説明

ゴルフクラブシャフト

【目的】 ねじり強度が十分高く、軽量で低ねじれ化されたゴルフクラブシャフトを提供する。
【構成】 シャフトの長手方向に対して強化繊維が傾斜して配列されたバイアス層が強度の異なる2種類以上の強化繊維を含むゴルフクラブシャフトであって、前記バイアス層の強化繊維がヘッド側において圧縮強度の高い繊維の割合が高く、グリップ側において圧縮強度の低い繊維の割合が高いことを特徴とするゴルフクラブシャフト。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はゴルフクラブシャフトに関するものである。
【0002】
【従来の技術】ゴルフクラブ用に使用されているゴルフクラブシャフトとしては、従来のスチール製シャフトから、炭素繊維を強化繊維としたカーボンシャフトが一般的に用いられるようになってきている。そして、カーボンシャフトはスチールシャフトでは実現できなかった軽量化やねじれにくさ(低ねじれ化)を実現し、ゴルファーのスコアアップに多大な貢献をしている。このゴルフシャフトの軽量化、低ねじれ化は炭素繊維の高強度化・高弾性率化とともに進展してきた。
【0003】低ねじれ化についてみると、低ねじれ化のためには、強化繊維がシャフトの長手方向に対して傾斜して配列されたバイアス層において、その強化繊維に高弾性率繊維を用いることが一般的に行われている。しかし、現在までのところ、炭素繊維は一般的に高強度特性(特に高圧縮強度特性)と高弾性率特性を両立させることが困難であり、バイアス層に高弾性率炭素繊維を用いたゴルフシャフトはねじり強度が低くなるという欠点がある。そこで、高弾性率炭素繊維をバイアス層に使用したゴルフシャフトでは、バイアス層中の炭素繊維の量を多くすることにより、ねじり強度を大きくすることが必要となるが、それを実行するとゴルフシャフトの重量はかなり増す。そこで、高強度繊維も同時にバイアス層に使用してねじり強度を大きくすることで、比較的軽量のままでしかも低ねじれ化されたゴルフクラブシャフトが開発されている。しかし、高弾性率繊維に加えて高強度繊維もバイアス層に使用するため、軽量化という面では不十分になる。また、ゴルフクラブシャフトのねじり破壊は径の小さいヘッドに近い部分で起こりやすいため、ヘッドに近い部分のみバイアス層に高強度繊維を加え、ねじり強度を補強したゴルフクラブシャフトも開発されているが、この場合も高強度繊維を加えているために軽量化という面では不十分になる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、ねじり強度が十分高く、軽量でしかも低ねじれ化されたゴルフクラブシャフトの提供を目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意検討した結果、バイアス層に使用する強化繊維として、2種類以上の強化繊維を使用し、ヘッドに近い部分ほど一方向積層板にしたときの圧縮強度の高い繊維を用いれば、軽量でしかも低ねじれ化されたゴルフシャフトが得られることを見出し、本発明に到達した。
【0006】すなわち、本発明のゴルフクラブシャフトは、シャフトの長手方向に対して傾斜して配列されたバイアス層が強度の異なる2種類以上の強化繊維を含むゴルフクラブシャフトであって、前記バイアス層の強化繊維がヘッド側において圧縮強度の高い繊維の割合が高く、グリップ側において圧縮強度の低い繊維の割合が高いことを特徴とするゴルフクラブシャフトである。
【0007】
【作用】ゴルフクラブシャフトはヘッド側の径が小さいため、グリップ側と比べて極断面2次モーメントが小さくなる。そのため、シャフト全体にねじりトルクが加わった場合、ヘッドに近い部分でねじり破壊が起こりやすい。しかし、本発明のゴルフクラブシャフトは、バイアス層の強化繊維がシャフト径の小さいヘッド側ほど高強度の繊維であるため、シャフト各部のねじり強度差が少なくなる。つまり、材料が効率的に使用されていることになる。その結果、バイアス層に高弾性率炭素繊維を使用したシャフトに対して従来から行われてきた、バイアス層への高強度繊維の付加によるねじり強度の補強は不要となり、本発明は軽量化に対して非常に有効である。また、グリップ側の径の大きい部分には安価な低強度の強化繊維を使用することも可能であるので、低価格化の方向に本発明を生かすこともできる。なお、本発明において繊維の圧縮強度の高低は、一方向積層板として測定する。
【0008】次に低ねじれ化について考えてみると、本発明では強度特性の劣る高弾性率繊維はシャフト径の大きい部分のバイアス層に用いるため、高弾性率繊維部分でのねじり破壊は起こりにくく、ねじり強度を大きく保ったまま低ねじれ化を実現できる。ところで、ゴルフシャフト用の強化繊維として代表的な繊維である炭素繊維について考えてみると、PAN系炭素繊維は強度特性に優れるが、ピッチ系炭素繊維と比べて高弾性率を実現することは困難である。それに対し、ピッチ系炭素繊維は、PAN系炭素繊維と比べて、圧縮強度特性は劣るが容易にかつ安価に高弾性率を実現することができる。したがって、シャフト径が小さく強度的に厳しいヘッド側のバイアス層に圧縮強度の高い繊維としてPAN系炭素繊維を用い、シャフト径が大きく強度的に優位なグリップ側のバイアス層に圧縮強度の低い繊維としてピッチ系炭素繊維を用いることは、両方の繊維の優れた面をゴルフシャフトに生かしやすい構成となり、好ましい。特にヘッド側の強化繊維が一方向積層板にしたときの圧縮強度が80kg/mm2 以上のPAN系炭素繊維であって、グリップ側の強化繊維が引張弾性率50トン/mm2 以上のピッチ系炭素繊維であることは、ねじり強度を実使用時の安全レベルに保ったまま、低ねじれ化を実現する方法として好ましい。また、低ねじれ化のためには高弾性率繊維の使用部分を多くすることが必要で、高強度繊維の使用部分はヘッド側先端から500mmまでにすることが好ましい。
【0009】
【実施例】次に、本発明に係わるゴルフクラブシャフトの実施例、比較例を、図面に即して詳しく説明する。図1R>1に示すように、マンドレルに所定の寸法に裁断したプリプレグシートを巻付けるシートワインディング法によりゴルフクラブシャフトの成形を行った。まず、先端部径5.68mm、テーパー6.54/1000、長さ1250mmのステンレス製マンドレル(1)表面に離型処理を施し、接着剤を塗布した。そして、ヘッド側バイアス層(2)として所定の寸法に裁断した高強度PAN系炭素繊維一方向プリプレグとグリップ側バイアス層(3)として所定の寸法に裁断した高弾性ピッチ系炭素繊維一方向プリプレグを継ぎ合わせバイアス層用ハイブリッドプリプレグ(4)とした。このバイアス層用ハイブリッドプリプレグ(4)を炭素繊維の整列方向がシャフト軸方向に対して互いに40°になるように重ね合せた後±2PLY巻き付けた。次に、ストレート層(5)として、所定の寸法に裁断したPAN系24トン/mm2 炭素繊維一方向プリプレグを炭素繊維の整列方向がシャフト軸方向に対して平行になるように3PLY巻き付けた。その後、通常の方法にしたがって、この外周に耐熱テープを巻き付け、各プリプレグを増し締めた後、加熱硬化した。
【0010】図2はゴルフクラブシャフトのねじれ度及びねじり強度測定用試験片(6)の形状であるが、先端からa45mmと後端側b45mmにガラスクロスプリプレグ(7),(7′)を3PLY巻き付け、補強を行った。先端タブ部において先端から35mmの部分をドリルチャックでつかみ固定し、後端側のタブに先端からの距離c1060mmの位置に径5mmの穴(8)を開け、ピンを差し込み、トルクモーターによりトルクを負荷した。1ft・lbのトルクを加えたときのねじれ角をねじれ度とし、さらにトルクを加えて試験片に破壊(亀裂)を生じたときの力をねじり強度とし、その時の破壊の起点と判断される点のシャフト先端からの距離を破壊位置として測定した。
【0011】使用プリプレグシートの仕様として、炭素繊維の種類とその引張強度と圧縮強度、FAW(プリプレグシート1m2 中の繊維の重量)、RC(プリプレグシート中のレジンの重量百分率))を表1に示し、そのプリプレグを用いたゴルフクラブシャフトの実施例、比較例の積層構成及びその結果を表2に示す。実施例、比較例は各々3試験片について行ない、ねじれ度とねじり強度は3回の平均値、破壊位置は3回各々の数字を示した。
【0012】
【表1】


【0013】
【表2】


【0014】実施例1〜3はヘッド側バイアス層に用いている強化繊維が引張弾性率40トン/mm2 のPAN系炭素繊維で、グリップ側バイアス層に用いている強化繊維が引張弾性率65トン/mm2 のピッチ系炭素繊維の場合である。実施例4〜6はヘッド側バイアス層に用いている強化繊維が引張弾性率46トン/mm2 のPAN系炭素繊維で、グリップ側バイアス層に用いている強化繊維が引張弾性率80トン/mm2 のピッチ系炭素繊維の場合である。実施例7〜9はヘッド側バイアス層に用いている強化繊維が引張弾性率50トン/mm2 のPAN系炭素繊維で、グリップ側バイアス層に用いている強化繊維が引張弾性率80トン/mm2のピッチ系炭素繊維の場合である。また、実施例1,4,7は強化繊維がPAN系炭素繊維であるヘッド側バイアス層がシャフト先端から335mmにまでわたり(シャフト先端から265mmまで±2PLYで、先端から265mmから335mmの範囲で±2PLYから0PLYに変化している)、実施例2,5,8は強化繊維がPAN系炭素繊維であるヘッド側バイアス層がシャフト先端から438mmにまでわたり(シャフト先端から362mmまで±2PLYで、先端から362mmから438mmの範囲で±2PLYから0PLYに変化している)、実施例3,6,9は強化繊維がPAN系炭素繊維であるヘッド側バイアス層がシャフト先端から540mmにまでわたっている(シャフト先端から460mmまで±2PLYで、先端から460mmから540mmの範囲で±2PLYから0PLYに変化している)。比較例はいずれもバイアス層に1種の炭素繊維のみを使用したものである。
【0015】実施例1,4,7は強化繊維がPAN系炭素繊維であるヘッド側バイアス層がシャフト先端から335mmにまでわたっている場合であるが、いずれの場合もピッチ系炭素繊維をバイアス層に単独で使用した比較例1,2と比べて、ねじり強度が50%以上向上している。また、ねじれ度については、ピッチ系65トン/mm2 炭素繊維とPAN系40トン/mm2 炭素繊維を組合わせた実施例1は、PAN系50トン/mm2 炭素繊維を単独で用いた比較例5と同等のねじれ度を実現している。ピッチ系80トン/mm2 炭素繊維とPAN系46,50トン/mm2 炭素繊維を組合わせた実施例4,7はねじれ度が3.5度と大変小さく、PAN系60トン/mm2 炭素繊維を単独で用いた比較例5よりも小さいねじれ度を実現している。
【0016】実施例2,5,8は強化繊維がPAN系炭素繊維であるヘッド側バイアス層がシャフト先端から438mmにまでわたっている場合であるが、いずれの場合もPAN系炭素繊維をバイアス層に単独で使用した比較例3,4,5と同等のねじり強度を実現している。ねじれ度については、実施例2,5,8は実施例1,4,7よりも若干大きくなっているが、実施例2はPAN系46トン/mm2 炭素繊維を単独で用いた比較例4よりも小さいねじれ度、実施例5はPAN系60トン/mm2 炭素繊維を単独で用いた比較例7と同等のねじれ度、実施例8はPAN系60トン/mm2 炭素繊維を単独で用いた比較例7よりも小さいねじれ度を実現しており、低ねじれ化も十分になされていることがわかる。
【0017】実施例3,6,9は強化繊維がPAN系炭素繊維であるヘッド側バイアス層がシャフト先端から540mmにまでわたっている場合であるが、いずれの場合もPAN系炭素繊維をバイアス層に単独で使用した比較例3,4,5と同等のねじり強度を実現している。低ねじれ化については、実施例1,4,7や実施例2,5,8と比較すると若干劣るが、低ねじれ化の効果は十分に発現していると考えられる。
【0018】破壊位置についてみると、実施例1,4,7ではバイアス層がピッチ系炭素繊維のみの部分でシャフト径が最も小さい部分で破壊しているが、実施例2,5,8の場合は前記の破壊位置に加え、バイアス層がPAN系炭素繊維単独であるシャフト先端側の位置でも破壊が生じている。したがって、実施例2,5,8の場合よりPAN系炭素繊維ヘッド側バイアス層の割合を増やしてもねじり強度は向上しないと考えられ、実際、PAN系炭素繊維ヘッド側バイアス層の割合を増やした実施例3,6,9は実施例2,5,8の場合と同等のねじり強度である。また、ねじれ度については、PAN系炭素繊維ヘッド側バイアス層の割合が少ないほど、つまり高弾性率のピッチ系炭素繊維の使用割合が多いほど小さくなる。したがって、ねじり強度と低ねじれ度の両立という観点から考えると、今回の実施例の範囲では実施例2,5,8が最も好ましいと考えられる。
【0019】重量については、本実施例のシャフトは52gと大変軽量である。これは、本発明は低ねじれ化されたゴルフシャフトでありながら高強度繊維によるねじり強度の補強が不要なためであり、本発明は軽量化にも大変有効である。
【0020】
【発明の効果】本発明のゴルフクラブシャフトは、ねじり強度が十分あり、かつ軽量で、しかも効率的に低ねじれ化されたゴルフシャフトを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例に係わるゴルフクラブシャフトの成形方法の一例を示す説明図。
【図2】ねじれ度及びねじり強度測定用試験片の形状の説明図。
【符号の説明】
1 マンドレル
2 ヘッド側バイアス層
3 グリップ側バイアス層
4 ハイブリッドバイアス層
5 ストレート層
6 ねじれ度及びねじり強度測定用試験片
7,7′ ガラスクロスプリプレグ
8 固定ピン差し込み穴
a,b ガラスクロスプリプレグを設けた距離
c 穴8の先端からの距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】 シャフトの長手方向に対して強化繊維が傾斜して配列されたバイアス層が強度の異なる2種類以上の強化繊維を含むゴルフクラブシャフトであって、前記バイアス層の強化繊維がヘッド側において圧縮強度の高い繊維の割合が高く、グリップ側において圧縮強度の低い繊維の割合が高いことを特徴とするゴルフクラブシャフト。
【請求項2】 バイアス層の強化繊維がグリップ側ほど引張弾性率の高い繊維である請求項1記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項3】 バイアス層に用いられる2種類以上の強化繊維のうち、圧縮強度が最も高い強化繊維をヘッド側先端から500mmまでに含む請求項1又は2記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項4】 バイアス層のヘッド側の強化繊維にPAN系炭素繊維を含み、グリップ側の強化繊維にピッチ系炭素繊維を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載のゴルフクラブシャフト。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開平8−224329
【公開日】平成8年(1996)9月3日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−33851
【出願日】平成7年(1995)2月22日
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)