ゴルフクラブシャフトの製造方法
【課題】生産性及び精度に優れたシャフトの製造方法の提供。
【解決手段】シャフト6の製造方法は、シャフトの長手方向に対する繊維の配向角度がθ1となる第1予備シートを得る工程と、シャフトの長手方向に対する繊維の配向角度がθ2となる第2予備シートを得る工程と、シャフトの長手方向に対する繊維の配向角度がθ3となるベースシートを得る工程と、少なくとも1枚の上記第1予備シートと少なくとも1枚の上記第2予備シートとを並べて、一枚の上記ベースシートに貼り合わせることにより、予備合体シートを得る工程と、上記予備合体シートを裁断して合体シートを得る工程と、上記合体シートを巻回する工程とを含む。上記合体シートは、上記第1予備シートの一部である第1バイアスシートと、上記第2予備シートの一部である第2バイアスシートとを含む。
【解決手段】シャフト6の製造方法は、シャフトの長手方向に対する繊維の配向角度がθ1となる第1予備シートを得る工程と、シャフトの長手方向に対する繊維の配向角度がθ2となる第2予備シートを得る工程と、シャフトの長手方向に対する繊維の配向角度がθ3となるベースシートを得る工程と、少なくとも1枚の上記第1予備シートと少なくとも1枚の上記第2予備シートとを並べて、一枚の上記ベースシートに貼り合わせることにより、予備合体シートを得る工程と、上記予備合体シートを裁断して合体シートを得る工程と、上記合体シートを巻回する工程とを含む。上記合体シートは、上記第1予備シートの一部である第1バイアスシートと、上記第2予備シートの一部である第2バイアスシートとを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフクラブシャフトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフクラブシャフトとして、いわゆるカーボンシャフトが知られている。このカーボンシャフトの製造方法として、シートワインディング製法が知られている。このシートワインディング製法では、プリプレグシートをマンドレルに巻き付けることにより、積層構造が得られる。このシートワインディング製法では、シートの種類、シートの配置及び繊維の配向が選択されうる。よって、高い設計自由度が得られる。
【0003】
捻れ剛性及び捻れ強度の観点から、バイアス層を設けたゴルフクラブが知られている。バイアス層の繊維の配向は、シャフトの長手方向に対して、傾斜している。バイアス層は、アングル層とも称される。通常、繊維の配向角度が互いに逆とされた複数のバイアス層が用いられる。即ち、繊維の配向角度が+θ°である第一のバイアス層用シートと、繊維の配向角度が−θ°である第二のバイアス層用シートとが使用される。
【0004】
バイアス層用のシートの巻回作業を容易とする観点から、バイアス層同士を貼り合わせることが知られている。特開2010−22749号公報には、繊維方向が互いに逆向きである2枚のバイアス層用シートが貼り合わされる工程が記載されている。
【0005】
また、バイアス層用シートとフープ層用シートとを貼り合わせる技術が開示されている。特開平11−76480号公報は、フープ層となるシートに、第1半周長プリプレグシートと第2半周長プリプレグシートとを貼り合わせた複合プリプレグシートを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−22749号公報
【特許文献2】特開平11−76480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
バイアス層用シートと他のシートとを貼り合わせる場合、貼り合わせの精度が求められる。貼り合わせの不具合は、積層の乱れを生じさせる。この積層の乱れは、シャフトの強度を低下させる。この積層の乱れは、シャフト物性のバラツキを生じさせうる。
【0008】
特に、2枚以上のバイアス層用シートが他のシートに貼り合わされる場合、貼り合わせの精度が低下しやすい。
【0009】
また、2枚以上のバイアス層用シートが他のシートに貼り合わされる場合、作業性が低下しやすい。シートは粘着性を有している。よって、2枚のシートを他のシートに対して並べる際に、シート位置の精度を確保するのは、難しい。シート同士の位置合わせは、難しい。この困難性は、シャフトの生産性を低下させる。
【0010】
本発明の目的は、積層の精度及び生産性に優れたゴルフクラブシャフトの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る製造方法は、シャフトの長手方向に対する繊維の配向角度がθ1となる第1予備シートを得る工程と、シャフトの長手方向に対する繊維の配向角度がθ2となる第2予備シートを得る工程と、シャフトの長手方向に対する繊維の配向角度がθ3となるベースシートを得る工程と、少なくとも1枚の上記第1予備シートと少なくとも1枚の上記第2予備シートとを並べて、一枚の上記ベースシートに貼り合わせることにより、予備合体シートを得る工程と、上記予備合体シートを裁断して合体シートを得る工程と、上記合体シートを巻回する工程と、を含む。上記角度θ1は、上記θ2とは異なる。上記角度θ3は、上記角度θ1とは異なり且つ上記θ2とは異なる。上記合体シートが、上記第1予備シートの一部である第1バイアスシートと、上記第2予備シートの一部である第2バイアスシートとを含む。
【0012】
好ましくは、上記予備合体シートにおいて、上記第1予備シートと上記第2予備シートとが実質的に隙間無く並べられている。
【0013】
好ましくは、上記第1予備シートが長方形であり、上記第2予備シートが、上記第1予備シートと実質的に合同な長方形である。
【0014】
好ましくは、長方形の上記第1予備シートは、一本の直線L1に沿って裁断されることによって2枚の上記第1バイアスシートが生じるように構成されている。好ましくは、長方形の上記第2予備シートは、一本の直線L2に沿って裁断されることによって2枚の上記第2バイアスシートが生じるように構成されている。好ましくは、上記合体シートを得る工程における裁断ラインCL1が、上記直線L1に一致している。好ましくは、上記合体シートを得る工程における裁断ラインCL2が、上記直線L2に一致している。
【0015】
好ましくは、上記角度θ1が実質的に+θa°であり、上記角度θ2が実質的に−θa°である。
【0016】
好ましくは、上記角度θ3が、実質的に0°であるか、又は、実質的に90°である。
【0017】
好ましくは、上記合体シートを巻回する工程において、上記ベースシートが外側とされ、上記第1バイアスシート及び上記第2バイアスシートが内側とされる。
【0018】
好ましくは、上記ベースシートの上記角度θ3が実質的に90°である。好ましくは、このベースシートからなる層の半径方向外側に位置するカバー層が存在する。
【0019】
好ましくは、上記第1バイアスシートからなる層が、あらゆるシャフト軸方向位置において、約0.5プライである。好ましくは、上記第2バイアスシートからなる層が、あらゆるシャフト軸方向位置において、約0.5プライである。
【発明の効果】
【0020】
貼り合わせの精度が向上しうる。また、合体シートの生産性が向上しうる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るシャフトを備えたゴルフクラブを示す。
【図2】図2は、第1実施形態のシャフトの積層構成を示す展開図である。
【図3】図3は、第1実施形態のシャフトの製造に用いられる合体シートを示す平面図である。
【図4】図4は、第1実施形態に係る合体シートの製造方法を説明するための図である。
【図5】図5は、第2実施形態のシャフトの積層構成を示す展開図である。
【図6】図6は、第2実施形態のシャフトの製造に用いられる合体シートを示す平面図である。
【図7】図7は、第2実施形態に係る合体シートの製造方法を説明するための図である。
【図8】図8は、第3実施形態のシャフトの積層構成を示す展開図である。
【図9】図9は、曲げ捻れ量の測定方法を示す図である。
【図10】図10は、曲げ捻れ量の測定方法を示す図である。
【図11】図11は、比較例に係る合体シートの製造方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0023】
図1は、本発明の一実施形態に係るゴルフクラブシャフト6を備えたゴルフクラブ2の全体図である。ゴルフクラブ2は、ヘッド4と、シャフト6と、グリップ8と、フェラル9とを備えている。シャフト6の先端部に、ヘッド4が設けられている。シャフト6の後端部に、グリップ8が設けられている。なおシャフト6に装着されるヘッド4及びグリップ8は限定されない。ヘッド4として、ウッド型ゴルフクラブヘッド、アイアン型ゴルフクラブヘッド、パターヘッド等が例示される。
【0024】
シャフト6は、繊維強化樹脂層の積層体からなる。シャフト6は、管状体である。図示しないが、シャフト6は中空構造を有する。図1が示すように、シャフト6は、チップTpとバットBtとを有する。チップTpは、ヘッド4の内部に位置している。バットBtは、グリップ8の内部に位置している。
【0025】
シャフト6は、いわゆるカーボンシャフトである。好ましくは、シャフト6は、プリプレグシートを硬化させてなる。このプリプレグシートでは、繊維は実質的に一方向に配向している。このように繊維が実質的に一方向に配向したプリプレグは、UDプリプレグとも称される。「UD」とは、ユニディレクションの略である。UDプリプレグ以外のプリプレグが用いられても良い。例えば、プリプレグシートに含まれる繊維が編まれていてもよい。
【0026】
プリプレグシートは、繊維とマトリクス樹脂とを有している。典型的には、この繊維は炭素繊維である。典型的には、このマトリクス樹脂は、熱硬化性樹脂である。
【0027】
シャフト6は、いわゆるシートワインディング製法により製造される。プリプレグにおいて、マトリクス樹脂は、半硬化状態にある。シャフト6は、プリプレグシートが巻回され且つ硬化されてなる。この硬化とは、半硬化状態のマトリクス樹脂を硬化させることである。この硬化は、加熱により達成される。シャフト6の製造工程には、加熱工程が含まれる。この加熱工程により、プリプレグシートのマトリクス樹脂が硬化する。
【0028】
図2は、シャフト6を構成するプリプレグシートの展開図(シート構成図)である。シャフト6は、複数枚のシートにより構成されている。図2の実施形態では、シャフト6は、t1からt17までの17枚のシートにより構成されている。本願において、図2等で示される展開図は、シャフトを構成するシートを、シャフトの半径方向内側から順に示している。展開図において上側に位置しているシートから順にマンドレルに巻回される。図2等の展開図において、図面の左右方向は、シャフト軸方向と一致する。図2等の展開図において、図面の右側は、シャフトのチップTp側である。図2等の展開図において、図面の左側は、シャフトのバットBt側である。
【0029】
図2等の展開図は、各シートの巻き付け順序のみならず、各シートのシャフト軸方向における配置をも示している。例えばシートt1の一端はチップTpに位置している。
【0030】
シャフト6は、ストレート層とバイアス層とを有する。図2等の展開図において、繊維の配向角度が記載されている。「0°」と記載されているシートが、ストレート層を構成している。ストレート層用のシートは、本願においてストレートシートとも称される。
【0031】
ストレート層は、繊維の配向がシャフトの長手方向(シャフト軸方向)に対して実質的に0°とされた層である。巻き付けの際の誤差等に起因して、通常、繊維の配向はシャフト軸線方向に対して完全に平行とはならない。ストレート層において、繊維の配向とシャフト軸線方向とのなす角度Afは、−10度以上+10度以下程度である。本願において「実質的に0°」とは、±10°の誤差を許容する趣旨である。
【0032】
シャフト6において、ストレートシートは、シートt1、シートt2、シートt14、シートt15、シートt16及びシートt17である。ストレート層は、シャフトの曲げ剛性及び曲げ強度との相関が高い。
【0033】
バイアス層は、主として、シャフトの捻れ剛性及び捻れ強度を高める目的で設けられる。また、異方性を付与する目的で、バイアス層が用いられる場合がある。この異方性については、後述される。
【0034】
バイアス層は、好ましくは、繊維の配向が互いに逆方向に傾斜した2枚のシートペアから構成されている。好ましくは、バイアス層は、上記角度Afが−70度以上−25度以下の層と、上記角度Afが25度以上70度以下の層とを含む。シャフト6において、バイアス層を構成するシートは、シートt3、シートt4、シートt5、シートt6、シートt8、シートt9、シートt11及びシートt12である。なお、角度Afにおけるプラス(+)及びマイナス(−)は、互いに貼り合わされるバイアスシートの繊維が互いに逆方向に傾斜していることを示している。本願において、バイアス層用のシートは、単にバイアスシートとも称される。
【0035】
なお、図2の実施形態では、シートt3が−45度であり且つシートt4が+45度であるが、シートt3が+45度であり且つシートt4が−45度であってもよいことは当然である。また、図2の実施形態では、シートt5が−30度であり且つシートt6が+30度であるが、シートt5が+30度であり且つシートt6が−30度であってもよいことは当然である。互いに貼り合わされるバイアス層の繊維が、シャフト軸線に対して逆方向に傾斜していればよい。
【0036】
ストレート層及びバイアス層以外の層が設けられても良い。好ましい他の層として、フープ層が挙げられる。フープ層では、繊維の配向が、シャフト軸線に対して実質的に90°とされる。
【0037】
フープ層は、シャフトのつぶし剛性及びつぶし強度を高めるのに寄与する。つぶし剛性とは、シャフトをその半径方向内側に向かって押し潰す力に対する剛性である。つぶし強度とは、シャフトをその半径方向内側に向かって押し潰す力に対する強度である。つぶし強度は、曲げ強度とも関連しうる。曲げ変形に連動してつぶし変形が生じうる。特に肉厚の薄い軽量シャフトにおいては、この連動性が大きい。つぶし強度の向上により、曲げ強度も向上しうる。
【0038】
巻き付けの際の誤差等に起因して、通常、繊維の配向はシャフト軸線方向に対して完全に90°とはならない。フープ層において、上記角度Afは、通常、90度±10度である。本願において「実質的に90°」とは、±10°の誤差を許容する趣旨である。
【0039】
図2の実施形態において、フープ層用のプリプレグシートは、シートt7、シートt10及びシートt13である。
【0040】
図示しないが、使用される前のプリプレグシートは、剥離シートにより挟まれている。通常、剥離シートは、離型紙及び樹脂フィルムである。即ち、使用される前のプリプレグシートは、離型紙と樹脂フィルムとで挟まれている。プリプレグシートの一方の面には離型紙が貼られており、プリプレグシートの他方の面には樹脂フィルムが貼られている。以下において、離型紙が貼り付けられている面が「離型紙側の面」とも称され、樹脂フィルムが貼り付けられている面が「フィルム側の面」とも称される。
【0041】
図2等の展開図は、フィルム側の面が表側とされた図である。即ち、図2等の展開図において、図面の表側がフィルム側の面であり、図面の裏側が離型紙側の面である。図2では、シートt3の繊維方向とシートt4の繊維方向とは同じであるが、後述される貼り合わせの際にシートt4が裏返される。この結果、シートt3の繊維方向とシートt4の繊維方向とは互いに逆となる。この点を考慮して、図2では、シートt3の繊維方向が「−45°」と表記され、シートt4の繊維方向が「+45°」と表記されている。
【0042】
プリプレグシートを巻回するには、先ず、樹脂フィルムが剥がされる。樹脂フィルムが剥がされることにより、フィルム側の面が露出する。この露出面は、粘着性(タック性)を有する。この粘着性は、マトリクス樹脂に起因する。即ち、このマトリクス樹脂は半硬化状態であるため、粘着性を有している。次に、この露出したフィルム側の面の縁部(巻き始め縁部ともいう)を、巻回対象物に貼り付ける。マトリクス樹脂の粘着性により、この巻き始め縁部の貼り付けが円滑になされうる。巻回対象物とは、マンドレル、又はマンドレルに他のプリプレグシートが巻き付けられてなる巻回物である。次に、離型紙が剥がされる。次に、巻回対象物が回転されて、プリプレグシートが巻回対象物に巻き付けられる。このように、先に樹脂フィルムが剥がされ、次に巻き始め端部が巻回対象物に貼り付けられ、次に離型紙が剥がされる。このように、巻回直前に離型紙が剥がされることにより、シートの皺や巻き付け不良が抑制される。即ち、先に樹脂フィルムが剥がされ、巻き始め縁部が巻回対象物に貼り付けられた後に離型紙が剥がされるという手順により、シートの皺や巻き付け不良が抑制される。これは、離型紙が貼り付けられたシートは、離型紙に支持されているため、皺となりにくいからである。離型紙は、樹脂フィルムと比較して、曲げ剛性が高い。
【0043】
図2の実施形態では、合体シートbt5が用いられる。図3は、合体シートbt5を示す図である。合体シートbt5は、シートt7に、シートt5及びシートt6が貼り合わされてなる。図3が示すように、シートt5とシートt6とは、隙間無く並んでいる。シートt7の輪郭形状は、シートt5とシートt6とを並べて形成される輪郭形状に一致している。なお図2では、合体シートbt5を構成する3枚のシートが分離されて示されている。
【0044】
図2の実施形態では、合体シートbt8が用いられる。図3は、合体シートbt8を示す図でもある。合体シートbt8は、シートt10に、シートt8及びシートt9が貼り合わされてなる。図3が示すように、シートt8とシートt9とは、隙間無く並んでいる。シートt10の輪郭形状は、シートt8とシートt9とを並べて形成される輪郭形状に一致している。なお図2では、合体シートbt8を構成する3枚のシートが分離されて示されている。
【0045】
図2の実施形態では、合体シートbt11が用いられる。図3は、合体シートbt11を示す図でもある。合体シートbt11は、シートt13に、シートt11及びシートt12が貼り合わされてなる。図3が示すように、シートt11とシートt12とは、隙間無く並んでいる。シートt13の輪郭形状は、シートt11とシートt12とを並べて形成される輪郭形状に一致している。なお図2では、合体シートbt11を構成する3枚のシートが分離されて示されている。
【0046】
図4は、合体シートbt5の製造方法を説明するための図である。合体シートbt5の製造では、先ず、第1予備シート10及び第2予備シート12が製造される。第1予備シート10は、原料のプリプレグシートを裁断することにより得られる。第2予備シート12は、原料のプリプレグシートを裁断することにより得られる。
【0047】
本実施形態では、第1予備シート10は長方形である。本実施形態では、第2予備シート12は長方形である。第1予備シート10の形状と第2予備シート12の形状とは、実質的に合同である。
【0048】
第1予備シート10は、シャフト6の長手方向に対する繊維の配向角度がθ1となるように、作られる。本実施形態では、シャフト6の長手方向は、第1予備シート10の長方形の長辺の方向とほぼ一致している。よって、第1予備シート10では、長方形の長辺に対する繊維の配向角度が、θ1である。
【0049】
第2予備シート12は、シャフト6の長手方向に対する繊維の配向角度がθ2となるように、作られる。本実施形態では、シャフト6の長手方向は、第2予備シート12の長方形の長辺の方向とほぼ一致している。よって、第2予備シート12では、長方形の長辺に対する繊維の配向角度が、θ2である。
【0050】
本実施形態では、第1予備シート10の繊維の配向と、第2予備シート12の繊維の配向とが、互いに逆向きである。即ち、上記角度θ1が実質的に+θa°であり、上記角度θ2が実質的に−θa°である。なお、巻き付けの差異の誤差等に起因して、上記+θa°の絶対値と、上記−θa°の絶対値とは、必ずしも、正確に一致しない。上記+θa°の絶対値と、上記−θa°の絶対値との間には、5%程度の誤差が生じうる。
【0051】
ベースシート14は、シャフトの長手方向に対する繊維の配向角度がθ3となるように、作られる。本実施形態では、ベースシート14は、長方形である。
【0052】
本実施形態では、ベースシート14における上記角度θ3が、90°である。ベースシート14は、原料となるプリプレグを裁断することによって得られうる。
【0053】
ところで、原料となるプリプレグは、繊維の配向方向に沿って連続したシートである。通常、この連続シートが、ロール状に巻かれた状態で、プリプレグメーカーから出荷される。本実施形態のベースシート14のように上記角度θ3が90°である場合、上記連続シートが、そのまま、ベースシート14として用いられ得る。
【0054】
本実施形態では、第1予備シート10の長手方向幅W1と、第2予備シート12の長手方向幅W2とが一致している。更に、ベースシート14の幅W3が、幅W1及び幅W2に一致している。
【0055】
次に、ベースシート14に、第1予備シート10及び第2予備シート12を貼り合わせて、予備合体シートPr1を得る(図4参照)。この予備合体シートPr1では、一枚のベースシート14に対して、少なくとも1枚の第1予備シート10と、少なくとも1枚の第2予備シート12とが貼り合わされる。本実施形態では、一枚のベースシート14に、2枚以上(3枚)の第1予備シート10と、2枚以上(3枚)の第2予備シート12とが貼り合わされている。
【0056】
この予備合体シートPr1では、第1予備シート10と第2予備シート12とが、隙間無く並べられている。そして、1枚の予備合体シートPr1において、第1予備シート10と第2予備シート12とが交互に配置されている。
【0057】
次に、カットラインCLに沿って、予備合体シートPr1が切断される(図4の符号CLを参照)。このカットラインCLにおいては、第1予備シート10又は第2予備シート12とベースシート14とが同時に切断される。即ち、重ねられた2枚のシートが同時に切断される。よって、第1予備シート10又は第2予備シート12とベースシート14とをそれぞれ別個に裁断する場合と比較して、裁断の作業が簡略化される。また、第1予備シート10又は第2予備シート12とベースシート14とが重なった状態で切断がなされるので、この切断面において、第1予備シート10又は第2予備シート12とベースシート14との間に、ズレが存在しない。
【0058】
カットラインCLに沿った切断の結果、合体シートbt5(合体シートbt8、合体シートbt11)が作られる(図4参照)。一本のカットラインCLが、第1の合体シートbt5の1辺を形成し、且つ、第2の合体シートbt5の一辺を形成する。よって、裁断の手間が省略されている。
【0059】
図4において符号k1で示されるのは、第1予備シート10と第2予備シート12との境界線である。第1のカットラインCL1と、このラインCL1に隣接する第2のカットラインCL2とは、互いに、境界線k1に関して対称である。
【0060】
図4が示すように、第1予備シート10は、一本の直線L1に沿って裁断されることによって2枚の上記第1バイアスシートt6(t9、t12)が生じるように構成されている。また、第2予備シート12は、一本の直線L2に沿って裁断されることによって2枚の上記第2バイアスシートt5(t8、t11)が生じるように構成されている。裁断ラインCL1が上記直線L1に一致している。裁断ラインCL2が、上記直線L2に一致している。
【0061】
図4が示すように、本実施形態では、予備合体シートPr1をN回切断することによって、(N−1)枚の合体シートbt5が切り出される。ただし、Nは2以上の整数である。例えば、予備合体シートPr1を5回切断することによって、4枚の合体シートbt5が切り出される。本実施形態では、一回の切断が、第1の合体シートbt5の切断及び第2の合体シートbt5の切断に関与している。本実施形態では、裁断の手間が省略されている。
【0062】
このような製造方法により、生産性が向上し、プリプレグ原料の無駄が抑制される。
【0063】
以下に、このシャフト6の製造工程の概略が説明される。
【0064】
(1)第1裁断工程
第1裁断工程では、プリプレグシートが所望の形状に裁断される。この工程により、シートt1、シートt2、シートt3、シートt4、シートt14、シートt15、シートt16及びシートt17が、図2に示される形状とされる。
【0065】
また、この第1裁断工程により、第1予備シート10、第2予備シート12及びベースシート14が得られる。即ちこの第1裁断工程は、シャフト6の長手方向に対する繊維の配向角度がθ1となる第1予備シート10を得る工程、シャフト6の長手方向に対する繊維の配向角度がθ2となる第2予備シート12を得る工程、及び、シャフトの長手方向に対する繊維の配向角度がθ3となるベースシート14を得る工程を含む。
【0066】
なお、裁断は、裁断機によりなされてもよいし、カッターナイフ等により手作業でなされてもよい。
【0067】
(2)貼り合わせ工程
貼り合わせ工程では、バイアス層用のシート同士が貼り合わせられる。即ち、シートt3とシートt4とが貼り合わせられる。なお、このバイアス層同士の貼り合わせは、なされなくてもよい。
【0068】
また、この貼り合わせ工程は、少なくとも1枚の上記第1予備シート10と少なくとも1枚の上記第2予備シート12とを並べて、一枚の上記ベースシート14に貼り合わせる工程を含む。この工程により、上記予備合体シートPr1が得られる。この工程の詳細は、前述した通りである。
【0069】
貼り合わせ工程では、加熱又はプレスが用いられてもよい。好ましくは、加熱とプレスとが併用される。後述する巻回工程において、合体シートの巻き付け作業中に、シートのズレが生じうる。このズレは、巻き付け精度を低下させる。加熱及びプレスは、シート間の接着力を向上させる。加熱及びプレスは、巻回工程におけるシート間のズレを抑制する。
【0070】
シート同士の接着力を高める観点から、貼り合わせ工程における加熱温度は、30℃以上が好ましく、35℃以上がより好ましい。この加熱温度が高すぎる場合、マトリクス樹脂の硬化が進行し、シートの粘着性が低下することがある。この粘着性の低下は、合体シートと巻回対象物との接着性を低下させる。この接着性の低下は、皺の発生を許容することがあり、巻き付け位置のズレを生じさせうる。この観点から、貼り合わせ工程における加熱温度は、60℃以下が好ましく、50℃以下がより好ましく、40℃以下がより好ましい。
【0071】
シート同士の接着力を高める観点から、貼り合わせ工程における加熱時間は、20秒以上が好ましく、30秒以上がより好ましい。シートの粘着性の観点から、貼り合わせ工程における加熱時間は、120秒以下が好ましく、100秒以下がより好ましい。
【0072】
シート同士の接着力を高める観点から、貼り合わせ工程におけるプレスの圧力は、300g/cm2以上が好ましく、350g/cm2以上がより好ましい。プレスの圧力が過大である場合、プリプレグが押し潰される場合がある。この場合、プリプレグの厚みが設計値よりも薄くなる。プリプレグの厚み精度の観点から、貼り合わせ工程におけるプレスの圧力は、600g/cm2以下が好ましく、500g/cm2以下がより好ましい。
【0073】
シート同士の接着力を高める観点から、貼り合わせ工程におけるプレスの時間は、20秒以上が好ましく、30秒以上がより好ましい。プリプレグの厚み精度の観点から、貼り合わせ工程におけるプレスの時間は、120秒以下が好ましく、100秒以下がより好ましい。
【0074】
(3)第2裁断工程
この第2裁断工程では、予備合体シートPr1が裁断される。この裁断により、合体シートbt5(合体シートbt8、合体シートbt11)が得られる。この裁断は、カットラインCLに沿ってなされる。この裁断工程の詳細は、前述した通りである。
【0075】
(4)巻回工程
巻回工程では、裁断されたシートがマンドレルに巻回される。貼り合わされたシートに関しては、合体シートが巻回される。図2に示す本実施形態では、先ずシートt1が巻回され、次にシートt2が巻回され、次にシートt3とシートt4とが貼り合わされてなるシートが巻回され、次に合体シートbt5が巻回され、次に合体シートbt8が巻回され、次に合体シートbt11が巻回され、次にシートt14が巻回され、次にシートt15が巻回され、次にシートt16が巻回され、最後にシートt17が巻回される。
【0076】
この巻回工程により、巻回体が得られる。この巻回体は、マンドレルの外側にプリプレグシートが巻き付けられてなる。巻回は、例えば、平面上で巻回対象物を転がすことによりなされる。この巻回は、手作業によりなされてもよいし、ローリングマシン等と称される機械によりなされてもよい。
【0077】
(5)テープラッピング工程
テープラッピング工程では、上記巻回体の外周面にテープが巻き付けられる。このテープは、ラッピングテープとも称される。このラッピングテープは、張力を付与されつつ巻き付けられる。
【0078】
(6)硬化工程
硬化工程では、テープラッピングがなされた後の巻回体が加熱される。この加熱により、マトリクス樹脂が硬化する。この硬化の課程で、マトリクス樹脂が一時的に流動化する。このマトリクス樹脂の流動化により、シート間又はシート内の空気が排出されうる。ラッピングテープの張力(締め付け力)により、この空気の排出が促進されている。この硬化により、硬化積層体が得られる。
【0079】
(7)マンドレルの引き抜き工程及びラッピングテープの除去工程
マンドレルの引き抜き工程とラッピングテープの除去工程とがなされる。両者の順序は限定されないが、ラッピングテープの除去工程の能率を向上させる観点から、マンドレルの引き抜き工程の後にラッピングテープの除去工程がなされるのが好ましい。
【0080】
(8)両端カット工程
この工程では、硬化積層体の両端部がカットされる。このカットにより、シャフトのチップTp及びバットBtが形成される。このカットにより、チップTpの端面及びバットBtの端面が平坦とされる。
【0081】
(9)研磨工程
この工程では、硬化積層体の表面が研磨される。硬化積層体の表面には、ラッピングテープの跡として残された螺旋状の凹凸が存在する。研磨により、このラッピングテープの跡としての凹凸が消滅し、表面が平滑とされる。
【0082】
(10)塗装工程
研磨工程後の硬化積層体に塗装が施される。
【0083】
以上が、シャフト6の製造工程の概略である。このように、シャフト6の製造では、マンドレルが必要とされる。このマンドレルの断面は、円形である。好ましくは、このマンドレルの外面は、テーパー面を有している。好ましくは、マンドレルの表面に、離型剤が塗布される。
【0084】
シートt14からなる層及びシートt15からなる層は、ベースシート14からなる層の半径方向外側に位置するカバー層である。これらのカバー層は、ベースシート14からなる層を研磨から保護する。
【0085】
以上の第1実施形態においては、ベースシート14は、フープ層用のシートとなる。即ち、上記第1実施形態において、角度θ3が実質的に90°とされた。他の好ましい形態では、角度θ3が実質的に0°である。角度θ3が実質的に0°である一例が、以下の第2実施形態である。
【0086】
図5は、第2実施形態に係るプリプレグシートの展開図(シート構成図)である。この実施形態のシャフトは、s1からs17までの17枚のシートにより構成されている。
【0087】
本第2実施形態において、ストレートシートは、シートs1、シートs2、シートs7、シートs10、シートs13、シートs14、シートs15、シートs16及びシートs17である。本実施形態では、ベースシート16が、ストレートシートとなる。
【0088】
図5の実施形態では、合体シートbs5が用いられる。図6は、合体シートbs5を示す図である。合体シートbs5は、シートs7に、シートs5及びシートs6が貼り合わされてなる。図6が示すように、シートs5とシートs6とは、隙間無く並んでいる。シートs7の輪郭形状は、シートs5とシートs6とを並べて形成される輪郭形状に一致している。なお図5では、合体シートbs5を構成する3枚のシートが分離されて示されている。
【0089】
図5の実施形態では、合体シートbs8が用いられる。図6は、合体シートbs8を示す図でもある。合体シートbs8は、シートs10に、シートs8及びシートs9が貼り合わされてなる。図6が示すように、シートs8とシートs9とは、隙間無く並んでいる。シートs10の輪郭形状は、シートs8とシートs9とを並べて形成される輪郭形状に一致している。なお図5では、合体シートbs8を構成する3枚のシートが分離されて示されている。
【0090】
図5の実施形態では、合体シートbs11が用いられる。図6は、合体シートbs11を示す図でもある。合体シートbs11は、シートs13に、シートs11及びシートs12が貼り合わされてなる。図6が示すように、シートs11とシートs12とは、隙間無く並んでいる。シートs13の輪郭形状は、シートs11とシートs12とを並べて形成される輪郭形状に一致している。なお図5では、合体シートbs11を構成する3枚のシートが分離されて示されている。
【0091】
図7は、合体シートbs5の製造方法を説明するための図である。合体シートbs5の製造では、先ず、第1予備シート10及び第2予備シート12が製造される。第1予備シート10は、原料のプリプレグシートを裁断することにより得られる。第2予備シート12は、原料のプリプレグシートを裁断することにより得られる。
【0092】
本実施形態では、第1予備シート10は長方形である。本実施形態では、第2予備シート12は長方形である。第1予備シート10の形状と第2予備シート12の形状とは、実質的に合同である。
【0093】
第1予備シート10は、シャフトの長手方向に対する繊維の配向角度がθ1となるように、作られる。本実施形態では、シャフトの長手方向は、第1予備シート10の長方形の長辺の方向とほぼ一致している。よって、第1予備シート10では、長方形の長辺に対する繊維の配向角度が、θ1である。
【0094】
第2予備シート12は、シャフトの長手方向に対する繊維の配向角度がθ2となるように、作られる。本実施形態では、シャフトの長手方向は、第2予備シート12の長方形の長辺の方向とほぼ一致している。よって、第2予備シート12では、長方形の長辺に対する繊維の配向角度が、θ2である。
【0095】
本実施形態では、第1予備シート10の繊維の配向と、第2予備シート12の繊維の配向とが、互いに逆向きである。即ち、上記角度θ1が実質的に+θa°であり、上記角度θ2が実質的に−θa°である。なお、巻き付けの差異の誤差等に起因して、上記+θa°の絶対値と、上記−θa°の絶対値とは、必ずしも、正確に一致しない。上記+θaの絶対値と、上記−θaの絶対値との間には、5%程度の誤差が生じうる。
【0096】
ベースシート16は、シャフトの長手方向に対する繊維の配向角度がθ3となるように、作られる。本実施形態では、ベースシート16は、長方形である。
【0097】
本実施形態では、ベースシート16における上記角度θ3が、0°である。ベースシート16は、原料となるプリプレグを裁断することによって得られうる。
【0098】
本実施形態では、第1予備シート10の長手方向幅W1と、第2予備シート12の長手方向幅W2とが一致している。更に、ベースシート16の幅W4が、幅W1及び幅W2に一致している。
【0099】
次に、ベースシート16に、第1予備シート10及び第2予備シート12を貼り合わせて、予備合体シートPr2を得る(図7参照)。この予備合体シートPr2では、一枚のベースシート16に対して、少なくとも1枚の第1予備シート10と、少なくとも1枚の第2予備シート12とが貼り合わされる。本実施形態では、一枚のベースシート16に対して、2枚以上(3枚)の第1予備シート10と、2枚以上(3枚)の第2予備シート12とが貼り合わされている。
【0100】
この予備合体シートPr2では、第1予備シート10と第2予備シート12とが、隙間無く並べられている。そして、1枚の予備合体シートPr2において、第1予備シート10と第2予備シート12とが交互に配置されている。
【0101】
次に、カットラインCLに沿って、予備合体シートPr2が切断される(図7の符号CLを参照)。このカットラインCLにおいては、第1予備シート10又は第2予備シート12とベースシート16とが同時に切断される。よって、第1予備シート10又は第2予備シート12とベースシート16とをそれぞれ別個に裁断する場合と比較して、裁断の作業が簡略化される。また、第1予備シート10又は第2予備シート12とベースシート16とが重なった状態で切断がなされるので、この切断面において、第1予備シート10又は第2予備シート12とベースシート16との間に、ズレが生じない。
【0102】
カットラインCLに沿った切断の結果、合体シートbs5(合体シートbs8、合体シートbs11)が作られる(図7参照)。一本のカットラインCLが、第1の合体シートbs5の1辺を形成し、且つ、第2の合体シートbs5の一辺を形成する。
【0103】
図7において符号k1で示されるのは、第1予備シート10と第2予備シート12との境界線である。第1のカットラインCL1と、このラインCL1に隣接する第2のカットラインCL2とは、互いに、境界線k1に関して対称である。
【0104】
図7が示すように、第1予備シート10は、一本の直線L1に沿って裁断されることによって2枚の上記第1バイアスシートs6(s9、s12)が生じるように構成されている。また、第2予備シート12は、一本の直線L2に沿って裁断されることによって2枚の上記第2バイアスシートs5(s8、s11)が生じるように構成されている。裁断ラインCL1が上記直線L1に一致している。裁断ラインCL2が、上記直線L2に一致している。このような製造方法により、生産性が向上し、プリプレグ原料の無駄が抑制される。
【0105】
シートs14からなる層及びシートs15からなる層は、ベースシート16からなる層の半径方向外側に位置するカバー層である。これらのカバー層は、ベースシート14からなる層を研磨から保護する。
【0106】
図8は、第3実施形態に係るプリプレグシートの展開図(シート構成図)である。この実施形態のシャフトは、g1からg17までの17枚のシートにより構成されている。
【0107】
図8で示される第3実施形態は、シャフト全長よりも短い合体シートbg11が存在する点で、図2で示される第1実施形態と相違する。その点を除き、この第3実施形態は、上記第1実施形態と同じである。この合体シートbg11の製造方法は、前述した合体シートbt5と同じである。このように、合体シートbg11は、シャフト全長よりも短くてもよい。
【0108】
上記合体シートbg11は、シャフトの後端部に位置している。即ち合体シートbg11の後端は、シャフトのバットBtに位置する。
【0109】
合体シートbg11のような、シャフト全長よりも短い上記合体シートは、部分的合体シートとも称される。部分的合体シートは、シャフトの後端部に位置していてもよいし、シャフトの先端部に位置していてもよい。部分的合体シートが用いられる場合、その配置は、限定されない。
【0110】
上記合体シートbg11のような、シャフトの後端部に位置する部分的合体シートは、グリップを介して、ゴルファーに握られる。シャフトの後端部の特性は、ゴルファーの感覚に影響を与えやすい。シャフトの後端部に位置する部分的合体シートは、次の(1)及び(2)を同時に達成しうる点で好ましい。
(1)グリップされる部分に設けられているため、捻れ剛性が高いという感覚をゴルファーに与えやすい。
(2)長さが短いため、シャフトの軽量化に寄与する。
【0111】
捻れ剛性の付与又は異方性の付与の観点から、上記角度θ1(degree)の絶対値は、25以上が好ましく、70以下が好ましい。捻れ剛性の観点からは、上記角度θ1(degree)の絶対値は、30以上が好ましく、40以上がより好ましい。異方性の観点からは、上記角度θ1(degree)の絶対値は、45以下が好ましく、40以下がより好ましい。
【0112】
捻れ剛性の付与又は異方性の付与の観点から、上記角度θ2(degree)の絶対値は、25以上が好ましく、70以下が好ましい。捻れ剛性の観点からは、上記角度θ2(degree)の絶対値は、30以上が好ましく、40以上がより好ましい。異方性の観点からは、上記角度θ2(degree)の絶対値は、45以下が好ましく、40以下がより好ましい。
【0113】
合体シートは、シートが重ねられているため、厚い傾向にある。厚いシートは、巻き付けにくい。合体シートの巻き付けの容易性の観点からは、上記角度θ3は、実質的の0°であるのが好ましい。即ち上記角度θ3は、0°±10°であるのが好ましい。
【0114】
シャフトの潰れ剛性及び潰れ強度の観点からは、上記角度θ3は、実質的に90°であるのが好ましい。即ち上記角度θ3は、90°±10°であるのが好ましい。
【0115】
繊維の配向角度が実質的に90°である場合、繊維の剛性に起因して、巻き付けが行いにくい。合体シートであって上記角度θ3が実質的に90°である場合、厚みの効果と繊維の剛性とにより、巻き付けが行いにくい。
【0116】
巻き付けを容易とする観点から、上記角度θ3が実質的に90°である場合、上記ベースシートの繊維含有率は、70質量%以下であるのが好ましく、65質量%以下であるのがより好ましく、60質量%以下であるのが更に好ましい。軽量化の観点から、上記ベースシートの繊維含有率は、50質量%以上が好ましい。この繊維含有率はプリプレグメーカーが公表している。
【0117】
貼り合わせの容易性の観点から、上記ベースシートの繊維含有率は、80質量%以下であるのが好ましく、76質量%以下であるのがより好ましい。
【0118】
巻回工程において、合体シートが巻き付けられる。この巻き付けを容易とする観点から、上記角度θ3が実質的に90°である場合、上記ベースシートの繊維含有率は、70質量%以下であるのが好ましく、65質量%以下であるのがより好ましく、60質量%以下であるのがより好ましい。
【0119】
巻回工程において、合体シートが巻き付けられる。この巻き付けを容易とする観点から、上記角度θ3が実質的に90°である場合、上記ベースシートに含まれる繊維の引張弾性率は、30t/mm2以下であるのが好ましく、24t/mm2以下であるのがより好ましい。炭素繊維の製造の容易性の観点から、PAN系炭素繊維では、この繊維の引張弾性率は、23.5t/mm2以上であるのが好ましい。この引張弾性率はプリプレグメーカーが公表している。
【0120】
シャフト強度の観点から、上記ベースシートに用いられている炭素繊維は、PAN系炭素繊維であるのが好ましい。
【0121】
巻回工程において、合体シートが巻き付けられる。この巻き付けを容易とする観点から、上記角度θ3が実質的に90°である場合、上記ベースシートの厚みは、0.05mm以下であるのが好ましく、0.04mm以下であるのがより好ましい。プリプレグの製造の容易性の観点から、上記ベースシートの厚みは、0.02mm以上が好ましく、0.03mm以上がより好ましい。
【0122】
生産性の観点から、上記予備合体シートにおいて、上記第1予備シートと上記第2予備シートとが実質的に隙間無く並べられているのが好ましい。
【0123】
好ましくは、上記第1予備シートが長方形であり、且つ、上記第2予備シートが長方形である。長方形であるシートは並べやすい。長方形のシートは、隙間無く並べるのに適している。長方形のシートは、作業性を向上させうる。
【0124】
より好ましくは、上記第2予備シートは、上記第1予備シートと実質的に合同な長方形である。この構成は、前述された実施形態のように、高い生産性を実現しうる。この構成により、カッティングの手間が減少し、生産性が更に向上しうる。
【0125】
好ましくは、上記角度θ1と上記角度θ2とは、互いに逆向きの傾斜である。より好ましくは、上記角度θ1が実質的に+θa°であり、上記角度θ2が実質的に−θa°である。この構成は、シャフトの捻れ剛性又は異方性に寄与する。
【0126】
好ましくは、上記合体シートを巻回する工程において、上記ベースシートが外側とされ、上記第1バイアスシート及び上記第2バイアスシートが内側とされる。合体シートの巻き付け中に、上記第1バイアスシートと上記第2バイアスシートとの境界k1において、剥がれが生じうる。上記第1バイアスシート及び上記第2バイアスシートが内側とされることにより、この剥がれが抑制される。またこの巻回の結果、上記ベースシートが外側に配置され、上記第1バイアスシート及び上記第2バイアスシートが内側に配置される。よって、上記第1バイアスシート及び上記第2バイアスシートが、上記ベースシートによって保護される。この外側のベースシートは、上記第1バイアスシート及び上記第2バイアスシートを研磨から保護しうる。この保護は、研磨に起因する捻れ剛性のバラツキを抑制する。また、この保護は、研磨に起因する異方性のバラツキを抑制する。
【0127】
好ましくは、上記ベースシートからなる層の半径方向外側に位置するカバー層が存在する。このカバー層は、ベースシートを研磨から保護しうる。この保護は、シャフト特性のバラツキを抑制しうる。
【0128】
異方性を付与する場合、第1バイアスシートからなる層が、あらゆるシャフト軸方向位置において約0.5プライであり、且つ、第2バイアスシートからなる層が、あらゆるシャフト軸方向位置において約0.5プライであるのが好ましい。この場合、下記の構成Aを有するシャフトが容易に製造されうる。前述した特開平11−76480号に記載されているように、異方性を発現するのに適した構成の一例は、次の構成Aである。
(構成A)周方向位置が0°から180°までである第1のバイアス層と、周方向位置が180°から360°までである第2のバイアス層とが存在し、上記第1のバイアス層の繊維の配向角度と上記第2のバイアス層の繊維の配向角度とが逆向きである。
【0129】
異方性とは、撓み(曲げ)と連動して捻れが生ずる性質である。この異方性は、例えば、スライスやフックの矯正に有効である。上記実施形態は、異方性を有するシャフトの生産に適している。
【0130】
異方性の度合いは、曲げ捻れ量によって示されうる。本実施形態により、例えば、曲げ捻れ量が1°以上、更には、2°以上のシャフトが容易に製造されうる。
【0131】
なお、曲げ捻れ量の測定方法は、次の通りである。
【0132】
[曲げ捻れ量の測定]
図9及び図10は、この曲げ捻れ量の測定方法を説明するための図である。図9は測定の様子を示す側面図であり、図10は、シャフト6のチップTp側からみた正面図である。図10の上側(実線)は錘52を吊り下げる前の状態であり、図10の下側(2点鎖線)は錘52を吊り下げた後の状態である。
【0133】
この曲げ捻れ量の測定では、シャフトの後端部を固定する治具100と、真っ直ぐな棒50と、錘52とが用意される。
【0134】
この曲げ捻れ量の測定では、先ず、シャフト6の後端部が固定される。固定される範囲は、シャフト後端Btから150mmまでの範囲である(図9参照)。次に、シャフト6の周方向の特定位置に、棒50が固定される。この棒50は、シャフト6の周方向における最も上側に固定される(図10参照)。この固定は、例えば接着剤によりなされる。錘52を吊り下げる前の状態において、この棒50は水平とされる(図10参照)。棒50は、シャフト先端Tpから25mm隔てた地点に固定される(図9参照)。
【0135】
次に、錘52が吊り下げられる。撓み量が600mmとなるように、錘52の重量が調整される。この撓み量とは、棒50の鉛直方向における移動距離である(図9及び図10参照)。錘52の位置(荷重点)は、シャフト先端Tpから50mm隔てた地点である(図9参照)。錘52の荷重により、シャフト6が撓る。このシャフト6が撓った状態で静止させ、棒50の傾斜角度θtを読み取る(図10参照)。この傾斜角度θtの最大値が、曲げ捻れ量である。読み取りの精度の観点から、棒50は比較的長いほうがよく、例えば140mmとされる(図10参照)。
【0136】
曲げ捻れ量の決定では、捻れの方向が考慮される。図9の測定において、シャフト6をグリップ側(シャフト後端Bt側)から見たとき、錘52による撓みに起因して、シャフト6は、右周り又は左周りに捻れる。グリップ側(シャフト後端Bt側)から見たとき、錘52による撓みに起因してシャフト6が左周りに捻れる場合に、捻れ角度θtがプラスとされる。逆に、グリップ側(シャフト後端Bt側)から見たとき、錘52による撓みに起因して、シャフト6が右周りに捻れる場合に、捻れ角度θtがマイナスとされる。図10は、シャフト6をヘッド側から見ているので、捻れ角度θtがマイナスである場合を示している。捻れ角度θtの最大値が、曲げ捻れ量である。
【0137】
撓みは、あらゆる方向において実施される。撓みの方向によって、傾斜角度θtは相違しうる。例えば、周方向位置Aを上側として測定された傾斜角度θtと、周方向位置Bを上側として測定された傾斜角度θtとは相違しうる。あらゆる方向において上記角度θtが測定され、それらの角度θtの最大値が、曲げ捻れ量である。
【0138】
曲げ捻れ量の決定では、捻れの方向が考慮される。図9の測定において、シャフト6をグリップ側(バットBt側)から見たとき、錘52による撓みに起因して、シャフト6は、右周り又は左周りに捻れる。グリップ側(バットBt側)から見たとき、錘52による撓みに起因してシャフト6が左周りに捻れる場合に、捻れ角度θtがプラスとされる。逆に、グリップ側(バットBt側)から見たとき、錘52による撓みに起因して、シャフト6が右周りに捻れる場合に、捻れ角度θtがマイナスとされる。図10は、シャフト6をヘッド側から見ているので、捻れ角度θtがマイナスである場合を示している。捻れ角度θtの最大値が、曲げ捻れ量である。
【0139】
プリプレグシートのマトリクス樹脂としては、エポキシ樹脂の他、エポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂等も用いられ得る。シャフト強度の観点から、マトリクス樹脂は、エポキシ樹脂が好ましい。
【実施例】
【0140】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0141】
[実施例1]
図2で示されるシート構成を有するシャフトが作製された。製造方法は、上記第1実施形態と同じとされた。各シートに用いられたプリプレグの品種が、下記の表1に示される。
【0142】
なお、貼り合わせ工程では、加熱及びプレスが同時になされた。この条件は、温度が30〜40℃とされ、圧力が350〜450(g/cm2)とされ、時間が30秒以上60秒以下とされた。
【0143】
この結果、生産性が高く且つ巻回の精度に優れたシャフトが得られた。このシャフトは異方性を有していた。このシャフトの曲げ捻れ量は、2.1°であった。
【0144】
[実施例2]
図5で示されるシート構成を有するシャフトが作製された。製造方法は、上記第2実施形態と同じとされた。各シートに用いられたプリプレグの品種が、下記の表2に示される。
【0145】
なお、貼り合わせ工程では、加熱及びプレスが同時になされた。この条件は、温度が30〜40℃とされ、圧力が350〜450(g/cm2)とされ、時間が30秒以上60秒以下とされた。
【0146】
この結果、生産性が高く且つ巻回の精度に優れたシャフトが得られた。このシャフトは異方性を有していた。このシャフトの曲げ捻れ量は、1.7°であった。
【0147】
【表1】
【0148】
【表2】
【0149】
[比較例]
上記実施例1と同じ積層構成を有するシャフトを作製した。合体シートの作製方法を除き、実施例1と同様にして、比較例のシャフトを得た。
【0150】
図11は、比較例における合体シートb20の製造方法を説明するための図である。合体シートb20自体は、前述した合体シートbt5等と同じである。
【0151】
図11が示すように、この製造方法では、裁断により、シート20a、シート22a及びシート24aを得る。プリプレグ20の裁断により、シート20aが得られる。プリプレグ22の裁断により、シート22aが得られる。プリプレグ24の裁断により、シート24aが得られる。
【0152】
次に、シート24aに、シート20a及びシート22aが貼り合わせられる。このとき、シート20aとシート22aとは隙間無く並べられる。この貼り合わせにより、合体シートb20が得られる。この合体シートb20では、実施例の合体シートと比較して、多くのズレが発生した。また、合体シートの生産性は、実施例が、比較例よりも、良好であった。
【0153】
なお、下記の表3は、本発明で用いられ得るプリプレグシートの例である。
【0154】
【表3】
【0155】
この表3に記載されていないプリプレグシートも、用いられ得る。プリプレグシート以外の材料が、併用されてもよい。この材料として、編まれた繊維及び金属箔が例示される。
【産業上の利用可能性】
【0156】
以上説明された方法は、ゴルフクラブシャフトの製造に適用されうる。
【符号の説明】
【0157】
2・・・ゴルフクラブ
4・・・ヘッド
6・・・シャフト
8・・・グリップ
9・・・フェラル
t1、t2、t3、t4、t5、t6、t7、t8、t9、t10、t11、t12、t13、t14、t15、t16、t17・・・裁断されたプリプレグシート
t6、t9、t12・・・第1バイアスシート
t5、t8、t11・・・第2バイアスシート
bt5、bt8、bt11・・・合体シート
s1、s2、s3、s4、s5、s6、s7、s8、s9、s10、s11、s12、s13、s14、s15、s16、s17 ・・・ 裁断されたプリプレグシート
s6、s9、s12・・・第1バイアスシート
s5、s8、s11・・・第2バイアスシート
bs5、bs8、bs11・・・合体シート
10・・・第1予備シート
12・・・第2予備シート
14・・・ベースシート
16・・・ベースシート
Pr1・・・予備合体シート
Pr2・・・予備合体シート
CL・・・カットライン
Tp・・・シャフトのチップ
Bt・・・シャフトのバット
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフクラブシャフトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフクラブシャフトとして、いわゆるカーボンシャフトが知られている。このカーボンシャフトの製造方法として、シートワインディング製法が知られている。このシートワインディング製法では、プリプレグシートをマンドレルに巻き付けることにより、積層構造が得られる。このシートワインディング製法では、シートの種類、シートの配置及び繊維の配向が選択されうる。よって、高い設計自由度が得られる。
【0003】
捻れ剛性及び捻れ強度の観点から、バイアス層を設けたゴルフクラブが知られている。バイアス層の繊維の配向は、シャフトの長手方向に対して、傾斜している。バイアス層は、アングル層とも称される。通常、繊維の配向角度が互いに逆とされた複数のバイアス層が用いられる。即ち、繊維の配向角度が+θ°である第一のバイアス層用シートと、繊維の配向角度が−θ°である第二のバイアス層用シートとが使用される。
【0004】
バイアス層用のシートの巻回作業を容易とする観点から、バイアス層同士を貼り合わせることが知られている。特開2010−22749号公報には、繊維方向が互いに逆向きである2枚のバイアス層用シートが貼り合わされる工程が記載されている。
【0005】
また、バイアス層用シートとフープ層用シートとを貼り合わせる技術が開示されている。特開平11−76480号公報は、フープ層となるシートに、第1半周長プリプレグシートと第2半周長プリプレグシートとを貼り合わせた複合プリプレグシートを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−22749号公報
【特許文献2】特開平11−76480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
バイアス層用シートと他のシートとを貼り合わせる場合、貼り合わせの精度が求められる。貼り合わせの不具合は、積層の乱れを生じさせる。この積層の乱れは、シャフトの強度を低下させる。この積層の乱れは、シャフト物性のバラツキを生じさせうる。
【0008】
特に、2枚以上のバイアス層用シートが他のシートに貼り合わされる場合、貼り合わせの精度が低下しやすい。
【0009】
また、2枚以上のバイアス層用シートが他のシートに貼り合わされる場合、作業性が低下しやすい。シートは粘着性を有している。よって、2枚のシートを他のシートに対して並べる際に、シート位置の精度を確保するのは、難しい。シート同士の位置合わせは、難しい。この困難性は、シャフトの生産性を低下させる。
【0010】
本発明の目的は、積層の精度及び生産性に優れたゴルフクラブシャフトの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る製造方法は、シャフトの長手方向に対する繊維の配向角度がθ1となる第1予備シートを得る工程と、シャフトの長手方向に対する繊維の配向角度がθ2となる第2予備シートを得る工程と、シャフトの長手方向に対する繊維の配向角度がθ3となるベースシートを得る工程と、少なくとも1枚の上記第1予備シートと少なくとも1枚の上記第2予備シートとを並べて、一枚の上記ベースシートに貼り合わせることにより、予備合体シートを得る工程と、上記予備合体シートを裁断して合体シートを得る工程と、上記合体シートを巻回する工程と、を含む。上記角度θ1は、上記θ2とは異なる。上記角度θ3は、上記角度θ1とは異なり且つ上記θ2とは異なる。上記合体シートが、上記第1予備シートの一部である第1バイアスシートと、上記第2予備シートの一部である第2バイアスシートとを含む。
【0012】
好ましくは、上記予備合体シートにおいて、上記第1予備シートと上記第2予備シートとが実質的に隙間無く並べられている。
【0013】
好ましくは、上記第1予備シートが長方形であり、上記第2予備シートが、上記第1予備シートと実質的に合同な長方形である。
【0014】
好ましくは、長方形の上記第1予備シートは、一本の直線L1に沿って裁断されることによって2枚の上記第1バイアスシートが生じるように構成されている。好ましくは、長方形の上記第2予備シートは、一本の直線L2に沿って裁断されることによって2枚の上記第2バイアスシートが生じるように構成されている。好ましくは、上記合体シートを得る工程における裁断ラインCL1が、上記直線L1に一致している。好ましくは、上記合体シートを得る工程における裁断ラインCL2が、上記直線L2に一致している。
【0015】
好ましくは、上記角度θ1が実質的に+θa°であり、上記角度θ2が実質的に−θa°である。
【0016】
好ましくは、上記角度θ3が、実質的に0°であるか、又は、実質的に90°である。
【0017】
好ましくは、上記合体シートを巻回する工程において、上記ベースシートが外側とされ、上記第1バイアスシート及び上記第2バイアスシートが内側とされる。
【0018】
好ましくは、上記ベースシートの上記角度θ3が実質的に90°である。好ましくは、このベースシートからなる層の半径方向外側に位置するカバー層が存在する。
【0019】
好ましくは、上記第1バイアスシートからなる層が、あらゆるシャフト軸方向位置において、約0.5プライである。好ましくは、上記第2バイアスシートからなる層が、あらゆるシャフト軸方向位置において、約0.5プライである。
【発明の効果】
【0020】
貼り合わせの精度が向上しうる。また、合体シートの生産性が向上しうる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るシャフトを備えたゴルフクラブを示す。
【図2】図2は、第1実施形態のシャフトの積層構成を示す展開図である。
【図3】図3は、第1実施形態のシャフトの製造に用いられる合体シートを示す平面図である。
【図4】図4は、第1実施形態に係る合体シートの製造方法を説明するための図である。
【図5】図5は、第2実施形態のシャフトの積層構成を示す展開図である。
【図6】図6は、第2実施形態のシャフトの製造に用いられる合体シートを示す平面図である。
【図7】図7は、第2実施形態に係る合体シートの製造方法を説明するための図である。
【図8】図8は、第3実施形態のシャフトの積層構成を示す展開図である。
【図9】図9は、曲げ捻れ量の測定方法を示す図である。
【図10】図10は、曲げ捻れ量の測定方法を示す図である。
【図11】図11は、比較例に係る合体シートの製造方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0023】
図1は、本発明の一実施形態に係るゴルフクラブシャフト6を備えたゴルフクラブ2の全体図である。ゴルフクラブ2は、ヘッド4と、シャフト6と、グリップ8と、フェラル9とを備えている。シャフト6の先端部に、ヘッド4が設けられている。シャフト6の後端部に、グリップ8が設けられている。なおシャフト6に装着されるヘッド4及びグリップ8は限定されない。ヘッド4として、ウッド型ゴルフクラブヘッド、アイアン型ゴルフクラブヘッド、パターヘッド等が例示される。
【0024】
シャフト6は、繊維強化樹脂層の積層体からなる。シャフト6は、管状体である。図示しないが、シャフト6は中空構造を有する。図1が示すように、シャフト6は、チップTpとバットBtとを有する。チップTpは、ヘッド4の内部に位置している。バットBtは、グリップ8の内部に位置している。
【0025】
シャフト6は、いわゆるカーボンシャフトである。好ましくは、シャフト6は、プリプレグシートを硬化させてなる。このプリプレグシートでは、繊維は実質的に一方向に配向している。このように繊維が実質的に一方向に配向したプリプレグは、UDプリプレグとも称される。「UD」とは、ユニディレクションの略である。UDプリプレグ以外のプリプレグが用いられても良い。例えば、プリプレグシートに含まれる繊維が編まれていてもよい。
【0026】
プリプレグシートは、繊維とマトリクス樹脂とを有している。典型的には、この繊維は炭素繊維である。典型的には、このマトリクス樹脂は、熱硬化性樹脂である。
【0027】
シャフト6は、いわゆるシートワインディング製法により製造される。プリプレグにおいて、マトリクス樹脂は、半硬化状態にある。シャフト6は、プリプレグシートが巻回され且つ硬化されてなる。この硬化とは、半硬化状態のマトリクス樹脂を硬化させることである。この硬化は、加熱により達成される。シャフト6の製造工程には、加熱工程が含まれる。この加熱工程により、プリプレグシートのマトリクス樹脂が硬化する。
【0028】
図2は、シャフト6を構成するプリプレグシートの展開図(シート構成図)である。シャフト6は、複数枚のシートにより構成されている。図2の実施形態では、シャフト6は、t1からt17までの17枚のシートにより構成されている。本願において、図2等で示される展開図は、シャフトを構成するシートを、シャフトの半径方向内側から順に示している。展開図において上側に位置しているシートから順にマンドレルに巻回される。図2等の展開図において、図面の左右方向は、シャフト軸方向と一致する。図2等の展開図において、図面の右側は、シャフトのチップTp側である。図2等の展開図において、図面の左側は、シャフトのバットBt側である。
【0029】
図2等の展開図は、各シートの巻き付け順序のみならず、各シートのシャフト軸方向における配置をも示している。例えばシートt1の一端はチップTpに位置している。
【0030】
シャフト6は、ストレート層とバイアス層とを有する。図2等の展開図において、繊維の配向角度が記載されている。「0°」と記載されているシートが、ストレート層を構成している。ストレート層用のシートは、本願においてストレートシートとも称される。
【0031】
ストレート層は、繊維の配向がシャフトの長手方向(シャフト軸方向)に対して実質的に0°とされた層である。巻き付けの際の誤差等に起因して、通常、繊維の配向はシャフト軸線方向に対して完全に平行とはならない。ストレート層において、繊維の配向とシャフト軸線方向とのなす角度Afは、−10度以上+10度以下程度である。本願において「実質的に0°」とは、±10°の誤差を許容する趣旨である。
【0032】
シャフト6において、ストレートシートは、シートt1、シートt2、シートt14、シートt15、シートt16及びシートt17である。ストレート層は、シャフトの曲げ剛性及び曲げ強度との相関が高い。
【0033】
バイアス層は、主として、シャフトの捻れ剛性及び捻れ強度を高める目的で設けられる。また、異方性を付与する目的で、バイアス層が用いられる場合がある。この異方性については、後述される。
【0034】
バイアス層は、好ましくは、繊維の配向が互いに逆方向に傾斜した2枚のシートペアから構成されている。好ましくは、バイアス層は、上記角度Afが−70度以上−25度以下の層と、上記角度Afが25度以上70度以下の層とを含む。シャフト6において、バイアス層を構成するシートは、シートt3、シートt4、シートt5、シートt6、シートt8、シートt9、シートt11及びシートt12である。なお、角度Afにおけるプラス(+)及びマイナス(−)は、互いに貼り合わされるバイアスシートの繊維が互いに逆方向に傾斜していることを示している。本願において、バイアス層用のシートは、単にバイアスシートとも称される。
【0035】
なお、図2の実施形態では、シートt3が−45度であり且つシートt4が+45度であるが、シートt3が+45度であり且つシートt4が−45度であってもよいことは当然である。また、図2の実施形態では、シートt5が−30度であり且つシートt6が+30度であるが、シートt5が+30度であり且つシートt6が−30度であってもよいことは当然である。互いに貼り合わされるバイアス層の繊維が、シャフト軸線に対して逆方向に傾斜していればよい。
【0036】
ストレート層及びバイアス層以外の層が設けられても良い。好ましい他の層として、フープ層が挙げられる。フープ層では、繊維の配向が、シャフト軸線に対して実質的に90°とされる。
【0037】
フープ層は、シャフトのつぶし剛性及びつぶし強度を高めるのに寄与する。つぶし剛性とは、シャフトをその半径方向内側に向かって押し潰す力に対する剛性である。つぶし強度とは、シャフトをその半径方向内側に向かって押し潰す力に対する強度である。つぶし強度は、曲げ強度とも関連しうる。曲げ変形に連動してつぶし変形が生じうる。特に肉厚の薄い軽量シャフトにおいては、この連動性が大きい。つぶし強度の向上により、曲げ強度も向上しうる。
【0038】
巻き付けの際の誤差等に起因して、通常、繊維の配向はシャフト軸線方向に対して完全に90°とはならない。フープ層において、上記角度Afは、通常、90度±10度である。本願において「実質的に90°」とは、±10°の誤差を許容する趣旨である。
【0039】
図2の実施形態において、フープ層用のプリプレグシートは、シートt7、シートt10及びシートt13である。
【0040】
図示しないが、使用される前のプリプレグシートは、剥離シートにより挟まれている。通常、剥離シートは、離型紙及び樹脂フィルムである。即ち、使用される前のプリプレグシートは、離型紙と樹脂フィルムとで挟まれている。プリプレグシートの一方の面には離型紙が貼られており、プリプレグシートの他方の面には樹脂フィルムが貼られている。以下において、離型紙が貼り付けられている面が「離型紙側の面」とも称され、樹脂フィルムが貼り付けられている面が「フィルム側の面」とも称される。
【0041】
図2等の展開図は、フィルム側の面が表側とされた図である。即ち、図2等の展開図において、図面の表側がフィルム側の面であり、図面の裏側が離型紙側の面である。図2では、シートt3の繊維方向とシートt4の繊維方向とは同じであるが、後述される貼り合わせの際にシートt4が裏返される。この結果、シートt3の繊維方向とシートt4の繊維方向とは互いに逆となる。この点を考慮して、図2では、シートt3の繊維方向が「−45°」と表記され、シートt4の繊維方向が「+45°」と表記されている。
【0042】
プリプレグシートを巻回するには、先ず、樹脂フィルムが剥がされる。樹脂フィルムが剥がされることにより、フィルム側の面が露出する。この露出面は、粘着性(タック性)を有する。この粘着性は、マトリクス樹脂に起因する。即ち、このマトリクス樹脂は半硬化状態であるため、粘着性を有している。次に、この露出したフィルム側の面の縁部(巻き始め縁部ともいう)を、巻回対象物に貼り付ける。マトリクス樹脂の粘着性により、この巻き始め縁部の貼り付けが円滑になされうる。巻回対象物とは、マンドレル、又はマンドレルに他のプリプレグシートが巻き付けられてなる巻回物である。次に、離型紙が剥がされる。次に、巻回対象物が回転されて、プリプレグシートが巻回対象物に巻き付けられる。このように、先に樹脂フィルムが剥がされ、次に巻き始め端部が巻回対象物に貼り付けられ、次に離型紙が剥がされる。このように、巻回直前に離型紙が剥がされることにより、シートの皺や巻き付け不良が抑制される。即ち、先に樹脂フィルムが剥がされ、巻き始め縁部が巻回対象物に貼り付けられた後に離型紙が剥がされるという手順により、シートの皺や巻き付け不良が抑制される。これは、離型紙が貼り付けられたシートは、離型紙に支持されているため、皺となりにくいからである。離型紙は、樹脂フィルムと比較して、曲げ剛性が高い。
【0043】
図2の実施形態では、合体シートbt5が用いられる。図3は、合体シートbt5を示す図である。合体シートbt5は、シートt7に、シートt5及びシートt6が貼り合わされてなる。図3が示すように、シートt5とシートt6とは、隙間無く並んでいる。シートt7の輪郭形状は、シートt5とシートt6とを並べて形成される輪郭形状に一致している。なお図2では、合体シートbt5を構成する3枚のシートが分離されて示されている。
【0044】
図2の実施形態では、合体シートbt8が用いられる。図3は、合体シートbt8を示す図でもある。合体シートbt8は、シートt10に、シートt8及びシートt9が貼り合わされてなる。図3が示すように、シートt8とシートt9とは、隙間無く並んでいる。シートt10の輪郭形状は、シートt8とシートt9とを並べて形成される輪郭形状に一致している。なお図2では、合体シートbt8を構成する3枚のシートが分離されて示されている。
【0045】
図2の実施形態では、合体シートbt11が用いられる。図3は、合体シートbt11を示す図でもある。合体シートbt11は、シートt13に、シートt11及びシートt12が貼り合わされてなる。図3が示すように、シートt11とシートt12とは、隙間無く並んでいる。シートt13の輪郭形状は、シートt11とシートt12とを並べて形成される輪郭形状に一致している。なお図2では、合体シートbt11を構成する3枚のシートが分離されて示されている。
【0046】
図4は、合体シートbt5の製造方法を説明するための図である。合体シートbt5の製造では、先ず、第1予備シート10及び第2予備シート12が製造される。第1予備シート10は、原料のプリプレグシートを裁断することにより得られる。第2予備シート12は、原料のプリプレグシートを裁断することにより得られる。
【0047】
本実施形態では、第1予備シート10は長方形である。本実施形態では、第2予備シート12は長方形である。第1予備シート10の形状と第2予備シート12の形状とは、実質的に合同である。
【0048】
第1予備シート10は、シャフト6の長手方向に対する繊維の配向角度がθ1となるように、作られる。本実施形態では、シャフト6の長手方向は、第1予備シート10の長方形の長辺の方向とほぼ一致している。よって、第1予備シート10では、長方形の長辺に対する繊維の配向角度が、θ1である。
【0049】
第2予備シート12は、シャフト6の長手方向に対する繊維の配向角度がθ2となるように、作られる。本実施形態では、シャフト6の長手方向は、第2予備シート12の長方形の長辺の方向とほぼ一致している。よって、第2予備シート12では、長方形の長辺に対する繊維の配向角度が、θ2である。
【0050】
本実施形態では、第1予備シート10の繊維の配向と、第2予備シート12の繊維の配向とが、互いに逆向きである。即ち、上記角度θ1が実質的に+θa°であり、上記角度θ2が実質的に−θa°である。なお、巻き付けの差異の誤差等に起因して、上記+θa°の絶対値と、上記−θa°の絶対値とは、必ずしも、正確に一致しない。上記+θa°の絶対値と、上記−θa°の絶対値との間には、5%程度の誤差が生じうる。
【0051】
ベースシート14は、シャフトの長手方向に対する繊維の配向角度がθ3となるように、作られる。本実施形態では、ベースシート14は、長方形である。
【0052】
本実施形態では、ベースシート14における上記角度θ3が、90°である。ベースシート14は、原料となるプリプレグを裁断することによって得られうる。
【0053】
ところで、原料となるプリプレグは、繊維の配向方向に沿って連続したシートである。通常、この連続シートが、ロール状に巻かれた状態で、プリプレグメーカーから出荷される。本実施形態のベースシート14のように上記角度θ3が90°である場合、上記連続シートが、そのまま、ベースシート14として用いられ得る。
【0054】
本実施形態では、第1予備シート10の長手方向幅W1と、第2予備シート12の長手方向幅W2とが一致している。更に、ベースシート14の幅W3が、幅W1及び幅W2に一致している。
【0055】
次に、ベースシート14に、第1予備シート10及び第2予備シート12を貼り合わせて、予備合体シートPr1を得る(図4参照)。この予備合体シートPr1では、一枚のベースシート14に対して、少なくとも1枚の第1予備シート10と、少なくとも1枚の第2予備シート12とが貼り合わされる。本実施形態では、一枚のベースシート14に、2枚以上(3枚)の第1予備シート10と、2枚以上(3枚)の第2予備シート12とが貼り合わされている。
【0056】
この予備合体シートPr1では、第1予備シート10と第2予備シート12とが、隙間無く並べられている。そして、1枚の予備合体シートPr1において、第1予備シート10と第2予備シート12とが交互に配置されている。
【0057】
次に、カットラインCLに沿って、予備合体シートPr1が切断される(図4の符号CLを参照)。このカットラインCLにおいては、第1予備シート10又は第2予備シート12とベースシート14とが同時に切断される。即ち、重ねられた2枚のシートが同時に切断される。よって、第1予備シート10又は第2予備シート12とベースシート14とをそれぞれ別個に裁断する場合と比較して、裁断の作業が簡略化される。また、第1予備シート10又は第2予備シート12とベースシート14とが重なった状態で切断がなされるので、この切断面において、第1予備シート10又は第2予備シート12とベースシート14との間に、ズレが存在しない。
【0058】
カットラインCLに沿った切断の結果、合体シートbt5(合体シートbt8、合体シートbt11)が作られる(図4参照)。一本のカットラインCLが、第1の合体シートbt5の1辺を形成し、且つ、第2の合体シートbt5の一辺を形成する。よって、裁断の手間が省略されている。
【0059】
図4において符号k1で示されるのは、第1予備シート10と第2予備シート12との境界線である。第1のカットラインCL1と、このラインCL1に隣接する第2のカットラインCL2とは、互いに、境界線k1に関して対称である。
【0060】
図4が示すように、第1予備シート10は、一本の直線L1に沿って裁断されることによって2枚の上記第1バイアスシートt6(t9、t12)が生じるように構成されている。また、第2予備シート12は、一本の直線L2に沿って裁断されることによって2枚の上記第2バイアスシートt5(t8、t11)が生じるように構成されている。裁断ラインCL1が上記直線L1に一致している。裁断ラインCL2が、上記直線L2に一致している。
【0061】
図4が示すように、本実施形態では、予備合体シートPr1をN回切断することによって、(N−1)枚の合体シートbt5が切り出される。ただし、Nは2以上の整数である。例えば、予備合体シートPr1を5回切断することによって、4枚の合体シートbt5が切り出される。本実施形態では、一回の切断が、第1の合体シートbt5の切断及び第2の合体シートbt5の切断に関与している。本実施形態では、裁断の手間が省略されている。
【0062】
このような製造方法により、生産性が向上し、プリプレグ原料の無駄が抑制される。
【0063】
以下に、このシャフト6の製造工程の概略が説明される。
【0064】
(1)第1裁断工程
第1裁断工程では、プリプレグシートが所望の形状に裁断される。この工程により、シートt1、シートt2、シートt3、シートt4、シートt14、シートt15、シートt16及びシートt17が、図2に示される形状とされる。
【0065】
また、この第1裁断工程により、第1予備シート10、第2予備シート12及びベースシート14が得られる。即ちこの第1裁断工程は、シャフト6の長手方向に対する繊維の配向角度がθ1となる第1予備シート10を得る工程、シャフト6の長手方向に対する繊維の配向角度がθ2となる第2予備シート12を得る工程、及び、シャフトの長手方向に対する繊維の配向角度がθ3となるベースシート14を得る工程を含む。
【0066】
なお、裁断は、裁断機によりなされてもよいし、カッターナイフ等により手作業でなされてもよい。
【0067】
(2)貼り合わせ工程
貼り合わせ工程では、バイアス層用のシート同士が貼り合わせられる。即ち、シートt3とシートt4とが貼り合わせられる。なお、このバイアス層同士の貼り合わせは、なされなくてもよい。
【0068】
また、この貼り合わせ工程は、少なくとも1枚の上記第1予備シート10と少なくとも1枚の上記第2予備シート12とを並べて、一枚の上記ベースシート14に貼り合わせる工程を含む。この工程により、上記予備合体シートPr1が得られる。この工程の詳細は、前述した通りである。
【0069】
貼り合わせ工程では、加熱又はプレスが用いられてもよい。好ましくは、加熱とプレスとが併用される。後述する巻回工程において、合体シートの巻き付け作業中に、シートのズレが生じうる。このズレは、巻き付け精度を低下させる。加熱及びプレスは、シート間の接着力を向上させる。加熱及びプレスは、巻回工程におけるシート間のズレを抑制する。
【0070】
シート同士の接着力を高める観点から、貼り合わせ工程における加熱温度は、30℃以上が好ましく、35℃以上がより好ましい。この加熱温度が高すぎる場合、マトリクス樹脂の硬化が進行し、シートの粘着性が低下することがある。この粘着性の低下は、合体シートと巻回対象物との接着性を低下させる。この接着性の低下は、皺の発生を許容することがあり、巻き付け位置のズレを生じさせうる。この観点から、貼り合わせ工程における加熱温度は、60℃以下が好ましく、50℃以下がより好ましく、40℃以下がより好ましい。
【0071】
シート同士の接着力を高める観点から、貼り合わせ工程における加熱時間は、20秒以上が好ましく、30秒以上がより好ましい。シートの粘着性の観点から、貼り合わせ工程における加熱時間は、120秒以下が好ましく、100秒以下がより好ましい。
【0072】
シート同士の接着力を高める観点から、貼り合わせ工程におけるプレスの圧力は、300g/cm2以上が好ましく、350g/cm2以上がより好ましい。プレスの圧力が過大である場合、プリプレグが押し潰される場合がある。この場合、プリプレグの厚みが設計値よりも薄くなる。プリプレグの厚み精度の観点から、貼り合わせ工程におけるプレスの圧力は、600g/cm2以下が好ましく、500g/cm2以下がより好ましい。
【0073】
シート同士の接着力を高める観点から、貼り合わせ工程におけるプレスの時間は、20秒以上が好ましく、30秒以上がより好ましい。プリプレグの厚み精度の観点から、貼り合わせ工程におけるプレスの時間は、120秒以下が好ましく、100秒以下がより好ましい。
【0074】
(3)第2裁断工程
この第2裁断工程では、予備合体シートPr1が裁断される。この裁断により、合体シートbt5(合体シートbt8、合体シートbt11)が得られる。この裁断は、カットラインCLに沿ってなされる。この裁断工程の詳細は、前述した通りである。
【0075】
(4)巻回工程
巻回工程では、裁断されたシートがマンドレルに巻回される。貼り合わされたシートに関しては、合体シートが巻回される。図2に示す本実施形態では、先ずシートt1が巻回され、次にシートt2が巻回され、次にシートt3とシートt4とが貼り合わされてなるシートが巻回され、次に合体シートbt5が巻回され、次に合体シートbt8が巻回され、次に合体シートbt11が巻回され、次にシートt14が巻回され、次にシートt15が巻回され、次にシートt16が巻回され、最後にシートt17が巻回される。
【0076】
この巻回工程により、巻回体が得られる。この巻回体は、マンドレルの外側にプリプレグシートが巻き付けられてなる。巻回は、例えば、平面上で巻回対象物を転がすことによりなされる。この巻回は、手作業によりなされてもよいし、ローリングマシン等と称される機械によりなされてもよい。
【0077】
(5)テープラッピング工程
テープラッピング工程では、上記巻回体の外周面にテープが巻き付けられる。このテープは、ラッピングテープとも称される。このラッピングテープは、張力を付与されつつ巻き付けられる。
【0078】
(6)硬化工程
硬化工程では、テープラッピングがなされた後の巻回体が加熱される。この加熱により、マトリクス樹脂が硬化する。この硬化の課程で、マトリクス樹脂が一時的に流動化する。このマトリクス樹脂の流動化により、シート間又はシート内の空気が排出されうる。ラッピングテープの張力(締め付け力)により、この空気の排出が促進されている。この硬化により、硬化積層体が得られる。
【0079】
(7)マンドレルの引き抜き工程及びラッピングテープの除去工程
マンドレルの引き抜き工程とラッピングテープの除去工程とがなされる。両者の順序は限定されないが、ラッピングテープの除去工程の能率を向上させる観点から、マンドレルの引き抜き工程の後にラッピングテープの除去工程がなされるのが好ましい。
【0080】
(8)両端カット工程
この工程では、硬化積層体の両端部がカットされる。このカットにより、シャフトのチップTp及びバットBtが形成される。このカットにより、チップTpの端面及びバットBtの端面が平坦とされる。
【0081】
(9)研磨工程
この工程では、硬化積層体の表面が研磨される。硬化積層体の表面には、ラッピングテープの跡として残された螺旋状の凹凸が存在する。研磨により、このラッピングテープの跡としての凹凸が消滅し、表面が平滑とされる。
【0082】
(10)塗装工程
研磨工程後の硬化積層体に塗装が施される。
【0083】
以上が、シャフト6の製造工程の概略である。このように、シャフト6の製造では、マンドレルが必要とされる。このマンドレルの断面は、円形である。好ましくは、このマンドレルの外面は、テーパー面を有している。好ましくは、マンドレルの表面に、離型剤が塗布される。
【0084】
シートt14からなる層及びシートt15からなる層は、ベースシート14からなる層の半径方向外側に位置するカバー層である。これらのカバー層は、ベースシート14からなる層を研磨から保護する。
【0085】
以上の第1実施形態においては、ベースシート14は、フープ層用のシートとなる。即ち、上記第1実施形態において、角度θ3が実質的に90°とされた。他の好ましい形態では、角度θ3が実質的に0°である。角度θ3が実質的に0°である一例が、以下の第2実施形態である。
【0086】
図5は、第2実施形態に係るプリプレグシートの展開図(シート構成図)である。この実施形態のシャフトは、s1からs17までの17枚のシートにより構成されている。
【0087】
本第2実施形態において、ストレートシートは、シートs1、シートs2、シートs7、シートs10、シートs13、シートs14、シートs15、シートs16及びシートs17である。本実施形態では、ベースシート16が、ストレートシートとなる。
【0088】
図5の実施形態では、合体シートbs5が用いられる。図6は、合体シートbs5を示す図である。合体シートbs5は、シートs7に、シートs5及びシートs6が貼り合わされてなる。図6が示すように、シートs5とシートs6とは、隙間無く並んでいる。シートs7の輪郭形状は、シートs5とシートs6とを並べて形成される輪郭形状に一致している。なお図5では、合体シートbs5を構成する3枚のシートが分離されて示されている。
【0089】
図5の実施形態では、合体シートbs8が用いられる。図6は、合体シートbs8を示す図でもある。合体シートbs8は、シートs10に、シートs8及びシートs9が貼り合わされてなる。図6が示すように、シートs8とシートs9とは、隙間無く並んでいる。シートs10の輪郭形状は、シートs8とシートs9とを並べて形成される輪郭形状に一致している。なお図5では、合体シートbs8を構成する3枚のシートが分離されて示されている。
【0090】
図5の実施形態では、合体シートbs11が用いられる。図6は、合体シートbs11を示す図でもある。合体シートbs11は、シートs13に、シートs11及びシートs12が貼り合わされてなる。図6が示すように、シートs11とシートs12とは、隙間無く並んでいる。シートs13の輪郭形状は、シートs11とシートs12とを並べて形成される輪郭形状に一致している。なお図5では、合体シートbs11を構成する3枚のシートが分離されて示されている。
【0091】
図7は、合体シートbs5の製造方法を説明するための図である。合体シートbs5の製造では、先ず、第1予備シート10及び第2予備シート12が製造される。第1予備シート10は、原料のプリプレグシートを裁断することにより得られる。第2予備シート12は、原料のプリプレグシートを裁断することにより得られる。
【0092】
本実施形態では、第1予備シート10は長方形である。本実施形態では、第2予備シート12は長方形である。第1予備シート10の形状と第2予備シート12の形状とは、実質的に合同である。
【0093】
第1予備シート10は、シャフトの長手方向に対する繊維の配向角度がθ1となるように、作られる。本実施形態では、シャフトの長手方向は、第1予備シート10の長方形の長辺の方向とほぼ一致している。よって、第1予備シート10では、長方形の長辺に対する繊維の配向角度が、θ1である。
【0094】
第2予備シート12は、シャフトの長手方向に対する繊維の配向角度がθ2となるように、作られる。本実施形態では、シャフトの長手方向は、第2予備シート12の長方形の長辺の方向とほぼ一致している。よって、第2予備シート12では、長方形の長辺に対する繊維の配向角度が、θ2である。
【0095】
本実施形態では、第1予備シート10の繊維の配向と、第2予備シート12の繊維の配向とが、互いに逆向きである。即ち、上記角度θ1が実質的に+θa°であり、上記角度θ2が実質的に−θa°である。なお、巻き付けの差異の誤差等に起因して、上記+θa°の絶対値と、上記−θa°の絶対値とは、必ずしも、正確に一致しない。上記+θaの絶対値と、上記−θaの絶対値との間には、5%程度の誤差が生じうる。
【0096】
ベースシート16は、シャフトの長手方向に対する繊維の配向角度がθ3となるように、作られる。本実施形態では、ベースシート16は、長方形である。
【0097】
本実施形態では、ベースシート16における上記角度θ3が、0°である。ベースシート16は、原料となるプリプレグを裁断することによって得られうる。
【0098】
本実施形態では、第1予備シート10の長手方向幅W1と、第2予備シート12の長手方向幅W2とが一致している。更に、ベースシート16の幅W4が、幅W1及び幅W2に一致している。
【0099】
次に、ベースシート16に、第1予備シート10及び第2予備シート12を貼り合わせて、予備合体シートPr2を得る(図7参照)。この予備合体シートPr2では、一枚のベースシート16に対して、少なくとも1枚の第1予備シート10と、少なくとも1枚の第2予備シート12とが貼り合わされる。本実施形態では、一枚のベースシート16に対して、2枚以上(3枚)の第1予備シート10と、2枚以上(3枚)の第2予備シート12とが貼り合わされている。
【0100】
この予備合体シートPr2では、第1予備シート10と第2予備シート12とが、隙間無く並べられている。そして、1枚の予備合体シートPr2において、第1予備シート10と第2予備シート12とが交互に配置されている。
【0101】
次に、カットラインCLに沿って、予備合体シートPr2が切断される(図7の符号CLを参照)。このカットラインCLにおいては、第1予備シート10又は第2予備シート12とベースシート16とが同時に切断される。よって、第1予備シート10又は第2予備シート12とベースシート16とをそれぞれ別個に裁断する場合と比較して、裁断の作業が簡略化される。また、第1予備シート10又は第2予備シート12とベースシート16とが重なった状態で切断がなされるので、この切断面において、第1予備シート10又は第2予備シート12とベースシート16との間に、ズレが生じない。
【0102】
カットラインCLに沿った切断の結果、合体シートbs5(合体シートbs8、合体シートbs11)が作られる(図7参照)。一本のカットラインCLが、第1の合体シートbs5の1辺を形成し、且つ、第2の合体シートbs5の一辺を形成する。
【0103】
図7において符号k1で示されるのは、第1予備シート10と第2予備シート12との境界線である。第1のカットラインCL1と、このラインCL1に隣接する第2のカットラインCL2とは、互いに、境界線k1に関して対称である。
【0104】
図7が示すように、第1予備シート10は、一本の直線L1に沿って裁断されることによって2枚の上記第1バイアスシートs6(s9、s12)が生じるように構成されている。また、第2予備シート12は、一本の直線L2に沿って裁断されることによって2枚の上記第2バイアスシートs5(s8、s11)が生じるように構成されている。裁断ラインCL1が上記直線L1に一致している。裁断ラインCL2が、上記直線L2に一致している。このような製造方法により、生産性が向上し、プリプレグ原料の無駄が抑制される。
【0105】
シートs14からなる層及びシートs15からなる層は、ベースシート16からなる層の半径方向外側に位置するカバー層である。これらのカバー層は、ベースシート14からなる層を研磨から保護する。
【0106】
図8は、第3実施形態に係るプリプレグシートの展開図(シート構成図)である。この実施形態のシャフトは、g1からg17までの17枚のシートにより構成されている。
【0107】
図8で示される第3実施形態は、シャフト全長よりも短い合体シートbg11が存在する点で、図2で示される第1実施形態と相違する。その点を除き、この第3実施形態は、上記第1実施形態と同じである。この合体シートbg11の製造方法は、前述した合体シートbt5と同じである。このように、合体シートbg11は、シャフト全長よりも短くてもよい。
【0108】
上記合体シートbg11は、シャフトの後端部に位置している。即ち合体シートbg11の後端は、シャフトのバットBtに位置する。
【0109】
合体シートbg11のような、シャフト全長よりも短い上記合体シートは、部分的合体シートとも称される。部分的合体シートは、シャフトの後端部に位置していてもよいし、シャフトの先端部に位置していてもよい。部分的合体シートが用いられる場合、その配置は、限定されない。
【0110】
上記合体シートbg11のような、シャフトの後端部に位置する部分的合体シートは、グリップを介して、ゴルファーに握られる。シャフトの後端部の特性は、ゴルファーの感覚に影響を与えやすい。シャフトの後端部に位置する部分的合体シートは、次の(1)及び(2)を同時に達成しうる点で好ましい。
(1)グリップされる部分に設けられているため、捻れ剛性が高いという感覚をゴルファーに与えやすい。
(2)長さが短いため、シャフトの軽量化に寄与する。
【0111】
捻れ剛性の付与又は異方性の付与の観点から、上記角度θ1(degree)の絶対値は、25以上が好ましく、70以下が好ましい。捻れ剛性の観点からは、上記角度θ1(degree)の絶対値は、30以上が好ましく、40以上がより好ましい。異方性の観点からは、上記角度θ1(degree)の絶対値は、45以下が好ましく、40以下がより好ましい。
【0112】
捻れ剛性の付与又は異方性の付与の観点から、上記角度θ2(degree)の絶対値は、25以上が好ましく、70以下が好ましい。捻れ剛性の観点からは、上記角度θ2(degree)の絶対値は、30以上が好ましく、40以上がより好ましい。異方性の観点からは、上記角度θ2(degree)の絶対値は、45以下が好ましく、40以下がより好ましい。
【0113】
合体シートは、シートが重ねられているため、厚い傾向にある。厚いシートは、巻き付けにくい。合体シートの巻き付けの容易性の観点からは、上記角度θ3は、実質的の0°であるのが好ましい。即ち上記角度θ3は、0°±10°であるのが好ましい。
【0114】
シャフトの潰れ剛性及び潰れ強度の観点からは、上記角度θ3は、実質的に90°であるのが好ましい。即ち上記角度θ3は、90°±10°であるのが好ましい。
【0115】
繊維の配向角度が実質的に90°である場合、繊維の剛性に起因して、巻き付けが行いにくい。合体シートであって上記角度θ3が実質的に90°である場合、厚みの効果と繊維の剛性とにより、巻き付けが行いにくい。
【0116】
巻き付けを容易とする観点から、上記角度θ3が実質的に90°である場合、上記ベースシートの繊維含有率は、70質量%以下であるのが好ましく、65質量%以下であるのがより好ましく、60質量%以下であるのが更に好ましい。軽量化の観点から、上記ベースシートの繊維含有率は、50質量%以上が好ましい。この繊維含有率はプリプレグメーカーが公表している。
【0117】
貼り合わせの容易性の観点から、上記ベースシートの繊維含有率は、80質量%以下であるのが好ましく、76質量%以下であるのがより好ましい。
【0118】
巻回工程において、合体シートが巻き付けられる。この巻き付けを容易とする観点から、上記角度θ3が実質的に90°である場合、上記ベースシートの繊維含有率は、70質量%以下であるのが好ましく、65質量%以下であるのがより好ましく、60質量%以下であるのがより好ましい。
【0119】
巻回工程において、合体シートが巻き付けられる。この巻き付けを容易とする観点から、上記角度θ3が実質的に90°である場合、上記ベースシートに含まれる繊維の引張弾性率は、30t/mm2以下であるのが好ましく、24t/mm2以下であるのがより好ましい。炭素繊維の製造の容易性の観点から、PAN系炭素繊維では、この繊維の引張弾性率は、23.5t/mm2以上であるのが好ましい。この引張弾性率はプリプレグメーカーが公表している。
【0120】
シャフト強度の観点から、上記ベースシートに用いられている炭素繊維は、PAN系炭素繊維であるのが好ましい。
【0121】
巻回工程において、合体シートが巻き付けられる。この巻き付けを容易とする観点から、上記角度θ3が実質的に90°である場合、上記ベースシートの厚みは、0.05mm以下であるのが好ましく、0.04mm以下であるのがより好ましい。プリプレグの製造の容易性の観点から、上記ベースシートの厚みは、0.02mm以上が好ましく、0.03mm以上がより好ましい。
【0122】
生産性の観点から、上記予備合体シートにおいて、上記第1予備シートと上記第2予備シートとが実質的に隙間無く並べられているのが好ましい。
【0123】
好ましくは、上記第1予備シートが長方形であり、且つ、上記第2予備シートが長方形である。長方形であるシートは並べやすい。長方形のシートは、隙間無く並べるのに適している。長方形のシートは、作業性を向上させうる。
【0124】
より好ましくは、上記第2予備シートは、上記第1予備シートと実質的に合同な長方形である。この構成は、前述された実施形態のように、高い生産性を実現しうる。この構成により、カッティングの手間が減少し、生産性が更に向上しうる。
【0125】
好ましくは、上記角度θ1と上記角度θ2とは、互いに逆向きの傾斜である。より好ましくは、上記角度θ1が実質的に+θa°であり、上記角度θ2が実質的に−θa°である。この構成は、シャフトの捻れ剛性又は異方性に寄与する。
【0126】
好ましくは、上記合体シートを巻回する工程において、上記ベースシートが外側とされ、上記第1バイアスシート及び上記第2バイアスシートが内側とされる。合体シートの巻き付け中に、上記第1バイアスシートと上記第2バイアスシートとの境界k1において、剥がれが生じうる。上記第1バイアスシート及び上記第2バイアスシートが内側とされることにより、この剥がれが抑制される。またこの巻回の結果、上記ベースシートが外側に配置され、上記第1バイアスシート及び上記第2バイアスシートが内側に配置される。よって、上記第1バイアスシート及び上記第2バイアスシートが、上記ベースシートによって保護される。この外側のベースシートは、上記第1バイアスシート及び上記第2バイアスシートを研磨から保護しうる。この保護は、研磨に起因する捻れ剛性のバラツキを抑制する。また、この保護は、研磨に起因する異方性のバラツキを抑制する。
【0127】
好ましくは、上記ベースシートからなる層の半径方向外側に位置するカバー層が存在する。このカバー層は、ベースシートを研磨から保護しうる。この保護は、シャフト特性のバラツキを抑制しうる。
【0128】
異方性を付与する場合、第1バイアスシートからなる層が、あらゆるシャフト軸方向位置において約0.5プライであり、且つ、第2バイアスシートからなる層が、あらゆるシャフト軸方向位置において約0.5プライであるのが好ましい。この場合、下記の構成Aを有するシャフトが容易に製造されうる。前述した特開平11−76480号に記載されているように、異方性を発現するのに適した構成の一例は、次の構成Aである。
(構成A)周方向位置が0°から180°までである第1のバイアス層と、周方向位置が180°から360°までである第2のバイアス層とが存在し、上記第1のバイアス層の繊維の配向角度と上記第2のバイアス層の繊維の配向角度とが逆向きである。
【0129】
異方性とは、撓み(曲げ)と連動して捻れが生ずる性質である。この異方性は、例えば、スライスやフックの矯正に有効である。上記実施形態は、異方性を有するシャフトの生産に適している。
【0130】
異方性の度合いは、曲げ捻れ量によって示されうる。本実施形態により、例えば、曲げ捻れ量が1°以上、更には、2°以上のシャフトが容易に製造されうる。
【0131】
なお、曲げ捻れ量の測定方法は、次の通りである。
【0132】
[曲げ捻れ量の測定]
図9及び図10は、この曲げ捻れ量の測定方法を説明するための図である。図9は測定の様子を示す側面図であり、図10は、シャフト6のチップTp側からみた正面図である。図10の上側(実線)は錘52を吊り下げる前の状態であり、図10の下側(2点鎖線)は錘52を吊り下げた後の状態である。
【0133】
この曲げ捻れ量の測定では、シャフトの後端部を固定する治具100と、真っ直ぐな棒50と、錘52とが用意される。
【0134】
この曲げ捻れ量の測定では、先ず、シャフト6の後端部が固定される。固定される範囲は、シャフト後端Btから150mmまでの範囲である(図9参照)。次に、シャフト6の周方向の特定位置に、棒50が固定される。この棒50は、シャフト6の周方向における最も上側に固定される(図10参照)。この固定は、例えば接着剤によりなされる。錘52を吊り下げる前の状態において、この棒50は水平とされる(図10参照)。棒50は、シャフト先端Tpから25mm隔てた地点に固定される(図9参照)。
【0135】
次に、錘52が吊り下げられる。撓み量が600mmとなるように、錘52の重量が調整される。この撓み量とは、棒50の鉛直方向における移動距離である(図9及び図10参照)。錘52の位置(荷重点)は、シャフト先端Tpから50mm隔てた地点である(図9参照)。錘52の荷重により、シャフト6が撓る。このシャフト6が撓った状態で静止させ、棒50の傾斜角度θtを読み取る(図10参照)。この傾斜角度θtの最大値が、曲げ捻れ量である。読み取りの精度の観点から、棒50は比較的長いほうがよく、例えば140mmとされる(図10参照)。
【0136】
曲げ捻れ量の決定では、捻れの方向が考慮される。図9の測定において、シャフト6をグリップ側(シャフト後端Bt側)から見たとき、錘52による撓みに起因して、シャフト6は、右周り又は左周りに捻れる。グリップ側(シャフト後端Bt側)から見たとき、錘52による撓みに起因してシャフト6が左周りに捻れる場合に、捻れ角度θtがプラスとされる。逆に、グリップ側(シャフト後端Bt側)から見たとき、錘52による撓みに起因して、シャフト6が右周りに捻れる場合に、捻れ角度θtがマイナスとされる。図10は、シャフト6をヘッド側から見ているので、捻れ角度θtがマイナスである場合を示している。捻れ角度θtの最大値が、曲げ捻れ量である。
【0137】
撓みは、あらゆる方向において実施される。撓みの方向によって、傾斜角度θtは相違しうる。例えば、周方向位置Aを上側として測定された傾斜角度θtと、周方向位置Bを上側として測定された傾斜角度θtとは相違しうる。あらゆる方向において上記角度θtが測定され、それらの角度θtの最大値が、曲げ捻れ量である。
【0138】
曲げ捻れ量の決定では、捻れの方向が考慮される。図9の測定において、シャフト6をグリップ側(バットBt側)から見たとき、錘52による撓みに起因して、シャフト6は、右周り又は左周りに捻れる。グリップ側(バットBt側)から見たとき、錘52による撓みに起因してシャフト6が左周りに捻れる場合に、捻れ角度θtがプラスとされる。逆に、グリップ側(バットBt側)から見たとき、錘52による撓みに起因して、シャフト6が右周りに捻れる場合に、捻れ角度θtがマイナスとされる。図10は、シャフト6をヘッド側から見ているので、捻れ角度θtがマイナスである場合を示している。捻れ角度θtの最大値が、曲げ捻れ量である。
【0139】
プリプレグシートのマトリクス樹脂としては、エポキシ樹脂の他、エポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂等も用いられ得る。シャフト強度の観点から、マトリクス樹脂は、エポキシ樹脂が好ましい。
【実施例】
【0140】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0141】
[実施例1]
図2で示されるシート構成を有するシャフトが作製された。製造方法は、上記第1実施形態と同じとされた。各シートに用いられたプリプレグの品種が、下記の表1に示される。
【0142】
なお、貼り合わせ工程では、加熱及びプレスが同時になされた。この条件は、温度が30〜40℃とされ、圧力が350〜450(g/cm2)とされ、時間が30秒以上60秒以下とされた。
【0143】
この結果、生産性が高く且つ巻回の精度に優れたシャフトが得られた。このシャフトは異方性を有していた。このシャフトの曲げ捻れ量は、2.1°であった。
【0144】
[実施例2]
図5で示されるシート構成を有するシャフトが作製された。製造方法は、上記第2実施形態と同じとされた。各シートに用いられたプリプレグの品種が、下記の表2に示される。
【0145】
なお、貼り合わせ工程では、加熱及びプレスが同時になされた。この条件は、温度が30〜40℃とされ、圧力が350〜450(g/cm2)とされ、時間が30秒以上60秒以下とされた。
【0146】
この結果、生産性が高く且つ巻回の精度に優れたシャフトが得られた。このシャフトは異方性を有していた。このシャフトの曲げ捻れ量は、1.7°であった。
【0147】
【表1】
【0148】
【表2】
【0149】
[比較例]
上記実施例1と同じ積層構成を有するシャフトを作製した。合体シートの作製方法を除き、実施例1と同様にして、比較例のシャフトを得た。
【0150】
図11は、比較例における合体シートb20の製造方法を説明するための図である。合体シートb20自体は、前述した合体シートbt5等と同じである。
【0151】
図11が示すように、この製造方法では、裁断により、シート20a、シート22a及びシート24aを得る。プリプレグ20の裁断により、シート20aが得られる。プリプレグ22の裁断により、シート22aが得られる。プリプレグ24の裁断により、シート24aが得られる。
【0152】
次に、シート24aに、シート20a及びシート22aが貼り合わせられる。このとき、シート20aとシート22aとは隙間無く並べられる。この貼り合わせにより、合体シートb20が得られる。この合体シートb20では、実施例の合体シートと比較して、多くのズレが発生した。また、合体シートの生産性は、実施例が、比較例よりも、良好であった。
【0153】
なお、下記の表3は、本発明で用いられ得るプリプレグシートの例である。
【0154】
【表3】
【0155】
この表3に記載されていないプリプレグシートも、用いられ得る。プリプレグシート以外の材料が、併用されてもよい。この材料として、編まれた繊維及び金属箔が例示される。
【産業上の利用可能性】
【0156】
以上説明された方法は、ゴルフクラブシャフトの製造に適用されうる。
【符号の説明】
【0157】
2・・・ゴルフクラブ
4・・・ヘッド
6・・・シャフト
8・・・グリップ
9・・・フェラル
t1、t2、t3、t4、t5、t6、t7、t8、t9、t10、t11、t12、t13、t14、t15、t16、t17・・・裁断されたプリプレグシート
t6、t9、t12・・・第1バイアスシート
t5、t8、t11・・・第2バイアスシート
bt5、bt8、bt11・・・合体シート
s1、s2、s3、s4、s5、s6、s7、s8、s9、s10、s11、s12、s13、s14、s15、s16、s17 ・・・ 裁断されたプリプレグシート
s6、s9、s12・・・第1バイアスシート
s5、s8、s11・・・第2バイアスシート
bs5、bs8、bs11・・・合体シート
10・・・第1予備シート
12・・・第2予備シート
14・・・ベースシート
16・・・ベースシート
Pr1・・・予備合体シート
Pr2・・・予備合体シート
CL・・・カットライン
Tp・・・シャフトのチップ
Bt・・・シャフトのバット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトの長手方向に対する繊維の配向角度がθ1となる第1予備シートを得る工程と、
シャフトの長手方向に対する繊維の配向角度がθ2となる第2予備シートを得る工程と、
シャフトの長手方向に対する繊維の配向角度がθ3となるベースシートを得る工程と、
少なくとも1枚の上記第1予備シートと少なくとも1枚の上記第2予備シートとを並べて、一枚の上記ベースシートに貼り合わせることにより、予備合体シートを得る工程と、
上記予備合体シートを裁断して合体シートを得る工程と、
上記合体シートを巻回する工程と、
を含み、
上記角度θ1は、上記θ2とは異なり、
上記角度θ3は、上記角度θ1とは異なり且つ上記θ2とは異なり、
上記合体シートが、上記第1予備シートの一部である第1バイアスシートと、上記第2予備シートの一部である第2バイアスシートとを含むゴルフクラブシャフトの製造方法。
【請求項2】
上記予備合体シートにおいて、上記第1予備シートと上記第2予備シートとが実質的に隙間無く並べられている請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
上記第1予備シートが長方形であり、
上記第2予備シートが、上記第1予備シートと実質的に合同な長方形である請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
長方形の上記第1予備シートは、一本の直線L1に沿って裁断されることによって2枚の上記第1バイアスシートが生じるように構成され、
長方形の上記第2予備シートは、一本の直線L2に沿って裁断されることによって2枚の上記第2バイアスシートが生じるように構成され、
上記合体シートを得る工程における裁断ラインCL1が、上記直線L1に一致しており、
上記合体シートを得る工程における裁断ラインCL2が、上記直線L2に一致している請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
上記角度θ1が、実質的に+θa°であり、上記角度θ2が、実質的に−θa°である請求項1から4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
上記角度θ3が、実質的に0°であるか、又は、実質的に90°である請求項1から5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
上記合体シートを巻回する工程において、上記ベースシートが外側とされ、上記第1バイアスシート及び上記第2バイアスシートが内側とされる請求項1から6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
上記ベースシートの上記角度θ3が実質的に90°であり、
このベースシートからなる層の半径方向外側に位置するカバー層が存在する請求項6に記載の製造方法。
【請求項9】
第1バイアスシートからなる層が、あらゆるシャフト軸方向位置において、約0.5プライであり、
第2バイアスシートからなる層が、あらゆるシャフト軸方向位置において、約0.5プライである請求項1から7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項1】
シャフトの長手方向に対する繊維の配向角度がθ1となる第1予備シートを得る工程と、
シャフトの長手方向に対する繊維の配向角度がθ2となる第2予備シートを得る工程と、
シャフトの長手方向に対する繊維の配向角度がθ3となるベースシートを得る工程と、
少なくとも1枚の上記第1予備シートと少なくとも1枚の上記第2予備シートとを並べて、一枚の上記ベースシートに貼り合わせることにより、予備合体シートを得る工程と、
上記予備合体シートを裁断して合体シートを得る工程と、
上記合体シートを巻回する工程と、
を含み、
上記角度θ1は、上記θ2とは異なり、
上記角度θ3は、上記角度θ1とは異なり且つ上記θ2とは異なり、
上記合体シートが、上記第1予備シートの一部である第1バイアスシートと、上記第2予備シートの一部である第2バイアスシートとを含むゴルフクラブシャフトの製造方法。
【請求項2】
上記予備合体シートにおいて、上記第1予備シートと上記第2予備シートとが実質的に隙間無く並べられている請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
上記第1予備シートが長方形であり、
上記第2予備シートが、上記第1予備シートと実質的に合同な長方形である請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
長方形の上記第1予備シートは、一本の直線L1に沿って裁断されることによって2枚の上記第1バイアスシートが生じるように構成され、
長方形の上記第2予備シートは、一本の直線L2に沿って裁断されることによって2枚の上記第2バイアスシートが生じるように構成され、
上記合体シートを得る工程における裁断ラインCL1が、上記直線L1に一致しており、
上記合体シートを得る工程における裁断ラインCL2が、上記直線L2に一致している請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
上記角度θ1が、実質的に+θa°であり、上記角度θ2が、実質的に−θa°である請求項1から4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
上記角度θ3が、実質的に0°であるか、又は、実質的に90°である請求項1から5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
上記合体シートを巻回する工程において、上記ベースシートが外側とされ、上記第1バイアスシート及び上記第2バイアスシートが内側とされる請求項1から6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
上記ベースシートの上記角度θ3が実質的に90°であり、
このベースシートからなる層の半径方向外側に位置するカバー層が存在する請求項6に記載の製造方法。
【請求項9】
第1バイアスシートからなる層が、あらゆるシャフト軸方向位置において、約0.5プライであり、
第2バイアスシートからなる層が、あらゆるシャフト軸方向位置において、約0.5プライである請求項1から7のいずれかに記載の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−182950(P2011−182950A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−51374(P2010−51374)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【出願人】(504017809)SRIスポーツ株式会社 (701)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【出願人】(504017809)SRIスポーツ株式会社 (701)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]