説明

ゴルフクラブヘッド

【課題】ゴルフクラブヘッドにおけるキャビティバック設計の有効性を指示する基準を提案する。
【解決手段】パターヘッド1は、ヘッド本体2と、該ヘッド本体2のヒール側の上面から上方に突設されたホゼル部3とを有する。ヘッド本体2は、前面がフェース部2aとなっており、背面には凹所(キャビティ)2bが設けられている。凹所2bの全周囲にわたって凸条部2c,2d,2e,2fが設けられている。ヘッド本体2の背面の飛球線方向後方側からの投影図において、ヘッド本体2の投影面積をSとし、凹所2bの投影面積をSとした場合、S/Sの比が70〜90%好ましくは80〜90%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パター又はアイアン等のゴルフクラブヘッドに係り、特に背面に凹所を有したゴルフクラブヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
パター又はアイアンにあっては、ゴルフクラブヘッドの背面にキャビティと通称される凹所を設けることがある(例えば下記特許文献1〜4)。周知の通り、このような凹所を設け、凹所の周縁部に凸条部を設けるいわゆる重量周辺分散を行うことにより、ゴルフボールをヒットするフェース面におけるスイートエリアが大きくなる。
【特許文献1】特開2007−216061
【特許文献2】特開2001−190720
【特許文献3】特開平10−33731
【特許文献4】特開平7−213656
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記の通り、フラットなバック形状のものに比べて、背面に凹所を設けたキャビティバックタイプのゴルフクラブヘッドは、スイートエリアが広いものとなる。
【0004】
本発明は、ゴルフクラブヘッドにおけるキャビティバック設計の有効性を指示する基準を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1のゴルフクラブヘッドは、ホゼル部を有すると共に、背面に、フェース側へ凹陥する凹所が設けられ、該凹所の周囲が後方へ突出する凸条部となっているゴルフクラブヘッドにおいて、該ゴルフクラブヘッドの背面の飛球線方向後方側からの投影図において、ホゼル部以外のヘッド本体の投影面積Sに対する前記凹所の投影面積Sの比S/Sが70〜90%であることを特徴とするものである。
【0006】
請求項2のゴルフクラブヘッドは、請求項1において、S/Sが80〜90%であることを特徴とするものである。
【0007】
請求項3のゴルフクラブヘッドは、請求項1又は2において、ゴルフクラブヘッドはパターのゴルフクラブヘッドであることを特徴とするものである。
【0008】
請求項4のゴルフクラブヘッドは、請求項1又は2において、ゴルフクラブヘッドはアイアンのゴルフクラブヘッドであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
従来の重量周辺分散を目的としたキャビティバックタイプのヘッド裏面の凹所は、重量をヘッド重心から遠くに配分する目的で、ヘッド重心近傍となるヘッド裏面中央の肉を削り、その肉をヘッド裏面周辺に帯状に盛り上げるようにした結果、ヘッド裏面中央に形成されたものである。この重量周辺分散の効果は、盛り上げる肉の総重量が同じであるなら、帯の幅が狭く高くなるように盛り上げることにより、大きくなる。
【0010】
本発明では、飛球線方向後方側からの投影図において、上記比率S/Sを70〜90%と高くし、凹所の面積比を大きくしているので、重量周辺分散の効果が大きい。この比率S/Sを80〜90%とすれば、より効果的である。
【0011】
本発明のゴルフクラブヘッドは、パター、アイアン等に適用するのに好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。
【0013】
第1図(a)は実施の形態に係るゴルフクラブヘッドとしてのパターヘッドの後方かつ上方かつヒール側からの斜視図、第1図(b)は第1図(a)のB−B線断面図、第1図(c)は第1図(a)のC−C線断面図である。
【0014】
このパターヘッド1は、ヘッド本体2と、該ヘッド本体2のヒール側の上面から上方に突設されたホゼル部3とを有する。このホゼル部3にシャフト4が挿入され、接着剤で固定されることによりパターが構成される。
【0015】
このヘッド本体2は、前面がフェース部2aとなっており、背面には凹所(キャビティ)2bが設けられている。凹所2bの全周囲にわたって凸条部2c,2d,2e,2fが設けられている。凸条部2cはヘッド本体2の上縁に沿って延在し、凸条部2dはヒール部に沿って延在し、凸条部2eはソール部に沿って延在し、凸条部2fはトウ部に沿って延在している。
【0016】
この実施の形態では、凸条部2c〜2fは、フェース部2aの外周縁の裏面から飛球線方向後方側に立ち上がる環状壁として設けられている。
【0017】
このヘッド本体2の背面の飛球線方向後方側からの投影図において、ヘッド本体2の投影面積をSとし、凹所2bの投影面積をSとした場合、S/Sの比が70〜90%好ましくは80〜90%である。第1図(b),(c)におけるS,Sは、これらの投影面積の範囲を示している。なお、S,Sは高さやトウ・ヒール方向の長さではなく、投影面積の範囲を示している。即ち、投影面積Sは、凸条部2c〜2fの外周縁に囲まれる領域の投影面積であり、投影面積Sは凸条部2c〜2fの内周で囲まれた凹所2bの投影面積である。
【0018】
上記の飛球線方向とは、ヘッド本体をソールした状態におけるフェース面の法線の水平成分である。「後方側から」は、「ヘッドの後方から」を意味する。
【0019】
このように、S/Sを70〜90%好ましくは80〜90%と高くし、凹所2bを大きくしたことにより、重量周辺分散効果が大きく、ヘッド本体2のスイートエリアが大きいものとなる。
【0020】
なお、S/Sが90%よりも大きいと、凸条部2c〜2fの重量を多くするために凸条部2c〜2fの後方への突出長さが過大となってしまう。S/Sが70%よりも小さいと、重量周辺分散が小さくなる。S/Sが70〜90%特に80〜90%であると、凸条部2c〜2fの後方への突出長さが適切であり、しかも重量周辺分散効果が大きいものとなる。
【0021】
なお、この実施の形態に係るパターヘッド1の場合、フェース部2aの面積は1800〜3800mm特に2200〜3000mm程度が好適である。凸条部2c〜2eの肉厚は1〜4mm特に1〜3mm程度が好適である。凸条部2c〜2eの後方への突出長さ(凹所2bの深さ)は平均して3mm以上、例えば3〜20mm程度が好ましい。ただし、この数値は一例であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0022】
第1図では、凸条部2c〜2fの後方への突出長さは略均一であるが、上縁側の凸条部2cの後方への突出長さをソール側の凸条部2eよりも小さくしてもよい。ヒール側及びトウ側の凸条部2d,2fの後方への突出長さはソール側の凸条部2eよりも小さくしてもよく、大きくしてもよい。
【0023】
なお、第1図のゴルフクラブヘッド1において、フェース部2aが縦(上下方向長さ)25mm、トウ・ヒール方向長さ100mmの長方形状である場合、凸条部2c〜2fの肉厚に応じて上記S/Sは次の通りとなる。
肉厚1mmの場合、S/S=90.2%
肉厚2mmの場合、S/S=80.6%
肉厚3mmの場合、S/S=71.4%
【0024】
第1図のパターヘッドは全体として一様な金属材料にて構成されてもよく、フェース面を金属以外のゴム、合成樹脂、セラミックス、カーボン等で構成してもよい。また、凸条部の少なくとも一部にフェース部などよりも高比重の金属等よりなるウェイト材を埋設したり、取り付けたりしてもよい。フェース部等をアルミ、アルミ合金、チタン、チタン合金などで構成した場合、それよりも高比重の金属材料としては、タングステン、タングステン合金のほか、ベリリウム銅、真鍮、青銅などの銅合金が例示されるが、これに限定されない。
【0025】
第2図及び第3図はそれぞれ凸条部にウェイト材を設けた実施の形態に係るパターヘッドのヘッド本体の水平断面図であり、第1図(c)と同様部分の断面を示している。
【0026】
第2図のゴルフクラブヘッド10は、フェース部11a及び凸条部11bを有したメインパーツ11を含む本体と、該メインパーツに固着されたウェイト材12とを有している。凸条部11bはフェース部11aの背面の周縁部の全周にわたって後方へ延出している。
【0027】
この実施の形態では、ウェイト材12はメインパーツ11の背面の周縁に沿って周回する環状である。このウェイト材12のメインパーツ11側の外周縁に段差部12aが設けられ、この段差部12aが凸条部11bと係合している。ウェイト材12は接着剤による接着のほか、圧入、収縮嵌めなどによりメインパーツ11に固定されている。凸条部11の内側及びウェイト材12の内側が凹所(キャビティ)13である。
【0028】
この実施の形態では、図示の通り、ウェイト材12の外周面と凸条部11bの外周面とが面一状となっているので、飛球線方向後方側からの投影図におけるホゼル部以外のヘッド本体の投影面積Sは、ウェイト材12の外周の投影面積となる。また、凸条部11bの内周縁で囲まれた領域の投影面積がSである。第2図及び後述の第3図におけるS,Sは、投影面積の範囲を示すものであり、トウ・ヒール方向の長さを示すものではない。
【0029】
第3図のゴルフクラブヘッド20は、フェース部21a及び凸条部21bを有したメインパーツ21と、該メインパーツに固着されたウェイト材22とを有している。凸条部21bはフェース部21aの背面の周縁部の全周にわたって後方へ延出している。
【0030】
この実施の形態では、ウェイト材12は凸条部21bの内周面とフェース部21aの背面との交叉隅角部に沿って周回する環状である。ウェイト材22は接着剤による接着のほか、圧入、収縮嵌めなどによりメインパーツ21に固定されている。凸条部21bの内側及びウェイト材22の内側が凹所(キャビティ)23である。
【0031】
この実施の形態では、図示の通り、ウェイト材22は凸条部21bの後端よりも凹所23内に引っ込んでいる。凸条部21bの内周で囲まれた領域の投影面積がSとなる。また、飛球線方向後方側からの投影図におけるホゼル部以外のヘッド本体の投影面積Sは、凸条部21bの外周で囲まれた領域の投影面積となる。
【0032】
これらの第2,3図のパターヘッド10,20においても、S/Sを70〜90%特に80〜90%とすることにより、重量周辺分散が大きくなり、スイートエリアが広いものとなる。なお、第3図のパターヘッド20においては、ウェイト材22が凹所(キャビティ)23内に配置されており、第2図に比べて重量周辺分散効果が小さいので、S/Sを80〜90%とし、重量周辺分散効果を確保するのが好ましい。
【0033】
第2図〜第3図のパターヘッドの好ましい寸法は第1図の場合と同様である。
【0034】
第4図〜第7図は実施の形態に係るアイアンヘッドを示すものであり、第4図は正面図、第5図は背面図、第6図は第5図のVI−VI線断面図、第7図は第5図のVII−VII線断面図である。
【0035】
このアイアンヘッド30は、ヘッド本体31と、該ヘッド本体31のヒール側から上方へ突設されたホゼル部32とを有している。
【0036】
このヘッド本体31は、前面がフェース部31aとなっており、背面には凹所(キャビティ)31bが設けられている。凹所31bの全周囲にわたって凸条部31c,31d,31e,31fが設けられている。凸条部31cはヘッド本体31の上縁に沿って延在し、凸条部31dはヒール部に沿って延在し、凸条部31eはソール部に沿って延在し、凸条部31fはトウ部に沿って延在している。
【0037】
この実施の形態では、凸条部31c〜31fは、フェース部31aの外周縁の裏面から飛球線方向後方側に立ち上がる環状壁として設けられている。
【0038】
このヘッド本体31の背面の飛球線方向後方側からの投影図において、ヘッド本体31の投影面積をSとし、凹所31bの投影面積をSとした場合、S/Sの比が70〜90%好ましくは80〜90%である。前記の各実施の形態と同じく、第6,7図におけるS,Sは、これらの投影面積の範囲を示している。
【0039】
このように、S/Sを70〜90%好ましくは80〜90%と高くし、凹所31bを大きくしたことにより、重量周辺分散効果が大きく、ヘッド本体2のスイートエリアが大きいものとなる。
【0040】
なお、この実施の形態に係るアイアンヘッド1の場合、7番アイアンのフェース面31aの面積は3300〜3900mm特に3600〜3700mm程度が好適である。凸条部31c〜31eの後方への突出長さ(凹所31bの深さ)は平均して3mm以上、例えば3〜10mm程度が好ましい。ただし、この数値は一例であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0041】
なお、ソール状態において、上縁側の凸条部31cの後端をソール側の凸条部31eの後端よりも前方(フェース面側)としてもよく、後方としてもよい。
【0042】
第1図のゴルフクラブヘッドは全体として一様な金属材料にて構成されてもよく、フェース面をチタン、チタン合金等の低比重金属とし、ホゼル部32及び凸条部31c〜31fを含む周囲部をステンレス等の鉄系金属材料にて構成してもよい。また、凸条部の少なくとも一部特にソール側の凸条部31eに高比重の金属等よりなるウェイト材を埋設したり、取り付けたりしてもよい。ウェイト材の材料としてはタングステン、タングステン合金のほか、ベリリウム銅、真鍮、青銅などの銅合金が例示されるが、これに限定されない。
【実施例】
【0043】
実施例1
フェース面の正面視形状及び凹所の背面視形状がそれぞれ長方形状である他は第1図に示した構成のパターヘッドを次の寸法にて製作した。
フェース部のトウ・ヒール方向の長さ 100mm
フェース部の上下方向の長さ 25mm
ヘッド本体の前後方向の長さ 40mm
凹所(キャビティ)のトウ・ヒール方向の長さ 80mm
凹所(キャビティ)の上下方向の長さ 15mm
凸条部(上辺側)の肉厚 5mm
凸条部(ヒール側)の肉厚 10mm
凸条部(ソール側)の肉厚 5mm
凸条部(トウ側)の肉厚 10mm
【0044】
このパターヘッドの材料は、全体として比重4.8のチタン合金とした。
【0045】
このパターヘッドのS,S,S/S比及び重心を含む鉛直線回りの慣性モーメントのデータを表1に示す。
【0046】
実施例2
実施例1において、凸条部の後部側を高比重金属(比重8.6の銅合金)よりなるウェイト材にて構成した第2図に示す断面形状のパターヘッドを製作した。
【0047】
なお、凸条部のうちチタン合金製部分の前後方向長さは15mmであり、凹所の深さは実施例1と同じである。ウェイト材の肉厚(段差部を除く)は次の通りである。
上辺側 2.9mm
ヒール側 5mm
ソール側 2.9mm
トウ側 5mm
【0048】
このパターヘッドのデータを表1に示す。
【0049】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】実施の形態に係るパターヘッドの構成図である。
【図2】別の実施の形態に係るパターヘッドの断面図である。
【図3】さらに別の実施の形態に係るパターヘッドの断面図である。
【図4】実施の形態に係るアイアンヘッドの正面図である。
【図5】図5のアイアンヘッドの背面図である。
【図6】図5のVI−VI線断面図である。
【図7】図5のVII−VII線断面図である。
【符号の説明】
【0051】
1,10,20 パターヘッド
2,11,21 ヘッド本体
2a フェース面
2b,13,23 凹所(キャビティ)
2c〜2f,11b,21b 凸条部
3 ホゼル部
30 アイアンヘッド
31 ヘッド本体
31a フェース面
31b 凹所(キャビティ)
31c〜31f 凸条部
32 ホゼル部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホゼル部を有すると共に、背面に、フェース側へ凹陥する凹所が設けられ、該凹所の周囲が後方へ突出する凸条部となっているゴルフクラブヘッドにおいて、
該ゴルフクラブヘッドの背面の飛球線方向後方側からの投影図において、ホゼル部以外のヘッド本体の投影面積Sに対する前記凹所の投影面積Sの比S/Sが70〜90%であることを特徴とするゴルフクラブヘッド。
【請求項2】
請求項1において、S/Sが80〜90%であることを特徴とするゴルフクラブヘッド。
【請求項3】
請求項1又は2において、ゴルフクラブヘッドはパターのゴルフクラブヘッドであることを特徴とするゴルフクラブヘッド。
【請求項4】
請求項1又は2において、ゴルフクラブヘッドはアイアンのゴルフクラブヘッドであることを特徴とするゴルフクラブヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−136490(P2009−136490A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−316008(P2007−316008)
【出願日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【出願人】(592014104)ブリヂストンスポーツ株式会社 (652)
【Fターム(参考)】