説明

ゴルフクラブヘッドの製造方法

【課題】ボールへの摩擦力を損ねることなくフェースラインからの異物の排出性を向上させる。
【解決手段】 ボールを打撃するフェースを有するゴルフクラブヘッドを製造する方法であって、前記フェースに、主面から突出する凸部を有する刻印型の前記凸部を押し込むことにより、少なくとも1本のフェースライン8が刻印された第1の表面を形成する工程と、前記第1の表面にめっき層を形成することにより前記フェースライン8の表面の算術平均粗さRalが0.20μm以下とされた第2の表面を形成する工程と、前記第2の表面のフェースラインのみをマスキング材14で覆って第3の表面を得る工程と、前記第3の表面に砥粒pを衝突させることにより、前記フェースのフェースライン8を除いた部分の表面の算術平均粗さを0.20μmよりも大に粗面化する工程と、前記粗面化後にフェースライン8のマスキング材14を取り除く工程とを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールを打撃するフェースにフェースラインが設けられたゴルフクラブヘッドに関し、詳しくはボールへの摩擦力を損ねることなくフェースラインからの異物の排出性を向上させたゴルフクラブヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフクラブヘッドは、ボールを打撃するフェースを有する。該フェースには、ボールとの摩擦力を高めるために、トウ・ヒール方向にのびるフェースラインと呼ばれる溝が複数本隔設される。フェースラインは、そのエッジによってボールとの摩擦力を高め、ひいては打球のバックスピン量を増加させる。
【0003】
ゴルフプレー中、水分、泥土、芝及び/又はボール表面のカバー材料等の異物がフェースラインに詰まることがある。これらの異物がフェースラインに詰まったままボールを打撃すると、フェースラインのエッジが有効に機能せず、フェースとボールとの間の摩擦力が低下する。これにより、打球のバックスピン量が低下し、ひいては飛距離がばらつくという問題がある。
【0004】
特に飛距離の安定性が重視されるアイアン型ゴルフクラブ、とりわけ直接グリーンを狙う頻度の高いショートアイアンにおいては、このような飛距離のバラツキは重大な問題となる。関連する文献としては、次のものがある。
【0005】
【特許文献1】特開2007−301017号公報
【特許文献2】特開2001−321469号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上のような実情に鑑み案出なされたもので、フェースの打撃平面及びフェースラインの表面をともにめっき層で覆うとともに、これらの算術平均粗さを一定範囲に規定することを基本として、ボールへの摩擦力を十分に確保しつつフェースラインから異物を容易に排出させ得るゴルフクラブヘッドの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のうち請求項1記載の発明は、ボールを打撃するフェースを有するゴルフクラブヘッドを製造する方法であって、前記フェースに、主面から突出する凸部を有する刻印型の前記凸部を押し込むことにより、少なくとも1本のフェースラインが刻印された第1の表面を形成する工程と、前記第1の表面にめっき層を形成することにより前記フェースラインの表面の算術平均粗さRalが0.20μm以下とされた第2の表面を形成する工程と、前記第2の表面のフェースラインのみをマスキング材で覆って第3の表面を得る工程と、前記第3の表面に砥粒を衝突させることにより、前記フェースのフェースラインを除いた部分の表面の算術平均粗さを0.20μmよりも大に粗面化する工程と、前記粗面化後にフェースラインのマスキング材を取り除く工程とを含むことを特徴とする。
【0008】
また請求項2記載の発明は、前記第1の表面を形成する工程に先立ち、前記フェースに、溝深さが0.005〜0.025mm、溝幅が0.10〜0.50mm及び傾斜角度が40〜70度で開口部に向かって拡幅する一対の溝壁面を有する少なくとも1本の補助溝を凹設する工程を含むとともに、前記第3の表面を得る工程は、流動状態のマスキング材を第2の表面に塗布するとともに、該マスキング材の硬化前に前記フェースラインに充填されたマスキング材以外を拭き取ることを特徴とする請求項1記載のゴルフクラブヘッドの製造方法である。
【0009】
また請求項3記載の発明は、前記第1の表面を形成する工程は、前記主面をフェースに接触させることなく前記凸部のみをフェースに押し込んでフェースラインを形成することを特徴とする請求項1又は2記載のゴルフクラブヘッドの製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の製造方法で得られるゴルフクラブヘッドは、ボールを打撃するフェースが、打撃平面と、この打撃平面から凹む少なくとも1本のフェースラインとを含む。それらの表面は、ともにめっき層により覆われているが、打撃平面のめっき層は、砥粒を衝突させることにより表面の算術平均粗さRafが0.20μmよりも大に粗面化された粗面部を具える。従って、ボール打撃時、粗面部はボールとの摩擦力を高め、打球に十分なバックスピンを与えることができる。
【0011】
また、上記ゴルフクラブヘッドでは、フェースラインのめっき層が、表面の算術平均粗さRalが0.20μm以下の平滑部を具える。このようなフェースラインは、その表面の摩擦係数が小さくなるので、該フェースライン中に異物が進入しても、例えばスイング時の振動等により異物が比較的速やかに排出される。従って、本発明のゴルフクラブヘッドは、フェースラインの目詰まりを効果的に防止でき、打球のバックスピン量の低下を抑えて安定した飛距離が得られる。
【0012】
そして、本発明のゴルフクラブヘッドの製造方法では、上記ゴルフクラブヘッドを能率良く製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1は本実施形態のゴルフクラブヘッド1の基準状態における正面図、図2はそのA−A拡大断面図、図3は図2の要部拡大図をそれぞれ示す。
【0014】
前記ゴルフクラブヘッドの「基準状態」とは、シャフト軸中心線CLを任意の垂直面VP(図2に示す)内に配しかつ規定のライ角αで傾けるとともに、前記垂直面VPに対してフェース2をそのロフト角βに傾けて水平面HPに載置した状態とする。
【0015】
また、特に言及されていない場合、クラブヘッド1はこの基準状態にあるものとして説明される。例えば、クラブヘッド1に関し上、下(高、低)の方向は、前記基準状態での上、下(高、低)を意味し、前、後の方向は、フェース2側が前、背面6側が後をそれぞれ意味する。また、トウ・ヒール方向とは、前記垂直面VPと平行な水平方向とする。
【0016】
図において、本実施形態のゴルフクラブヘッド(以下、単に「ヘッド」又は「クラブヘッド」ということがある。)1は、前面にボールを打撃するフェース2を有するヘッド本体部1Aと、このヘッド本体部1Aのヒール側に一体に形成され図示しないシャフトが装着されるシャフト差込孔hを有するホーゼル部1Bとから構成されたアイアン型のものが例示される。
【0017】
なお、クラブヘッド1にシャフトが装着されていない場合、上記シャフト軸中心線CLには、ホーゼル部1Bのシャフト差込孔hの中心線が代用される。
【0018】
本実施形態のクラブヘッド1は、全体が金属材料から構成される。前記金属材料としては、例えば炭素鋼、ステンレス、チタン合金又はマレージング鋼などが望ましい。そして、これらの金属材料を例えば鋳造又は鍛造することにより、クラブヘッド1が製造される。また、本実施形態のクラブヘッドは、1種類の金属材料で形成されるが、例えば2種以上の金属材料を複合して形成されても良い。
【0019】
前記ヘッド本体部1Aは、前記フェース2と、該フェース2の上縁に連なりかつトウ側からヒール側に下に向かって傾斜ししかもヘッド上部を構成するトップ面3と、前記フェース2の下縁に連なってトウ・ヒール方向にほぼ水平にのびしかもヘッド底面を構成するソール面4と、このソール面4と前記トップ面3との間を滑らかに湾曲して継ぐことによりヘッドの先端部を構成するトウ面5と、フェース2の反対側の面である背面6とで実質的に区画される。
【0020】
図2に示されるように、フェース2は、打撃平面7と、該打撃平面7に凹設された少なくとも1本、本実施形態では複数本のフェースライン8とから構成される。
【0021】
本実施形態の打撃平面7は、マクロ的に見て実質的に単一の平面を形成し、フェース2の表面からフェースライン8を除いた部分である。
【0022】
前記フェースライン8は、ゴルフ規則の付属規則IIの「5c インパクトエリアマーキング」の(i)項に記載されている溝の規定を満たすものとし、本明細書では、さらに溝深さの下限を0.15mmとする。従って、本明細書で言うフェースライン8は、次のような寸法を有するものとして定義される。
・溝幅W2:30度測定法(R&Aテスト内規)で0.9mm以下
・溝深さD2:0.15〜0.508mm
・溝の横断面:左右対称で収束しない側面をもつ
・溝は直線かつ平行
・溝の幅、間隔、横断面は同一
・溝の縁の丸みの半径が0.508mm以下の円形状
・隣接する溝の端と端の間隔は、溝幅の3倍以上かつ1.905mm以上
【0023】
図1及び2から明らかなように、フェースライン8は、トウ・ヒール方向にのびるとともに、上下に間隔を設けて設けられる。ここで、「トウ・ヒール方向にのびる」フェースライン8とは、前記基準状態において、肉眼でフェースライン8を観察したときにほぼトウ・ヒール方向に沿っていると理解される程度で十分である。これは、ボール打撃時、クラブヘッド1は基準状態に正しく戻らないことからも当然である。このような観点より、フェースライン8は、基準状態のトウ・ヒール方向に対して少なくとも±4度程度で傾斜していても良い。
【0024】
本実施形態のゴルフクラブヘッド1のフェース2は、図3に示されるように、その全域がめっき層10により覆われている。即ち、前記打撃平面7及びフェースライン8の表面がともにめっき層10で覆われている。めっき層10は、フェース2の表面に形成された薄膜の金属層である。本実施形態のめっき層10は、Ni−Crからなる。このようなめっき層10は、フェース2の表面の腐食を抑えるとともに、フェース2を見栄え良く仕上げ、かつ、耐摩耗性を向上させるのに役立つ。また、めっき層10は、処理直後では、フフェース2の表面の微細な凹凸を埋めて平滑化するのに有効である。
【0025】
前記めっき層10には、種々の金属材料を採用することができ、例えばニッケル、クロム、亜鉛、コバルト、銅、銀等が挙げられ、中でも防錆性に優れかつ硬度が高いという理由により、ニッケル、クロム、及び/又はコバルトなどが好ましい。
【0026】
また、めっき層10の厚さtmは、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、さらに好ましくは15μm以上が望ましく、また、好ましくは40μm以下、より好ましくは35μm以下、さらに好ましくは30μm以下が望ましい。前記厚さtmが小さすぎると、充分な防錆効果が得られず、錆が発生し易くなるおそれがあり、逆に大きすぎると、めっき層が剥がれ易くなる傾向がある。
【0027】
また、打撃平面7のめっき層10は、砥粒を衝突させることにより表面の算術平均粗さRafが0.20μmよりも大に粗面化された粗面部7aを具える。従って、本実施形態のヘッド1は、ボール打撃時、粗面部7aがボールとの摩擦力を高め、打球に十分なバックスピンを与えることができる。なお、上記「砥粒を衝突させる」とは、例えばサンドブラスト、ショットピーニング又はグリットブラスト等、被加工物に研掃材を衝突させる各種の表面処理加工を意味する。
【0028】
一方、フェースライン8のめっき層10は、表面の算術平均粗さRalが0.20μm以下の平滑部12を具える。このようなフェースライン8は、その表面の摩擦係数が小さくなるので、該フェースライン8中に異物が進入しても、例えばスイング時の振動等により異物がひっかかることなく比較的速やかに排出され得る。従って、本実施形態のクラブヘッド1は、連続して打球された場合でもフェースライン8の目詰まりを効果的に防止でき、打球のバックスピン量の低下を抑えて安定した飛距離を実現することができる。
【0029】
特に、飛距離の安定性が重視されるアイアン型ゴルフクラブ、とりわけ打球のバックスピン量が多いウエッジ等のショートアイアンに本発明を適用した場合、より安定した飛距離を発揮できる。前記ショートアイアンとしては、具体的には、ロフト角が30度以上、より好ましくは35度以上、さらに好ましくは40度以上のものが好適である。ただし、ロフト角が著しい大きいクラブヘッドでは、ボールがフェース上を滑ってしまうことが多いので、前記ロフト角は、好ましくは70度以下、より好ましくは65度以下、さらに好ましくは60度以下が望ましい。
【0030】
本明細書において、前記「算術平均粗さ」は、JIS B0601:2001の「製品の幾何特性仕様(GPS)−表面性状:輪郭曲線方式−用語、定義及び表面性状パラメータ」の4.2.1項に定義される”輪郭曲線を粗さ曲線とする算術平均粗さ”を意味する。
【0031】
また、算術平均粗さの測定方法は、JIS B0633:2001の「製品の幾何特性仕様(GPS)−表面性状:輪郭曲線方式−表面性状評価の方式及び手順」の7.「触針式表面粗さ測定機による評価の方式及び手順」に基づいて定められる。
【0032】
なお、本実施形態では、打撃平面7の粗面部7aの算術平均粗さRafは、スイートスポットSSを中心とする半径5mmの円Rの内側の領域を対象として測定されている。
【0033】
前記粗面部7aの算術平均粗さRafが0.20μm以下の場合、表面が平滑化されてしまい、ボールとの摩擦力が小さくなって打球に十分なバックスピン量を与えることができない。よって、粗面部7aの算術平均粗さRafは、より好ましくは0.25μm以上、さらに好ましくは0.30μm以上が望ましい。
【0034】
他方、粗面部7aの算術平均粗さRafが大きくなると、バックスピン量に関しては申し分ないが、摩擦力が過度に大きくなってボール表面に傷がつきやすくなる。よって、粗面部7aの算術平均粗さRafは、好ましくは0.55μm以下、より好ましくは0.50μm以下、さらに好ましくは0.45μm以下が望ましい。
【0035】
一つの実施形態では、打撃平面7の全てが粗面部7aで構成される。この実施形態では、ミスショット時などを含めてより広い領域でボールと粗面部7aとを接触させ、バックスピン量を安定させることができる。
【0036】
他の実施形態では、打撃平面7のめっき層10の一部だけが粗面部7aで形成される。例えば、粗面部7aは、打点として最も好ましいとされるスイートスポットSS(ヘッド重心Gからフェース2に下ろした法線Nとフェース2との交点)を含んだフェース2の中央領域に設けられるのが望ましい。これにより、粗面部7aとボールとの接触機会を効果的に増加させ、ひいては打球に十分なバックスピン量を与えることができる。
【0037】
特に限定されるわけではないが、粗面部7aは、スイートスポットSSを通るフェース2と直角な垂直面CPからトウ、ヒール側にそれぞれ3mm以上、より好ましくは5mm以上、さらに好ましくは8mm以上、特に好ましくは10mm以上の領域X、Xに形成されるのが望ましい。
【0038】
なお、本実施形態の打撃平面7には、粗面部7aのトウ側及びヒール側に、算術平均粗さ0.2μm以下の平滑部7bが形成される。つまり、本実施形態のクラブヘッド1の打撃平面7は、粗面部7aと、平滑部7bとを含んで構成される。
【0039】
上記平滑部7bは、例えば鏡面状の仕上げ面で構成され、平滑部7bと粗面部7aとの間には、表面粗さの違いにより、上下にのびるトウ側のバーチカルラインL1及びヒール側のバーチカルラインL2が形成される。
【0040】
このような平滑部7bは、クラブヘッド1の意匠性を向上する他、バーチカルラインL1、L2間の領域が好ましい打球エリア(粗面部7a)であることをゴルファに認識させるのにも役立つ。なお、本実施形態では、フェースライン8が、前記バーチカルラインL1、L2間をはみ出すことなくのびているが、その外側に設けられても良いのは言うまでもない。
【0041】
図4(a)及び(b)には、フェースライン8の拡大断面図が示される。ここで、上記「フェースライン8のめっき層10」とは、フェースライン8の溝底8a及びその両側をのびる一対の溝壁面8bの各表面に形成されためっき層を意味する。従って、フェースライン8のめっき層10の算術平均粗さRalは、本明細書では、溝底8a表面の算術平均粗さと、その両側をのびる一対の溝壁8b表面の算術平均粗さとをそれぞれ溝の長手方向に沿って測定し、それらの平均値として求められるものとする。
【0042】
前記フェースライン8のめっき層10の平滑部12は、算術平均粗さRalが0.20μm以下に設定されるが、より好ましくは0.15μm以下、さらに好ましくは0.13μm以下が望ましい。他方、前記平滑部12の算術平均粗さRalが小さすぎると、加工が困難となって製造コストが上昇するおそれがある。よって、フェースライン8の平滑部12の算術平均粗さRa1は、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.08μm以上、さらに好ましくは0.10μm以上が望ましい。
【0043】
特に、フェースライン8のめっき層10の平滑部12の算術平均粗さRalと、前記打撃平面7の粗面部7aの算術平均粗さRafとの比(Ral/Raf)は、好ましくは0.80以下、より好ましくは0.70以下、さらに好ましくは0.50以下が望ましい。前記比(Ra1/Raf)を小さくすることにより、より一層フェースライン8からの異物の排出性を高めることができる。なお、前記比(Ra1/Raf)の下限は、好ましくは0.10以上、より好ましくは0.15以上、さらに好ましくは0.20以上が望ましい。前記比(Ra1/Raf)が0.10未満になると、フェースライン8の加工コストが増加し、生産性を悪化させるおそれがある。
【0044】
また、フェースライン8の溝深さD2が相対的に小さくなると、主に水分や泥といった異物をフェースライン8内に十分に収容しきれず、ひいては打球に十分なバックスピンが得られないおそれがある。よって、フェースライン8の溝深さD2は、好ましくは0.20mm以上、より好ましくは0.25mm以上、さらに好ましくは0.30mm以上が望ましい。逆に、フェースライン8の溝深さD2が相対的に大きくなると、加工が困難になって製造コストが上昇するおそれがある。よって、フェースライン8の溝深さD2は、好ましくは0.50mm以下、より好ましくは0.45mm以下、さらに好ましくは0.40mm以下が望ましい。
【0045】
また、フェースライン8の溝幅W2が相対的に小さくなると、上記同様、主に水分や泥といった異物をフェースライン8内に十分に収容しきれず、ひいては打球に十分なバックスピンが得られないおそれがある。よって、フェースライン8の溝幅W2は、好ましくは0.30mm以上、より好ましくは0.40mm以上、さらに好ましくは0.50mm以上が望ましい。逆に、フェースライン8の溝幅W2が相対的に大きくなると、平らな打撃平面7の面積が低下するおそれがある。よって、フェースライン8の溝幅W2は、好ましくは0.90mm以下、より好ましくは0.80mm以下、さらに好ましくは0.70mm以下が望ましい。
【0046】
さらに、隣り合うフェースライン8、8の溝間隔P2(図3に示されるように、フェースライン8の中心線8CL間の距離)が小さすぎると、打撃平面7の面積が低下するおそれがある。よって、フェースライン8の溝間隔P2は、好ましくは2.5mm以上、より好ましくは3.0mm以上、さらに好ましくは3.3mm以上が望ましい。逆に、フェースライン8の溝間隔P2が大きくなると、排水効果が低下して雨天時のプレーにおいて、打球のバックスピン量が低下するおそれがある。よって、フェースライン8の溝間隔P2は、好ましくは4.4mm以下、より好ましくは4.1mm以下、さらに好ましくは3.8mm以下が望ましい。
【0047】
フェースライン8の横断面積は、小さすぎると排水効果が低下しやすく、逆に大きすぎると異物が詰まりやすくなる。このような観点より、フェースライン8の横断面積は、好ましくは0.08mm2以上、より好ましくは0.09mm2以上、さらに好ましくは0.10mm2以上が望ましく、また、好ましくは0.45mm2以下、より好ましくは0.40mm2以下、さらに好ましくは0.38mm2以下が望ましい。
【0048】
図4に示されるように、フェースライン8の溝壁面8bの傾斜角度θ2は、好ましくは1度以上、より好ましくは3度以上、さらに好ましくは5度以上が望ましい。前記傾斜角度θ2が小さすぎると、ボールが傷つきやすくなる傾向がある。逆に、前記傾斜角度θ2が大きくなると、溝容積が低下する傾向がある。このような観点より、フェースライン8の側壁8bの傾斜角度θ2は、好ましくは30度以下、より好ましくは25度以下、さらに好ましくは20度以下が望ましい。
【0049】
なお、図4(a)には、傾斜角度θ2が30度、同図(b)には、傾斜角度θ2が1度の台形状の横断面を有するフェースライン8をそれぞれ示す。しかし、フェースライン8の横断面形状は、上述の台形状に限定されるものではなく、例えばV字状又は円弧状(ともに図示せず)など左右対称のものであれば種々の形状が採用できる。
【0050】
また、図4(a)、(b)に示されるように、フェースライン8の溝縁に丸み(円弧状の面取り)が形成されても良い。この場合、面取りの曲率半径raは、好ましくは0.12mm以上、より好ましくは0.13mm以上、さらに好ましくは0.14mm以上が望ましい。該曲率半径raが小さくなると、ボールが傷つきやすくなる傾向がある。逆に、前記曲率半径raが大きくなると、ボールに対する摩擦力が低下するおそれがある。このような観点より、前記曲率半径raは、好ましくは0.40mm以下、より好ましくは0.38mm以下、さらに好ましくは0.36mm以下が望ましい。
【0051】
なお、図4(a)に示されるように、フェースライン8の溝底8aと溝壁面8bとのコーナ部は鋭なままでも良いし、また図4(b)に示されるように、滑らかな円弧面で面取りされても良い。後者の場合、円弧の曲率半径rbも、好ましくは0.12mm以上、より好ましくは0.13mm以上、さらに好ましくは0.14mm以上が望ましい。該曲率半径rbが小さくなると、該コーナ部に異物が残存しやすくなる。逆に、前記曲率半径rbが大きくなると、フェースライン8の容積が低下して排水効果が低下するおそれがある。このような観点より、前記曲率半径rbは、好ましくは0.40mm以下、より好ましくは0.38mm以下、さらに好ましくは0.36mm以下が望ましい。
【0052】
図5及びそのB−B拡大断面図である図6には、本発明の他の実施形態のゴルフクラブヘッドが示される。また、図7には、図6の要部拡大図が示される。
【0053】
この実施形態において、前記フェース2は、打撃平面7と、この打撃平面7から凹む少なくとも1本のフェースライン8とを含み、かつ、打撃平面7には、フェースライン8よりも溝幅及び溝深さがともに小さい複数本の補助溝9がさらに設けられる。なお、理解しやすいように、図面には補助溝9が実寸よりも誇張して描かれている。
【0054】
本実施形態の補助溝9は、前記フェースライン8の表面を除いて、フェース2の実質的全域に設けられている。該補助溝9は、例えば一定の間隔P1でかつ互いに交差することなく設けられる。本実施形態の補助溝9は、ソール面4よりも下方に中心を有する多数の同心の円弧状でのびているが、波状や直線状であっても構わない。
【0055】
また、本実施形態の補助溝9の横断面は、図8(a)に拡大して示されるように、傾斜する実質的平坦な溝壁面9bと、打撃平面7と平行にのびる溝底9aとからなる略台形状で形成される。ただし、図8(b)に示されるように、溝壁面9bと溝底9aとの間を円弧で面取りされたものでも良い。
【0056】
また、補助溝9の表面も、打撃平面7及びフェースライン8と同様、めっき層10により覆われる。また、この補助溝9にも、打撃平面と同様、砥粒が衝突させられる。これにより、補助溝9の溝縁エッジは、凹凸に変形して粗面化される。なお、補助溝9の溝幅W1よりも小さい外径を有する砥粒を用いた場合には、補助溝9の溝表面を形成するめっき層10も、算術平均粗さRasが0.20μmよりも大の粗面部13として形成することができる。
【0057】
このような補助溝9は、打撃平面7の粗面部7aとの相乗作用により、打球に安定してバックスピン量を与えることができる。また、補助溝9は、ボール表面(カバー)のひずみがフェースライン8付近に集中するのを防ぎ、該ひずみを広く分散させる。これによりボールの損傷を抑制しつつボールへの摩擦力を高めることができる。
【0058】
また、補助溝9は、図7に示されるように、溝深さD1が0.005〜0.025mm、溝幅W1が0.10〜0.50mm及び傾斜角度θ1が40〜70度で開口部に向かって拡幅する一対の溝壁面9bを有するのが望ましい。このような断面寸法は、この実施形態のゴルフクラブヘッドを製造する際に重要な意味を持つ。これについては後述する。
【0059】
次に、図5〜7に示した補助溝9を有する実施形態のゴルフクラブヘッド1を例に挙げ、その製造方法について述べる。
【0060】
先ず、例えば鍛造又は鋳造等により成形されたクラブヘッド1のフェース2に、補助溝9を凹設する工程が行われる。フェース2の表面は、例えばミリーング等で仮仕上げされることが望ましい。
【0061】
本実施形態では、図9(a)に示されるように、フェース2に、金型M1を押圧するプレス工程が行われる。前記金型M1は、例えば単一の平面をなす主面Cと、該主面Cから突出しかつ前記補助溝9の反転形状からなる小凸部T1とを含む成形面を有する。そして、このような成形面を有する金型M1をフェース2に押し付けることにより、フェース2の表面に多数の補助溝9が凹設される。この補助溝9の寸法は、上述の範囲に定められるのが望ましい。
【0062】
次に、図9(b)及び(c)に示されるように、補助溝9が形成されたフェース2に、刻印型M2を押し付けてフェースライン8が形成された第1の表面S1を形成する工程が行われる。刻印型M2は、単一の平面からなる主面Cと、該主面Cから突出する凸部T2を含む成形面を有する。そして、刻印型M2の凸部T2をフェース2に対して垂直に押し込んでフェースライン8が刻印される。
【0063】
好ましい実施形態では、刻印型M2は、凸部T2のみをフェース2に接触させる。即ち、刻印型M2の押し下げ量を規制することにより、刻印型M2の凸部T2、T2間の主面Cは、フェース2の表面と接触することなく該フェース2と隙間gを有した状態に保持される。このような工程により、図9(c)のように、先に形成した補助溝9を主面Cで押し潰すことなしにフェースライン8を刻印できる。
【0064】
なお、先にフェースライン8を形成し、その後に補助溝9を形成すると、補助溝9がフェースライン8のエッジなどを凹凸化させ、著しく見栄えを損ねるため好ましくないが、この実施形態の方法では、補助溝9を先に形成し、その後にフェースライン8が刻印されることにより、該フェースライン8の縁やコーナ部のエッジなどをシャープに見映え良く形成できる点で好ましい。
【0065】
また、前記刻印型M2の凸部T2の表面の算術平均粗さRatは、好ましくは0.03μm以上、より好ましくは0.05μm以上が望ましく、また、好ましくは0.2μm以下、より好ましくは0.15μm以下とするのが良い。このような表面粗さを有する凸部T2をフェース2に対して垂直に押し下げて刻印することにより、刻印と同時にフェースライン8の表面の算術平均粗さRa1を0.20μm以下に平滑化するのに役立つ。なお、フェースライン8の刻印の後、フェースライン8の表面をさらに研磨して、その算術平均粗さRa1を平滑化しても良い。
【0066】
次に、図10に示されるように、前記第1の表面S1にめっき層10を形成することにより、少なくともフェースライン8の表面の算術平均粗さRalが0.20μm以下となる第2の表面S2を形成する工程が行われる。めっき層10は、フェースライン8の表面の微細な凹凸を覆うことにより該表面をさらに平滑化し、その算術平均粗さRalを確実に0.20μm以下に形成するのに役立つ。なお、めっき層10は、慣例に従って種々の方法で形成することができ、例えば電気めっき、無電解めっき、溶融めっき、分散めっき又は陽極酸化などを挙げることができる。
【0067】
次に、第2の表面S2のフェースライン8のみをマスキング材14で覆った第3の表面S3を得る工程が行われる。この工程は、例えば図11(a)に示されるように、第2の表面S2全域に、マスキング材14を均一に塗布するとともに、同図(b)に示されるように、マスキング材14が硬化する前に、フェースライン8に充填されたマスキング材14のみを残すように拭き取ることで行われる。
【0068】
前記マスキング材14としては、塗布時に液状のものが好適であり、例えばアクリル系、シリコーン系、エステル系、合成ゴム系等種々のタイプが採用できる。とりわけ、空気中の水分と反応して硬化を開始する反応型のマスキング材、とりわけシリコーン系又はアクリル系のマスキング材が特に好適である。
【0069】
塗布時のマスキング材14の粘度は、特に限定されるものではないが、小さすぎると、フェース2上にマスキング材14を塗布した際に流れやすくなり、安定した塗布作業を行うことができないおそれがある。逆にマスキング材14の粘度が大きすぎると、フェースライン8の内部等にスムーズに充填されないおそれがある他、拭き取り時に補助溝9の中から掻き出し難くなるおそれがある。このような観点より、マスキング材14の粘度は、好ましくは3Pa・s以上、より好ましくは5Pa・s以上、さらに好ましくは10Pa・s以上が望ましく、また、好ましくは70Pa・s以下、より好ましくは60Pa・s以下、さらに好ましくは50Pa・s以下が望ましい。なお、マスキング材の粘度は、B型回転粘度計により25℃雰囲気下で測定された値とする。
【0070】
また、発明者らは、種々の実験の結果、補助溝9の溝幅W1、溝深さD1及び溝壁面の傾斜角度θ1を上述の範囲に規制した場合、図11(b)に示されるように、布等の柔軟なウエス15をフェース2の表面に押圧して拭き取るという単純な作業により、補助溝9の中から硬化前のマスキング材14を容易に排出させ得ることを知見した。従って、補助溝9の寸法は、フェース2の摩擦力の向上のみならず、マスキング材14の除去工程を能率化する上でも重要になる。
【0071】
前記補助溝9の溝深さD1が0.005mm未満、溝幅W1が0.10mm未満又は溝壁面の傾斜角度θ1が70度よりも大の場合、フェース2の摩擦力を十分に高める効果が得られないおそれがある。逆に、補助溝9の溝深さD1が0.025mmよりも大、溝幅W1が0.50mmよりも大又は溝壁面の傾斜角度θ1が40度よりも小の場合、マスキング材14の拭き取り作業において、補助溝9の内部にマスキング材14が残りやすく、ひいては補助溝9の表面に砥粒を直接衝突させて表面を荒らすことが困難になる。
【0072】
以上のような観点より、補助溝9の溝深さD1は、好ましくは0.010mm以上、より好ましくは0.015mm以上が望ましく、また、好ましくは0.023mm以下、より好ましくは0.020mm以下が望ましい。
【0073】
同様に、補助溝9の溝幅W1は、好ましくは0.15mm以上、より好ましくは0.20mm以上が望ましく、また、好ましくは0.45mm以下、より好ましくは0.40mm以下が望ましい。
【0074】
同様に、前記傾斜角度θ1は、好ましくは45度以上、より好ましくは50度以上が望ましく、また、好ましくは60度以下、より好ましくは55度以下が望ましい。
【0075】
とりわけ、補助溝9の上記傾斜角度θ1は、フェースライン8の溝壁面の傾斜角度θ2よりも大きくすることが望ましく、とりわけこれらの角度の差(θ1−θ2)を20度以上、より好ましくは30度以上であるのが望ましい。これにより、例えば補助溝9の長手方向と直角にウエス15を動かす際に、フェースライン8からのマスキング材14の流出を抑えつつ補助溝9からの取り出し効果を高めうる。
【0076】
なお、上記角度の差(θ1−θ2)が大きくなると、補助溝9による摩擦力の向上効果が低下したり、フェースライン8のエッジによるボールの傷つきが生じやすくなるおそれがある。このような観点より、前記角度の差(θ1−θ2)は、好ましくは60度以下、より好ましくは50度以下、さらに好ましくは40度以下が望ましい。
【0077】
なお、補助溝9の溝壁面9bの傾斜角度θ1は、原則として溝底9aの円弧部分を除いた平面部分を基準に測定されるが、溝壁面9bがすべて曲線で構成されているときには、その平均角度とする。
【0078】
また、図7に示されるように、補助溝9の中心線9CL間の距離である補助溝の間隔P1が小さすぎると、打撃平面7の面積による打球のバックスピン量の低下が生じるおそれがあり、逆に大きすぎても、表面の凹凸による摩擦力の向上効果が期待できないおそれがある。このような観点より、補助溝9の間隔P1は、好ましくは0.30mm以上、より好ましくは0.35mm以上、さらに好ましくは0.40mm以上が望ましく、また、好ましくは0.70mm以下、より好ましくは0.65mm以下、さらに好ましくは0.60mm以下が望ましい。
【0079】
次に、図12に示されるように、第3の表面S3に砥粒pを衝突させる工程が行われる。これにより、マスキングされているフェースライン8を除いた部分、即ち打撃平面7と補助溝9の表面の算術平均粗さを0.20μmよりも大に粗面化することができる。なお、フェース2の表面の算術平均粗さは、砥粒pの粒子径や投射時間及び/又は投射速度を変えることにより調節できる。
【0080】
その後、フェースライン8のマスキング材14を取り除く工程が行われる。この工程は、例えば樹脂や木質材、フェース2のめっき層10の金属よりも軟質な材料からなるヘラ等でマスキング材14をフェースライン8から掻き取ることで容易に行うことができる。これにより、図7に示したように、打撃平面7及び補助溝9の各めっき層10は、砥粒の衝突により表面の算術平均粗さRaf、Rasが0.20μmよりも大に粗面化された粗面部7a及び13を具える一方、フェースライン8のめっき層10は、表面の算術平均粗さRalが0.20μm以下の平滑部12で形成されたフェース2を得ることができる。
【0081】
以上本発明の実施形態について説明したが、本発明は図示した具体的な実施形態に限定されるものではなく種々変形して実施しうるのは言うまでもない。例えば、フェースライン8の刻印は、押圧型によるものではなく、例えばNC等の切削加工等で行われても良いのは言うまでもない。また、ゴルフクラブヘッドは、アイアン型のみならず、ウッド型のものでも良い。
【実施例】
【0082】
表1に示す仕様に基づいて、ロフト角46度のアイアン型ゴルフクラブヘッド(ピッチングウエッジ)が試作され、それらについて各種の性能がテストされた。各実施例のクラブヘッドは、軟鉄(S25C)の鍛造により形成され、その後、プレス加工による補助溝の形成、刻印型によるフェースラインの形成、Ni−Crでのめっき処理、フェースラインのマスキング処理、サンドブラスト処理及びマスキング除去処理を順次行って仕上げられた。
【0083】
マスキング材には、ThreeBond社製のアクリル系の液状ガスケット(品番1141、粘度15Pa・s)が使用された。
【0084】
また、サンドブラスト処理は、平均粒度180μmのアルミナ系の研掃材を吹き付け空気圧0.3MPaで20秒間投射することにより行われた。
【0085】
他方、比較例は、上記工程からマスキング処理及びマスキング除去処理が省略された。このため、フェースラインの表面にもサンドブラストの砥粒の衝突により形成された粗面部が設けられている。
フェースラインの仕様は、次の通りであり、各例とも共通である。
【0086】
<フェースラインの仕様>
横断面形状:台形状
溝深さD2:0.35mm
溝幅W2:0.70mm
溝間隔P2:3.60mm
側壁面の傾斜角度θ2:15度
溝の縁の円弧の曲率半径ra:0.14mm
【0087】
<補助溝の仕様>
横断面形状:台形状
【0088】
<フェースライン刻印工程>
刻印型の凸部の表面の算術平均粗さ:0.05μm
また、テスト方法は次の通りである。
【0089】
<打球のバックスピン量>
各クラブヘッドにスチールシャフトを装着してアイアン型のゴルフクラブを試作し、ハンディキャップ0〜9の10名のゴルファが各ゴルフクラブでそれぞれ芝長さ約15mmのフェアウェイ上に直接置かれた3ピースゴルフボールを連続して30球ずつ打撃し、打球のバックスピン量がISGデンマーク社製の弾道追跡装置「トラックマン」にて測定された。なお、各例とも、フェアウェイの乾燥状態と、湿潤状態の双方のコンディションでテストが行われ、それぞれ最初の10球、中間の10球、最後の10球と3つのパートに区分し、各パートのバックスピン量の平均値が計算された。30球の打撃を通してバックスピン量の低下が少ないものほど良好であることを示す。なお湿潤状態は、乾燥状態でのテスト後、フェアウェイ30cm四方に500ccの水を均一に散布して擬似的な湿潤状態とした。
【0090】
<フェースラインの汚れ>
上記乾燥打撃、湿潤打撃のそれぞれのテスト直後において、フェースライン内に泥が詰まっている部分の長さが測定された。評価基準は、次の通りである。
○:泥が詰まっている部分の合計長さが30mm未満
△:泥が詰まっている部分の合計長さが30mm以上かつ100mm未満
×:泥が詰まっている部分の合計長さが100mm以上
【0091】
<マスキング後の仕上がり状態>
実施例のクラブヘッドをそれぞれ10ピース試作し、サンドブラスト後の打撃平面及び補助溝を肉眼で観察し、表面のブラスト斑模様の有無が確認された。このような斑模様はマスキング材の残留により生じる。従って、本テストは、補助溝の断面形状の差異がマスキング材の拭き取りに与える影響を比較するのに役立つ。評価は、斑模様の発生していたクラブヘッドの個数で示した。数値が小さいほど良好である。
テストの結果等は表1に示される。
【0092】
【表1】


【0093】
テストの結果、実施例のクラブヘッドは、比較例に比べて、バックスピン量の低下が少なくかつ異物の目詰まりも少ないことが確認できた。特に補助溝を有する実施例については、より優れた効果を発揮していることが確認できた。
【0094】
なお、補助溝の溝幅が0.03と大きい実施例4や、補助溝の溝壁面の傾斜角度θ1が30度以下の実施例5では、フェースの仕上がり状態にやや難があることが確認できた。これは、マスキング材が、拭き取り時に補助溝の内部から排出され難くなるためと考えられる。
【0095】
また、補助溝の溝壁面の傾斜角度を80度とした場合、特に湿潤時のバックスピン量の絶対値が低下することが確認できた。これは、補助溝のエッジ効果が低下するためと考えられる。
【0096】
一方、比較例では、フェースラインへの目詰まりがひどく、かつ、連続打撃によりバックスピン量の低下が大きいことが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の一実施形態を示すゴルフクラブヘッドの正面図である。
【図2】そのA−A断面図である。
【図3】図2の要部拡大図である。
【図4】(a)及び(b)はフェースラインの実施形態を示す断面図である。
【図5】本発明の他の実施形態を示すゴルフクラブヘッドの正面図である。
【図6】そのB−B断面図である。
【図7】図6の要部拡大図である。
【図8】(a)、(b)は補助溝の拡大断面図である。
【図9】(a)〜(c)は本実施形態のゴルフクラブヘッドの製造方法を説明する断面図である。
【図10】めっき処理後のフェースの拡大断面図である。
【図11】(a)及び(b)はマスキングの工程を説明する断面図である。
【図12】フェースに砥粒を衝突させる工程を説明する断面図である。
【符号の説明】
【0098】
1 ゴルフクラブヘッド
2 フェース
7 打撃平面
7a 打撃平面の粗面部
7b 平滑部
8 フェースライン
12 フェースラインの平滑部
9 補助溝
13 補助溝の粗面部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボールを打撃するフェースを有するゴルフクラブヘッドを製造する方法であって、
前記フェースに、主面から突出する凸部を有する刻印型の前記凸部を押し込むことにより、少なくとも1本のフェースラインが刻印された第1の表面を形成する工程と、
前記第1の表面にめっき層を形成することにより前記フェースラインの表面の算術平均粗さRalが0.20μm以下とされた第2の表面を形成する工程と、
前記第2の表面のフェースラインのみをマスキング材で覆って第3の表面を得る工程と、
前記第3の表面に砥粒を衝突させることにより、前記フェースのフェースラインを除いた部分の表面の算術平均粗さを0.20μmよりも大に粗面化する工程と、
前記粗面化後にフェースラインのマスキング材を取り除く工程とを含むことを特徴とするゴルフクラブヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記第1の表面を形成する工程に先立ち、前記フェースに、溝深さが0.005〜0.025mm、溝幅が0.10〜0.50mm及び傾斜角度が40〜70度で開口部に向かって拡幅する一対の溝壁面を有する少なくとも1本の補助溝を凹設する工程を含むとともに、
前記第3の表面を得る工程は、流動状態のマスキング材を第2の表面に塗布するとともに、該マスキング材の硬化前に前記フェースラインに充填されたマスキング材以外を拭き取ることを特徴とする請求項1記載のゴルフクラブヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記第1の表面を形成する工程は、前記主面をフェースに接触させることなく前記凸部のみをフェースに押し込んでフェースラインを形成することを特徴とする請求項1又は2記載のゴルフクラブヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−245352(P2011−245352A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199849(P2011−199849)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【分割の表示】特願2008−284613(P2008−284613)の分割
【原出願日】平成20年11月5日(2008.11.5)
【出願人】(504017809)SRIスポーツ株式会社 (701)
【Fターム(参考)】