ゴルフクラブシャフトの設計変数及び製造方法
【課題】設計時間ないし設計コストを低減する。
【解決手段】繊維強化樹脂からなるゴルフクラブシャフトを設計する方法であって、複数の設計変数が定義された有限個の要素を用いてゴルフクラブシャフトをモデル化することにより、コンピュータで数値計算が可能なシャフトモデルを得るステップと、前記ステップで設定されたシャフトモデルの性能を表す互いに異なる複数の目的関数をコンピュータを用いて計算するステップと、前記設計変数と前記目的関数との組合せを多数計算し、該設計変数と目的関数との関係を結びつける近似応答関数を生成するステップと、前記近似応答関数に基づいて前記目的関数を最適化する複数解を得るステップと、上記で得られた前記複数解の中からデータ包絡分析法を用いてパレート解を得るステップと、前記パレート解に基づいてゴルフクラブシャフトの前記各設計変数を設定するステップとを含むことを特徴とする。
【解決手段】繊維強化樹脂からなるゴルフクラブシャフトを設計する方法であって、複数の設計変数が定義された有限個の要素を用いてゴルフクラブシャフトをモデル化することにより、コンピュータで数値計算が可能なシャフトモデルを得るステップと、前記ステップで設定されたシャフトモデルの性能を表す互いに異なる複数の目的関数をコンピュータを用いて計算するステップと、前記設計変数と前記目的関数との組合せを多数計算し、該設計変数と目的関数との関係を結びつける近似応答関数を生成するステップと、前記近似応答関数に基づいて前記目的関数を最適化する複数解を得るステップと、上記で得られた前記複数解の中からデータ包絡分析法を用いてパレート解を得るステップと、前記パレート解に基づいてゴルフクラブシャフトの前記各設計変数を設定するステップとを含むことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピュータを用いてゴルフクラブシャフトの性能を最適化する際、多くの目的関数を有する場合であっても設計者が最適解を簡単に見つけることができ、ひいては設計時間ないし設計コストを低減するのに役立つゴルフクラブシャフトの設計方法及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータによる数値解析を利用してゴルフクラブシャフトを設計する方法が種々提案されている。
【0003】
例えば、下記特許文献1の方法は、有限要素法等で数値解析が可能かつシャフトの長さ方向において曲げ剛性の分布が異なる複数種類のシャフトモデルを設定するステップと、前記シャフトモデルを予め設定されたゴルファのスイングパターンに基づいて運動させるスイングシミュレーションを行って各シャフトモデルに依存したクラブモデルの運動状態(例えば、ヘッドスピードやブロー角など)を計算するステップと、前記スイングシミュレーションの結果から、前記運動状態が最適なゴルフクラブシャフトの曲げ剛性の分布などを探索するステップとを含むものである。
【0004】
また、下記特許文献2の方法では、ゴルフシャフトのマンドレルの形状、面状部材の選択、面状部材の種類、面状部材のマンドレルへの巻きつけ位置、及び面状部材の繊維配向角を入力することにより、製品ゴルフシャフトの曲げ剛性、ねじれ剛性を算出させ、簡単に繊維強化プラスチック製ゴルフシャフトの設計、または製造に必要な正確な情報を得るという作用効果を期待するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−8521号公報
【特許文献2】特開2001−104522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、繊維強化樹脂からなるゴルフクラブシャフトは、一方向に配向された繊維材を未硬化樹脂に含浸させたシート部材(以下、「プリプレグ」という。)が、マンドレルに複数枚巻き付けられ、これに熱処理を加えて樹脂を硬化させて製造される。従って、繊維強化樹脂のゴルフクラブシャフトを設計するためには、少なくとも上記繊維材の種類(これは、繊維材の密度、弾性率及びポアソン比などに影響する。)、シャフトの軸方向に対する繊維材の配向角度及びシャフトの内径という多くの設計変数を考慮する必要がある。
【0007】
従って、上記特許文献2のように、例えば、ある設計変数の組合せを用いたときの製品ゴルフシャフトの曲げ剛性及びねじれ剛性を計算して予測するだけでは、それが最適化されたものかを検討できない。また、種々の設計変数の組合せについて製品シャフトの特性を計算してた場合、計算結果の検討に多くの時間が必要となり、設計時間及び設計コストを十分に効率化することができないという問題がある。
【0008】
本発明は、以上のような問題点に鑑み案出なされたもので、有限個の要素を用いかつ設計変数が定義されたシャフトモデルを設定し、該シャフトモデルの複数の目的関数をコンピュータを用いて計算し、前記シャフトモデルに定義された設計変数と前記目的関数との関係を結びつける近似応答関数から目的関数を最適化する複数解を得るとともに、この複数解の中からデータ包絡分析法を用いてパレート解を得るステップを含ませることを基本として、設計者による解の取捨選択を容易化し、複数の最適解から目的に合った妥協解を短時間で見つけることができ、ひいては設計時間及び設計コストを十分に効率化させることが可能なゴルフクラブシャフトの設計方法及びそれを用いた製造方法を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のうち請求項1記載の発明は、繊維強化樹脂からなるゴルフクラブシャフトを設計する方法であって、有限個の要素を用いてゴルフクラブシャフトをモデル化することにより、コンピュータで数値計算が可能なシャフトモデルを得るステップと、前記シャフトモデルの設計変数を定義するステップと、前記ステップで設定されたシャフトモデルの性能を表す互いに異なる複数の目的関数をコンピュータを用いて計算するステップと、前記設計変数と前記目的関数との関係を結びつける近似応答関数を生成するステップと、前記近似応答関数に基づいて前記目的関数を最適化する複数の最適解を得るステップと、上記で得られた前記複数の最適解の中からデータ包絡分析法を用いてパレート解を得るステップと、前記パレート解に基づいてゴルフクラブシャフトの前記各設計変数を設定するステップとを含むことを特徴とする。
【0010】
また請求項2記載の発明は、前記設計変数は、シャフトモデルの内径、繊維強化樹脂の繊維種、繊維材の配向角度、強化樹脂を構成するプリプレグ形状、及びプリプレグの積層順の少なくとも一つを含む請求項1記載のゴルフクラブシャフトの設計方法である。
【0011】
また請求項3記載の発明は、前記目的関数は、前記シャフトモデルの強度、曲げ剛性、ねじれ剛性及び重量の中から選択される2以上を含む請求項1又は2記載のゴルフクラブシャフトの設計方法である。
【0012】
また請求項4記載の発明は、請求項1記載のゴルフクラブシャフトの設計方法を用いてゴルフクラブシャフトを製造することを特徴とするゴルフクラブシャフトの製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、設計変数が定義されたシャフトモデルから互いに異なる複数の目的関数がコンピュータを用いて計算される。そして、上記設計変数を異ならせ、該設計変数と目的関数との組合せを多数計算し、これらの関係を結びつける近似応答関数が生成され、該近似応答関数に基づいて前記目的関数を最適化する複数解が得られる。さらに、本発明では、ここで得られた前記複数の最適解の中からデータ包絡分析法を用いてパレート解が得られる。パレート解は、一種の妥協解であるが、このようなパレート解を得ることにより、設計者は自らの目的に合った最適な解を短時間で見つけることができる。以上より、本発明によれば、例えば繊維材の種類や配向角度など複数ある設計変数の組み合わせの中から、最適解を効率良く短時間で見つけることができる。従って、製品開発時の実験における試行錯誤の回数を大幅に減少させることができる。さらには、設計の自由度が高いゴルフクラブシャフトを最適化できるということで、ゴルファー一人一人に適した仕様を能率良くカスタマイズするのに役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態を示すフローチャートである。
【図2】(a)はシャフトモデルを視覚化した全体斜視図、(b)はその要部拡大図である。
【図3】シャフトモデルの内径を説明するグラフである。
【図4】ゴルフクラブシャフトの三点曲げ強度試験を説明する側面図である。
【図5】ゴルフクラブシャフトの順式フレックスを説明する側面図である。
【図6】ゴルフクラブシャフトの逆式フレックスを説明する側面図である。
【図7】ゴルフクラブシャフトのねじれ剛性を説明する側面図である。
【図8】近似応答関数を視覚化して例示するグラフである。
【図9】(a)はデータ包絡分析法を説明するブロック図、(b)はその一例を説明するグラフである。
【図10】ゴルフクラブシャフトを構成するプリプレグの展開図である。
【図11】(a)、(b)は設計変数と目的関数との関係を示すグラフである。
【図12】最適化による各目的関数の変化率を示すグラフである。
【図13】パレート解に占める各目的関数の寄与率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本実施形態では、強度に優れた繊維強化樹脂製のゴルフクラブシャフトを設計するために、シャフト径、繊維強化樹脂の繊維種及び繊維材の配向角度等の最適な組合せを短時間で設計する方法が説明される。ただし、本発明の設計方法では、このような具体的な例に限定されるものではなく、様々な目的の下、設計変数及び目的関数が変更されて実施され得るのは言うまでもない。
【0016】
図1には、本発明の実施形態の設計方法の処理手順の一例が示される。本実施形態のゴルフクラブシャフトの設計方法では、先ず、シャフトモデルが設定される(ステップS1)。
【0017】
図2(a)には、シャフトモデル2を視覚化した全体図を示し、図2(b)はその要部拡大図を示す。該シャフトモデル2は、全体として長尺なパイプ状をなし、有限個の要素eを用いて設定されている。各要素eには、それぞれ複数の材料物性等が定義され、全体としてゴルフクラブシャフトの動的特性ないし静的特性をコンピュータで数値計算が可能な解析モデル(メッシュモデルとも呼ばれる)を構成する。前記数値計算としては、例えば有限要素法を用いた変形計算が少なくとも含まれる。
【0018】
前記シャフトモデル2の長さLは、設計対象となるゴルフクラブシャフトに一致させるのが望ましい。慣例に従うものとして、前記長さLは、例えば35〜50インチ程度に設定される。本実施形態のシャフトモデル2の長さLは1195mmに設定される。
【0019】
また、シャフトモデル2は、例えば、その軸方向に数十から数千、かつ、周方向に数十から数百個程度に分割され、その各分割領域に前記要素eが割り当てられている。本実施形態において、各要素eは、いずれも同一形状とし、それぞれ4節点の矩形状の1枚の厚肉シェル要素が用いられている。
【0020】
前記厚肉シェル要素は、見かけ上は1枚の平面要素であるが、重なる複数の層が定義できる。この各層には、それぞれ個別に弾性率、ポアソン比及び強度異方性等が定義される。このような厚肉シェル要素は、少ない節点数で、繊維強化樹脂におけるプリプレグの積層構造を効率良く表現できる点で好ましい。
【0021】
本実施形態のシャフトモデル2は、一つの厚肉シェル要素の軸方向長さが1.25mm(軸方向に239分割)、その周方向の長さは中心角が10度(周方向に36分割)に定められているが、適宜変更しうるのは言うまでもない。また、要素eには、1枚の厚肉シェル要素以外にも、複数枚のシェル要素やソリッド要素が用いられても良い。これらのモデル化は、コンピュータとメッシュ化ソフトウエアなどを用いて容易に行うことができる。
【0022】
また、前記各要素eには、「形状」に関する特性及び「材料」に関する特性が予め定義される。形状に関する特性としては、例えば、厚肉シェル要素に内在する層数、形状、繊維材の配向角度、及び繊維材の開始位置などを含む。前記「層数」は、プリプレグの枚数に相当する。また、前記「繊維材の開始位置」が定義されるのは、例えばプリプレグが実際には三角形状である場合、必ずしも矩形状の要素と、その繊維の配向領域とが一致しないときに整合性を確保するためである。
【0023】
また、前記「材料」に関する特性としては、各要素eに内部定義された各々の層の密度、ポアソン比、コスト、厚さ、弾性率及び繊維材の配向角度によって決定される強度異方性等が含まれる。
【0024】
次に、シャフトモデル2に、設計変数が定義される(ステップS2)。設計変数は、シャフトモデル2の性能を変更するための候補となる変数を意味する。つまり、設計変数を変えることでシャフトモデル2の性能を変えることができる。この処理は、例えば、コンピュータに予め設計変数毎に許容範囲を定めておき、その中から任意に値が決定されて自動的に行われる。
【0025】
前記設計変数は、前記特性の中から選択されても良いし、前記特性を用いた包括的なパラメータとして決定されても良い。実用的な好ましい設計変数としては、例えばシャフトモデル2の内径、繊維強化樹脂の繊維種、各プリプレグの繊維材の配向角度、プリプレグの形状及び積層順の少なくとも一つ、好ましくは2以上、さらに好ましくは全部を含む。これらの設計変数は、ゴルフクラブシャフトの特性に大きな影響を与えるためである。
【0026】
上述の通り、繊維強化樹脂製のゴルフクラブシャフトは、シート状のプリプレグをマンドレル(鉄芯)に巻き付け、熱処理によってそのマトリックス樹脂を硬化させた後、マンドレルを脱芯することで製造される。従って、前記「シャフトモデルの内径」は、マンドレルの外径を定めることに等しい。また、シャフトモデル2の内径は、シャフトの強度、曲げ剛性及び重量等の性能に影響を与える重要な因子である。
【0027】
また、シャフトモデル2の内径は、実際には、軸方向に連続するパラメータである。従って、設計変数としてシャフトモデル2の内径を定義する場合には、例えば、図3に示されるように、離散的な変数として、複数の軸方向位置での内径(例えばD1ないしD5)が適宜決定される。そして、これらの各内径の区間は、テーパ状に連続するものとして定義することができる。
【0028】
また、シャフトモデル2の内径は、関数を用いてTIP端(ヘッド側の先端)からBUTT端(グリップ側の後端)まで連続的に定義されても良い。マンドレルの脱型を確保するために、例えばシャフトモデル2の内径は、BUTT端からTIP端に向かって漸減又は段階的に小さく形成されるように制約条件を課すことが有効である。
【0029】
前記繊維強化樹脂の繊維種は、炭素繊維、ガラス繊維又はアラミド等の樹脂繊維等の区別を意味する。繊維種は、それぞれ弾性率、密度及びポアソン比等に影響を与える。従って、シャフトモデル2の繊維種を設計変数に含ませることにより、シャフトの強度、曲げ剛性及び重量等の性能を変えることができる。
【0030】
前記繊維材の配向角度は、繊維の長手方向とシャフト軸方向とのなす角度を意味する。配向角度によって、シャフトモデル2の引張弾性率及びせん断弾性率が数倍ないし数100倍近く変化する。従って、繊維強化樹脂の繊維材の配向角度を設計変数に含ませることは重要である。
【0031】
次に、本実施形態では、前記シャフトモデル2の性能を表す互いに異なる複数の目的関数がコンピュータを用いて計算される(ステップS3)。
【0032】
前記目的関数としては、静的なものとして、例えばシャフトモデル2の強度、曲げ剛性、ねじれ剛性及び重量等を挙げることができる。とりわけ、これらの中から選択される少なくとも2以上、より好ましくは3以上、さらに好ましくは全てを含むことが望ましい。
【0033】
ただし、目的関数は、動的なものとして、例えば実際のスイング時の運動特性を含ませることができる。これには、例えば、インパクト時にシャフトに発生する最大応力、最大歪及び/又は各種強度則に基づいた強度値などを含むことができる。なお、目的関数は、特定の範囲、例えば〜以上及び/又は〜以下というように、制約条件を課して考慮することもできる。
【0034】
例えば、シャフトモデル2の強度、曲げ剛性、ねじれ剛性及び重量の4つの目的関数は、以下に説明されるよう、有限要素法又は積層理論を用いて計算される。
【0035】
本明細書において、シャフトの「強度」は、製品安全協会で定められているSG式三点曲げ強度試験に基づいて測定される強度を意味している。この試験では、図4に示されるように、2つの支持点t1、t2においてシャフトを下方から支持し、荷重点t3において上方から下方に向かって荷重Fが加えられる。荷重点t3の位置は、支持点t1、t2のスパンSを二等分する位置である。また、荷重点t3は、測定点に一致させて測定がなされる。
【0036】
また三点曲げ強度試験は、シャフトの強度をTIP側からBUTT側までの区間で予め定められたT点、A点、B点及びC点の4点について計算される。T点は、シャフトのヘッド側喘から90mmの位置とする。同様に、A及びB点は、それぞれシャフトのヘッド側喘から175mm及び525mmの位置とする。さらに、C点は、グリップ側の端から175mmの位置とする。なお、T点の測定時、上記スパンSは150mmに設定されるが、AないしC点の測定時には、上記スパンSは300mmに設定される。そして、シャフトが破損に至るときの荷重値が製品規格における「強度」として採用される。
【0037】
一方、「シャフトモデルの強度」は、本明細書では、便宜上、シャフトモデル2に一定荷重50Nを負荷して三点曲げ試験の有限要素法によるシミュレーション(変形計算)を行い、荷重点の要素及びその周方向に隣り合う要素全てに作用する応力及びひずみの破壊のパラメータが、プリプレグの破断許容値に対してどの程度達しているかという値で定義される。つまり、破壊のパラメータが、その許容値で除した百分率である「強度値」で表されている。なお、50Nという一定荷重値は、実際にシャフトが破壊される荷重と比べれば小さい。しかし、三点曲げ強度試験の際、シャフトの応力−ひずみ関係は線形関係にあるため、便宜的に上記の様に低荷重の際の強度値を採用しても何ら差し支えない。
【0038】
破壊の基準については、様々な種類がある。ある方向の応力やひずみに着目した「最大応力説」や「最大ひずみ説」、さらには多軸の応力場状態から表現した「Hill」、「Hoffman」、「Tsai−Wu」などである。本明細書において、破壊の基準については「最大応力説」が採用される。
【0039】
また、上記「曲げ剛性」、「ねじれ剛性」及び「重量」の各目的関数は、積層理論に基づいて計算される。即ち、シャフトモデル2の曲げ剛性、ねじれ剛性及び重量は、定義されたプリプレグの各種の引張弾性率、せん断弾性率、ポアソン比といった物性値、及び繊維材の配向角度、巻き付け位置、巻き付け枚数及びシャフトモデル2の内径等の形状に関するパラメータの値から材料力学ないし構造力学に基づいて計算される。
【0040】
前記曲げ剛性(フレックスとも称される。)は、シャフトのTIP側からBUTT側までの曲げ剛性EIの分布から決定されるシャフトの曲げ方向の硬さであり、順式フレックス又は逆式フレックスが知られている。
【0041】
順式フレックスは、図5に示されるように、シャフトのグリップ側の端2Bから75mm上点と、グリップ側の端2Bから215mmの下点との上下二点を支持点とし、グリップ側の端2Bから1039mmの位置に2.7kgf(26.48N)の荷重を負荷して測定したときのたわみ量を意味する。
【0042】
また、逆式フレックスは、図6に示されるように、シャフトのヘッド側の端2Tから12mm上点と、ヘッド側の端2Tから152mmの下点との上下二点を支持点とし、ヘッド側の端2Tから932mmの位置に1.3kgf(12.75N)の荷重を負荷して測定したときのたわみ量を意味する。
【0043】
一般的に、曲げ剛性が大きいシャフト(たわみ量が小さいシャフト)は、打撃時のシャフトの返り(戻り)が早くなるため、ヘッドスピードの遅いプレーヤーにはヘッドが返るタイミングが合わない。このため、ヘッドスピード及び飛距離を低下させる。一方、曲げ剛性が小さいシャフト(たわみ量が大きいシャフト)は、打撃時にヘッドの返りが遅く、フェースが下を向いた状態でインパクトを迎えやすい。このため、打ち出し角が小さくなり、飛距離を低下させる。従って、設計するゴルフクラブシャフトの対象ゴルファーに応じて、曲げ剛性の好ましい範囲が存在する。
【0044】
この曲げ剛性は、シャフトモデル2の各要素eに定義されたパラメータを用いて前記積層理論より計算できる。本実施形態において、シャフトモデル2の曲げ剛性は、順式フレックスと逆式フレックスとをそれぞれ古典的な積層理論から計算し、それらの和をある一定値となるように最適化を行った値として定義される。
【0045】
また、シャフトの「ねじれ剛性」は、図7に示されるように、シャフトのヘッド側の端2Tから40mmの位置を固定し、ヘッド側の端2Tから865mmの位置に13.9Nのトルクをかけたときのねじれ角で表される(トルクとも言われることがある。)。ねじれ剛性が大きいシャフトは、シャフト重量が大きく、振り抜き難いクラブとなる。一方、ねじれ剛性が小さいシャフトは、ヘッドが返り難くなるため、ねじれたままインパクトを迎えることになり、スライスなど打球方向性が悪くなる。従って、設計するゴルフクラブシャフトの対象ゴルファーに応じて、ねじれ剛性の好ましい範囲が存在する。このねじれ剛性も、シャフトモデル2の各要素eに定義されたパラメータを用いて、上記積層理論より計算することができる。
【0046】
本実施形態では、シャフトモデル2の重量は、プリプレグの密度×面積×厚さで計算される。一般的に、ヘッドスピードの向上のためには、重量を最小化することが望ましいと言える。
【0047】
次に、前記設計変数と前記目的関数との関係を結びつける近似応答関数がコンピュータにより生成される(ステップS4)。
【0048】
この近似応答関数の生成に先立ち、例えば複数の目的関数をスカラー化する処理が行われる。互いに独立した複数の目的関数を最適化するシャフトモデル2の設計変数を探索するためには、何らかの重み付け条件を与えないと評価を行うことができない。そこで、本実施形態では、重み係数を各目的関数の値に乗じて加算等することにより、複数の目的関数をスカラー化することが行われる。これにより、重視すべき目的関数を決定することができる。
【0049】
スカラー化を実現する具体的な方法については、特に限定されるものではないが、例えば線形結合(一般式は下式(1)参照)やチェビシェフ型(一般式は下式(2)参照)などを採用できる。
F=w1・f1+w2・f2+…+wr・fr …(1)
F=Max{w1・f1,w2・f2,…,wr・fr} …(2)
ただし、符号は次の通りである。
F:目的関数のスカラー値
fi:各目的関数の値を正規化したもの
wi:各目的関数に対する係数
【0050】
また、近似応答関数は、設計変数a1、a2…anと、目的関数のスカラー値Fとの間を、例えばニューラルネットワークを用いて関係付けるものである。図8には、一例として、2つの重み付け係数a1及びa2と、目的関数のスカラー値Fとを関係付ける三次元曲面からなる近似応答関数が例示される。
【0051】
近似応答関数は、具体的に設定されなかった設計変数a1及びa2の位置における解析結果(スカラー値F)を補間し、最適化の候補の予想を可能とする。従って、最適解を効率良くかつ短時間で探索するには、このような近似応答関数を生成することが特に重要である。近似応答関数は、慣例に従って、種々の方法で実現することができるが、例えば応答曲面法(RSM:Response Surface Methodology)、動径基底関数(RBF:Radial Basis Function)又はKriging法などが好適に用いられる。
【0052】
RSM、RBF、Krigingの順に近似精度は向上するが、計算コストがかかる手法となる。本実施形態のように「材料の種類」という離散的な設計変数が含まれているため、設計変数と目的関数との関係は非線形の強いものになる。また、プリプレグ毎の材料の種類や繊維材の配向角度を含むため、設計変数の数も多くなり計算コストがかかる。このような理由から、非線形性の強い関数を表現することができ、かつ、計算コストがそれほど大きくないRBFが好適である。
【0053】
前記RBFは、ニューラルネットワークの一種であり、ガウス関数を重ね合わせていくことで、表現される近似応答曲面である。入力(設計変数)と出力(目的関数)とが、非常に非線形の強い関係であっても精度良く表現することが可能である点で望ましい。また、RBFは、通常のニューラルネットワークとは異なり、バックプロパゲーションを必要としないため、近似関数を生成するための計算コストも小さく抑えることができる。
【0054】
次に、本実施形態では、生成された近似応答関数から複数の最適解がコンピュータにより探索される(ステップS5)。近似応答関数から最適解を探索する手法には、慣例に従い、例えば遺伝的アルゴリズム、勾配法又は焼きなまし法などが採用される。また、複数の最適解とは、例えばランク付けされた場合に、上位数十〜数百個の解を含むことができる。
【0055】
次に、探索された最適解が満足できるものか否かがコンピュータによって判断され(ステップS6)、それが真(ステップS6でY)の場合、ステップS7へと移る。他方、得られた最適化では満足し得ない場合(ステップS6でN)、再度、設計変数を変えてステップS2以降が繰り返され、最適化の探索が引き続き行われる。ステップS6での判定は、例えば予め定められた最適化前の目的関数の変化率(向上率)などを基準として、コンピュータにより自動的に行われる。
【0056】
次に、上記ステップS6で得られた複数の最適解の中からデータ包絡分析法を用いてパレート解を得るステップがコンピュータにより行われる(ステップS7)。
【0057】
ステップS5の最適化計算では、複数の最適解、が導出される。設計者は、これら複数の最適解をそれぞれ分析し、その中から設計者にとって真に最適なものを選択する必要がある。しかしながら、解の数が多くなるとこれは簡単な作業ではない。一方、最適解の出力数を絞りすぎると、設計自由度が低下する。
【0058】
本発明では、これらの複数の最適解の分析を能率化して設計者の負担を減らすために、データ包絡分析法(Data Envelopment Analysisとも呼ばれ、以下、単に「DEA」と言うことがある。)が用いられる。これにより、複数の最適解の中から、パレート解と、その特徴を分析することが可能となる。そして、設計者は、このパレート解に基づいて、ゴルフクラブシャフトの前記各設計変数を容易に決定することができる(ステップS7)。
【0059】
データ包絡分析法は、事業体の効率性を分析する手法として知られている。即ち、DEAでは、事業体を、設備投資、人員及び販売エリア等のパラメータ(設計変数)を入力として、売上げ、収益性及び成長性等の複数のパラメータ(目的関数)を出力する生産関数とみたて、その変換過程の効率性を測定する、という考え方に基づいて評価を行う手法である。
【0060】
本発明では、このDEAがゴルフクラブシャフトの設計に採用される。例えば、図9(a)に示されるように、シャフトモデル2の内径、繊維強化樹脂の繊維種及び/又は繊維材の配向角度を設計変数とし、シャフトモデルの強度、曲げ剛性、ねじれ剛性及び/又は重量といった目的関数を出力する設計関数が評価される。
【0061】
図9(b)には、2つの目的関数J1、J2(例えばシャフトモデル2の強度と重量)とした場合のいくつかの解がプロットされている。縦軸、横軸は、いずれも原点から遠ざかる向きが目標(性能良)とする。
【0062】
目的関数J1のみで評価した場合、解Dが最も良くなる。一方、目的関数J2のみで評価した場合、解Aが最も良くなる。目的関数J1、J2の平均値で評価した場合、破線で示されるJ2=J1の直線上に各解を投影した点で評価され、この場合には解Bが最も良くなる。さらに、解Eにとって最も有利となる評価線は、原点OとEとを通る直線Zになるが、解Eはこの直線を用いても最も高い評価にはならない。
【0063】
DEAでは、最も自分の評価が高くなるような評価線を選んで評価が行われる。他の解についても、この評価線を用いて評価が行われる。さらに、DEAでは、解A、B、C及びDのように、自分が最も評価が高くなる解を結ぶ線がフロンティアラインとして得られる。なお、フロンティアラインでは、両端の解A及び解Dからはそれぞれ縦軸、横軸に垂線が引かれる。また、フロンティアライン上にある点はパレート解となり、効率値1として評価される。
【0064】
従って、ステップS5で得られた複数の最適解の中からコンピュータを用いてフロンティアライン上のパレート解をピックアップすることにより、設計者は、より絞られた最適解だけを評価することができ、設計効率を向上させることができる。
【0065】
さらに、DEAでは、フロンティアラインの内部にある解、例えば解Eの効率値は、前記直線Zとフロンティアラインとの交点をPとすると、OE/OPで表される。従って、他の実施形態として、ステップS5で得られた複数の最適解の中からコンピュータを用いてフロンティアライン上の解及び効率値が予め定めた閾値以上のものをピックアップすることもできる。この場合、上記実施形態の場合に比べて、設計者が評価すべき解の数は増えるが、解の過度の増加を抑えつつ設計の自由度を向上させるのに役立つ。
【0066】
なお、上記DEAでは、目的関数が2つの場合を例に挙げて説明したが、3以上の目的関数を用いても同様の処理を行うことができる。
【0067】
以上本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明は、上記の具体的な実施形態に限定されるものではなく、本発明の用紙を逸脱しない範囲内において、種々変形して実施することができる。
【実施例】
【0068】
以下、本発明をより具現化した実施例について述べる。
本実施例では、図10に示した8枚のプリプレグの配向角度(図10に示される角度は最適化前の値である)を設計変数とし、最適化が行われた。シャフトの内径、プリプレグの形状、繊維材の種類及び重量についてはいずれも一定とした。
【0069】
[設計変数(配向角度)]
配向角度の考え方として、以下のルールを与えた。先ず、プリプレグの形状が等しくかつ繊維材の配向角度を異ならせて重ねられるバイアス層(例えば、プリプレグA2とプリプレグA3の組み合わせやプリプレグA5とA6の組み合わせを言う。)については、表1のように、予めバイアス層の角度の組み合わせを決定しておき、その中から選ぶものとした。表1の組み合わせは、ねじれ剛性の異方性を排除するために決定されており、軸方向の弾性率が大きい順番に並べられている。また、バイアス層以外の層については、繊維材の配向角度は、0度又は90度に決定される。また、本実施例では、バイアス層は、軸方向の弾性率が大きい順番に連続番号(本実施形態では1〜20の連続変数)が付されている。設計変数であるバイアス層の角度は、離散変数であるが、上述のように、バイアス層に、軸方向の弾性率が大きい順番に連続変数を与えてやることにより、図11(a)に示されるように、それに応じて滑らかな目的関数(軸方向の弾性率)の関係を表す近似応答曲面を形成できる。これは、図11(b)に示されるように、近似応答曲面が非線形化するのを抑えて、最適解を早期に発見させるのに役立つ。
【0070】
【表1】
【0071】
[目的関数]
シャフトモデルの強度、曲げ剛性及びねじれ剛性を目的関数とした。なお、強度は、上述の4点(T点、A点、B点及びC点)の強度値として、前記各4点での繊維の配向方向に沿った応力と、前記各4点でのプリプレグ層間のせん断応力とした。上記応力については、最大応力説を破壊の基準とし、これを最小化することを目標とした。
【0072】
また、「曲げ剛性」については、最適化前後で変化しないことを目標値とした。具体的には、「最適化後の曲げ剛性」−「最適化前の曲げ剛性」の最小化を目標とした。
【0073】
同様に、「ねじれ剛性」についも最適化前後で変化しないことを目標値とした。具体的には、「最適化後のねじれ剛性」−「最適化前のねじれ剛性」の最小化を目標とした。
【0074】
[最適化結果]
表2に最適化前後の設計変数の値を示す。また、表3に最適化前後の目的関数の値を示す。さらに、その変化の割合が図12に示される。これらの符号において、T、A〜Cは、測定点の位置を示し、添字"11"は繊維材の長手方向の応力、添字"12"はプリプレグの層間のせん断応力をそれぞれ意味している。
【0075】
最適化の結果、曲げ剛性(EI)とねじれ剛性(TQ)とをほぼ一定に保ちつつ、各点の強度が改善(応力が減少)されていることがわかる(ただし、C点の層間せん断についてのみやや悪化が見られるが、これは許容範囲である)。
【0076】
【表2】
【0077】
【表3】
【0078】
また、図13には、DEAの効率値が高いものから順位付けしたグラフを示す。図13において、各棒グラフの中の内訳は、各目的関数の「重要度」です。それぞれ目的関数を軸とした多次元空間におけるフロンティアラインのパレート解である。そしてm各内訳は、どれだけそれぞれの目的関数を重視したかという割合を示している。従って、この内訳を見ることにより、各パレート解の特徴を知ることができる。そして、設計者は、このトップ10位の結果から、例えば強度が最も低くなりやすいB点の効率値が大きい3又は6などを選択し、設計データとして利用することができる。なお、本実施形態のDEAは、超CCRモデルを使用している。
【符号の説明】
【0079】
2 シャフトモデル
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピュータを用いてゴルフクラブシャフトの性能を最適化する際、多くの目的関数を有する場合であっても設計者が最適解を簡単に見つけることができ、ひいては設計時間ないし設計コストを低減するのに役立つゴルフクラブシャフトの設計方法及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータによる数値解析を利用してゴルフクラブシャフトを設計する方法が種々提案されている。
【0003】
例えば、下記特許文献1の方法は、有限要素法等で数値解析が可能かつシャフトの長さ方向において曲げ剛性の分布が異なる複数種類のシャフトモデルを設定するステップと、前記シャフトモデルを予め設定されたゴルファのスイングパターンに基づいて運動させるスイングシミュレーションを行って各シャフトモデルに依存したクラブモデルの運動状態(例えば、ヘッドスピードやブロー角など)を計算するステップと、前記スイングシミュレーションの結果から、前記運動状態が最適なゴルフクラブシャフトの曲げ剛性の分布などを探索するステップとを含むものである。
【0004】
また、下記特許文献2の方法では、ゴルフシャフトのマンドレルの形状、面状部材の選択、面状部材の種類、面状部材のマンドレルへの巻きつけ位置、及び面状部材の繊維配向角を入力することにより、製品ゴルフシャフトの曲げ剛性、ねじれ剛性を算出させ、簡単に繊維強化プラスチック製ゴルフシャフトの設計、または製造に必要な正確な情報を得るという作用効果を期待するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−8521号公報
【特許文献2】特開2001−104522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、繊維強化樹脂からなるゴルフクラブシャフトは、一方向に配向された繊維材を未硬化樹脂に含浸させたシート部材(以下、「プリプレグ」という。)が、マンドレルに複数枚巻き付けられ、これに熱処理を加えて樹脂を硬化させて製造される。従って、繊維強化樹脂のゴルフクラブシャフトを設計するためには、少なくとも上記繊維材の種類(これは、繊維材の密度、弾性率及びポアソン比などに影響する。)、シャフトの軸方向に対する繊維材の配向角度及びシャフトの内径という多くの設計変数を考慮する必要がある。
【0007】
従って、上記特許文献2のように、例えば、ある設計変数の組合せを用いたときの製品ゴルフシャフトの曲げ剛性及びねじれ剛性を計算して予測するだけでは、それが最適化されたものかを検討できない。また、種々の設計変数の組合せについて製品シャフトの特性を計算してた場合、計算結果の検討に多くの時間が必要となり、設計時間及び設計コストを十分に効率化することができないという問題がある。
【0008】
本発明は、以上のような問題点に鑑み案出なされたもので、有限個の要素を用いかつ設計変数が定義されたシャフトモデルを設定し、該シャフトモデルの複数の目的関数をコンピュータを用いて計算し、前記シャフトモデルに定義された設計変数と前記目的関数との関係を結びつける近似応答関数から目的関数を最適化する複数解を得るとともに、この複数解の中からデータ包絡分析法を用いてパレート解を得るステップを含ませることを基本として、設計者による解の取捨選択を容易化し、複数の最適解から目的に合った妥協解を短時間で見つけることができ、ひいては設計時間及び設計コストを十分に効率化させることが可能なゴルフクラブシャフトの設計方法及びそれを用いた製造方法を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のうち請求項1記載の発明は、繊維強化樹脂からなるゴルフクラブシャフトを設計する方法であって、有限個の要素を用いてゴルフクラブシャフトをモデル化することにより、コンピュータで数値計算が可能なシャフトモデルを得るステップと、前記シャフトモデルの設計変数を定義するステップと、前記ステップで設定されたシャフトモデルの性能を表す互いに異なる複数の目的関数をコンピュータを用いて計算するステップと、前記設計変数と前記目的関数との関係を結びつける近似応答関数を生成するステップと、前記近似応答関数に基づいて前記目的関数を最適化する複数の最適解を得るステップと、上記で得られた前記複数の最適解の中からデータ包絡分析法を用いてパレート解を得るステップと、前記パレート解に基づいてゴルフクラブシャフトの前記各設計変数を設定するステップとを含むことを特徴とする。
【0010】
また請求項2記載の発明は、前記設計変数は、シャフトモデルの内径、繊維強化樹脂の繊維種、繊維材の配向角度、強化樹脂を構成するプリプレグ形状、及びプリプレグの積層順の少なくとも一つを含む請求項1記載のゴルフクラブシャフトの設計方法である。
【0011】
また請求項3記載の発明は、前記目的関数は、前記シャフトモデルの強度、曲げ剛性、ねじれ剛性及び重量の中から選択される2以上を含む請求項1又は2記載のゴルフクラブシャフトの設計方法である。
【0012】
また請求項4記載の発明は、請求項1記載のゴルフクラブシャフトの設計方法を用いてゴルフクラブシャフトを製造することを特徴とするゴルフクラブシャフトの製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、設計変数が定義されたシャフトモデルから互いに異なる複数の目的関数がコンピュータを用いて計算される。そして、上記設計変数を異ならせ、該設計変数と目的関数との組合せを多数計算し、これらの関係を結びつける近似応答関数が生成され、該近似応答関数に基づいて前記目的関数を最適化する複数解が得られる。さらに、本発明では、ここで得られた前記複数の最適解の中からデータ包絡分析法を用いてパレート解が得られる。パレート解は、一種の妥協解であるが、このようなパレート解を得ることにより、設計者は自らの目的に合った最適な解を短時間で見つけることができる。以上より、本発明によれば、例えば繊維材の種類や配向角度など複数ある設計変数の組み合わせの中から、最適解を効率良く短時間で見つけることができる。従って、製品開発時の実験における試行錯誤の回数を大幅に減少させることができる。さらには、設計の自由度が高いゴルフクラブシャフトを最適化できるということで、ゴルファー一人一人に適した仕様を能率良くカスタマイズするのに役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態を示すフローチャートである。
【図2】(a)はシャフトモデルを視覚化した全体斜視図、(b)はその要部拡大図である。
【図3】シャフトモデルの内径を説明するグラフである。
【図4】ゴルフクラブシャフトの三点曲げ強度試験を説明する側面図である。
【図5】ゴルフクラブシャフトの順式フレックスを説明する側面図である。
【図6】ゴルフクラブシャフトの逆式フレックスを説明する側面図である。
【図7】ゴルフクラブシャフトのねじれ剛性を説明する側面図である。
【図8】近似応答関数を視覚化して例示するグラフである。
【図9】(a)はデータ包絡分析法を説明するブロック図、(b)はその一例を説明するグラフである。
【図10】ゴルフクラブシャフトを構成するプリプレグの展開図である。
【図11】(a)、(b)は設計変数と目的関数との関係を示すグラフである。
【図12】最適化による各目的関数の変化率を示すグラフである。
【図13】パレート解に占める各目的関数の寄与率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本実施形態では、強度に優れた繊維強化樹脂製のゴルフクラブシャフトを設計するために、シャフト径、繊維強化樹脂の繊維種及び繊維材の配向角度等の最適な組合せを短時間で設計する方法が説明される。ただし、本発明の設計方法では、このような具体的な例に限定されるものではなく、様々な目的の下、設計変数及び目的関数が変更されて実施され得るのは言うまでもない。
【0016】
図1には、本発明の実施形態の設計方法の処理手順の一例が示される。本実施形態のゴルフクラブシャフトの設計方法では、先ず、シャフトモデルが設定される(ステップS1)。
【0017】
図2(a)には、シャフトモデル2を視覚化した全体図を示し、図2(b)はその要部拡大図を示す。該シャフトモデル2は、全体として長尺なパイプ状をなし、有限個の要素eを用いて設定されている。各要素eには、それぞれ複数の材料物性等が定義され、全体としてゴルフクラブシャフトの動的特性ないし静的特性をコンピュータで数値計算が可能な解析モデル(メッシュモデルとも呼ばれる)を構成する。前記数値計算としては、例えば有限要素法を用いた変形計算が少なくとも含まれる。
【0018】
前記シャフトモデル2の長さLは、設計対象となるゴルフクラブシャフトに一致させるのが望ましい。慣例に従うものとして、前記長さLは、例えば35〜50インチ程度に設定される。本実施形態のシャフトモデル2の長さLは1195mmに設定される。
【0019】
また、シャフトモデル2は、例えば、その軸方向に数十から数千、かつ、周方向に数十から数百個程度に分割され、その各分割領域に前記要素eが割り当てられている。本実施形態において、各要素eは、いずれも同一形状とし、それぞれ4節点の矩形状の1枚の厚肉シェル要素が用いられている。
【0020】
前記厚肉シェル要素は、見かけ上は1枚の平面要素であるが、重なる複数の層が定義できる。この各層には、それぞれ個別に弾性率、ポアソン比及び強度異方性等が定義される。このような厚肉シェル要素は、少ない節点数で、繊維強化樹脂におけるプリプレグの積層構造を効率良く表現できる点で好ましい。
【0021】
本実施形態のシャフトモデル2は、一つの厚肉シェル要素の軸方向長さが1.25mm(軸方向に239分割)、その周方向の長さは中心角が10度(周方向に36分割)に定められているが、適宜変更しうるのは言うまでもない。また、要素eには、1枚の厚肉シェル要素以外にも、複数枚のシェル要素やソリッド要素が用いられても良い。これらのモデル化は、コンピュータとメッシュ化ソフトウエアなどを用いて容易に行うことができる。
【0022】
また、前記各要素eには、「形状」に関する特性及び「材料」に関する特性が予め定義される。形状に関する特性としては、例えば、厚肉シェル要素に内在する層数、形状、繊維材の配向角度、及び繊維材の開始位置などを含む。前記「層数」は、プリプレグの枚数に相当する。また、前記「繊維材の開始位置」が定義されるのは、例えばプリプレグが実際には三角形状である場合、必ずしも矩形状の要素と、その繊維の配向領域とが一致しないときに整合性を確保するためである。
【0023】
また、前記「材料」に関する特性としては、各要素eに内部定義された各々の層の密度、ポアソン比、コスト、厚さ、弾性率及び繊維材の配向角度によって決定される強度異方性等が含まれる。
【0024】
次に、シャフトモデル2に、設計変数が定義される(ステップS2)。設計変数は、シャフトモデル2の性能を変更するための候補となる変数を意味する。つまり、設計変数を変えることでシャフトモデル2の性能を変えることができる。この処理は、例えば、コンピュータに予め設計変数毎に許容範囲を定めておき、その中から任意に値が決定されて自動的に行われる。
【0025】
前記設計変数は、前記特性の中から選択されても良いし、前記特性を用いた包括的なパラメータとして決定されても良い。実用的な好ましい設計変数としては、例えばシャフトモデル2の内径、繊維強化樹脂の繊維種、各プリプレグの繊維材の配向角度、プリプレグの形状及び積層順の少なくとも一つ、好ましくは2以上、さらに好ましくは全部を含む。これらの設計変数は、ゴルフクラブシャフトの特性に大きな影響を与えるためである。
【0026】
上述の通り、繊維強化樹脂製のゴルフクラブシャフトは、シート状のプリプレグをマンドレル(鉄芯)に巻き付け、熱処理によってそのマトリックス樹脂を硬化させた後、マンドレルを脱芯することで製造される。従って、前記「シャフトモデルの内径」は、マンドレルの外径を定めることに等しい。また、シャフトモデル2の内径は、シャフトの強度、曲げ剛性及び重量等の性能に影響を与える重要な因子である。
【0027】
また、シャフトモデル2の内径は、実際には、軸方向に連続するパラメータである。従って、設計変数としてシャフトモデル2の内径を定義する場合には、例えば、図3に示されるように、離散的な変数として、複数の軸方向位置での内径(例えばD1ないしD5)が適宜決定される。そして、これらの各内径の区間は、テーパ状に連続するものとして定義することができる。
【0028】
また、シャフトモデル2の内径は、関数を用いてTIP端(ヘッド側の先端)からBUTT端(グリップ側の後端)まで連続的に定義されても良い。マンドレルの脱型を確保するために、例えばシャフトモデル2の内径は、BUTT端からTIP端に向かって漸減又は段階的に小さく形成されるように制約条件を課すことが有効である。
【0029】
前記繊維強化樹脂の繊維種は、炭素繊維、ガラス繊維又はアラミド等の樹脂繊維等の区別を意味する。繊維種は、それぞれ弾性率、密度及びポアソン比等に影響を与える。従って、シャフトモデル2の繊維種を設計変数に含ませることにより、シャフトの強度、曲げ剛性及び重量等の性能を変えることができる。
【0030】
前記繊維材の配向角度は、繊維の長手方向とシャフト軸方向とのなす角度を意味する。配向角度によって、シャフトモデル2の引張弾性率及びせん断弾性率が数倍ないし数100倍近く変化する。従って、繊維強化樹脂の繊維材の配向角度を設計変数に含ませることは重要である。
【0031】
次に、本実施形態では、前記シャフトモデル2の性能を表す互いに異なる複数の目的関数がコンピュータを用いて計算される(ステップS3)。
【0032】
前記目的関数としては、静的なものとして、例えばシャフトモデル2の強度、曲げ剛性、ねじれ剛性及び重量等を挙げることができる。とりわけ、これらの中から選択される少なくとも2以上、より好ましくは3以上、さらに好ましくは全てを含むことが望ましい。
【0033】
ただし、目的関数は、動的なものとして、例えば実際のスイング時の運動特性を含ませることができる。これには、例えば、インパクト時にシャフトに発生する最大応力、最大歪及び/又は各種強度則に基づいた強度値などを含むことができる。なお、目的関数は、特定の範囲、例えば〜以上及び/又は〜以下というように、制約条件を課して考慮することもできる。
【0034】
例えば、シャフトモデル2の強度、曲げ剛性、ねじれ剛性及び重量の4つの目的関数は、以下に説明されるよう、有限要素法又は積層理論を用いて計算される。
【0035】
本明細書において、シャフトの「強度」は、製品安全協会で定められているSG式三点曲げ強度試験に基づいて測定される強度を意味している。この試験では、図4に示されるように、2つの支持点t1、t2においてシャフトを下方から支持し、荷重点t3において上方から下方に向かって荷重Fが加えられる。荷重点t3の位置は、支持点t1、t2のスパンSを二等分する位置である。また、荷重点t3は、測定点に一致させて測定がなされる。
【0036】
また三点曲げ強度試験は、シャフトの強度をTIP側からBUTT側までの区間で予め定められたT点、A点、B点及びC点の4点について計算される。T点は、シャフトのヘッド側喘から90mmの位置とする。同様に、A及びB点は、それぞれシャフトのヘッド側喘から175mm及び525mmの位置とする。さらに、C点は、グリップ側の端から175mmの位置とする。なお、T点の測定時、上記スパンSは150mmに設定されるが、AないしC点の測定時には、上記スパンSは300mmに設定される。そして、シャフトが破損に至るときの荷重値が製品規格における「強度」として採用される。
【0037】
一方、「シャフトモデルの強度」は、本明細書では、便宜上、シャフトモデル2に一定荷重50Nを負荷して三点曲げ試験の有限要素法によるシミュレーション(変形計算)を行い、荷重点の要素及びその周方向に隣り合う要素全てに作用する応力及びひずみの破壊のパラメータが、プリプレグの破断許容値に対してどの程度達しているかという値で定義される。つまり、破壊のパラメータが、その許容値で除した百分率である「強度値」で表されている。なお、50Nという一定荷重値は、実際にシャフトが破壊される荷重と比べれば小さい。しかし、三点曲げ強度試験の際、シャフトの応力−ひずみ関係は線形関係にあるため、便宜的に上記の様に低荷重の際の強度値を採用しても何ら差し支えない。
【0038】
破壊の基準については、様々な種類がある。ある方向の応力やひずみに着目した「最大応力説」や「最大ひずみ説」、さらには多軸の応力場状態から表現した「Hill」、「Hoffman」、「Tsai−Wu」などである。本明細書において、破壊の基準については「最大応力説」が採用される。
【0039】
また、上記「曲げ剛性」、「ねじれ剛性」及び「重量」の各目的関数は、積層理論に基づいて計算される。即ち、シャフトモデル2の曲げ剛性、ねじれ剛性及び重量は、定義されたプリプレグの各種の引張弾性率、せん断弾性率、ポアソン比といった物性値、及び繊維材の配向角度、巻き付け位置、巻き付け枚数及びシャフトモデル2の内径等の形状に関するパラメータの値から材料力学ないし構造力学に基づいて計算される。
【0040】
前記曲げ剛性(フレックスとも称される。)は、シャフトのTIP側からBUTT側までの曲げ剛性EIの分布から決定されるシャフトの曲げ方向の硬さであり、順式フレックス又は逆式フレックスが知られている。
【0041】
順式フレックスは、図5に示されるように、シャフトのグリップ側の端2Bから75mm上点と、グリップ側の端2Bから215mmの下点との上下二点を支持点とし、グリップ側の端2Bから1039mmの位置に2.7kgf(26.48N)の荷重を負荷して測定したときのたわみ量を意味する。
【0042】
また、逆式フレックスは、図6に示されるように、シャフトのヘッド側の端2Tから12mm上点と、ヘッド側の端2Tから152mmの下点との上下二点を支持点とし、ヘッド側の端2Tから932mmの位置に1.3kgf(12.75N)の荷重を負荷して測定したときのたわみ量を意味する。
【0043】
一般的に、曲げ剛性が大きいシャフト(たわみ量が小さいシャフト)は、打撃時のシャフトの返り(戻り)が早くなるため、ヘッドスピードの遅いプレーヤーにはヘッドが返るタイミングが合わない。このため、ヘッドスピード及び飛距離を低下させる。一方、曲げ剛性が小さいシャフト(たわみ量が大きいシャフト)は、打撃時にヘッドの返りが遅く、フェースが下を向いた状態でインパクトを迎えやすい。このため、打ち出し角が小さくなり、飛距離を低下させる。従って、設計するゴルフクラブシャフトの対象ゴルファーに応じて、曲げ剛性の好ましい範囲が存在する。
【0044】
この曲げ剛性は、シャフトモデル2の各要素eに定義されたパラメータを用いて前記積層理論より計算できる。本実施形態において、シャフトモデル2の曲げ剛性は、順式フレックスと逆式フレックスとをそれぞれ古典的な積層理論から計算し、それらの和をある一定値となるように最適化を行った値として定義される。
【0045】
また、シャフトの「ねじれ剛性」は、図7に示されるように、シャフトのヘッド側の端2Tから40mmの位置を固定し、ヘッド側の端2Tから865mmの位置に13.9Nのトルクをかけたときのねじれ角で表される(トルクとも言われることがある。)。ねじれ剛性が大きいシャフトは、シャフト重量が大きく、振り抜き難いクラブとなる。一方、ねじれ剛性が小さいシャフトは、ヘッドが返り難くなるため、ねじれたままインパクトを迎えることになり、スライスなど打球方向性が悪くなる。従って、設計するゴルフクラブシャフトの対象ゴルファーに応じて、ねじれ剛性の好ましい範囲が存在する。このねじれ剛性も、シャフトモデル2の各要素eに定義されたパラメータを用いて、上記積層理論より計算することができる。
【0046】
本実施形態では、シャフトモデル2の重量は、プリプレグの密度×面積×厚さで計算される。一般的に、ヘッドスピードの向上のためには、重量を最小化することが望ましいと言える。
【0047】
次に、前記設計変数と前記目的関数との関係を結びつける近似応答関数がコンピュータにより生成される(ステップS4)。
【0048】
この近似応答関数の生成に先立ち、例えば複数の目的関数をスカラー化する処理が行われる。互いに独立した複数の目的関数を最適化するシャフトモデル2の設計変数を探索するためには、何らかの重み付け条件を与えないと評価を行うことができない。そこで、本実施形態では、重み係数を各目的関数の値に乗じて加算等することにより、複数の目的関数をスカラー化することが行われる。これにより、重視すべき目的関数を決定することができる。
【0049】
スカラー化を実現する具体的な方法については、特に限定されるものではないが、例えば線形結合(一般式は下式(1)参照)やチェビシェフ型(一般式は下式(2)参照)などを採用できる。
F=w1・f1+w2・f2+…+wr・fr …(1)
F=Max{w1・f1,w2・f2,…,wr・fr} …(2)
ただし、符号は次の通りである。
F:目的関数のスカラー値
fi:各目的関数の値を正規化したもの
wi:各目的関数に対する係数
【0050】
また、近似応答関数は、設計変数a1、a2…anと、目的関数のスカラー値Fとの間を、例えばニューラルネットワークを用いて関係付けるものである。図8には、一例として、2つの重み付け係数a1及びa2と、目的関数のスカラー値Fとを関係付ける三次元曲面からなる近似応答関数が例示される。
【0051】
近似応答関数は、具体的に設定されなかった設計変数a1及びa2の位置における解析結果(スカラー値F)を補間し、最適化の候補の予想を可能とする。従って、最適解を効率良くかつ短時間で探索するには、このような近似応答関数を生成することが特に重要である。近似応答関数は、慣例に従って、種々の方法で実現することができるが、例えば応答曲面法(RSM:Response Surface Methodology)、動径基底関数(RBF:Radial Basis Function)又はKriging法などが好適に用いられる。
【0052】
RSM、RBF、Krigingの順に近似精度は向上するが、計算コストがかかる手法となる。本実施形態のように「材料の種類」という離散的な設計変数が含まれているため、設計変数と目的関数との関係は非線形の強いものになる。また、プリプレグ毎の材料の種類や繊維材の配向角度を含むため、設計変数の数も多くなり計算コストがかかる。このような理由から、非線形性の強い関数を表現することができ、かつ、計算コストがそれほど大きくないRBFが好適である。
【0053】
前記RBFは、ニューラルネットワークの一種であり、ガウス関数を重ね合わせていくことで、表現される近似応答曲面である。入力(設計変数)と出力(目的関数)とが、非常に非線形の強い関係であっても精度良く表現することが可能である点で望ましい。また、RBFは、通常のニューラルネットワークとは異なり、バックプロパゲーションを必要としないため、近似関数を生成するための計算コストも小さく抑えることができる。
【0054】
次に、本実施形態では、生成された近似応答関数から複数の最適解がコンピュータにより探索される(ステップS5)。近似応答関数から最適解を探索する手法には、慣例に従い、例えば遺伝的アルゴリズム、勾配法又は焼きなまし法などが採用される。また、複数の最適解とは、例えばランク付けされた場合に、上位数十〜数百個の解を含むことができる。
【0055】
次に、探索された最適解が満足できるものか否かがコンピュータによって判断され(ステップS6)、それが真(ステップS6でY)の場合、ステップS7へと移る。他方、得られた最適化では満足し得ない場合(ステップS6でN)、再度、設計変数を変えてステップS2以降が繰り返され、最適化の探索が引き続き行われる。ステップS6での判定は、例えば予め定められた最適化前の目的関数の変化率(向上率)などを基準として、コンピュータにより自動的に行われる。
【0056】
次に、上記ステップS6で得られた複数の最適解の中からデータ包絡分析法を用いてパレート解を得るステップがコンピュータにより行われる(ステップS7)。
【0057】
ステップS5の最適化計算では、複数の最適解、が導出される。設計者は、これら複数の最適解をそれぞれ分析し、その中から設計者にとって真に最適なものを選択する必要がある。しかしながら、解の数が多くなるとこれは簡単な作業ではない。一方、最適解の出力数を絞りすぎると、設計自由度が低下する。
【0058】
本発明では、これらの複数の最適解の分析を能率化して設計者の負担を減らすために、データ包絡分析法(Data Envelopment Analysisとも呼ばれ、以下、単に「DEA」と言うことがある。)が用いられる。これにより、複数の最適解の中から、パレート解と、その特徴を分析することが可能となる。そして、設計者は、このパレート解に基づいて、ゴルフクラブシャフトの前記各設計変数を容易に決定することができる(ステップS7)。
【0059】
データ包絡分析法は、事業体の効率性を分析する手法として知られている。即ち、DEAでは、事業体を、設備投資、人員及び販売エリア等のパラメータ(設計変数)を入力として、売上げ、収益性及び成長性等の複数のパラメータ(目的関数)を出力する生産関数とみたて、その変換過程の効率性を測定する、という考え方に基づいて評価を行う手法である。
【0060】
本発明では、このDEAがゴルフクラブシャフトの設計に採用される。例えば、図9(a)に示されるように、シャフトモデル2の内径、繊維強化樹脂の繊維種及び/又は繊維材の配向角度を設計変数とし、シャフトモデルの強度、曲げ剛性、ねじれ剛性及び/又は重量といった目的関数を出力する設計関数が評価される。
【0061】
図9(b)には、2つの目的関数J1、J2(例えばシャフトモデル2の強度と重量)とした場合のいくつかの解がプロットされている。縦軸、横軸は、いずれも原点から遠ざかる向きが目標(性能良)とする。
【0062】
目的関数J1のみで評価した場合、解Dが最も良くなる。一方、目的関数J2のみで評価した場合、解Aが最も良くなる。目的関数J1、J2の平均値で評価した場合、破線で示されるJ2=J1の直線上に各解を投影した点で評価され、この場合には解Bが最も良くなる。さらに、解Eにとって最も有利となる評価線は、原点OとEとを通る直線Zになるが、解Eはこの直線を用いても最も高い評価にはならない。
【0063】
DEAでは、最も自分の評価が高くなるような評価線を選んで評価が行われる。他の解についても、この評価線を用いて評価が行われる。さらに、DEAでは、解A、B、C及びDのように、自分が最も評価が高くなる解を結ぶ線がフロンティアラインとして得られる。なお、フロンティアラインでは、両端の解A及び解Dからはそれぞれ縦軸、横軸に垂線が引かれる。また、フロンティアライン上にある点はパレート解となり、効率値1として評価される。
【0064】
従って、ステップS5で得られた複数の最適解の中からコンピュータを用いてフロンティアライン上のパレート解をピックアップすることにより、設計者は、より絞られた最適解だけを評価することができ、設計効率を向上させることができる。
【0065】
さらに、DEAでは、フロンティアラインの内部にある解、例えば解Eの効率値は、前記直線Zとフロンティアラインとの交点をPとすると、OE/OPで表される。従って、他の実施形態として、ステップS5で得られた複数の最適解の中からコンピュータを用いてフロンティアライン上の解及び効率値が予め定めた閾値以上のものをピックアップすることもできる。この場合、上記実施形態の場合に比べて、設計者が評価すべき解の数は増えるが、解の過度の増加を抑えつつ設計の自由度を向上させるのに役立つ。
【0066】
なお、上記DEAでは、目的関数が2つの場合を例に挙げて説明したが、3以上の目的関数を用いても同様の処理を行うことができる。
【0067】
以上本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明は、上記の具体的な実施形態に限定されるものではなく、本発明の用紙を逸脱しない範囲内において、種々変形して実施することができる。
【実施例】
【0068】
以下、本発明をより具現化した実施例について述べる。
本実施例では、図10に示した8枚のプリプレグの配向角度(図10に示される角度は最適化前の値である)を設計変数とし、最適化が行われた。シャフトの内径、プリプレグの形状、繊維材の種類及び重量についてはいずれも一定とした。
【0069】
[設計変数(配向角度)]
配向角度の考え方として、以下のルールを与えた。先ず、プリプレグの形状が等しくかつ繊維材の配向角度を異ならせて重ねられるバイアス層(例えば、プリプレグA2とプリプレグA3の組み合わせやプリプレグA5とA6の組み合わせを言う。)については、表1のように、予めバイアス層の角度の組み合わせを決定しておき、その中から選ぶものとした。表1の組み合わせは、ねじれ剛性の異方性を排除するために決定されており、軸方向の弾性率が大きい順番に並べられている。また、バイアス層以外の層については、繊維材の配向角度は、0度又は90度に決定される。また、本実施例では、バイアス層は、軸方向の弾性率が大きい順番に連続番号(本実施形態では1〜20の連続変数)が付されている。設計変数であるバイアス層の角度は、離散変数であるが、上述のように、バイアス層に、軸方向の弾性率が大きい順番に連続変数を与えてやることにより、図11(a)に示されるように、それに応じて滑らかな目的関数(軸方向の弾性率)の関係を表す近似応答曲面を形成できる。これは、図11(b)に示されるように、近似応答曲面が非線形化するのを抑えて、最適解を早期に発見させるのに役立つ。
【0070】
【表1】
【0071】
[目的関数]
シャフトモデルの強度、曲げ剛性及びねじれ剛性を目的関数とした。なお、強度は、上述の4点(T点、A点、B点及びC点)の強度値として、前記各4点での繊維の配向方向に沿った応力と、前記各4点でのプリプレグ層間のせん断応力とした。上記応力については、最大応力説を破壊の基準とし、これを最小化することを目標とした。
【0072】
また、「曲げ剛性」については、最適化前後で変化しないことを目標値とした。具体的には、「最適化後の曲げ剛性」−「最適化前の曲げ剛性」の最小化を目標とした。
【0073】
同様に、「ねじれ剛性」についも最適化前後で変化しないことを目標値とした。具体的には、「最適化後のねじれ剛性」−「最適化前のねじれ剛性」の最小化を目標とした。
【0074】
[最適化結果]
表2に最適化前後の設計変数の値を示す。また、表3に最適化前後の目的関数の値を示す。さらに、その変化の割合が図12に示される。これらの符号において、T、A〜Cは、測定点の位置を示し、添字"11"は繊維材の長手方向の応力、添字"12"はプリプレグの層間のせん断応力をそれぞれ意味している。
【0075】
最適化の結果、曲げ剛性(EI)とねじれ剛性(TQ)とをほぼ一定に保ちつつ、各点の強度が改善(応力が減少)されていることがわかる(ただし、C点の層間せん断についてのみやや悪化が見られるが、これは許容範囲である)。
【0076】
【表2】
【0077】
【表3】
【0078】
また、図13には、DEAの効率値が高いものから順位付けしたグラフを示す。図13において、各棒グラフの中の内訳は、各目的関数の「重要度」です。それぞれ目的関数を軸とした多次元空間におけるフロンティアラインのパレート解である。そしてm各内訳は、どれだけそれぞれの目的関数を重視したかという割合を示している。従って、この内訳を見ることにより、各パレート解の特徴を知ることができる。そして、設計者は、このトップ10位の結果から、例えば強度が最も低くなりやすいB点の効率値が大きい3又は6などを選択し、設計データとして利用することができる。なお、本実施形態のDEAは、超CCRモデルを使用している。
【符号の説明】
【0079】
2 シャフトモデル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化樹脂からなるゴルフクラブシャフトを設計する方法であって、
有限個の要素を用いてゴルフクラブシャフトをモデル化することにより、コンピュータで数値計算が可能なシャフトモデルを得るステップと、
前記シャフトモデルの設計変数を定義するステップと、
前記ステップで設定されたシャフトモデルの性能を表す互いに異なる複数の目的関数をコンピュータを用いて計算するステップと、
前記設計変数と前記目的関数との関係を結びつける近似応答関数を生成するステップと、
前記近似応答関数に基づいて前記目的関数を最適化する複数の最適解を得るステップと、
上記で得られた前記複数の最適解の中からデータ包絡分析法を用いてパレート解を得るステップと、
前記パレート解に基づいてゴルフクラブシャフトの前記各設計変数を設定するステップとを含むことを特徴とするゴルフクラブシャフトの設計方法。
【請求項2】
前記設計変数は、シャフトモデルの内径、繊維強化樹脂の繊維種、繊維材の配向角度、強化樹脂を構成するプリプレグ形状、及びプリプレグの積層順の少なくとも一つを含む請求項1記載のゴルフクラブシャフトの設計方法。
【請求項3】
前記目的関数は、前記シャフトモデルの強度、曲げ剛性、ねじれ剛性及び重量の中から選択される2以上を含む請求項1又は2記載のゴルフクラブシャフトの設計方法。
【請求項4】
請求項1記載のゴルフクラブシャフトの設計方法を用いてゴルフクラブシャフトを製造することを特徴とするゴルフクラブシャフトの製造方法。
【請求項1】
繊維強化樹脂からなるゴルフクラブシャフトを設計する方法であって、
有限個の要素を用いてゴルフクラブシャフトをモデル化することにより、コンピュータで数値計算が可能なシャフトモデルを得るステップと、
前記シャフトモデルの設計変数を定義するステップと、
前記ステップで設定されたシャフトモデルの性能を表す互いに異なる複数の目的関数をコンピュータを用いて計算するステップと、
前記設計変数と前記目的関数との関係を結びつける近似応答関数を生成するステップと、
前記近似応答関数に基づいて前記目的関数を最適化する複数の最適解を得るステップと、
上記で得られた前記複数の最適解の中からデータ包絡分析法を用いてパレート解を得るステップと、
前記パレート解に基づいてゴルフクラブシャフトの前記各設計変数を設定するステップとを含むことを特徴とするゴルフクラブシャフトの設計方法。
【請求項2】
前記設計変数は、シャフトモデルの内径、繊維強化樹脂の繊維種、繊維材の配向角度、強化樹脂を構成するプリプレグ形状、及びプリプレグの積層順の少なくとも一つを含む請求項1記載のゴルフクラブシャフトの設計方法。
【請求項3】
前記目的関数は、前記シャフトモデルの強度、曲げ剛性、ねじれ剛性及び重量の中から選択される2以上を含む請求項1又は2記載のゴルフクラブシャフトの設計方法。
【請求項4】
請求項1記載のゴルフクラブシャフトの設計方法を用いてゴルフクラブシャフトを製造することを特徴とするゴルフクラブシャフトの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−240209(P2010−240209A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−93213(P2009−93213)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】
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