説明

ゴルフクラブシャフト及びゴルフクラブ

【課題】曲げ剛性に長さ方向の不連続点を生じさせる先端補強層を用いることなく、手元の曲げ剛性を変えずに先端部の曲げ剛性を高め、しかも曲げ剛性の円周方向のバラツキを抑えることができるゴルフクラブシャフトを得る。
【解決手段】全長層としての3枚以上の長方形のカーボンプリプレグを含むこと;全ての長方形のカーボンプリプレグは、長繊維方向が長手方向を向く0゜層からなること;全ての長方形のカーボンプリプレグは、手元大径部においては重なり量がゼロで先端部に行くに従って重なり量を増加させていくこと;及び長方形のカーボンプリプレグの巻回開始位置は互いに異なっていること;を満足するゴルフクラブシャフト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂プリプレグ(シート)を巻回し熱硬化させて製造するゴルフクラブシャフト及びゴルフクラブに関する。
【背景技術】
【0002】
プリプレグは、未硬化の熱硬化樹脂を炭素繊維に含浸させたシート状のものとして知られており、ゴルフクラブシャフトでは、テーパ軸からなるマンドレルに複数枚のプリプレグを巻回し、加熱硬化させてテーパ状シャフトとしている。
【0003】
プリプレグには従来一般に、全長層と先端補強層が存在し、全長層は、テーパ状のマンドレルに巻回したとき全長で同じ巻数になるように、台形状に形成するのが普通であった。先端補強層は、台形状のプリプレグだけでは先端部の強度(曲げ剛性、EI)が不十分になるため、先端部のみに巻回する層である。
【0004】
図6は、この従来の全長層と先端補強層からなるゴルフクラブシャフトの構成例である。この従来例は、テーパ状のマンドレル10に対し、下層から順に、各2回巻の2枚(合計巻数4)の台形バイアス層(45゜層、長繊維方向がシャフト軸線方向に対して45゜をなす)11、12と、各1回巻の3枚の台形0゜層(長繊維方向がシャフトの軸線と平行をなす)13、14、15と、0゜層からなる先端補強層16とを用いて形成したものである。台形バイアス層11と12のバイアス(長繊維)の方向は互いに直交している。先端補強層16は、先端部を補強するための層であり、先端部のみに巻回される。先端部には、この先端補強層16とは別に(先端補強層16上に)、シャフト先端をクラブヘッドのホーゼル径に対応するストレート部とするための0゜層からなる三角状プリプレグ17が巻回される。
【0005】
マンドレル10上に巻回された台形層11ないし15、先端補強層16及び三角状プリプレグ17は、加熱されその未硬化の熱硬化性樹脂を硬化させてゴルフクラブシャフトとなる。台形層11ないし15、先端補強層16及び三角状プリプレグ17を構成する炭素繊維及び含浸させる熱硬化性樹脂は、各種周知である。
【特許文献1】特開平9-131422号公報
【特許文献2】特開2000-51413号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図5の線図Cは、この従来のゴルフクラブシャフトの長さ(軸)方向の曲げ剛性分布を調べたグラフである。合計5枚の全長台形層11ないし15、先端補強層16及び三角状プリプレグ17を有するゴルフクラブシャフトは、先端補強層16の部分で曲げ剛性が段階的に(不連続に)変化しているため、スイング時のシャフトのしなりが滑らかではなく、ヘッドスピードも上がらず、ユーザに好ましい使用感を与えることができない。
【0007】
また、長方形のカーボンプリプレグを含ませることも提案されているが、単に長方形のカーボンプリプレグを用いると、円周方向の異なる位置での曲げ剛性にバラツキが生じ、クラブヘッドを取り付けたゴルフクラブとしての性能が安定しない。
【0008】
本発明は、従来のゴルフクラブシャフトについての以上の問題意識に基づき、曲げ剛性に長さ方向の不連続点を生じさせる先端補強層を用いることなく、手元の曲げ剛性を変えずに先端部の曲げ剛性を高め、しかも曲げ剛性の円周方向のバラツキを抑えることができるゴルフクラブシャフトを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、未硬化熱硬化性樹脂プリプレグをテーパ状に巻回し熱硬化させてなるゴルフクラブシャフトにおいて、全長層としての3枚以上の長方形のカーボンプリプレグを含むこと;全ての長方形のカーボンプリプレグは、長繊維方向が長手方向を向く0゜層からなること;全ての長方形のカーボンプリプレグは、手元大径部においては重なり量がゼロで先端部に行くに従って重なり量を増加させていくこと;及び長方形のカーボンプリプレグの巻回開始位置は互いに異なっていること;を特徴としている。
【0010】
長方形のカーボンプリプレグの枚数は4枚とすると最も好ましい。
【0011】
3枚以上の長方形のカーボンプリプレグの巻回開始位置は、クロッキングすることが好ましい。
【0012】
本発明のゴルフクラブシャフトは、先端部に、該先端部をクラブヘッドに装着するためのストレート状にする三角状カーボンプリプレグを付加するのが普通である。
【0013】
本発明のゴルフクラブは、以上のゴルフクラブシャフトに、クラブヘッド及びグリップを装着したゴルフクラブである。
【発明の効果】
【0014】
本発明のゴルフクラブシャフトは、曲げ剛性に長さ方向の不連続点を生じさせることなく、先端部の曲げ剛性を高め、全長の曲げ剛性を高め、しかも曲げ剛性の円周方向のバラツキを抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は、本発明によるゴルフクラブシャフトの第一の実施形態を示すもので、図6に対応させて、カーボンプリプレグの構成を示している。カーボンプリプレグの形状以外の要素(炭素繊維及び熱硬化性樹脂)は、従来例とで同一であり、台形バイアス層11と12は、図6の従来例と同一である。本実施形態は、この台形バイアス層11と12の上に巻回するカーボンプリプレグとして、全長層として0゜層の3枚(各1回巻)の長方形のカーボンプリプレグ21、22、23を用いている。三角状カーボンプリプレグ17は、従来例と同様に用いているが、従来例における先端補強層16は用いていない(不要である)。つまり、先端部をクラブヘッドに適合するストレート状にするための三角状カーボンプリプレグ17を除くと、全てのカーボンプリプレグが全長層である。
【0016】
長方形カーボンプリプレグ21ないし23は、手元側(大径部)側においては全周に渡って1層で(端部を突き合わせ)、先端部(小径部)側に向かって重なり量が増加するように、マンドレル10の周囲に巻回される。長方形カーボンプリプレグ21ないし23の先端での重なり量(重なり角度)は、マンドレル10の全長及びテーパ角度によって異なるが、図1の例では、先端部で2層(回)である。また、その巻回開始位置は、3枚の長方形カーボンプリプレグ21ないし23で、可及的に等角度間隔になるように(クロッキング)されている。
【0017】
図5の線図Aは、この図1の構成の各カーボンプリプレグをマンドレル10に巻回し加熱硬化させてゴルフクラブシャフトとし、その長さ方向の曲げ剛性分布を調べたグラフである。このグラフから明らかなように、本実施形態のゴルフクラブシャフトは、曲げ剛性が先端部(三角状カーボンプリプレグ17部分を除く)から手元部にかけて滑らかに変化している。このため、スイング時のシャフトのしなりが滑らかになり、ヘッドスピードも上昇し、ユーザに好適な使用感を与えることができる。
【0018】
図2は、本発明によるゴルフクラブシャフトの第二の実施形態を示すもので、台形バイアス層11と12の上に、0゜層からなる4枚(各1回巻)の長方形カーボンプリプレグ21、22、23、24を巻回している。その他の構成は図1の第一の実施形態と同一である。図5の線図Bは、この実施形態で製造したゴルフクラブシャフトの長さ方向の曲げ剛性を示すもので、第一の実施形態の同図Aと同様に、先端部(三角状カーボンプリプレグ17部分を除く)から手元部にかけて滑らかに変化しており、しかも、長方形の0゜層のカーボンプリプレグ枚数が1枚増えたことから、曲げ剛性が全体に高くなっている。
【0019】
図3と図4は、第一、第二の実施形態のゴルフクラブシャフトの円周方向の曲げ剛性のバラツキを調べたグラフである。円周方向の曲げ剛性のバラツキとは、製造されたゴルフクラブシャフトの回転位相を異ならせて曲げ剛性を測定したときのバラツキをいう。この測定例では、曲げ剛性を異なる円周方向位置(0゜、45゜、90゜の3箇所)で測定している。このグラフ図から、本実施形態のゴルフクラブシャフトは、円周方向の曲げ剛性のバラツキが殆どないことが認められた。なお、図3、図4、図8及び図10のグラフでは、3本のグラフの差異が明瞭でないため、数値を併記した。
【0020】
以上の実施形態のように、本実施形態で用いる長方形のカーボンプリプレグは3枚以上用いること、及び全てが全長層である0゜層であることが不可欠であり、この条件を満たすことにより、手元の剛性を変えずに先端剛性を滑らかに高めることができる。
【0021】
次に、円周方向の曲げ剛性のバラツキを防止するには、3枚以上の長方形のカーボンプリプレグが必要であることを、比較例によって説明する。図7は、図1の本発明の一実施例の構成において、長方形カーボンプリプレグ21と22を台形カーボンプリプレグ18と19に代えた比較例である。図8は、このゴルフクラブシャフトの曲げ剛性を異なる円周方向位置(0゜、45゜、90゜の3箇所)で測定したグラフ図である。
【0022】
また、図9は同様に、図1の本発明の一実施例の構成において、長方形カーボンプリプレグ21を台形カーボンプリプレグ19に代えた比較例である。図10は、このゴルフクラブシャフトの曲げ剛性を異なる円周方向位置(0゜、45゜、90゜の3箇所)で測定したグラフ図である。
【0023】
これらのグラフ図から明らかなように、長方形カーボンプリプレグの枚数が1枚または2枚では、円周方向の曲げ剛性のバラツキが認められる。
【0024】
本実施形態では、上述のように、従来のゴルフクラブシャフトで不可欠であった先端補強層16が不要である。つまり、先端補強層16を用いなくても、先端部の曲げ剛性を高めることができ、製造工程上も部品管理の面から有利である。
【0025】
なお、以上の実施形態では、長方形カーボンプリプレグ21ないし24の下層の全長台形層として、2枚(各2回巻)のバイアス層11と12を例示したが、バイアス層の巻数は問わない。また、バイアス層は、先端と手元の巻数が同一でなくてもよい。またその繊維の方向や材質も問わない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明によるゴルフクラブシャフトの第一の実施形態を示す、カーボンプリプレグの形状と構成を示す平面図である。
【図2】同第二の実施形態を示す図1と同様の平面図である。
【図3】第一の実施形態のゴルフクラブシャフトの曲げ剛性を異なる円周方向位置で測定したグラフ図である。
【図4】第二の実施形態のゴルフクラブシャフトの曲げ剛性を異なる円周方向位置で測定したグラフ図である。
【図5】第一、第二の実施形態及び図6の従来例のゴルフクラブシャフトの長さ方向の曲げ剛性分布を測定したグラフ図である。
【図6】従来のゴルフクラブシャフトの一例を示す、図1と同様の平面図である。
【図7】比較例1のゴルフクラブシャフトの図1と同様の平面図である。
【図8】図7のゴルフクラブシャフトの曲げ剛性を異なる円周方向位置で測定したグラフ図である。
【図9】比較例2のゴルフクラブシャフトの図1と同様の平面図である。
【図10】図9のゴルフクラブシャフトの曲げ剛性を異なる円周方向位置で測定したグラフ図である。
【符号の説明】
【0027】
10 マンドレル
11 12 台形バイアス層
16 先端補強層
17 三角状カーボンプリプレグ
21 22 23 24 長方形カーボンプリプレグ(0゜層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
未硬化熱硬化性樹脂プリプレグをテーパ状に巻回し熱硬化させてなるゴルフクラブシャフトにおいて、
全長層としての3枚以上の長方形のカーボンプリプレグを含むこと;
全ての長方形のカーボンプリプレグは、長繊維方向が長手方向を向く0゜層からなること;
全ての長方形のカーボンプリプレグは、手元大径部においては重なり量がゼロで先端部に行くに従って重なり量を増加させていくこと;及び
長方形のカーボンプリプレグの巻回開始位置は互いに異なっていること;
を特徴とするゴルフクラブシャフト。
【請求項2】
請求項1記載のゴルフクラブシャフトにおいて、長方形のカーボンプリプレグの枚数は4枚であるゴルフクラブシャフト。
【請求項3】
請求項1または2のいずれか1項記載のゴルフクラブシャフトにおいて、3枚以上の長方形のカーボンプリプレグの巻回開始位置は、クロッキングされているゴルフクラブシャフト。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項記載のゴルフクラブシャフトにおいて、先端部に、該先端部をクラブヘッドに装着するためのストレート状にする三角状カーボンプリプレグが付加されているゴルフクラブシャフト。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項記載のゴルフクラブシャフトにクラブヘッド及びグリップを装着したゴルフクラブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−219564(P2009−219564A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−65056(P2008−65056)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【特許番号】特許第4335289号(P4335289)
【特許公報発行日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000005175)藤倉ゴム工業株式会社 (120)
【Fターム(参考)】