説明

ゴルフクラブヘッド

【課題】スコアラインよりも細かい溝による、バックスピン量の低減抑制効果を向上すること。
【解決手段】フェース面に複数本のスコアラインが形成されたゴルフクラブヘッドにおいて、前記フェース面に形成され、前記スコアラインと平行な第1細溝と、前記フェース面に形成され、前記第1細溝と交差する第2細溝と、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゴルフクラブヘッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ゴルフクラブヘッドのフェース面にはトウ−ヒール方向に互いに平行な複数の直線状の溝が形成されている。この溝はスコアライン、マーキングライン、フェースライン等と呼ばれている(本書においてはスコアラインと称する。)。このスコアラインは、打球のバックスピン量を増大させたり、或いは、雨天時やラフからのショットの場合に、打球のバックスピン量が著しく低減することを抑制する効果がある。
【0003】
しかし、スコアラインのみではバックスピン量の増大効果や雨天時等におけるバックスピン量の低減抑制効果に限界がある。そこで、スコアラインよりも細かい溝をフェース面に形成することが(例えば、特許文献1に記載)、打球のバックスピン量の低減の防止に有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−202633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、スコアラインよりも細かい溝は、スコアラインと比べて細かいことから直ぐに水滴で満たされてしまう。このため、雨天時やラフからのショットの場合に、バックスピン量の低減抑制効果が十分に発揮されない場合がある。
【0006】
本発明の目的は、スコアラインよりも細かい溝による、バックスピン量の低減抑制効果を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、フェース面に複数本のスコアラインが形成されたゴルフクラブヘッドにおいて、前記フェース面に形成され、前記スコアラインと平行な第1細溝と、前記フェース面に形成され、前記第1細溝と交差する第2細溝と、を備えたことを特徴とするゴルフクラブヘッドが提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、スコアラインよりも細かい溝による、バックスピン量の低減抑制効果を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係るゴルフクラブヘッド1の外観図及びフェース面10の部分拡大図。
【図2】フェース面10の部分断面斜視図。
【図3】(A)はスコアライン20の、その長手方向(トウ−ヒール方向)に直交する方向の断面図、(B)は細溝30の、その長手方向に直交する方向の断面図、(C)は細溝30の他の例の、その長手方向に直交する方向の断面図。
【図4】細溝30乃至32を形成する前の一次成形品1'を示す断面図。
【図5】NCフライス盤による細溝30の形成方法の説明図。
【図6】細溝31の他の例を示すフェース面10の部分断面斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<第1実施形態>
図1は本発明の一実施形態に係るゴルフクラブヘッド1の外観図及びフェース面10の部分拡大図である。同図の例はアイアン型のゴルフクラブヘッドに本発明を適用した例を示す。本発明は、アイアン型のゴルフクラブヘッド、特に、ミドルアイアン、ショートアイアン、ウェッジ型のゴルフクラブヘッドに好適であり、具体的には、ロフト角が30度以上70度以下、ヘッド重量が240g以上320g以下のゴルフクラブヘッドに好適である。しかし、本発明はウッド型やユーティリティー型(ハイブリッド型)のゴルフクラブヘッドにも適用できる。
【0011】
ゴルフクラブヘッド1は、そのフェース面(打撃面)10に複数本のスコアライン20が形成されている。各々のスコアライン20はトウ−ヒール方向に延設された、互いに平行な直線状の溝である。また、フェース面10には、複数本の細溝30、31、32が形成されている。
【0012】
細溝30は、スコアライン20よりも幅及び深さにおいて小さい溝であって、スコアライン20と平行にトウ−ヒール方向に延設された直線状の溝である。ここで、細溝30とスコアライン20とが平行とは、製造上の誤差等の理由から、これらの無限延長線の交差角が、0度以上20度以下の場合を含む。
【0013】
本実施形態の場合、細溝30はスコアライン20の長手方向と直交するd1方向に配列されて、複数本形成されている。細溝30の長さは、その細溝30に最も近いスコアライン20の長さ以上であることが好ましい。本実施形態の場合、各細溝30は途中で途切れることの無い1本の溝であるが、細溝30の一部又は全部が、部分的に途切れていてもよい。
【0014】
細溝31、32は、スコアライン20よりも幅及び深さにおいて小さい溝であって、細溝30と交差する溝である。細溝31及び32は本実施形態の場合、直線状の溝である。
【0015】
図2はフェース面10の部分断面斜視図、図3(A)はスコアライン20の、その長手方向(トウ−ヒール方向)に直交する方向の断面図、図3(B)は細溝30の、その長手方向に直交する方向の断面図である。まず、スコアライン20について説明する。
【0016】
本実施形態において、各スコアライン20は等ピッチで形成されており、スコアライン20の断面形状は、その長手方向の両端部を除き、同じである。また、各々のスコアライン20の断面形状は同じである。更に、本実施形態の場合、スコアライン20の断面形状は、その幅方向の中心線に対して対称である。本実施形態の場合、スコアライン20の断面形状は台形状であるが、V字形状等、他の形状でもよい。
【0017】
スコアライン20は、一対の側壁21及び底壁22を有する。スコアライン20の縁23は側壁21とフェース面10との境界部分である。本実施形態では、この縁23に丸みが形成されているが丸みを形成しない構成も採用可能である。
【0018】
細溝30はスコアライン20と平行に形成されているため、打球のバックスピン量を向上させる。本実施形態の場合、細溝30は、図3(B)に示すようにその断面形状が半円状となっているが、台形状、V字形状等、他の形状でもよい。細溝30の幅Wは、細溝30の幅Wは、例えば、30μm以上600μm以下であることが好ましい。細溝30の深さDは、浅すぎるとバックスピン量の向上が低く、深すぎるとボールに傷が付き易くなる。また、競技用ゴルフクラブヘッドでは、フェース面の表面粗さについて一定の制約があり、最大高さ(Ry)が25μm以下である。したがって、ゴルフクラブヘッド1を競技用とする場合、深さDは5μm以上25μm以下であることが好ましい。
【0019】
細溝31及び32は、細溝30と交差しており、細溝30内に溜まる水を排水する水路として機能する。よって、細溝30に溜まった水は、細溝31及び32に排水されるか、或いは、細溝31及び32を介して、水が溜まっていない別の細溝30に排水される。細溝30に溜まる水が排水されることで、細溝30による打球のバックスピン量向上の効果が維持される。このため、雨天時等において、バックスピン量の低減抑制効果が向上する。
【0020】
細溝30に溜まる水は、打撃時のボールからの圧力によって細溝31及び32へ流れ出て排水される。なお、打撃時以外にも水の自重で排水させる観点から、細溝31及び32は上下方向を向いている方が好ましい。ショット時には、細溝30は水平方向に延びていることから、排水性の観点から細溝31及び32と、細溝30との交差角度は90度前後、例えば、75度以上105度以下であることが好ましい。
【0021】
一方、細溝31及び32には、排水路としての機能のほか、打球のバックスピン量を向上させる機能も発揮させることができる。細溝31及び32は、細溝30と平行に近い方がバックスピン量が向上する。したがって、バックスピン量の観点から細溝31及び32と、細溝30との交差角度は20度前後、例えば、5度以上35度以下であることが好ましい。
【0022】
また、排水性、バックスピン量を総合すると、細溝31及び32と、細溝30との交差角度は20度以上90度以下であることが好ましい。
【0023】
本実施形態の場合、細溝31と細溝32とは長さが異なり、細溝31は4本の細溝30と交差し、細溝32は2本の細溝30と交差している。本実施形態では、このように細溝30と交差する細溝として、長さが異なる細溝31及び32の2種類の細溝を形成したが、1種類の細溝であってもよく、逆に3種類以上であってもよい。いずれの場合においても、各々の細溝30が、少なくとも1つの細溝と交差することが好ましい。また、本実施形態のように、1つの細溝31、32が複数の細溝30と交差することで、細溝30に溜まった水は、細溝31又は32を介して、水が溜まっていない別の細溝30に排水することができ、排水効率を高められる。よって、細溝30と交差する少なくとも1つの細溝が、複数の細溝30と交差することが好ましい。
【0024】
細溝31及び32の断面形状、幅、及び、深さは、細溝30と同じとしても異なっていてもよい。特に、目的に応じて、細溝31及び32と、細溝30とで、その深さを異ならせることができる。例えば、バックスピン量の増大を重視する場合は、細溝30を細溝31及び32よりも深くしてボールの食い込みをよくする。また、晴天時と雨天時とで水滴に起因するバックスピン量の差を少なくすることを目的とする場合は、細溝31及び32を細溝30よりも深くして排水性を高める。
【0025】
本実施形態では、隣接するスコアライン20間毎に、同じパターンで細溝30乃至32が形成されている。これは、打点の位置によってバックスピン量にばらつきが生じることを低減する効果がある。なお、競技用ゴルフクラブヘッドでは、フェース面の表面粗さについて一定の制約があり、最大高さ(Ry)が25μm以下、算術平均粗さが4.57μm以下である。よって、ゴルフクラブヘッド1を競技用とする場合は、このような表面粗さのルールを満たすように細溝30乃至32を設計する。
【0026】
次に、スコアライン20及び細溝30乃至32の形成方法について説明する。スコアライン20は、例えば、鍛造、鋳造、切削加工、レーザ加工により形成することができる。細溝30乃至32は、例えば、切削加工、レーザー加工により形成することができる。なお、細溝30と、これと交差する細溝31及び32とでは、異なる加工方法を採用してもよい。
【0027】
ここでは、スコアライン20を鍛造により形成し、細溝30乃至32をミーリング加工により形成する場合を図4及び図5を参照して説明する。図4は細溝30を形成する前の一次成形品1'を示す断面図であり、図5はNCフライス盤による細溝30乃至32の形成方法の説明図である。
【0028】
まず、図4に示すように、スコアライン20が鍛造により形成されたゴルフクラブヘッド1の一次成形品1'を作成する。一次成形品1'においては、フェース面10に相当する面10'に細溝30乃至32が未加工である。
【0029】
次に、細溝30をミーリング加工により形成する。図5に示すように、細溝30が未加工の一次成形品1'はNCフライス盤に治具2を介して固定される。なお、本実施形態の場合、フェース面10がゴルフクラブヘッドに一体成形された場合について説明するが、フェース面10を構成するフェース部材と、ヘッド本体とを別部材として接合してもよい。
【0030】
NCフライス盤は、Z軸回りに回転駆動されるスピンドル4を有し、スピンドル4の下端には切削ツール(エンドミル)5が取り付けられている。切削ツール5の先端形状は細溝30の断面形状に応じたものを使用する。
【0031】
しかして、NCフライス盤において、フェース面10の平面座標を設定した後、スピンドル4を回転駆動し、フェース面10(一次成形品1')又は切削ツール5を細溝30の形成方向に相対的に移動しながら、フェース面10を切削する。一つの細溝30を形成すると、切削ツール5をフェース面10から離間させた後、細溝30の配列方向に切削ツール5を相対的に移動し、次の細溝30を形成することで、順次細溝30が形成される。細溝31及び32も同様の方式で形成することができる。
【0032】
フェース面10に細溝30乃至32を形成すると、フェース面10が磨耗し易くなる場合がある。そのため、細溝30乃至32の形成後、フェース面10の硬度を硬くする表面処理を行うことが好ましい。このような表面処理としては、浸炭処理、窒化処理、軟窒化処理、PVD(Physical Vepor Deposition)処理、イオンプレーティング、DLC(ダイヤモンド ライク カーボン)処理、めっき処理等が挙げられる。特に、浸炭処理や窒化処理といった、表面に別の金属層を形成せず、表面を改質する表面処理が好ましい。
【0033】
<第2実施形態>
細溝30の縁を盛り上げることで、バックスピン量を更に向上できる。図3(C)は本実施形態における細溝30の断面図である。細溝30の縁は、隆起部30aが形成されて盛り上がっており、ボールとの食い込みがよくなってバックスピン量を更に向上できる。隆起部30aは、例えば、細溝30をレーザー加工で形成する場合は、レーザ加工によって自然に形成できる。また、細溝30を切削加工で形成する場合は、切削を粗めにすることで、バリとして形成できる。
【0034】
<第3実施形態>
細溝30と交差する細溝は、スコアライン20の縁23から形成されていてもよい。図6は細溝31の他の例を示すフェース面10の部分断面斜視図である。同図の例の場合、細溝31がスコアライン21の縁23から形成されている。縁23から細溝31を形成することで、スコアライン21と細溝31とが連通する。このため、細溝31内の水をスコアライン21に排水することができ、細溝30の排水性を更に向上できる。
【0035】
<他の実施形態>
以上、本発明の複数の実施形態を説明したが、これらの実施形態は互いに組合せることが可能であることは言うまでもない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェース面に複数本のスコアラインが形成されたゴルフクラブヘッドにおいて、
前記フェース面に形成され、前記スコアラインと平行な第1細溝と、
前記フェース面に形成され、前記第1細溝と交差する第2細溝と、
を備えたことを特徴とするゴルフクラブヘッド。
【請求項2】
隣接する前記スコアライン間に、前記第1細溝が前記スコアラインと直交する方向に配列されて複数形成され、
前記第2細溝が複数形成され、
隣接する前記スコアライン間に形成された各々の前記第1細溝は、少なくともいずれか1つの前記第2細溝と交差していることを特徴とする請求項1に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項3】
隣接する前記スコアライン間に、前記第1細溝が前記スコアラインと直交する方向に配列されて複数形成され、
前記第2細溝が複数形成され、
少なくともいずれか1つの前記第2細溝が、隣接する前記スコアライン間に形成された2以上の前記第1細溝と交差していることを特徴とする請求項1に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項4】
前記第2細溝は、前記スコアラインの縁から形成されていることを特徴とする請求項1に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項5】
前記第1及び第2細溝が、切削加工又はレーザ加工により形成されたことを特徴とする請求項1に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項6】
前記第1細溝の縁が盛り上がっていることを特徴とする請求項1に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項7】
前記第1細溝と前記第2細溝との交差角度が、20度以上90度以下であることを特徴とする請求項1に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項8】
前記第1細溝と前記第2細溝とは、深さが異なることを特徴とする請求項1に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項9】
前記第1及び第2細溝の深さが、5μm以上25μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のゴルフクラブヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−234749(P2011−234749A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−105955(P2010−105955)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(592014104)ブリヂストンスポーツ株式会社 (652)
【Fターム(参考)】