説明

ゴルフボール及びその製造方法

【課題】容易に製造することができ、また、スカッフ特性が向上するとともに、スピン性能及び反発性能が良好なゴルフボール及びその製造方法を提供する。
【解決手段】トチュウゴムを基材とするカバー材料を60〜80℃に加熱した状態で混練することにより、良好な状態のカバー14を容易に成型することができるとともに、スカッフ特性が向上してゴルフボールの耐久性が高くなる。また、コア12の表面に凹凸を形成し、その表面にカバー材料を被覆させることにより、コア12とカバー14との密着性が向上し、この結果、スピン性能及び反発性能が向上して、安定した状態で飛距離を伸ばすことのできるゴルフボール10を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トチュウゴムを基材とするカバーによりコアを被覆して形成されるゴルフボール及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、トランス型ポリイソプレンであるバラタゴムをカバー材料とし、コアを被覆して形成されるゴルフボールが製造されている。このバラタゴムをカバー材料とするゴルフボールは、スピン性能や反発性能が優れているため、ゴルフボールとして多用されている(特許文献1参照)。しかしながら、バラタゴムは、ゴルフボールとしては、スカッフ特性に難点のあることが従来から指摘されている(特許文献2参照)。そのため、スカッフ特性を向上させることのできる材料が求められている。
【0003】
トランス型ポリイソプレンとしては、バラタゴムの他に、トチュウゴムが知られている。トチュウゴムは、バラタゴムの分子数に対して、分子数が10Mを超える極めて分子数の大きい高分子のゴムであり(非特許文献1参照)、また、環境に優しい天然素材から得られることから、注目されている(特許文献3参照)。トチュウゴムは、トチュウから抽出されるバイオポリマーであり、加硫して車両のタイヤやチューブ類に利用する試みがなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−259081号公報
【特許文献2】特開2006−212116号公報
【特許文献3】特開2009−221306号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】中澤慶久、他14名、「新素材トチュウエラストマー」、2010年11月、Vol.71 No.1 Hitz技報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、トチュウゴムは、バラタゴムよりも粘性が低いため、安定した形状に成型することが困難である。また、トチュウゴムは、他の材料との密着性(親和性)が低く、従って、ゴルフボールのカバー材料に使用するためには、コアとの密着性についての課題を克服する必要がある。
【0007】
本発明は、前記の課題を克服し、容易に製造することができ、また、スカッフ特性が向上するとともに、スピン性能及び反発性能が良好なゴルフボール及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るゴルフボールは、所定の表面粗さからなる凹凸が表面に形成されたコアに、60〜80℃に加熱された状態で混練されたトチュウゴムを基材とするカバー材料を被覆してカバーが形成されることを特徴とする。
【0009】
本発明に係るゴルフボールの製造方法は、コアの表面を所定の表面粗さに形成するステップと、トチュウゴムを基材として酸化亜鉛、補強剤、着色剤を混合した材料を、40〜80℃に加熱して混練するステップと、混練された前記材料に硫黄及び加硫促進剤を混合し、60〜80℃に加熱した状態でロールを用いて混練し、シート状のカバー材料を成型するステップと、前記シート状のカバー材料からプレートを作製するステップと、前記プレートを金型にセットし、加圧してハーフシェル型に成型するステップと、成型された前記プレート内に前記コアをセットして加圧するステップと、加圧によって前記コアの外周面に前記プレートが被覆されたゴルフボールを冷却するステップと、からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のゴルフボール及びその製造方法では、トチュウゴムを基材とするカバー材料を60〜80℃に加熱した状態で混練することにより、良好な状態のカバーを容易に成型することができる。また、トチュウゴムをカバー材料とすることにより、スカッフ特性が向上して、ゴルフボールの耐久性が高くなる。さらに、コアの表面に凹凸を形成し、その表面にカバー材料を被覆させることにより、コアとカバーとの密着性が向上し、この結果、スピン性能及び反発性能が向上して、安定した状態で飛距離を伸ばすことのできるゴルフボールを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る実施形態のゴルフボールの断面図である。
【図2】図1に示すゴルフボールの部分拡大断面図である。
【図3】本発明に係る実施形態のゴルフボールにおける製造工程のフローチャートである。
【図4】本発明に係る実施例及び比較例で使用されるカバー材料の組成の説明図である。
【図5】本発明に係る実施例及び比較例のゴルフボールにおける特性測定結果の説明図である。
【図6】本発明に係る実施例及び比較例のゴルフボールにおけるスカッフ特性の説明図である。
【図7】本発明に係る実施例及び比較例のゴルフボールにおけるスピン性能の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0013】
図1は、本発明に係る実施形態のゴルフボール10の断面図である。ゴルフボール10は、内層コア12aの外側に外層コア12bを形成したコア12と、外層コア12bの外周面に被覆されるカバー14とから構成される、いわゆる3ピースボールである。
【0014】
コア12は、天然ゴム又は合成ゴム等のゴム組成物から形成されるソリッドコアである。図2は、図1に示すゴルフボール10の部分拡大断面図である。外層コア12bの外周面には、所定の表面粗さを出現させるべく、多数の凹凸部16が形成される。この凹凸部16の表面粗さは、例えば、凸部及び凹部の高さの差が最大となる最大高さRy(JIS B 0601(1994))が約200μmである。
【0015】
カバー14は、トチュウから抽出された高分子のトランス型ポリイソプレンであるトチュウゴムを基材として、これに着色剤、補強材、硫黄、加硫促進剤を混練したカバー材料を、外層コア12bの外周面に被覆して形成される。
【0016】
次に、ゴルフボール10の製造工程について説明する。図3は、本発明に係る実施形態のゴルフボール10における製造工程のフローチャートである。
【0017】
先ず、トチュウゴムを基材として、これに酸化亜鉛、補強材、着色剤等を混合し、40〜80℃の温度に加熱した状態で材料を分散混練する(配合・練工程:ステップS1)。
【0018】
次に、ステップS1で混練された材料に、硫黄及び加硫促進剤を混合し、この材料を60〜80℃の温度に加熱した状態で、ロールを用いて均一に分散混練することで、シート状のカバー材料を成型する(ロール練工程:ステップS2)。
【0019】
次いで、混練されたシート状のカバー材料を定量し(例えば、3〜5g)、カバー14のハーフシェル形状に成型するため、2mm厚の正方形状のプレート(プレップ)を作製する(プレップ作製工程:ステップS3)。
【0020】
ステップS3で作製されたプレップは、内周面にディンプルが形成された半球凹状の金型にセットされ、対応する半球凸状の金型を用いて、80〜110℃、150MPa/cmで3〜10分間加圧することにより、ハーフシェル型に成型される(コンプレッション成型工程:ステップS4)。
【0021】
次いで、ハーフシェル型に成型されたプレップ内に、内層コア12aの外側に外層コア12bが形成されたコア12がセットされる。この場合、天然ゴム又は合成ゴム等のゴム組成物から形成されるコア12には、プレップ内にセットする前に、外層コア12bの外周面に所定の表面粗さ、例えば、最大高さRyが約200μmとなる凹凸部16が形成される。
【0022】
外周面に凹凸部16の形成されたコア12がプレップの配設された金型(下型)内にセットされ、同様にして金型(上型)内にセットされた他のプレップをコア12の上部に配設し、80〜110℃、150MPa/cmで3〜5分間加圧することにより、外層コア12bの外周面にカバー14が被覆されたゴルフボール10が成型される(インサート成型工程:ステップS5)。
【0023】
外層コア12bの外周面にカバー14が形成されたゴルフボール10は、20℃の温度で5〜10分間冷却され(冷却工程:ステップS6)、その後、型開きが行われてゴルフボール10が金型から取り出される。金型から取り出されたゴルフボール10は、パーティングライン上のバリが除去された後、製品となる。
【0024】
以上のようにして製造される本実施形態のゴルフボール10は、トチュウゴムを基材とするカバー材料を混練させてプレップを作製する際、カバー材料を60〜80℃に加熱することでトチュウゴムの粘性が向上するため、容易に所望のシート状に成型することができる。
【0025】
この場合、カバー材料の温度が60℃よりも低いと、トチュウゴムの粘度が低く、カバー材料を所望のカバーとして成型することが困難である。また、カバー材料の温度が80℃よりも高いと、トチュウゴムの流動性が高くなり、この場合もカバー材料を所望のカバーとして成型することが困難である。
【0026】
また、上記のようにして成型されたシート状のプレップを金型の内面にセットした後、外層コア12bの外周面に凹凸部16が形成されたコア12を配設して加圧することにより、外層コア12bの凹凸部16に対してプレップが食い込むため、コア12とプレップから形成されるカバー14との極めて良好な密着状態が達成される。この結果、コア12からカバー14が剥離することがなく、耐久性の高いゴルフボール10が得られるだけでなく、コア12及びカバー14が一体化することで、ゴルフボール10としてのスピン性能及び反発性能が向上する効果が得られる。
【0027】
また、コア12に被覆されたカバー14は、バラタゴムよりも高分子であるトチュウゴムを基材としているため、カバー材料の分子間力が大きく、これにより、外力に対するカバー14の耐久性が向上する。従って、カバー14のスカッフ特性が向上した耐久性の高いゴルフボール10を得ることができる。
【0028】
さらに、トチュウゴムを基材とするカバー14からなるゴルフボール10は、バラタゴムを基材とするカバーからなるゴルフボールと比較して、遜色のないボール初速を得ることができる。また、バラタゴムのものよりも大きな打出し角度を得ることができ、これにより、飛距離の増加が期待できる。
【0029】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で変更することが可能である。例えば、ゴルフボール10を構成するコア12及びカバー14の層数は、それぞれ1層以上であれば、2ピースボール、4ピースボール等にも適用することができる。
【実施例】
【0030】
図4は、本発明に係る実施例1、2及び比較例1、2で使用されるカバー材料の組成の説明図である。
【0031】
実施例1のゴルフボール10のカバー14は、トチュウゴムとして日立造船(株)製の商品名「HTP」80重量部を基材とし、カバー材料の混練を容易とするために、イソプレンゴムとしてJSR(株)製の商品名「IR2200」20重量部を混ぜ、これに、充填剤として酸化亜鉛5重量部、着色剤として酸化チタン2重量部、補強材としてシリカ15重量部、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤として大内新興化学工業(株)製の商品名「ノクセラー(登録商標)PPD」1重量部及びチアゾール系加硫促進剤として大内新興化学工業(株)製の商品名「ノクセラー(登録商標)M」1重量部、加硫促進助剤としてステアリン酸1重量部、硫黄2重量部を加えたものを用いた。
【0032】
実施例2のゴルフボール10のカバー14は、トチュウゴム100重量部を基材とし、イソプレンゴムを除き、その他の組成を実施例1と同じにしたものを用いた。
【0033】
比較例1のゴルフボールのカバーは、実施例1のトチュウゴムに代えて、バラタゴムとして(株)クラレ製の商品名「TP−301」80重量部を基材としたものを用いた。
【0034】
比較例2のゴルフボールのカバーは、実施例2のトチュウゴムに代えて、バラタゴム100重量部を基材としたものを用いた。
【0035】
図5は、本発明に係る実施例1、2及び比較例1、2のゴルフボールにおける特性測定結果の説明図である。
【0036】
図3の冷却工程(ステップS6)を経て金型から取り出されたゴルフボールを、恒温槽内で50℃、24時間保温させることでカバー材料の加硫を促進させた場合と、恒温槽内で50℃、48時間保温させることでカバー材料の加硫を促進させた場合とでそれぞれ、カバーのショアD硬度と、ショアC硬度と、スイングロボットを用いて38m/sで打撃したときのゴルフボールの初速とを測定した。
【0037】
測定の結果、カバー材料としてトチュウゴムを基材とした実施例1、2と、バラタゴムを基材とした比較例1、2とでは、カバーの硬度及びゴルフボールの初速には、殆ど差異が見られなかった。
【0038】
図6は、本発明に係る実施例1、2及び比較例1、2のゴルフボールにおけるスカッフ特性の説明図である。
【0039】
製造された各ゴルフボールを、サンドウェッジを用いて打撃し、ゴルフボールの表面におけるサンドウェッジのスコアラインの痕跡の有無について観察した。
【0040】
観察の結果、実施例1、2のゴルフボール10のカバー14には、スコアラインの痕跡が認められなかった。これに対して、比較例1、2のゴルフボールのカバーには、スコアラインが認められた。従って、本発明に係るトチュウゴムを基材とするカバー14の場合、バラタゴムを用いたカバーのものよりスカッフ特性が向上していることが確認できた。
【0041】
図7は、本発明に係る実施例2及び比較例2のゴルフボールにおけるスピン性能の説明図である。
【0042】
製造された各ゴルフボールを、スイングロボットを用いて38m/s(HS38)及び45m/s(HS45)でそれぞれ打撃し、ゴルフボールの打出し角度とスピン数とを測定した。
【0043】
測定の結果、打撃速度が速い場合(HS45)、実施例2と比較例2とでは、スピン数及び打出し角度はほぼ同じであった。一方、打撃速度が遅い場合(HS38)、実施例2と比較例2とでは、スピン数はほぼ同じであるが、実施例2の方が打出し角度が大きく、その分、飛距離が長くなることが期待できる。
【符号の説明】
【0044】
10…ゴルフボール
12…コア
12a…内層コア
12b…外層コア
14…カバー
16…凹凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の表面粗さからなる凹凸が表面に形成されたコアに、60〜80℃に加熱された状態で混練されたトチュウゴムを基材とするカバー材料を被覆してカバーが形成されることを特徴とするゴルフボール。
【請求項2】
コアの表面を所定の表面粗さに形成するステップと、
トチュウゴムを基材として酸化亜鉛、補強剤、着色剤を混合した材料を、40〜80℃に加熱して混練するステップと、
混練された前記材料に硫黄及び加硫促進剤を混合し、60〜80℃に加熱した状態でロールを用いて混練し、シート状のカバー材料を成型するステップと、
前記シート状のカバー材料からプレートを作製するステップと、
前記プレートを金型にセットし、加圧してハーフシェル型に成型するステップと、
成型された前記プレート内に前記コアをセットして加圧するステップと、
加圧によって前記コアの外周面に前記プレートが被覆されたゴルフボールを冷却するステップと、
からなることを特徴とするゴルフボールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−78458(P2013−78458A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219726(P2011−219726)
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【出願人】(393000847)キャスコ株式会社 (23)