ブロック共重合体(A)及び低分子量重合体(B)が、リチウム系重合開始剤で重合されたことを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項14】
前記直鎖状ブロック共重合体(A)は、該直鎖状ブロック共重合体(A)を形成する各ブロック成分を、該ブロック成分の配列に従い順に重合して得られたことを特徴とする請求項1、12又は13に記載のゴム組成物。
【請求項15】
前記直鎖状ブロック共重合体(A)は、共役ジエン化合物部分のビニル結合量が10〜80%の範囲であり、芳香族ビニル化合物の結合量が0〜70質量%の範囲であることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項16】
前記低分子量重合体(B)は、共役ジエン化合物部分のビニル結合量が10〜80%の範囲であり、芳香族ビニル化合物の結合量が0〜60質量%の範囲であることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項17】
前記ブロック成分(A-1)の芳香族ビニル化合物の結合量(S1)と前記ブロック成分(A-2)の芳香族ビニル化合物の結合量(S2)との差が、10〜40質量%であることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項18】
前記ブロック成分(A-1)の芳香族ビニル化合物の結合量(S1)と前記ブロック成分(A-2)の芳香族ビニル化合物の結合量(S2)との差が、15〜25質量%であることを特徴とする請求項17に記載のゴム組成物。
【請求項19】
前記ブロック成分(A-1)のガラス転移温度(Tg1)と前記ブロック成分(A-2)のガラス転移温度(Tg2)との差が、5℃〜30℃であることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項20】
前記ブロック成分(A-1)と前記ブロック成分(A-2)との質量比(A-1/A-2)が、1/9〜9/1であることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項21】
前記ブロック成分(A-1)の芳香族ビニル化合物の結合量(S1)が5〜40質量%であり、前記ブロック成分(A-2)の芳香族ビニル化合物の結合量(S2)が15〜70質量%であることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項22】
前記ブロック成分(A-1)の芳香族ビニル化合物の結合量(S1)が15〜30質量%であり、前記ブロック成分(A-2)の芳香族ビニル化合物の結合量(S2)が30〜55質量%であることを特徴とする請求項21に記載のゴム組成物。
【請求項23】
前記直鎖状ブロック共重合体(A)が、(A-1)−(A-2)タイプ又は(A-1)−(A-2)−(A-1)タイプを5質量%以上含有することを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項24】
前記直鎖状ブロック共重合体(A)を含むゴム成分100質量部に対し、カーボンブラック及び/又は無機充填剤を10〜200質量部含有することを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項25】
請求項1〜24のいずれかに記載のゴム組成物をトレッドゴムに用いたことを特徴とする空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2008−231208(P2008−231208A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−71101(P2007−71101)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】